仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

UA一万越え&お気に入り登録ありがとうございます!励みになります。

ここ最近、黒星が続く仁ですがここに来て最大級の黒星を喫する事に。
あぁ、早く無双させたい。


第55話:あまりにも苦すぎる味

〈ADVANCE + ORGANISM Experiment. Biological disaster warning issued〉

 

「さぁ、見たまえ……更に進化したカラミティを!!」

 

〈Biohazard〉

 

 カラミティの姿が光に包まれる。デイナ達はそれをただ見ている事しか出来なかった。

 

 光のシリンダーの中で、薄らと浮かび上がるカラミティの姿がハッキリとした形を成していく。そしてカラミティが内側から破り、その姿を太陽の下に晒した。

 

「カラミティ……ハザード3」

 

 誰が呟いたか、そんな言葉が辺りに響く。

 

 装甲と複眼の色は赤に変色し、首周りからはストールが消えていた。複眼には左右斜め上に向かいCの字が二つに増えているが、これまでの中で姿としては最もシンプルだ。正直、何かが強くなったという印象はあまりない。

 

 だがデイナは背筋に冷や汗が流れるのを感じずにはいられなかった。ハザード2になった時も、同様に攻撃力が下がった様に見えてとんでもない能力をもっていたのだ。あの姿も、きっと見た目以上に危険な能力を持っているに違いない。

 そもそも特殊な能力が無くても、パワーなど基礎能力がデイナを大きく上回っている可能性はあった。

 

「くっ!?」

 

 みすみす進化を許してしまった事に、ルーナが歯噛みしながら発砲する。銃弾が何発もカラミティの装甲やアンダースーツに命中するが、カラミティを傷付ける事無く全て弾かれてしまった。案の定防御力が圧倒的に上がっている。

 

 ならばとデイナが殴り掛かった。銃弾が通用しない相手に格闘が何処まで通用するかという問題はあるが、ドラゴンライフとなったデイナの一撃は銃弾をも上回る。大きなダメージにはならなくとも、多少は通用する筈だ。

 

 しかし、次の瞬間デイナに伝わったのはカラミティを殴った感触ではなく水か何かに手を突っ込んだような手応えの無さだった。

 

「えっ!?」

 

 その光景にデイナは目を見開いた。デイナの手はカラミティに弾かれるどころか、肘までカラミティの胸板に突き刺さっているのだ。にも拘らず、デイナは何の手応えを感じる事も無く、そしてカラミティも全く堪えた様子を見せない。

 

「あれはあのファッジと同じ!?」

 

 その光景を見てルーナは以前遭遇したファッジを思い出した。先日スコープ1号と共に突入した工場内で遭遇したリキッドファッジ。あいつもあんな風に体を液状化させる能力を持っていた筈だ。

 

 だがデイナはそのファッジとは大学で一瞬遭遇しただけで殆ど知らない。だからカラミティの新たに獲得した能力に驚き、僅かながら動きを止めてしまう。

 

 それが悪手だった。カラミティの体に潜り込んでいる腕が唐突に激痛を訴えたのだ。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ?! ぐぅぅぅぅっ!?」

 

 これはストールで消化吸収されている時と同じ現象だ。カラミティは体を液状化させ、液状化した体で包んだ相手をそのまま消化吸収できるらしい。

 これはリキッドファッジも持っていない能力だ。リキッドファッジに出来る事は飽く迄も体の液状化のみ。それ以上の事は出来ない。これはリキッドファッジの完全上位互換の能力と言えよう。

 

 デイナは慌てて腕を引き抜こうとしたが、突き刺した時は殆ど手応えが無かったのに引き抜こうとすると腕が全く動かない。

 思わずもう片方の手でカラミティの顔面を殴ってしまうが、その手も水に手を突っ込んだかのような感触と共に顔に突き刺さり先の腕と同様消化吸収され始める。

 

「ぐぅぁぁぁ、あああぁぁぁぁぁぁっ?!」

「仁くん!?」

「双星さん、これを!」

 

 デイナを助けようとするルーナだったが、慎司がそれを引き留め何かを渡してきた。

 彼が渡したのは先程カラミティの攻撃で吹き飛ばされたライオットバトンだった。先日の戦闘でリキッドファッジの弱点を見ている慎司は、カラミティが液状化能力を持っているのを見てこれを回収してきたのだ。

 

「あの能力にはこれが有効な筈です!」

「そっか、ありがとう!」

 

 慎司からライオットバトンを受け取ったルーナは、電撃を纏ったトンファーを手にカラミティに向って行く。彼女が向かった時にはカラミティは全身を液状化させ、デイナを飲み込むように彼の全身の殆どを包み込んでいた。

 

「あぐ……あ、あぁ……」

 

 全身を焼かれ消化吸収される痛みに、デイナはもう立つ事も出来ないのかその場に蹲り呻き声しか上げない。

 そのデイナに覆い被さるように包み込んでいるカラミティの、唯一形を保っている頭にルーナはトンファーを叩き込んだ。

 

「仁君から離れろ、この変態ッ!」

 

 バットをフルスイングするようにトンファーを振るい、カラミティの頭を殴り飛ばす。ルーナの接近に気付いたカラミティはデイナから離れようとするが、僅かに間に合わず電撃を纏うトンファーがカラミティを殴り飛ばした。

 

「ッ!」

 

 殴り飛ばされたカラミティは空中で形を戻しながら飛んでいき、体勢を立て直すと危なげなく着地した。着地した際、その体からはルーナの一撃の影響か僅かに放電を纏っていた。

 

「ぐ、うぅ……」

「仁君、大丈夫!? しっかり!」

 

 カラミティから解放されたデイナの様子は酷いものだった。背中の翼になるマントは溶けて殆どなくなっており、全身の装甲もボロボロだ。

 それでも新人類となった体は直ぐに彼の体を癒したのか、見た目はボロボロだがすぐ立ち上がれるくらいにはなった。

 

「あ、ありがとう、真矢さん……今回はヤバかった」

「気にしないで。それよりあいつ……」

 

 デイナを助け起こしながら、ルーナは殴り飛ばしたカラミティを見る。カラミティは、全くダメージを感じさせない佇まいで肩や首を回していた。

 

「効いてない!? 電撃を地面に流す時間は無かったのに!?」

「多分、電気の刺激も吸収されたんだ」

「そんな――!?」

 

 電撃すら吸収されてダメージにならないとなると、もうどんな攻撃をすればいいのかルーナには分からなかった。受けた全ての刺激を吸収して無力化してしまう様な奴を、一体どうやって倒せばいいと言うのか。

 先程デイナはハザード2のカラミティに対し、ストールの吸収能力に対し過剰なエネルギーを流し込む事でダメージを与えていた。だが恐らく今のカラミティに同じことをやっても全て吸収されてしまうだろう。ハザード3に進化して、ただ特殊能力が変化しただけなどと言う事はない筈だ。基本的なスペックも軒並み上昇しているに違いない。当然、吸収できるキャパシティも増えている。現実的ではない。

 

 この時、デイナの脳裏には逃走も一つの案として浮かんでいた。流石にこの状況は彼でも勝ち目が見えない。一度退いて、作戦を練ってから再び挑むのも一つの手だ。

 

 しかしここで逃げれば、それは宗吾達を見捨てることになる。デイナとしてもそれはとても心苦しく、選択肢としての優先度は最下位であった。

 

 逃げると言う選択肢が無いのであれば、後は戦うしかない。だが肝心の戦い方が思い付かない。

 

 この状況で彼にとっての最善は――――

 

「――亜矢さん、真矢さん、よく聞いて」

「何、仁君?」

「権藤さん達を連れてこの場を離れて。時間は俺が稼ぐから」

 

 ルーナはデイナの発案に絶句した。彼1人残して逃げるなど、そんなの出来る訳がない。

 

「嫌です!? 絶対に嫌です!?」

「でも、言いたくないけど今の俺達じゃあの人に勝てない。だったら逃げるしかない」

「それなら仁君も一緒に逃げればいいじゃない!?……そうですよ! 何も仁くんだけがここに残る必要なんて……」

「いや、そうするとあの人は俺達を追い掛けてくる。正直、権藤さんや他の警察の人達を守りながらあの人から逃げきる自信はない。それなら、誰か1人が残ってあの人の足止めをする以外ない」

「それなら私が残ります! 仁くんよりまだ余裕がありますから大丈夫です!」

 

 ルーナはまだ大してダメージを受けていない。対してデイナは先程の戦闘で大きく傷つけられた。足止めをすると言うのなら、体力的に余裕がある方が残った方が良いに決まっている。

 

 しかしデイナは首を縦には振らなかった。彼は頑なにルーナを先に撤退させようとした。

 

「いや、逆だよ。俺が抜かれた後、雄成さんが追撃するかもしれないし逃げた先に伏兵が居るかもしれない。その時、権藤さん達を守る為に体力に余裕のある方がついていった方が良い」

「それは……でも……」

 

 なるほどそれは確かに筋が通っているように聞こえる。だがルーナにはそれは詭弁に聞こえた。大体この場に部下が1人も居ないのに、カラミティが部下を逃げ道を塞ぐように配置しているだろうか。

 

 渋るルーナの姿に、デイナは苦笑すると彼女の頭を優しく撫でた。

 

「あ――――」

「大丈夫。皆が逃げきれたら、俺もすぐに逃げるから。約束する」

 

 仮面越しに真摯な目で見つめてくるデイナに、ルーナも何も言えなくなってしまう。何より彼女は、仁の頑固さを知っていた。故に、この程度で彼が意見を曲げない事もよく分かっている。この状況で彼を動かすなら、感情ではなく理論で彼を説かねばならない。だが生憎と彼女に、そこまでの知恵は無かった。

 

 悩んだ末に、ルーナは渋々首を縦に振った。

 

「約束……約束ですよ!……絶対、絶対に逃げてね!」

「ん、分かってる。さ、早く逃げて」

 

 促されてルーナはデイナから離れると、宗吾達に事情を説明し撤退を開始した。宗吾は当然渋ったが、戦力をズタボロにされた上に警視庁内にはまだ避難が済んでいない警官達が居る事もあって首を縦に振らざるを得なかった。

 

 生き残りを無事な車両に詰め、大急ぎでその場を離れていくS.B.C.T.と警官達。ルーナも彼らの護衛の為についていき、その場にはデイナとカラミティだけが残された。

 

 デイナは彼らが逃げる間に、カラミティが彼らに襲い掛からない様にと立ち塞がる。が、不思議と生き残りが逃げている間、カラミティはその場で微動だにしなかった。

 彼が口を開いたのは、最後の車両と思われるものが警視庁から離れて行った時だった。

 

「――――さて、これで邪魔者は居なくなったね」

「……やっぱり、目的は俺だったんだね」

「それも勿論あるが、S.B.C.T.をそろそろ始末しようと思っていたのも事実だよ。もうテストは必要ないからね」

 

 ルーナには黙っていたが、デイナにはカラミティの狙いが最初から自分にあると分かっていた。分かっていて、この事に関しては伏せていたのだ。明かせば彼女は絶対に自分だけ逃げる事に首を縦には振らないから。

 

「あれだけ俺の血を持っていったのに、まだ足らないの?」

「血だけでは分からない事が多いんだよ。やはり研究の為には、丸ごとのサンプルが必要不可欠だ」

 

 今日警視庁を襲撃した最大の理由はそれだった。最早不要となったS.B.C.T.を始末すると同時に、彼らを助けに来たデイナ――仁を確保し研究サンプルにする。一石二鳥の作戦だ。

 

「……はぁ」

 

 デイナは溜め息を吐いた。ルーナに、亜矢と真矢に嘘をついてしまった事を悔いているのだ。彼には最初から逃げる気はなかった。逃げられると思っていなかったし、逃がしてくれるとも思っていない。

 もしここで逃げたりすれば、彼は全力で追いかけてくるし逃げきれたとしても傘木社の全てを使って追跡してくるだろう。そうなれば、亜矢にも無用な危険が及ぶ。

 

「亜矢さん、真矢さん……ゴメンね」

 

 2人に謝罪しながら、家に隠すように置いてある亜矢へのプロポーズの為の指輪を思い浮かべた。

 

(結局……無駄になっちゃったな)

 

 恐らく自分は助からない。ここで負けて、雄成に連れて行かれ、モルモットとして細胞の一片まで使われる。亜矢に会う事も、プロポーズする事も叶わないだろう。

 

 だからせめて彼は願った。彼女達の今後の人生に少しでも多くの幸がある事を。自分と居る以上の幸せを彼女が見つけてくれることを願って、デイナはカラミティとの戦いに臨んだ。

 

「――――あああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 らしくなく雄叫びを上げながら突撃するデイナを、カラミティは正面から迎え撃った。

 

 そして――――――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 気付けば空には分厚い雲がかかり、冬場の冷たい雨が降り出していた。夏の雨と違い勢いはないものの、夏場とは比べ物にならない冷たさを持ち濡れた者の体温を気温も相まって急速に奪う。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 その雨に濡れながら、デイナはカラミティと対峙していた。ドラゴンライフ自慢の装甲は見るも無残にボロボロで、手に持ったハイブリッドアームズも半ばから折れている。

 

 一方のカラミティは全くの無傷。嫌味なほどにピカピカな装甲が、降りしきる雨を弾いてキラキラと輝いている。

 

「はぁ……くっ。あぁぁぁぁっ!」

 

 勝負は明らかな状況で、デイナは半壊したハイブリッドアームズで斬りかかった。足取りはフラフラで、振り上げていると言うより振り回されている感じだがそれでも彼は構わず突撃した。

 

 決死の覚悟で突撃してくるデイナを前に、カラミティはゆらりと動く。静と動の様な対極の動きをする2人が接敵した瞬間、カラミティの右腕が形を失った。

 

 赤い液状の不定形な右腕が、一瞬で深紅の刃になり目にも留まらぬ速さで振るわれる。それと同時にハイブリッドアームズを振り下ろすデイナ。

 

「フッ……」

 

 カラミティが右腕を一閃すると、デイナのハイブリッドアームズが粉砕される。デイナはバラバラになり柄だけになった武器を手に呆然と立ち尽くし、無防備となったデイナにカラミティはトドメとなる一撃を放った。

 

「これで、終わりだ」

〈ATP Full blast〉

 

「く、うぅ――――!?」

〈ATP Burst〉

 

 勝ち目はないと察しつつ、せめて抵抗だけはとデイナも必殺技を発動させ、カラミティのデッドエンドクラッシュと正面からぶつかり合う。

 だが今までが一応は拮抗出来ていたのに対し、今回は違った。

 

 デイナのノックアウトクラッシュは、カラミティのデッドエンドクラッシュを前に儚く打ち破られデイナはカラミティの必殺技を諸に喰らってしまった。

 

「あ゛――――」

 

 その瞬間、一瞬全てが制止したようにデイナは感じた。痛みも何も無く、降りしきる雨の音すらなくなった無音の世界。

 

 だがそれは刹那の出来事。体感する時間が元に戻った瞬間、デイナは強烈な速度で蹴り飛ばされ警視庁の壁に激突した。

 

「がはっ?!」

 

 デイナが壁に叩き付けられ、崩れ落ちる壁面と共に地面に落下し倒れる。今まで根性で変身を維持してきたが、ここが彼の限界だった。遺伝子に直接ダメージを与えるカラミティのデッドエンドクラッシュが、デイナの細胞を破壊し変身解除に追い込んだ。

 

「ぐ、う……」

 

 力無く地面に倒れ冷たい雨に晒される仁に、カラミティがゆっくりと近付いていく。全身を破壊しつくされた仁に、もう抵抗する術はない。今の彼に出来る事は、亜矢の無事を祈る事だけであった。

 

 意識が朦朧とする中、仁は自分に近付くカラミティの姿を見つめる。ダメージの影響もあり視界もぼやけているが、それでもカラミティの深紅の鎧は良く見えた。

 

 その鎧の表面で、一発の銃弾が弾けた。

 

「――――え?」

「ん?」

 

 一瞬、逃げ遅れた警察官が仁を助ける為に発砲したのかと思ったが、銃弾の飛んできた方を見て仁は目を見開いた。視界はぼやけているが、あの姿は見間違えない。

 

 そこに居たのは、カラミティにリプレッサーショットⅡを向けるルーナだった。

 

「あ、亜矢さん……どうして――――!?」

「どうしてって……仁くんを置いていける訳がないじゃないですか」

 

 ルーナは途中まで宗吾達と共に逃げていたが、やはり仁の事を見捨てる事は出来なかった。それに加えて一向に待ち伏せなどが無かった事も決断を促した。宗吾達に危険が及ぶ可能性が低いなら、仁を助けに向かいたい。

 勿論宗吾達は亜矢を説得した。仁の心意気、決断、覚悟を踏み躙るのは良くないと。確かに、ここに来てルーナが戻ったらそれは仁の覚悟を無意味にする行為に他ならない。それはルーナだってわかっている。

 

 それでも、彼女の中で仁を1人置き去りにすると言う選択肢は早々に消えた。やはり彼を見捨てる事は出来ない。彼をみすみす死なせるような事になれば、自分は一生後悔する事になる。そんな思いをするくらいなら、仁と共に運命を共にした方がずっとマシだった。

 

 尤も、彼女には仁を犠牲にする気などさらさら無かったが――――

 

「次は君が相手かね?」

 

 カラミティがルーナに手を向け首を傾げる。その様はまるで相手をダンスに誘っているかのようだ。

 

 だが、それに対するルーナの答えは、彼にとっても仁にとっても予想外の物であった。

 ルーナは突如、二丁のリプレッサーショットⅡを落とし変身を解除したのだ。

 

「えっ?」

「何?」

 

 困惑する仁とカラミティの前で、雨に濡れながら亜矢は両手を上げた。誰がどう見ても降参のポーズである。

 

「何のつもりかな?」

「…………私を……私を連れて行ってください」

「え、亜矢さん――――!」

 

 まさかの言葉に仁が立ち上がり亜矢に近付こうとするが、カラミティに敗北したダメージで体が言う事を利かない。

 

 カラミティはと言うと、亜矢からの提案に顎に手を当てて思案していた。

 

「ふむ……」

「あなたの目的は、新人類のサンプルですよね? 私も仁くんと同じ新人類です。サンプルとしては不足はない筈です」

 

「待って……亜矢さん、待って……」

 

 這いずりながら亜矢に近付く仁だったが、その背をカラミティが踏みつけた。動きを封じられた仁には、2人のやり取りを見ているしか出来ない。

 

「ぐぅっ!?」

「確かに、君の言う通り私は新人類のサンプルを欲している。だから君が望むなら、君を連れていく事も吝かではない。しかしね、サンプルは多い方が良いのも事実。君を連れて行くとして、門守 仁君も連れて行けば私には得だ。それが出来るだけの力もある。君の提案に私が乗る、メリットが無いとは思わんかね?」

 

 実際、カラミティはどうせなら二人一緒に連れて行こうと考えていた。そうすれば最大の邪魔者である仮面ライダーの始末とサンプルの確保が同時に行える。一石二鳥だ。

 

 このままでは交渉は決裂、亜矢は仁共々連れて行かれてしまう。それを察し、仁は彼女に今からでも逃げるように促そうとした。

 

 だが亜矢はまたしても予想外の行動に出た。先程落としたリプレッサーショットⅡを両方拾い上げると、一方の銃口を自分の頭に、もう一方の銃口を仁に向けた。

 

「むっ!」

「――――私の案を飲んでいただけないなら、ここで私も仁くんも死にます」

 

 勿論これはブラフだ。亜矢にも真矢にも、仁を殺す事など出来ない。事実、自分に向けている方はともかく、仁に向けている銃口は震えていた。寒さからではない、仁に銃口を向けている嫌悪からだ。

 それはカラミティからも見えており、彼もまた亜矢の言葉が嘘である事を見抜いていた。

 

 見抜いていたのだが――――

 

「ふ、ははははは! 良かろう、気に入った。君の提案に乗ろうじゃないか」

 

 カラミティは楽しそうに笑うと、仁の上から足を退かし亜矢に近付き銃を受け取った。

 

「……約束よ、仁くんは見逃すって」

「勿論だとも。さぁ、行こうか」

 

 そう言ってカラミティは亜矢の背に手をやり、エスコートするようにその場からの移動を促した。

 

 カラミティと共に離れて行く亜矢に向け、仁は必死に手を伸ばす。

 

「亜矢さん――! 真矢さん――!」

 

 ボロボロで這いずりながら、必死になって手を伸ばす。亜矢は一度振り返ると、自分に手を伸ばしてくる仁に向け笑みを向けた。

 

 普段なら見惚れるような亜矢の笑顔。だが今は、彼女を濡らす雨が頬を流れていきまるで泣きながら笑っているように見えた。

 

「大丈夫です……仁くんは、私が守りますから」

 

 亜矢はそう言うと、カラミティに連れられその場から離れて行く。

 

 どんどん離れて小さくなっていく亜矢の後姿に、仁は力の入らない体で奥歯を噛み締め地面を殴り、己の無力さ、不甲斐なさを悔やんだ。

 

「ぐぅぅ、うぅぅぅぅぅぅぅ――――!?」

 

 雨か涙か分からず、亜矢の後姿が滲む。苦すぎる敗北の味を噛み締めながら、仁は意識を静かに手放すのだった。




と言う訳で第55話でした。

ハザード3のカラミティの能力は、端的に言ってしまえば攻撃力のあるバイオライダーです。液状化した体で相手を包み込んで、消化吸収して相手にダメージを与えつつ自分を回復させたり強化できます。
攻撃が通用しない所は仮面ライダーエデンとかが近いですね。

主人公の目の前で攫われるヒロインはある意味王道ですよね。

今回仁が敗北を喫してしまいましたが、傘木社のターンはもう暫く続きそうです。スッキリしない話が今しばらく続きますが、もう少しお付き合いください。鬱憤が溜まった分、それを発散できる話を頑張りますので。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。

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