今回は気分が乗ったので、普段の投稿ペースを無視しての更新です。
亜矢が仁と共に大学の研究室で卒論研究を行っていると、出し抜けに亜矢の携帯が着信音を鳴らした。携帯を取り出しディスプレイを見て誰が掛けてきたのかと確認すると、その相手は宗吾であった。
それを見て亜矢は一瞬視線を鋭くするが、直ぐに気を取り直して室外に出た。
「すみません、ちょっと……」
「ん?」
電話の為に外へ出ると言う、今までにない行動をする亜矢に首を傾げる仁。彼の視線を背に受けながら、研究室を出て更に離れた所で亜矢は電話に出た。
「はい、双星です」
『双星さんか。すまない、君らの手を借りたいんだが……』
「それって仁君居ないとダメ?」
出来れば仁は少し休ませたい。ここ最近どうも彼は戦闘後に様子がおかしい。彼の為を想うなら、彼には少し休んでいてもらいたかった。
『いや……そうだな。双星さんだけでも十分だ』
「それじゃ、直ぐに行きます。場所は?」
宗吾から向かうべき場所を聞くと、亜矢は一旦研究室に戻った。
「すみません、ちょっと用事出来ちゃったんで暫く席外しますね」
「亜矢さんどうしたの?」
「何でもないから大丈夫よ。仁君は気にしないで」
やや強引に話を終わらせると、亜矢は大学を出てタクシーを捕まえ現場近くへと向かって行く。
その際、亜矢は入れ違いになる様に大学に入ってきた希美の存在に気付く事は無かった。
研究室に残された仁は、亜矢が居なくなったからか少し寂しそうにしていた。
そんな仁の様子に気付いた峰が、ちょっと揶揄ってやろうと声を掛ける。
「愛しの双星さんが居なくなっちゃって寂しいですか?」
「お前、趣味悪いぞ?」
すかさず拓郎のツッコミが飛んでくるが、峰は勿論仁も特に気にした様子を見せない。
「ん、まぁ、寂しくないって言ったら嘘になりますけどね」
「大丈夫ですよ。双星さんなら、きっとすぐに用事とやらを済ませて帰ってきますって」
本当は峰も拓郎も、先日仁が仮眠している間に亜矢が宗吾と話し合い要請を仁に報せない様にすると話し合っていた事を知っている。知っていて、亜矢の気持ちと仁の体を考えて黙っていた。
その時ふとある事が気になり、拓郎が峰に小声で話し掛ける。
「(そう言えばお前、アラームなったらどっち道門守も戦いに出ちまうんじゃないのか?)」
「(そこは抜かりありませんよ。今アラームは切ってあります。S.B.C.T.に同じものを渡してますから、こっちが気付いて向こうが気付かない事も無いですからね)」
もしそれでも仁の力が必要になれば、流石に宗吾も仁に助けを求めるだろう。それは仕方ない。だが可能ならば今は仁に戦いの事を報せたくはなかった。
正直な所、薄情な気がしなくもない。仁が戦いに出なかった事で、失われる命が無いとは言わない。だが戦士にだって休息は必要だ。特にここ最近異常が顕著な仁に、必要以上に無理を強いるのは責任の押し付けでもある。
以前と違い今は戦える者が多くいるのだから、1人くらい休息を得たって罰は当たらないだろう。少なくとも仁はそれに見合うだけ戦い救ってきたのだから。
「お~い、ちょっとコンビニ行くけど何か欲しいものあるか?」
その時、史郎と康太がコンビニに行くと言い出した。ちょっとした休憩などに軽く摘まめる菓子やジュースなんかを買いに行くつもりらしい。
仁と拓郎は特に欲しい物もなかったのだが、峰はそうでもなかったようで2人についていく。
「あ、私一緒に行くわ」
「別に来なくても、ついでに買ってくるぜ?」
「何が欲しいかってのが決まってないから、自分で探した方が早いのよ。それに態々買ってもらうのも悪いし」
「じゃ、行くか」
峰と史郎、康太の3人は研究室を出てコンビニに向かって歩く。他の学生と時折すれ違いながら、雑談しつつ研究棟の廊下を歩く。
「そう言えばさ、宮野って瀬高の事ぶっちゃけどう思ってる訳?」
「はっ!? 何でいきなり瀬高君!?」
「お前ら距離感近すぎ。もううちの研究室一組カップル出来てるんだからお前らもさっさと付き合え」
史郎に続き、康太にまで拓郎との関係を指摘された峰は、顔を赤くしながら必死に反論する。
「違うから! 瀬高君とは幼馴染ってだけだから!」
「大学生どころか院生になっても幼馴染を維持し続けられるお前ら凄ぇわ」
「無意識に付き合ってるんじゃねえの?」
「だ~か~ら~!?」
根掘り葉掘り拓郎との関係を突いてくる2人に、峰が必死に抵抗する。気心の知れた仲間とふざけ合う、他愛のない日常。
そんな日常が、唐突にぶち壊された。
廊下を歩く3人の前に、ふらりと姿を現す1人の女性。言わずもがな、大学に正面から堂々と潜入した希美である。
その姿を見た瞬間、峰の顔から血の気が引いた。
「久しぶり」
「な、何であんたがッ!?」
胡乱な目で見てくる希美に、峰が一気に戦闘態勢に入る。白衣の袖から警棒を取り出し、希美に向けながら史郎と康太の2人を下がらせた。
「2人は研究室に戻って、門守君にこいつが来たこと知らせて!」
「こ、こいつって、一体何なんだよ!?」
突然の峰の豹変に訳が分からない史郎が困惑するが、康太は事情を察して史郎を引っ張り研究室へと引き返す。峰が過剰なまでに警戒する相手など、傘木社の人間以外ありえないと分かっているからだ。
「お、おい源!?」
「良いから急ぐぞ。宮野のあの様子だと、あの女かなりヤバい」
2人が研究室に引き返していく中、峰は希美と睨み合っていた。と言っても、睨んでいるのは峰の方のみで希美は峰に対して興味なさそうである。
「何の用よ?」
「……デイナに、会いたくてね。居るんでしょ? そこ退いて」
そう言われてはい分かりましたと退く訳がない。峰は道を開けるどころか、警棒を手に希美に飛び掛かった。変身されると絶対に勝ち目がない。やるなら変身するよりも前に――――
そう思っていたのだが、その思惑はいとも容易く崩された。
希美は峰の振り下ろした警棒を持つ手を、片手で受け止めてしまったのだ。
「くっ!?」
ここで勝負が決まるとは流石に思っていなかった。避けられるか、防がれるだろうとは思ってはいた。だがまさか片手で、それもあっさりと受け止められるとは思ってもみなかった。
しかも掴まれた手はピクリとも動かない。必死に外そうとするが、まるでガッチリ固定されているかのように動かす事が出来なかった。
「こん、の!? 離しなさいよ!」
「別にアンタに興味はなかったのに……まぁ前菜になってくれるって言うなら、喜んで相手してやるわよ」
「舐めんな!」
腕が固定されているなら、それを逆に利用してやればいい。峰は掴まれた手を支点に自分の体を持ち上げ、希美の腹に踏みつけるように蹴りを叩き込んだ。これは少しは効いたのか、希美の手が緩み峰は蹴りの威力も利用して脱出する。
「このぉぉぉっ!」
着地した時、希美はまだ体勢を崩したままだった。峰は今が好機と、希美に突撃し今度は下から振り上げるように警棒を振るい相手の脇腹を殴る。今度は希美に防がれる事も無く彼女の脇腹に突き刺さり、確かな手応えを峰は感じた。
峰はそのまま希美に追撃しようとするが、希美もやられてばかりではなかった。振るわれた警棒を片手で弾くと、もう片方の手で峰の顔にフックを叩き込む。峰はそれをギリギリで回避したが、拳は頬を掠め薄く切り裂き、眼鏡を吹き飛ばした。
「くぅっ!?」
眼鏡を吹き飛ばされて峰の視界が悪くなる。しかし戦えないほどではないので、峰は予備の眼鏡を取り出すこともなくそのまま戦闘を続行。希美に追撃させないようにと回し蹴りを放った。
「はっ!」
「ふん……」
頭を狙って放たれた回し蹴りを希美は体を逸らすだけで躱し、無防備になった峰の背中に裏拳を叩き込む。
背中を殴られた峰はその勢いで廊下に倒れる。
床に倒れた峰を踏みつけようと希美が足を上げる。峰はその足が下ろされる前に、警棒で希美の脛を殴りつけた。これは流石に効いたのか、希美はバランスを崩し踏みつけが外れた。
その隙に立ち上がった峰は希美の首筋に警棒を振り下ろす。脛が効いたのだ。急所の一つである首筋に警棒を叩き込まれれば、確実にダメージになる。
だが峰の警棒が当たるよりも前に、鞭のようにしなった希美の拳が峰の顔面に突き刺さった。
「がっ――?!」
顔面を強かに殴られ、峰の鼻から鼻血が噴き出す。噴き出した血で服や手が赤く染まるのも構わず、動きを止めた峰に希美が蹴りをお見舞いした。蹴り飛ばされた峰は壁に叩き付けられ、その際に手から警棒が滑り落ちる。
「がはっ!? げほっ?!」
「ふっ!」
「おごっ?!」
蹴られた痛みと壁に叩き付けられた痛みに喘いでいる峰に、希美が追撃を加える。無防備な峰の腹に拳を叩き込む。口から内臓が押し出されるのではという痛みに、峰が目を見開き口から反吐を吐き出す。
強烈な腹への一撃に、ただの人間である峰が耐えられる訳もなくそのまま意識を手放した。
「う、ぅ……」
「…………ふん」
口から涎を垂らして脱力した峰の首を、希美は面白くなさそうに息を吐きながら手放した。
そこに騒ぎを聞きつけたのか、警備員がやって来た。
「何をしている!?」
「大人しくしろ!」
警備員2人が希美を取り押さえようと迫るが、それより先に希美は峰が落とした警棒を拾い上げると高速で投擲し、警備員の1人の肩に突き刺した。
「がぁぁっ!?」
「なっ!?」
まさかの希美の行動にそちらに気を取られる警備員。希美はその間に警備員たちに接近すると、1人の頭を掴んで壁に叩き付けめり込ませ、もう1人の警備員は側頭部を裏拳で殴り一撃で意識を刈り取ってしまった。
峰を下し、警備員2人を一瞬で戦闘不能にした。その暴れっぷりを遠めに見ていた学生は、希美と目が合うと悲鳴を上げて逃げていく。
逃げていく学生を目だけで追い、つまらなそうに溜め息を吐く。
そこに漸く仁が拓郎と共に駆け付けた。拓郎は顔を血塗れにして倒れている峰に顔色を青くして彼女に駆け寄る。
「宮野!? しっかりしろ!?」
「先輩、揺するのは駄目。悪化するかも」
無残な姿となった峰に冷静さを欠いた拓郎を仁がそれとなく宥める。
その一方で視線は希美から離さない。仁の姿を見た希美は既にブレイドライバーを手に持っている。何時でも変身できる状態だ。こちらも備えなければ。
デイナドライバーを取り出しながら、仁は徐に最初にデイナに変身した時の事を思い出していた。思えば最初に出会った敵も希美が変異したスパイダーファッジだった。あの時白上教授を助けた亜矢を咄嗟に庇ってから、仁は仮面ライダーとなり戦い続けている。そして仁達は知らない事だが、あの時の希美の行動は彼女の独断専行だった。
つまり、全ての始まりは彼女にあると言う事である。
「……アンタとも長い付き合いになったよね」
「何よ突然?」
「いや……」
不意にやってきた郷愁にしんみりしながら、仁はデイナドライバーを装着する。希美も同時に、ブレイドライバーを腰に装着しベクターカートリッジを取り出した。
「ま、何でも良いわ。私は満たされたいだけ……」
「……ずっと聞きたかったんだけどさ……アンタどうしたら満たされるの?」
「は?」
希美は仁に徹底的に敗北してから人が完全に変わった。覇気は無くなったのに、何かを無性に求めている。まるで心の底に穴でも開いたようだ。何をしても満たされる事のない、空っぽで穴だらけの心。
敵ながら仁は希美が哀れに見えて仕方なかった。
そして仁の哀れみを含んだ視線は、希美の心を不快にさせる。
「……何よ。何よその目?」
「ん?」
「何か分かんないけど……アンタむかつくわね!?」
〈HORSESHOE × CROCODILE × TURTLE Mixing Genetic information〉
「あぁ、嫌な思いさせたならゴメンね。悪気は無かったんだけど、何て言うか……さ」
〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉
廊下で向かい合う仁と希美を、拓郎が横目に見ながら峰を引き摺って行く。
拓郎が離れるまでの間、仁はともかく希美も動かなかった。
そして、拓郎達が十分に離れた瞬間――――
「「変身!!」」
〈Open the door〉
〈Create, Capture, Out of Control――Brake the chain〉
***
一方、宗吾に呼ばれた亜矢が辿り着いたのは都内某所にある工場だった。廃工場ではなく、稼働している工場。S.B.C.T.の調査により、この工場に不自然な資材の搬入などが見られ、更に詳しく調べようとしたところ捜査員からの音信が途絶えた。状況確認を行ったところ、工場にファッジが出入りしているのを確認し、強制捜査を行う事となったのだ。
現場には既に警察により交通規制が行われており、タクシーは途中までしか近付く事が出来ない。亜矢は途中で降りると、規制を行っている警察に事情を話し通してもらい宗吾達と合流した。工場周りにはライトスコープで武装したS.B.C.T.の部隊が展開しており、突入の準備は既に完了していた。
「すみません、お待たせしました!」
「いや、大丈夫だ」
「どんな状態です?」
「静かなもんだ。物音一つしない」
宗吾と共に工場を覗き込む。確かに、稼働している工場にしては静かすぎる。人の気配を感じない。
「……気付かれて、ますよね?」
「これだけ派手に囲めばな。だが向こうから出てこず、こちらが入るのを待っている様なのがどうにも不気味だ」
「隊長、どうしますか?」
2人が工場の様子を伺っていると、ライトスコープの1人が問い掛けてきた。声からすると慎司だろう。
「全部隊、展開を完了しています。指示さえあれば、何時でも突入できますが?」
正直に言うと、この状況は罠の様な気がしてならない。ここ最近は派手にS.B.C.T.が活動している。ここらで邪魔者を一網打尽にしようと態と迎え入れようとしている可能性もあった。
「…………突入するぞ。全員、準備しろ」
「了解!」
考えた末、宗吾は突入を選択した。危険はあるが、冒すだけの価値はある。これだけの規模だ、何か有益な情報があるかもしれない。
それに合わせて、亜矢もデイナドライバーを腰に装着する。
〈CAT Unite〉
「こちらも何時でも行けます」
〈Access〉
「よし、総員突入だ!」
宗吾の合図と共にライトスコープ達が一斉に工場敷地内に突入していく。それを見ながら、2人も変身した。
「「変身!」」
〈Open the door〉
〈In focus〉
亜矢がルーナ・ユナイト、宗吾がスコープ1号に変身して工場に向かう。
ルーナとS.B.C.T.が工場内に突入すると、工場の奥からヴェロキラプトルファッジが次々と出てくる。
たちまち始まる銃撃戦。工場内の機械は丁度良い遮蔽物となり、互いに身を隠しながら互いに撃ち合っていた。
そこにルーナも加わる。遮蔽物を盾に慎重に戦うライトスコープ達に対して、こちらは飛び交う銃弾を物ともせず敵陣の真っただ中に突っ込んでいった。常人であればそんな事をすれば敵だけでなく味方の銃撃も喰らってしまいそうだが、ユナイトとなり全ての能力が向上されたルーナは銃弾の合間を縫ってファッジ部隊に突撃。
そして近距離から銃撃や蹴り、銃剣での斬撃で次々とヴェロキラプトルファッジを倒していった。
「はっ! やっ! そこっ!……後方警戒! 近付いてくる!……分かってる!」
左右の手に持ったリプレッサーショットⅡで次々とファッジを撃ち抜くルーナの背後から近付く奴が居たが、彼女はそれに気付いている。銃剣を使って攻撃しようとしたそいつに、ルーナは振り返り様の上段回し蹴りを放ち一撃で昏倒させた。
「真上と右斜め後ろから撃たれた!……回避余裕!……奥の扉から出てくる奴!……先に仕留める!」
死角からの攻撃を必要最低限の動きで回避し、続いて奥の扉から出てくる増援を先読みして倒す。
素早い反応速度で立ち回るルーナを、気付けばS.B.C.T.が見守っていた。出番が無くなったと言っても良い。
ルーナの動きはまるで踊っているようで、一切の無駄なく流れるように攻撃と回避を行っていた。S.B.C.T.は全員気付けば彼女の動きに見惚れていた。
「す、凄いですね彼女……」
「あぁ。流石と言えば良いのか……情けない話だがな」
本来であれば専門家は彼らの方である筈なのに、気付けば仁や亜矢に任せてしまっている。頼もしく思うと同時に、情けなくもあった。
「これで!……ラスト!」
ヴェロキラプトルファッジの最後の一体を倒し、工場内は静かになる。ルーナは周囲を警戒したが、これ以上の増援が来る気配はない。
その事にルーナは警戒を解き、一息吐いた。
「ふぅ……」
「お疲れさん。と言うか凄いな。殆ど全部君が倒したぞ」
「あ、ゴメン。出番取っちゃった」
「構わんさ。こっちが不甲斐無いだけだ」
スコープがルーナを労う後ろで、ライトスコープ達が更に工場の奥に突入していく。
軽く休んだルーナがそれに続き工場の奥へと向かおうとした時、先行したライトスコープ達が何かによって吹き飛ばされた。
「うわぁぁぁっ!?」
「ッ!? どうした!?」
「新手!?」
これはヴェロキラプトルファッジではない。強敵の出現を感じ工場の奥へとルーナとスコープが向かうと、そこではライトスコープ達が素早く動き回る粘液の様なものに吹き飛ばされているのが見えた。一見するとただの粘液の様だが、明らかに意志を持って動いている。
「な、何あれ!? あれもファッジ?……でも液体のファッジってどう言う事?」
「何かの集合体か?」
ルーナとスコープ、無事なライトスコープが見ている前で、粘液が形を持ち始め人型になる。
人型になった粘液はまるで全身ゼリーの、クラゲの様な見た目をしているファッジになった。あれもファッジなのは間違いないが、何のファッジなのか見当もつかない。
「こんな時、仁君が居てくれたらな~……贅沢言わない」
「とにかく敵なのは間違いない。攻撃だ!」
新手のファッジに一斉に銃撃が行われるが、銃弾は全てファッジの体を突き抜け後ろの壁や機材に穴を穿つ。そして撃ち抜かれた筈のファッジはまるでダメージを感じさせない。それがどうしたと言わんばかりに、首と肩を回した。
「銃弾が効いてない!?」
「液状の生物? そんなのが居るの?」
困惑するルーナ達だったが、悠長に分析している余裕はなかった。続いて新たな、全身を甲殻で覆われたファッジが出てきたのだ。
「シャァァァァッ!」
新たに出現したファッジは手近なライトスコープに襲い掛かる。鋭い爪で襲い掛かってくるファッジを2人のライトスコープがガンマソードで迎え撃つ。
だがライトスコープの防御を粘液のファッジが妨害した。素早く体を液状にして移動すると、2人のライトスコープが手に持つガンマソードを弾き防御を崩す。
「なっ!?」
「しま――」
防御を崩されると同時に、2人のライトスコープの首を甲殻のファッジの爪が切り裂いた。防刃防弾性に優れる筈のボディースーツ部が容易く切り裂かれ、赤い血が噴き出しファッジの甲殻を赤く染める。
瞬く間にライトスコープ2人を仕留めたファッジに、ルーナとS.B.C.T.は警戒を強める。見た所恐竜ファッジではないようだが、能力は正直未知数だ。
ルーナは即座に察した。あいつらはヤバい。このままではS.B.C.T.の被害が広がるだけだと、ルーナが前に出ようとした時彼女の足元を銃弾が抉った。
「ッ!? 誰ッ!」
銃弾が飛んできた方を見ると、そこに居たのはグアニンだった。だが顔が醜く爛れたその姿は尋常ではない様子で、一瞬自分が知るグアニンと同一人物なのかを疑ったほどだ。
「え、アンタ、グアニンよね?……どうしたんですか、その顔?」
「お前に話す義理はありません。それより、デイナは何処です?」
グアニンに言い渡された任務はデイナとの戦闘、それだけだった。とにかくデイナと戦い、許可が出るまで退かずに戦い続けろと言われた。逆らえば今度こそ命はない。遠隔操作で隠蔽装置を作動される。
もうグアニンに逃げ道は残されていない。彼に許されたのは雄成の指示に忠実に従い、戦い続ける事しかなかった。例え、退く許可が何時になっても出されなくても…………。
「残念ね、仁君は今日はお休みよ。……代わりに私が相手をします!」
「……チッ、大学か。態々情報を流したのに、肝心の奴が来てないんじゃ意味がない」
「仁くんが目的?……どう言う事よ!」
「だから話す義理はありません。ここはお2人に任せますが、構いませんか?」
先日の一件以降、グアニン本人はあのファッジに対して苦手意識があるので、特に彼女に対しては腰が低い。幹部である筈のグアニンの伺う様な様子に、ルーナが首を傾げる。
グアニンからの問い掛けに、甲殻のファッジの方が頷く。
「ありがとうございます。では私はこれで失礼」
「あ、ちょ、待ちなさい!」
グアニンは間違いなく大学へ向かうつもりだ。それではこうしてルーナが1人で赴いた意味がない。させてなるものかと後を追おうとした時、スコープに茜からの通信が入った。
『隊長、緊急連絡です!』
「何だ! 今こっちも忙しいんだ!」
『先程入った通報で、明星大学に仮面ライダーヘテロが出現したようです! 現在、仮面ライダーデイナと交戦中!』
「何!? 大学にヘテロが!?」
「えぇっ!?」
それはルーナにとっても凶報だった。自分がこうしてS.B.C.T.と行動している間に、仁はヘテロと戦闘をしていたのだ。
負けるとは思っていないが、最近調子が良くなさそうな仁の身に何か起こるかもしれない。そう思うとルーナは居てもたってもいられなかった。
「あ、あの! 権藤さん、お願いします! 私、戻らなくちゃ!?」
「分かった。北村! 双星さんを明星大学まで送ってやれ! こっちはこっちで何とかする!」
踵を返すルーナを見送ったスコープは、2体のファッジの相手に集中した。彼らがグアニンと話している間に、2体のファッジ――毒を持つトクシックファッジと体を無数の細菌で構成されたリキッドファッジ――によりさらに数人のライトスコープが倒されていた。
これ以上被害を出す訳にはいかないと、スコープは前に出て指揮を執る。
「総員、甲殻を持つファッジの相手に集中しろ! こっちの液状化するファッジの相手は俺がやる! 指揮は小早川、お前が執れ!」
「了解!」
スコープはトクシックファッジの相手を部下たちに任せ、自分はリキッドファッジの相手に集中する。
グアニンと話しながらもスコープは時々ファッジ達の戦いを観察していた。その結果、トクシックファッジは両手の爪だけでなく尻尾の針に毒液まで使う事を確認した。
それを見て、奴らへの対抗策は考え付いた。特にリキッドファッジの相手は、ライトスコープはともかく宗吾のスコープなら相手は出来る。
〈Rioter・Baton Starting〉
右腰のホルダーから取り出したプレートをドライバーに装填してハンドルを回し、投影精製したのはトンファー。スコープがそれを手に取ると、トンファーが伸長し1.5倍の長さになる。
リキッドファッジはそれがどうしたと言わんばかりに体を液状化させスコープに襲い掛かるが、スコープは臆することなく液状化したリキッドファッジにライオットバトンを叩き付けた。
その際、トンファーの打突部が放電している事にファッジは気付いた。それを見て、しまったと思った時にはもう遅かった。
「がぁぁぁぁぁぁっ?!」
液状化する事の出来るリキッドファッジ相手に、物理攻撃は効果がない。だが液状化していてもこちらに対して攻撃できるのであれば、物理攻撃以外なら通用する筈。ならばと、スコープはリキッドファッジに対し電撃で対抗したのだ。ライオットバトンは相手を無力化する事も考えた装備なので、打撃の際に放電で相手を痺れさせることが出来る。物理攻撃が通用しない相手であっても有効だ。
「ぐぅ!? はぁ、はぁ……」
対ファッジ用の電撃は相当効いたらしい。体が液状化しているから、普通よりも効果が高いのだろう。変異こそ解けていないが、今のでかなり消耗した様子だ。
一方、ライトスコープ達も先程と打って変わって善戦していた。
「シャァァァァァッ!!」
「近付かせるな! 出来るだけ距離を取って応戦しろ!」
複数人のライトスコープ達が、迫るトクシックファッジに銃撃している。トクシックファッジは全く接近を許さないライトスコープ達に向けて、尻尾の毒針や口から毒液を飛ばす。触れれば腐食するし揮発しても有害なそれを、しかしライトスコープ達は物ともしていない。
トクシックファッジはその事に愕然とした。今まで自分の毒が通用しない相手なんて存在しなかったのに……。
スコープシステムはそもそも、強力な生物兵器と言えるファッジに対抗する為に作られた装備だ。生物が相手と言う事で、その攻撃手段は爪や牙だけでなく毒も想定されている。
なので、量産仕様であっても、毒に対しては万全の対策が為されている。毒が気化しようとも強力な防毒仕様のマスクが有毒ガスを防ぐし、装甲やボディースーツも腐食耐性が高い。実際試験段階では、有毒ガスの中での活動も問題なくクリアしたし、硫酸や塩酸などの付着に耐えるようコーティングが施されていた。
何が言いたいかと言うと、トクシックファッジはスコープシステムとはすこぶる相性が悪いのだ。先程まで苦戦していたのは、偏にリキッドファッジによるサポートの存在が大きい。彼がライトスコープの行動を妨害してくれたから、彼女は的確に防御の弱い所を攻撃する事が出来たのだ。
その連携が崩された今、最早彼女達に勝ち目はない。悔しいが、ここは引き下がるのが得策だった。もうグアニンは十分にこの場から離れたのだし、必要な仕事は熟しただろう。元より2人に言い渡されたのは、グアニンのサポートなのだから。
「くっ!」
「あ、待てッ!」
リキッドファッジは一瞬の隙を見て、液状化してトクシックファッジに近付く。それと同時にトクシックファッジは周囲に腐食性の高い毒液をばら撒いた。装甲やボディースーツにコーティングが施されたスコープ達には効果がないが、工場内の機材はそうではない。あっと言う間に腐食し、あちこちの柱などが溶けて崩れ、支えられていた天井の梁が崩れ落ちる。
工場の崩壊を察したスコープは、慌てて全員に後退を指示した。
「全員下がれ! 急いで工場から出るんだ!」
崩れる前に急いで工場から出るスコープ達。先程の毒液のばら撒きでそれまでの戦闘によるダメージが一気に限界に達したのか、工場全体が連鎖的に崩れていく。
S.B.C.T.の隊員達が全員脱出した直後に、工場全体が完全に崩れ落ちた。
「くそ、滅茶苦茶する」
「あいつらは、逃げたのでしょうか?」
「自爆みたいな真似をする奴らじゃないだろう。今の混乱に乗じて逃げた筈だ」
地上部分は完全に崩れたが、あるとすれば地下施設がまだ無事な筈だ。そちらの調査をしなくてはならない。
「隊長、明星大学へはどうしましょう? 数人なら向かわせる事も出来ますが?」
今頃はデイナとルーナが、ヘテロとダークスティンガーを相手に戦っている筈だ。スコープも正直な話、彼らを助けに行きたいと言う気持ちが無い訳でもなかった。
「いや……ここは彼らに任せよう。こちらも消耗しているし、ここを疎かにも出来ない。諸々の処理を考えると、我々も満足には動けない」
しかし、ここは敢えて彼らに任せる事にした。あの2人が今更ヘテロとダークスティンガーに敗れるとは思えなかったし、こちらの調査を進めなければならない。あの2体のファッジに関しては、S.B.C.T.との戦いで消耗しただろうから合流する事はしないだろう。
「すまないな。頑張ってくれ」
デイナとルーナの善戦を祈りつつ、スコープは部隊の再編と工場の調査再開に向け行動を開始するのだった。
という訳で第46話でした。
大学に乗り込んだ希美の、最初の犠牲になったのは彼女と浅からぬ因縁がある峰でした。峰が好きという方ゴメンなさい。彼女が活躍する時もちゃんと用意するので。
新登場したトクシックファッジとリキッドファッジは、所謂能力特化型なので刺されば強いですが対策練られたりすると途端に弱くなります。今回はちょっと相手が悪かったですね。
次回は大学での戦闘がメイン。この大学、我ながらしょっちゅう戦場になってるな。学生からしたら溜まったもんじゃないですね。
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次回の更新もお楽しみに!それでは。