仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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第54話:遺伝の法則

 リリィとレックスの2人を連れて街へと出ていた希美は、本社ビルに戻るなり周りを保安警察の隊員に取り囲まれた。ファッジにはなっていないが、上から下まで完全武装でライフルを突き付けてくる。

 

「……何よ? ちょっと外出てただけでしょ?」

 

 自分達に銃口を向けてくる隊員達を睨みつつ、さりげなく背後のリリィ達を庇うように手を広げる。怯えるリリィは自分の陰に隠し、隊員達に敵意を向けるレックスを手で制しながら周りを見渡していると隊員達をかき分けてアデニンが出てきた。

 

「勝手にその2人を連れだして、何をやっているはこちらのセリフだ」

 

 アデニンが呆れながら希美に告げた。

 元幹部と言う事で希美は本社ビルから外に出る事に対してはこれと言って制約はない。が、リリィとレックスに関しては話が別だった。この2人はただの実験動物として、拉致された挙句アメリカ支社で数々の実験に使われた。この日本で2人を知る者も2人を探す者も居ないだろう事は分かっているのだが、それでも2人が何らかのトラブルの元となる可能性は否定できない。故に2人に関しては外出に著しく制限を掛けておいたのだ。

 

 それを完全に無視して、2人を外に連れ出して歩き回った。ともすれば会社に大きな不利益を齎しかねない行動をした希美を、アデニン達が咎めるのは当然の流れであった。

 

「その2人に外出許可は出していない」

「私が出したわ」

「お前にそんな権限はない」

 

 希美は一歩も引かずアデニンと対峙し、リリィとレックスを庇い続ける。

 その時、隊員の1人がリリィに手を伸ばした。無理矢理にでも連れて行こうと言うのだろう。

 

「ヒッ――!?」

 

 ボディーアーマーにフルフェイスのヘルメットの人物が銃を持って自分に手を伸ばしてきている事に気付いたリリィが小さく悲鳴を上げた。それに気付いたレックスが咄嗟に彼女を守ろうとリリィに手を伸ばす隊員飛び掛かろうとするが、別の隊員が持つ躾け様の制御装置のスイッチを入れた瞬間彼の体に電流が走りその場に倒れた。

 

「うあ、あぁぁぁぁっ?!」

「レックス!?」

「ッ!?」

 

 電流に身体を内側から焼かれ苦しみ倒れるレックスにリリィが近付く。倒れたレックスにリリィが触れるが、そうすると彼に流れている電流がリリィにも流れ痛みで手を引っ込めざるを得なかった。

 

 触れたいのに触れられない事と、苦しむレックスに慌てふためき涙を流すリリィ。その間にも先程の隊員はリリィに手を伸ばし彼女の腕を掴もうとしていた。

 

 それを希美が防いだ。希美は隊員の腕を掴み捻り上げると銃を奪い蹴り飛ばす。そして奪った銃を、レックスの制御装置を操作している隊員に向けた。

 

「希美……」

 

「動くな!」

「銃を捨てろ!」

「だったらそれスイッチ切りなさいよ」

 

 周りから銃口を向けられながら、希美は怯む事無く装置を持った隊員に銃口を向け引き金に指を掛ける。固唾を飲んでその様子をリリィが見守っていた。

 

「お前、この状況分かってるのか?」

「勿論……」

「仮にここでお前が先に引き金を引いたら、お前だけでなく全員お陀仏だぞ?」

 

 脅しをかけるアデニンだったが、希美はそれを鼻で笑った。出来る筈が無いのだ。痛めつけるだけならばともかく、勝手な処分は許されていない。これが明確に研究員などに死人が出たとかなら鎮圧の名目で射殺も許可されるだろうが、希美はともかくリリィとレックスはそこまでの事はしていない。つまりここで勝手に2人を処分したりすれば、罰せられるのはアデニン達の方なのである。

 

 希美はそれが分かっているので、ここまで強気に出ているのだ。

 

 アデニンも彼女の言わんとしている事が分かるので、観念するように溜め息を吐くと目線で部下に指示を出し装置を止めさせた。途端にレックスは脱力し、その場で意識を失う。

 

「レックス! レックス、しっかりして……」

 

 気絶したレックスを抱き上げ声を掛けるリリィ。希美は奪い取った銃を乱暴に床に放ると、気絶したレックスを運ぼうと彼の方を見た。

 

 瞬間、アデニンは懐から希美用の制御装置を取り出しスイッチを入れた。レックスに仕掛けられたものよりも強力な電流が希美の全身を貫いた。

 

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

「ノゾミ!?」

 

 今度は希美が装置で苦しめられている事に、リリィが彼女の方を振り返るが保安警察の隊員がそれ以上の行動を許さなかった。リリィは2人の隊員に取り押さえられ、レックス共々その場から連れて行かれる。

 

「嫌っ! 放してッ!? ノゾミ、ノゾミッ!?」

 

 叫びながら手を伸ばすリリィだが、その手が希美に届く事なく彼女はレックス共々その場から連れ出された。

 後に残されたのは、制御装置で苦しめられる希美とそれを見下すアデニン、それと数人の隊員達だけである。

 

「うぐぅぅぅぅっっ!? あがが、がぁぁぁ!? ぎ、ぎぃぃぃっ?!」

 

 驚くべきことに、希美は全身を常人ならショック死するほどの電流で焼かれているにも拘らず連れて行かれたリリィとレックスを追おうと言う事を利かない手足を動かしていた。とは言え手足を動かしているだけでその場からは全く移動できておらず、傍から見ている分には滑稽でしかない光景である。

 だがその執念は恐ろしいものがあった。こんな状態になっても尚、彼女は諦めていないのだ。

 

 その姿は、まるで仁達の様ですらあった。

 

 アデニンは床を這いつくばる希美を眺めていたが、唐突に装置のスイッチを切った。電流から解放された事で、希美は苦痛から解放されその場で何度も大きく息をした。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ――――」

 

 幾分か呼吸した希美は、再び立ち上がりリリィ達の後を追おうとした。が、それはその場に残った隊員達により阻止される。背後から何人も飛び付き、彼女を床に押え付けた。

 

「うぐっ!? く、うぅ……。放し、なさいよ――!?」

 

 必死に抵抗する希美だったが、先程の電流でその力は既に削がれている。

 

 アデニンは押え付けられた希美に近付き、しゃがんで顔を近付けると髪を掴んで顔だけ持ち上げた。

 

「うあ゛っ!?」

「変わったな……お前も」

「は、はぁ?」

 

 髪を掴まれて持ち上げられる痛みに顔を顰めながら、アデニンの言葉に希美は怪訝そうな顔をする。彼女が怪訝そうな顔をした事で自分が何を言ったのかを思い出し、手を離すと立ち上がり部下達に指示を出した。

 

「そいつは部屋に連れて行っておけ。処分については追って指示を出す。それまでは鍵を掛けて出られない様にしろ」

「ハッ!」

 

 希美はそのまま引き摺られるようにして部屋へと連れて行かれる。電撃で著しく体力を奪われ朦朧とする意識の中、彼女が考えるのはアデニン達への怒りや恨みではなく、連れて行かれたレックスとリリィの安否であった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「――――う~ん……」

 

 あれから一晩経ち、仁は大学のラボで1人考え込んでいた。

 

 それと言うのも、雄成が口にしたこの言葉がどうにも気になって仕方ないのだ。

 

『ふふふ……双星 亜矢君……だったね? 君の遺伝子で門守 仁君の遺伝子が喜んでいるよ。君達は良い相性をしている様だ』

 

 この言葉、そのまま捉えるなら単に仁と亜矢が遺伝子的にも相性が良いと言うだけの話である。だが果たして雄成が態々そんな事を教えるだろうか? あれが彼なりのユーモアであると言えばそれまで――それにしたって変態的で趣味が悪いが――だが、仁にはとてもそうは思えなかったのだ。

 

「俺と亜矢さんの遺伝子で……あの人何をする気なんだ?」

「もしかして、私達のクローンを作ろうとしてるとかでしょうか?」

 

 悩む仁に、紅茶の入ったカップを亜矢が差し出してきた。仁はカップを受け取り、適温に調整された紅茶で一息つくと亜矢の言葉を否定した。

 

「ふぅ~……それはないと思う」

「どうしてですか?」

「俺の見立てだと、新人類の遺伝子を手に入れた事で雄成さんがやろうとしてる事は大きく前進した筈。何かをやり遂げようとするまで、多分もうあと一歩か二歩ってところまで来てるんだと思う。勿論その一歩は簡単じゃないんだろうけど、でもここに来て時間が掛かってまごつくような事を雄成さんがするとは思えない」

 

 クローン技術は現代においても完全な技術ではない。生み出されたクローンはオリジナルに比べて寿命が著しく短かったり、何らかの異常を抱えていたりと問題点は多かった。

 この状況でそんな博打のような事に雄成が手を出すとは思えないのだ。それをするくらいなら、ベクターカートリッジの制作の方がずっと簡単だ。

 

「……もしかして、私と仁君の遺伝子を掛け合わせて新しい新人類を作ろうとしてるとか?」

 

 真矢が何気なく呟いた言葉は、仁も一応考えはした。だが何らかの器具を用いて遺伝子を摂取したならともかく、雄成はライダーの能力を使って遺伝子を吸収したに過ぎない。これでは新たに生み出す事など――――

 

「…………ッ! あの人、もしかして……」

「何? 何か分かったの?」

 

 ここで仁は気付いた。そもそもカラミティ・ハザード2に何故遺伝子吸収などと言う能力があるのか。

 

 恐らくそれは、他の生物の遺伝子を取り込むことで自身を強化する為だ。超万能細胞はどんな遺伝子とも馴染み、どんな形にも変化する。それはつまり、遺伝子を取り込めば取り込むほど強化されていくと言う事。

 ただの超万能細胞であればその度合いは1つの遺伝子を取り込むのが精一杯だったのだろう。だが、仁の中で進化し洗練された新たな超万能細胞はその能力が上がった。いや、雄成がベクターカートリッジに加工するに当たって上げられたと言うべきだろう。

 

 サンプル2ベクターカートリッジに使われている遺伝子は、仁の物であって仁ではない。新たに得た能力で、仁と亜矢の遺伝子を取り込み今後どう変異していくのか。

 

 カラミティの今後の変異にに仁が不穏なものを感じていると、峰が慌てた様子で2人に近付いて来た。彼女がこんな風に近付いて来た時は、十中八九ファッジが暴れている時だ。

 

「門守君! 双星さん! 大変です!?」

 

 ドタバタと近付いてくる峰に、内心またかと思いつつ仁は亜矢と顔を見合わせ肩を竦めた。何と言うか、もう峰の言う「大変」にも慣れてしまった。

 無論その大変の内容は、場合によっては多くの無関係な人々が巻き込まれた本当に非常事態なものである事は分かっている。分かってはいるのだが、何と言うか感覚が麻痺してしまったのだ。

 

 これではいけないと、仁は頭を振って気持ちを切り替えた。

 

「どうしたんです? 今度は何処にファッジが出たんですか?」

「そんな落ち着いてる場合じゃありませんよ! 警視庁です! 警視庁が襲撃されてるんです!」

 

 峰が慌てているのだから、街中にファッジが出現して暴れているのだろうと思っていたがどうやら予想の斜め上な事になっているらしい。

 

 しかし警視庁……恐らくはS.B.C.T.を完全に叩き潰す為に行動を起こしたのだろう。雄成の計画はそれだけ佳境に入りつつあると言う事だ。

 だが同時に、これも仁と亜矢を誘き出す為のアクションであると言う可能性も捨てきれなかった。何も考えずに警視庁に向ったら、傘木社に待ち伏せを受けてしまう可能性も無くはない。

 

 仁はその可能性を考えチラリと亜矢の事を見ると、彼女は目に覚悟を宿しながら頷き返してきた。彼女もその可能性は考えているし、その場合も覚悟の上なのだろう。

 

「……行こうか」

「はい!」

 

 まぁどの道2人に行かないと言う選択肢はなかった。傘木社だって警視庁を襲撃すればS.B.C.T.による反撃がある事は分かっている筈。それを承知の上で襲撃したとすれば、連中は迎撃を下せる自信があると言う事だ。

 放置する訳にはいかないだろう。

 

 仁と亜矢は手早く準備を整え、トランスポゾンで警視庁へと急いで向かった。

 近付くにつれ、街の喧騒とは違う騒動の音が聞こえてきた。2人がバイクを走らせるほうに向けて逃げるように走る人の姿も見えてくる。次第に乗り捨てられた車と、破壊痕の様なものも目立つようになってきた。それらが見える頃には、もう無数の銃声が聞こえる位になっていた。

 

「「変身!」」

 

 仁と亜矢は警視庁に到着する直前、デイナ・ミノタウロスライフとルーナ・ユナイトに変身した。

 2人が到着した時、そこは戦場ではなく惨劇の場であった。

 

 警視庁の建物の前に倒れている無数の警察官。奇襲だったのだろう。その多くは制服を着た警察官だった。S.B.C.T.の出動準備が整うまでの間、決死の思いで迎え撃ってくれていたのだ。

 その彼らの奮闘を、襲撃者――仮面ライダーカラミティは嘲笑うかのようにS.B.C.T.の隊員達を血祭りにあげていた。

 

「フン!」

「ぐあぁぁぁっ?!」

「ハッ!」

「ぐふ、あぁ……」

 

 カラミティはたった1人で、迫り来るライトスコープ達をストールで打ち倒していく。ある者は全身がバラバラになるほど締め付けられ、ある者は胸を貫かれ、ある者は振り回されて全身を叩き付けられる。

 次々と倒れていく隊員達を見て、宗吾が変身しているスコープ1号はこれ以上被害を出すまいとカラミティに挑む。

 

「うぉぉぉぉぉっ!」

 

 ボルテックスブレードでカラミティに斬りかかるが、カラミティはそれをストールも使わず片手で刃を掴んで受け止めた。

 宗吾はそれを待っていた。

 

「そう来るだろう事は予測済みだ!」

「ん?」

 

 片手が塞がってしまえば、ストールによる防御は使えない。いや仮に使えたとしても、これからスコープ1号が行う事を防ぐことは叶わなかっただろう。

 スコープ1号はカラミティに攻撃を仕掛ける直前、ライオットバトンを精製していた。高圧電流を相手に流すトンファーだ。触れただけで相手を痺れさせる。しかもこの至近距離、外す道理が無い。

 

「らぁっ!」

 

 放電状態にしたライオットバトンを、思いっきりカラミティに叩き付けた。放電部位がカラミティの腹部に押し当てられ、強烈な電流がカラミティに流れる。

 

「ぐおぉぉぉぉっ?!」

 

 自身の中を電流が流れていく感覚に、流石のカラミティも堪えるのか苦悶の悲鳴を上げた。

 それを遠目から見ているデイナとルーナ。

 

「やった、効いてる!」

「…………いや、駄目だ」

 

 あれは有効打だろうと拳を握るルーナだが、デイナはそうは思わなかった。それを証明するかのように、カラミティは唐突に悲鳴を止めた。

 

「ぉぉぉ……と、思ったかね?」

「何ッ!?」

「フン!」

「ぐあっ?!」

 

 全く聞いていないかのようなカラミティの様子に、スコープ1号が驚き呆気に取られていると裏拳で殴り飛ばされる。その衝撃でライオットバトンは何処かへ飛んで行ってしまった。

 

「な、何故? どうやって電撃を防いだ!?」

「ストールだよ」

「門守君!? それに双星さんも!」

「やぁ待っていたよ2人共。……気付いたかね?」

「遠目に見てれば気付くよ」

 

 デイナが見ている先で、カラミティはライオットバトンが振るわれる直前にストールを地面と密着させていた。あれがアースの役割を果たし、電流はストールを通じて地面へと流れていくのでカラミティには殆どダメージが無かったのだ。

 

「……それで? 今日は何でまた警視庁に?」

「何、カラミティが君らの遺伝子のお陰で更に強くなったからね。その性能を見ようと何時ものように彼らに相手をしてもらっただけさ」

 

 つまり彼にとって、S.B.C.T.は体の良い巻き藁でしかないと言う訳だ。自分達が射的の的でしかないと言われ、スコープ1号が仮面の奥で奥歯を噛み締める。

 

「俺達が……ただの的だと言いたいのか!?」

「その通りさ。いやしかし、君らは本当に扱いやすいよ」

「何!?」

 

 激昂するスコープ1号を前にしても、カラミティは悠然とした態度を崩さない。それどころかまるで見下しているようにすら見える。いや、実際見下しているのだろう。彼にとって、自分に追随できる頭脳を持つ仁以外は全て有象無象でしかないのだ。

 

「考えても見たまえ。自衛隊に匹敵する装備を持つ組織が、必要とは言え警察の中でそんな簡単に作られると思うかい?」

「それは……まさか――!?」

 

 最早S.B.C.T.の装備は自衛隊のそれを上回っている。戦車や戦闘機の類などこそ存在しないが、歩兵レベルの装備は自衛隊の部隊など比べ物にもならない。仮に同数のS.B.C.T.と自衛隊が戦闘を行えば、勝つのはS.B.C.T.の方だろう。

 

 そんな部隊が、警察組織の中で作られるなど普通はあり得ない。殊更に軍備云々に五月蠅い政治屋共が許さないだろう。それがこうして存在しているのは、実際の被害が洒落にならないのもそうだが何よりも外部からの横槍で反対意見が抑えられ発足を促されたからだ。

 

「フフフ、そうさ。私が関係各所に働きかけたんだよ。あの頃は仮面ライダーも居なかったから、テストの相手が居なくて困っていたからね」

 

 つまりはそう言う事だ。雄成は、作り出したファッジの能力を実戦で測る為の敵としてS.B.C.T.を作らせたのだ。

 

「き、さ、まぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ッ!? 権藤さん、待って!」

 

 辛抱できなくなったスコープ1号がボルテックスブレードを振り上げてカラミティに突撃していく。ルーナが制止するが、彼女の言葉も届いていない。

 

「ふざけるな!? 貴様の下らん発明の為に、一体何人の部下が死んだと思ってる!? 部下だけじゃない! 無関係な市民も、俺の妻と娘も貴様が作ったファッジに殺されたんだぞ!?」

 

 怒りに任せてボルテックスブレードを振るうスコープ1号だが、カラミティは彼の攻撃をストールも使わず片手で捌いていく。それが腹立たしくて、スコープ1号は更に苛烈に攻撃した。足元に落ちていた部下のガンマソードを攻撃の合間に拾うと、それを使って二刀流となった。

 

「貴様がッ!? 貴様らがぁっ!?」

「…………ハッ!」

「ぐぅっ!?」

 

 暫くスコープ1号に付き合うように攻撃を防いでいたカラミティだが、一瞬の隙を突き掌底をスコープ1号の胸板に叩き込み吹き飛ばした。吹き飛ばされたスコープ1号は停めてあるパトカーに激突して凹ませ、そこで限界が来たのか変身が解除された。

 

 凹んだパトカーに座るように凭れ掛かる宗吾を、ルーナが心配して駆け寄る。

 

「く、そ――――!?」

「権藤さん、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……」

 

 まだ宗吾の意識はあるらしい。流石のタフネスだ。だがあれでは戦闘どころか退避も儘ならない。彼とルーナを守るように、デイナがカラミティの前に立ち塞がった。

 

 既にスコープ1号からは興味を失ったのか、カラミティはデイナに意識を向けている。

 

「そう言えば、君らにも感謝をしないとね」

「ん?」

「君のお陰で私の研究は捗り、計画は大きく前進したんだよ」

「別にアンタの為じゃないよ」

「計画って、一体何なんですか!?」

 

 宗吾を助けに来た他の隊員に任せ、ルーナがデイナの隣に並び立つ。彼女は分からなかった。カラミティが、雄成が何故ここまで人命を軽視して超万能細胞やファッジの実験をするのか。

 

「知っての通り、新人類に覚醒する為には超万能細胞をただ人体に注入すればいいと言う話ではない。それは何故か、分かるかね?」

「何故って……」

「白上から聞いてはいるだろうが、超万能細胞は他の細胞に伝播し全身を超万能細胞に置き換える。全身を超万能細胞で満たされた人間なら、それは新人類と言えるだろう。だが話はそう簡単ではない。何故だか分かるかね?」

 

 まるで大学の講義を受けている様な感覚に、ルーナは場違いにも真剣に考えてしまう。だが言われてみれば、最初に超万能細胞に関して聞かされた時に新人類が生まれる可能性を白上教授から聞かされた。

 その言葉を信じるなら、そもそもベクターカートリッジやデイナドライバーは新人類に必要ない筈だ。一体どう言う事か?

 

 その答えを口にしたのはカラミティではなくデイナであった。

 

「超万能細胞は、劣性遺伝だから……でしょ?」

「え!?」

「ほほぉ、そこまで調べていたか。流石だ」

「ちょっと待ってください仁くん、劣性遺伝って!?」

「そうだよ、亜矢さん。超万能細胞はただ人の体に入れただけじゃ駄目なんだ」

 

 劣性遺伝とは、端的に言えば遺伝し辛い遺伝形質の事だ。血液型のO型など、他の遺伝形質があるとそちらに優先されて表に出ない形質で、発現する為には男女が互いに同じ劣性遺伝を持つ必要がある。勿論全く表に出ない訳ではなく、例えばA型の血液でも実際にはA型とO型から生まれたAO型の血液型であれば、相手が同様にO型の形質を持つBO型などであれば低確率だがO型の血液型となる可能性がある。

 

 超万能細胞の遺伝子も同じ、いやそれ以上に遺伝形質としては弱いのだ。

 

「試しに、超万能細胞を植え付けた超人の男女2人に子を何度も作らせてみたが、結果は全てただの人間だった。どうやら全身が超万能細胞になっても、ただの人間だった頃の遺伝子は健在らしい。どうも遺伝子そのものが変わるんじゃなく、遺伝子に超万能細胞の情報が連結されただけの様だ。だから子を成してもだたの人間しか産まれない」

「何て、事を――――!?」

「悪魔めッ!?」

 

 カラミティの口から語られる実験の内容は正に悪魔の所業と言っても過言ではなかった。人を人とも思わぬ実験。生命の神秘とも言える子孫を残す行為すら冒涜するかのような行為に、ルーナと宗吾は生理的嫌悪感を感じずにはいられない。

 

 デイナは先程から黙っているが、その拳を見れば彼も少なくない悪感情を抱いている事は察する事が出来るだろう。自らの知的好奇心を満たす為ならば、己の身を犠牲にする事も厭わぬ彼だがそれでも最低限の分別はあった。

 

 もうこれ以上、彼らを野放しにする訳にはいかない。

 

「雄成さん……俺とアンタは同類だ、そこは認めるよ。だけど……俺はアンタみたいにはならない」

〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉

「ほぅ? ではどうするのかね?」

「決まってるでしょ……ここで止める。ゲノムチェンジ」

〈Amazing! Revelation of the legend, DRAGON. Open the door〉

 

 デイナが選んだのは絶滅した恐竜の遺伝子であるケツァルコアトルスとスピノサウルスのベクターカートリッジ。嘗てこの地球上に存在し、そして今は虚構の存在となったそれが現代に蘇り、そして生み出されるのは正に伝説の存在。

 

 その名はドラゴン……デイナ・ドラゴンライフ。史上最強の空想の生物が今、遺伝子と科学の力を借りて現実に姿を現した。

 

 現実に姿を現した伝説を前に、カラミティは委縮するどころか興奮した様子でデイナと相対していた。

 

「ほほぉ! それはそれは……とても興味深い。是非ともデータを取らせてほしいものだ!」

 

 デイナ・ドラゴンライフに向かい、カラミティはストールを翻して接近する。ストールを掴んで振り回し、先端が硬質化したそれを一気に伸ばしてデイナを貫こうとした。

 

 デイナはそれを、以前までと異なりマントの様になった翼を翻す事で防いだ。こちらのマントも見た目に反して相当に硬いのか、布状の物同士がぶつかり合ったとは思えない音を立ててストールを弾いた。

 

 カラミティはその後もストールをヌンチャクの様に振り回し、縦横無尽にデイナを攻め立てる。以前よりも格段に戦闘力が上がったカラミティは、太古の生物の力を伝説の領域にまで引き上げたデイナの力を以てしても圧倒できるものではなく、それどころかこの形態だからここまで食い下がる事が出来ていると言っても過言ではなかった。

 今のカラミティはそれほどに強くなっていた。

 

「くぅ……んの」

 

 しかしデイナもやられてばかりではない。振り回されたストールを逆に掴むと、自分の腕に巻き付けてストールによる攻撃を塞いだ。

 

「ッ! 駄目です仁くん! そんな事したら――!?」

 

 あのストールには触れた生物を分解して吸収する力がある。デイナドライバーで変身するライダーにとって天敵の様な能力だ。そのストールに腕を巻き付けるなど、ワニの口に腕を突っ込むも同然の行為。あまりにも無謀過ぎた。

 案の定、ストールを巻き付けた部分からは肉が溶けるような音と共に煙が上がり始めた。デイナの遺伝子が溶かされ吸収されているのだ。それを見てルーナはリプレッサーショットⅡを抜きカラミティに向けた。

 

 だがこれが危険な行為である事はデイナ自身がよく理解している。理解した上での行動だった。彼はこの状況から、逆転の秘策を考え付いていた。

 

「ぐ、つぅっ!?……はっ、そんなに食いたいなら、好きなだけ食わせてあげるよ」

〈ATP Burst〉

 

 腕を焼かれながら、デイナはレセプタースロットルを引いた。すると進化した事で更に出力を増したATPが瞬く間に産生され、デイナの意思でストールを巻き付けた腕に流れていく。

 

「ッ!? しまった!?」

 

 ここで漸くカラミティはデイナの目的に気付いた。彼は態と腕を巻き付かせ、自分とカラミティの間に物理的な繋がりを作り出したのだ。ストールを通じて強制的にエネルギーを送り込んで、カラミティをショートかパンクさせる為に。

 

「くっ!?」

 

 強制的にエネルギーが流された事で早くもストールからは嫌な煙が上がり、逆流の様にエネルギーが流し込まれたカラミティは体が内側から弾けるのではという錯覚に陥った。これ以上は不味いと、デイナを振り払うべく何度も殴り付ける。

 

 だが、デイナは決してカラミティからは離れなかった。どれだけ殴られ、装甲が凹み欠けたりしようとも、エネルギーを流し込み続けた。

 

 そして遂に、カラミティの方に限界がやって来る。

 

「ぐ、あぁぁぁぁぁっ!?」

 

 カラミティの叫びと共に、ストールが弾け大きく吹き飛ばされた。デイナも同様に吹き飛ばされるが、こうなる事が分かっていたデイナは直ぐに体勢を立て直す。

 

「こいつで、終わらせる」

〈ATP Burst〉

 

 そこでさらに追い打ちとして、カラミティに向けノックアウトクラッシュを放った。既に腕を焼かれた上に殴られまくり、更には爆発にまで巻き込まれデイナは満身創痍と言った様子だがそれでも技を放った。

 エネルギーを集束した飛び蹴りがカラミティに向け飛んでいく。

 

「ふふ、待っていたよそれを!」

 

 その瞬間、カラミティは素早く立ち上がるとサンプル2ベクターカートリッジをドライバーから引き抜き掲げた。ちょうどデイナのノックアウトクラッシュの射線上に入るように……。

 

「なっ!?」

 

 まさかベクターカートリッジを盾にするような真似をするとはデイナも思っておらず、そのまま技を放ってしまった。飛び蹴りはベクターカートリッジに直撃し、最初はそのままカートリッジを破壊してしまうかと思った。

 

 だが、次の瞬間、デイナですら全く予想もしていなかった事が起こった。

 何とベクターカートリッジがデイナのノックアウトクラッシュのエネルギーを吸収したのだ。

 

「えっ!?」

 

 かなりの出力のエネルギーを集束していた筈なのだが、サンプル2ベクターカートリッジは全てのエネルギーを吸収してしまった。エネルギーを吸収されつくし、デイナは勢いを失うとその場に落下し背中を地面に打ち付けてしまう。

 

「ぐっ!? な、何が……?」

「ふふ、ふふふふふ……」

 

 混乱するデイナに構わず、カラミティは手の中のベクターカートリッジを見つめる。カートリッジに内包された超万能細胞。その色が、燈から赤に変化した。

 

「ははっ! はっはっはっはっはっ! 素晴らしい! 君の遺伝子はなんて素晴らしいんだ、門守 仁君!」

〈ADVANCE〉

 

 仁の遺伝子から作られたサンプル2ベクターカートリッジ。仁の遺伝子をそのまま使わず、遺伝子情報をモデルに1から超万能細胞を加工する事で作り上げたそれは、精製の過程で思わぬ能力を獲得していた。

 適応能力を更に進化させた、吸収能力だ。外部からの刺激を吸収し、それにより更に進化する事が出来る。カラミティが同じハザード2でありながら短期間でここまで強化された最大の原因だ。

 

 以前の戦いで、ルーナのノックアウトクラッシュを受けた際、サンプル2ベクターカートリッジはそのエネルギーを吸収していた。雄成はその事に気付き、今こうして同様にデイナのノックアウトクラッシュのエネルギーを吸収したのだ。

 

 あの時とは比べ物にならない芳醇なエネルギー。それはベクターカートリッジに内包された超万能細胞の更なる進化を促した。

 

〈ADVANCE + ORGANISM Experiment. Biological disaster warning issued〉

「さぁ、見たまえ……更に進化したカラミティを!!」

〈Biohazard〉




と言う訳で第54話でした。

ここ最近平穏が続いてた希美サイドですがあちらにも遂に厄が舞い降りてしまいました。
さぁここから大変なことになっていきますよ。

S.B.C.T.は傘木社が裏から手を回したから設立されました。実はスコープシステムも、根幹をなす技術は傘木社が作ってたりします。

そして明かされる超万能細胞の問題点。普通の人間に超万能細胞を注入しても、超人は作れても新人類は産まれない。だから雄成は、ベクターカートリッジを作って度重なる実験をしてきた訳です。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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