今回、デイナが本当の力を発揮します。
あ、あと感想で突っ込まれましたがウルトラマンは一切関係無いです。
仁が変身した仮面の戦士の拳が、スパイダーファッジに突き刺さる。
本来であれば容易に反応出来る攻撃だったが、白上教授に撃ち込まれたカプセルの効果に加えてまさかの存在、まさかの反撃に反応が遅れてしまい、大人しく殴られた。
「ぐぅっ!? き、貴様はッ!?」
突然の攻撃に怯むスパイダーファッジだったが、怯んだのは攻撃した本人もだった。
「いっつつつ!? か、硬――!?」
殴った方の手を振って痛みを紛らわす仁が変身した仮面の戦士。だが彼は何とか痛みを堪えると、再び拳を構えて殴り掛かった。
彼は元々、自分の無茶に体が耐えられるようにと地味に鍛えていた。その為に空手を習い、プロには及ばないまでも一端の型は覚えられるくらいには続けていた。そのおかげで彼の戦いはそれなりに堂に入ったものとなっていた。
放たれる正拳突きが何度もスパイダーファッジを捉え、動きを止めた所で回し蹴りが引き下がらせる。
「イテテテ……けど、何とかやれてる……かな?」
手応えがイマイチ感じられないので実感は湧かないが、少なくとも先程よりはマシだろうと思い攻撃を続行する。
しかし――――――
「調子に、乗るなッ!!」
撃ち込まれたカプセルの効果が完全に切れたのか、スパイダーファッジの動きが大きく変わる。背中の四本の脚で地面を叩き、大きく跳躍して仁の攻撃を回避。そして空振りして隙を晒したところに上から蹴りを放った。
「フン!」
「ぐあっ?!」
そこから更にスパイダーファッジの攻撃が続いた。両手の爪による斬撃で怯んだところに、背中の脚で突き飛ばし、前蹴りで大きく吹き飛ばした。
その攻撃にはまるで弱った様子が無い。
「イッテェ……あれ? 何か大して状況好転してないな。ちょ、教授!? 何とかなりません!?」
これの持ち主だった白上教授なら何とかしてくれるだろうと、彼に助けを求める仁。その彼に、教授はアタッシュケースから取り出した二つのカートリッジを放り投げる。
「門守君、これを使うんだ!」
放物線を描いて投げ渡されたカートリッジを受け取った仁は、それをまじまじと見つめた。カートリッジは二重構造になっており、透明な表面の中に二重螺旋の管の様な物が見える。管の色はカートリッジでそれぞれ異なり、右のカートリッジの中が赤で左のカートリッジの中が白い。
しかし渡されても、仁にはこれの使い方が分からなかった。
「これどうやって使うんですか!?」
「コックが付いてるだろ! それをまず捻って、次に押し込め!」
仁は言われた通りカートリッジの上部のコックを捻り、次に押し込んだ。するとカートリッジから電子音が鳴る。
〈BUFFALO〉
〈HUMAN〉
「そしてそれを、ベルト上部のソケットに装填しろ!」
「させるか!!」
教授の指示に従い仁がカートリッジをベルトに装填しようとするが、それを黙って見ているスパイダーファッジではなかった。仁がカートリッジを装填しようとするのを、両手から放出する粘着性の糸で妨害した。
「あ、ちょっ!?」
「門守君!?」
「くっ!?」
糸で拘束され焦る仁に、悲鳴のような声を上げる亜矢。教授はもう一発あったカプセルをシューターに装填しスパイダーファッジに向ける。
だがスパイダーファッジが次の行動を起こす前に、両者の間に乱入する者が居た。無数の弓矢の様な大きさの針が地面に突き刺さり、教授とスパイダーファッジの行動を妨害する。
「ッ!?」
その攻撃が何であるかを知っているスパイダーファッジが針の飛んできた方を見ると、そこには案の定見知った怪人の姿があった。
「グアニン!? 何故ここに!?」
その怪人――グアニンと呼ばれた、ウニの様な特徴を持つシーアーチンファッジがスパイダーファッジの傍に歩いてきた。
「撤退だ」
「何!?」
突然の撤退指示に、スパイダーファッジは当然不服そうな声を上げる。あともう少しで邪魔な仁を始末し、障害となり得る白上教授も消せそうだったのだから当然だ。
だがこの場での発言に正当性があるのは、スパイダーファッジではなくシーアーチンファッジの方だった。
「何、じゃない。お前が言い渡されたのは偵察だった筈だ。こんな騒ぎを起こして、プロフェッサーに苦労を掛けるつもりか?」
「そ、それは……しかし!?」
「とにかくここは退くぞ。反論は認めない」
シーアーチンファッジはスパイダーファッジからの反論も聞かず、地面に無数の針を打ち込んだ。するとその針が爆発し、仁達の視界を土煙が覆い隠した。
土煙が晴れるまでの間に、仁は体に付着した糸を引き剥がし目くらましに紛れての追撃に備えた。置き土産的な攻撃をしてくるかもしれないからだ。
だが結論を言えばそれは杞憂だった。土煙が晴れた時、そこには爆発で抉れた地面以外何も存在しなかった。どうやら本当に撤退する為だけの目くらましだったらしい。
「逃げた……逃げてくれたか…………ふぅ」
脅威が去ってホッと胸を撫で下ろす仁に、我に返った亜矢が大急ぎで近付いた。
「か、門守君! 大丈夫ですか!? 痛いところありません? 自分が誰か分かりますか? これ何本です!?」
「あぁ、もう。一気に質問しないでって。痛い所は無いし俺は門守 仁、そんで指は三本。これでいい?」
仁の回答にとりあえず問題なさそうである事が分かり、亜矢は安堵の溜め息を吐く。だが安堵しているのは実は仁自身も同様であった。スパイダーファッジに体を切り裂かれ、意識が朦朧とし感覚が薄れていく中亜矢の声が徐々に聞こえなくなってきた時はもう死ぬのかとまるで他人事のように考えていたのだ。
それが今はどうだ? 全く問題ないどころか、スパイダーファッジの攻撃によるダメージを除けば絶好調だ。
一体自分の体はどうなってしまったのか、その答えを知るだろう白上教授に仁は詰め寄った。
「それで教授、これは一体何なんです? って言うかそろそろ元に戻りたいんですけど、戻れるんですか?」
死なずに済んだのは良かったが、このままで過ごすのは凄く困る。迂闊に出歩けば警察官から職質間違いなしだ。
「あぁ、戻るのは簡単だ。ベルトの右側にグリップがあるだろう? それを引けば戻れるぞ」
言われた通り仁はベルト右側のグリップを引いた。すると全身が一瞬光り、そして次の瞬間光が納まるとそこにはスパイダーファッジに切り裂かれた服がそのままであること以外は何の問題もなさそうな仁の姿があった。
元の姿に戻れた事に、仁は勿論亜矢も安堵に胸を撫で下ろした。
「あ、あ~……戻れた」
「よ、良かった……傷も無さそうですね」
「うん…………って言うか、双星さん俺より安心し過ぎじゃない?」
「だ、だって、本当に心配したんですよ!? 死んじゃうんじゃないかって……本当に、また……」
仁が切り裂かれて血塗れで倒れた時の事を思い出してか、亜矢がまた目に涙を浮かべる。また泣かれては堪らないと、仁は彼女を宥めに掛かった。
「あぁあぁ、悪かったって。大丈夫、俺もうこんなにピンピンしてるから」
亜矢の前で両手を広げて何てことはない事をアピールする仁の姿に、亜矢は少し落ち着いたのか少し笑みを浮かべる。
場が少し和んできたのを見計らってか、白上教授が2人に声を掛けた。
「さて……君達。色々と聞きたいことがあるだろう?」
「あ、是非。さっきの怪物とか、このベルトとか、聞きたい事山ほどあります」
「教授、色々と知ってるんですよね? 一体何がどうなってるんですか?」
一気に捲し立てるように白上教授に2人が質問する。教授は2人がそう言う反応をすることを察していたからか、特に慌てる事無く両手を上げて2人を宥めた。
「分かっている、分かっているさ。だがここで話すのもなんだ。君達、私の研究室に来なさい」
***
撤退したスパイダーファッジとシーアーチンファッジは、何処かの研究室の様な所に来ていた。周囲には無数の試験官があり、その中には一つずつ円筒形のカートリッジが浮かんでいる。
そして肝心のスパイダーファッジとシーアーチンファッジだが、2人はある人物の前で跪いていた。スパイダーファッジなどは大学での事が嘘の様に恭しくしている。
そんな2人の前に居るのは、如何にも高そうなスーツに身を包んだ壮年の男性だ。ファッジ達の事を棚に上げるようだが、この場所には何処か似つかわしくない。
「…………報告は聞いている。私の指示を無視して、勝手に行動したようだな?」
壮年の男性の言葉に、スパイダーファッジはビクリと肩を震わせる。
「も、申し訳ありません。ただ、決して貴方の言葉を軽んじた訳ではないのです。ただ、ここで白上教授を始末すればプロフェッサーにとっての障害が居なくなると思ったものでして……」
必死に弁明の言葉を口にするスパイダーファッジを、斜め後ろで跪いているシーアーチンファッジは心の中で笑っていた。普段の様子が嘘のように無様な姿だ。こんな姿を残りの2人どころか、下の連中に知られたらどうなる事か。
だが次にプロフェッサーと呼ばれた男性の口から出てきた言葉は、スパイダーファッジは勿論シーアーチンファッジですら予想外のものであった。
「構わん、気にしていない。いや寧ろ良くやった」
「え、は?」
「ぷ、プロフェッサー? 本当に宜しいのですか? 今回の事、決して小事では済まされません。S.B.C.T.も警戒する筈です。もし連中に尻尾を掴まれるようなことがあれば、動き辛くなるどころかプロフェッサーのお立場も危ういものとなるのでは?」
シーアーチンファッジの心配を他所に、プロフェッサーは徐に一つの試験官から一つのカートリッジを取り出しそれをスパイダーファッジに投げ渡した。
「心配する事は無い。連中だってそう簡単には動けん。その気になればいつでもどうにでもできるのだ。今しばらくは放っておけ。それよりそら、これを使え」
「ッ!? こ、これは?」
「それを使って、もう一度白上の奴に仕掛けろ。ついでだ、アントも連れていけ」
プロフェッサーの言葉にスパイダーファッジはシーアーチンファッジと顔を見合わせた。今に始まった事ではないが、彼の考えは理解できない。一体何を考えてこんな事を指示したのか。
「わ、分かりました。必ずや、プロフェッサーのご期待に副ってみせます」
「期待しているよ」
だがスパイダーファッジが疑問を抱いたのは少しの間の事。直ぐに気持ちを切り替えプロフェッサーの言葉に頷き、スパイダーファッジは研究室を後にした。残されたのはプロフェッサーとシーアーチンファッジのみ。
シーアーチンファッジはスパイダーファッジが出ていくと、首筋からカートリッジを抜き取り元の姿に戻った。元の姿のシーアーチンファッジは、プロフェッサーに比べると数段劣るがそれでもしっかりとしたスーツに身を包んだ眼鏡の男性だった。
「プロフェッサー、本当に宜しかったのですか?」
シーアーチンファッジだった男――いや、グアニンと呼ばれた男は、改めてプロフェッサーに真意を訊ねた。プロフェッサーの“立場”的にも、事を荒立てるのは賢い判断とは思えなかった。
「構わんさ。事は全て私の思う通りに動いている」
「それは、チミンの行動や白上教授の発明の事もですか?」
グアニンの問い掛けにプロフェッサーは意味深に笑うだけであった。一向に答えが得られない事にグアニンが焦れて更に問い掛けようとすると、プロフェッサーの懐から電話の着信音が鳴り出した。
プロフェッサーは流れるような動きで携帯を取り出し通話に出た。
「私だ」
『社長、そろそろ会議のお時間ですので第1会議室にお越しください』
「あぁ、もうそんな時間か。分かった、すぐに行くよ」
電話口でそう言うと、プロフェッサー…………否、世界的製薬会社『傘木社』の社長、
その後ろ姿を、グアニンは何とも言えない顔で見送るのだった。
***
仁と亜矢は白上教授に連れられて、彼の研究室へとやって来ていた。
ただし、2人が居るのは“大学の”研究室ではない。ベルトがあった白上教授の研究室である。大学にあるまじき機材の数々に、仁も亜矢も目を丸くしている。
「な、何だこれ? ここ、本当に大学の中か?」
「白上教授、ここは一体?」
周囲の機材を見渡しながら亜矢がこの部屋の事を訊ねると、白上教授は空のアタッシュケースを適当な所に置き椅子に腰掛けながら答えた。同時に2人にも椅子に座るよう勧める。
「ここは、私の秘密のラボとでも言うべき場所だ。ここを知っているのはこの場の3人以外にごく僅かしか居ない」
まずは2人を落ち着かせようとしてか白上教授は室内の一画に設けられた、冷水器とガスコンロが置かれただけの給湯スペースで茶を淹れて2人に渡した。
「まぁ、まずはこれでも飲んで落ち着きなさい」
「あ、はい……」
「どうも……ところで教授、早速なんですけど――」
仁はカップを受け取るも、口を付けることなく質問を口にしようとした。白上教授はそれを片手で制す。
「分かっている。とりあえず手短に話すから、質問はその後にしなさい」
言われて仁は渋々黙ると、カップに口を付けた。温かい紅茶の味が、嫌が応にも心を落ち着けてくれる。
何気なく彼が隣の亜矢を見ると、彼女は既に中身が半分ほどに減っているカップに角砂糖を二つ入れていた。
「さて、まず最初に言うべきはやはり門守君を変身させた、これについてかな」
そう言って白上教授は仁から受け取ったベルトを持ち上げる。ベルトと言ってはいるが、今あるのはそのバックル部分だけだ。
「これはDNAドライバー。私が開発した、仮面ライダーと言う存在に変身する為の専用ツールだ」
「DNA、ドライバー?」
「仮面ライダー……?」
白上教授の口から出てきた単語に、2人は首を傾げる。教授はそんな反応が来ることもお見通しだったのか、順を追って説明し始めた。
「まずこれの能力だが、先程やってみせたようにこれは人を仮面ライダーと言う戦士に変身させる。その際全身の細胞を活性化させるので、瀕死の重傷を負っていても変身すれば傷は完治するんだ」
「はぁ~、そっか。だから俺死なずに済んだのか」
「あの、初歩的と言うか根本的な質問なんですが、仮面ライダーって何なんですか?」
「それはそのまま、先程門守君が変身した奴の事だ。名前がないと不便だろう? 今はまだ製作途中だが、あれには専用のバイクがあって移動の際などに活躍するんだ」
顔には仮面を被り、そしてバイクに乗って疾走する。仮面を被ったバイク乗り……故に仮面ライダー。
仁は白上教授の説明に一応の納得を見せ、そして先程は使いそびれた二つのカートリッジを取り出した。
「あの、それじゃこれは?」
「それこそが、このDNAドライバーの機能の要とも言える物だ。その名もベクターカートリッジ」
白上教授によると、このベクターカートリッジにはそれぞれバッファローと人間の遺伝子情報を持つ超万能細胞と言う細胞が入っているらしい。
またも出てきた聞きなれない単語に、2人は首を傾げた。
「超万能細胞? iPS細胞みたいなものですか?」
「いや、あれよりもずっと凄い能力を持っている。血液型や人種に関係なくどんな細胞にも瞬時に馴染み、遺伝子情報を入力すればあらゆる組織に変貌可能な文字通り万能細胞を超えた万能細胞だ。私が嘗て研究し、その理論を見つけ、そして……封印した」
2人は白上教授の口から出た、超万能細胞の概要に度肝を抜かれた。あらゆる組織に変貌可能で、しかもどんな細胞にも馴染む細胞など医学界に革命が起こってもおかしくない代物だからだ。これさえあれば、特に臓器移植が抱えている多くの問題が解消される。
だが仁は、白上教授が最後に口にした封印と言う言葉に引っ掛かりを覚えていた。これほどの理論、世に出せばノーベル賞確実だろうに、それをしないと言う事は相応の理由があると言う事だ。
「凄いじゃないですか! そんな凄い発明、何で世の中に出さなかったんですか!? これさえあれば、臓器移植や他の医療で大活躍する筈なのに!」
だが亜矢は教授が最後に発した言葉に気付いていないようで、この発明を世に出さない事に対する疑問を口にする。。
それを横で聞いていた仁だったが、少し考えて彼は教授が超万能細胞を世に出すのを諦めた理由に見当がついた。
「そう簡単な問題じゃないって事だよ、双星さん」
「それは、どう言う…………?」
仁の言葉にまだ訳が分からないと言った様子で首を傾げる亜矢に、教授が答えを口にした。
「そう、門守君の言う通りだ。実験を進める内に、私はこの超万能細胞について二つほど大きな問題点を見つけてしまったのだ」
「その問題点とは?」
「一つは、超万能細胞は他の細胞に伝播すると言う事。例えば心臓を超万能細胞で培養し移植した場合、その心臓を構成している超万能細胞の遺伝子は他の組織の細胞にも広がるんだ」
まるで癌細胞の様だ。亜矢は思わず口元を押さえた。それはいくらなんでも危険すぎる。制御できない遺伝子、まるでB級のモンスターパニックか何かに出てくる細胞の様だ。
その危険性は、仁の好奇心に火をつけた。
「仮に、全身が超万能細胞の遺伝子で支配された場合、その人間はどうなるんですか?」
「……想像もできない。臨床実験をする前にサンプルも研究データも破棄したからな。人間のまま全身の細胞がアップグレードされるだけならまだマシだが……」
「最悪の場合、人間ではない怪物になってしまう」
「そう言う事だ。それが問題の一つ目」
それだけでも確かに研究を破棄するには十分な理由だ。だがこの超万能細胞の持つ問題はもう一つあると言う。それは一体何なのか?
「それで、もう一つの理由って?」
「仮に超万能細胞が人間に有用で、全身を超万能細胞で構成された謂わば新人類とも言うべき存在が生まれた場合……どうなると思う?」
「え? どうって……」
突然問い掛けられ、亜矢は答えに詰まる。超万能細胞と言う、人間にとって夢のような細胞。人を人のまま更に優れた存在にしてくれる細胞で体が出来れば、健康面で様々な問題が解決されて良い事ばかりの様な気がするが…………
その答えを口にしたのは、亜矢の隣の仁であった。
「超万能細胞を持つ人間に対する迫害、若しくは新人類と旧人類の戦争」
「えっ!?」
「その通り。思想や宗教的、若しくは倫理云々の理由で超万能細胞を受け入れない者は当然出てくる。今の時代にこんなものを世に出してしまえば、新たな争いの火種となりかねない」
亜矢は完全に絶句してしまった。一見人類にとって夢の様な細胞が、一歩間違えれば人類を滅ぼしかねない災厄の種であったなど。
だがこの場での本当の問題はそこではない。問題はもっと別の所にあった。
「ちょっと待ってください。教授、そんな危ない物を門守君に使わせようとしていたんですか!?」
白上教授の話を信じるなら、仁はあと一歩と言うところで彼自身を人外に変貌させてしまいかねない危険なものを使いそうになったという事になる。それを説明する前に使わせようとしたことに、亜矢は白上教授に詰め寄ろうとした。
「その為のDNAドライバーだ。このドライバーには、超万能細胞からの影響を最小限に抑える機能がある。これを介してベクターカートリッジを使えば、超万能細胞の利点だけを引き出して肉体を強化できる。それが仮面ライダーだ」
そう説明されはしたが、亜矢はまだどこか納得できてはいない感じだ。無理もない。どう言葉を並べようと、仁に爆弾を抱えながら戦わせようとしたのは事実なのだから。
だが確かにこのDNAドライバーが無ければ、仁は今この場に居なかったかもしれない。
しかし――――――
「ふ~ん……DNAドライバーねぇ……何か言い辛いな? う~ん…………よし、デイナだな」
「え?」
「これの名前だよ。DNAドライバーなんて呼び辛い。『D』で『デイ』、『NA』で『ナ』。だからデイナ。その方が呼び易いしカッコいい。良いですよね、教授?」
こんな時に何を言っているんだと亜矢は呆れた。まぁ彼のマイペースさは今に始まった事ではないし、この程度であれば寧ろ可愛い方なので目くじらを立てる程の事でもないが。
一方、心血注いで作り上げたDNAドライバーに勝手に新しい名前を付けられてしまった白上教授はと言うと、こちらはこちらで苦笑を堪えずにはいられなかった。仁は自分が危ない橋を渡りかけていた事など微塵も気にしていない。教授が思っている以上に、彼は自分の好奇心に正直な男なのだ。過去の身の危険より、今、そして未来への好奇心の方を彼は取ったのである。
「ハハ、そうだな。確かにそちらの方が呼び易い。良いだろう、今日からそいつはデイナドライバー。君は仮面ライダーデイナだ」
「どうも」
「ちょっと待ってください。また門守君を戦わせる気ですか?」
一度は落ち着いた亜矢だったが、白上教授の言葉に黙ってはいられなくなった。先程は止むを得ない理由で仁を仮面ライダーに変身させてしまったが、本来彼にそんな危ない事をする義理はない筈だ。また彼が死に掛けるのではないかと思うと、彼の学友として黙ってはいられなかった。
「仕方がない。奴がここに現れた以上、次が無いとも限らない」
「ですが、門守君はただの学生なんですよ? もっと他に、それこそ警察官や自衛官に適任な人が居るんじゃないですか?」
「残念だがもう手遅れだ。デイナドライバーは最初に使用した人間の遺伝子をマスターとして登録するように設定してある。外部から解除されないよう、何重にもプロテクトを掛けてね。今更彼以外の人間に使わせることは出来ない」
いっそ無情とも言える白上教授の言葉に、最初亜矢は唖然としてしまっていた。だが次の瞬間、彼女にしては珍しく本気で憤り立ち上がると教授の顔を平手打ちしようとした。
それを察した仁が、彼女の手を取って宥めた。
「まぁまぁ、落ち着きなって」
「これが落ち着いていられますか!? 門守君は良いんですか!? また死に掛けるかもしれないんですよ!?」
亜矢は目尻に涙を浮かべながら問い掛けた。
「本当に、死ぬかもしれないんですよ? さっきだって、危ない所だったじゃないですか」
言いながら亜矢は自分の手を見た。先程仁の傷口を必死に押さえた両手。ここに来る途中トイレの洗面台で洗い落としはしたが、あの時の血の生暖かさと感触はまだ手に残っているし、服の方には所々に彼の血が付着している。
他人の命が流れ出るあの感触は、当分忘れられそうにない。思い出すと今でも体が震えるようだった。
「嫌なんです、私…………もう誰も、私の前から居なくなって欲しくないんです。怖いんです」
両手で自分の体を抱きしめ、背を丸める亜矢の姿はまるで孤独と寒さに震える子供の様だった。
その姿に、白上教授も罪の意識に胸を痛めた。
「正直、私もすまないと思っている。奴が……ファッジが来たのは間違いなく私を狙っての事だ」
「ファッジ……それがあの怪物の名前ですか?」
「あぁ。今言った、超万能細胞の能力により他の生物の遺伝子で全身を変異させた人間が、あれだ。ドライバーを介さず直にベクターカートリッジを使うと、ああなる」
白上教授による簡単な説明に頷きつつ、仁は震える亜矢の肩に手を置いた。
「悪いけど、双星さん。俺も止めるつもりは無いよ」
「え? な、何でですか? 危ない目に遭うのが、平気なんですか?」
「う~ん、危ない目に遭うのが平気って言うより、もっともっとこれの事が知りたいんだよね……俺」
仁は二つのベクターカートリッジを軽く投げて片手でキャッチし、もう片方の手にデイナドライバーを持ちながら言った。
「自分でも心底どうしようもない馬鹿な奴だとは思うけど、俺はこのドライバーとベクターカートリッジの事がもっともっと知りたい。徹底的に研究して徹底的に検証したい。その為なら俺はいくらでもやるよ」
「何でそこまで……」
亜矢には仁の考えが理解出来なかった。彼が自分の知的好奇心に正直なのは知っていたが、ここまで向こう見ずの馬鹿だとは思っていなかったのだ。今、彼女は仁との間に大きな溝を感じていた。
だが――――――
「こいつもきっと、こんな戦うだけじゃなくてもっと平和な使い道がある筈なんだよ。双星さんさっき言ってたじゃん。医療で大活躍できるって。どんな技術にも、良い面と悪い面があるのは当然だよ。俺はその良い面を掴み取りたい」
仁はただ自分の知的好奇心を満たす為だけにドライバーとベクターカートリッジに関わろうとしていた訳ではなかった。彼はこの技術の平和利用の為の道を模索する為に危険に飛び込もうとしているのだ。
ハッキリ言って、今までの亜矢の中で仁は自分の好奇心に素直なだけの研究馬鹿と言う印象が強かった。だがそれがこの瞬間180度変わった。彼は自分の為でなく、他人の為に常日頃知識を集めていたのだ。
それが分かると、仁の姿が今までと違って見えた。亜矢の体の震えは気付けば止まっていた。
もう亜矢には、仁を止めることは出来なかった。彼の意志は彼女が思う以上に固い。それに対抗できる意志を持たない亜矢に、これ以上何かを言うことは出来なかった。
「……改めて言わせてくれ。門守君、すまなかった。そしてこれから、よろしく頼む」
印象が変わったのは白上教授の方もだった。ただの勉強熱心なだけの学生だと思っていた仁が、実は心に彼なりの熱いハートの持ち主だと理解した。
その彼への敬意を称して、教授は彼に握手を求めた。差し出されたその右手を、仁はしっかりと握り返すのだった。
***
その後もデイナドライバーやベクターカートリッジの事に関する話などをしていたが、気付けば日も大分傾きもうすぐ夕方になろうと言う時間になっていた。
今日はもう解散と言う事になり、2人は白上教授の車でそれぞれの家へと送られていく。
因みに三人が研究室のある研究棟を出た時には既に大学の敷地内は騒動の対処に来た警察が来ていて、避難もせずに研究棟に残っていた事をこっぴどく叱られた。
そんな事がありながらも、帰路に就く三人。仁は昼間の戦闘で何だかんだ疲れが溜まっていたのか、眠ってしまっている。
仁の寝顔を横目で見つつ、亜矢は白上教授に気になっていた事を訊ねた。
「教授、一つ先程は話されていない事を聞きたいんですが?」
「何かね?」
「超万能細胞の研究資料は、教授がご自身で破棄されてるんですよね?」
「その筈だよ」
「じゃあ、あのファッジは一体誰が?」
本来であれば存在する筈の無いファッジの出現に、亜矢は強く疑問を抱いた。彼女の心が強く騒いだ。白上教授は信用できないと。
その質問に対し、白上教授は直ぐには答えなかった。ただ前を見据えて、ハンドルを握るだけ。
だが何かの覚悟が決まったのか、教授が何かを言おうと口を開きかけた。
その時、白上教授が運転する車が銃撃を受けた。銃弾は全て車体には命中せず前方や側面の道路に穴を穿っただけであったが、突然の銃撃に白上教授は慌ててハンドルを切った。
「きゃあっ!?」
「くっ!?」
車は派手なブレーキ音を立ててドリフトしながら停車し、地面から煙が上がる。
「いたたた……い、今のは?」
「早速……お出ましみたいだな」
「あぁ、そのようだ」
混乱する亜矢に対し、仁と教授は早くも状況を察していた。このまま車内に居てはまずいと、混乱する亜矢を促して車外に出る。
周囲には突然急停車した白上教授の車に野次馬が群がっていた。事故を起こしたとでも思ったのだろう。
そこに、昼間仁と戦ったスパイダーファッジが姿を現した。人々の視線は、フィクションの世界から出てきたようなスパイダーファッジに興味をそそられ視線だけでなく携帯のカメラまで向ける。
「なになに? 何あれ?」
「映画の撮影か?」
「鬱陶しいわね……失せなさい!!」
「止せ!? いかん皆逃げるんだ!!」
周囲からの視線が煩わしくなり、スパイダーファッジは手から出す糸を近くの標識に巻き付けた。それに白上教授は危機感を感じ周囲に逃げるよう警告するが、一歩遅くスパイダーファッジは引き千切った標識を威嚇の様に周囲に叩き付けた。
飛び散る道路の破片が当たった何人かが怪我をし、そこで漸く周囲の人々もこれが映画の撮影でも何でもなく現実であると理解した。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「助けてぇぇぇッ!?」
蜘蛛の子を散らすように逃げる人々。その中で3人は真っ直ぐスパイダーファッジを見つめている。
「これで邪魔な連中は居なくなったわ。さっきぶりね」
「正直、こっちはもうアンタの顔を拝みたくはなかったけどね。もう疲れたよこっちは」
「悪いけど、もう少し付き合ってもらうわよ」
スパイダーファッジがそう言って片手を上げると、建物の陰から数人のフルフェイスヘルメットを被った者達が銃を手に現れた。先程の銃撃は彼らだろう。
その彼らは、徐に黒いベクターカートリッジを取り出すとコックを捻り押し込んで首筋に押し当てた。
〈ANT〉
ベクターカートリッジが首筋に入り込むと、彼らの体が変化し黒い甲殻を持つアリの様な怪人――アントファッジとなった。アントファッジは銃剣付きの銃を構え、3人を包囲する。
「さぁ、どうする?」
この状況、並の人間であれば両手を上げて降参するしかない。相手は皆銃を持っているのだ。無手では勝ち目がない。
しかし仁は違った。何が何だか分からなかった先程とは違い、今は力の使い方も戦い方も分かる。
それを実践しようと彼が前に出ようとすると、咄嗟に亜矢が彼の服の裾を掴んで引き留めた。仁が見ると、亜矢は不安そうな顔をしている。
そんな彼女の顔に、仁はフッと笑みを浮かべた。基本表情を表に出さない彼には珍しい、感情を感じさせる顔だ。
「……ありがと」
「あ……」
仁は優しくそう言って亜矢の手を外すと、アントファッジ達の前に立ちデイナドライバーを腰に装着し両手にベクターカートリッジを持った。
「さて、検証の時間だ」
〈BUFFALO〉
〈HUMAN〉
赤と白のベクターカートリッジのコックを捻って押し込み、それをベルト上部のソケット部に装填した。
〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉
ベルトから電子音が響き、セントラルドグマが光を放ち始める。仁はその光を視界に収めつつ、右手をベルト右側のグリップに添え左腕は真っ直ぐ伸ばして左掌を右肩の前で構えた。
「変身!」
〈Open the door〉
仁が左手をスライドさせて右肩の前から左肩の前に移動させながらグリップを引くと、セントラルドグマから赤と白の二重螺旋が飛び出し彼らを包囲しているアントファッジ達をしなる鞭の様に弾き飛ばす。そして二重螺旋の先端が自分に向かって突っ込んできたのを見て、仁はそれに向けて正拳突きを放った。
ぶつかり合う拳と二重螺旋。すると次の瞬間、仁の体が変化した。
一瞬だけ姿を現す、日中も変身した基本形態のネイキッドフォーム。そのアンダースーツがグレーから白に代わり、装甲も赤く堅牢な力強いものとなる。
仮面は保護ゴーグルの様に繋がった緑の複眼はそのままに、クラッシャーが白、それ以外が赤くなり更に額からはバッファローの様に湾曲した金色の角が2本生える。
これこそが真の力を発揮したデイナ……『仮面ライダーデイナ・バッファローヒューマンフォーム』である。
「よっし……行くぞ」
ベクターカートリッジを使用して変身したデイナは、体勢を立て直したアントファッジ達との戦闘を開始した。
アントファッジ達は四方八方からデイナに銃撃を浴びせるが、デイナは素早い身のこなしで銃弾の間を搔い潜る。何発かは命中するが、デイナ・バッファローヒューマンフォームの装甲はその程度の銃弾など物ともしない。
「そら」
「がぁっ?!」
デイナの正拳突きがアントファッジを一撃で吹き飛ばす。吹き飛ばされたアントファッジは壁に叩き付けられると、体を痙攣させてそのまま動かなくなった。
その能力に、誰よりも一番驚いているのはデイナに変身している仁自身である。
「おぉ、こいつは凄いな」
自分の能力に感心していると、数体のアントファッジが銃に取り付けられた銃剣で斬りかかってきた。銃撃で駄目なら接近戦で、という事だろう。
それに気付き、デイナは気持ちを切り替え構えを取ると、振り下ろされる刃を次々に弾き、受け止め、反撃の拳や手刀を叩き込む。
「なるほどね。バッファローの強靭な筋力と人間の柔軟な動き。2つを兼ね備えたのがこの姿か。良いね、使い易い」
戦いながらも、仁はデイナの能力測定を怠らない。何が出来て何が出来ないのか、それを彼は戦いの中で見極めていた。
最初は何体も居たアントファッジも、デイナの活躍であっという間にその数を減らしていく。そして遂に、最後の1人が倒されてしまった。
「はい、これでお終いっと。次はお前さんだ。昼間殺されかけた、借りを返させてもらうよ」
スパイダーファッジを指差すデイナ。だがスパイダーファッジは、彼を鼻で笑うと最初に倒されたアントファッジの首筋に手を突っ込んでベクターカートリッジを引きずり出した。
「ッ!? お、おい何やって――」
白上教授から既に話は聞いているが、ファッジは大きなダメージを与えればベクターカートリッジが排出されて元の人間に戻れるらしい。ただしこれはベクターカートリッジを常習的に直挿ししていない場合に限った話で、何度も直刺しした場合細胞の変異が後戻りできないくらい進んでしまうとの事だが。
デイナによって倒されたアントファッジの中には、既にベクターカートリッジが排出されて元の姿に戻っている者が何人か居る。あのアントファッジも、まだ元に戻れる可能性はあった。
しかし――――――
「有効活用よ」
〈MANTIS〉
スパイダーファッジはそんなことお構いなしに、使用者の生命等度外視してベクターカートリッジを引きずり出すと別のベクターカートリッジをそいつに刺した。するとアントファッジだったそいつの体は一瞬人間の姿に戻ったが、次の瞬間には緑の体躯に両手に鎌を携えたカマキリの特徴を持つファッジ、マンティスファッジへと変異してしまった。
「ウゥゥゥ……」
「さぁ、やりなさい」
「ウ、ァァアアアアアァァァ!!」
マンティスファッジは、スパイダーファッジの命令と同時にデイナに襲い掛かった。両手の鎌を武器に、デイナに素早く斬りかかる。
「うぉっと!?」
思っていた以上の速度に、デイナは面食らいつつも何とか防御する。相手の攻撃を防ぐ事に成功すると、お返しとばかりに回し蹴りを放つがマンティスファッジの素早さは彼の予想を遥かに超えていた。
紙一重でデイナの回し蹴りを回避すると、素早く背後に回り両手の鎌で彼の背中を切り裂いた。
「シャァッ!」
「イッテェ?! んのやろ」
デイナの攻撃はマンティスファッジになかなか当たらない。獲物を狩る瞬間のカマキリの瞬発力は、人間やバッファローのそれを上回る。普通にやっては勝ち目はない。
亜矢は追い詰められつつあるデイナの姿に居てもたってもいられなくなり、白上教授に何とかできないかと詰め寄った。
「教授、門守君が!? 何とかならないんですか!?」
正直な話、何とかしたいのは白上教授も同じだ。だがデイナドライバーは“今は”仁が使っている物しかないし、ベクターカートリッジもあの2本しかない。助太刀に入ろうにも、迂闊に近づけば逆にこっちの命が危ないだろう。今の2人に出来る事は何もない。
亜矢と白上教授が己の無力さに嘆いていると、突然デイナが動きを止めた。仁王立ちして、両手を花のような形にして腹の前で構えている。
一体何をするつもりなのか、亜矢と教授が見守っているとマンティスファッジがデイナの周りをぐるりと一周した。動かない獲物をどこから切り刻もうかと考えているのだろう。
一周回り。やはり背後から一撃で仕留めようと鎌を振り下ろす。
「門守君!?」
デイナの危機に、亜矢が思わず声を上げる。
だが次の瞬間、デイナは振り下ろされたマンティスファッジの鎌を見事に受け止めた。
「何ッ!?」
これで決まると思っていたスパイダーファッジは、目の前の光景に絶句する。
対して、デイナは何時もと変わらぬ調子で口を開いた。
「カマキリに限らず、虫の多くは動くものに対して敏感な反面、動かないものに対する反応は鈍い」
厳密に言えば、マンティスファッジは人間としての側面も持っているので、動かない相手でも見ることは出来る。だが見れはしても、反応は動くものに比べれば僅かに劣る。
仁は先程の攻防の中で、その僅かな変化を観察していたのだ。
「だからもしやと思ったんだけど……仮説は証明されたみたいだな」
デイナはそう言ってマンティスファッジの鎌を振り払うと、先程までのお返しとばかりに正拳突きを何発も浴びせた。一度勢いを殺されてしまうと、今度はマンティスファッジが圧倒的に不利だった。瞬発力の上ではあちらに分があったが、力比べと防御力ではデイナの方が上回っている。一度受け手に回ってしまえば、それを覆すのは難しい。
デイナの回し蹴りがマンティスファッジを蹴り飛ばす。マンティスファッジは、度重なるダメージで自慢の瞬発力も発揮できない程に弱り切っていた。
「それじゃそろそろ、トドメと行きますか」
そう呟くと、彼はデイナドライバーの右側面のグリップを一度引いた。するとその瞬間、セントラルドグマが強い光を放つ。
〈ATP Burst〉
ドライバーのグリップを引くと、ベクターカートリッジ内の超万能細胞が一気に活性化し大量のエネルギー『ATP』を産生。それがデイナの全身を巡り、彼の能力を一時的に底上げする。
「はぁぁぁぁぁ……」
デイナはマンティスファッジに向けて構えを取った。マンティスファッジは何とか攻撃を阻止しようとするが、動きが鈍っており今のデイナにはいい的だ。
そのマンティスファッジに向け、デイナは駆け出すとその勢いのままに跳躍し体を捻りながら飛び蹴りを放った。
「ハァッ!!」
錐揉み回転しながら放たれた飛び蹴り『ノックアウトクラッシュ』は、遺伝子の二重らせん構造の様な軌跡を描いてマンティスファッジに突き刺さる。諸に喰らったマンティスファッジは、体に穴を穿たれるのではと言う程の威力に大きく吹き飛ばされた。
「……レポートは纏まったな」
「グォオオオオオオォォォッ?!」
デイナの必殺技を食らい、マンティスファッジは爆発。後には排出されたベクターカートリッジと、辛うじて息のある変異させられていた人間が残された。
まさかプロフェッサーから直に渡されたベクターカートリッジで生み出したファッジが倒されるとは思っておらず、スパイダーファッジも狼狽えた。
「まさか……こんな!?」
「さて、次はお前さんだ」
デイナはこのままの勢いでスパイダーファッジを倒そうと意気込む。対するスパイダーファッジは、舐められたものだと迎え撃つ構えを取るが、この2人がこれ以上戦うようなことにはならなかった。
何故なら、マンティスファッジだった奴のみならず倒されただけのアントファッジだった連中が一斉に体から火を噴いて燃え上がり始めたのだ。
「うぉっ!? え、何? 俺の所為?」
「…………どうやら今日はここまでの様ね」
「あ?」
どう言う事かとデイナが訊ねようとするが、スパイダーファッジは何も答えずにその場を糸を使って飛び去って行った。あの機動力は流石に追い付けないと、デイナは追撃を諦めドライバーからベクターカートリッジを抜き取り変身を解除した。
そして元の姿に戻った仁は、既に燃えカスとなっている人だったもの達の姿に溜め息を吐く。
「全く……酷い事するなぁ」
「門守君!」
犠牲となった者達に哀れみを抱いていると、亜矢が近付き怪我が無いかを確認した。
「門守君、大丈夫ですか? さっき酷くやられている様に見えましたけど?」
「いや、思ってるよりも大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「い、いえそんな……大丈夫そうで良かったです」
ホッと胸を撫で下ろす亜矢の姿に、仁も今し方感じた哀れみや憤りを一時忘れた。何だか今日は随分と彼女に心配を掛けてしまった。それは後日何らかの形で詫びておこうと、仁は頭の中でメモしておく。
そこに白上教授もやって来た。
「お疲れ様だ、門守君。凄いな、もうそいつを手足の様に扱えるとは」
「なんの、まだまだこれからですよ。それより車の方は大丈夫ですか?」
「あぁ、幸い銃弾は何発か掠った程度で、走る事に問題は無い」
「そんじゃ、労いの代わりにこのまま家に送ってもらってもいいですか? 正直今日はもうクタクタで……」
図々しいにも程がある発言だが、この場でそれを咎める者は誰も居ない。今日誰が一番大変だったかなど、亜矢も教授も嫌と言う程理解しているからだ。
「それくらいならお安い御用さ。さ、2人共乗るといい。快適なドライブを約束しよう」
お言葉に甘えて仁と亜矢は教授の車に乗り、再び走り出した。クタクタと言う言葉に嘘はないのか、仁は走り出して一分も経たない内に眠りについてしまった。
穏やかな寝息を立てて眠る仁の横顔を、亜矢は労いの意味を込めて優しく見つめていたのだった。
と言う訳で第2話でした。
これが今後のデイナの戦い方となります。かな~りビルドと近い戦い形なりますがそこはどうかご勘弁を(;´∀`)
ついでに言っておきますと、本作はかなり命が安い作品となっておりますがそこはご勘弁を。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします
次回の更新もお楽しみに。それでは。