今回は新キャラが登場します。
遂にS.B.C.T.の正式な装備として量産型のライトスコープが配備された。
それからと言うもの、今までにないほどの頻度で傘木社の息が掛かった施設などへの検挙が行われた。
企業・工場・場合には集合住宅など、一応は秘密裏に組織された部隊だと言うのに、その存在が民衆の間で周知されるほどの活躍を彼らは行っていた。
そのS.B.C.T.による傘木社への攻勢には、仁と亜矢も加わっていた。今までとは違い、攻めるべき箇所が多すぎたのだ。なので、足りない戦力を補う為の意味でも、仮面ライダーとしてファッジとの戦いではベテランと言って良い2人に声が掛かった。
「はっ」
「ヤァッ!」
デイナ・ケツァルスピノフォームとルーナ・ユナイトがS.B.C.T.の部隊の一つと行動を共にし、とある工場を隠れ蓑にしたファッジの実験場を襲撃していた。最早当たり前のように出てくる恐竜ファッジ達。雑魚である傘木保安警察の隊員すら恐竜ファッジであるヴェロキラプトルファッジとなって向かってくる。
それをデイナとルーナを中核としたライトスコープの部隊が相手をする。最初の頃に比べれば圧倒的に中も外も強化されたデイナとルーナ、そしてただでさえ訓練を受けた上に戦う相手に見合う装備を手に入れたS.B.C.T.には、恐竜ファッジと言えども相手にはならなかった。
「ふぅ……終わったか」
デイナとルーナの活躍もあって、この工場での戦いも勝利する事が出来た。この部隊を任されている慎司が、戦闘終了後に感謝と労いの言葉を掛ける。
「ありがとうございます。今回も、お2人のお陰で大きな被害も無く終われました」
「いえ、お力になれて幸いです」
「じゃ、後は任せます」
事後処理などをS.B.C.T.に任せ、仁と亜矢は大学へと戻った。
「はぁ~~……」
大学に戻り、研究室に入るなり仁は多目的スペースのソファーに深く腰掛け深く息を吐いた。その様子には目に見えて分かるほどの疲労が浮かんでいる。
「仁くん、大丈夫ですか?」
「ん? うん……ちょっと疲れただけだから」
「最近ずっとそうじゃない? 戦った後は毎回そんな感じで……」
真矢が指摘する通り、ここ最近仁は戦闘が終わると毎回疲労を露にしていた。
それ自体は決しておかしい事ではない。戦闘はそれだけ体力を使う事だし、亜矢だって戦いの後は疲れた様子を見せる。だが仁のそれは、以前までに比べて明らかに疲労の溜まり具合が違っていた。
少し前なら、戦った後でも研究室に戻ればそのまま卒論研究に戻っていた筈なのに…………。
「もし体調が悪いんでしたら、あまり無理せず休んでくれてもいいんですよ?」
「ん~、いや。大丈夫だよ。確かに最近ちょっと疲れてるけど、少し休めばすぐ良くなるから」
そう言って仁は再び深い溜め息を吐く。その様子を見て、亜矢は小さく息を吐くと仁の隣に腰掛け、彼を半ば無理矢理引っ張り倒して自分の膝の上に彼の頭を乗っけさせた。
「んん? ん?」
「……ならせめて、少しでもいいから寝てください。それ位の時間なら私の膝を貸しますから」
「ん、でも……」
「一番頑張ってるのは仁君でしょ? これ位で文句言う人は居ないし、私達が言わせないわ。だから今はとにかく休んで頂戴」
一瞬渋る仁ではあったが、疲労と亜矢の膝には勝てなかったのか静かに意識を手放し眠りに落ちていった。
仁が規則正しい寝息を立て始めたのを見ると、亜矢は彼に優しい笑みを向け頭を撫でると片手で携帯を操作して電話を掛けた。その相手は、S.B.C.T.の宗吾だ。
「もしもし? 権藤さんですか?」
『どうした? 何かあったのか?』
「いえ、大した事ではありません。ただ、一つお願いがあって」
『何かな?』
「次にファッジが出て私達の力が欲しいってなった時、仁君じゃなくて私達に連絡して欲しいの」
亜矢と真矢は、最近仁が変に疲れている事などを告げた。ここ最近は出ずっぱりとなっている事を、宗吾の方でも理解しているからか彼女の言いたい事を理解し快く了解した。
『分かった。次に君達の力が必要になったら君の方に連絡する』
「ありがとうございます。それじゃ」
亜矢は通話を終えると、携帯を仕舞い再び視線を下に降ろした。仁は依然として眠っていて、亜矢が今し方宗吾にした話などまるで気付いていない。
穏やかな笑みで眠る仁の頭を、亜矢が慈愛に満ちた目をしながら撫でた。
「……本当に、何時も無茶するんですから。……とにかく今は休んで、ね」
彼女の言葉が夢現に届いたのか、それとも彼女の膝枕の寝心地が良いからか、仁は亜矢と真矢に頭を撫でられて穏やかな溜め息を吐くのだった。
***
傘木社の特別研究区画に昼夜の区別はない。研究員は交代で絶えず研究に励んでいる。特に今は、手に入れたデイナドライバーの基礎設計図を基にした新たなドライバーの開発が行われているのだ。力の入り方が尋常ではない。
その様子を雄成がモニターで満足そうに見ている。あれが完成すれば、彼の野望の達成にまた一歩近づく。そして完成はもう間近だ。
研究員達の奮闘を横目で観察――若しくは監視――しつつ、雄成本人は別の事をしていた。
彼の手元のノートパソコンには、ここ最近のデイナ……仁の戦いの様子が映し出されている。
様々な映像の中で、デイナは様々なファッジと戦っている。大体はケツァルスピノフォームを使用しての戦闘だが、時には通常フォームで戦闘している場面もあった。
「もう一息……と言ったところか。次は何処を教えてやろうか……いや、新たに用意するのも良いな」
ここ最近、矢鱈と戦闘が多いのは雄成がS.B.C.T.に情報をリークしているからだ。戦闘の頻度が高くなれば、S.B.C.T.だけでは手が足りなくなりデイナの出番が多くなる。
雄成はとにかく仁を戦わせたくて、自分の息のかかった施設の情報を敢えて教えていたのだ。時には戦力を増加してやり、簡単には落ちないように調整したりもした。
末端とは言え配下の者が命を散らす事に対し、雄成の心は欠片も痛まない。彼にとって他人の命などはその程度のものだった。
さて、次は誰を生贄にしようか……そんな事を考えていた雄成はふと、ソニック兄弟と一緒に送られてきた被検体の事を思い出した。安定した能力を与えられた彼らと異なり、その被検体達は性能が安定せず失敗作の判を押されはしたが、能力自体は目を見張るものがあるのでこちらで評価試験などに役立てて欲しいとの事。
送られた資料に目を通し、雄成はその被検体達に興味を抱いた。
「ほぉ? これはなかなか、面白いじゃないか。どれ、ちょっとテストしてみよう。相手は……グアニンでいいか」
雄成は軽い気持ちでグアニンに部下を連れて訓練ブースへ来るよう命じた。詳細は伝えず、完全武装で来させる。
雄成の指示から程なくして、グアニンは直轄の部下と共に訓練ブースへと向かった。突然の命令に、グアニンも彼の部下達も些か困惑を隠せない。
「グアニン様。社長は何故我々をここに?」
「私も詳しい事は聞かされていません。ただ完全武装でここに呼んだと言う事は、何かの性能試験でしょうが……」
部下と雄成の真意についてグアニンが話し合っていると、彼らが入ってきたのとは別の扉が開いた。
一瞬雄成が入って来たのかと思ったグアニンだが、入ってきたのが恐らくは10代後半だろう少女だと言う事に気付き怪訝な顔になる。年齢もそうだが、服装もだ。少女は少し前まで希美が着せられていた囚人服の様なものを着せられていたのである。この場において、あの服装をしている者は実験動物である事を意味していた。
もしや、あの少女と戦えと言う事か? グアニンが雄成の意図を予想していると、ブース内のスピーカーから雄成の声が発せられた。
『やぁグアニン。突然ここに呼び出してすまないね』
「いえ、問題はありません。それで、私達は……あの、少女と?」
グアニンがスピーカーからの声に応えながら少女を見ると、少女はビクリと体を震わせる。とてもではないが、自分たち全員を相手に戦えそうには見えない。
だが雄成はやらせるつもりの様だった。
『その通りだ。君らには彼女と戦ってもらうよ』
「それは構いませんが、あの少女は何なのですか? 私は見た事がありませんが?」
『彼女は先日ソニック兄弟と一緒に送られてきた被検体だよ。尤も、アメリカの支社からは失敗作の烙印を押されてはいるがね』
失敗作という言葉に、背後の部下達から失笑が漏れた。今の彼らは全員が新型のヴェロキラプトルファッジとなれる。アントファッジとは比べ物にならない性能のファッジに加え、ベクターリーダーを与えられたグアニンを相手にたった1人で戦わされると言うのだから。
「本当にやってしまって構わないのですか? 正直に言って、殺さない自信はありませんよ?」
『寧ろ殺す気で行った方が良いだろう。何、難しく考えないでくれ』
そうは言われても、やはり少女に対する違和感は拭えない。とてもではないが脅威とは思えないからだ。現に今も、体調が悪いのか明らかに緊張とは違う汗をかいて苦しそうに息をしている。あんなのと戦って何が分かると言うのか。
『さ、そろそろ始めてくれ。えっと、名前は……リリィだったか? 始めるんだ』
「…………」
〈POISONOUS Creature〉
少女――リリィはベクターカートリッジを取り出し起動状態にした。そのベクターカートリッジが良く知るものとは異なり、内部のシリンダーだけでなく外観までもが毒々しい紫色をしていた。
だがそれ以上に気になるのが、カートリッジの起動音だ。それは特定の生物を示していなかった。
「ポイゾノースクリーチャー? 毒生物か?」
訝しむグアニンの前で、リリィはベクターカートリッジを自らの鎖骨の部分に押し当て挿入した。彼女の体に潜り込んだベクターカートリッジから注入される超万能細胞が、彼女の体を大きく変異させていく。
「うっ!? あ、あぁぁ――」
体が変異するにつれ、リリィは苦しそうに喘ぐ。だが苦悶の声は、変異が終わる頃には咆哮へと変化していた。
「グルルルル……シャァァァァッ!!」
リリィが変異したファッジは奇妙の一言に尽きる見た目をしていた。全身を甲殻で覆われており、両手には鋭い爪、腰の後ろからはサソリの尾の様なものを伸ばしている。だが尾の先端にあるのはサソリの物ではなく蜂の腹と毒針だった。
そしてファッジが声を上げる時、顔の甲殻が動き中には蛇の様な鋭い牙が姿を見せる。
「何だ、あれは? キメラファッジ? だがカートリッジ1本で?」
「シャァァァァァッ!!」
「くっ!?」
リリィの変異したファッジ――有毒生物の遺伝子をかき集めた人造遺伝子からなるトクシックファッジ――は、開始の合図を待たずにグアニン達に襲い掛かってきた。
グアニンは咄嗟にベクターリーダーによる銃撃でファッジを牽制しつつ、シーアーチンベクターカートリッジを取り出した。
〈Sea urchin Leading〉
「進生!」
〈Transcription〉
グアニンがダークスティンガーに変身すると同時に、部下達もヴェロキラプトルファッジに変異する。
部下のヴェロキラプトルファッジ達は変異すると素早くダークスティンガーの前に展開し弾幕を張る。
放たれる無数の弾丸を、トクシックファッジは強固な甲殻と素早い動きで最低限の被弾で済ませて接近した。接近を許してしまったヴェロキラプトルファッジが、銃剣で迎え撃つ。
「シャッ!」
振り下ろされた銃剣を、トクシックファッジは素早い動きで回避した。そしてお返しとばかりに、尻尾の先端の毒針を片方のヴェロキラプトルファッジに突き刺した。毒針から猛毒がヴェロキラプトルファッジに注入される。
「あが、がぁぁぁ……」
毒針で刺されたヴェロキラプトルファッジは、苦悶の声を上げながら体を崩れさせていく。猛毒がヴェロキラプトルファッジの体組織を破壊し、肉体を崩壊させているのだ。下級に位置するとは言え、人間と比べ強靭な肉体を持つファッジの体を崩壊させるほどの猛毒。どれほど恐ろしいかは想像するに難くない。
「こ、こいつ!?」
隣に居た仲間を殺され、近くに居たファッジが至近距離からの銃撃を浴びせる。放たれる銃弾はトクシックファッジの甲殻を僅かだが削り取った。だがトクシックファッジは銃撃を気にせず、ヴェロキラプトルファッジに接近し両手の爪で切り裂いた。
「ぎゃぁぁぁぁっ!?」
切り裂かれたファッジが断末魔の悲鳴を上げて崩れ落ちる。あの爪にも猛毒があるらしい。いや、尻尾と爪だけでなく、口から垂らす涎も床を溶かしている。あれも猛毒の様だ。
「全身隈なく猛毒だと? とんでもない奴だな」
「シャァァァァッ!」
トクシックファッジは他のファッジ達も始末すべく襲い掛かる。見た目に反して素早いトクシックファッジにはなかなか銃撃が当たらず、悉く交わされては接近され爪や尻尾、牙で殺されていく。しかもその攻撃はどれも彼らにとって即死攻撃。喰らえば即座に肉体を崩壊させる、死神の一撃だ。
最初相手が少女1人と侮っていたヴェロキラプトルファッジは、今や悲鳴を上げながら1人また1人と狩られる獲物と化していた。
このままでは全滅は必須だと、彼らは戦法を変えた。とにかく接近を許さず密集してからの一斉射撃で確実に倒そうと言う戦法に切り替えたのだ。
只管距離を取って遠距離からの銃撃でトクシックファッジを釘付けにするヴェロキラプトルファッジ達。
するとトクシックファッジも新たな攻撃で対抗した。両腕で頭を守りながら、その場でヴェロキラプトルファッジが居る方に向け尻尾を振るう。すると尻尾の先端の毒針から毒液が撒き散らされ、ヴェロキラプトルファッジ達に降りかかる。
その瞬間、まだ生き残っているヴェロキラプトルファッジ達の口から一斉に悲鳴が上がった。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
トクシックファッジは爪や牙から毒液を流し込むだけではなく、撒き散らす事も出来るのだ。
実際、スズメバチやコブラなど毒液を敵に向け飛ばす生物はいる。なのでトクシックファッジが出来ても不思議ではない。問題なのはその毒の威力だ。肉体だけでなく装備や床、壁なども腐食させるなど、生物の毒としてあり得ない溶解力である。
これで残るはダークスティンガーだけとなってしまった。ヴェロキラプトルファッジ達が全滅するまで、僅か数分。幾ら相手が下級ファッジとは言え、この時間で彼らを殲滅してしまったトクシックファッジはリーダーどころかブレスもない頃のグアニン達幹部に匹敵する戦闘力の持ち主だ。
油断すると命取りになる。ダークスティンガーは危機を察して、初手から全力でトクシックファッジとの戦闘に臨んだ。
「くっ!」
まずあのファッジ相手に接近戦は非常に危険だ。どの攻撃も下級ファッジ相手であれば即死級の威力を持つ。下級ファッジに比べれば頑丈である上に中身が改造されているダークスティンガーなら即死と言う事はなくとも、喰らえばただでは済まないことは明白だ。
だからこそ、ダークスティンガーは徹底して遠距離からの攻撃に徹した。幸いな事にトクシックファッジの甲殻は保安警察の標準装備のライフルで傷付けられる程度の強度だし、唯一の遠距離攻撃である毒液の噴霧も攻撃モーションが大きいので直ぐに分かる。ヴェロキラプトルファッジ達との戦闘で手の内を見せすぎていた。既にダークスティンガーは、トクシックファッジの攻略法を編み出していた。
「ふん……」
ダークスティンガーは離れた所から主に顔を狙ってトクシックファッジを撃った。最初トクシックファッジは放たれた銃弾を回避していたが、次第にその動きにダークスティンガーが慣れてきたからか当たるようになってきた。そうなると当然、トクシックファッジは回避を止め防御しながらの毒液の噴霧に攻撃を切り替えた。
彼はその瞬間を待っていた。この攻撃はモーションが大きい上に、直ぐ傍が大きな死角となる
トクシックファッジが尻尾を大きく振って毒液を撒き散らした瞬間、ダークスティンガーは前方に向けて飛び込み毒液を回避するとそのまま至近距離に近寄り銃剣モードにしたベクターリーダーで切り裂いた。
「グゥッ!?」
「貰った!」
〈Genome set Full blast〉
大きくすきを晒したトクシックファッジにトドメの一撃をと、ダークスティンガーはジェネリック・ブレイカーを発動した。ファッジは今の一撃がまだ尾を引いているのか、避ける素振りを見せない。
ダークスティンガーは自身の勝利を確信して必殺の一撃を振り下ろす。強化された刃がファッジの甲殻を抉り、切断面からは夥しい血飛沫が散った。
「アァァァァァァァッ!?」
悲鳴を上げたファッジから飛び散った血をダークスティンガーは大量に浴びる。
その瞬間、彼は全身を焼かれる痛みを感じた。
「うわぁぁぁぁぁぁっ?!」
恐ろしい事にこのファッジは、血液ですら猛毒だったのだ。ダークスティンガーが頑丈だからか、それとも血液は他の部分ほど毒が強くないのかは分からないが、ヴェロキラプトルファッジの様に体が崩れるようなことはないがそれでも全身を苛む激痛は彼からそれ以上の行動を奪った。
「あぁ、あぁぁぁぁぁっ!? ぎぃぃぃぃあぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
変身しているというのに全身の肉を焼かれ、腐食させられる悍ましい感覚と痛みに彼はその場でのたうち回る。
そこにさらに追い打ちの様に、まだ生きているトクシックファッジの毒針による一撃が彼を襲った。
「アァァッ!」
「ギャァァァァァッ?!」
この上さらに流し込まれた毒に、とうとう変身も維持できなくなりグアニンは元の姿に戻った。元の姿に戻った彼の姿はひどいもので、顔を含む全身がひどく焼けただれていた。
そこでトクシックファッジも変異を解いた。元の姿に戻ったリリィの顔は勝者であるにも関わらず酷く消耗した様子であり、顔から脂汗を流し今にも嘔吐しそうな顔をしている。
「はぁ、はぁ、ぜぃ……う、ぁ……」
リリィは苦しそうな顔をしながら懐から手の平大の瓶を取り出した。中には大量の錠剤が入っており、彼女は蓋を開けるとそれを手の上に出した。手の平から零れるのも構わず、出てきただけの薬剤を彼女は一気に口に放り込んだ。口に錠剤を流し込んだ手でそのまま口を塞ぎ、錠剤を嚙み砕くと水も使わず飲み込んだ。
「んぐ――!? ぐ、ん……かはっ!? はぁ……はぁ……」
大量の錠剤を飲み込んだリリィは、そのまま苦しそうに胸を抑えてその場に座り込む。明らかに異常な光景だが、未だ全身を焼かれる苦痛に悶えるグアニンは勿論、雄成も全く気にした様子を見せなかった。
その雄成はモニター室から移動してブース内に入ると、床で悶えているグアニンに近付いていく。
保安警察の隊員達があっという間に絶命したのに対し、グアニンは未だに生きていた。希美ほどではないが、肉体改造を施された彼は焼け爛れはしても死にはしなかったのだ。
「あぁぁぁ、ぐぅぅぅぅ!? がぁぁぁぁぁぁ!?」
毒による肉体の腐食と再生に苦しむグアニンを冷たく見下ろしていた雄成は、懐からアンプルを取り出した。
「助かりたいかね?」
「だ、だずげで!? だずげでぐだざい!?」
グアニンの必死の懇願に、雄成は口角を上げるとアンプルを専用の注射器に入れグアニンに打ち込んだ。薬液が注射されると、次の瞬間グアニンの体から湯気が上がり苦しみ出した。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「我慢したまえ。腐食した肉体が急速に回復しているんだ」
グアニンの体からは湯気が数秒に渡り上がり続けた。漸く湯気が収まり、苦痛が引いたグアニンが顔を上げると、その顔は未だに爛れていて元の面影が無かった。
醜い姿になったグアニンに、雄成は顔を近付け彼の目を覗き込んだ。
「ご苦労だったね。これで彼女が決してただの失敗作ではない事が証明された。運用に際して少し面倒がついて回るが」
雄成が口先だけの労いをしていると、通気口からスライムの様な粘液上の物体が入って来た。それは人の形に纏まると新たなファッジとなってリリィの傍に寄り添う。ファッジがリリィに寄り添いながら変異を解くと、そこには彼女と歳の近い少年の姿があった。
「あ、あの少年は? 彼も、アメリカ支社からの?」
「その通り。あっちの少女……リリィは遺伝子改造によって毒に対する耐性を持たせているんだ。ただ耐性が不十分でね、ファッジになった時に精製した自分の毒に体が耐え切れないから、変異後には専用の薬を服用しないとならないんだよ」
例え薬を服用しても、尚自分で精製した毒が体を苛むのかリリィの呼吸は荒い。少年は彼女を気遣ってか、彼女を横抱きに抱き上げて少しでも楽な体勢をとらせた。
「あの少年は体に超万能細胞からなる微生物を細胞内に共生させているそうだ。そのおかげで肉体を液状化させる事が可能になったそうだよ。ただまぁ、あちらも液状化の際に大量に体力を持っていかれるそうだから、多用できる能力ではないようだがねぇ」
言外に対した価値が無いと告げる雄成を少年がキッと睨むが、逆らえばただでは済まないと分かっているからか直ぐに顔を伏せると少女の看護に戻った。
そんな2人から早々に興味を失った雄成は、能面の様な笑みをグアニンに向けた。
「さて、グアニン? 一仕事終えた後で大変だろうが、もう一働きしてもらうよ?」
自分を冷たく見下ろす雄成の、底冷えする様な視線にグアニンは震え上がり頷くしか出来なかった。
そして、その様子を扉の陰から希美が冷めた目で覗き見ていた。暫く様子を見ていた希美だったが、直ぐに興味を失ったように扉から離れるとその場から離れていく。
「――――お腹、空いたな……」
ついさっき、本社ビル近くの飲食店の食材を全て平らげる程食べたばかりだと言うのに空腹とぼやく希美。
果たして飢えているのは、本当に腹なのかそれとも別の何かなのか。
誰にも何も告げずに、本社ビルを出た希美の進路にはまだ営業している飲食店。彼女はそこに向けて歩いていき、そのまま飲食店の前を素通りしていった。
覇気の感じられない目をした希美は、誰に気にされる事も無く歩いていく。
彼女の向かう先に見えてきたのは……明星大学。
「お腹……空いたわ。ねぇ……アンタは、私を満たしてくれるわよね?」
1人呟きながら、希美は大学構内へと入っていった。
彼女の事を何も知らない警備員や学生は、彼女を一瞥しただけで特に引き留める事も無くそのまま通したのだった。
と言う訳で第45話でした。
傘木社側に新キャラ・リリィが登場です。彼女が変異するトクシックファッジは本編中にある通り古今東西あらゆる毒を持つ生物の遺伝子を混ぜて作られています。お陰で全身毒と言う強力な能力を持つに至りましたが、ファッジの時に精製した毒が変異を解いても体に残留して変異した被検体を殺すので、リリィは予め遺伝子改造手術を受けました。それでも対策は完璧ではなく、常に解毒剤が手放せませんが。
液状化するファッジに変異する少年に関してはまた後程。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。