仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はデイナのライダーバイクが登場します。


第3話:テイク・オフ

ファッジとの遭遇、そしてデイナへの初変身から一夜明け…………

 

「んん……くわぁ~……」

 

 仁は自宅であるアパートの一室で目を覚ました。先日はクタクタに疲れた状態で白上教授に車で送ってもらい、亜矢の手を貸してもらって部屋に帰るなり夕飯も食べずそのままベッドに倒れ込んでしまった。お陰で腹の中はすっからかんだ。胃が空腹を訴えてくる。

 

 とりあえず起きた仁は、台所に向かうと冷蔵庫を開ける。何かないかと期待して見ると、そこにはタッパーに入った煮物があるだけであとは残りが半分以下になったパックの牛乳と生卵が二個だけ入っていた。

 

 仁は迷わず、と言うか迷う余地も無くタッパーと生卵を取り出すと、鍋に水を入れて湯を沸かし生卵二つを湯の中に放り込んだ。卵は纏めて茹でるらしい。

 一方煮物はどうするのかと言うと、なんとこちらは食パンの間に挟みだした。炊飯器の中が空になっているから炊かなければ米が食えないとは言え、いくら何でも思い切り過ぎである。普通はやらないだろう。

 

 だが、これが仁と言う男だ。彼は寝食に関しては完全に二の次であり、食事なんかは腹に入れればすべて一緒とばかりに纏めて食べる癖がある。彼も1人暮らしをしている都合上、自炊はするしその為の買い物もするのだが、余った食材が期限切れ間近になると食材に関係なく纏めて鍋に放り込んで煮ると言う事を最低でも月に一回はやっていた。

 尚その事実を初めて知った時、亜矢が呆れるあまり頭を抱えたのは言うまでもない。

 

 そうこうしていると、卵が茹で上がり茹で卵が二つできた。彼はそれを湯から引き揚げ殻を剥くと、煮物を挟んだパンと同じ皿に乗せてリビングに運んだ。ついでに牛乳をパックごと持ち出し、その皿の隣に置く。

 

「いただきます、と」

 

 男飯にしてもあまりにも豪快過ぎる献立と呼ぶのも憚られる内容。食い合わせも何のそのと言うその朝食を、彼は顔色一つ変えずに平らげていく。内容的に今回はまだマシな方だからだろう。酷い時は期限ギリギリのハチミツを納豆や紅ショウガ、海苔の佃煮と混ぜて炊いたご飯の上に乗せて食べた事すらあったのだから。

 

 豪快な朝食を平らげながら、仁はテレビをつけた。気になるのは昨日の騒動がどこまでニュースになっているかである。

 

 案の定、大学と街中、双方に出現したファッジの事は大きな話題となっている。幸いなのが、自分達仮面ライダーの事が一切話題に上がっていない事だろう。かなり派手に暴れたが、誰かに撮影されたりする事は無かったようだ。

 

 そう言えば大学はどうなったのだろうか? 気になった仁が携帯で大学のホームページを開くと、そこには本日臨時休校の知らせが出ていた。あんな事があったのだ。警察の捜査などもあって講義どころではないのだろう。

 

 さて、こうなると彼は暇だ。別段出かけたい場所はなく、片付けるべき課題も特にない。

 

 ならば今日は一日海外の生物学・遺伝子工学に関する論文でもネットで読み漁ろうか? いや、今後戦う事を考えるとトレーニングにも力を入れた方が良いかもしれない。そんな事をぼんやり考えていると、突然彼の携帯が鳴った。

 

 こんな朝っぱらから誰だ? そんな思いで携帯の画面を見ると、そこには亜矢の名が表示されていた。

 

「もしもし、双星さん?」

『あ、おはようございます門守君。今大丈夫ですか?』

「うん。もう朝飯終わらせたところだから。で、どうしたの?」

 

 課題なら昨日渡した筈だ。いや、提出する前にあの騒動が起こったからまだ課題は亜矢の手元だろうか?

 だがそうなると亜矢が電話を掛けてくる理由が分からない。

 

 仁が電話の理由を問い掛けると、彼女は白上教授からの伝言を伝えた。

 

『昨日は門守君大分疲れていたようだったので、私が白上教授からの伝言を預かっています。今日大学の研究室に来てほしいそうです』

「ん? でも大学って今日警察に封鎖されてるんじゃないの?」

『う~ん、私もそこまで詳しい事は何も……ただ、校門に来てくれれば分かると仰ってましたから』

「ん~、分かった」

 

 仁は通話を切ると、パックの中の牛乳を一気に飲み干し、着替えて出かける準備をした。その際、ナップザックにデイナドライバーとベクターカートリッジを入れる事を忘れない。

 

「いってきま~す」

 

 支度を整え、ナップザックを背負い仁は家から出て一路大学へと向かった。

 

 その道中、仁は亜矢と合流した。

 

「あ、双星さん?」

「門守君! さっきの電話ぶりですね」

「そだね。ところで双星さんも教授に呼ばれたの?」

「私はどちらかと言うと自主参加でしょうか? 直接呼ばれてはいませんが、来るなとも言われていませんので」

 

 亜矢の答えに仁は特に興味も無さそうに相槌を打つ。それに彼女は特に気分を悪くした様子を見せない。彼が興味のない事に淡白な反応しか示さない事を彼女はよく知っている。いちいち気にしていたら彼とは付き合っていけない。

 それに彼が研究以外に興味を示さない冷血漢でない事は、先日の一件で良く分かった事だ。寧ろ何かしら反応を示してくれる分関心を持ってくれていると考えれば、決して悪い気はしなかった。

 

 暫く歩いていると、2人は見慣れた大学の校門に辿り着いた。が、校門にはやはり警察官が2人見張りに立っており、ここからは研究室に入れそうもない。

 さて一体どうしたものかと2人が顔を見合わせていると、何処からか白上教授がやって来た。

 

「やぁおはよう2人とも。門守君、昨日はよく眠れたかね?」

「はい、まぁ」

「あの、教授? 見ての通り校内には入れそうもありませんが?」

「問題ない。こちらへ来たまえ」

 

 教授はそう言って校門とは別方向へ2人を連れて行こうとする。訳が分からない2人だったが、このままここに居ても仕方がないのでとりあえず彼について行くことにした。

 

 少し歩いて、3人が辿り着いたのは大学の裏にある小山の麓。地元住民がよく散歩コースにしている所だ。なるほど確かにここには警察官が配置されていない。

 

 だがここを道なりに行っても、大学に入るところには見張りの警官が居るだろうことは容易に想像できた。一体ここからどうすると言うのか?

 

「こっちだ」

 

 教授がそう言って2人を連れて行ったのは、山肌に設置された壊れた自販機の前だった。この自販機、電力が通っていないのか金を入れても一切反応せず、にも拘らず一向に撤去される気配が無いという事で大学内でも謎の自販機として少し有名だった。

 

 そんな自販機の前に立った白上教授に、2人は首を傾げる。すると次の瞬間、教授が自販機のボタンを次々と押していった。特に法則があるようには見えない、一見するとランダムな押し方。中には一度に連続で押している場合もある。

 その光景に2人が目を丸くしていると、突然自販機が開いた。その先には、時々見かける自販機の内部構造……ではなく、山の中へと続く洞窟なんかとは違う通路が姿を現していた。

 

 それを見た瞬間、仁は興味をそそられ覗き込んだ。

 

「おぉぉぉっ。教授何ですかこれ? 秘密の通路?」

「ま、そんな所だ。研究室の入り口が使えない時なんかはここから出入りするんだ」

 

 そう言って教授は2人を招いた。仁は意気揚々と、亜矢は少し恐る恐る通路に入っていき、最後に教授が自販機にカモフラージュしている扉を閉めた。

 

 通路はSF映画にあるような造りになっており、狭いが照明もしっかりとしていて明るい。

 

 その狭い通路を歩いていくと、視界の先にまた扉が見えた。特に窓もついていない、非常に簡素な扉だ。仁が白上教授に視線で問い掛けると、頷いて返してくれたので彼は迷わず扉のノブを回して押す。

 その先には、先日も見た大学内の施設とは思えないラボが広がっていた。もう2度目となるが、やはりこの光景には色々と圧倒される。

 

「さ、座りたまえ」

 

 教授に促されて、2人は昨日と同じく椅子に座る。教授は昨日と同じように2人に茶を出し、一口飲んで落ち着いた頃を見計らって話を切り出した。

 

「さて、まずはもう一度言わせてくれ。門守君、昨日は本当にありがとう。そして、すまなかった」

「それはもう言いっこなしですよ教授」

「そうだったね。それと、双星君も、巻き込んでしまってすまなかった」

 

 白上教授はまず仁に対する感謝と、2人に対する謝罪から口にした。

 

「お気になさらず。ただ、ファッジの事など昨日は聞けずに終わってしまった事を、今日は教えてもらえると考えて良いんでしょうか?」

「勿論だ。今日の本題はそれだからな。しかし…………今更だが、双星君は良いのかね?」

「どういう意味ですか?」

「君は門守君とは事情が違う。無理してこの件に首を突っ込む必要など無いのだよ? それでも君は、この件に深入りする気かね?」

 

 口調は穏やかだが、言外に部外者はこれ以上立ち入るなと言われているようで、亜矢は内心でムッとした。しかし彼女はそれを表に出さず、いつもと変わらぬ様子で答えた。

 

「確かに私は、門守君と違って仮面ライダーに変身しませんしベクターカートリッジの事も全然分かりません。でもだからと言って無関係ですなんて、そんな事は言えません。それに、戦えなくても手助けは出来ると思ってます」

 

 亜矢は白上教授の視線を真正面から受け止めてそう答えた。真っ直ぐ見返してくる彼女の視線から感じる意志は強い。簡単には曲がらないだろう。

 

 その視線に教授はあっさりと折れた。

 

「やれやれ、最近の女性は本当に強いな」

「知ってた。双星さんそう言うところあるもん」

「どういう意味ですか?」

「そのまま」

 

 仁の発言にどこか納得できないものを感じつつ、彼が自分を拒絶していない事に留飲を下げる亜矢。2人の様子に教授もそれ以上の亜矢の説得は諦め、彼女を一関係者として迎える事にした。

 

「さて、それでは改めて話すとしよう。昨日門守君が戦った相手……ファッジとその背後に居る者についてだ」

 

 白上教授の言葉に、仁と亜矢は顔を引き締めた。

 

「まずあのファッジ。あれは昨日も言ったが、超万能細胞を用いたベクターカートリッジにより作り出された怪物だ」

「でも、超万能細胞に関するデータは教授が全部破棄したんですよね? それなのに、何故?」

「誰かがどこかにバックアップ取ってたんでしょ?」

 

 仁の答えに、白上教授は頷いた。そう考えるのが妥当だ。問題はそれが誰か、という事だが。

 

「恐らくそうだろうな。思えば、バックアップの可能性はもっと疑ってしかるべきだったが、あの時は私も冷静さを欠いていたんだろう。情けない話だが」

「その、バックアップを取った相手が誰かは分かってるんですか?」

「あぁ、考えられるのは1人しかいない」

 

 白上教授はそこで言葉を区切った。言うべきかどうか、まだ少し迷っている様子だった。この期に及んで彼を迷わせるとは、スパイダーファッジの背後に居るのはそれほどに危険な相手なのだろうかと亜矢は身構える。

 

 少し迷った素振りを見せた後、白上教授は重い口を開いた。

 

「その男の名は……雄成。傘木 雄成だ」

 

 最初その名前に、2人はピンとこなかった。だが記憶を探り、傘木と言う名で色々と考えた時ふとある大企業が頭に浮かんだ。

 

「傘木、傘木…………ん? それってもしかして、製薬会社の?」

「その通り。私も最初知った時は驚いたものだが、傘木社の社長こそが私と共に超万能細胞の研究を行っていた雄成本人だ」

「傘木社って言ったら、世界的な大手製薬会社じゃないですか!? まさか、そんな所がファッジを!?」

「恐らくな。大方超万能細胞の研究データを応用して、様々な製薬に役立てているのだろう。そうして急成長し、その財力と権力を盾に裏でファッジ……いや、超万能細胞の研究をしているのだろう」

 

 そこまで話して、白上教授は深く溜め息を吐いた。その様子は、道を違えた友を憂いているようであった。

 いや、実際に憂いているのだろう。教授は雄成と共に超万能細胞の研究を行っていたと聞いた。恐らく途中で研究を中断しようとした教授と、その雄成との間で意見の対立が起こり道を別つ事になったのだ。

 

「警察には通報しないんですか?」

「無駄だろうな。奴は用意周到な男だ。あの時も奴は私にバックアップの存在を悟らせなかった。今も奴は、ファッジの活動と自分達が結びつく事が無いように手を回しているだろう。アントファッジが処分されたのがその証拠だ」

 

 あの時、まだ死んではいなかったアントファッジが燃え上がったのは仁の所為ではなかった。全ては証拠隠滅の為の工作だったのだ。その事に仁は少しの安堵と、胸糞の悪さを感じずにはいられなかった。

 

 一方亜矢は、改めて自分達が敵対しようとしている相手の強大さを目の当たりにして緊張に生唾を飲み込んだ。今なら、教授が念押しするように深入りするかを聞いてきた理由が分かる。

 思わず、若干の後悔の念が湧いてきた。

 

「今からでも遅くは無いよ」

「え?」

 

 敵の強大さに亜矢が慄いていると、徐に仁がそう言ってきた。突然なんだとそちらを見ると、彼は空になったカップを弄びながら言葉を続ける。

 

「別に今から双星さんが無関係って顔しても、俺別に責めないよ。今まで通り、ただの友達でいるだけだし。必要以上に俺に関わらなければ、連中だって「嫌です」」

 

 亜矢は仁の言葉を遮るように拒絶の言葉を口にした。決して大きな声ではなかったが、その言葉はラボの中に力強く響いた。

 

「嫌です……嫌、です。絶対…………嫌です」

 

 自分に念押しするように嫌だと呟き続ける亜矢を見て、仁は頬をかくと小さく溜め息を吐いて彼女の背を撫でた。

 背中から伝わる仁の体温に、亜矢はハッと彼の方を見る。

 

「ん……分かったよ。ごめん」

 

 彼が口にした言葉はそれだけであった。あまりにも素っ気無い言葉。だがそこに、確かに相手を気遣う気持ちがある事に亜矢は気付いていた。

 

 やはり彼は他人に対して無関心な人間ではない。それを実感し、亜矢は小さく頷くのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方その頃、件の黒幕である傘木社の本社ビル。その中でも一般社員は立ち入ることの出来ない特別区画において、社長の傘木 雄成ことプロフェッサーはチミンと呼ばれた女性とグアニンと呼ばれた男性、後他に2人の男性を後ろに控え実験室の様な部屋に居た。彼の前には数人の研究員と、大きな強化ガラスを隔てた先で鎖に繋がれた男の姿がある。

 

 強化ガラスの向こうの繋がれた男を見るプロフェッサーに、グアニンが声を掛けた。

 

「プロフェッサー、今一度お訊ねしますが本当にチミンを許すのですか?」

「それはどういう意味かしら、グアニン?」

「そのままの意味だろ? 勝手な行動をした上に、何処の誰とも知らない奴にプロフェッサーから渡されたベクターカートリッジをやられたんだ。俺がプロフェッサーならお前をそのままモルモット行きにしてるぜ」

 

 チミンの言葉に答えたのは、グアニンの隣に居る男だ。耳に多くのピアスを着け、一見するとそこらに居る不良にしか見えない。

 その男性の言葉に、すかさずチミンが彼を睨み付ける。

 

「勘違いしないでほしいわね、『シトシン』。プロフェッサーは仕掛けろと仰っただけで、障害を排除しろとは一言も仰っていないわ。そんな事にも考えが及ばないなんて、貴方こそ実験動物からやり直したら?」

「んだと!?」

 

 険悪な雰囲気になる2人に間に挟まれたグアニンは面倒臭そうな顔をし、強化ガラスの前に居る研究員達は一様に顔色を悪くした。ここで2人が争えば、彼らも巻き添えでただでは済まないからだ。

 

 それを鎮めたのは、グアニンでも残りの1人でもましてや研究員でもなく、プロフェッサーこと雄成であった。

 

「止めろ2人とも。お前達ほどに練り上げるのにも相応の時間と金を掛けているのだ。そんなお前達を下らぬことで失っていい訳がないだろう?」

「ぷ、プロフェッサー……」

「申し訳、ありません」

 

 雄成の言葉に、2人はあっという間に大人しくなった。先程までの険悪な様子が嘘の様である。

 

 2人が大人しくなったのを見て、雄成は満足そうに息を吐いた。

 

「今一度ハッキリ言っておこう。私が目指すのは勝利とか敗北とか、そんな陳腐な結果ではない。私が目指すのはただ一つ、新人類への扉を開き世界を手中に収める事、それだけだ。その為であれば勝利も敗北も、ただの研究データの一つに過ぎん」

 

 そう言って雄成が研究員の1人に顎でしゃくると、その研究員はキーボードを叩きマイクで指示を出した。

 

「実験開始だ。被検体に、ベクターカートリッジを使用しろ」

 

 その言葉を別室で聞いていたのか、2体のアントファッジが強化ガラスの向こうの部屋に入り鎖に繋がれた男にベクターカートリッジをもって近付いていく。

 近付くアントファッジとベクターカートリッジに、それまで大人しくしていた男は悲鳴を上げながら抵抗した。

 

「ひっ!? や、止めろ!? もう止めてくれッ!?」

 

 男は抵抗するが、既に大分消耗しているのか抵抗は弱い。それに加えてアントファッジの力で押え付けられては抵抗も意味をなさず、彼はあえなく首筋にベクターカートリッジを刺し込まれた。

 

〈PIRANHA〉

「うわぁぁぁぁぁっ!? い、嫌だぁ!? もう、自分が、自分でナクなる……感、かく……ハ……」

 

 男はベクターカートリッジ内の超万能細胞が全身に回り、体が変異する。鱗のある皮膚、背中に生えた鰭、剃刀の様な鋭い歯。それは有名な肉食魚・ピラニアが半魚人になったような姿であった。

 

「グゥゥゥゥ、キシャァァァァァッ!」

 

 ピラニアファッジに変異した男は、直ぐに理性を失うと先程以上の暴れ方を見せた。それこそ鎖を引き千切る勢いである。

 アントファッジ2体がそれを抑えつけようとするが、ピラニアファッジは更に抵抗し両手を天井から鎖に繋がれていると言うのに口だけでアントファッジの片方の首筋に噛み付き、食い千切ってしまった。首筋を食い千切られたアントファッジは血を引き出しながらその場に倒れ伏す。そしてそれが引き金となり、倒れたアントファッジからはベクターカートリッジが排出され同時に体が燃え上がり始める。

 

 相方を殺されたアントファッジは、穏便に済ませるのは不可能と判断してスリングで肩から吊っていたライフルを持ち銃剣で斬り、至近距離からの銃撃でダメージを与え黙らせた。

 

 ダメージを受けたピラニアファッジはベクターカートリッジこそ排出されなかったが、項垂れて動かなくなった。それを見て鎮圧完了と判断しアントファッジが銃を下ろした。

 瞬間、ピラニアファッジは鎖を引き千切るとアントファッジに飛び掛かり牙と両手の爪でアントファッジをズタズタに引き裂いた。隠蔽処理が施される間もなく殺されたアントファッジの姿に、強化ガラスを隔てている筈の研究員達は顔から血の気が引くのを感じた。

 

 と、自分に危害を加えた奴を始末したピラニアファッジが強化ガラスの向こうに居る雄成達を見た。強化ガラス越しに向けられる殺気に、思わず研究員達が仰け反る。

 

 ピラニアファッジは強化ガラスがあるにも関わらず彼らに襲い掛かろうとした。当然それは強化ガラスに阻まれる。こう言う事態も想定した専用の強化ガラスだ。ピラニアファッジの攻撃に傷一つ付かない。

 

 その光景に雄成は鼻で笑うと、背後に控える部下の1人……今までずっと黙っていた一見優男にしか見えない白衣姿の者に黙って手を振った。

 合図を受けて、その男……『アデニン』は黙ってベクターカートリッジを使用して己の姿をファッジに変異させた。

 

〈SQUID〉

 

 アデニンはその体を烏賊の特徴を持つファッジ・スクイッドファッジに変異させると、強化ガラスの向こう側に向かいピラニアファッジの鎮圧に取り掛かった。

 

「シャァァァァァッ!」

 

 ピラニアファッジはスクイッドファッジもアントファッジと同じように牙と爪で引き裂こうとしたが、柔らかいスクイッドファッジの皮膚はピラニアファッジの攻撃を物ともしない。それどころか、体の各部から生えた触手でピラニアファッジを絡め捕ってしまった。

 

「アガ、カッ!?」

 

 全身を締め付けられ、動きを止めるピラニアファッジにスクイッドファッジは静かに語り掛ける。

 

「大人しくしろ。そうすれば悪いようにはしない」

 

 その言葉が通じたのかは分からないが、とにかくピラニアファッジの抵抗は無くなった。

 

 スクイッドファッジがピラニアファッジを言いなりにした様子に、研究員達は安堵の息を吐きキーボードを叩いて様々なデータを纏め始めた。

 その光景を後ろから見ながら、雄成は満足そうな笑みを浮かべた。

 

「どれ、早速白上の奴をまた揶揄ってやるとするか」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 時間は遡り、再び明星大学の白上博士のラボ。

 

 相対する敵の事などをある程度話した白上教授は、今後どうするかを2人に話した。

 

「さて、それでは君達の今後についてだが」

「俺達の今後?」

「うむ。勝手な話だが、君達には私の研究室に所属してもらおうと思う。その方が色々と動きやすいからね」

 

 仁にとってそれは渡りに船であった。彼は元々白上教授の研究室に所属する気だったし、向こうから受け入れてくれるなら万々歳である。

 問題は亜矢の方だ。彼女は未だ所属する研究室を決めかねていた筈だが…………。

 

「双星さん、それで良いの?」

「はい。私もその方が良いだろうと思ってましたし」

 

 どうやらこちらも問題はないらしい。まぁ決めかねているという事はイコール、何処かが迎え入れてくれるならそこに入るに越したことはないと言う訳だしこれで良かったのだろう。

 

 そこで仁は気になった。白上研究室に所属する学生や院生の中で、ファッジやベクターカートリッジの事を知っている者は果たして何人いるのだろうか?

 

「そう言えば教授、一つ気になる事が――――」

 

 仁がその事を訊ねようとした時、研究室側の扉を物凄い勢いで開けて1人の女性が飛び込んできた。

 

「教授教授!? 大変です!? 街にファッジが出ました!?」

 

 入ってきたのは如何にも勉強一筋と言った感じの丸眼鏡を掛けた女性だ。白衣を着ているが慌てて部屋に入って来たからか、白衣は肩までずり落ちている。

 

「何? 本当か宮野君!?」

「本当です!? 今ネットのSNSとかでも動画が上げられてるんですけど、ファッジが大暴れして街が大パニックになってます!?」

 

 宮野と呼ばれた女性から携帯端末を受け取り、それを3人で見る。するとそこには、ピラニアファッジが警察や一般人に襲い掛かっている様子が映っていた。

 更に情報を調べてみると、場所は大学から少し遠い。今からでは現場に着くまでに被害が大きくなってしまう。

 

 それでも行かない訳にはいかぬと、仁がドライバーを片手にラボを出ようとすると白上教授がそれを引き留めた。

 

「待ちたまえ門守君!」

「何です? 今すぐ行かないと――」

「分かっている。だが徒歩では時間が掛かる。これを使うんだ」

 

 そう言って白上教授がラボの一角に向かうとそこにはコードが繋がれた白を基調とした一台のバイクがあった。

 

 見た目かなり異質で全体がかなり大きく、しかもフロントカウルは正面から見るとベクターカートリッジを装填したデイナドライバーの様にも見えるデザインをしている。

 更に気になるのが、車体左右に前輪から車体中央にかけて縦に畳まれた翼の様なパーツが付いている事だ。これの所為でただでさえ大きく見える車体が更に大きく見える。

 

 既存のバイクに囚われない形をした大型バイクに、仁は思わず口笛を吹く。

 

「教授、コイツは?」

「デイナ専用のバイク、その名も『トランスポゾン』だ。遠隔操作で呼び出す事が可能など色々機能があるが、最大の機能はこれだな」

 

 白上教授がハンドル付近にあるコンソールを操作すると、車体左右の翼上のパーツが八の字に広がり、前輪・後輪が90度回転して水平位置で固定され更にそのまま宙に浮き始めた。

 

 まさかの宙に浮くバイクに、仁も亜矢も目を見開く。

 

「浮いた!?」

「まさかこれ、空が飛べるんですか!?」

「うむ。仮面ライダーデイナ支援用のモンスターマシンとして作り上げた。地上走破速度もかなりのものだが、こうして空を飛べばより迅速に現場に向かえるだろう。頼んだぞ」

「上開けますね」

 

 白上教授の意図を察したのか、宮野が近くのコンソールを操作するとトランスポゾンの真上の天井が開いた。あそこから出撃しろという事だろう。

 ますます以てSF染みた光景に、仁も乾いた笑いを浮かべてしまう。

 

「は、ははは……よし。いっちょ行ってくるか」

 

 仁が意を決してトランスポゾンに跨ると、白上教授と宮野が繋がったコードを外す。それと同時に教授は彼にヘルメットを渡した。

 

「頼むぞ、門守君。状況は一刻を争う」

「分かってますって。必ず止めてみせますよ」

 

 そう言うと仁は亜矢に視線を向ける。

 やや心配そうな顔をしている彼女に、仁はサムズアップしてみせた。それを見て亜矢も少し安心したのか、表情を柔らかくし頷く。

 

 簡単に操作方法を教わった仁は、そのまま上部ハッチから出て一直線にファッジが暴れている現場に向かって行くのだった。




と言う訳で第3話でした。

いやぁ、我ながら命の軽い作品です。今後も敵味方関係なくモブの戦闘員がバタバタ死んでいく描写があると思いますがご了承ください。

あと本作のライダーマシンであるトランスポゾン、元ネタはFF7ACのクラウドの愛車・フェンリルです。あれが空飛ぶ能力を得たものだと思ってください。アギトのマシントルネイダーもそうですけど、分かり易い変形で空飛べるバイクってカッコいいですよね。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに。それでは。
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