傘木社が……雄成が仁の血液から新たなベクターカートリッジを作り上げた。恐らく彼はこれを機に、一気に何かを起こすつもりなのだろう。
そう身構えていた仁だったが、その予想に反してあれから雄成は再び大人しくなった。S.B.C.T.の再編成ももうじき終わり、また動き辛くなるだろうと言うのに、だ。いや、カラミティ1人に全滅させられたからもうS.B.C.T.は敵ではないと考えているのだろう。そうであれば、ここ最近の大人しさも説明がつく。何時でも潰せる相手など、警戒しなくても怖くはない。
後考えられるのは、先日の戦闘でルーナが最後にドライバーに叩き込んだ一撃がカラミティドライバーに何らかの影響を及ぼしたと言うものだ。破損したのかどうかは知らないが、とにかく今雄成は動くつもりがないらしい。
大人しくしてくれているのなら、それはそれで構わない。仁の方から傘木社に仕掛ける事は出来ないので、向こうが大人しくしてくれているなら今は英気を養う時と仁も再び平和を謳歌させてもらう事にした。
どうせ事が起きればこんな風に平和に過ごしている暇も無いのだ。もしもと言う事がないようにはするが、そうなった時に後悔しない為に今を全力で楽しまなくては。
その仁は、この日は珍しく1人で過ごしていた。12月も終わりに近付き、世間はクリスマスの接近に湧きたってきている。
かく言う仁も、今年はクリスマスを楽しみにしていた。例年であれば、特にこれと言った事も無くただの風物詩としてしか感じなかったクリスマス。だが今年は違う。今年は、亜矢と真矢と言う最愛の女性達と共に過ごすクリスマスだ。今までクリスマスで浮かれるカップルの気持ちがイマイチ分からなかった仁だったが、今年は彼ら彼女らの気持ちがよく分かる。今から楽しみで仕方ない。
そう、仁はクリスマスを楽しみにしていた。このクリスマスで、仁は亜矢にプロポーズをしようと考えていたのだ。
大学卒業後、仁は院生となる。そしてほぼ確実に大学からの推薦でアメリカのマサチューセッツ工科大学に留学する。その時、亜矢が自分について来てくれるかは分からない。慣れない環境で彼女に無理をさせる位なら、彼女には日本に残っていてもらうしかない。寂しいが、それは強要出来なかった。
だが、共にアメリカに来れないなら来れないで、将来を約束してもらいたかったのだ。我ながら随分と独占欲が強い気もしなくはないが、これだけは譲れない。
今はその為の指輪を買ったところだ。彼女の指のサイズはコッソリ調べてあり、恐らくはぴったりだろう。飾り気のないシンプルなシルバーの指輪が入った小箱を、仁は店を出てから一度見た。陽光に照らされキラリと輝く指輪を見て、仁の顔に笑みが浮かぶ。これを渡して想いを伝えた時、果たして彼女はどんな反応を見せてくれるだろうか。その時を想うと頬が緩むのを抑えられなかった。
***
一方亜矢はと言うと、彼女は彼女で特にする事も無かったので街中をぶらぶらと彷徨っていた。この時期、普通の大学生であれば卒論や就活に追われているのだろうが彼女に関しては例外だった。卒論は既にある程度纏まりつつあり、後は発表に備えて整えるだけ。
そして就活に関しても、彼女は難しく考えてはいなかった。亜矢は卒業後、仁と共にアメリカに向かうつもりだったからだ。その為の資金は溜めてあるし、向こうでの生活に馴染めるように英語の勉強にも力を入れている。向こうではバイトをしながら仁を支えていくつもりだ。
【それにしても、仁君どうしたんだろう? 今日はいきなり1人になりたいだなんて】
「(仁くんだって、偶には1人で過ごしたい時とかあるでしょ? 寂しい気がしなくもないけど、縛り付けるのは良くないって)」
今この瞬間、仁が亜矢にプロポーズする為の指輪を買っているなど夢にも思っていない亜矢は、街中の様子を眺めながら脳内で真矢と会話する。新人類になって色々な能力が飛躍的に向上したからか、今まで以上に脳内で真矢とどっぷり会話しながらも危なげなく街中を歩けていた。時折目の前から人が来るが、彼女は真矢と会話しながらそれらを自然と回避していく。
亜矢は改めて平和な街を見渡す。クリスマスムード一色の街中だ。去年までは時に浮かれつつあるカップルなどを少し羨ましく思いながら、彼ら彼女らの幸せを願いつつ自分はただ雰囲気を楽しむだけだった。
だが今年は仁が傍に居てくれる。去年までは、ちょっと放っておけない同年代で異性の友達と言うだけだった仁。だが今年は、クリスマスという特別な日を共に過ごす。それを思うと亜矢は頬が熱くなるのを感じた。
【仁君とのクリスマス……楽しみだね、亜矢!】
「(うん……本当に、楽しみ!)」
ニヤケる口元をマフラーで隠し周りから変な目で見られない様にする。
そう言えば、と亜矢は先日の事を思い出す。
倉庫街での一件の後、傘木社が大人しくなったのを見て仁は遂に亜矢の両親のもとを訪れる事を決意した。平和な時間が続く内に、挨拶を済ませてしまおうとしたのだ。
あれは今思い出しても気恥ずかしく、そして微笑ましかった。
らしくなく緊張しているのか動きや表情の硬くなった仁に対し、亜矢の父は娘が彼氏を連れてきたと聞き必要以上に身構えていた。愛娘に近付く男と仁の事を父が警戒するのだが、それも真矢を失った事による喪失感の裏返しであると気付いた仁は、努めて真摯に自分が亜矢を愛し大事にすることをつらつらと語っていった。
あれは今思い出しても気恥ずかしくて仕方ない。自分を大事に思って、将来必ず幸せにしようとしてくれている事は伝わるのだが、それはそれとして想いが純粋すぎて聞くだけで顔が熱くなった。それは聞かされる亜矢の両親も同じだったのか、最初から仁に対して好意的だった母は勿論、仁を警戒していた父も最初の勢いは何処へ行ったのか顔を赤くして俯く始末。
終いには父の方が仁の亜矢を想う心を前に折れ、彼の話を中断させるという結果になった。
今思い出しても恥ずかしくはあるが、仁の想いを確認できたし両親にも仁の事を受け入れてもらえたので良かったとは思う。
とりあえずこれで後顧の憂いは無くなった。あとは仁と結ばれるのみ。
【楽しみだね】
「(うん)」
亜矢と真矢は、仁がプロポーズしてくれる時を待っていた。愛の告白は亜矢の方が先だったので、プロポーズはじっくり待つ事にしたのだ。それ位は彼を男として立ててやらなければ。
不意に、亜矢の腹が空腹を訴えた。時計を見れば時刻は昼食時。亜矢は適当な店に入り昼食を摂る事を決めた。
決めたのだが、奇妙な事に行く店行く店がどれも昼時だと言うのに臨時休業していた。どうしたのかと首を傾げていると、一軒の店の入り口に張り紙があるのを見つけた。
「また休業? 何だろ?」
張り紙には端的に言えば、食材が切れたので本日臨時休業と書かれていた。それを見て亜矢は首を傾げる。
「食材が切れたって……何で?」
【そんな大人数が一気に入ったのかしら?】
2人が今見ているのは、こぢんまりとした定食屋の前だ。そんな所に、店の食材が切れる程の人数が来るだろうか?
よしんば来たとしても、それが昼時になる前に居なくなると言う事があるだろうか?
そして最も気になるのは、まさか他の店も食材切れで臨時休業しているのではないかと言う事だった。普通に考えればそんな事あり得ないのだが、ここまで一気に臨時休業している店ばかりだとふとそんな事も考えてしまう。
「――――考え過ぎ、かな?」
【どうかしら? それよりお腹空いたわ】
「う~ん…………あ!」
空腹を抱えたままなのはよろしくない。どうしたものかと辺りを見渡すと、まだ営業している喫茶店を見つけた。喫茶店ならパスタかサンドイッチくらいはあるだろう。それで軽く昼食にすればいいと、亜矢は喜び勇んで喫茶店へと入る。
店内は意外と空いていた。外の他の店が軒並み臨時休業しているので、客が雪崩れ込んでいるかと思ったがそんな事は無かったようで安心する。
とりあえず適当な席について注文しようとする亜矢だったのだが、そこで思いもよらぬ人物と遭遇した。
「ん?」
「なっ!? あ、あんたは!?」
そこに居たのは希美だった。テーブル席の一つに座り、大盛りのナポリタンを頬張っている。
向かいの席には、身なりを整えたリリィとレックスの姿があるのだが、今の真矢の目に入っているのは希美だけだった。
まさかこんな所で堂々と希美が食事をしているとは思っていなかったので、真矢は場所も考えずその場を飛び退き身構えようとする。が、それは寸でのところで亜矢に止められた。
【真矢、ストップ!?】
「ッ!――(何で止めるの!)」
【分からない? ここでいきなり戦い始めたら、何も知らない客も被害を受けるわ。気持ちは分かるけどまずは落ち着いて】
亜矢の言葉で、真矢は落ち着きを取り戻す。だが警戒は緩めず、希美をジッと睨む。
すると彼女の前にリリィが出て、希美を庇う様に立ち塞がった。
「ノ、ノゾミを……苛めないで……」
「え? あ、えと……」
突然前に出てきた事もそうだが、何よりもこんな少女が希美を守ろうとしている事に驚き真矢は目を白黒させる。
こんな少女が傘木社の関係者と思えないのもそうだが、そんな少女と希美が一緒に居る理由とか、希美を庇う理由がイマイチ分からなかった。
真矢が困惑していると、希美はリリィの袖を引っ張り真矢から遠ざけた。
「こっちおいで」
「で、でも……」
「大丈夫よ。こんな所で騒ぎ起こす程、その女も馬鹿じゃないでしょ」
希美は真矢に向って「ね?」と首を傾げる。自分よりもよほど理性的な思考を見せる希美に、何だか真矢は負けた気分になった。
このままだと腹の虫が収まらないが、ここで騒ぎを起こす訳にはいかないのでとりあえず亜矢に任せて自分は内側に引っ込んだ。代わりに表に出た亜矢は、中で真矢が騒ぐのを聞き流しつつ希美に話し掛けた。
「……こんな所で何を?」
「何って、お昼ご飯に決まってるでしょ。あ、もしかしてアンタも? だったら残念ね。たった今この店の食材も底を尽きたわ」
そう言って希美はフォークに巻いたナポリタンの最後の一口――ただしその量は普通の5倍に見える――を頬張った。
【はぁっ!? 最後!? あ! もしかしてこの辺のお店が軒並み休業してるのって!?】
「……もしかしてこの近くのお店、全部回ったんですか?」
「この子達もよく食べるからね」
希美はこんな事を言っているが、言うほどレックスとリリィは食べない。確かに常人に比べれば、2人もその体を正常に維持する為多くのカロリーを欲する。だがそれは普通よりやや大食いと言う程度だ。近場の店を臨時休業に追い込んだ、その最大の原因はやはり希美である。
「――――と言うか、この子達は?」
ここで漸く亜矢もリリィ達に興味を持った。いや、亜矢の方は最初から希美と行動を共にしているらしき2人に興味はあった。あったのだが、希美の存在自体がインパクトあり過ぎて2人に意識を向けている余裕が無かっただけだ。
「……友達よ」
亜矢からの問い掛けに、希美は端的に答えそれ以上は何も言わない。端的過ぎて亜矢は逆に訝しまずにはいられなかったが、リリィはその答えだけで十分に満足だったのか笑みを浮かべて希美に擦り寄る。
その光景に亜矢はますます困惑して動きを止めずにはいられなかった。これがあの希美だろうか? 幾度となく敵対してきた彼女とは、まるで印象が異なる。一体どういう事なのか?
「…………あんた、二重人格だったりしないわよね?」
もしや希美にももう一つの人格があるのだろうかと疑い、思わず表に出て訊ねてしまう真矢。希美はその問い掛けに若干ムッとなった。言いたい事は分からなくもないが、それをストレートに言われるのは気分がいいものではない。
「悪かったわね、普段は凶暴で。そういうアンタはどうなのよ?」
「うぇ? 私?」
「アンタ、ちょこちょこ雰囲気変わってるけど、アンタの方こそ二重人格だったりするんじゃないの?」
さてこれはどう答えるべきだろうか。亜矢が二重人格者であり、真矢と言う人格が居る事は大っぴらにはしていない。だがそれは奇異なものを見る目で見られたり、敬遠される事を避ける為だ。つまり逆に言ってしまえば、敵である希美に真矢の存在が知られても、亜矢にとってデメリットは存在しない。
だが同時にメリットもこれと言って存在しなかった。わざわざ教えてやる必要がないのに、真矢の存在を明かすのは――――
「――――漸く気付いた? えぇそうよ。亜矢は1人じゃないの。私、真矢が何時も一緒なんだから」
【ちょ、真矢!】
亜矢が悩んでいる隙に、真矢が表に出て名乗りを上げた。まさか本当に二重人格だとは思ってはいなかったのか、希美は亜矢とは雰囲気が違う真矢の存在に目を瞬かせる。
「え?……嘘、本当に? 冗談のつもりだったのに……」
「お生憎様、私はちゃ~んと存在してるわ。亜矢の中にね。それで? この子たちは本当に何なの?」
傘木社の仮面ライダーであり、体を改造された希美に普通の友達がいるとは想像できない。しかも歳が近いならともかく、2人はまだ未成年にしか見えなかった。どう好意的に見ても真っ当な関係とは思えない。
絶対に何か裏がある。
「あんたもしかして……この子達誑かして実験台にするつもりじゃ――」
年若い少年少女が悪意に晒されるのを防ごうとする真矢だったが、次の瞬間レックスが立ち上がり声を荒げた。
「ノゾミを馬鹿にするなッ!?」
〈MICROORGANISMS〉
「えっ!?」
ベクターカートリッジを取り出し起動状態にするレックスに、真矢は言葉を失った。2人が実験台にされるかもと危惧はしたが、既に2人がファッジにさせられているとは知らなかったのだ。
店の中でレックスはリキッドファッジに変異しようとする。彼とリリィにとっての恩人である希美を、侮辱されて怒りを抱いたのだ。そのまま感情に任せて変異しようとするレックスだったが、それは希美の一声で止められた。
「レックス、ストップ」
「ノゾミ……でも!」
「いいから」
「レックス……」
希美だけでなく、リリィにまで宥められてはレックスとしてもこれ以上の行動には移れない。彼は真矢を一睨みすると、ベクターカートリッジを仕舞い席に座り直した。
【……真矢、代わって】
「(……うん)。……失礼しました。それで、しつこいようですが何故ここに? また仁くんと?」
仁に再戦を挑むつもりであるのなら、場所を変えて自分が相手をするつもりで訊ねる亜矢だったが、希美にはそんなつもりは毛頭ない。
今日は何時も本社の中でしか動けないレックスとリリィの2人を気晴らしに外に連れ出してやっただけ。そのついでに自分も昼食を済ませてしまおうとしただけで、他意は無かった。
寧ろ最近は仁に対して執着する気が失せてきていた。最早相手にされない程力の差がついてしまって心が折れたのか、それとも彼女にとっても心の拠り所となる2人が居るから仁に執着する理由が無くなったのかは希美自身にも分からない。だが少なくとも、必要も無しに仁と戦う気が無くなったのは事実である。
それを希美は正直に伝えた。
「もういいわよ……あの男は。なんか最近、アイツと戦おうって気にならないし」
「そう……なんですか?」
何と言うか、希美の雰囲気が依然と違い過ぎて亜矢には別人のように見えた。これがあのスパイダーファッジだった希美なのだろうか? 健を実験台にしたりした人物と同一人物にはとても見えない。本人は否定したが、本当にもう一つの人格が生まれたのではないかと勘繰ってしまう。
亜矢が希美の事を不思議そうに見ていると、満腹になって満足したのかそれとも亜矢に注目されるのが居心地悪いのか、希美は席を立ちレックス達と共に喫茶店を後にする。
「それじゃ、私達は帰るわ。デイナ……門守 仁に宜しくね」
会計に代金を払い店を出る希美に、レックスが再び亜矢を一睨みしてついていき最後にリリィが亜矢に頭を下げて店を出て行く。
後に見せに残された亜矢は、暫し3人が出て行った扉を見ていたが店員に声を掛けられて我に返った。
「あの~……お客様?」
「あ! は、はい?」
「え~、誠に申し訳ないのですが、先程のお客様の注文で食材が底を尽きてしまいまして……お飲み物だけでしたらお出し出来ますが、如何いたしますか?」
そう言えば希美もそんな事を言っていた。ここには昼食の為に入ったのだが、飲み物以外出せないと言うのであれば仕方が無い。
亜矢は渋々店を出て、他の店もやっていないのを見ると、肩を落とし仕方なく近くのコンビニで適当な物を買って昼食を済ませる事にした。
周囲を見渡して、コンビニを見つけそこに向かう亜矢。
流石にコンビニの商品までは手を出していないと分かり、ちょっと安堵して店に入ろうとした。
瞬間、亜矢の体に布の様なものが巻き付き振り回すと壁に叩き付けられた。
「うあ゛っ!? う゛っ?!」
突然の事に反応が遅れ、一瞬意識が飛びかける亜矢だったが新人類に覚醒し肉体が頑丈になっていた事が幸いした。辛うじて意識を手放す事無く、布が離れると立ち上がって襲撃者を見た。
「くっ!? 誰ですッ!」
立ち上がり周囲を見る。周りには突然の事に困惑した様子の一般人たちが居るが、その中をかき分けるようにして悠々と歩く人影があった。雄成が変身するカラミティ・ハザード2だ。
「あなたはッ!?」
「ふむ……ギャラリーが邪魔だな」
カラミティは亜矢の驚きを無視し、ストールを振り回す。先端だけ鋼鉄以上に硬くなったストールが伸び、周囲の物を片っ端から破壊していく。人々は破壊を振り撒くカラミティを見て、自分達も巻き込まれては堪らないと我先に逃げ出す。が、カラミティの破壊は彼らが逃げる速度を上回っており中には崩落する建物の下敷きになる者も少なくはなかった。
「止めてください!? 何でこんな事を!?」
「君は歩く時に踏み潰すアリをいちいち気にする性質かね?」
無関係な人々を巻き込んだことを全く悪びれないカラミティに、亜矢は怒りと同時に悍ましさを感じた。
このままこいつの好きにさせてはいけない。仁と連絡を取っている暇はないが仕方ないと、亜矢は1人で戦う事を決意する。
「これ以上はさせません!」
〈CAT Unite〉
「変身!」
〈Open the door〉
亜矢はルーナ・ユナイトに変身すると、まずはカラミティに対し牽制射撃をしながら逃げ遅れた人の救助に回る。瓦礫の下敷きになった人を、カラミティに攻撃しながら何とか助け出し、まだ無事な人に託して1人でも多く助ける。
「大丈夫ですか? さ、早く逃げて!」
「は、はい!?」
「あ、足が――!?」
「しっかり……この人をお願いします!」
1人懸命に救助活動を行うルーナだったが、カラミティはお構いなしにルーナに攻撃を仕掛けてくる。ストールを鞭かヌンチャクの様に扱い、救助の方に意識を割いて注意が散漫になっているルーナを強かに打ち据える。
「うあっ!? く、うぅっ?!」
「余所見をしていていいのかね? 今日は君1人なんだろ!」
「くっ!……邪魔すんじゃないわよ!!」
まだ逃げ遅れた人は居るが、これ以上は逆に戦闘に巻き込んでしまう。ルーナは止む無く救助を中断し、カラミティとの戦闘に注力した。
「テヤァァァッ!」
両手に持った銃剣で斬りかかるルーナだが、カラミティのストールはその程度では切れない。デイナですら駄目だったのに、彼よりパワーで劣る彼女に出来る訳が無かった。
だがルーナにはデイナにはない速さがある。防御の為に自分の視界をカラミティがストールで隠した瞬間、ルーナは素早く背後に回り至近距離から銃撃を加えた。
「むっ!?」
「まだまだっ!」
その後もルーナは動きを止める事無く、持ち前の反射神経と思考速度でカラミティの周囲を動き回り攻撃し続けた。背後からの銃撃、横からの蹴り、距離を取っての精密射撃、正面に回っての斬撃。
その動きにカラミティはついていく事が出来ないのか、されるがままであった。反撃のつもりなのかストールを振り回すが、ルーナの動きを捉える事は出来ない。ルーナは内心でこのまま勝てるのではと、僅かながら希望を抱く。
だがその希望は儚いものだった。突然ストールがルーナの足を引っ掛け、勢いのままに転倒させられる。
「うわっ!?」
ストールはルーナの足を引っ掛けただけで終わらず、縦横無尽に巻き付くと彼女の身動きを封じた。
「ぐ、くぅ――――!?」
「勝てるかも、と思っただろう? 残念だったねぇ」
「あ、あんた……態と攻撃を受けてたの!?」
「研究とは時に待つ事も大事だよ。君も大学生なら分かるだろう」
実際の所、ルーナの攻撃はカラミティに有効とは言い難かった。塵も積もれば山になるとは言うが、塵が積もって山になるには時間が掛かる。
それどころか、カラミティは仁の遺伝子を用いて変身している。新人類の遺伝子を用いて変身すると言う事は、回復力にも優れていると言う事だ。ルーナに攻撃されても、ダメージを受けた端から彼は回復していた。これでは意味がない。
カラミティに捉えられ、絶体絶命となったルーナ。
そこに騒ぎを聞きつけた仁が漸く到着した。
「亜矢さん! 変身!」
〈Congrats! Birth of a new life, GRIFFIN. Open the door〉
仁は速度優先でデイナ・グリフィンライフに変身すると飛翔して一気にカラミティに接近。飛び蹴りを喰らわせルーナを強引に引き剥がした。
「危なかった、亜矢さん真矢さん。大丈夫?」
「はい!……勿論!」
ルーナの救出に成功したデイナは、ハイブリッドアームズを大剣モードで構える。ルーナもその隣でライフルモードのリプレッサーショットⅡを向けると、カラミティはデイナに蹴られた箇所を埃を払う様に手で叩きながら立ち上がった。
「ふむ、これで役者が揃ったか……」
「今度は何の用? まさか俺の血が足りないとか言うんじゃないよね?」
「当たらずとも遠からずだね。更なる研究の為に、より多くのサンプルが必要になったんだよ。出来れば……君ら両方のね」
つまり今のカラミティの狙いはデイナとルーナの両方と言う事か。自分1人ならともかく、ルーナまで狙うと堂々と宣言したカラミティにデイナは仮面の奥で奥歯を噛み締めた。
「……させないよ」
これ以上ルーナを傷付けさせるものかと、デイナは大剣でカラミティに斬りかかる。カラミティはそれを両手で持ったストールで防ぐが、そうするとルーナに無防備な胴体を晒す事になるデイナの陰から狙うルーナの狙撃が、カラミティの胴体に突き刺さった。
「むぅ――――!」
衝撃に数歩後退るカラミティをデイナがさらに追撃する。デイナはとにかくカラミティに攻撃をし続け、ルーナから意識を反らし続けた。そうすれば彼女を守る事に繋がるし、彼女がカラミティを攻撃する隙も作れる。
2人のコンビネーションにカラミティが徐々に押されているように見えた。
が、次の瞬間カラミティは一瞬の隙を見てストールをデイナの腕に巻き付けた。普段に比べて攻撃がやや大振りになってしまったのだ。
「ぐっ!?」
まるで万力で締め付けられるかのような圧迫感を腕に感じるデイナ。だがこれはある意味で好都合。自分が引っ張っている限り、カラミティも綱引き状態でその場から動けなくなる。
デイナは空いてる片手でライフルモードにしたハイブリッドアームズを持ち銃口を向け引き金を引こうとした。
だがそれよりも早くに、ストールが巻き付いた腕が灼熱の痛みを訴え引き金を引く所の話ではなくなってしまった。
「ぐっ!? あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「仁くん!?」
ルーナはデイナを助けようとカラミティを狙撃しようとするが、突然の激痛に踏ん張りが利かなくなったデイナをカラミティが引き寄せ盾にした。これでは彼女には撃つ事が出来ない。
「うっ!?」
「2人で挑んだのが間違いだったね!」
撃つ事が出来ないルーナに向けて、カラミティはデイナを放り投げる。投げ飛ばされたデイナを受け止めようとして、ルーナは思わず武器を手放してしまった。
するとそれを待っていたかのように、カラミティがデイナを押し退けルーナに接近すると今度は彼女にストールを巻き付けた。それも全身を、だ
「あっ!?」
しまったと思った時にはもう遅い。デイナと同様、ルーナも突如として体を焼かれる痛みに悲鳴を上げた。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「亜矢さん!?」
もう立っていられる状態ではなく、脱力しその場に倒れそうになる。だがそれはカラミティが許さず、ルーナは縛られたままに宙吊りの状態となってしまった。勿論その間もルーナの体を蝕む灼熱の様な痛みは収まらない。
「あぁぁ、あああぁぁぁぁぁっ?! うあっ!? あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛?!」
「止めろォォォッ!!」
〈ATP Burst〉
地獄の様な痛みに首を振り乱すルーナの姿に、デイナが激昂しながらノックアウトクラッシュを放つ。カラミティは即座にルーナを解放すると、デイナのノックアウトクラッシュをストールで受け止めようとした。
今度はその伸縮性の高さを活かし、限界まで大きく広がるストール。まるでデイナを必殺技ごと飲み込もうとしているかのようだ。
それを見てそのまま技を放つほど彼も愚かではない。彼は直前で翼を広げエアブレーキにすると、上空に飛び上がってカラミティのストールを回避。そのまま上空から滑空しながらカラミティを蹴り飛ばした。
「ぐっ!?」
上空からのノックアウトクラッシュに、呻き声を上げながら下がるカラミティを見ながらデイナは倒れたルーナを抱き上げる。
「亜矢さん、大丈夫?」
「な、何とか……でも、あれは一体何を?」
ただの熱とは違う痛み。一体何をされたのか分からず困惑するルーナだったが、デイナには今のが何となく分かった。
「多分、食作用みたいなものだよ」
「食作用?」
「白血球などが病原菌を食べるあれだ。或いはモウセンゴケを思い浮かべてくれればいい」
デイナの言葉を詳しく説明したのはカラミティだった。
伸縮自在で硬さも変えられるこのストールの能力はそれだけではない。本当に厄介なのは、締め付けた相手を「食す」事ができる点だった。ストールが密着した相手の部位を徐々に溶かし、そして吸収する事が出来る。そうして相手の遺伝子情報を奪い取る事が出来るのが、カラミティ・ハザード2の真の能力だった。
つまり今、カラミティは仁と亜矢、2人の新人類の遺伝子を自らに取り込んだことになる。
「ふふふ……双星 亜矢君……だったね? 君の遺伝子で門守 仁君の遺伝子が喜んでいるよ。君達は良い相性をしている様だ」
遺伝子には確かに相性の良し悪しはある。それはフェロモンと言う形で現れ、相性のいい遺伝子を持つ異性の体臭は心地良く感じるのだ。
だがカラミティの言葉には何だか別の意味合いが含まれているように感じられて、デイナはそれが不気味で仕方なかった。
訝しむデイナが睨む前で、カラミティは踵を返してその場を立ち去って行った。
「それでは、今日はこれで失礼するよ。研究が進んだら君らにも見せに来てあげるから、楽しみにして居たまえ」
そう言ってカラミティは変身したまま、ビルの屋上を飛び石のようにして離れていった。ビルの上を飛び跳ねて離れていくカラミティの後姿を、変身解除した仁が同じく変身解除した亜矢を支えながら見送った。
という訳で第53話でした。
仁と亜矢のクリスマス、以前は互いに風物詩的に雰囲気を楽しむだけでしたが、作品時間で今年は存分に楽しむ気満々です。と言うか仁は、クリスマスにプロポーズするつもりです。
希美がすっかりリリィとレックスのお姉さんとなってしまいました。登場してすぐの頃はこんなんじゃなかったのに、変化とは恐ろしいものです。
伸びたり硬くなったりするだけじゃないカラミティのストール。本当の力と言うか、新たに獲得した力はストールで包んだ相手を消化吸収できてしまうというえげつない能力です。並の人間だったらあっという間に骨まで残さず吸収されます。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。