今回は遂にS.B.C.T.が本気を出します。
その日、亜矢は研究室で白上教授の奇妙な様子を見た。
パソコンのディスプレイを見て何やら非常に難しそうな顔をしているのだ。どこか深刻そうなその様子に、ただならぬものを感じ声を掛けた。
「教授? どうかしたんですか?」
「ッ!? い、いや……何でもないよ」
声を掛けられるまで亜矢の存在に気付かなかったのか、驚いたように顔を上げた白上教授は何処か慌てた様子でパソコンのディスプレイを切った。暗くなったディスプレイから離れ、教授はラボへと向かって行く。
「私は少しラボに籠るよ。S.B.C.T.と今後の対策の為に資料を纏めないといけないからね」
そう言って教授はラボへと入っていった。研究室に残された亜矢は、違和感を感じる白上教授の姿に首を傾げた。
【……亜矢、教授のディスプレイの電源入れよう】
「(えっ!? ちょ、真矢?)」
突然の真矢の言葉に、亜矢は目を剥いた。
急いでいたのか、白上教授はパソコン自体ではなくディスプレイの電源だけを落としていた。だからディスプレイの電源を入れてやれば、先程まで教授が深刻そうな顔をして見ていたのが何なのか分かる。
だが勝手に他人のパソコンの中身を見るなど非常識だ。それに教授がディスプレイの電源だけを落としたのは、亜矢が勝手に中を見ないだろうと言う信頼もあっての事。それを裏切るような行為を、亜矢は躊躇せずにはいられない。
【亜矢や仁君には悪いけど、私あの教授をどうにも信用しきれないのよ。なんか怪しい】
「(だからって、勝手にパソコンの中を見るのは良くないって。それに怪しいって言うけど、証拠も無しに……)」
【確かに証拠は無いわ。でも怪しいって事は断言できる】
一体真矢は白上教授の何を怪しんでいるのか分からず、困惑してその場に立ち尽くした。
「(何で?)」
【あの教授、仁君の事で何か隠してることがあるわ】
真矢がここまで白上教授の事を疑うのは、以前仁がケツァルスピノフォームの暴走に悩まされていた際に小さく呟いた一言を聞いたからだ。
『――――これはもしや…………だとすると彼は――――』
亜矢は聞き逃していたが、真矢は白上教授の小さな呟きをしっかり聞いていた。
白上教授は仁の身に起きた異変について、目に見えていること以上の何かに気付いている。そしてその事を亜矢達は勿論、仁にも明かしていない。
その事が真矢の疑心を煽っていたのだ。
【もしかすると取り返しのつかない事になるかもしれない。だから亜矢、教授がさっきまで何を見てたのかを調べよう】
「(それは……でも……)」
真矢の言いたい事は分かる。あの時、亜矢も白上教授が何か呟いたのは見ていた。何を言ったのか聞いてもその場ははぐらかされてしまい、再び聞くタイミングも無かったからそのまま忘れていたが、気にならないと言えば嘘になる。
そしてその内容が仁に関する事で、ただ事では無いのなら放置する訳にはいかないのも確かだ。
だがだからと言って、仁が信頼する白上教授を自分が疑って根掘り葉掘り調べるような事をするのは、亜矢にはどうにも気が引けてしまった。
しかしやはり真矢の言う通り、白上教授が何を隠していたのかは亜矢も気になる。自身の内に湧いた好奇心と真矢に促され、気付けば白上教授の机のパソコンの前に立っていた。
罪悪感に躊躇を感じつつ、亜矢はディスプレイの電源スイッチに手を伸ばし――――――
「亜矢さん、そろそろお昼だからご飯行こう?」
「ひゃっ!?」
出し抜けに仁から声を掛けられ、驚いた亜矢は弾かれるようにディスプレイから手を離した。その様子と彼女が教授のパソコンの前に居る事に、仁は彼女は何をしていたのかと首を傾げた。
「亜矢さん? 教授の机の前で何してるの?」
「え? あ、いや、えっとその……きょ、教授の机の上、結構散らかってるな~って思って……」
「あぁ、最近色々あって忙しかったろうし、片付けてる余裕無かったのかもね」
苦し紛れの言い訳だったが、仁は特に亜矢を疑う事なく納得した様子を見せた。その事に亜矢は胸が苦しくなるのを感じた。たった今悪事を働こうとしていたのに、それを仁に隠している。仁に汚い自分を見せた事に、亜矢は嫌な思いを感じずにはいられなかった。
これ以上は無理だ。亜矢は白上教授のパソコンを見る事を諦め、仁と共に研究室を出て学食に向かった。
その道中、真矢の言葉が気になった亜矢は仁に最近異変がないか訊ねてみた。
「そう言えば仁くんは大丈夫ですか? その……変な感じがしたりとか?」
「何それ?」
「いえ、その……ほら、最近一番大変だったのは仁くんじゃないですか? 人間緊張が解れた瞬間が一番体調を崩しやすいですし、最近の疲れとか一気に出てきたんじゃないかなって」
本当は、もっと突っ込んだことを聞きたかった。体調が悪いとかそんなレベルじゃなく、体に何か異変が起こっていないかと聞いておきたかった。
だが何だか聞いてはいけないような気がして、具体的に訊ねる事は出来ないでいた。訊ねる事で、何かに引き金を引いてしまうのではとありもしない事を想像してしまったのだ。
そんな亜矢の内心に気付いているのかいないのか、仁は亜矢の頭を優しく撫でた。
「ありがと、心配してくれて……でもま、俺は大丈夫だから。体にも特に異変は無いし」
微笑みながら言う仁ではあるが、その割には何だか変に汗ばんでいる。確かに残暑はあるが、今日はどちらかと言うと過ごしやすい方だ。事実年中露出の少ない服装をしている亜矢も、今日は特に暑さを感じる事無く過ごせている。
「本当ですか、仁くん? 何だか変に汗ばんでるように見えますけど?」
「ん? そう?」
「はい」
亜矢の指摘に、仁は額や首周りを手の甲で拭う。じっとりとした汗の感触に、仁は視線を明後日の方に向けると手の甲に付いた汗をジーパンで適当に拭った。
「……最近暑かったのに急に涼しくなったから、体が涼しさになれてないだけかもね」
「本当にそうですか? もし何処か体調が優れないなら、早めに帰って休んだ方が良いんじゃ?」
「でも別に体調は悪くないし、へっちゃらだよ」
「う~ん……」
仁の返答に、それでも彼の体調の異変を疑う亜矢は徐に彼の頭を引き寄せ自身の額と彼の額を触れ合わせた。
「…………うん、確かに熱は無いみたいですね」
「でしょ?」
【あ~、亜矢? 場所分かってる?】
「へ?」
真矢の言葉に亜矢がふと周りを見ると、多くの学生達の視線が2人に刺さっていた。ここは家でも無ければ研究室やラボでもない。そんなところで、こんな恋人同士の距離の近さを披露すればそりゃ注目される。それも大学一の変人と大学のマドンナのイチャ付きなら尚更だ。
一応少し前に海に行った時の一件(*番外編参照)で2人が恋人同士である事は学生達の間では周知の事実となっている為騒ぎにはならない。ならないが、それでも2人がイチャつけば嫌でも注目を集める。
特に未だ恋人の居ない者や、まだ亜矢の事を諦めていない者なんかは特にだ。
途端に亜矢は自分がとんでもなくはしたない事をした事に気付き、恥ずかしくて顔を真っ赤にさせ俯いた。額には変な汗が浮かび、先程の仁以上に汗ばんでいる。
「亜矢さん、汗ばんでるみたいだけど大丈夫? 体調悪いなら早めに帰って休んだ方が良いんじゃない?」
「うぅ~……仁くん、分かってるくせに……」
分かってて仁が揶揄うと、亜矢が顔を赤くして上目遣いになりながら恨み言を呟く。そんな亜矢の様子に、仁はちょっぴり満足そうな顔をした。気付けば彼の体から汗は引いていた。
「俺の汗は引いたみたい……新陳代謝がちょっと乱れてたのかな?」
「それ、大丈夫なんですか?」
「一時的なものだから大丈夫」
「何でそう言い切れるんです?」
「ん?…………勘」
端的に述べて仁はさっさと先へ行ってしまった。まるでこれ以上この話題を続けないようにしているかのようだ。
やっぱり何かおかしい。まだ顔を少し赤くしながらも、仁の様子に亜矢は違和感を感じずにはいられなかった。
亜矢の疑心に気付いているのか、仁はそそくさと学食へと入っていくので亜矢は慌ててその後に続いた。
学食に入り、それぞれ料理を手に席に着く2人。
仁は軽く口と喉を潤そうと、コップに注いだ水を一口飲んだ。
瞬間、軽く咽てコップから口を離した。
「ッ!? ねぇ亜矢さん、今日の水なんか変じゃない?」
「え? 変?」
「何か変に苦いって言うか……」
まさかと思い亜矢もコップに水を注いで一口飲んでみる。だが言うほど苦さとかは感じず、至って普通の水であった。
「……別に何も感じませんけど?」
「そう? ん~……」
もう一度仁はゆっくり味わう様に水を口に含んだ。ソムリエがワインを品定めするように水を舌の上で転がし、ゆっくりと嚥下しているのが傍から見ている亜矢にも分かった。
「仁くん、本当に大丈夫なんですか? 今日何だかおかしいですよ?」
心の底から心配する亜矢に、仁は数秒目を泳がせると溜め息を一つ付き、困ったような笑みを浮かべて見せた。
「……ごめん、心配させちゃって。でも大丈夫だよ」
「でも……」
「大丈夫大丈夫。ほら、早く食べちゃお」
仁はかき込むように昼食を食べ始めた。誤魔化された事を自覚しつつも、正体の分からない違和感を相手にこれ以上追及する事は出来ないと諦め亜矢も大人しく昼食を食べ始めるのだった。
***
結局その日は、特にそれ以上何かが起こる事も無く終わった。あれ以降仁の身に何か異変の様な物が見られる事も無く、またファッジの出現により卒論研究が中断させられる事も無く平和な一日が過ぎた。
「それじゃ、お先に失礼します」
「お疲れ様でした」
「うん。2人共、お疲れ様」
仁と亜矢は揃って研究室を出て帰路へとつく。一緒に大学の敷地内を歩きながら、亜矢は仁に話し掛けた。
「仁くん。今日、仁くんの家に泊っても良いですか?」
「ん、いいよ」
そうと決まれば夕飯の買い出しだ。どうせ仁の事だから、そろそろ冷蔵庫の中も碌な物が残っていないに違いない。
定期的に彼の家に上がり込んで、食事の管理をしなければ。
………………と言うのは建前であって、本心は昼近くの仁の異変が再び起こるのではないかと危惧しての事である。
仁は何でもないと言っていたが、それでもやはり心配にはなる。もしかしたら仁自身の自覚症状が少ないだけで、本当はもっと深刻な事――尤も仁自身何かに気付いている節は見られたのでそこは杞憂だと真矢は睨んでいる――になっているかもしれなかった。
仁の運転するトランスポゾンに2人で乗り、一路スーパーへと向かう。日が短くなってきたからか、既に茜色に染まりつつある空の下を2人の乗るトランスポゾンが駆け抜ける。道には2人の様に帰路についているのだろう、バスに乗っている学生やサラリーマンの姿も見えた。
何気ない日常。しかしそれは唐突に破られた。
出し抜けに2人の眼前の道路が吹き飛び、黒煙が辺りに立ち込めたのだ。
「「ッ!?」」
慌ててブレーキを掛ける仁。他の一般車両も同様に突然の爆発にハンドルを切ったりブレーキを踏んだりしたが、通行量が多くなる時間帯での出来事だからか急停車した車に別の車が追突したり、ハンドルを切ってそのままビルや電柱に衝突する車や、ブレーキとハンドル操作を同時に行い横転する車も少なくない。
その中には先程ちらっと見たバスもあった。多くの乗客、取り分け学生や子連れの主婦なんかを乗せたバスが、2人が見ている前で横転しようとしている。
それを見た瞬間、2人はデイナドライバーを腰に装着した。
「亜矢さん」
「はい!」
〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉
〈CAT Unite〉
「「変身!」」
〈〈Open the door〉〉
2人はデイナとルーナに変身し、バスの倒れてくる側に回り込むと同時に下からバスの天井部分に飛び蹴りを叩き込んだ。加減して放たれた飛び蹴りは倒れそうになるバスを立たせ、横転する事を未然に防いだ。派手に揺れはしただろうがそこは御愛嬌だ。
「大丈夫?」
デイナはバスの横転を防ぐと、運転席に駆け寄り窓から運転手に声を掛けた。運転手はまだ頭が混乱しているのか、半分呆けながらも頷いて答えた。
「は、はぁ、はい」
「早くここから離れて。今よりもっと危なくなるから」
デイナの言葉に運転手は小刻みに頷くと、バスをUターンさせてその場を離れていく。ルーナはその間にまだ無事な車に呼び掛け、同様にこの場から退避させた。
2人は察していた。ここはこれから戦場になる。今の爆発は事故ではなく人為的なものだ。
それを証明するかのように、上空から赤と青の衝撃が飛来する。翅を広げたレッドインパクトとブルーインパクトが、吹き飛んで開いた道路の穴の縁に着地した。
「待っていたぞ、仮面ライダー」
「今日がお前達の最期だ」
2人の言葉を合図に、傘木保安警察の隊員達が周囲から姿を現しデイナとルーナに銃口を向ける。明らかに危険な連中の出現に、まだ自力で動ける人達は悲鳴を上げてその場から逃げていった。
多くの人々は自力で逃げてくれたが、まだ安心はできない。今し方の混乱で怪我をし、倒れている人や車中に取り残されている人達が少なからずいる。彼らが居る以上、派手な戦闘をする訳にはいかなかった。
そんな2人の懸念など知った事かと言わんばかりに、傘木社の連中は徐々に包囲の輪を狭めていく。今にも発砲しそうな雰囲気だ。
「お前らさぁ……もうちょっと場所選ぶってことできないの?」
「こんな人の往来のある中で襲うなんて……」
デイナは呆れて溜め息を吐き、ルーナは言葉の端に怒りを滲ませた。
それはある意味で余裕の表れでもあった。複数の敵に囲まれながら、しかし自分たち以外の人達の事を心配する事が出来るのだから。
そんな余裕を、レッドインパクトは鼻で笑った。
「ふん! 余裕を見せていられるのも今の内だ」
「おい」
ブルーインパクトが合図をすると、保安警察の隊員達がベクターカートリッジを取り出した。今更アントファッジなど……と思ったデイナだが、よく見ると彼らが持っているベクターカートリッジは何時ものとは異なっている事に気付いた。
「あれは……?」
デイナが目を凝らす前で、隊員達はベクターカートリッジを起動状態にした。
〈Velociraptor〉
「ッ!? まさか?」
起動したベクターカートリッジから聞こえてきた音声にデイナが目を剥いていると、保安警察の隊員達はベクターカートリッジを自らに挿入した。
そして変異した隊員達は、普段見るアントファッジではなく別のファッジの姿になった。トカゲの様な顔に羽毛が生え、足には親指部分に湾曲した鉤爪が生える。
それは間違ってもアントファッジではない。それどころか、現代の生物の遺伝子すら使ってはいなかった。
「恐竜ファッジ!? 量産型の!?」
「ヴェロキラプトルか……」
ヴェロキラプトル……某映画で有名になった恐竜の一種である。頭蓋骨が大きく脳の容量が多かった為、非常に頭が良く獰猛で危険な肉食恐竜として一般には認知されていた。
しかしそれは実は間違いであり、映画でモデルにされたのはデイノニクスと言う恐竜の方である。
実際のヴェロキラプトルはそれよりもずっと小さく、体高は精々人の股下程度の高さしかない。また頭蓋骨の化石から体の大きさに対して大きな頭脳を持っていた事は確実だろうが、発見された化石の中には集団で狩りを行ったとされるものは発見されていない。
これだけ聞くと、映画は能力を盛っただけで実際は大した事ないかのように見える。だがそれも所詮は化石から得た推測であり、実際のヴェロキラプトルがどんな恐竜であったかは分からない。もしかすると発見されていないだけで高い社会性を持った事を証明する化石が今後見つかるかもしれないし、実際にヴェロキラプトルが生息していた時代には他の恐竜たちから恐れられた存在と言う可能性も否定できるものではないのだ。
しかしこの場で何よりも問題なのは、ただでさえ強力な恐竜ベクターカートリッジが量産されているという点だ。今2人の周りを囲んでいるのは簡単に倒せる雑魚ではなく、厄介な敵である。その認識は持つべきだろう。
「不味いかな、仁君?」
「ビビる必要は無いよ。恐竜ファッジって言ったってあれは多分性能を落とした量産仕様、今まで相手にしてきた恐竜ファッジよりはやりやすい筈さ。精々ちょっと前の普通のファッジレベルだよ」
要はピラニアファッジやマンティスファッジが群れでやってくる様な物と言う事か。それはそれで厄介な気がするが、今の2人は以前に比べて扱うライダーシステムの性能は勿論、変身している本人の能力も格段に向上している。今の2人がタイムスリップなどをして過去に戻りあの頃のファッジと戦えば、苦も無く倒す事が出来るだろう。
そう思うと、2人を取り囲んでいるヴェロキラプトルファッジも大した事ないように思えた。
徐々に迫ってくるヴェロキラプトルファッジ達を前に、デイナとルーナは背中合わせになって身構えた。
その時、数台の大型トレーラーが2人を取り囲んでいるヴェロキラプトルファッジ達の輪から数メートル離れた所に停車した。よく見るとそのトレーラーには警察のマークとS.B.C.T.と言う文字が描かれている。この騒ぎに、S.B.C.T.が出動してくれたのだ。
だが彼らの移動車両が何時もと違う。普段彼らが移動に使うのはもっと小型のSUVだ。
もしや何か新兵器でも載せているのか? デイナとルーナが注目していると、トレーラーのコンテナ部分から驚くべきものが姿を現した。
「あれは……スコープ?」
「でも見た目が大分違います」
コンテナから出てきたのは一見するとスコープの様だが、よくよく見ると各部が大分違う。
カラーリングは光沢を抑えた群青色だし、顔もスリットの様なバイザーと額に単眼のレンズがついただけのものとなっている。
顔の違いもあるが、何よりもスコープとして異質なのがベルトの形状である。非常に簡素なものとなっており、最大の特徴であるプレートの挿入口とハンドルが存在しない。
それは遂に量産化に成功した、スコープ量産仕様――通称ライトスコープであった。
傘木社のファッジに対抗する為の量産型ライダーシステムが、遂にロールアウトしたのだ。
ライトスコープを身に纏ったS.B.C.T.隊員達は、トレーラーから次々と姿を現すとヴェロキラプトルファッジ達に銃口を向けた。そして最後に、宗吾が変身したスコープ1号と銅色のスコープ2号がトレーラーから降りてくる。
「A小隊は仮面ライダーの援護、B小隊は逃げ遅れた民間人の避難誘導だ! 行動開始!」
スコープ1号の指示を受け、ライトスコープ達は一斉に行動を開始した。半分は発砲しながらヴェロキラプトルファッジに突撃していき、半分は半壊した車等の中から怪我などで動けない民間人を救出し避難を手助けしている。
ライトスコープの戦闘力は、量産仕様と言う割には非常に優れていた。同じ量産仕様とは言え、恐竜ベクターカートリッジを使用しているヴェロキラプトルファッジと1対1で互角の戦いが出来ているのだ。ライトスコープ採用以前から使用されてきたガンマカービンによる銃撃戦は勿論、複合武装であるボルテックスシールドの代わりに装備している折り畳み式の短剣『ガンマソード』による接近戦までもこなしていた。
この事態に狼狽えたのはレッドインパクト達だ。今までスコープを除けば烏合の衆同然だった筈のS.B.C.T.が、これほどの力を付けてきたのだから。傘木保安警察の隊員も戦いの素人ではないが、組織立った戦闘ではS.B.C.T.の方に分があるのか押されている。
この状況にデイナとルーナは顔を見合わせ頷き合った。頼もしい味方が来て、敵の大半を引き付けてくれたのだ。
ならば、彼らがやるべきことはこの場で一番厄介な敵の相手に他ならない。
「……形勢逆転だね」
「今日は、倒します!」
「「ちぃ、調子に乗るな!?」」
レッドインパクトとブルーインパクトは飛翔し一気に2人に接近していく。高速で接近してくる2人だったが、ユナイトとなったルーナにはその動きが手に取るように分かった。
「そこよッ!」
ルーナはリプレッサーショットⅡを使い、銃剣モードのベクターリーダーで斬りかかってきたレッドインパクト達を銃身下部の刃で逆に切り裂き体勢を崩させる。2人の体勢が崩れた所で、デイナが翼を広げそれで2人を地面に叩き落とした。
「はい、いらっしゃい」
「ぐはっ!?」
「うぐぅっ!?」
2人して地面に叩き落とされ、苦悶の声を上げる2人にデイナとルーナは畳み掛けた。
この2人の厄介な所は優れた連携と速度だ。ならばそれを封じてしまえば、こいつらは何も怖くない。
デイナがレッドインパクトを、ルーナがブルーインパクトを相手に戦う。彼らほどではなくとも優れた飛翔能力を持つデイナは空中に逃げるレッドインパクトを逃がさず、反応速度に優れるルーナはブルーインパクトの攻撃を全て躱し反撃を叩き込んでいた。
「くそっ!? 何故だ? 何故俺達兄弟が追い詰められる!?」
「お前達は特別じゃなかったって事だよ」
狼狽えながらも高速で空中を飛び回り、四方八方から同じく空中に飛んだデイナにレッドインパクトが攻撃を仕掛ける。デイナはレッドインパクトの攻撃を耐え、一瞬の隙を突き強烈な拳や蹴りを叩き込み最後には踵落としで再び地面とキスさせた。
「負けて堪るか!? 俺は、俺達は特別なんだ!?」
「アンタ達、2人で1人なんでしょ? なら2人に分けられたらそれ半人前って事じゃない。最初から2人で1人の私と亜矢に勝てる訳ないでしょうが!」
何度も高速で接近して攻撃してくるブルーインパクトを、ルーナはすれ違いざまに防御しつつリプレッサーショットⅡの銃撃をお見舞いする。動きが早いので一瞬の交錯で一発しか叩き込めないが、それが何度も続けば蓄積したダメージは相手の動きを確実に鈍くさせる。
何度かの交錯の末に、目に見えて動きが遅くなったブルーインパクトをルーナはローリングソバットで蹴り飛ばした。その先には、デイナにより地面に叩き落とされたレッドインパクトが居る。デイナに叩き落されたダメージから回復しきれていないレッドインパクトは、蹴り飛ばされてくるブルーインパクトを避ける事が出来ず激突し再び地面に倒された。
「ぐはぁっ?!」
「ぐぐ、うぅ……」
デイナとルーナの攻撃にボロボロの2人。これでは得意の連携攻撃も出来ないだろう。最早勝敗は明らかであった。
「どうする? まだやる?」
「もうあなた達2人に、勝ち目はありませんよ」
洗脳されている相手には無駄と分かりつつ、それでも降伏勧告を行ってみる。もしかするとこの状況で降参するだけの利口さは残っているかもしれなかった。
だが結果は予想通りで、2人はベクターリーダーを手に抵抗の意思を見せた。
「ふざけるな……負けを認めようものなら、それこそ会社に殺される」
「勝てないならせめて、お前達との戦闘データを持ち帰るまでの話だ」
2人はデイナとルーナに向けて銃撃した。ボロボロでふら付いているからか狙いは正確ではなく、殆どは2人の周りを穿つだけで偶に当たりそうになる奴も簡単に防ぐか避ける事が出来た。
尚も抵抗を続けるレッドインパクト達に、寧ろ憐れみを覚えたデイナはせめて引導を渡してやろうとトドメの一撃を放った。
「亜矢さん、援護宜しく」
「はい!」
一撃で勝負を決めるべく、デイナは飛翔しレセプタースロットルを引く。その間にレッドインパクト達にはルーナが銃撃で対抗し狙いをデイナから逸らした。
〈ATP Burst〉
「ハァァァァッ!」
ルーナの援護を受けながら放たれたノックアウトクラッシュ。空中から放たれた両脚蹴りは、レッドインパクトとブルーインパクトを纏めて蹴り飛ばそうとしたが、ここで彼らは予想外の動きをした。
デイナのノックアウトクラッシュが2人に直撃する寸前、ブルーインパクトが前に出てレッドインパクトを庇ったのだ。
「あ……」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
1人でデイナの必殺技を喰らったブルーインパクトは爆発四散し、変身が解けたソニック兄弟の片割れは隠蔽処置により火達磨となった。
その光景に一瞬呆気に取られている間に、レッドインパクトが空へと逃げた。彼らはどちらか片方が犠牲となっても、デイナとルーナの戦闘データを持ち帰ろうとしたのだ。
「逃がすか」
逃げようとするレッドインパクトを追おうと翼を広げるデイナだったが、ヴェロキラプトルファッジを殲滅し終えたS.B.C.T.の動きの方が早かった。
「隊長! 最後の敵が空へ逃げます!」
「逃がすな! 撃ち落とせ!」
地上からのライトスコープ達の一斉射撃が空中のレッドインパクトを襲う。デイナ達の攻撃で体力を消耗したレッドインパクトは、加速するのに時間が掛かり逃げる前にS.B.C.T.の十字砲火の餌食となってしまった。無数の銃弾が装甲を抉り、背中の翅は全て穴だらけとなって千切れ彼は再び地上へと落下していった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
悲鳴を上げながら落下するレッドインパクトは、空中で変身が解除され更にそのまま燃え上がった。ソニック兄弟の残りの片割れは火の玉となって地面に落下し、地面に叩きつけられ焼死するよりも先に落下死するのだった。
事切れたソニック兄弟を、変身を解除した仁と亜矢が静かに見ている。敵ではあったが、彼らは同時に傘木社の狂気の犠牲者でもあった。亜矢は苦しめられた相手だが、それでも憐れに思わずにはいられない。
「……何時まで続くんでしょうね?」
ふとした疑問を亜矢が口にした。命を奪い合い、無関係な人達が巻き込まれる苦しい戦い。こんなもの、一体何時まで続くと言うのか。
抱いて然るべき疑問を口にした亜矢の肩を、隣に立つ仁が優しく抱いた。
「正確には分からないよ。でもそんなに長くはないと思う」
振り返れば、戦闘後の処理を行うライトスコープ達。その中から変身解除した宗吾が2人に近付いて来ている。
傘木社とは決して2人だけで戦っている訳ではない。それを実感させる光景に、仁は頼もしさを感じると同時にこの戦いの流れが変わった事を感じずにはいられないのだった。
その光景を遠くから見ている者達が居た。アデニンと希美、そして雄成の3人である。
3人は現場から遠く離れたビルの屋上から、特に仁と亜矢の2人を双眼鏡で見ていた。
「…………ソニック兄弟がやられたか。アメリカの方じゃ評価が高かったみたいだが、存外大した事なかったな」
「あんなもんでしょ。寧ろ長く持った方よ」
アデニンと希美が思い思いに感想を口にするのに対し、雄成は只管仁の事を観察していた。
「フフフ……もう少し揉んでやる必要がありそうだね」
そう呟くと、雄成は双眼鏡を下ろしポケットから二つのベクターカートリッジを取り出した。
「楽しみだよ、君が熟す瞬間がね」
ウキウキとした様子で1人呟く雄成を、希美が冷めた目で見つめていたのだった。
という訳で第44話でした。
遂に待ちに待った量産型スコープの登場です。宗吾のスコープが『変身』するのに対し、量産型のライトスコープはG3ユニットよろしく『装着』する事で戦います。本家スコープで出来る事の多くは出来ませんが、高コストな機能の大部分をオミットする事で生産性を大幅に向上し簡易に戦力を揃えることが容易となっています。
因みに装備の一つである短剣ガンマソードはコードギアスR2に登場するナイトメアフレーム・暁の折り畳み式の剣が元ネタです。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。