仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。
お気に入りや評価、ありがとうございます!励みになります!

今回は遂に仁の父親についての情報が公開されます。


第43話:親を知る時

 見事、レッドインパクトとブルーインパクトにリベンジを果たしたルーナは、倒れた2人を静かに見つめていた。

 あの2人も傘木社によって改造を施されたのなら、同時に隠蔽処置の為の発火装置も取り付けられている筈。それが作動せず、そもそも変身も解除されないという事は、あの2人はまだ戦える状態だという事だ。

 

 油断なく見据えるルーナの前で、2人が静かに立ち上がった。

 

「この、アマぁ――!?」

「調子に、乗るなよ――!?」

 

 もう最初の余裕など何処へ行ったのか、ルーナを憎悪の籠った目で睨み付けるレッドインパクト達。対するルーナが、何時でも引き金を引けるようにと分離させたリプレッサーショットⅡを構える。

 

 そこへ、デイナの攻撃で吹き飛ばされたダークスティンガーが飛んできた。

 

「ぐはぁっ!?」

「よっと。あ、亜矢さん真矢さん、大丈夫?」

「はい。そちらも大丈夫みたいですね」

 

 遠目に香苗が乗っている車を見ると、そちらは傷一つ見られない。ダークスティンガーはデイナを突破する事も出来ず、香苗の持つデータを手に入れる事は叶わなかったようだ。

 

 このままこいつら全員を追い返してやる……そう2人が意気込んでいると、出し抜けに飛んできた銃弾が彼らの足元で弾ける。

 

「おっと?」

「わっ!?」

 

 突然の銃撃に2人が足踏みして後退る。何事かとデイナが銃撃されたであろう方向を見ると、そこにはベクターリーダーを構えた雄成の姿があった。

 

「また来たの?」

「それだけの価値が、君のお母さんの持つデータにはあるんだよ」

「一体何のデータ?」

 

 警戒しながらデイナは雄成から情報を引き出そうとする。特にデータの内容は、香苗も教えてくれなかったものなので気になっていた。

 

 デイナの問い掛けに、雄成は香苗が乗った車に目をやり口角を上げて笑った。

 

「なるほど、息子には何も話していないのか」

「何を?」

「あのデータの中身さ。あのデータはな、君らが使っているデイナドライバーの基礎設計図なんだよ」

 

 雄成の言葉にデイナとルーナは顔を見合わせ、同時に背後の車に目をやる。車からは香苗がゆっくりと出てきた。

 

「母さん、どう言う事? 何で母さんが、デイナドライバーの設計図なんて……」

 

 香苗は何も答えない。険しい顔で眉間に皺を寄せ、視線を行ったり来たりさせている。

 

 煮え切らない様子の香苗に、ルーナが強く問い詰めようと一歩彼女に近付く。しかし彼女が何かを言う前に、デイナが手でそれを制した。

 

「仁君、良いの?」

「ん……聞きたい事は沢山あるけど、今はこいつらを追い払う方が先決だから」

 

 デイナにだって、香苗に聞きたい事は山程あった。今まで白上教授と面識がないと思っていた香苗が何故デイナドライバーの基礎設計図などを持っているのか、気になる事を上げればきりがない。

 

 だが今はそれを問い詰める時ではない。まずは雄成達を追い払い、香苗の安全を確保しなければ話を聞く暇も無いのだから。

 

 切り替えの早いデイナに、雄成は心底楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「いいねぇ、やはり君は良い! 是非とも欲しいよ……いろいろな意味でね」

〈SAMPLE1 Leading〉

 

 笑いながら雄成はベクターリーダーにベクターカートリッジを装填する。

 

「とは言え今はまだその時ではない。君が熟すまでもう少し、それまでじっくり待たせてもらうよ。……進生」

〈Transcription〉

 

 プレインジーンに変身する雄成に、対抗してデイナもケツァルスピノフォームになるべくベクターカートリッジを取り出す。

 

「亜矢さんは母さんをお願い。あの3人はもう戦力外だよ」

〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉

「任せてください。仁君も気を付けてね」

「ん……ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 ケツァルスピノフォームになったデイナは、翼を広げてプレインジーンに挑みかかる。

 

 上空から突撃してくるデイナをプレインジーンはベクターリーダーで迎撃するが、放たれる銃弾をデイナは体を僅かに逸らす事で回避して接近した。

 デイナに接近されたプレインジーンは、ホルスターを剣として使いデイナに斬りつけ迎え撃つ。それをデイナは蹴り飛ばす事で防いだ。

 

 やはり上空を取れるデイナが有利だ。飛べないプレインジーンでは出来る事に限りがある。このままデイナが空中からのヒット&アウェイに徹すれば、プレインジーンを退かせる事も可能だろう。

 

 だがそれは希望的観測が過ぎた。

 徐にプレインジーンが剣を投げた。一見乱雑に投げられたようなそれを、デイナは容易く回避した。あんなのに当たる訳がない。仮にルーナがデイナのポジションに居たって回避は容易だろう。

 

「ふふっ……」

〈Genome set Full blast〉

 

 プレインジーンは自分の攻撃が避けられたと言うのに、少しも慌てた様子を見せずベクターリーダーをデイナに向けた。少なくともルーナにはそう見えた。

 

 しかしデイナにはプレインジーンが別の物を狙っている事が分かった。銃口が僅かにずれているのが見えたのだ。

 

「?……ッ!?」

 

 何を狙っているのか? デイナが相手の狙いに気付いたと同時に、プレインジーンが引き金を引いた。

 

「ぐあっ!?」

「えっ!? 何? 今何がッ!?」

 

 プレインジーンが撃った銃弾はデイナのすぐ横を通り過ぎたと思ったら、まるでデイナの後を追うように引き返し無防備なデイナの背中に直撃した。

 

 何をされたのかデイナは直ぐに気付いた。跳弾だ。プレインジーンは避けられることが分かっていて剣を投げたのである。跳弾させ、無防備なデイナの背中を撃つ為に。

 

「ぐぅっ!?」

 

 バランスを崩し落下したデイナを、プレインジーンが追撃する。飛び蹴りを放ち、立ち上がったデイナを再び地面に倒れさせた。

 

「くっ!? この……」

「そらそら!」

「おっと」

 

 デイナの頭を狙って放った回し蹴りを、デイナはギリギリのところで回避。蹴りを放った直後で隙だらけのプレインジーンに対し、デイナは拳を握り殴り掛かるがプレインジーンはそれを掴み逆に彼を背負い投げた。

 だがデイナは自分を掴んできたプレインジーンの腕を掴み返し、投げ飛ばされるのを防ぐと同時に逆に投げ返した。投げ飛ばすのではなく、地面に叩きつける。

 

 その戦いの様子にルーナは愕然となった。ケツァルスピノフォームになったデイナとプレインジーンが互角に渡り合っている。あれほど仁が苦労して獲得した強化形態に、プレインジーンは対抗できているのだ。同じくベクターリーダーで変身するダークスティンガーやレッドインパクト達はあのフォームで十分に圧倒できる筈なのに、である。

 

 これは変身している雄成自身の能力なのか、それとも彼が変身するプレインジーンが特別なのか。

 

「――――気になってたんだけどさ」

「ん?」

 

 徐にデイナが戦闘を中断してプレインジーンに問い掛ける。彼からの問い掛けに興味があるのか、プレインジーンも攻撃を中断した。

 

「アンタが使ってるベクターカートリッジ……それ普通の奴じゃないよね?」

「その根拠は?」

「根拠も何も、名前がサンプルって時点で普通じゃないでしょ」

 

 ベクターカートリッジは基本、何らかの生物の遺伝子を超万能細胞に読み込ませて精製する。だから起動状態にすれば、読み込ませた生物の名前が出てくる筈だ。

 だが雄成が使うベクターカートリッジが読み上げる生物の名前は『サンプル1』。特定の生物名ではなく、サンプル表記で読み上げられるという事は――――

 

「直球で聞くけど、そのベクターカートリッジに読み込ませてる遺伝子って1から遺伝子操作で作り上げた奴なんじゃないの?」

 

 デイナの指摘に、プレインジーンは即答しなかった。ホルスターを腰に装着し、ベクターリーダーを突っ込んだ。

 

 そして両手を自由にすると、心底感心したと言う様に拍手をデイナに送った。

 

「その通り。よく分かったね、門守 仁君」

「前にファッジだった時のアンタを見た時の亜矢さん達の反応がずっと気になってたんだ。まるで何かを拒絶する様な、それでいて怯えたような反応。それが自然界に存在しえない、異物を前にした本能的な反応なら納得できる」

 

 生物は本能的に異物を忌避する性質がある。例え同族であろうとも、他の個体と異なる容姿をしていたら排斥に走るのは珍しい事ではない。過去にはアルビノのチンパンジーが、同じ群れの他の個体によって子供であるにも拘らず無残に殺されてしまったと言う事例もある位だ。

 人間社会において人種や肌の色、障害の有無で人を差別する事は一般には悪とされているが、自然界では異物の排除は当たり前の事である。

 

 近似の遺伝子を持つ個体であろうとそれなのだ。その相手が自然界に於いて存在しえない異物中の異物であれば、正体不明の存在に脅威と恐怖を感じるのは当たり前の話であった。

 

 ここで仁の中である疑問が生まれる。そもそも傘木社がベクターカートリッジを用いて人体実験を行う、その理由は一体何なのだろうか?

 

 世界征服? 市場独占? ベクターカートリッジにより作り出されるファッジを軍事利用し、各国にバラ蒔き世界を裏から操ろうと言うのも考えられた。

 だが、雄成の人となりがその結論に待ったをかける。仁の私見だが、雄成は世界征服に興味を持つような男に見えない。

 

 彼と仁は同類だ。自身の知的探求心を満たす事に喜びを感じ、その為になら多少のリスクを恐れない。

 

 そんな男が、それだけで人間を変異させるベクターカートリッジで更に異質な遺伝子操作で作った遺伝子を用いるだろうか? そしてそれを、ただの商売道具にするだろうか?

 

 仁が彼の立場ならそんな事はしない。似た者同士だから分かる、雄成にとってはこれまでの騒動も全てはただの実験や試験に過ぎない。

 

 となると、導き出される答えはただ一つ。

 

「雄成さん……アンタがやろうとしてるのは、新たな生物の創造。自分の手で、新しい種の生物を創り出そうとしてる…………違う?」

 

 デイナの口から語られた、プレインジーン……傘木 雄成の恐ろしい計画。

 ルーナは仮面の奥で慄くと同時に理解した。プレインジーンの強さは、変身している雄成の能力もあるだろうが何よりもあのベクターカートリッジが強力なのだ。どんな遺伝子を使っているのかは分からないが、あのベクターカートリッジの超万能細胞には色々な生物の優秀な形質の遺伝子がごっそりと入っているに違いない。無駄なく必要な能力を引き出す為の遺伝子だけが入っているから、あのベクターカートリッジで変身するプレインジーンはあそこまで強いのだ。

 

「ん~……70点と言ったところかな。良い線行っているが、正解にはまだ遠いな」

 

 だが意外な事に、プレインジーンの口から出たのは外れを意味する言葉であった。デイナの――仁の読みが外れたのだ。

 

 自身の推測が外れたと言う事に、しかしデイナは落胆した様子を見せなかった。寧ろ何処か焦りを感じたように見える。

 

「そっか…………やっぱりそうなんだな」

「仁くん?」

 

 1人何かを納得したように呟くデイナに、ルーナが首を傾げていると彼は突然香苗に手を伸ばした。

 

「母さん、持ってるデータ俺に渡して」

「何だって?」

「いや、渡さなくても良い。そのデータ今すぐぶっ壊してもう見れなくして」

 

 何の説明も無く、突然データを破壊しろと告げる仁に香苗どころかルーナも困惑を隠せない。彼は一体何をそんなに焦っているのか?

 

「詳しく話してる暇はないんだ。とにかく今すぐ――」

 

「私は構わんよ? その所為で君らの母校が無くなっても良いならねぇ」

 

 香苗が逡巡しながらも仁にUSBを放ろうとした瞬間、プレインジーンが口にした言葉に香苗だけでなくデイナとルーナも動きを止めた。

 

「何――――?」

「だってそうだろう? 君のお母さんが持っているデータが手に入らない以上、残るデータは白上が持っているデータだけだ」

 

 それを手に入れる過程で大学が大きな被害を受けるかもしれないと、彼はそう言っているのだ。仁と亜矢の知人も見知らぬ人も全員を纏めて人質に取られたようなものだった。

 

「……今まで大学をほとんど放置してたのはこの時の為か」

「何て、卑怯な――――!?」

 

 ルーナが憤る中、プレインジーンはさぁどうすると両手を広げる。もうその手に武器を持つつもりはないようだ。必要無いと思っているのだろう。そしてそれは正しかった。今のデイナとルーナに、プレインジーン達を止める手立てはない。

 

「母さん……お願い」

 

 事ここに居たり、今はプレインジーンに従う他ない。デイナは香苗にデータを渡す様に言い、香苗は物凄く逡巡したが大学に居る人々の身の安全と天秤にかけて仕方なくUSBをプレインジーンに向けて放り投げた。放物線を描くUSBを、プレインジーンは苦も無くキャッチする。

 

「ふむ……グアニン」

「はい」

 

 変身を解いたグアニンが、ノートパソコンを手にプレインジーンに近付いていく。グアニンはプレインジーンからUSBを受け取ると、ノートパソコンに挿して中のデータを閲覧した。また偽のデータを渡されては堪らない。

 

「……ロックが掛かっています」

「パスワードは?」

 

 最後の悪足掻きの様なパスワードにも、プレインジーンは動揺しない。香苗に明星大学の全学生を道連れにデータを破棄する覚悟があるなら話は別だが、彼女はそこまで心を鬼にする事は出来ない事を彼は理解していた。

 

「…………パンドラ」

 

 香苗が観念してパスワードを口にし、グアニンがそのパスワードを入力するとデータが開かれる。ノートパソコンのディスプレイにはデイナドライバーの基礎設計の設計図が表示された。

 

「本物の様です」

「らしいね。ありがとう、諸君。このデータは有効活用させてもらうよ」

 

 手に入れたデータが今度こそ本物である事を確認し、プレインジーンは満足そうに頷いてその場を去ろうとする。

 

 が、何を思ったのか立ち止まると振り返り、仁の事を見た。

 

「そうそう、白上の奴に伝えておいてくれ」

「……何を?」

 

 デイナが問うと、プレインジーンは変身を解き雄成の姿となり口を開いた。その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「お互い、順調に研究が進んでいるようで何よりだと……ね。それでは失礼」

 

 そう言って雄成はグアニン達を連れて今度こそその場を離れた。

 

 後に残されたデイナは、その後ろ姿を見送りながら変身を解いた。

 

 雄成が最後に放った言葉の意味を考えながら――――――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 まんまと雄成達にデイナドライバーの基礎設計図を奪われてしまった仁は、亜矢・香苗と共に大学へと戻った。仁と亜矢はともかくとして、香苗までもが一緒に戻ってきた事に白上教授達は驚きを隠せなかったが、データが奪われたと聞くと納得すると同時に危機感を抱いたのか深刻な顔になる。

 

 そして、そのデータの内容がデイナドライバーの基礎設計図であったと知った仁と亜矢は改めてどう言う事なのかを香苗と白上教授に問い詰めた。デイナドライバーの基礎設計図を香苗が持っていたと言う事に、峰と拓郎も驚き2人も興味深々と言った様子で聞き耳を立てている。

 

「それで、何で母さんがデイナドライバーの基礎設計図なんて持ってたの?」

「教授はその事を知っていたんですか?」

 

 仁と亜矢の問いに、まず最初に答えたのは香苗だった。

 

「あれはね、司が残した物なんだよ」

「父さんが?」

「あぁ。司が死んだ後、遺品整理していた時に見つけてね。誰にも渡さない様にと言うメモと共に、司の部屋の机の奥に仕舞われていたのを見つけたんだ」

 

 香苗の口から、デイナドライバーの基礎設計図のデータが父・司の遺品であったことを仁は初めて知った。

 

 デイナドライバーは自分の父が設計したものである……その事実に、仁は顎に手を当て考え込む。

 

「……教授はその事を知ってたんですか?」

「あぁ……知っていた。と言っても、彼に息子が居た事も、それが君だと言う事も知らなかったがね。彼は直向に研究する男で、自分の周りの事は何も語らなかったから」

 

 どこか懐かしむ様に呟き、紅茶を啜る白上教授。仁はそんな白上教授をジッと見ている。

 

「教授……俺、父さんはアメリカの大学で教鞭取ってた頃に暴漢に襲われて死んだって聞かされたんですけど…………本当はもしかして……」

 

 司が白上教授と共に研究に携わっていたと言う事は、雄成とも関わりを持っていたと言う事だ。そして教授と雄成は最終的に決別した。司が作ったデイナドライバーを教授が持っていたと言う事は、司は教授の側に付き雄成と敵対したと言う事。

 その頃に既に雄成が何らかのベクターカートリッジを完成させていたとすれば――――

 

「そう、司君は雄成を止めようとして殺されたんだ。いや、正確には雄成の勧誘を断ったから消されたと言うべきかな。私も知らない事だが、雄成は何らかの計画を考えていたらしい。それを成し遂げる為に司君を味方に引き入れようとして、断られたから秘密を守る為に殺された様だ」

 

 突然、室内に大きな音が鳴り響く。全員がビックリしてそちらを見ると、香苗がテーブルを殴り付けていた。相当強く殴ったのか、彼女の傍に置かれていたカップがひっくり返り中の紅茶が零れている。

 

「そんな……そんな事で、司は――!?」

「母さん……」

 

 怒りと悲しみに震える香苗。歯を食いしばり、目には涙が浮かんでいた。握り締めた拳は、爪が肌に食い込んでいるのか血が滲み出ている。

 亜矢が香苗の肩に手を置き、仁が優しく香苗の握り締められた拳を開かせる。

 

 これ以上この話題は止めよう。司の本当の死因と、デイナドライバーとの関係自体は分かった。ならばこの話はこれで十分だ。

 

 仁は話題を変えた。

 

「……教授、連中がデイナドライバーの基礎設計図を欲しがる理由って分かります?」

「確証はないが、恐らくゲノムチェンジ機能が欲しいんだろう」

「やっぱりそう思いますか」

 

 仁と白上教授は納得した様子を見せるが、周りで話を聞いている亜矢達は首を傾げた。傘木社は既に自分達で新たなドライバーを作り上げている。今更デイナドライバーの基礎設計図を手に入れてどうすると言うのか分からなかった。

 

「何で今更、ベクターカートリッジ2本のデイナドライバーを参考にしたいんです? 連中は3本使えて強力なライダーを作り出せるのに?」

「多分、3本使って変身するライダーじゃダメなんだ」

「ダメって……?」

「ベクターカートリッジを3本使うのは本来邪道なんだ。確かに3本使って変身するヘテロは強い。でも実は、ヘテロの中じゃ3本のベクターカートリッジが互いに競合してるんだ」

 

 これは白上教授にベクターカートリッジや超万能細胞の事を色々教わり、そして自分でも色々と調べてみて分かった事だ。

 

 超万能細胞は人間など既存の生物の細胞に多大な影響を及ぼすが、一方で超万能細胞同士だと反発し合う。言ってしまえば、超万能細胞は非常に利己的な細胞なのだ。故に、別の遺伝子を持つ超万能細胞と競合してしまう。

 ベクターカートリッジ2本では互いに足を引っ張り合ってしまう所を、ヘテロは3本にする事で三角関係を作り出した。足を引っ張り合う競合ではなく超万能細胞同士が互いに警戒し合う関係を作り、その結果ヘテロは安定して強力な力を持つに至ったのだ。

 

「じゃあ何でデイナは2本で力を発揮できるんだ?」

「その秘訣がデイナドライバーにはあるって事です。そして連中はそれを欲しがってた」

 

 こんな状況だと言うのに、仁はデイナドライバーの基礎設計を行った司を尊敬した。本来反発し合う2本のベクターカートリッジを、反発させず全力を発揮させる。不可能を可能にしてみせる発明をした、司は間違いなく科学者だ。

 

「素朴な疑問なんですが、そもそも仁くんのお父さんはどうしてデイナドライバーを作ったんでしょう?」

「教授……教授から父さんにデイナドライバーを作る様に依頼したりしたんですか?」

「いや、それが私も彼がドライバーを作っていた事は知らなかったんだ。私がデイナドライバーの存在を知った時には既に出来ていたんだよ」

 

 結局、司がデイナドライバーを作った理由などに関しては分からず仕舞い。そして最大の問題である、傘木社にデイナドライバーの基礎設計図が渡ってしまった事への対策も思いつかずだった。

 

 この日は結局有効な対策を考え付く事も無く、後日宗吾達も交えて対策を練ると言う事になり解散となった。

 

 雄成達の目的であったデータをもう持っていない香苗は狙われる事は無いだろう。彼女は宿泊しているホテルへと戻って行った。

 別れる際、香苗は仁を優しく抱きしめた。

 

「仁……無茶はするんじゃないぞ」

「ん……分かってる」

「……亜矢さん、真矢さん。この子の事を頼む。よく無茶するから」

「はい、分かっています……私達に任せて、お義母さん」

 

 亜矢と真矢の答えに満足そうな笑みを浮かべると、最後にもう一度仁の頭を撫でて香苗は2人の前から去っていった。

 

「それじゃ、私達も帰りましょうか?」

「あ、ごめん。俺最後に教授と話しておきたい事あるから先帰っててくれる?」

「教授と? どんな?」

「ん、ちょっとね」

 

 それっきり仁は何も語らない。亜矢は首を傾げたが、あまり干渉し過ぎるのも良くないと一足先に大学を後にした。

 

 残されたのは、仁と白上教授の2人のみ。他に人が居なくなると、仁は白上教授に雄成からの伝言を伝えた。

 

「教授、雄成さんから伝言預かってます」

「雄成から?」

「はい……『お互い、順調に研究が進んでるようで何より』……って」

「それは――――!?」

 

 仁から伝えられた伝言の意味に、白上教授は何かに気付いたのか目を見開く。

 

 白上教授は何かを言おうと口を開くが、それより早くに仁が手を上げた。

 

「その事に関して、教授に頼みたい事があります」

 

 仁は白上教授に自分の考えを述べた。それを聞いていく内に、白上教授の顔がどんどん険しくなる。

 

「門守君……君は、本当にそれでいいのか?」

「はい」

 

 白上教授の問い掛けに仁は即答した。迷いなきその答えに、白上教授は観念したように息を吐いた。

 

「分かった……君がそこまで言うのなら」

「ありがとうございます。それじゃ、用事は済んだんで俺はこれで。失礼しました」

 

 踵を返し研究室から仁が退室する。

 

 残された白上教授は仁が出て行った扉をしばらく眺め、暫く経ってから何かを悔いるように力無く机に拳を叩き付けるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方傘木社では早速手に入れたデイナドライバーの基礎設計図を基にした、新たなドライバーの開発が行われていた。

 

 今までの課題であった、ベクターカートリッジ2本同時使用で最大限の能力を発揮する技術。それを取り込み、ブレイドライバーを超えるドライバーの開発が技術陣によって急ピッチで行われていた。

 

 その傍らで、雄成は専用の研究室の中で1人ベクターカートリッジの精製を行っていた。

 

 周囲には専用の機械に様々なベクターカートリッジが装填されており、ベクターカートリッジ内部の超万能細胞のデータがデータ化されている。

 雄成は珍しくスーツ姿ではなく、白衣を着た姿でその機械と繋がったパソコンのキーボードを叩いていた。

 

 雄成がキーボードを叩く速度は恐ろしいほど早く、本気を出した仁にも引けを取っていなかった。

 ディスプレイの上を猛烈な速さでデータや数列、文字がスクロールしていく。

 

 そして唐突に雄成の指の動きが止まった。彼の口からは満足そうな溜め息が零れ、視線をパソコンの隣にコードで繋がったシリンダーに向けた。

 

 シリンダーの内部には一つのベクターカートリッジが浮いている。

 

「ふふ……出来た」

 

 雄成がキーボードを操作すると、シリンダー内部の薬液が抜け取り出せるようになる。ロックが解除されたシリンダーを開け、雄成は中のベクターカートリッジを取り出した。

 

「ふふふふふ……」

 

 完成したベクターカートリッジを見て、雄成は満足そうに笑みを浮かべ起動させる。

 

〈Organism〉

 

 新たに作られたベクターカートリッジはオーガニズムベクターカートリッジ。超万能細胞にインプットしたのは、現在地球上に存在するありとあらゆる生物の遺伝子。

 つまりこのベクターカートリッジには、全ての生物の遺伝子が詰まっていた。

 

「これが、第1の鍵になる」

 

 手の中にあるベクターカートリッジを雄成は愛おしそうに撫でた。

 と、よく見ると雄成の目尻に涙が浮かんでいる事に気付く。だがこの場に居るのは彼一人。なのでその事を指摘するものは誰も居ない。

 

 誰にも指摘されないからか、雄成は目尻から零れる涙を拭いもしなかった。

 

「待っていろ、恵里(えり)……もうすぐだ。もうすぐ、お前を……」

 

 誰も居ない研究室の中に、雄成の言葉が静かに響き渡るのだった。




という訳で第43話でした。

遺伝子が絡むストーリーで、人工的に調整された遺伝子を持つ存在は欠かせないと思いプレインジーンは生まれました。プレインジーンに使われている遺伝子は、端的に言えば平成ガメラ3部作のギャオスみたいな作られ方をしています。

デイナドライバーが遺伝子を二つ使うのは、二つ使う事に意味があるからです。それが何なのかはまた後程。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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