仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

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第57話:本当の居場所

「…………よし」

 

 あの後再び放り込まれた自室の中で、希美は遂に動く事を決意した。

 時間はそろそろ昼時。とすればそろそろ――――

 

『食事だ』

 

 そらきた。ドアがノックされ、保安警察の隊員が声を掛けてきた。希美は体を起き上がらせ、椅子に座るとドアが開き次々と料理が運ばれてくる。

 希美はそれを何時も通り次々と平らげ、片付けられていく皿を横目でチラチラと見ていた。

 

 そうして全てを食べ終え、食後に水を一口飲む。食事を運んできた係の者は仕事は終わったとカートを押して離れて行き、警備をしている隊員は再びドアを閉めて監視の任務に戻ろうとした。

 

 この瞬間を待っていた。食事を終えた直後なら気が緩んでいるだろうと彼らが油断したのを見て、希美はドアが閉められる直前に隊員2人を室内に引き摺り込んだ。

 

「うおっ!?」

「なっ!?」

「フン!!」

「「ぐっ?!」」

 

 突然の行動に反応が遅れた2人を、希美は首を掴んで床に叩き付ける事で気絶させた。殺しはしない。殺すと隠蔽装置が起動して、同時に異常の通知が保安警察の本部に行き他の隊員がすっ飛んでくる。

 

 隊員2人を無力化すると、希美は一度ドアの外を見て誰にも見られていない事を確認する。この辺は人通りが少ないので今のが見られる可能性は低いが、警戒はしておいて損はない。

 

 問題が無いのを確認すると、希美はドアを閉め無力化した隊員達から装備を剥ぎ取り、下着だけにした隊員達は適当なもので縛り上げておいた。これで彼らが目を覚ましてもすぐに事が発覚する事は無いだろう。口にも布で猿轡を噛ませているので、声が外に漏れる心配もない。

 

 希美は隊員から剥ぎ取った装備を自分で着込む。この装備は上から下まで、完全に覆い隠す装備――隊員の中には裏取引で刑務所などから引っ張り出した囚人なども居る為――だ。これで希美は一見すると保安警察の隊員にしか見えない。

 

 保安警察の隊員に成りすました希美は何食わぬ顔で本社ビル内を進む。本当は直ぐにでもリリィとレックスを解放しに向かいたいが、先ずはブレイドライバーを取り返さなくては。騒ぎを起こせばまず間違いなく戦闘になる。その時に、ヘテロに変身できないと最悪2人の命が危ない。

 

 ブレイドライバーは直ぐに見つかった。本社ビル内にある、保安警察の隊員の装備保管庫。ここに無造作に置かれているのを見つけた。

 正直もう少し丁寧に扱えと言う気もしなかったが、お陰ですんなり取り返す事が出来たのでそれは良しとする。

 

 ブレイドライバーを隠し持って、研究区画内を進む。時折研究員や他の隊員とすれ違うが、彼らは変装した希美に特に不信感を抱く事も無く時には軽く会釈して通り過ぎて行った。

 

 今のところ順調だ。

 

 と、その時――――

 

(ん? あれは、双星 亜矢?)

 

 とある研究室の前を通りかかった時、希美は亜矢の姿を見つけた。ここに来た時とは違って、服装は手術患者が着るような薄手のものを着ている。お陰で彼女の豊満な肢体が強調されていた。

 

「う、うぅ……あぁ……!?」

 

 亜矢は椅子の様な機械に手足を固定され、苦痛に顔を歪めている。声を必死に抑えようとしている様だが、顔には脂汗が浮かび抑えきれない苦痛が小さな叫びとなって時々口から零れていた。

 

 あの装置は確か、被検体の生体情報などを隅々まで計測する機械だった筈だ。通電する事で遺伝子情報からバイタルまで様々な情報を採取するので、機械に繋がれた被検体は感電に苦しむことになる。

 希美も幹部時代は被検体があれに固定されて情報を採取される様を見ていたし、何ならデイナに負けて再改造された後の希美も使われた。

 

 彼女が知る限り、あれに繋がれて情報を採取される被検体は皆その苦痛に叫び声を上げていた。それほどの電流が流されるのだ、あの装置は。希美もその例に漏れず、どうなるかを知っていた為機械に繋がれる際は抵抗したし、その苦痛に悲鳴を上げた。

 

 にも拘らず、亜矢はあれだけの悲鳴で抑えている。本当はもっと苦痛を感じているだろうに。

 それは亜矢がそれだけ苦痛に強いのか、それとも心が強いのか…………。

 

「あ、ぐっ!?…………く、あ、ぐぅっ?!」

(ゴメン……今は、待ってて)

 

 時々聞こえてくる亜矢の悲鳴に心を痛めつつ、その場を後にした。今向かうべきはリリィとレックスの所だ。まずはあの2人を助け出す。

 だがそのついでに、亜矢も助けてやろうと希美は決める。どうせ騒ぎを起こすのだ。連れて行くのが2人でも3人でも大して違いはない。

 

 希美はそのまま誰に警戒される事も無く、独房エリアに辿り着いた。

 だが以前2人が入れられていた独房は今はもぬけの殻となっていた。何らかの実験か、試験の為に移動させられたのだ。

 

 急いで希美はその場を離れ、2人が連れて行かれそうな場所を探し回る。まず真っ先に訓練ブースに向かったが、ここに2人はいなかった。他にも様々な場所を見て回るが、相変わらず2人は見つからない。

 

(何処? 2人は今何処に!?)

 

 次第に焦りが希美の心に広がる中、気付けば希美は先程亜矢を見つけた場所まで戻ってきていた。焦りと共に2人を探している希美は、そこで漸く2人の姿を見つけた。

 

「ッ! 見つけた!」

 

 2人は亜矢が繋がれていた機械がある部屋と、ガラス1枚で隔たれた部屋のベッドに固定されていた。2人の傍には、何やらアンプルを幾つか乗せたトレーを持った研究員の姿がある。

 2人を使って何かの実験をするつもりだ。それを見た瞬間、希美は冷静さを失い研究室内に突撃した。

 

「え!? な、何だ一体!?」

「五月蠅い、退けッ!?」

 

 希美は立ち塞がる研究員達を薙ぎ倒し、2人が固定されているベッドに近付く。最初リリィ達はフルフェイスヘルメットで顔を隠した保安警察の隊員が近付いて来たと見て怯えた様子を見せたが、希美がヘルメットを外して素顔を見せると安堵の表情を浮かべる。

 

「ノゾミ!」

「2人共、お待たせ」

「信じてたよ、来てくれるって」

「いい子ね。さ、さっさとこんな所からはオサラバするわよ」

 

 2人はベルトでベッドに固定されている。まずはこれを外さなければ。

 

 金具を外すのはまだるっこしいので、手っ取り早くナイフでベルトを切断して2人を解放しようとする希美だったが、流石に騒ぎを聞きつけて妨害に来る者が居た。

 

 アデニンとシトシン、グアニンの3人だ。彼らの登場に、希美は舌打ちしつつ2人の解放を中断し腰にブレイドライバーを装着した。

 

「あら、意外とお早い登場だったわね?」

「お前の部屋を監視している奴らから連絡が無くなった。おかしいと思ってカメラで確認したらお前の部屋の前に誰も居なかったからな。どう言う状況かは直ぐに分かったよ」

「何を考えてるんです」

「裏切るのか、負け犬?」

 

 徐々に包囲を狭めてくる3人を前に、希美は警戒しながら一歩も引き下がらない。ここで下がればリリィとレックスが人質に取られる。

 

「私、ここ辞めるの。一身上の都合で辞めさせてもらおうと思って」

「その2人をどうするつもりだ?」

「退職金代わりに貰っていこうと思ってね」

〈CROCODILE〉〈TURTLE〉

 

 3人を軽く挑発しながら、ヘテロに変身しようとする。正直な話、あの3人を相手に負ける気は全くしなかった。最早ベクターリーダーで変身する奴程度ではヘテロ相手にスペック不足というのも理由の一つだが、何と言うか今は気分がすっきりしている。とても清々しく、普段戦う時の様なべったりとした気持ちが何処にもない。

 

 今ならデイナにも勝てる気がする希美だったが、アデニン達が取り出した物を見て彼女の表情は凍り付いた。

 

「仕方が無い……まぁ、実戦テストの相手としては丁度良いか」

「ふぅ……」

「へへっ」

 

「ッ!? アンタ達、それ――――!?」

 

 アデニン達が取り出した物、それは雄成がカラミティに変身する時に使用す物と同じ、カラミティドライバーだった。

 

「へへ、ビビったか?」

「アンタ達……それ使えるの?」

「心配するな。プロフェッサーが使用する物より性能は落としてある。我が社製のデイナドライバーだな」

「廉価版とは言え、侮らない方が良いですよ」

 

 3人は廉価版カラミティドライバーを腰に装着すると、それぞれ二つのベクターカートリッジを取り出し装填した。

 

〈SQUID + SHELLFISH Origin regression〉

〈FLOG + MOUSE Input〉

〈SEA ARCHIN + SPIDER Input〉

 

「「「変身!」」」

 

〈The largest predator of the ancient sea. Reborn origin, CAMEROCERAS〉

 

 アデニンは、白いアンダースーツに灰色の装甲を持つ、尖った頭部の『仮面ライダーステイク』。

 

〈〈Precious sacrifice for development. Dedicate life〉〉

 

 グアニンは、全身黒一色の中で複眼だけが赤く光る『仮面ライダーストリングス』。

 

 シトシンは、緑のアンダースーツに茶色い装甲の、片手がネズミの顔を模した籠手になっている『仮面ライダーサクリス』。

 

 新たに誕生した傘木社製の仮面ライダー3人を前に、希美は思わず生唾を飲んだ。これは流石に旗色が厳しい。

 

 しかしここで退く訳にはいかない。ここで逃げれば彼女は再び空虚な日々を送る事になってしまう。仮に自分1人でここから逃げ出したとしても、待っているのは満たされる事のない飢える日々。そんなのは真っ平御免だった。

 

〈HORSESHOE × CROCODILE × TURTLE Mixing Genetic information〉

「今の私を、簡単に止められるなんて思わない事ね。変身!」

〈Create, Capture, Out of Control. Brake the chain〉

「アンタ達じゃ、私は満たされない!」

 

 希美がヘテロに変身すると同時に、3人の仮面ライダーはヘテロに襲い掛かる。

 

 まず最初に仕掛けたのはステイクだった。右腕に無数の触手を束ねてドリルを形成し、それで攻撃を仕掛けてきた。

 いきなり嫌な攻撃をされたとヘテロは舌打ちした。外部からの攻撃に強いヘテロだが、ドリルの様なこちらの装甲を削ってくる攻撃は苦手だ。この装甲は飽く迄も衝撃等に強いのであって、接触した状態で継続ダメージを与えてくるドリルやチェーンソーの様な攻撃は苦手としていた。

 

 ヘテロは突き出されてきたドリルを相手の腕を弾く事で軌道を反らし回避に成功し、お返しに胸板を拳で殴り付けた。今までなら、ウォーターベッドか何かを殴り付けたような手応えの無さを感じる筈なのだが、今はその逆で鋼鉄の壁を殴り付けたかのような衝撃を感じた。

 

「ッ!? 硬い!?」

「今までと同じと思わない方が良い」

「それは俺らもだぜ!」

 

 ステイクの予想外の硬さにヘテロが驚愕していると、横合いからサクリスが飛び掛かってくる。ネズミの頭を模した籠手で殴り掛かって来たのをヘテロは咄嗟に左腕で防ごうとしてしまうが、殴られる瞬間籠手の口が開き鋭い前歯で喰らい付いてきた。

 

「ぎっ!? この、離れろ!?」

 

 サクリスの顔面を殴り、強制的に引き剥がす事には成功したが今度はストリングスが掛かってくる。グローブの様な籠手で覆われた両手を構え、それで殴り掛かってきた。ヘテロを殴る瞬間、グローブからは剣山の様に棘が伸びた。しかもよく見ると何らかの液体で濡れている。確証はないが、蜘蛛の能力を持っている事を考えれば、あの滴る液体は毒液の類だろう。

 

 あんなものまともに喰らう訳にはいかないと、ヘテロは殴られる前にストリングスの攻撃の隙間を突くように蹴りを放った。

 

「ぐっ!?」

 

 蹴り飛ばされ、機材を薙ぎ倒しながら倒れるストリングス。

 その姿を見ながらチラリと隣の部屋を見ると、巻き込まれないようにか亜矢が研究員により連れ出されていた。情報採取装置で体力を大分奪われたからか、ぐったりとした様子で研究員2人に両脇を抱えられ引き摺られるように連れ出されている。

 

 仕方が無いとは言え面倒な事になった。こいつらが来るのがもう少し遅ければ、リリィ達を解放した上で亜矢も助ける事が出来たと言うのに。

 

「――――!? あいつらは?」

 

 ふと気付けば、ステイクとサクリスの姿が無い。ストリングスの相手と、亜矢に気を取られていた一瞬の間に姿を消された。そう言えばアイツらが使っている遺伝子の内、片方はどちらも周囲の色に溶け込む擬態能力を持っていた事を思い出し、ヘテロは己のミスに内心で呻き声を上げた。

 

 2人は一体何処に? 警戒していると、出し抜けに背中を強烈な蹴りが襲った。

 

「あぐっ?!」

「へへ、何処見てんだよ!」

 

 やったのは姿を消していたサクリスだ。カエル由来の脚力で蹴りを放ったのだ。

 

 蹴り飛ばされ機材を薙ぎ倒すヘテロは、即座に立ち上がり迎撃の構えを取った。だが今度は体勢を立て直したストリングスが、両手の籠手から無数の棘を飛ばして攻撃してきたのに気付き咄嗟に防御してしまう。

 

「ッ!? しま――」

 

 反応が間に合わなかったからとは言え、防御を選んだのは失敗だった。毒を含んだ棘は殆どは装甲やアンダースーツに弾かれたが、僅かながら突き刺さった奴もある。

 突き刺さった針からは神経毒が注入され、痛みと痺れがヘテロの体に広がった。

 

「ぐぅ、あ――――!?」

「ノゾミッ!?」

 

 棘が刺さり、苦悶の声を上げたヘテロを見てリリィが声を上げる。

 

 だがストリングスの攻撃はこれだけではなかった。棘と籠手は極細の糸で繋がっている。ストリングスが腕を振るうと、弾かれた棘と繋がっていた極細の糸がヘテロを絡め捕り身動きを奪った。毒と糸により、ヘテロは忽ち自由を奪われた。

 

「く、この……くそっ!?」

 

 見辛い極細の糸により拘束され動けなくなったヘテロの前に、周囲の景色に溶け込んでいたステイクが姿を現した。右手は既に触手によるドリルを形成している。

 

「あ――!?」

「――――死ね」

 

 ステイクはヘテロが抵抗する前に、高速回転するドリルをヘテロの胸部装甲に叩き込んだ。ヘテロは少しでも距離を取ろうとするが、縛られている上に後ろからサクリスが押え付けてきたので逃げる事が出来ない。

 

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ?!」

「ノゾミッ!?」

「止めてッ!? お願いだから止めてぇッ!?」

 

 ヘテロの装甲もデイナ達と同じく生体装甲。防げるダメージに対しては痛痒を感じないが、キャパシティを超えたダメージは変身者にダイレクトにダメージとなって届く。胸板を抉られる想像を絶する痛みに、ヘテロの悲痛な悲鳴が響き渡った。

 

 このままでは希美が殺されてしまう。リリィとレックスは拘束されながら、ステイク達にこれ以上は止めるよう懇願した。

 しかし彼らにヘテロを許すつもりは毛頭なかった。彼女は会社に対し、明確に反逆の意思を示したのだ。しかも以前ならともかく、今は新たなドライバーも完成しヘテロには存在価値はない。

 

 彼らは彼女をここで処分するつもりだった。

 

「う゛あ゛っ!? あ゛ぁ゛っ?! ぐ、が、あぁぁぁぁっ?!」

 

 ステイクは動けないヘテロに回転するドリルを何度も叩き込んだ。高速回転するドリルが振るわれる度に、ヘテロの装甲は火花を上げてガリガリと削られていく。

 その際にストリングスの糸も切断されるが、毒はまだ残っているし後ろからサクリスが押え付けているのでヘテロは逃げる事が出来ない。

 

 次第にヘテロの足が体重を支えられなくなり膝ががくがくと揺れても、サクリスはそんな彼女の様子を仮面の奥から楽しそうに眺め解放する様子が無い。

 

「あ、ぐ……あ、うぁ……あぁぁ、う、ぐぅ…………ぎ、ぃ……」

 

 次第に悲鳴も小さくなり、サクリスの腕に掛かる負担が増えた。もうヘテロには、自力で立つ力も無くなったのだ。

 

「あん? どうしたよ負け犬? 反応が悪いぜ」

「……シトシン、放してやれ」

「え~? ったく」

 

 ステイクの言葉に、サクリスは渋々ヘテロを解放する。サクリスが手を離すと、ヘテロはその場に崩れ落ちた。

 

「ぐ、ぅ……」

「ノゾミッ!?」

 

 力無く倒れるヘテロの姿に、必死に顔を上げて彼女の姿を見ていたリリィが悲鳴のような声を上げる。

 

 ヘテロは、変身こそ解除されていないがそれでも酷い有様だった。自慢の装甲は大幅に削り取られ、アンダースーツも切り裂かれ血が流れている。

 

 サクリスは倒れたヘテロの頭を掴んで持ち上げ、無理矢理顔を上げさせた。

 

「う゛、あ゛……ぐぅ……」

「しかし、お前も馬鹿な奴だよなぁ? あんなモルモットの為に命張るなんてよ」

「う、く…………ふ、フフフ……」

「あん?」

 

 勝ち誇った様子のサクリスだったが、不意にヘテロの口から小さいながらも笑い声が零れる。一見すると気でも狂ったのかと思うが、そうではない。

 

 単純にヘテロはまだ諦めていないだけだった。

 

「馬鹿よね……アンタ、さ」

「何だと?」

「……! シトシン、離れろ!?」

「え?」

 

〈HORSESHOE Burst〉

 

 ヘテロの意図に気付いたステイクが警告するが時既に遅く、サクリスはヘテロのトーンインパクトを喰らい吹き飛ばされた。ステイクはそれに巻き込まれ、揃って仲良くひっくり返る。

 

「ぐぉあっ?!」

「ぐふっ!?」

「アデニン、シトシン!?」

 

 トーンインパクトはヘテロが持つ複数の必殺技の中で威力こそ低いが、技の速度は最も早い。こういう時に不意打ちで使うには最適だった。

 

 ステイクとサクリスが吹き飛ばされ、ストリングスはそちらに意識を割いてしまう。

 それが彼の運命を分けた。

 

「ぜぃ、はぁ……くっ!」

〈HORSESHOE × TURTLE × CROCODILE Mixing Burst〉

 

「グアニンッ!?」

「え、あっ!?」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ステイク達の方に意識を割き、隙を晒したストリングスにヘテロはインクリュード・シュートを放つ。ステイクの警告により自分が狙われている事に気付いたストリングスは、咄嗟にレセプタースロットルを引き、デッドエンドアタックを発動させた。

 

「くそっ!?」

〈ATP Full blast〉

 

 放たれるヘテロの連続キックに、ストリングスは両手で防御の構えを取った。ただしその際、両手のグローブからは無数の棘が伸び正面から見ると針の山の様に見える有様になっていた。これに突っ込めば自分が穴だらけになってしまう。

 

 しかしヘテロは構わず突き進み、針の山を連続キックで伐採し始めた。棘一本一本の強度はそこまででもないのか、蹴り一発で複数本が纏めてへし折れる。

 だが棘は折れた端から次々生え、ストリングスの体を覆い隠す。ヘテロはそれを打ち破り本体に攻撃を仕掛けようとする。正に攻めと守りの物量戦であった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ! らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐっ!? く、うぅぅ――――!!」

 

 ストリングスは耐えた。嘗て制御できていなかったとは言えデイナのケツァルスピノフォームすら打ち倒したヘテロの最強技を前に、引き下がる事無く持ち堪えてみせたのだ。

 

 しかし軍配はヘテロの方に上がる。放たれ続ける連続キックに、棘の再生と防御が追いつかなくなったのだ。次第に棘の数が少なくなり、遂には防御を弾かれ本体に何度も強烈なキックが突き刺さり食い破る。

 

「だぁぁぁぁぁっ!」

「ぐっ?! がっ!? あ、がぁ、あぁぁぁぁっ?!」

 

 防御を抜かれ、何度も蹴りを叩き込まれたストリングスは壁際まで蹴り飛ばされ爆発四散。木端微塵に拭き飛び、後には壊れた機材とストリングスの装甲の欠片などが散らばっていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……あと2人――!」

 

 やっと1人障害を倒した。嘗ての同僚を打ち倒した事に対し、思うところがないでは無かったが今や彼らは敵だ。彼らとリリィ、レックスを天秤に掛けたら傾くのは当然リリィ達の方である。

 

 ステイクにやられたダメージがまだ残っているが、ヘテロは構わずそのまま2人の救出の為に戦いを続行しようとした。

 

 その彼女を、カラミティ・ハザード3が頭を掴んで床に叩き付けた。

 

「がぁっ?!」

「全く、君のじゃじゃ馬さは予想外だね。流石に私に逆らうとは思っていなかったよ」

 

 カラミティは叩き付けた状態からヘテロを引っ張り上げ、無理矢理立たせると腹を殴り胸を蹴り上げ、ゆっくりと甚振り彼女を追い詰めていく。

 勿論ヘテロも儚いながらも抵抗するが、全身を液状化させる事が出来るハザード3のカラミティに普通の物理攻撃は通用しない。それどころか逆に全身を液状化させたカラミティに包まれ、消化吸収され体力を奪われる。

 

「ぐぁ、あぁぁぁぁぁぁっ?! あ、ぎぃあぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ?!」

「ノゾミ、ノゾミィッ!? お願い、もう止めて!? ノゾミを殺さないでッ!?」

 

 リリィが必死に懇願するが、カラミティは攻め手を緩めない。ある程度消化してヘテロが弱ったのを見ると、再び形を取り戻し動かなくなった彼女の首を掴んで持ち上げた。

 

「うぁ……ぐ、ぁ……」

 

 もうダメージを受けすぎて、指一本動かす体力も残ってはいなかった。小さく呻き声を上げながら、ヘテロはとうとう変身が解除されてしまう。

 

 元の姿に戻った希美に対し、カラミティはトドメを差しにかかる。右腕を液状化させ、鋭い一本の刃に変化させた。

 カラミティはその刃の切っ先を希美の心臓に向けた。

 

 次に何が起こるか、そんなの子供でも分かる。

 

「止めてッ!? お願い、止めて止めて止めて止めて止めて――――!?!?」

「くそ、くそぉぉっ!? 止めろぉぉぉぉっ!?」

 

 リリィとレックスが暴れるが、拘束されている2人にはどうにもできない。

 

「さらばだ。今まで、ご苦労だったね」

 

 カラミティの刃は容赦なく、希美の胸部を串刺しにした。ズブリと濡れた衣服が破れるような音が響き、希美の口から大量の血が溢れ出る。

 

「んぶっ、ごぶぇっ?!」

 

 希美を刺したカラミティは、彼女の首から手を離し右腕を振るい刃を引き抜くと同時に彼女を床に叩き付けた。

 ゴミの様に扱われたと言うのに、希美はピクリとも動かない。彼女が倒れた所には、夥しい血が流れ血溜まりが広がっていく。

 

 希美が死んだ……その光景は、リリィとレックスにそれを理解させるに十分なものとなっていた。

 

「あぁ……あ、ぁあ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」

 

 何も出来ず、目の前で希美を殺されリリィとレックスの慟哭が響き渡る。

 カラミティは涙と叫びを上げる2人をチラリと見て、離れた所から邪魔にならない様にと見ていたアデニン達に指示を出す。

 

「死体は片付けておいてくれ」

「ドライバーとベクターカートリッジは回収しますか?」

「ん? 別にいらんよ。元々彼女が使う為だけに作った試作品だ。カラミティドライバーが出来た今、もう必要は無い。死体と一緒に処分したまえ」

「はっ」

 

 アデニンは部下を呼び出し、希美の死体を処分場へと運ばせた。処分場と言っても、焼却したりする訳ではなく本社から離れた失敗作や被検体の死体を処分するための専用の施設へと送る為の一時保管場所の様なところだ。

 アデニンの部下2人は、空調が徹底されているにも拘らずヘルメット越しに臭う腐敗臭に顔を顰めながら処分場に複数あるコンテナの一つに希美の死体を放り込む。腐敗し原形を留めていないものも多数あるその中に、希美の死体も仲間入りするように放り込まれ腐肉と異臭に塗れた。

 

「しかし、幹部の1人だったあの女も、ここまで落ちたか」

「無駄口を叩くな。さっさと行くぞ。ヘルメット越しでも臭くてかなわねぇ」

「へいへい…………ん?」

 

 先にこの場を離れて行く相方について行こうとした隊員だったが、彼は一瞬違和感を感じ今放り込んだばかりの希美の死体を凝視した。なかなか付いて来ない相方に、先に移動しようとしていた隊員が戻ってくる。

 

「どうした?」

「あ、いや……何か今、あの女の死体が動いた様な気がして……」

「は?」

 

 相方の言葉に、隊員が希美の死体を凝視するが死体は一向に動く気配を見せない。

 

「……気のせいか見間違いだろ。ありゃ100%死んでる。死んだ人間が動く訳ない」

「そう、だな。俺の勘違いだったか……」

「ほら、早く行くぞ。サボると俺らがここの連中の仲間入りをしちまう」

「あぁ」

 

 2人は改めて踵を返して処分場を後にした。後には腐敗臭を放つコンテナに放り込まれた死体の山だけが残される。

 

 その中に放り込まれた希美の手が、ピクリと動いた。いや、ピクリどころではない。ビクビクと痙攣し、遂にはややぎこちないながらもしっかりと動き自分の体を持ち上げたのだ。

 

「はぁ……あ、ぐ……く、げほ、ごぼっ!? うぐっ……」

 

 先程、カラミティの刃は確かに希美の心臓を切り裂いた。あの瞬間、彼女は確かに死んだ筈だった。

 

 だが彼らが希美に施した強化手術は、心臓の破損すらも回復させてしまった。以前暴走したデイナにバラバラのズタズタにされた状態からも回復した彼女は、心臓を貫かれた程度では死ぬ事が出来なくなっていた。彼らは希美を強くし過ぎたのだ。

 勿論、それだけが生き残れた理由ではない。最も大きかったのは行動を起こす直前に食事をとっていた事だ。あれのお陰で、最低限生命活動を取り戻せる程度に回復できるくらいにはカロリーを確保できていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 希美は鼻が曲がりそうな異臭の中、体を引き摺りコンテナから出るとそのまま搬出用エレベーターを使って外に出た。彼女が記憶している限り、次の処分場からの搬出はまだ先の筈なので、血の跡などの痕跡が発見されるまでには時間が掛かる。

 

 朦朧とした意識で外に出ると、夜空は再び雲に覆われ冷たい雨が降ってきていた。

 

 希美はハッキリとしない視界と意識の中、崩れ落ちそうになる体を壁で支えつつ、雨に濡れながら本社ビルから離れて行くのだった。




と言う訳で第57話でした。

希美、完全に傘木社とは縁を切る事を決めました。今の希美が求めてるものが、自分の事を認めてくれる存在と居場所だったので、それを与えてくれるリリィとレックスの為になら傘木社を捨てる事に後悔は無いのです。

この話、最初は制御装置で希美が窮地に陥る展開も考えていたのですが、カラミティが出ればそれだけで十分だったのでその展開はお流れに。

ここにきて一気に傘木社側のライダーが3人増えたと思えば即行で一人脱落。ゴメンよグアニン。

希美は簡単には死ねません。多分頭を吹っ飛ばされても、再生できるだけのエネルギーと時間があれば元通りになるんじゃないですかね。

あ、それと諸事情で一時的に評価のコメント数を設けていましたが今は0文字に戻していますので、評価したいと言う方はお気軽にどうぞ。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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