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仁と峰によるキャットベクターカートリッジの強化は、仁の脅威的頑張りによって何と3日で終了した。この結果に誰よりも驚いているのはこれを成した仁自身。彼もこんな短期間に出来るとは思っていなかったらしい。
「門守君、成長してますねぇ。私と白上教授じゃここまで早くは出来なかったですよ」
「俺自身ビックリです」
仁の後ろで亜矢が自分もと頷いている。彼女は時々後ろから仁の作業している様子を覗き見ていたが、彼の操作によって動くディスプレイは早送りしているのかと思ってしまう程に速度で様々なデータが流れており、もう彼が何をしているのかを理解するのは亜矢には不可能だった。
「とりあえず、これでルーナは強化されたと思っていいんですよね?」
「そう言う事になりますね。デイナと違って、新たに強化された形態がデフォルトになるのでこの力を使いこなせないと詰みですが……」
峰の手元のディスプレイには、予想されるルーナの強化形態が表示されている。
名称はルーナ・ユナイト。全体的なシルエットはあまり変化はないが、手足の装甲が減り、全身の装甲に黄色いラインが加わっている。
武装面は大きく変わっており、両腕のアームブレードが無くなり代わりにリプレッサーショットが銃身下部に刃を持つ『リプレッサーショットⅡ』に変化していた。固定だったアームブレードに比べて、よりフレキシブルな動きによる戦いが期待できるだろう。勿論ライフルモードは残っているので、亜矢の得意とする射撃能力が低下する事は無い。
新しくなったルーナは今まで以上に恐竜ファッジ相手に戦えるだろう。頼もしい戦力になるに違いない。
唯一の懸念があるとすれば、ちゃんと制御できるかどうかである。何分太古に絶滅したネコ科の動物……スミロドンの遺伝子を呼び覚ましているのだ。仁の時の様に、精神を食われて暴走してしまわないとも限らない。
「もし危ないと思ったらすぐに変身を止めてね」
「分かってます。でも多分大丈夫ですよ」
「どうして?」
「ん~……何とな~く、そんな気がするんだ」
ハッキリとしない真矢の答えに、峰は何とも言えない顔になる。そんな事で大丈夫だろうかと不安になったのだ。
しかし仁は違った。彼は真矢の言葉にどこか納得すると、強化されたベクターカートリッジを彼女に手渡した。
「……もし何かあったら俺がサポートするから、心配しなくていいよ」
「うん! 最初から信じてる」
屈託のない笑みを浮かべる真矢に、仁も釣られて頬を緩める。
2人の空気に中てられ、峰が明後日の方を向きながら手で顔を扇いだ。
そこへ拓郎がやって来た。
「ここに居たか、門守」
「瀬高先輩?」
「お前のお母さん、来てるみたいだぞ?」
「え? また?」
拓郎の言葉に仁も亜矢も首を傾げる。それと言うのも、ここ最近香苗が頻繁に大学に顔を出しているからだ。
仁が表の研究室の方に向かうと、そこには既に香苗がソファーに座り教授の淹れた紅茶を飲んで寛いでいた。
「おぉ、仁。元気にやってるか?」
「それ昨日も聞いた。どうしたのさ最近? 次の冒険に行かなくていいの?」
「今は依頼が無いからね。それに冒険にも少し疲れたから、今は羽休めの最中だ」
「それなら家に帰ればいいのに」
「おいおい。我が子の顔を毎日見る、これに勝る癒しは親には無いんだぞ?」
香苗の言葉に仁は思わず溜め息を吐く。何を言ってものらりくらりと躱されてしまう。今の彼女には何を言っても無駄だ。
それに……実を言うと仁もまた毎日香苗の顔を見れて安心している節はあった。香苗は帰ってきてもすぐに次の旅に出てしまう事が多く、あまり長い期間一緒に居れない事が多かった。
現在香苗は大学の近くにあるホテルに宿泊しており、仁の家の厄介になる事はしていないが、それでも母が身近に居てくれると言う現状は仁に不思議な安心感を齎していた。
決して甘えん坊ではない仁だが、いやだからこそ血の繋がった家族が近くに居てくれると言う状況が居心地良いのだろう。
これは亜矢には出来ない、香苗にしかできない事だった。
「で、実際どうしたの? 依頼が無くて冒険に行かないってのは分かったけど」
それはそれとして、暇だからと言え態々大学に何度も足を運ぶなど普通ではない。仁の顔を見たいと言うのは嘘ではなくとも理由の全てでは無いだろう事が容易に想像できた。
きっと何か理由がある筈だ。
そう思って仁が問い掛けると、香苗は紅茶を飲み干してソファーから立ち上がった。
「ん……ちょっと気になる事があってね。ここじゃなんだ、席を外そう」
香苗は仁に手招きして研究室から出て行く。その後に仁が続き、亜矢は家族水入らずの話だろうと研究室に残ろうとした。
が、香苗は亜矢が付いてきていない事に気付くとドアから顔を覗かせ亜矢にも手招きをした。
「何をしているんだい? 君もおいで」
「え? 私もですか?」
「仁との今後について、色々と話を聞かせてくれよ」
「んなっ!? ちょっ……もうっ!?」
赤面しながら亜矢が慌てて香苗の後に続く。
亜矢を振り回す香苗の様子に峰や拓郎を始めとした研究室の面々は、香苗と仁の血の繋がりを確かに感じるのだった。
***
仁と亜矢が香苗により連れ出されたのは、大学の外にある小さな喫茶店だった。店の規模が小さいからか、3人の他に客は誰も居ない。
席に着くと香苗は早速コーヒーを注文し、2人にも注文を促した。
「母さんさっき紅茶飲んだばっかじゃん?」
「店に入って何も頼まないのは失礼だろう? それに今はコーヒーを飲みたい気分なんだ」
そう言って香苗はカップに入ったコーヒーを啜る。その様子に仁は溜め息を吐き、亜矢は苦笑した。
だが亜矢の中に居る真矢は違う反応だった。彼女は香苗の様子に何処か違和感を感じ首を傾げていた。
【ん~?】
「(真矢、どうかしたの?)」
【いや……何て言うか、う~ん?】
違和感はあるのだが、それを上手く言葉で言い表せず唸るしか出来ない。
とりあえず香苗に促されるまま、仁と亜矢はカフェオレを頼んだ。客が3人しか居ないからか、カフェオレは直ぐにやって来る。
2人がカフェオレに口を付けた頃を見計らって、香苗は口を開いた。
「ところで2人共。体の方は大丈夫かい?」
「体? 風邪なら別に引いてないけど?」
「私も特には……」
2人の答えに、香苗は手をヒラヒラ振って応えた。その様子は何処か不満そうだ。
「そうじゃないよ。2人が健康そうなのは見れば分かる。私が聞きたいのは、そう言うのとは別の意味で何か違和感は無いのかという話だ」
「それは、どう言う?」
香苗の言いたい事がイマイチ分からず首を傾げる亜矢に対し、仁は黙ってカフェオレを口に流し込んでいる。
「はっきり言って欲しいかい? 肉体が変異したりしてはいないかと聞いているんだ」
言われて仁は動きをピタリと止め、亜矢は小さく息を呑む。同時に亜矢は、真矢が感じた違和感の正体に気付いた。
今の今まで気付かなかったが、香苗の纏う雰囲気が何処か険しいのだ。香苗自身がそれを悟られないようにしていたからか、気付くのに時間が掛かってしまった。
「……何でそんな事聞くの?」
「気にもなるさ。2人は変身の際、疑似的にファッジの様になっているのだろう?」
「で、でも、ドライバーを使っていればベクターカートリッジの悪影響はないと白上教授も仰ってましたし……」
「でもそれは100%じゃない筈だ。あれほどの力を発揮しているのに、完全にノーリスクなどと言う事はあるまい。特に仁は長い事変身を繰り返していると言うじゃないか。それも一度に二つ使って。負担や影響が蓄積していないとは限らないだろう」
言われてみれば確かに……。香苗の言葉に頷けてしまう亜矢は、隣の仁の様子を伺った。香苗の推測に、しかし仁は特に動じた様子を見せない。カップの中のカフェオレを飲み干し、カップをソーサーの上に静かに置いた。
「……俺は特に違和感を感じたりしてないよ。亜矢さんは?」
「え、あ、私も……特には……」
「もう1人の君も同じ意見かい?」
「ッ!? 真矢の事、気付いてたんですか?」
まさか真矢の存在が見抜かれているとは思ってもみなかったので、亜矢は軽く狼狽えた。香苗になら知られて困る事も無いだろうが、何も言っていないのに見抜かれた挙句信じてもらえるとは思ってもみなかったのだ。
驚く亜矢の前で、香苗はしたり顔で頷いてみせた。
「この間私の前で変身した時に出てきたじゃないか。あの時にはもう気付いていたよ」
「あの時に?」
「雰囲気が違い過ぎた。素が出たと言うより、別の人格と言われた方がしっくりくる」
流石仁の母親だと亜矢と真矢は感心した。あの時、やむを得ないとは言え表に出てきた真矢を即座に亜矢と違う人格であると見抜くとは。
ここで言い繕ったり誤魔化して存在を隠す理由も無いので、真矢は遠慮する事なく表に出た。
「――流石は仁君のお母さんね」
「ありがとう。それで、どうかな?」
「ん? あぁ、そうね。私も別におかしな感じはしてないわ。別に糸出せたり垂直の壁を登れたりするようになったりはしてないわね」
真矢がありのままに思った事を伝えると、香苗は顎に手を当て考え込む。その姿に仁の面影を見ていると、仁が口を開いた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「そうか?」
「そうそう。それよか、母さん暫く冒険に出ないなら久しぶりに婆ちゃん達に顔を見せたら?」
「そうだね~……」
唐突に普通の話に移る、その切り替えの早さに亜矢が舌を巻いた。
……と、油断していると――――
「ところで2人は何処まで進んでるのかな? もうキスとかそれ以上の事は済ませたのかい?」
「ブフッ!?」
唐突に仁と亜矢の関係で突っ込んだことを聞いてくるものだから、亜矢はカフェオレが気管に入り思わず吹き出してしまった。
「げほっ!? げほっ!? ちょ、仁くんのお母さん!?」
いきなり変な事を聞かれ、思わず香苗に非難の声を上げる亜矢。それに対し、香苗はずっと抱えていた不満を告げた。
「そうその呼び方。ずっと気になってたんだよ」
「よ、呼び方?」
「『仁くんのお母さん』なんて堅苦しい呼び方しないでくれよ。気軽に『お義母さん』と呼んでくれ」
「そ、それ、は――――!?」
確かに将来的にはそうなりたいと亜矢も願っている。大学卒業を機に、仁と結婚して香苗を義理の母と呼ぶ事になるだろうとも思っていた。
しかし、まだ付き合っているだけの間の状態でそこまで馴れ馴れしくして良いものだろうか。
「その、ちょっとまだ心の準備が……」
「でもどうせ将来そうなるんだろ? なら今そう呼ぶ事に何の問題も無いじゃないか」
「そ、そうかもしれませんけど……」
「ほらほら、遠慮せずに」
香苗に促され、亜矢はチラリと仁を見る。彼の目には、ちょっと何かを期待しているのが伺えた。
仁が期待しているのであれば、流石に応えない訳にもいかない。亜矢は心の中で真矢と頷き合い、顔を赤くしながら口を動かした。
「お、お……お義母、さん……」
亜矢が香苗の事を義理の母と呼ぶと、香苗だけでなく仁も満足そうな顔をした。その様子に亜矢は、仁との結婚が更に近付いた未来だと実感し頬を赤く染めながら顔を綻ばせた。
「可愛い彼女じゃないか。大事にするんだぞ、仁」
「分かってるよ」
しみじみと頷いた仁は、今度は自分の番だと亜矢の両親に挨拶をする算段を立て始めるのだった。
***
時は少し遡って――――――
傘木社本社ビル社長室にて、雄成が1人パソコンのキーボードを叩いていた。ディスプレイに映し出されているのは、ブレイドライバーに酷似したベルトの設計図。
素人目には分からないが、何処か出来に不満があるのか彼の表情は険しい。キーボードを叩いてデータを入力していくが、唐突にその手を止め背凭れに凭れ掛かった。
「……ダメだな、これでは……」
珍しく雄成はネガティブなボヤキを口にした。
傘木社のドライバー開発技術はここ最近で飛躍的に向上した。ブレイドライバーなどはその究極系と言っても良い。
だが実は、ブレイドライバーにはある種致命的な欠点があった。
ブレイドライバーには、ゲノムチェンジ能力が無いのである。
希美が変身するヘテロはカブトガニ・カメ・ワニの3種類の遺伝子をミックスし、更に太古の力を引き出す事でデイナの通常フォームを遥かに上回る能力を発揮できる。実を言うと、単純なスペックだけで言えばケツァルスピノフォームよりもヘテロの方が上なのだ。実際の戦闘でヘテロが敗北を喫しているのは、デイナを扱っている仁の能力によるものである。
デイナ以上のスペックを引き出せる秘訣はドライバー自体を一つのベクターカートリッジとすると言うもの。あのドライバーにはデフォルトでカブトガニのベクターカートリッジが組み込まれており、ライダーシステムと直結されている。
これにより3種類の遺伝子を混ぜ、統合する事が可能となりベクターカートリッジを2個しか使わないデイナに対しスペック上でならマウントを取る事が出来るのだ。
しかしその代償で、ヘテロには前述した通りゲノムチェンジ能力がない。カブトガニが初手から組み込まれており、他の組み合わせを作る事が出来ないのである。つまり、ヘテロには拡張性が無い。
ならば最初から使用するベクターカートリッジは2個にして、多少スペックを落としてでもゲノムチェンジ能力を持たせればいいと言う意見もある。だが実は、現時点の傘木社の技術ではベクターカートリッジ2個で変身するドライバーを作ろうとすると全ての能力がデイナを下回ってしまうのだ。下手をすると、使用するカートリッジ1個のルーナすら下回ってしまう。原因は恐らく、二つの遺伝子が反発し合って性能を発揮できないからだ。
この問題に対し、ブレイドライバーは繋ぎとしてライダーシステムにカブトガニのベクターカートリッジを直結する事でワニとカメのベクターカートリッジの性能を遺憾なく発揮できるようになった。
つまりブレイドライバーが遺伝子を3つ使うのは、単純にデイナ相手にマウントを取りたいからだけでなく3つ使わなければ性能がデイナに追いつけないからなのだ。傘木社の技術陣としても苦肉の策だった。
そしてブレイドライバーでは”雄成の望むもの”は手に入らない。ブレイドライバーをさらに発展させ、ベクターカートリッジ2個でも十分な性能を発揮できるようにしなければならない。
どうしたものか…………そう考えた雄成の脳裏に、先日の戦闘の経緯が思い出された。
生身であるにも拘らず、亜矢を助ける為に乱入してきた香苗。
彼女の姿を思い出した瞬間、雄成はピンときた。
「彼女ならば、もしかしたら持っているかもしれないな」
雄成の口元に笑みが浮かぶ。彼はデータを保存しパソコンの電源を落とすと、電話に手を伸ばし受話器を取った。
***
時間は戻って、仁達は喫茶店を後にしていた。
あの後も亜矢は主に香苗によって弄りつくされ、店を出る頃には気恥ずかしさで若干ふら付いていた。足取りがどこか覚束ない亜矢を仁が支えながら歩き、その様子を見て香苗が楽しそうに笑みを浮かべる。
暑い日差しの中、仁達は大学へと向けてゆっくり歩く。喫茶店から大分離れる頃には亜矢も調子を取り戻し、自分の足で歩けるようになっていた。
「俺らは大学に戻るけど、母さんはどうするの?」
「ん~、流石に私まで大学まで行く訳にはいかないし、かと言ってホテルに戻るのもつまらないし……」
「だから婆ちゃん家に一度帰ればいいのに。ホテル代だってただじゃないんだし、そろそろチェックアウトしたら?」
仁と香苗が雑談しながら歩いていると、それを後ろから見ていた亜矢が周囲の異変に気付いた。
「ん……?」
辺りがやけに静かだ。歩いている人が自分たち以外に居ない。大学周りはこの時間、どちらかと言うと人通りは少ない方だがこれは異常だ。何しろ車のエンジン音ですらかなり遠くからしか聞こえない。
何かがおかしい……と言うか、ヤバい!
「仁くんッ!?」
「ん?」
切羽詰まった亜矢の声に仁と香苗が足を止めると、周囲の物陰やビルの屋上からアントファッジが姿を現す。
瞬く間に囲まれ、仁と亜矢は表情を険しくし香苗を間に挟んで周囲を警戒する。その際、ドライバーを取り出す事を忘れない。
だが向けられた銃口が彼らにドライバーを装着する事を躊躇わせる。
もし仁達が抵抗する意思を見せたら、彼らは即座に引き金を引く。そうなれば仁と亜矢だけでなく香苗もお陀仏だ。
どうするか……仁が頭を働かせていると、アントファッジの間を縫って雄成とグアニンが姿を現した。
雄成は仁ににこやかに笑みを向けながら手を振る。
「やぁ! 久し振りだね門守 仁君! 会いたかったよ」
「俺はそうでもなかったけど……で、何の用?」
警戒しながら仁が問い掛けると、雄成は香苗を指差して答えた。
「私が今日、用があるのはそちらの女性だよ」
「母さんに?」
仁が思わず訝しげな顔で香苗を見ると、彼女は狙われる理由に心当たりがあるのか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「何で母さんに?」
「門守 香苗……私は貴女の持っているあるデータが欲しいんだ。それさえ手に入れば、この場でこれ以上事を荒立てるような事はしないよ」
雄成の提案に、香苗は服の上から懐に触れた。そこに、デイナドライバーの基本設計図のデータが入ったUSBメモリーが入っているのだ。
ここで仁達を危険に晒すくらいなら――――
「ダメだよ、母さん」
「ッ!? 仁?」
「あの人が言ってるデータとやらが何なのかは分かりませんが、それを手に入れてロクな事になるとは思えません。渡しちゃ駄目です」
「亜矢さん……だが……」
渋る香苗の前で、仁と亜矢が彼女に笑みを向ける。
「大丈夫だよ、母さん」
「私達が何とかしますから」
2人は頷き合うと、銃口を向けられた状況でデイナドライバーを腰に装着した。2人が抵抗の意思を見せたのを見て、アントファッジ達が銃を構える手に力を込める。
だが彼らが発砲する事は雄成が許さなかった。理由は簡単だ。今周囲から銃撃が行われれば、下手をすれば香苗が持っているデータが流れ弾で破損してしまうかもしれない。そうなればお終いだ。
それが分かったから、仁と亜矢は変身に踏み切ったのである。
〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉
仁は雄成が敵に居るという事で、油断せず全力で行くつもりで初手から恐竜フォームを選ぶ。
一方の亜矢は、早速強化されたルーナへと変身する。
【亜矢、準備は良い?】
「勿論――!」
〈CAT Unite〉
改良型アダプトキャット改め、ユナイトキャットに強化対応型キャットベクターカートリッジを装填しデイナドライバーに装着する。香苗を挟んで互いに背中合わせになった仁と亜矢は、同じタイミングでレセプタースロットルを引き変身した。
「「変身!」」
〈〈Open the door〉〉
仁はデイナ・ケツァルスピノフォームに変身し、亜矢はルーナ・ユナイトに変身する。
2人が変身した瞬間、アントファッジ達は一斉に引き金を引いた。その瞬間、誰にも見えない所で雄成が小さく舌打ちをした。
対するデイナは、翼を広げるとそれでルーナと香苗を包み銃撃から2人を守った。無数の銃弾が翼とデイナの装甲に弾かれる。この程度の銃弾なら最早何の痛痒にもならない。
「仁ッ!?」
「平気。それより亜矢さん、行けそう?」
「はい!」
デイナの質問に、ルーナが力強く頷きながらリプレッサーショットⅡを構える。それを見てデイナが頼もしそうに頷くと、彼は香苗を横抱きにした。
「3つ数えたら防御を解くよ。そしたら……」
「私が一気に撃ち返しますから、仁くんはお義母さんを」
「それじゃ、3……2……1」
宣言通り3つ数えた瞬間、デイナは防御を解くと同時に翼で上空に飛翔した。
飛翔したデイナにアントファッジ達は銃口を向けて撃ち落とそうとするが、ルーナがそれを許さなかった。素早く狙いを定め、次々とアントファッジを撃ち抜いていく。
ルーナからの反撃にアントファッジ達に動揺が広がり、デイナへの追撃の手が緩む。デイナはそのまま香苗を戦いの余波が及ばない所へ運ぼうとした、その時彼にプレインジーンが襲い掛かる。
「逃がしはしないよ」
「ッ!? くっ!?」
ビルの壁を蹴って飛翔しつつあったデイナに迫るプレインジーンは、その手に銃剣モードのベクターリーダーを持っている。
振り下ろされたベクターリーダーの刃を、デイナは翼で防ぐ。攻撃を喰らう瞬間、プレインジーンは引き金を引き強烈な一撃をデイナに見舞う。
その一撃に、デイナは下に叩き落された。
「くぅっ!?」
このまま地面に落下したら香苗がただでは済まない。デイナは自分を下に、翼を広げて空気抵抗で落下速度を落としつつ滑るように地面に落下した。背中を削られながら地面に不時着したデイナは、それでも香苗は無傷で守り通した。
「ぐっ!? い、つつ……」
「仁、大丈夫か!?」
「あぁ、大丈夫……母さんは危ないから隠れてて」
こうなっては仕方が無い。せめて香苗には少しでも危なくない所に隠れていてもらい、少しでも早くにこいつらを倒す事をデイナは心に決める。
そのデイナの前に、ベクターリーダーを手にしたプレインジーンが迫った。迫るプレインジーンに対し、デイナは拳を握り構えを取る。
それを見て、プレインジーンはベクターリーダーを腰に戻した。
「どれ、私にも君の恐竜フォームを体験させてもらおうか」
「後悔しないでよ――!」
一方ルーナは、リプレッサーショットⅡを使ってアントファッジを次々と倒していく。元より強化前の状態で楽勝だったのだから、強化された今のルーナが後れを取る道理はない。
【いい感じね! 次私!】
「(分かった!)」
射撃能力は何不自由ない。強化前と同じように扱える。
次は格闘戦能力だ。
「アイ ハヴ コントロール!」
亜矢と真矢は主導権を入れ替え、一気にアントファッジに接近する。リプレッサーショットⅡの銃身下部に付いた刃と蹴りを使ってアントファッジを次々と倒していく。
そこへ無数の針がルーナに降り注いだ。
降り注ぐ針に気付いたルーナは、寸でのところで針の雨霰から逃れた。
「この攻撃はッ!?」
こんな事が出来る敵は1人しか思い当たらない。
それを証明するように、ルーナの前に1人の戦士が現れた。全身真っ黒で、赤い複眼だけが頭部で光る。右腕はそうでもないが、左腕は肩までトゲトゲの鎧で覆われている。
「アンタ、グアニンね?」
「仮面ライダールーナ……邪魔はさせない!」
右手に拳銃モードのベクターリーダーを持ち、接近しながら銃撃してくるグアニンの変身した『ダークスティンガー』をルーナが迎え撃つ。
序盤はルーナとダークスティンガーは対等に戦えていた。いや対等どころかルーナの方が圧倒していた。身軽に動き回るルーナを相手に、ダークスティンガーは追いつけない。
が、それも徐々に形勢が逆転してきた。理由は簡単だ。ルーナの動きが徐々にぎこちなくなってきたのだ。
いやぎこちなくなったと言うのは正確な表現ではない。一言で言えば、自分の力に自分の体が振り回された状態だった。
「くぅっ!? 何、これ!? 体が、何かおかしい!?」
ダークスティンガーに蹴りを放つが、それは力み過ぎたように明後日の方へ向け飛んで行く。それが大きな隙となり、棘を伸ばした左拳による殴打を諸に喰らってしまった。
「あぁぁっ?!」
無防備となっていたルーナに、その攻撃は強烈だった。攻撃のダメージにルーナはその場に倒れ、痛みに体を震わせる。
そのルーナに、ダークスティンガーが追撃でジェネリック・ブレイカーを叩き込もうとする。
瞬間、戦場に香苗の声が響き渡った。
「待ちたまえ!!」
「んっ!?」
今正にルーナに大技を叩き込もうとしていたブラックスティンガーは勿論、アントファッジもデイナとプレインジーンも動きを止める。
静まり返った戦場で、香苗は懐から一つのUSBメモリーを取り出し周りに見せつける。
「君らが欲しいのはこれなんだろ? 欲しければくれてやる。だからさっさと消えろ」
「……良いだろう。さっさと寄越せ」
香苗からUSBを受け取ろうとするダークスティンガーだが、彼が近付こうとすると香苗は手に持ったUSBを地面に叩き付けようとした。
「先に君達が兵隊を引き揚げてからだ。渡した瞬間、はいさようならさせられては堪らないからね」
先に提示された交換条件。これが呑まれない場合、香苗はUSBを地面に落とし脚で踏み潰すつもりだった。
それを察したダークスティンガーは、視線でプレインジーンに問い掛けた。問われたプレインジーンは、溜め息を吐くと顎をしゃくった。それを合図にして、アントファッジ達が引き下がっていった。
周囲からアントファッジが居なくなったのを確認すると、香苗はダークスティンガー……ではなく、デイナと対峙しているプレインジーンに向けてUSBを放り投げる。プレインジーンは飛んできたUSBを片手で受け止めた。
USBを受け取ったプレインジーンは、満足そうに頷くと変身を解除した。
「確かに、受け取ったよ」
「約束だ。さっさと帰れ」
「いいとも」
言った瞬間、雄成は自然な動作でベクターリーダーを上げ香苗に向け一発撃った。反応が遅れたデイナにはそれを止める事が出来ず――――
「あぅっ?!」
寸でのところでその身を盾にしたルーナにより、香苗は九死に一生を得た。急所を狙って放たれた銃弾は大ダメージとなり、ルーナの変身が解除され倒れそうになったところを香苗に受け止められた。
「おっと!?」
「真矢さんッ!? お前――――!?」
卑怯な攻撃にデイナが雄成に怒りを向けるが、その瞬間には雄成の傍にやって来たダークスティンガーが彼を抱えて近くのビルの屋上へと移動していた。
「いやすまないね。今のはちょっとした保険と言う奴だ」
「保険?」
「こうすれば君らは私達への追撃よりも守る事を優先させるだろうと思ってね。それでは失礼するよ」
雄成はダークスティンガーに抱えられ一飛びでその場から消えていった。
後に残された3人。デイナは変身を解除し真矢は痛みに顔を顰めながら立ち上がる。
「ゴメンなさい、私の所為で……」
折角ルーナを強化したと言うのに、その性能を発揮できないどころか振り回され、足を引っ張ってしまった。自分が情けなくて泣きたくなった。
しかし香苗はあっけらかんとした様子だった。
「気にしなくて大丈夫だよ。何の問題も無い」
「でもデータは――!?」
真矢が声を荒げかけたその時、香苗は懐からUSBを取り出し真矢の鼻先に掲げた。それを見て真矢だけでなく、仁も目を見開いた。
「……これは?」
「こっちが本物のデータ。さっき彼らに渡したのは偽物さ」
そう言って香苗はしてやったりな笑みを浮かべる。それをみて真矢は脱力してその場に崩れ落ち、仁はそんな彼女を慰めた。
「それならそうと、早く言ってくれれば……」
「いやすまないね。先に言えれば良かったんだけど、そんな暇も無くってさぁ」
「まぁ、いいけど。でもそれすぐバレるかもね」
「そうだね。今の内に対策会議だ。さ、早く大学へ戻って話し合おう」
真矢が崩れ落ちた原因は自分にあると言うのに、香苗はマイペースにそう言って仁と反対側から真矢を支えて大学へと向け歩みを進めた。
血の繋がった母でありながら、周りを振り回す困った母に仁も大きな溜め息を吐かずにはいられないのだった。
と言う訳で第41話でした。
今回より登場のルーナ・ユナイト。満を持して正式なルーナの強化形態です。ただし今はまだ完全な制御には至らないと言う現状。どうも本作では二回目の強化は制御に難儀すると言うジンクスがあるようです。
雄成、香苗に偽物を掴まされる。これ位の強かさが無くちゃ、香苗がやるような冒険はやっていけません。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。