仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

お気に入り登録ありがとうございます!励みになります。

さぁ今回は亜矢と真矢の反撃の時です。


第42話:彼女達は2人で1人

 仁は香苗を秘密のラボへと連れて行った。暫くは誤魔化せると言っても、あまり長くは無いだろう事は容易に想像できる。少しの間とは言え、隠しておいた方が良い。

 

 ラボに入ってきた3人に、事情を聞いた白上教授が気分を落ち着かせようと紅茶を淹れる。

 

 出された紅茶で一息ついた仁は、香苗にずっと気になっていた事を訊ねた。

 

「ところで母さん、連中が狙ってたデータって何なの?」

「ん?」

「それ、私も気になってました。何でお義母さんは傘木社に狙われたんです?」

 

 仁と亜矢から投げ掛けられた質問に対し、香苗は直ぐに答える事はしなかった。黙ってカップを傾け、温かい紅茶を喉に流し込むだけだった。

 

 そんなに言い辛い事なのだろうかと仁が訝しんでいると、横から峰が割り込んできた。

 

「それより双星さん、新しくなったルーナが満足に動けなかったって本当ですか!?」

「ぅえっ!? あ、はい……すみません」

「いえ、双星さんを責めてる訳じゃないんです。ただどう言う状態だったのかを聞きたくて」

「えっと、そうですね……」

 

 状況を知らなかったとは言え、峰の乱入により大事な事を聞く事が出来なくなったことに仁は思わず顔を顰めた。

 だがルーナ・ユナイトが満足に戦えないのはそれはそれで香苗を守る上で問題だ。なので峰の行動には目を瞑り、ルーナの問題改善の方に思考を切り替えた。

 

「何と言うか、反応が敏感すぎたって感じなんです。動こうと思った時には体の方がもう動いてて、それが頭の中で思い描いた動きと違うせいで変な行動になっちゃって……」

「う~ん、反応速度が双星さんに合って無い感じですか?」

 

 峰は椅子に座り腕を組んだ。予想していた問題は暴走だが、それが起こらず体を動かす上での問題が起こるとは彼女にとっても予想外の事であった。

 

 この問題は厄介だった。対処法としては前のルーナに戻すか、亜矢と真矢自身の反応速度を上げてもらうしかない。この場合一番現実的なのは言うまでも無くルーナのダウングレードだが、それをすると結局ルーナが傘木社との戦いで足手纏いとなってしまう。かと言って反応速度の底上げなど、一朝一夕に出来る事では無いだろう。専用の訓練を長時間熟す必要がある。

 

 どう対処すべきか? 峰が頭を悩ませ、煙が出るのではと言うほど脳をフル回転させた時、思わぬところからアドバイスが飛んできた。

 

「1人でダメなら2人でやれば良いじゃないか」

「「え?」」

 

 アドバイスを口にしたのは香苗だ。唐突な香苗の言葉に、亜矢と峰は揃って首を傾げる。

 

「2人でって……私と真矢でって事ですか?」

「そうさ、他に誰が居る?」

「でも私と亜矢、普段から2人で戦ってるんですけど?」

 

 香苗の言葉の真意が理解出来ず、亜矢と真矢が疑問を口にする。

 それに対し、香苗はカップを横に置き足を組んで答えた。

 

「それは飽く迄交代交代でって事だろう? そうじゃなくて、一つの体を二つの思考で動かせば良いんじゃないかって話さ。この問題、一言で言えば肉体に思考や精神が追いつけていないって事なんだろう? それなら、2人分の思考で体を動かせば、反応速度もついて行けるようになるんじゃないかい?」

 

 言いたい事は分かる。1人では追いつけない反応速度を、2人分の反応速度で補おうと言うのだ。それはある意味で本当に2人で1人の人間となって戦うという事。

 

 頭で理解は出来たが、しかしそれを実践するとなるとこれがまた難しい。意識して思考を合わせるなど、今までやった事がないのだから。

 

「(ど、どうしよう……?)」

【まず思考を合わせるところから始めてみる?】

「(じゃあまず、瞑想から……かな?)」

 

 ほぼ手探りで亜矢と真矢は思考を合わせる方法を求め、試しに目を瞑って瞑想してみる。まずは頭を空っぽにして、その状態を2人で維持するところからやってみようと言うのだ。

 

 亜矢と真矢の問題についてはとりあえずここまでにして、問題は他にもある。

 香苗をどうすべきか? このままホテルに返す訳にはいかない。きっと傘木社は渡されたデータが偽物だと直ぐに気付き、再度データを奪いにやって来る。ホテルは危険だし、それ以前に街中に放り出す訳にはいかなかった。何時何所で襲われるか分からない。

 

 現状最も安全なのは、やはり警察に保護してもらう事だろう。警察を恐れるような可愛げのある連中ではないが、それでも多少は襲撃を躊躇ってくれるだろうし何かあってもS.B.C.T.が守ってくれる。

 

「瀬高君、S.B.C.T.の権藤さんに連絡をしてくれ」

「分かりました」

「宮野君、門守君のお母さんにはそれまでの間、研究室の仮眠室に居てもらってくれ。ここよりはまだ快適だ」

「はい。それじゃ香苗さん、行きましょう」

「私は別にここでも構わないよ。床でも寝れるしね」

 

 一度冒険に出てしまえば、寝床を満足に選べない状況など当たり前だ。それこそ硬い岩や木の根っこの上で寝袋に入って寝なければいけない事もある。そんな状況に慣れている香苗にとっては、虫や猛獣、自然災害の危険が無いラボの床は十分に快適な寝床であった。

 

 しかし彼女の人となりをある程度理解した峰はそれを突っぱねた。

 

「ここには迂闊に触られると面倒な事になる機材も多いんです。香苗さんに好奇心で勝手な事されて取り返しのつかない事になられたら困りますから、ここは絶対ダメです」

「…………ちぇっ」

「今『ちぇっ』って言いましたよね!?」

 

 峰が香苗と共にラボを出て行き、拓郎と白上教授もそれぞれのやるべき事の為にその場を離れて行く。

 後には仁と、瞑想する亜矢だけが残される。

 

 暫くの間、仁は椅子に座って指を組んで瞑想する亜矢を眺めていた。まるで座りながら眠っているかのような姿だ。

 

 そんな彼女を見て、仁の中に悪戯心が芽生えた。音を立てずに彼女に近付くと、まず顔の前で手をヒラヒラと振ってみる。反応はない。

 ならばと彼女の髪を一房摘み、毛先を彼女の鼻先に持っていき擽ってやる。

 

「~~~~! もう、仁くん!?」

 

 流石にこれには亜矢も堪らず仁に抗議した。悪戯が効果ありだった事に、仁は楽しそうに小さな笑みを浮かべた。

 

「止めてくださいよ、ただでさえなかなか上手く行かなくて苦労してたんですから!」

【な~んかね~、意識すると難しいのよこれ】

 

 意識を統一すると言うのは、言葉では簡単だが実践しようとするとなかなか難しい。2人の場合は体は1つな訳だし、四六時中一緒に居るようなものなのでもっと簡単かと思っていたがそれは甘い考えだった。

 

 意識を集中させようとすると何故か余計な考えが浮かんでしまったり、無我になろうとするとそれ自体が1つの思考となり結果として無我になり切る事が出来ず思考が乱れてしまった。しかもそれを相方が指摘してくるのだから、思考は余計に統一から遠退く。

 

「ごめんごめん、ちょっと寝てるみたいだったからもしかしたらと思って」

「寝る時、かぁ…………確かに寝る時なら何にも考えてない訳だから、ある意味思考統一出来てるんだろうけど、寝ちゃったら意味ないし……」

「俺も手伝うから、諦めずやってみよう」

 

 こりゃ先は長いな。仁はそんな事を考えながら、亜矢と真矢が思考を統一できるようあれこれ考えるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 傘木社の特別研究区画にて、グアニンは雄成が見ている前で香苗から奪ったUSBの中身を見るべくノートパソコンにUSBを繋ぎデータを開いていた。

 

 保存されていた幾つもあるデータには番号のみが振ってあり、どれが目的のデータかは分からない。グアニンは適当にデータを開いてみると――――

 

 そこにはどこぞの森の中を写した写真や、何処かの現地民族と写真を撮る香苗の写真が入っていた。

 

「――――は?」

 

 グアニンは慌ててデータを片っ端から開くが、中にあったのはどれも香苗が冒険をした先で出会った人や目にしたものを写した写真のデータばかり。

 

 ここで雄成とグアニンは、香苗に騙された事を理解した。

 

「……ま、こんな事だろうと思ってはいたよ。随分とあっさり渡してくれたから何かあると思ってはいたが……」

「も、申し訳ありません!?」

 

 グアニンは顔を蒼褪めさせた。よりにもよって雄成が求めているものを取り損ね、こんなバカみたいなものを見せてしまった。グアニンは自分の寿命が縮むのを感じた。

 

「構わんよ、あの場には私も居たんだ。君1人の責任じゃない」

「は、はい……」

「恐らく本物はまだ彼女が持っているだろうね。後でまた彼女から貰いに行かないと……時間を調整する必要があるね」

 

 雄成がブツブツと呟きながらその場を後にする。立ち去った彼の背を見送るグアニンの顔色は悪かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 時刻は夜。もう大学内に残っている者は、研究に追われている一部の学生や院生くらいという時間だ。

 白上研究室もその例外ではなく、教授も帰宅し残っているのは仮眠室に泊っていく香苗とまだラボに居る仁と亜矢のみ。

 

 亜矢はあの後も、真矢と思考を合わせる練習をしていた。仁に手伝ってもらい、一つの動きを二つで息を合わせて行ってみるなど色々とやった。

 しかしどれもピントは来ず、ハッキリ言って手詰まりとなっているのが現状だ。

 

 コンビニで買ってきたオニギリで軽く腹を満たした2人は、食休みも兼ねて亜矢と真矢の思考をなかなか合わせられない事に関する反省会を行っていた。

 

「なかなか上手く行かないな~……」

 

 亜矢が思わず溜め息を吐く。彼女の言う通り、本当に色々とやってみたのだ。例えば仁に投げてもらったボールを亜矢と真矢で息を合わせてキャッチしてみたり、あっち向いてホイで亜矢と真矢で打ち合わせなしに同じ方向を意識したりなど。

 

 これらで分かった事は、厳密に言えば亜矢と真矢は呼吸を合わせる事は出来るという事だった。

 

 だがそれは恐らく、香苗が言っていた物とは別物だ。彼女が言っていた目指すべきものは2人の思考の融合。「いっせーの」で出来るような物とは訳が違う。

 

 なかなか進展しない状況に、仁もコーヒーを飲みながら難しい顔をしていた。

 

「…………気になるんだけど、片方が表に出て戦ってる時、もう片方はどうしてるの?」

 

 不意に仁が疑問を口にする。今まで特に気にした事は無かったが、こうして真剣に二重人格者である彼女と触れ合っていると引っ込んでいる意識の事が気になった。

 

「ん~、何て言ったらいいんでしょう…………一言で言えば、ジェットコースターに乗ってるみたいな感じかな? 体は動かせないけど、意識や感覚だけハッキリしてて」

「感覚は共有してるんだよね?」

「そうですね。裏に引っ込んでても感覚は特に変わらないので……例えば真矢が表に出て戦ってる時、私は真矢の意識が届かない感覚で周囲の索敵なんかをしてます」

 

 つまり副座式の戦闘機に乗っている様なものか。片方が表で戦っている時、もう片方の人格は遊んでいる訳では無く出来る範囲で表の人格のサポートをしている訳だ。

 

 恐らく2人が思考を合わせられない原因はこれだろう。自然と2人の間で役割分担する事が沁みついてしまっているので、いざ思考を合わせようとするとなかなか上手く行かないのだ。

 

 考えてやるような思考の合わせ方では駄目だ。もっとこう、本能とかそう言うレベルで自然に出来るようにしなくては。

 

【――――あ~、亜矢? 私もしかしたら感覚分かったかも】

 

 そんな時、亜矢の中で真矢がそんな事を口にした。意外な言葉に亜矢が思わず目を剥く。

 

「えっ!? 真矢それ本当!?」

「どうかしたの?」

「真矢がもしかしたら感覚分かったかもって!」

「え?」

 

 亜矢と仁が驚く中、真矢は何処か歯切れ悪くどう言う事かを説明した。

 

【えっとさ、亜矢……仁君と寝てる時の事、覚えてる?】

「は、え? ちょっと真矢、真面目に――」

【真面目な話よ。特に盛り上がった時の話だけどさ……あの時私達どっちが表に出てた?】

 

 真矢に言われて、仁と床を共にした時の事を思い出す。あの熱い夜を思い出すだけで、亜矢の顔に熱が溜まっていく。彼女が急に顔を赤くし始めた事に仁が首を傾げている。

 

「そ、それ、は…………あれ?」

 

 思い出して、亜矢の頭から熱が引っ込んだ。当時は全く気にしていなかったが、今になって思い返せば不可解な事に仁との行為中、盛り上がった時の人格がかなり曖昧になっていた。

 霞掛かって記憶がはっきりしないと言うのではない。何と言うか、あの時の感覚自体はハッキリしているのだ。

 

 あの時、亜矢と真矢は間違いなく1つになっていた。仁に愛され愛していた時、亜矢は真矢であり真矢は亜矢だった。

 

【ひょっとしたら……亜矢、ちょっと代わって】

「え? うん……」

 

 突然何かを思い付いた様子の真矢が、亜矢に代わって表に出てくる。彼女が何をするつもりなのか分からないが、とりあえず亜矢は大人しく彼女の動向を内面から見守る事にした。

 

 亜矢が見守る中、真矢は仁に近寄ると徐に彼の膝の上にちょこんと座った。突然の彼女の行動に仁も彼女を押し退ける事無く、次に何をするつもりなのかと彼女を見ている。

 

 仁の膝の上に座り、彼の首に腕を回した真矢。正面から仁の顔を見つめた彼女は、近付いた仁の顔を前に頬をほんのり赤く染めると顔を近付け彼の口付けをした。

 

「むぐ……」

【ちょ、真矢ッ!? いきなり何やって――】

「(集中して亜矢。今は全部仁君に委ねるの)」

【ゆ、委ねるって……】

 

 突然の行動に目を白黒させる仁の唇を、真矢は一心不乱に貪る。本能の赴くままに、愛する彼とのキスを堪能する事に全神経を集中させた。

 最初慌てていた亜矢も、次第に仁との甘美なキスに酔いしれその身を委ねた。

 

 本番でも無いのに、キスだけで心が温かくなる。そして気付けば、亜矢も真矢も意思を一つに統一させていた。どうすればキスだけで更に心が昂るか、どう舌を動かせば仁は喜んでくれるか。呼吸のタイミング、肌に感じる彼の体温。

 二つの意識が溶け合った事で、それらが普段以上に敏感に感じ取る事が出来るようになっていた。敏感に感じ取る事が出来るようになったという事は、感覚や思考がシンクロして増加したという事。

 

 つまり、ルーナ・ユナイトを扱う為に必要な状態になれたという事だ。

 

 それを実感し、理解した2人は仁の口から唇を離した。

 

「(……感じた、亜矢?)」

【うん……この感覚だね】

「(そうよ、この感覚よ)」

 

 漸く理解した。二つの意識を一つに統一するとはこう言う事なのだ。亜矢と真矢、2人の思考が1つになる事で、倍ではなく乗で感覚が跳ね上がる。

 しかもただ意識が統合しただけでなく、意識自体は二つあるので感覚を上昇させながら一度に多数の情報を処理する事も出来る。言うなれば、思考と反射の融合だ。一方が考える中でもう一方が反応し、その反応に対して更に一方が思考する。

 

 これならルーナ・ユナイトの能力を100%発揮する事も可能だ。

 

 亜矢と真矢が希望を見出したその時、仁の片手が静かに彼女の後頭部へと伸びた。

 そして彼女が油断している隙に、片手で彼女の頭を固定し今度は彼が彼女の唇を奪った。

 

「んむぅっ!?」

【あ……】

 

 突然の仁からの接吻。しかも先程よりもずっと激しい。仁の舌が亜矢の舌に絡みつき嬲っていく。驚く亜矢だったが、頭を固定されている為逃れる事が出来ない。

 一方真矢は、仁の行動が何となくだが分かってしまった。と言うか、これは彼女の責任だ。

 

 何も告げずに仁に激しく接吻してしまい、彼を刺激して火を点けてしまったのだ。

 

 どれ程続いたか、漸く仁が満足し亜矢の口を解放した。

 

「ぷはっ! はぁ、はぁ……」

 

 口を解放され、亜矢が大きく息を吸う。頬を上気させ、肩で呼吸をする彼女の姿はそれだけで魅力的だ。

 

 軽く酸欠になった彼女の顎を、仁が片手で軽く持ち上げる。

 

「真矢さん、俺が男だってこと忘れてない?」

「あ、あはは……そんなつもりは無かったんだけど、あれが一番手っ取り早いかなって……」

「うん、それは分かるけどさ……まさかこれだけでお終い、なんて考えてないよね?」

 

 亜矢と真矢は仁の瞳の奥に、獣欲の色を見た。普段は大人しい、眠れる獣を起こしてしまったのだ。

 

 ゆっくりと近付いてくる仁の顔に、亜矢と真矢は互いに冷や汗をかきながら、同時に心の何処かで期待している自分に気付き揃って内心苦笑した。

 

 亜矢はチラリと時計を見る。夜も遅い。この時間ならここに来る人は誰も居ないだろう。

 

 亜矢は期待を胸に、仁に全てを委ねた。

 

 

 

 

――――――その様子を扉の陰から、峰が見ているとも気付かずに――――――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日には、宗吾と話が付き香苗を保護する事が決まった。

 あまり物々しくS.B.C.T.の車両で迎えに行く訳にはいかないので、指定された場所まで仁が送っていきそこからはS.B.C.T.と共に香苗をとりあえずは警視庁まで連れていく事になった。

 

 朝早くに適当に朝食を済ませ、香苗と共に大学を出る仁と亜矢。白上教授と峰がそれを見送る。

 尚その際、峰が香苗を見る目が何かおかしかった事に仁は気付いていたが、2人が何も言わないので気にする程の事でもないかと無視した。

 

 まだ人の少ない街中を、宗吾達と合流すべく歩いていく。

 道中では仁と亜矢が周囲を絶えず警戒した。また街中で襲撃してくるかもしれない。

 

 しかし2人の警戒に反して、合流地点までの道中で襲撃を受ける事は無かった。思いの外あっさりと宗吾達に合流できたことに、2人は安堵よりも不安を感じずにはいられない。

 

 その危惧は正しかった。迎えに来てくれた2台の車両の片方に香苗を乗せ、いざ出発しようと言う時になって突然上空からレッドインパクトとブルーインパクトが襲い掛かってきたのだ。

 

「やっぱり来た」

「あれは!」

 

 上空から銃撃して香苗が乗ったもの以外の車両を破壊するレッドインパクト達を見て、亜矢の視線が鋭くなった。忘れもしない、苦い敗北を経験した相手だ。

 

「仁君、ゴメン。あいつらの相手は私達にやらせて」

 

 すかさず真矢が表に出ると、デイナドライバーを装着しながら仁に告げた。あの2人の相手は自分達だけでやる、と。

 勿論仁はそれを危険だと思った。まだルーナ・ユナイトのテストも済んでいないのだ。いきなり強敵相手にするには危険過ぎる。

 

 しかし亜矢と真矢の意思は固かった。特に亜矢にしては珍しく、リベンジに燃えていた。

 

 何より――――

 

「大丈夫よ、もう分かったから…………だから心配しないでください」

 

 強い意志を感じさせる目で告げる亜矢と真矢に、もう仁は何も言えない。これ以上は彼女を侮辱する事になるし、彼女の様子に仁も大丈夫だと感じたからだ。

 

「分かった。あいつらは任せるから、俺は……」

 

 仁の視線の先にはダークスティンガーの姿があった。ダークスティンガーは香苗が持つデータを奪うべく、ベクターリーダーを片手に近付いてくる。

 

 その前に仁が立ち塞がる。

 

「行かせないよ」

「こっちも退く訳にはいかないんだ。その女が持ってるデータ、渡してもらうぞ」

「やれるもんならやてみな、てね」

 

 ダークスティンガーの前で仁はデイナドライバーを装着し、ホークベクターカートリッジとヒューマンベクターカートリッジを装填する。こいつ相手なら恐竜ベクターカートリッジを使うまでも無い。

 

 ところが――――――

 

〈SHARK + HUMAN Evolution〉

「…………え?」

 

 デイナドライバーから聞こえてきた音声に、仁は変身する事も忘れてドライバーを凝視する。今確かにエヴォリューションと言ったが、この組み合わせはミューテーションの筈だ。

 

 仁の疑問に構わず攻撃しようと足を踏み出すダークスティンガーだったが、流石に無視できなかったのか仁は両手でTの字を作り一時停戦を要求した。

 

「ちょ、タンマ」

「は?」

「あれ? おかしいな……」

 

 困惑するダークスティンガーの前で、仁はベクターカートリッジを抜き取り適当にミューテーションとなる組み合わせのカートリッジを装填した。

 

〈BUFFALO + DOG Mutation〉

「これは正しい……じゃあこっちは?」

〈SHARK + DOG Mutation〉

「うん……それじゃあ……」

〈HAWK + HUMAN Evolution〉

「あれぇ?」

 

「お~い……」

 

 1人首を傾げながら、仁は次から次へとベクターカートリッジを組み合わせていく。放置されたダークスティンガーは、声を掛けるが仁は気付いてくれない。

 

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

「ん~? 変身」

〈Open the door〉

 

 色々と検証してみたが、どうやらヒューマンベクターカートリッジだけどの組み合わせともエヴォリューションとなるらしい。

 

 これは正直仁にとっても謎――否、実を言うと思い当たる節が無くはない――の事態であり、首を傾げずにはいられなかった。

 

「お~い、まだか~?」

 

 仁が1人検証している間、待ちぼうけを喰らっていたダークスティンガーは少し離れた所から控えめに声を掛けた。彼の声にデイナも彼を待たせていた事を思い出した。

 

「あ、ごめんね。もういいよ」

「そうか……」

 

 

 

 

 

………………よーい、ドン

 

 

 

 

 

「――はっ」

「――ふっ!」

 

 同時に相手に向けて駆け出し、拳を相手に叩き付けるデイナとダークスティンガー。放たれた拳は互いに相手の胸板に直撃し、押し合う事で相手を遠ざける。

 

「ん……?」

「くぅ……」

 

 互いに相手から僅かに距離を取った2人は、一瞬の間を置いて次の攻撃に移った。

 

 デイナが正拳突きを放つと、ダークスティンガーは左腕の棘でそれを受け止めようとする。あんなものを殴っては自分の拳を傷付けるだけと、デイナは攻撃を中断し逆の拳でダークスティンガーの左腕を弾き蹴りをお見舞いした。

 素早いデイナの連撃に、ダークスティンガーは対応しきれず蹴り飛ばされた。

 

「がっ!? くぅ――!?」

 

 蹴り飛ばされ、地面に倒れたダークスティンガーは立ち上がり際に銃剣モードのベクターリーダーを抜き構えた。

 

 武器を持ったダークスティンガーに対し、デイナはフォームを変える事も無く相手を挑発するように指をクイクイと引いてみせた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方ルーナ・ユナイトとレッド&ブルーインパクトとの戦いは、同時に動くインパクト達が押していた。

 

 先日の戦いと同じように、高速で別方向から全く同時に放たれる攻撃に翻弄されてしまっている。

 

「ぐはっ!? あぐっ!? うぅっ?!」

 

 二方向から同時に放たれた攻撃に、ルーナは壁や地面に叩き付けられる。先日と殆ど変わらぬ戦いに、レッドインパクト達は余裕を見せて彼女のすぐ近くに着地した。

 

「少し姿が変わった様だが……」

「その程度で俺達に勝てると思ったのなら、俺達も舐められたものだ」

 

 自分を嘲る2人の言葉に、ルーナは少しふら付きながら立ち上がって対峙した。

 

「はぁ、はぁ……真矢、行ける?」

【ふぅ~……何時でも】

 

 ルーナはただ闇雲にレッドインパクト達に挑んだ訳ではなかった。

 ここまで押されたのは実は態と。あまり万全過ぎる状態だと、精神的に余裕があり過ぎて上手く心が重ねられないと思ったからだ。ある程度きついと思える状態になって漸く、2人は心を一つに合わせる準備が整った。

 

「(それじゃ……行くよ!)」

【あいつらに見せてやろう!】

 

 一つ大きく深呼吸し、心を落ち着けた亜矢と真矢。

 

 動きを止めた彼女に、レッドインパクトとブルーインパクトは勝負を掛けるべく一気に接近した。ルーナもそれに対抗するように駆けて接近していく。

 

 あっという間に距離が縮まるルーナとインパクト達。

 

「左右前方から同時に接近……対応してみせる!」

 

 左右前方から迫るレッドインパクトとブルーインパクトに、リプレッサーショットⅡを向け同時に引き金を引く。同時に放たれた銃弾は同時にレッドインパクト達に命中し、動きを僅かに乱れさせる。

 

「ちっ!?」

「だがッ!」

 

 僅かに体勢を崩された2人だが、しかし銃弾一発程度のダメージなら直ぐに体勢を立て直せる。寧ろ体勢を崩した事を利用し、ルーナの左右に散開し同時に彼女に攻撃を放った。先日であれば、反応する事も儘ならなかった攻撃。

 

 しかし今、心をシンクロさせ全ての感覚を大幅に向上させた2人にはレッドインパクト達の動きが手に取るように分かった。

 

「等速で左右から……足とブレードで!……同時に!……今!!」

 

 右から迫るブルーインパクトに対してはリプレッサーショットⅡの銃剣で、左から迫るレッドインパクトに対しては蹴りで対応する。

 カウンターの要領で放たれたその攻撃を、2人は諸に喰らい今度は大きなダメージを受け地面に叩き付けられる。

 

「ぐあっ!?」

「くぅ、何ッ!?」

 

 まさかのダメージに狼狽える2人。倒れた2人をルーナが悠然と見下ろす。

 

「やっと拝めました……アンタ達がぶっ倒れた所をね!」

「この程度でッ!?」

「もう一度だ! フォーメーションを組め!」

 

 痛む体を押して体勢を立て直し、飛翔してルーナに襲い掛かる。

 

 迫る2人を前に、ルーナは酷く落ち着いていた。全く負ける気がしないのだ。2人の動きが手に取るように分かり、次にどう動くべきなのかが直ぐに思いついた。感覚だけでなく、思考速度まで上がっていた。

 

 接近してくるレッドインパクトとブルーインパクト。ベクターリーダーの銃撃を交えての2人の攻撃を、ルーナは的確に回避し反撃の隙を伺った。焦る必要は無い。焦らずとも、2人を攻撃する隙は必ず存在する。

 

 そしてその時は訪れた。レッドインパクトとブルーインパクトが別方向から彼女に攻撃を仕掛けてきた。レッドインパクトは上から、ブルーインパクトは背後からだ。

 

「亜矢!……うん!」

 

 ルーナはまず背後から近づいてくるブルーインパクトに銃撃を加えて体勢を崩すと、体を捻りながらジャンプし上から迫ってきたレッドインパクトを紙一重で回避しつつ地面に向けて蹴り落とす。自分の速度も利用されて地面に叩き付けられたレッドインパクトを、ルーナが着地と同時にノックアウトクラッシュで蹴り飛ばした。

 

〈ATP Burst〉

「ヤァァァッ!!」

「がはぁっ!?」

「なっ!? ごほぉっ?!」

 

 レッドインパクトが蹴り飛ばされた先に居たのは、体勢を崩したブルーインパクト。レッドインパクトを一つの弾丸として、ブルーインパクトは大きく吹き飛ばされ揃って大きなダメージを受け地面に倒れた。

 

「な……馬鹿なぁっ!?」

「何故だ!? 2人で1人の俺達のコンビネーションは、完璧な筈――!?」

 

「分かってないわねぇ。あんた達は特別でも何でもないのよ」

 

「「何ぃっ!?」」

 

 突然のルーナの言葉に、レッドインパクト達は倒れながらも激昂する。

 

「あなた達は所詮、ただ2人の息を合わせているだけ……1人1人の力は何も変わっていません」

「でも私達は違うわ。私達は1人で2人分以上の力を発揮してる。私と亜矢、2人が心と力を合わせれば……」

「出せる力は、ただ2人が息を合わせた以上のものを発揮できるんです」

「つまり、アンタ達が相手にしてるのは1人の人間じゃない。1人で2人の人間なのよ!」

 

 レッドインパクト達は所詮1人1人でしかルーナを相手にしていない。だがルーナは元より1人で2人。しかも心を合わせた事で、その力は倍では済まないレベルに膨れ上がる。

 

 そんな彼女に、レッドインパクト達が勝てる道理はなかった。

 

「「そんな訳あるかぁッ!!」」

 

 だが2人はそれを認める訳にはいかなかった。それを認めてしまったら、彼らの存在意義が失われる。

 

〈〈Genome set, Full blast〉〉

 

 ルーナに接近しながら、銃剣モードでジェネリック・ブレイカーを発動するレッドインパクト達を見てルーナもリプレッサーショットⅡを連結させる。左の銃を右の銃の先端に連結させると、左の銃のグリップが外れ二つの銃の銃剣が繋がり銃身下部にブレードのついたライフルとなった。外した左の銃のグリップは、右の銃の後部に接続する。

 それは奇しくも、ヘテロの武装であるテイルバスターと似たシルエットであった。

 

 ライフルモードとなったリプレッサーショットⅡに、ルーナはベクターカートリッジを装填した。

 

〈Genome set, ATP Burst〉

 

 ベクターカートリッジを装填したリプレッサーショットⅡを、ルーナは後部のストック兼用のグリップを掴み左手を峰に当たる部分に添えて構える。

 

 接近してきたインパクト達はジェネリック・ブレイカーを発動した銃剣モードのベクターリーダーを振るい――――

 

「【――――ハァッ!!】」

 

 同時にルーナがリプレッサーショットⅡを一閃。すれ違い様にレッドインパクトとブルーインパクトの一撃をすり抜けつつ『デュエル・ブレイバー』で切り裂いた。

 

 すれ違い離れた所に着地したレッドインパクト達。2人は着地したその場から動かない。

 

 一方のルーナも技を放った姿勢から暫く動かなかったが――――

 

「――――ふぅ」

 

 緊張を解すように小さく息を吐いた。

 

 次の瞬間、彼女の背後でレッドインパクトとブルーインパクトが声も上げず倒れた。

 

 背後で倒れた2人を、ルーナは静かに振り返り視界に収め、その姿に自身の勝利を噛み締めるのだった。




と言う訳で第42話でした。

さてさて、今回ちょっと不穏な雰囲気を演出してみました。何故かヒューマンベクターカートリッジだけ全ての組み合わせがエヴォリューションとなるこの状況。ここから更に物語が動く予兆です。

ルーナ・ユナイトはガンダム00のアレハレ方式の強化となりました。レイトショーでの演出がここで活きてきました(笑)

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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