仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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第52話:可能性を秘めた遺伝子

 あくる日、仁と亜矢がラボに顔を出すと峰が嬉々とした顔で2人を引っ張った。

 

「待ってましたよ2人共! ささ、こっちに」

「先輩? 何ですか急に?」

「細かい事は言いっこなしですよ。ほら、早く早く」

 

 訳が分からぬままにラボの奥へ引っ張られていく仁と亜矢。2人が連れられた先には、ラボの一画の機材を退かして新たに設置された長方形の机の様なものがあった。だが机にしては変に高さが低いし、その傍には端末が置かれていてコードで繋がっている。

 

 仁と亜矢がそれに首を傾げていると、端末の陰から白上教授が顔を出した。

 

「やぁ、2人共。待っていたよ」

「教授、これ何ですか?」

「まぁ、簡単に言えばスキャン装置だ。この上に寝てくれればそれだけで負担なく人間のバイタルなどが診察できる」

「CTスキャンみたいなものですか?」

「そんなところだ」

 

 仁はふむ、と唸りながら目の前の装置――スキャンベッドを眺める。

 

「……それで、これを私達に見せてどうするんです?」

「君達2人が新人類に覚醒して、それ以上の変化は無いだろうと分かってはいる。だが、もし何か変化が更に起きるようであれば出来るだけ早急に対策しなければならない。その為には、細かなデータ収集が不可欠だ。だが頻繁に採血したりするのは肉体的にはともかく、精神的に君らには負担があるだろうからね。その負担を少しでも減らそうと思って……」

 

 それは恐らく、教授なりの罪滅ぼしの一つなのだろう。仁を巻き込み、彼を人ならざるものへと変えてしまい、更には亜矢までそれに巻き込んでしまった。

 今後もし何か変化が起きた時、それをどうにかできるという保証はない。そもそも最早2人をただの人間に戻す事は不可能だ。だが、何か起きるにしても事前に知る事は出来る。

 

 何より、傘木社は現在進行形で人体実験を繰り返し、今後仁の様な新人類やそのなり損ないを生み出す可能性がある。その時に、仁から得たデータがあればその被害者を助ける事が出来るかもしれない。

 仁自身には何もしてやる事が出来なくても、文字通り彼の体を張った献身がそう言った人々を救う要因になるのであれば、それを無駄にしない事が今の白上教授に出来る事であった。

 

 亜矢にはそれはある意味で逃避に見えた。仁に対してはやらかしてしまったから、せめて今後出るかもしれない被害者だけは何とかしようという。だが例え逃避に過ぎなかったとしても、教授は教授なりに償おうとしている事は事実。どんな形であれ罪を償おうとしている教授を、それ以上責める事は彼女には出来なかったしするつもりもなかった。

 

「……これ、早速寝てみても?」

「頼んでも良いかい?」

「勿論」

 

 仁はコートを近くの椅子に掛け、服を着たままスキャンベッドの上に横になる。最初は上着を脱ごうとしていたのだが、峰曰くこのベッドは衣服程度なら着たままでも問題ないとの事だ。

 

 仁がベッドの上に横になると、教授が端末を操作して仁の体を頭の天辺から爪先まで走査していく。数秒ほど、電気的な温かさを感じていた仁だがそれもすぐに収まり教授から起きても良いと言われた。

 意外なほど素早くあっさり終わった事に、仁は軽く驚きを感じずにはいられなかった。

 

「速いですね。もう終わったんですか?」

「あぁ、バッチリだよ。どうかな、何処か体に異常は?」

「大丈夫です」

「なら良かった。これなら、君らへの負担なく異常がないかを調べる事が出来る」

 

 そう言って白上教授が端末を操作すると、ディスプレイに今し方収集した仁の肉体のデータが表示された。仁がそれを見てみると、なるほど最初に計測した時と差異は殆どない。これほど正確に計測出来て、尚且つスピーディーなら仁と亜矢の肉体データの収集のみならず、一般の病気や怪我の診察にも応用できる。

 これは様々な意味で画期的な装置だった。

 

「亜矢さんも、診て貰ったら?」

「そうですね、それじゃ……」

 

 仁に代わり今度は亜矢がスキャンベッドの上に横になった。ベッドを疑いの目で見ていた彼女も、仁が勧めると大人しくベッドの上に横になりスキャンを受ける。

 

 仁同様に数秒ほどでスキャンは完了し、仁のデータの隣に今の亜矢のバイタルデータが表示された。端末を操作する教授の後ろから、仁と並んで亜矢が表示された自分のデータを見る。こうして様々な数値で自分の体を見るという機会はそうそうないから、ちょっと新鮮だ。

 

「これが私のデータ。……仁君とはやっぱり違うわね」

「同じ新人類とは言え、男と女だからね」

「ふむ…………双星さんはまだ妊娠してないみたいですね」

「んんっ!?」

 

 2人が何気なく自分達のデータを見比べていると、横から覗き込んできた峰がとんでもない事を口にする。突然の発言に、亜矢の顔は一瞬で朱に染まり顔を俯かせた。

 

 少し前であれば、ここで仁に出来るのは峰に軽く文句を言うか黙って亜矢を撫でるなどして宥める位だった。しかし今は違う。つい最近の話だが、彼はある話を拓郎から聞いていたのだ。

 

「…………そう言う先輩は、瀬高先輩と仲が進展したみたいですね」

「――――ファッ!?」

「えっ? そうなんですか?」

 

 今度は峰が顔を赤くする番だった。思いもよらぬ仁からの言葉に、峰は奇声を上げ言葉を詰まらせる。反論や否定をしないと言う事は、仁の言葉は真実だと言う事だ。

 

「何? どう言う事仁君?」

「そそそそそそ、そうです!? 何で門守君がそんな事を!?」

「何でも何も、瀬高先輩に文句言われたんですよ。『この間宮野にいきなり押し倒された。お前の母親の名前が出たんだが、アイツに何吹き込んだんだ』って」

「あの、馬鹿――――!?」

 

 どうやら以前、香苗が来訪した際に峰に対して何事かを吹き込むかして唆していたらしい。

 とは言え、前々からこの2人も仲は良さそうだったし、正直お似合いだと思う。自分達と違ってなかなか一線を踏み越えようとしない2人に、そろそろお節介するべきかと仁と亜矢が考えていた矢先にこれだ。

 

 峰の出た行動が拓郎を無理矢理押し倒して勢いで想いを伝えると言うものだったのはあれだが、拓郎も決して満更ではない様子だったのでこれはこれで良いかと仁は小さく息を吐く。

 亜矢は漸く2人の中が進展したことに興奮気味だった。

 

「わぁ! 先輩おめでとうございます!」

「う……あ、ありがとうございます。まぁ正直、勢いに任せて押し倒したのは我ながらあれな気もしますが……」

「いいじゃないですか。何年かすればそれも良い思い出話になりますよ」

 

 他人事だからと、仁は峰の後悔をあっさりと流す。自分の悩みを流され、峰が軽く脱力する。

 

「そんな簡単に……門守君らしいですけども……」

「まあまあ先輩。仁くんも、もうちょっとデリカシーのある言い方しましょ」

「ん……」

 

 仁自身、ちょっとこの場で暴露するのは峰に悪いかと思わないでもなかったのでそれ以上何かを言う事はしない。峰からの恨みの視線に仁が顔を背けると偶然にも時計が目に入る。表示されている時刻を見て、仁はある用事を思い出した。

 

「あ、亜矢さん。そろそろ時間だよ」

「え? あ! 本当だ。教授、先輩。私達、そろそろ失礼しますね」

「ん? 何処へ?」

「権藤さんに、話がしたいって呼ばれてるんです」

 

 つい先日の事、唐突に宗吾から連絡が来たかと思うと協力の要請ではなく会って話がしたいという旨の事を告げられた。一体何だろうと思いつつ、仁の方も彼とは一度じっくり情報交換の為の席が必要だと思ってはいたので、今日亜矢と共に直接会うつもりだった。

 

 その時間が迫っていると気付き、仁と亜矢は手早く荷物を纏めてラボを後にした。

 

 トランスポゾンに2人で乗り、街中を走って数分ほど。

 2人が辿り着いたのは一軒の喫茶店だった。店内にはそんなに人が多くはない様子で、しかも4人席は四方を壁で囲われているので込み入った話をするにはちょうど良かった。

 

 2人が店内に入ると、一足先に到着していたらしき制服姿の宗吾が手を上げて2人を呼んだ。

 

「待っていたよ。こっちだ」

「どうも」

「お待たせしました」

 

 2人は宗吾に軽く挨拶をして、席に座ると取り合えず適当に飲み物を頼んだ。

 店員が2人の注文を聞き離れていくと、それを待っていた宗吾が口を開いた。

 

「こうして会うのは久し振りだな。2人共、息災だったか?」

「お陰様で」

「権藤さんの方こそ、大丈夫ですか? あの戦いで、怪我人も多かった筈ですけど……」

 

 先日の倉庫街での戦いの被害は酷いものだった。宗吾を含め部隊の隊員の大半が負傷及び殉職により戦闘不能。スコープ2号はカラミティの必殺技をまともに受け大破し、装着者だった坂木は殉職と言う散々なものだ。

 

 特にスコープ2号の大破は大きな痛手だろう。量産型と違い1号と同じく作りが複雑なあれは、再び使えるようになるまで時間が掛かる。

 

「部隊に関しては再建の目処が立った。スコープ2号の修復ももうじき終わる。心配はいらない」

「そう、ですか……」

「……それで、今回俺達を呼んだのは?」

 

 仁が本題について問い掛けると、宗吾はまるで鉛でも飲みこんだような顔をして手元にあるコーヒーを口に運んだ。2人を待っている間にすっかり冷めたコーヒーの苦さで気を引き締めると、彼は意を決して口を開いた。

 

「先日の戦いで、君と傘木 雄成との会話を聞いた。…………門守君、人間ではなくなってしまったようだね」

「ま、ね。正確には人間から進化して新人類になっちゃったみたい」

 

 あの時は雄成がかなり声高に話していたし、仁も自分の身に起きた変化などを隠さず口にしていた。だからあの場に居て、意識があれば2人の会話から仁が人間ではなくなってしまった事を知るのはそう難しい事ではないだろう。だから宗吾が知っていても別に驚きはしない。

 

 何より、仁自身はこの事に既に自分の中で区切りを付けていた。最初から何時かこの時が来ることは予想していたし、亜矢が共に歩んでくれる。彼女が共に新人類として、同じ時の中を歩んでくれるのであれば仁にとって恐れる事は何もなかった。

 

 しかし宗吾にとってはそうではなかったらしい。彼は全てを受け入れた様子の仁を前にして、彼に頭を下げた。

 

「君には、本当に申し訳ないと思っている。君がそんな体になってしまった原因の一端は、俺達の不甲斐無さにあると言っても過言ではない。謝って済む問題ではないし、君自身が気にしている訳ではないことは百も承知だ。だがそれでも言わせてくれ。済まなかった」

 

 テーブルに頭を擦り付ける勢いで謝罪してくる宗吾を前に、仁は亜矢と困ったように顔を見合ってしまう。

 そこに店員が仁と亜矢の注文した飲み物を持ってきた。女性の店員は、警察の制服を着た宗吾が仁と亜矢に頭を下げている様子に奇異の目を向けていた。

 店員が去っていくと、亜矢が慌てて頭を上げさせた。彼の気持ちも分かるが、2人は別に謝罪を求めていないし居心地が悪い。

 

「頭を上げてください。私達は別に、この体になってしまった事を別に悔やんでいませんから」

「そそ。なっちゃったもんはしょうがないし、この体で生きるのもきっと悪くはないと思うから」

 

 仁はそう言って出された紅茶を口に運んだ。何となく紅茶を選んでしまったが、教授や亜矢の紅茶で舌が肥えたからか何だか物足りない。決して不味い訳ではないのだが。

 

 その一方で、宗吾は亜矢が何気なく口にした一言に思わず顔を上げた。

 

「ん? 私、達……? ちょっと待ってくれ、門司君だけじゃなくて…………」

「はい。お察しの通り、私もなっちゃいました。私の場合は、自分の意志で、ですけど」

 

 宗吾は簡単に新人類への進化のプロセスを亜矢から聞いた。まずデイナドライバーを使って変身することを繰り返し、全身の細胞を変異に耐えられるように下地を作る事。そこにベクターカートリッジを直挿しして細胞に劇的な刺激を与える事。

 

 一通りの話を聞いた宗吾は、情報を頭の中で整理するのに苦労しているのか席に体重を預け溜め息を吐きながら目頭を揉んだ。

 

「何と言うか……複雑な話だな。正直ついていくだけで精一杯だ」

「別に難しく考える必要ないよ。ドライバーで変身して、後で直挿しすれば進化しちゃうってだけの話だから」

「ですので、これまでファッジだった人が進化することはないので安心してください」

 

 傘木社の影響で、もうかなりの人数が直挿しをしてファッジへと変異してしまっていた。彼らが全員新人類へと進化してしまっては大きな問題となってしまうが、亜矢の言葉でそれはないという事が分かり宗吾は安堵した顔になる。

 

 しかし疑問は拭えない。そもそも雄成は何故、新人類を生み出そうとしたのだろうか?

 

「傘木 雄成は新人類を生み出してどうしたかったんだ?」

「それが分からないんですよね。仁くんの血を持っていってから、大人しい理由も気になりますし」

「大人しい理由は見当がつくよ。俺の血から採取した新人類の遺伝子を持て余してるんでしょ」

 

 実はここ最近、仁も自分で新人類の細胞に関して色々と検証をしていた。そして、傘木社が辿り着いた様な仁の遺伝子の問題点を見つけ出した。

 

「つまり門守君の遺伝子からはベクターカートリッジが作れないと言う事か?」

「少なくとも、今まで程簡単じゃないのは確実だよ。でも…………雄成さんだったら作っちゃうかもね」

 

 そう言って仁は残った紅茶を静かに啜る。不吉な仁の言葉に、宗吾が更に深く訊ねようとしたその時、彼の携帯から着信音が鳴った。

 

「おっと、失礼……もしもし、権藤で……あぁ北村か。どうした?…………何? ファッジが病院を襲撃した?」

 

 宗吾が口から零した言葉に、仁と亜矢は顔を見合わせると手元の飲み物を口に流し込んだ。

 

「場所は?……分かった。今、門守君達と一緒に居るから、直ぐ現場に向かう」

 

 携帯を切り、仁と共に席を立つと宗吾は2人を先に店からだし自分は会計を済ませに向かう。

 

「すみません、会計を」

「はい。え~――」

「お釣りは結構、今緊急事態なので」

 

 そう言って宗吾は2000円を叩き付けるように会計に置くと仁達の後を追って店を出た。背後から店員の呼び止める声が響くがそんなのは無視だ。

 

「俺達はバイクあるけど、権藤さんは?」

「心配するな。そいつが俺の愛車だ」

 

 宗吾が指差す先には1台の灰色の車があった。移動手段があるのならいい。仁は頷くと亜矢と共にトランスポゾンに跨った。

 

 そのまま仁は宗吾の先導でファッジが襲撃したという病院へと向かう。

 

 3人が辿り着いたのは以前健が入院していた病院とは別の病院だった。健はまだ入院している最中だったので、病院が襲撃されたと聞き肝を冷やしたが別の病院と分かり、不謹慎かもしれないが安堵した。

 

 病院からは自力で動ける患者や見舞いに来た人達が我先にと逃げ出している。その一方で、医師や看護師が老人や自力で動けない入院患者を連れだすのに奔走していた。数人掛りで1人の患者を運び出すと、直ぐに戻って次の患者を運び出そうとしている。患者を運び出すのには見舞いに来た人や、通報を受けて急行したのか警官の姿も見られた。

 

 その間にもファッジは病院で暴れているのか、病院内部で時々爆発音の様なものが響く。事態は一刻を争うようだ。

 

「傘木社め、最近大人しいと思ったらこれか!」

「でも何で病院を?」

 

 傘木社は目的であった仁の――新人類の遺伝子を手に入れた筈だ。それならば、何故こんな騒動を起こすのか亜矢には分からない。宗吾に至っては分かりたくもないという様子だったが、仁は傘木社が……雄成が考えている事が分かった。分かってしまった。

 

「……不味いな」

「何がだ?」

「連中、人体実験の被検体が欲しいのかもしれない」

「え!?」

 

 もし仮に傘木社が新人類の遺伝子を用いたベクターカートリッジの開発に成功したのだとすれば、その実験の為の被検体を求めるのは当然の話だ。加えて、雄成が何らかの目的の達成に近付いているというのであれば、今までの様に慎重になる事はない。これまでよりもアクティブな活動に移ってもおかしくは無いだろう。

 

 ふと病院の向こうを見れば、一台のコンテナを積んだトラックが病院から離れていくのが見えた。恐らくあれには――――

 

「クソッ! 済まないが、病院内の連中は任せても良いか?」

「いいよ。あっちの方が数多そうだし、俺と亜矢さんで当たった方が良いと思うから」

「助かる、頼んだ!」

 

 手短に感謝し、宗吾は走りながらスコープドライバーを腰に装着した。

 

〈Access〉

「変身ッ!」

〈In focus〉

 

 宗吾は素早くスコープに変身すると、右腰のプレートホルダーから1枚のプレートを取り出しドライバーに装填した。

 

〈Jetpack Starting〉

 

 スコープが使用したのは、背中に飛行用の装備『ジェットパック』を装着するプレートだった。これでスコープの機動性は格段に上がり、走る車を追跡する事も可能だ。

 ただこの装備の欠点として、装甲が薄く破損しやすいと言うものがあるが……。

 

 ジェットを噴かし、爆走と言って良い速度で走るトラックを追跡する。トラックは途中何台かの一般車両を重量に任せて押し退け、時には踏み潰してスコープから逃げ続けた。

 このまま放置しては被害が広がるばかり。走らせ続けるよりはとにかく足を止めた方が良いと、スコープは飛行しながらガンマライフルを構えタイヤを狙って引き金を引いた。あの速度だ、タイヤをパンクさせられれば運転手はハンドル操作を誤り停車せざるを得なくなる。よしんば停車しなかったとしても、速度は大幅に低下する筈だ。

 

 狙いを定め、スコープが撃った銃弾は逸れる事無くトラックのタイヤを撃ち抜き、パンクさせるどころか車輪そのものを粉砕した。流石にタイヤを壊されて走り続ける事は出来ず、トラックは電柱に激突した。運転席は大破し、コンテナは激突の瞬間大きく跳ねた。

 

 中に入れられているだろう患者が心配になり、スコープはトラック後部のコンテナに取り付き力尽くでこじ開けた。

 

「警察です! 大丈夫――」

 

 コンテナ内の様子をスコープが確認しようとした矢先、内部からの銃撃がスコープを大きく吹き飛ばした。

 

「ぐぁっ!?」

 

 突然の銃撃に何が何やら分からぬままトラックから吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。背中から叩き付けられたものだから、ジェットパックがダメージを受けて火花を散らし始めた。これはもう使えない。

 

 ジェットパックを強制排除しつつ自分を銃撃した相手を待ち構えるスコープの前で、コンテナが開き中から銃撃の主が出てきた。

 

「お前は、アデニン!?」

 

 コンテナから出てきたのは何とアデニンが変身するホワイトカラーズであった。コンテナの中には連れ去られた入院患者など1人も居らず、入っていたのは彼1人だ。

 

「何故お前が!?」

「いい感じに勘違いしてくれたな……我々は別に人体実験の被検体を求めてなどいない」

「何ッ!?」

「病院を襲撃したのは、手っ取り早く騒ぎを起こす為だ。騒ぎが起きれば仮面ライダー達が出る。特に門守 仁は絶対にな」

 

 この時点でスコープは自分がまんまと謀られた事を知った。意味も無く病院を襲撃する筈がないと思い込んだが故に、騙されてしまったのだ。

 

「まぁ、デイナが病院に残ってくれるかが賭けではあったが、ルーナが一緒とは言えデイナがあそこに残ってくれたのは僥倖だったな」

「くっ!?」

 

 スコープは急いで踵を返そうとしたが、当然ながらホワイトカラーズがそれを許さない。動こうとした瞬間には足元にベクターリーダーの銃撃が地面に穴を穿つ。

 

「悪いが、プロフェッサーの邪魔をさせる訳にはいかない。お前にはここに居てもらうぞ」

「チクショウ――!?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、仁と亜矢は人の流れに逆らい病院内に入ると暴れているファッジの元へと向かう。

 

 そこそこ大きい病院なのか、院内にはまだ逃げ遅れた人が居り医師達が懸命に患者らを連れ出そうとしている。

 その光景を横目に見て、傘木社の暴挙に亜矢が怒りを感じていると唐突に仁が足を止めた。何事かと亜矢が仁と同じ方向を見ると、そこには2人の人物…………グアニンとシトシンが佇んでいた。

 

「待っていたぞ、仮面ライダー」

「ヒャハハハハ! 今日がお前らの命日だ!」

 

 相変わらず爛れた顔のグアニンに対し、矢鱈とテンションが高いシトシンに仁は違和感を覚えた。まるで何かの薬をやったかのような異様な様子だ。亜矢も違和感を感じずにはいられないのか、シトシンに対して不気味なものを見る目を向ける。

 

「アンタ、シトシンだっけ? 何か今日は様子が変だけどどうしたの?」

「細けぇことは気にすんなよ! それよりさっさとおっ始めようぜ!」

〈FLOG Leading〉

「デイナは任せます」

〈SEA URCHIN Leading〉

 

 何だか不気味だが、取り合えず向こうはやる気の様なのでそれを迎え撃つべく仁と亜矢もデイナドライバーを腰に装着した。

 

「ヤク中の相手なんか御免なんだけどな……」

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

〈CAT Unite〉

 

「「進生!」」

〈〈Transcription〉〉

 

 2人の前で一足先に変身するグアニン達。彼らに遅れて仁と亜矢も変身する。

 

「「変身!」」

〈Congrats! Birth of a new life, MINOTAUR. Open the door〉

〈Open the door〉

 

 仁がデイナ・ミノタウロスライフに変身し、亜矢はルーナ・ユナイトに変身する。変身するなり、デイナはルーナが以前と変わらない事に首を傾げた。

 

「あれ? ルーナは何も変わらないんだ?」

 

 自分が新人類に進化した事で、デイナもその影響を受け進化した。同じ事がルーナにも起こると思ったのだが、そうは問屋が卸さなかったらしい。

 

「本当だ。……ちょっと期待してたんだけどな~。……何で変わらないんでしょうか?」

「ん~……、考えられるとすれば、デイナと違ってルーナはベクターカートリッジを一個しか使ってないからとかがあるけど――」

 

 こんな状況なのにルーナにこれと言った変化が生じない理由についての考察を巡らせるデイナ。だがグリーンリキッドとブラックスティンガーは彼が考えを纏めるだけの時間を与えなかった。

 

 グリーンリキッドはベクターリーダーを銃剣モードに、ブラックスティンガーはそのままでそれぞれデイナとルーナに襲い掛かった。

 

「っと、考えてる場合じゃないか」

「オラァッ!」

 

 振り下ろされたベクターリーダーをデイナは体を軽く反らす事で避け、反撃の手刀を叩き込む。ただの手刀だが、その威力はバッファローヒューマンの時と比べ大幅に向上している。グリーンリキッドが銃剣で防ぐが、デイナの手刀は銃剣を叩き折り相手の武器を奪った。

 

「ぅおっ!? ははっ! 面白くなってきたじゃねえか!」

 

 一瞬呆気に取られるグリーンリキッドだったが、直ぐに気を取り直すとそのまま無手でデイナに挑んできた。それを迎え撃つデイナだったが、殴り合いの中で彼は違和感を覚えていた。

 以前に比べてグリーンリキッドの筋力が上がっているのだ。前に戦った時よりも相手の攻撃が響く。現に今も、グリーンリキッドの飛び蹴りを両腕をクロスさせて防いだのだが、その威力に後退を余儀なくされ防いだ腕には痺れが残っていた。

 明らかに前よりも強くなっている。

 

(本気でドーピングで強くなったのかな?)

 

 デイナがそんな事を考えている間にも、グリーンリキッドの攻撃は止むことをしない。ずんぐりとした見た目の割に軽快に動き、特に強力な蹴りにデイナも翻弄されずにはいられなかった。

 実を言うとグリーンリキッドが体から分泌する毒も以前より数段強化されているのだが、こちらは幸いなことに新人類となった事で解毒能力が上がったので大した問題にはならない。

 

 そして毒が無力なのであれば、グリーンリキッドなど大した相手ではない。

 

「お前にはコイツだ」

〈SHARK + HEDGEHOG Evolution〉

「ゲノムチェンジ」

〈Congrats! Birth of a new life, KAGEWANI. Open the door〉

 

 デイナは進化したシャークヘッジホッグフォーム、カゲワニライフになると棘の生えた足で蹴りつけた。

 

「その程度で!」

 

 先程に比べ速度の遅い蹴りを難なく受け止めるグリーンリキッド。だが次の瞬間、蹴りを防いだ腕が何かに引っ張られバランスを崩してしまう。

 

「何ッ!?」

 

 まさかの事態に反応が遅れるグリーンリキッドは、そのままデイナの足に振り回され引き倒される。

 

 グリーンリキッドを引っ張ったのはデイナの足だ。と言っても彼は足でグリーンリキッドを掴んだのではなく、足の棘についた返しで引っ掛けたのである。

 本来、ハリネズミの棘には返しなどついていない。

 だが進化したデイナは、ハリネズミの形質を発現させる際にヤマアラシの特性を自分で反映させ、棘に返しを付けたのだ。

 

 倒れたグリーンリキッドを解放した仁だが、彼の攻撃はそれで終わりではなかった。ここで一気に勝負を付けようと、倒れたグリーンリキッドに無慈悲な一撃を放った。

 

〈ATP Burst〉

「ハッ!!」

「ぐぉあっ?!」

 

 解放され立ち上がった直後に襲ったデイナのノックアウトクラッシュ。それも進化した事によって強化されたそれを受け、グリーンリキッドは大きく蹴り飛ばされた。蹴り飛ばされた先にはルーナに追い詰められていたダークスティンガーも居る。

 

「がはっ?!」

「シトシン!?」

「何だ、お前? ルーナ相手に、随分苦戦……してるじゃねえかよ?」

 

「仁くん!」

「亜矢さん、何だか今日は調子良いね?」

「まぁね! 何て言うか、前より亜矢と息が合い易いのよ」

 

 どうやらルーナの外見は変化が無くても、中身は進化の影響を受けているらしい。見た目が変わらないからと油断して、ダークスティンガーは痛い目に遭ったようだ。

 

 幹部2人を追い詰めたデイナとルーナ。最早彼らにとって、ベクターリーダーで変身するグアニン達など敵ではなかった。

 

 このまま追い詰めようと近付くデイナとルーナだったが、その前にグリーンリキッド達の後ろから歩いてきた雄成が姿を現した。

 

「ッ! 雄成さん……」

「ふむ……実に興味深いね。まさか、2人目が出るとは……」

 

 どうやら雄成は、離れた所から2人の戦いを見ていたらしい。そして戦い方の変化、そして今し方のデイナ達の会話から、亜矢も新人類に進化した事を察したようだ。

 一番気付かれたくない相手に気付かれてしまった事に、デイナは内心で己の迂闊さを悔いた。

 

「2人共、下がりたまえ。シトシン、ベクターカートリッジを」

 

 雄成はカラミティドライバーを腰に装着しながらシトシンに手を向ける。シトシンは変身を解くと、さらに体からサンプル2ベクターカートリッジを取り出し雄成に渡した。

 その光景にデイナが軽く目を見開く。

 

「ベクターカートリッジを直挿しした状態で変身した?……あのベクターカートリッジ……なるほど――」

 

 デイナはそのベクターカートリッジが、仁の遺伝子を使って作られたものである事に気付いた。あのベクターカートリッジが新人類の遺伝子を内包したもので、アレを使うとファッジには変異せず肉体が強化される程度だと気付いたのだ。

 

〈SAMPLE2 + ORGANISM Experiment〉

「さぁ、私の研究成果を見せよう」

〈Biological disaster warning issued〉

 

「変……身」

〈Biohazard〉

 

 雄成が新たに作り出したベクターカートリッジ、サンプル2ベクターカートリッジで変身する。

 

 その姿はサンプル1ベクターカートリッジで変身したものと比べて少し変わっていた。

 装甲と単眼の色が燈色に変化し、単眼には重なる様に上を向いたCの様な角が追加されている。両腕のリスクブレードは見た所なくなっている様だが、代わりに首元に装甲と同色のストールが追加されていた。

 パッと見た感じ、攻撃力はハザード1だった頃に比べて低いように見える、これがカラミティのハザード2形態だ。

 

「何よ、前より大人しい見た目じゃない。あのカッターが無いなら!」

 

 ルーナは素早くリプレッサーショットを抜くと、カラミティに向けて何発も発砲した。ダークスティンガーが咄嗟にカラミティを守ろうとしたが、カラミティはそれを片手で制すとストールを翻す。

 長めのマフラーの様なストールが伸びてカラミティの前で翻ると、ルーナの銃弾を全て受け止めた。驚いたことに銃弾はカラミティのストールを貫通する事なく、全て受け止められてしまった。

 

「えっ!?」

「……ふぅん」

 

 その結果に驚くルーナに対し、デイナは何かを確かめるようにカラミティの接近すると両腕のカッターで斬りかかる。こちらも依然と異なり、細かな鱗が表面で動く事でチェーンソーの様に相手を切り裂く強化が為されている。

 

 そのカッターがカラミティのストールに受け止められる。本来であればあのストール程度の薄い布などあっさり切り裂けるはずなのに、カラミティは薄いストール1枚でデイナの斬撃を火花を散らしながら受け止めていた。

 

「……収縮自在なんだね」

「気付くのが早いね、流石だ」

 

 高い防御力の秘訣は伸縮性の高さにある。カラミティのストール『完全硬質化ストール』は、伸縮性に優れ伸ばす事も縮める事も自由自在だった。その伸縮性の高さを活かし、銃弾程度であれば衝撃を吸収する事で防ぐ事が出来るし斬撃に関しては限界まで縮める事で硬度と耐久性を高めて斬撃を受け止める事が出来るのだ。

 

 そして伸縮自在と言う事は、攻撃にも転用できると言う事。

 

「そらぁ!」

 

 カラミティはストールを掴み、鞭のように振るうとストールが伸び弧を描いてデイナに襲い掛かる。デイナは咄嗟に防御するが、柔軟でありながら硬度も高いというある種矛盾したストールによる一撃に強かに引っ叩かれ吹き飛ばされる。

 

「ぐぅっ!?」

「仁くん!?」

「余所見している暇はないぞ!」

 

 吹き飛ばされたデイナにルーナが気を取られた瞬間、カラミティのストールがルーナの首に巻き付き、振り回して壁に叩き付けられる。

 

「うあ゛っ!?」

「くっ、ただのストールにしか見えないのに……」

 

 厄介なのはあのストールの特性だ。伸縮自在でカラミティの意のままに動き、ただの布の様に柔軟に動くのに打突部は鋼鉄よりも固い。その特性の所為で、攻撃が読みづらく反撃も防御も儘ならないのである。

 

 デイナは両腕のカッターで反撃しようとするが切れないストールに受け止められてしまっては意味がない。攻撃を防がれた挙句、全身を簀巻きにされ右に左に振り回され叩き付けられてしまう。

 

「ぐ、あ――!?」

「ふむ、君から作ったベクターカートリッジを使っているのだが……どうやら想像以上の力を秘めていたらしい。これはますます、君から直に細胞を採取したいねぇ」

「く……。悪いけど、何に使われるか分かったものじゃないから遠慮させてもらうよ」

〈Congrats! Birth of a new life, MINOTAUR. Open the door〉

 

 この形態はカラミティに対して有効ではない。デイナは使いやすいミノタウロスライフに戻し、しかし残りの体力を考えこの一撃で勝負を決めに掛かった。

 

「こいつで……」

〈ATP Burst〉

「良かろう、受けて立つよ」

〈ATP Full blast〉

 

 同時に放たれるデイナとカラミティの必殺技。以前の倉庫街の時の様に拮抗するかと思われたが、カラミティの方が地力が上がっているのか徐々にデイナが押されていく。

 

 そして遂に均衡が崩れ、デイナのノックアウトクラッシュを破ったカラミティのデッドエンドクラッシュがデイナに炸裂した。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 蹴り飛ばされたデイナは壁を突き抜け病院の外に放り出され、地面に叩きつけられるとそこで限界が来たのか変身が解除されてしまった。

 

「仁くん!?……このぉっ!!」

〈ATP Burst〉

 

 仁を傷付けられた事で真矢が激昂し、カラミティに向けて駆けながらノックアウトクラッシュを発動した。当然カラミティはそれを迎え撃つ。怒りに任せた一撃など、読みやすいというかのように悠々と構えカウンターのデッドエンドクラッシュを放つのだが――――

 

〈ATP Full blast〉

「フン!」

「そこぉっ!」

 

 カラミティの動きはルーナには見えていた。ただでさえ思考と反射を融合させ驚異的な動きを見せるルーナ・ユナイトだったが、亜矢が新人類に進化した事でそれらの能力が飛躍的に向上。悠長に構えて放つ必殺技程度なら、身構えていれば簡単に見切れる程になっていた。

 

 放たれたデッドエンドクラッシュを、ルーナは紙一重で避け自身のノックアウトクラッシュをカラミティに叩き込む。狙うは変身の要であるベルトだ。あれを破壊できれば、強制的に変身を解除させる事が出来る。

 

「フンッ!」

「ぐぅっ?!」

 

 ルーナのノックアウトクラッシュがカラミティドライバーに直撃し、カラミティは数歩後ろに後退る。大事なドライバーに必殺技を喰らったカラミティが恐る恐るドライバーを見るが、外見では損傷したようには見られない。

 見られないが、しかしドライバーからは火花が散っていた。損傷個所は無くとも、内部には何らかの不具合を発生させた可能性が高い。

 

「…………この借りはいずれ返させてもらうよ」

 

 カラミティはそう捨て台詞を残し、その場を撤退した。他の幹部達もその場を退き、後にはルーナと倒れる仁だけが残されていた。

 

「や、やったの?……そうみたいね。それより仁君は!」

 

 ルーナは敵が退いたと見るや変身を解除し倒れた仁に駆け寄る。仁は意識を失っているが、気絶しているだけでそれ以上に大きな怪我をしている様子が見られなかった。顔色も悪くはないし、呼吸も安定している。

 

 一先ず大丈夫そうだと安堵し、亜矢は仁を抱えると外に居るだろう医者の元へと連れて行くのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、撤退した雄成は戻るなりカラミティドライバーの点検を行った。大事な大事なドライバー、彼の悲願を達成するのに必要なドライバーだ。万が一にも損傷しているなどと言う事があれば、即修理しなくては。

 

 そう思っていた雄成だが、ドライバーはルーナの必殺技を喰らった割には損傷は軽微だった。この程度なら普通の戦闘の後と大差ないだろう。

 だが必殺技の直撃を受けたというのに何故?

 

「――――ん?」

 

 その答えはサンプル2ベクターカートリッジにあった。よく見てみると、サンプル2ベクターカートリッジに僅かながら変化が生じていたのだ。

 

「そうか…………そう言う事だったのか――!」

 

 雄成はそこで仁の細胞から作り上げたベクターカートリッジの能力に気付いた。そしてその能力に歓喜の声を上げた。

 

「門守君! やはり君は素晴らしいよ! ははははははははははっ!!」

 

 誰も居ない研究室の中で、雄成の狂ったような笑い声が響き渡るのだった。




という訳で第52話でした。

物語の裏で、峰と拓郎の関係が進展してました。以前香苗が来ていた時に、峰に何やら吹き込んでいたようです。

今回カラミティがさらに進化してハザード2となりました。ハザード2の装備であるストールは、ウォズのストールみたいに伸縮自在で硬さも自由に出来るという、攻防一体となった装備です。ハザード1のリスクブレードに比べると大人しい能力かもしれませんが、これの本当に恐ろしい能力は今後明らかになります。

あ、それと描写はしませんでしたが宗吾とアデニンの戦いは、雄成が撤退した時点でアデニンが引き下がることで幕を閉じてます。アデニンの目的は宗吾の足止めだけだったので。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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