お気に入り登録ありがとうございます!励みになります。
亜矢がS.B.C.T.と共に工場に潜んでいた傘木社の保安警察の部隊と戦闘を行っていたのとほぼ同時刻、仁はデイナに変身してヘテロと戦っていた。
明星大学の研究棟で始まった戦い。容赦なく攻撃するヘテロに対し、デイナは出来るだけ周囲への被害を抑える為戦い方に制限を受けていた。
武器の使用は厳禁、相手の攻撃は回避してはならない、攻撃の際ヘテロの背後に人や他の研究室が無い事を確認など普段は考えなくても良い事を考えながらの戦闘はデイナの動きを何時もより鈍くしていた。
「そらぁっ!」
「ぐっ……」
ヘテロの振り回すテイルバスターを、デイナは両腕で防ぐ。ここで回避しては、背後にある何処かの研究室が被害を受けてしまうからだ。
デイナが反撃してこない事に、ヘテロは不満そうに鼻を鳴らした。
「ふん。つまらないわね。そんなに学校が大事?」
「当たり前じゃん。俺、ここ好きだから」
「あ、そ。じゃあ本気でやらないと、自分だけじゃなく学校もただじゃ済まないんじゃない!」
気に入らないと言いたげにヘテロはデイナを蹴り、廊下の先に吹き飛ばした。デイナが蹴り飛ばされた先には、野次馬をしていたと思しき学生が居た。彼らはデイナが飛んでくると、悲鳴を上げて逃げていく。
「い、つつ……」
「あ、あわわ……」
「ッ!」
体を廊下に叩き付けられたデイナが痛みに仮面の奥で顔を顰めながら立ち上がると、直ぐ傍から誰かの声が聞こえた。弾かれるようにそちらを見ると、腰が抜けて逃げ遅れたのか廊下にへたり込んでいる学生が1人居た。
離れた所からはこの学生の友人だろう、数人の学生が急いで離れるように声をかけている。しかし本人は逃げたくても足が上手く動かないのか、ジタバタするだけでその場から動く様子がない。
それに構わず、ヘテロはデイナにテイルバスターの銃口を向けた。あの銃弾は炸裂弾、着弾すれば穴を穿つだけでなく爆発して周囲に被害を齎す。この学生もただでは済まないだろう。
「早く立って、ほら」
「ひ、ひぃぃっ!?」
ヤバいとデイナが学生を無理矢理立たせて押し出すが、学生はデイナに対してもビビり思うように動いてくれない。ヤキモキしているとヘテロがデイナに向け引き金を引いた。
響く銃声に、デイナは止むを得ないと学生を伏せさせ翼で自身と学生を包んだ。銃弾が翼に着弾すると、激しい爆発が起こりデイナを中心とした廊下が一瞬火の海になる。その光景に遠巻きに見ていた学生は悲鳴を上げ、近くの壁や部屋が爆風で破壊された。
炎と煙でデイナと学生の姿がかき消される。しかしヘテロは今のでデイナを仕留めたとは思っていなかった。この程度で死ぬほど彼が柔ではないことはとっくの昔に分かっている。
それを証明するかのように、廊下に広がっていた煙が突風で吹き飛ばされた。デイナが翼を羽搏かせて煙を吹き飛ばしたのだ。
翼を盾にしたことで、デイナには殆ど損傷が見られないし学生に至っては傷一つない。
追撃が来ないのを見ると、デイナは学生を再び立たせ今度こそその場から逃がした。
「ほら、今の内。早く逃げて」
「は、はい!」
危ないところをデイナに助けられた学生は、彼に促されるままその場を離れた。残されたデイナは、これ以上ヘテロに攻撃させない為に打って出る事にした。
「お前、いい加減にしろよ」
翼を畳み、ヘテロに駆け寄るデイナ。それをテイルバスターで迎え撃とうとするヘテロだったが、彼女が引き金を引く前にデイナがそれを妨害すべく行動した。
徐に近くにあった自販機に腕を突っ込むと、パワーに物を言わせて自販機を持ち上げヘテロに投げつけたのだ。固定する為のボルトや、電力供給用のコードも引き千切り更には放り投げる。驚異的な能力を持つ、二つの恐竜ベクターカートリッジだから為せる事だろう。
「ッ!? チッ!」
あれを喰らえば流石に堪ったものではない。ヘテロはデイナよりも先に飛んでくる自販機に狙いを定め、テイルバスターで撃ち落とした。炸裂弾が自販機を木っ端微塵に吹き飛ばす。
その爆発を突き破って、デイナがヘテロに肉薄した。自販機は謂わば囮であり、こうして接近することが目的だったのだ。大学の備品である自販機を壊してしまったが、あれは所謂コラテラルダメージという奴だろう。
ヘテロに接近したデイナは、彼女の腕を掴んでテイルバスターをあらぬ方向に向けさせた。
「なっ!?」
「いい加減表出るぞ。ここで暴れたら他所の研究室まで滅茶苦茶になる」
そう言ってデイナはヘテロを窓から放り投げた。窓というか、先程まで窓があったところと言うのが正しいだろう。外と面する壁は、ヘテロの銃撃により吹き飛び大きな穴が開いている。もう風通しがいいとかそういうレベルではない。
研究棟の外に放り投げられたヘテロは、空中でバランスを取り難なく着地する。だが彼女が着地した直後、後を追って飛び出したデイナが着地の瞬間を狙って飛び蹴りを放っていた。
「はっ」
「遅い!」
放たれた飛び蹴りを、しかしヘテロはテイルバスターで弾き返す。
体勢を崩されたデイナだが、即座に翼を広げてバランスを取るとそのまま低空飛行してヘテロの背後を取った。無防備な背中をデイナに晒したヘテロは、次の彼の行動に対して反応が遅れた。
「あっち行け」
「グッ?!」
背中を思いきり蹴り飛ばされ、更には翼を羽搏かせて起こした突風でヘテロを遠くへ吹き飛ばす。
ヘテロが吹き飛ばされたのは大学敷地内にある広場。普段であれば学生達の憩いの場となる、花壇や噴水がある場所である。
ここなら多少暴れても被害は少なくて済む。既に研究棟が一部被害を受けてしまったが、これ以上広げない為だ。
「デイナ、デイナぁ!?」
ヘテロがデイナに向けてテイルバスターを振り下ろす。それを彼は左腕で剣の腹を叩く事で逸らし、隙を晒したところに正拳突きを叩き込んだ。
「ふっ」
「うぐっ!?」
胸板を拳で殴られ、息を詰まらせながらヘテロが吹き飛ぶ。背中から地面に叩きつけられたヘテロは、直ぐに立ち上がるとテイルバスターを持ち替え銃口をデイナに向けようとした。距離が離れたから銃撃で対応しようと言うのだ。
あれを使われては受けても避けても大学への被害が大きくなる。デイナはさせてなるものかと、一気に接近しテイルバスターを掴んで銃口を空に向けさせた。
「それ使うな、大学が壊れる」
「離せ、このっ!?」
互いにテイルバスターを掴んで揉み合いになるデイナとヘテロ。武器を手放させようとするデイナとさせまいとするヘテロの勝負は、デイナが僅かに勝りヘテロのバランスを崩させた挙句振り回して手放させる事に成功した。
もぎ取るようにしてテイルバスターをヘテロから奪うと、それを遠く離れた所に向けて放る。武器を回収しようとヘテロがそちらに向けて走るが、デイナはそれをさせまいと彼女の襟首を掴んで引っ張りテイルバスターが飛んでいった方とは逆方向に投げ飛ばした。
「くっ、んのぉっ!?」
「来いよ、互いに無手での戦いだ」
デイナの挑発にヘテロが乗った。拳を握りデイナに徐々に近づくヘテロに対し、デイナは自然体で近付いていく。構えも取っていない自然体だが、しかし対峙しているヘテロは彼に隙が無い事を肌で感じていた。
今の彼は言うなれば居合抜きの構えをしている様なものだ。力を態と緩めて、攻撃の瞬間まで待っているのだ。
まるで西部のガンマンが抜き打ちの勝負をしているかのような緊張が周囲に漂う。その緊張は遠巻きに見ている一部の学生達も感じており、彼らは固唾を飲んで2人の戦いを見守っていた。
その中には白上教授を始めとした研究室の面々も居た。
束の間の静寂。2人の間を風が吹き抜け、戦いの影響で発生した砂が一瞬2人の視界を僅かに遮った。
次の瞬間――――
「ハァッ!」
出し抜けにデイナの後方からダークスティンガーが飛び掛かった。工場を後にしてからここまで、ルーナに追跡されながらも大学まで辿り着きデイナの不意を突いたのだ。
しかし精神を研ぎ澄ましていたデイナはそれに素早く反応し、振り返る事なく翼を広げてダークスティンガーを打ち払う。不意を打った筈が予想外の反撃を喰らい逆にダークスティンガーの方が吹き飛ばされた。
「ぐはぁっ!?」
「はぁ……次から次へと」
「く、くそっ!?」
不意打ちが失敗したダークスティンガーは、立ち上がるとヘテロの傍に駆け寄った。不意打ちが失敗した以上、後は彼女と2対1で攻めるしかない。
「手を貸せ。2人で仕掛ける!」
再度デイナに攻撃しようとダークスティンガーが一歩前に足を踏み出す。ヘテロはそれを妨害するかのように、彼の肩を掴んで後ろに押しやった。
突然の彼女の行動にダークスティンガーは困惑しながらも抗議する。
「な、何だいきなり!?」
「アンタさぁ……邪魔。デイナは私の獲物よ。私が倒すの。アンタは引っ込んでて」
そう言ってヘテロはダークスティンガーをその場に置き去りにしてデイナに挑みかかった。それを見送ったダークスティンガーは、焦りと苛立ちを滲ませながらも彼女に続きデイナに攻撃を仕掛ける。
「そうもいかない! こちらにも事情があるんだ!」
「直挿しファッジに殺されかけて、利用価値が下がったから? 下らない」
「お前、見てたのか!?」
「アンタが無様に死に掛けるところをバッチリとね。今まで日和って後ろでヌクヌクしてたツケが回って来たんじゃない? 出撃回数、ぶっちぎりで低いのアンタよ」
内輪揉めをしながらも、2人のデイナに対する攻撃は緩まない。強固な装甲でデイナの攻撃を的確に防ぐヘテロと、鋭い針を用いて巧みにデイナを攻めるダークスティンガー。連携もへったくれも無い戦いだが、奇跡的に互いに邪魔をする事なくデイナを相手に善戦できている。
「ハァッ!」
「フンッ!」
「っと……」
これ以上2人から同時に攻撃されては反撃も儘ならないと、デイナは一旦2人から距離を取った。
「はぁ……ウニ野郎だけならともかく、今の蜘蛛女まで纏めて来られると少し面倒だな」
本気でやればどうにかできるだろうが、ここが大学敷地内であると言う事が問題になる。ヘタに本気を出して、大学の被害を広げてしまっては本末転倒だ。
デイナがどうすべきか悩んでいた頃、大学正門前には亜矢を乗せたS.B.C.T.の車が到着した。まだ大学内は混乱が続いているのか、正門からは次々と生徒が飛び出してくる。
「仁くん、やっぱり――!? 北村さん、ありがとうございます!」
「お気になさらず。さ、早く!」
ここまで法定速度ギリギリで飛ばしてくれた事への感謝もそこそこに、亜矢は人の流れに逆らうように正門へと入っていく。
彼女が大学に到着すると、その姿を美香が見つけ声を掛けてきた。
「あ、亜矢!」
「篠崎さん! 今、何がどうなってます? 仁くんは?」
騒動が起こっている様子から戦いが起こっているのは間違いないだろうが、何処でどうなっているのかが来たばかりの亜矢には分からない。
それを察した美香は、手短に現状を説明してくれた。
「チラっと見たけど、今は研究棟前の広場で戦ってるみたい」
「広場……分かりました、ありがとうございます!」
「気を付けて!」
美香に見送られ、研究棟前の広場へと向かう亜矢。正門からなら、研究棟前の広場までは直ぐだ。
果たして直ぐに亜矢はデイナが戦っている姿を目撃する。ヘテロとダークスティンガー、2人からの攻撃をデイナは可能な限り周りに被害を広げない様にしながら対応していた。
「仁くん!」
見た所仁は苦戦している訳ではないようだが、それでも戦い辛そうだ。やはり周りに被害を与えない様にしつつ1人で戦うのは、彼に通常以上の負担となるのだろう。
ならば、その負担を少しでも和らげる!
「行くわよ、真矢!……オーケー、亜矢! 変身!」
〈CAT Unite Open the door〉
亜矢はルーナ・ユナイトに変身し、今正に自分に背を向けているダークスティンガーを背後から銃撃した。ここで漸くルーナの登場に気付き、撃たれたダークスティンガーだけでなくデイナとヘテロも戦闘を中断した。
「亜矢さん、真矢さん」
「遅れてすみません。……助太刀するわ!」
デイナの隣に並び立ち、リプレッサーショットⅡを構えるルーナ。ヘテロはそれを前にしても、少しも臆することなく鼻を鳴らした。
「ふん、今更のご登場とはね」
「悪いわね、遅れちゃって。……ここからは私もお相手します!」
互いに火花を散らすルーナとヘテロ。一方、ダークスティンガーはデイナとルーナが揃った事で自分達の不利を察していた。
先程まで、デイナ1人を相手に持ち堪えられていたのだ。ここにルーナまで加われば、それこそ敗北してしまいかねない。
特に今回は、雄成からの指示で勝手な撤退が許されていないのだ。生き残る為には、雄成の許しが来るまで戦い続けるか勝つしかない。
どうすればいいか……ダークスティンガーが頭を働かせたその時、今度はデイナのすぐ近くにあったマンホールが高々と吹き飛んだ。そこから出てきたのは、体を液状化させていたリキッドファッジ。
「えっ?」
「な、何ッ!?」
突然の出来事にデイナとルーナの視線が、吹き飛んだマンホールと新たに出現したリキッドファッジに注がれる。リキッドファッジは空中で一旦体を形作ると、再び体を液状化させルーナに纏わり付き彼女の体を拘束した。
「なっ、ちょ!? 離しなさいよ!?」
「真矢さん!?」
ルーナが液状化したリキッドファッジに絡みつかれたのを見て、デイナが彼女を救うべく手を伸ばす。だがリキッドファッジが出てきたのと同じマンホールから、トクシックファッジの尻尾が伸び尾の先端の毒針をデイナに突き刺した。
「ぐぁっ?!」
「仁くん!?」
トクシックファッジの毒針から猛毒が注入され、デイナがその場に崩れ落ちる。彼が崩れ落ちると同時にリキッドファッジがルーナを解放し、ダークスティンガーは喜び拳を握った。
「よし! これで……」
デイナを倒せたことだし、これで自分は生き残れる。そう喜んだダークスティンガーに対し、ヘテロは悔しそうに奥歯を噛み締めた。自分が倒す筈だったデイナが、横から掻っ攫われてしまった。あの毒の威力は知っている。解毒しなければ数時間と絶たずに命を落とす。彼が解毒剤なんか持っている訳がないから、これで一巻の終わりだろう。
「……くそ」
悪態を吐くヘテロは、視線をデイナに駆け寄るルーナに向けた。何も出来ないのに彼女はデイナに必死に声をかけている。
「仁くん、仁君!? しっかりしてください!」
「あや、さん……」
ヘテロは無言で2人に近付くと、ルーナの首を掴みデイナから引き剥がした。
「うあ゛っ!? く、何を――!」
「お腹、空いた……満たしてよ……誰か、誰か私を満たしてよ!?」
叫びながらヘテロはルーナを投げ飛ばした。ルーナは何とか受け身を取り、すぐさま立ち上がるとリプレッサーショットⅡを構える。
「邪魔しないでよ!?」
「五月蠅いわね!? どいつもこいつも……もうアンタで良いから私の事満たしなさい!?」
「訳分かんないわよ!」
自分勝手な事を言いながら迫るヘテロをルーナが銃撃するが、二丁拳銃状態での銃撃ではヘテロのアンダースーツや装甲を抜く事は出来なかった。パワーはともかく、防御力はヘテロが圧倒的に上だ。
ルーナの銃撃も気にせず、ヘテロが迫りながら手を伸ばす。
あと少しでヘテロの手がルーナへ届く。これ以上は不味いとルーナが回避しようとしたその時、デイナが横からヘテロにノックアウトクラッシュを喰らわせた。
〈ATP Burst〉
「おぉっ!」
「がぁっ?!」
「仁くん!? 大丈夫なんですか?」
「はぁ、はぁ……何とか、ね」
苦しそうに息をしながら、デイナはルーナに答えた。蹴り飛ばされたヘテロは地面に叩きつけられ、ダメージの所為か変身が解除される。
その姿に声を上げたのはダークスティンガーだった。
「そんな馬鹿な!? 奴の猛毒を受けて何故動ける!?」
直にトクシックファッジの猛毒を受けた彼だからこそ分かる。あの猛毒は全ての生物を確実に死に至らす猛毒だ。スズメバチの毒は毒のカクテルと呼ばれるが、トクシックファッジのそれに比べれば遠く及ばない。ダークスティンガーが生き残れたのは肉体改造を施されたからだ。そうでない者が、あのファッジの猛毒に耐えられる訳が無いのである。
狼狽えているのは希美も同じだった。尤もこちらは見て分かるほどに狼狽えている訳では無く、ただじっとデイナの事を見つめるだけである。
「アンタ……本当に人間?」
「何言ってんのさ……間違いなく人間だよ」
希美は暫しデイナの事を見つめていたが、不意に視線を逸らすと踵を返した。先程まで異様なまでにデイナに固執していた彼女が、唐突に興味を失ったようにその場を離れていく事にダークスティンガーも困惑を隠せない。
「お、おい何処に行く?」
「カロリー切れ……お腹空いて死にそうだから今日はもう帰るわ」
「そんな勝手が許されると……って、何だ?」
ダークスティンガーが希美を引き留めようとしたその時、彼の持つ携帯から着信音が鳴る。誰だと通話に出ると、相手は雄成であった。
彼が通話に出るや否や、雄成は彼の声も聞かずに指示を出す。
『グアニン、もう十分だ。戻りたまえ』
「は、え? よ、宜しいのですか?」
『二度は言わないよ。戻るんだ』
「は、はい……」
訳が分からないが、雄成の命令なら従わない訳にはいかない。釈然としないが、ダークスティンガーは大人しくその場を引き下がった。
希美はとっくに大学から出て行っており、トクシックファッジとリキッドファッジも既にこの場から消えていた。
唐突に終わりを迎えた戦い。あまりにも一気に状況が変化した事で呆然とするルーナの前で、デイナが糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ち変身が解除された。
それを見てルーナも慌てて変身を解き彼を抱き起した。
「仁くん!? 仁くん大丈夫ですか?」
亜矢の声に仁は答えない。顔中汗びっしょりで、着ている服がずぶ濡れになるほどの発汗量に亜矢の顔から血の気が引いた。尋常ではない汗の量、そして先程のダークスティンガーの言葉。仁が先程受けた毒は、以前受けたワスプファッジの毒をも超えると言う事だ。
もしあの時と同じなら、あのファッジを倒してベクターカートリッジを回収しなければならない。
だが亜矢の心配を他所に、仁は己の足で立ち上がった。
「うぅ……はぁ、はぁ……」
「じ、仁くん? 大丈夫なんですか?」
「ん?……はぁ……ん~……ふぅ、ふぅ……ちょっと辛いけど……とと、大丈夫。さっきより大分良くなってきたから」
汗は依然として凄いが、顔色自体はそう悪くはないように見える。ダークスティンガーの言葉を信じるなら、今頃仁は満足に立つ事も出来ない筈なのに……。
「本当に大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫大丈夫。この様子なら少し休めば元通りになるだろうから」
そう言って仁は、やや覚束ない足取りで研究室へと向かって行く。亜矢はそれを見て慌てて彼に続き、1人で行こうとする彼を横から支えた。
「ん? 別に大丈夫だよ。これ位なら、1人で行けるし」
「ダメです。ただでさえ仁くん、最近調子悪いんですから。……例え駄目だと言われても私達が支えるから」
頑として譲らない姿勢を見せる亜矢と真矢に、仁は苦笑すると体重を僅かながら彼女に預けた。そこまで言うのなら、お言葉に甘えよう。
「分かった……取り合えず、研究室のソファーまでお願い」
「はい、任されました」
仁はそのまま亜矢に肩を貸してもらい、研究室まで連れて行かれるとソファーの上で泥のように眠った。その間も夥しい汗をかいていた為、亜矢は仁の汗が引くまで彼の体の汗を拭い続けていた。
***
本社に帰還したグアニンは、この事を早速雄成に報告した。
「プロフェッサー、デイナは異常です! 奴は肉体を改造された私ですら動けなくなる程の猛毒を受けて尚自力で動いていました! もしや奴も、白上 源五郎から改造手術を受けていたのでは?」
仁が毒に耐えられた理由は、グアニンにはそれしか考え付かなかった。肉体改造を施されでもしなければあの毒に耐えられないのであれば、改造されていなければおかしい。雄成と白上教授が共同研究していたと言うのであれば、同様に肉体改造の技術を持っていたとしてもおかしくないと言うのが彼の考えだった。
「ふむ……それはあながち間違ってはいないかもしれないねぇ」
グアニンの問い掛けに対する、雄成の答えは酷く曖昧なものだった。明確に改造されているとは言わないが、違うと真っ向から否定もしない。
「それは、一体どう言う……」
詳細を聞こうとするが、雄成はグアニンの方を全く見ようともしない。彼が見ているのはトクシックファッジとリキッドファッジの戦闘で得られたデータだった。先日のグアニン達を相手にした戦闘、そして今回S.B.C.T.とデイナ達との戦闘で得られたデータを整理するのに忙しいらしい。
これは何を言っても聞いてはくれなさそうだ。それを察したグアニンは、頭を下げるとその場から離れていく。
グアニンが出て行き、部屋に1人残された雄成。その方は次第に震えていき、遂には口から笑い声が零れた。
「ふふふ……くくくく……はははははははっ! 遂にここまで来たか、門守 仁君! 待っていたよ、この時を!」
雄成は部屋に響き渡るほどの笑い声をあげると、部屋の中に置かれたトランクに近付きロックを解除して開けた。中にはデイナドライバーと非常によく似たドライバーが収められている。
トランクからドライバーを取り出した雄成は、それを愛おしそうに撫でた。
「白上、感謝するぞ。彼をそこまで育ててくれて。これで私の計画は大きく前進する。待っていてくれたまえ、門守 仁君。迎えに行くからね」
怪しく微笑みながら雄成はそう呟く。
傘木社本社ビルの社長室の中でその言葉が呟かれたのと同時刻、明星大学の白上研究室のソファーで寝ている仁は眠りながら体を僅かに振るわせるのだった。
と言う訳で第47話でした。
前回は大した活躍が出来なかった新ファッジ2体ですが、ここでデイナに不意打ちとは言え猛毒を打ち込むという成果を上げました。まぁそれもあんまり効果が無かったという結果に終わったのでこの2人の不憫はまだ続いてますが。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。