仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は前回に続いて反撃回。今度は宗吾が活躍します。


第59話:力は相応しき者の手に

 落下し、爆炎に包まれたステイクをデイナがジッと見つめていた。先程まではあまり気にしていなかったが、アデニンがカラミティドライバーを使用して仮面ライダーに変身したのは彼にとっても軽く衝撃的であった。カラミティほどの強さではないが、それでもカラミティドライバーを使用している以上以前に比べればずっと能力が色々と向上している筈だ。

 

 それが予想出来ていたから、爆炎の中からふら付きながらもステイクが姿を現した時彼はあまり驚かなかった。恐らくはこうなるだろうと思っていたから。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 覚束ない足取りで爆炎の中から姿を現したステイクだが、いい加減ダメージが限界だったのか変身が解除される。いや、自分から解除したのか。彼らは戦闘不能に追い込まれると体内に仕込まれた装置が証拠隠滅の為動き肉体を消し炭になるまで燃やす。それを避ける為、彼らは敗北を察すると自分から変身を解くのだ。

 

 今回もその例に漏れず自ら変身を解除する。今回もそれだった。

 

「まだ……まだ、死ねない……栄光を、新たな世界をこの手に掴む……プロフェッサー……あの人の悲願を成就させるまでは――――!」

 

 変身を解き、満身創痍のアデニンとデイナが顔を合わせる。デイナは暫くアデニンの事を見つめていたが、直ぐに興味を失ったかのようにそっぽを向いた。

 

「……雄成さんに伝えておいて。亜矢さんは直ぐに迎えに行く。それまで、亜矢さんの事を傷付けるなって」

 

 アデニンの方を見ずに告げた仁は、教授達の居るラボに戻りながら変身を解いた。その背を見送りながら、アデニンは完全な敗北に険しい顔をし、しかし今の自分に出来る事は何もないとその場を離れるのだった。

 

 アデニンを見事撃退した仁がラボに戻ると、教授と峰が彼を出迎えた。

 

「門守君!」

「門守君、良かった!」

「お待たせしました。もう万全です」

 

 2人が迎えてくれた事を、仁は自分の身を案じてくれての事だと思ったがそうではなかった。2人は、アデニンの言葉に惑わされ仁が傘木社について行ってしまわなかった事を素直に喜んだのだ。あの誘いは今考えても甘美で、危なかった。仁の心が強くなければ、より暮らしやすい世界に愛しい人といられると分かり寝返ってしまってもおかしくはない。

 

「よく、アイツの言葉に靡かなかったわね」

「志村さん、大丈夫?」

「心配してくれてありがと。大丈夫よ、傷はさっきより大分塞がって来たから」

 

 希美がチラリと服を開けて傷口を見せると、手術の為に切開した部位はもう出血が止まり塞がりかけていた。改めて人間離れした回復力に、仁はともかく峰が興味深そうに希美の傷口を眺める。

 

「ほぉ~……」

「ともあれ、君が味方でいてくれて良かったよ」

「ここでアイツについて行っちゃったら、亜矢さんに会わせる顔が無いですから」

 

 4人が集まって話していると、拓郎が裏口から慌てた様子で戻ってきた。どうやらステイクの爆発は裏山からも見えるか聞こえるかしたらしい。

 

「教授! 皆! 大丈夫か!?」

 

 息を切らせながらも両手には大量の食糧が入った袋を持ちラボに入ってきた拓郎に、希美はすっ飛んでいくと食料を奪い取り次から次へと口に流し込んだ。

 

「あぐ、んぐ、はぐ」

「うおっ!? あ、あの教授、何が?」

 

 ドアは吹き飛んでいるし外では爆発があったしで、拓郎は何があったかを知らないので困惑を隠せない。

 

 1人置いてきぼりで困惑した様子の拓郎に、仁達3人はつい可笑しくなって笑ってしまった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 あれから宗吾は、装備と権限を剝奪され自宅謹慎が言い渡された。

 

 最初失意のどん底にあった宗吾は、無気力にリビングでジッとしているだけだった。が、仏壇に写る今は亡き家族の写真を見て心に再び火が灯った。

 

 そうだ、こんな所で腐っている訳にはいかない。自分は無法を許さぬ警察官で、人々をファッジの脅威から守る為に戦う事を選んだ仮面ライダーなのだ。ここで何もせずにいたら、それこそ家族に顔向けできない。

 

 宗吾は気合を入れ直すと、制服に着替え警視庁に赴き、仮設されたS.B.C.T.の本部へと向かった。スコープ1号を昭俊から奪取し、傘木社本社に仕掛ける為だ。

 無謀だと言う事は分かっている。しかし彼は所詮一警察官、出来る事など高が知れている。それに仁の様な優秀な頭も無かったので、考え付くのは自分の正義を信じて間違いを正す為の戦いをする事だけだった。

 

 警視庁に着いた宗吾は、思いの外あっさりとS.B.C.T.の仮設本部へと辿り着けた。途中後処理の為に動き回っている警官達と何度もすれ違ったが、彼ら彼女らは皆宗吾が居る事に疑問を持った様子が無い。それどころか、居て当然と言う様子すら見せた。

 

 自宅謹慎を通達された身なのに、何故?

 

 そんな疑問を抱きながら、宗吾は仮設本部の入り口まで辿り着いた。隠れながらコッソリ中の様子を伺うと、そこでは昭俊が自分の派閥――即ち傘木社の息が掛かった者――の部下に指示を出している。内容を聞く限り、仁を捉える為の部隊を編成しているらしい。次に向かうのは、明星大学だ。一番怪しい所だし、先程通報で大学で爆発が確認された。

 

 このままだと仁の身が危ない。そう思った宗吾は、スコープドライバーの位置を確認した。ライトスコープと違い変身していなければ置き場所にあまり困らないスコープドライバーは、他の装備と違い昭俊のすぐ近くに置かれている。

 

(この位置……入ればどう考えても見つかる、か)

 

 宗吾は悩んだ。見つからずにスコープドライバーを奪取するのは不可能に近い。そして室内には昭俊の部下が蔓延っている。今まで宗吾の指揮下にあった慎司などの生き残りの部下も居るが、彼らが宗吾に従ってくれるかどうか分からないし、彼らが自分についてくれても多勢に無勢だ。

 

 どうしたものか――――

 

「何してるんですか、権藤隊長?」

「うぉっ!?」

 

 突然背後から声を掛けられ、宗吾は飛び上がるように驚き後ろを振り返った。そこには数人の警察官――制服、スーツ問わず――が集まっていた。

 

 こんな所で何をしているのかという疑問もそこそこに、宗吾はこの状況をどう乗り切るか頭を働かせた。ここで捕まる訳にはいかないのだ。

 

 しかし焦る宗吾に対し、彼らの口から出てきたのは思いもよらない言葉だった。

 

「さぁ、早く入りましょう?」

「へ?」

「S.B.C.T.を取り返すんでしょ?」

 

 宗吾は目を見開き、周囲を見渡した。集まってきた警官達は皆強い意志を宿した目で、宗吾に向けて頷いて見せた。そこで漸く気付いた。彼らは宗吾の謹慎に気付いていないのではなく、宗吾と共にS.B.C.T.を取り戻す為に集まったのだ。

 

「な、何で?」

 

「他部署だからって、何も知らない訳じゃないんです」

「北村さんや小早川さんがコッソリあちこちに触れ回ってたってのもあるんですがね」

「聞きましたよ。今S.B.C.T.が大変だって事」

「俺達は市民を守る為に警察になったんです。市民を積極的に傷付ける、傘木社の事は許せません!」

「それに仮面ライダーには俺達も助けられました。彼らを助ける為、手伝いをさせてください!」

「お願いします!」

 

「お、お前ら――――!」

 

 彼らの熱い思いに、宗吾は年甲斐もなく目頭が熱くなるのを感じずにはいられなかった。そして同時に嬉しく思う。自分達は決して孤独な戦いをしていた訳ではない、自分達の戦いを見てくれる人達はこうしていたのだと言う事に。

 

 目尻に浮かんだ涙を乱暴に拭い、気合を入れ直すと宗吾は扉の手を掛けた。

 

「よし、行くぞ!!」

「「「応ッ!!」」」

 

 一気に扉を開け、一般警官達と共に仮設本部に雪崩れ込む宗吾に、昭俊は椅子から腰を上げ驚きを露にした。

 

「な、何だ君らは!? 権藤! 君には謹慎を言い渡してあった筈だ!!」

「すみませんがね、指揮官。いや元指揮官。その命令は聞けません」

「何!?」

「S.B.C.T.は傘木社と戦う為の組織なんだ。それが傘木社に与して、門守君達を追い詰めるなんて事、許される筈がない!」

 

 宗吾の言葉に彼についてきた警官達が頷くのを見て、昭俊は奥歯を噛み砕かんばかりに噛み締めた。

 

「き、貴様ら――!?」

「S.B.C.T.とスコープ……返してもらうぞ」

 

 その言葉が合図となった。

 

 一斉に動き出す警官とS.B.C.T.。両者は決して広いとは言えない指令室内で取っ組み合いを始め、椅子や机をひっくり返す程の騒動となった。騒動は室内だけでは収まらず、何人かは部屋の外に出て殴り合いまで始める始末。

 

 そんな中で、宗吾はスコープドライバーを昭俊から取り上げようと奮闘していた。

 

「この!」

「させるか!」

 

 スコープドライバーに宗吾が手を伸ばせば、昭俊がそれを妨害し宗吾を床に投げ飛ばす。

 宗吾はそれを受け身を取ってやり過ごすと、立ち上がり昭俊にタックルを仕掛け床に押し倒しマウントを取ると何度も拳を振り下ろした。顔を狙って何度も拳を振るったが、昭俊はそれを腕でガードしてしまう。

 

 決め手に欠ける攻撃に宗吾が歯噛みしていると、傘木社の息が掛かった隊員が宗吾を昭俊から引き剥がしてしまった。

 

「く、そ!? この、放せッ!?」

 

 暴れる宗吾だが、生身では出来る事に限りがある。特に数人掛りで取り押さえられては、彼と言えども振り払う事は容易ではない。

 

 宗吾が取り押さえられると、それを好機と見て昭俊がスコープドライバーを手に取り腰に巻いた。昭俊がドライバーを腰に装着してしまったのを見て、宗吾の顔から血の気が引く。

 

「く、しまった――!?」

「残念だったね。悪いが君はもう、用済みだ」

〈Access〉

 

 キープレートがドライバーに装填され、止めねばとは思うが取り押さえられている現状どうする事も出来ない。昭俊が傘木社の人間であるなら、自分に歯向かった人間を始末する事に躊躇などするはずがない。この機会に警察組織の掌握すら考えるかもしれない。

 それだけは阻止しなければならないが、取り押さえられてしまっている為宗吾にはどうする事も出来なかった。

 

 そして昭俊はそのままドライバーのハンドルを回転させ――――

 

〈Error〉

「…………は?」

「え?」

 

 まさかの音声に宗吾と昭俊だけでなく、周囲の物が全員固まった。それなりに長くスコープシステムを使ってきた宗吾でも、あんな音声は聞いた事がない。

 

 昭俊は慌てて何度もハンドルを回したが、結果は全て同じ。何度回してもエラーがでるだけで一向に変身する事は叶わなかった。

 

「な、何故だ!? 一体どう言う事だ!? キープレートの登録データは書き換えられた筈なのに!?」

 

 キープレートには、変身者の身長体重などの生態データが登録されている。セキュリティの事を考え、登録されているデータと異なる人間には変身できない様にする為だ。

 それがいつの間にか書き換えられていた事に昭俊が愕然としていると、指令室に新たな乱入者が現れた。慎司と茜等、旧S.B.C.T.の生き残り達だ。S.B.C.T.を傘木社の私兵とするに当たり、邪魔になるからと追放された彼らの出現に昭俊は目を見開く。

 

「お、お前達何故!?」

「すみませんね。折角のデータですけど、権藤隊長以外にそれ似合いそうもなかったんで、勝手に書き換えちゃいました」

 

 そう言って茜はペロリと舌を出し軽くウィンクしておどけてみせた。場違いな彼女のリアクションに、昭俊は開いた口が塞がらない。

 宗吾と同じくS.B.C.T.を追放された茜達だが、彼女達も諦めてはいなかったのだ。この時の為に、様々な伝手を借りてコッソリS.B.C.T.の指令室に入り込み危険を冒しながらもスコープのキープレートの設定を書き換えていたのである。

 

「き、き、きさ、貴様――!?」

 

 激昂する昭俊だったが、慎司達により拘束から解放された宗吾が飛び掛かった事でそれどころではなくなった。宗吾が飛び掛かった衝撃でスコープドライバーは外れ、2人は生身で取っ組み合いをする事になる。

 

 互いに殴り合い、何度も上下を入れ替える2人。その時ふと宗吾は視線を昭俊の背後に向けた。そして、そこで”あるもの”を見ると態と床の上に倒れ昭俊にマウントを取らせると、両腕で彼がそれ以上自分に近付かないように固定した。

 

 昭俊は宗吾の顔をぶん殴ろうと奮闘するが、宗吾が腕をつっかえ棒のようにして押さえているので届かない。それでも何とかしようと藻掻いていると――――

 

「フンッ!」

 

 突然昭俊は脳天に強い衝撃を受け、そのまま意識を失った。彼は気付いていなかったが、何時の間にか慎司が昭俊の後ろに回っており手に手頃なアタッシュケースを抱えていたのだ。そしてそれに気付いた宗吾が慎司と目があった瞬間、彼は次にすべき事を即座に理解し慎司が昭俊の頭をぶん殴りやすいようにしてやった。

 

 結果、振り下ろされたアタッシュケースは昭俊の頭をぶん殴り彼を一撃で昏倒させたのだ。

 

「ふぅ……助かったぞ、小早川」

「いえ、先日は何も出来ませんでしたからこれ位は」

 

 律儀な部下に宗吾は笑みを漏らすと、昭俊の腰に装着されたドライバーを外し自分の腰に装着し直した。そしてキープレートを装填しハンドルを回した。

 

〈Access〉

「変身!」

〈In focus〉

 

「ぐ、うぅ…………ッ!?」

 

 昭俊が意識を取り戻した時、彼の目の前には宗吾が変身したスコープ1号が佇んでいた。照明の光に照らされ、銀色の装甲がキラリと光る。

 

 転がるようにしてスコープから離れた昭俊は、乱れた制服を正す事も無く立ち上がると懐に手を突っ込んだ。スコープはそれを最初拳銃でも出して抵抗するのかと思っていたが、そうではなかった。

 

 昭俊が取り出したのはベクターカートリッジだったのである。

 

「ッ! 貴様……いや、持っていてもおかしくはないのか」

「こうなたらぁっ!」

〈RHINO Contamination〉

 

 ベクターブレスでライノファッジに変異した昭俊は、そのパワーを持ってスコープにタックルを仕掛けた。スコープはライノファッジのタックルを受け止めるが、相手の突進力が強すぎて受け止めきれず壁に向かって押されていく。

 そのまま壁とライノファッジに挟まれるスコープだが、壁の方がファッジの力とスコープの防御力に負けて崩れ落ちる。壁が粉砕されてもライノファッジは構わずそのまま突撃を続け、2人は壁を次々と破壊して外へと出てしまった。

 

「くぅっ!?」

 

 外に出た所で漸く止まったライノファッジから、スコープは漸く離れる事が出来た。外では半壊した警視庁の壁を突き破って出てきたファッジの姿に、待ち行く人々が悲鳴を上げて散り散りになって逃げていた。

 

 押し出されて地面に倒れたスコープに、ライノファッジは両手のサイの頭部を模したガントレットで殴り掛かろうと近付いていく。1本のぶっとい杭が付いたガントレット、あれで殴られたら堪ったものではない。

 

 ライノファッジがスコープに近付き、拳を叩き付けようと振り上げた。

 

 その瞬間――――

 

「今だ!」

〈Vortex・Gun Starting〉

 

 スコープは腰のホルダーからキープレートを取り出し、ボルテックスシールドにセットしボルテックスガンを起動。至近距離からのマシンガンによる銃撃をお見舞いした。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 連射力に優れるマシンガンの銃撃を至近距離から受け、強固なライノファッジの表皮も悲鳴を上げる。スコープを殴り付けるどころの話ではなくなったライノファッジはもんどりうって倒れた。

 倒れたライノファッジ相手に、スコープは一切容赦しない。彼はガンマライフルも精製し、更に激しい銃撃でライノファッジを追い詰めた。

 

「ぐぐぐっ!?……調子に、乗るなぁ!!」

 

 しかし相手はこの程度で倒れはせず、ガードを固めて接近してきた。弾幕を耐えて接近してきたライノファッジに、スコープは横に転がって回避すると銃撃があまり効果的ではないと戦い方を変えた。

 

〈Vortex・Blade Starting〉

 

 分厚い鉄板をも切り裂くボルテックスブレードを展開し、接近してきたライノファッジに斬りかかる。ライノファッジも両手のナックルガードで対抗し、互いにパワーとパワーでぶつかり合う。

 

 だが軍配はスコープの方に上がった。鋭い斬撃を何度も放ちライノファッジはそれをナックルガードで受け止めるが、数回受け止めた所でスパイクが限界を迎え砕け散ってしまった。

 

「何ッ!?」

「ゼヤッ!」

 

 砕けた両手のスパイクに一瞬呆然となるライノファッジの隙をスコープは見逃さない。蹴りを放ち体勢を崩させると、立て続けに何度も斬りつけライノファッジを弱らせていく。

 

「おぉぉぉぉっ!」

「ぐあっ!? がっ?! ま、待て、ぎゃっ!?」

 

 ライノファッジの制止も聞かずスコープは相手を滅多切りにしていく。遂には頭部の角すら切断され、ライノファッジはその場に膝をついた。

 

「ぐぅっ!? うぐ、が、は……」

 

 身動き取れなくなったライノファッジに、スコープはトドメの必殺技を放った。

 

「これで、終わりだ!」

〈Recognition〉

「ハァァァァァッ!!」

 

 放たれたエンドスマッシュが、動かないライノファッジの胸板を穿つ。蹴り飛ばされたライノファッジは、悲鳴を上げながら壁に叩き付けられその場で爆散した。

 

「ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 爆散したライノファッジは変異を維持できなくなり昭俊の姿に戻った。ベクターカートリッジが排出され倒れた昭俊の姿に、スコープは最初隠蔽処置が施され燃えるのではないかと警戒した。だがその警戒に反して、昭俊の体は一向に燃焼する様子を見せない。どうやら彼には隠蔽装置が埋め込まれてはいなかったらしい。ベクターカートリッジが渡されていたのはもしもと言う事態の為で、彼がファッジとなって戦う事は本来であればイレギュラーな事態だったようだ。

 

「うぐ、ぐぅぅ……」

「確保ッ!」

 

 動けなくなった昭俊を、警官が複数人で取り押さえ手錠をかける。見れば他の傘木社の息が掛かった連中も軒並み逮捕されたようで、取り押さえられたり手錠を掛けられて身動きを封じられていた。

 この場での事態が終息した事に、スコープは安堵の溜め息を吐き変身を解除した。彼が変身を解除すると、慎司や茜を始めとした本来のS.B.C.T.の隊員達が集まってくる。彼らは皆、宗吾が再びS.B.C.T.の隊長として戻ってきてくれた事を喜んでいた。

 

「隊長!」

「お帰りなさい、隊長!」

「悪いな、お前ら。心配を掛けたようだ」

「お気になさらず」

「やっぱり俺らの隊長は権藤隊長じゃないと」

 

 S.B.C.T.の隊員達は互いに頷き合い、宗吾こそが自分達の隊長であると豪語する。その事に宗吾が嬉しそうに鼻っ柱を軽く擦ると、次にS.B.C.T.とは無関係だった警官達が近付いて来た。彼らは逮捕した傘木社の連中を一か所にまとめると、宗吾に近付き彼に向け敬礼をした。

 

「権藤隊長!」

「協力、感謝する。だが何故?」

「簡単な話です。我々も志は権藤隊長たちと同じ、ただそれだけです。我々だって市民を守る為に戦いたい。今までは指を咥えて見ているだけでしたが、もう見ているだけではいられません。先日の襲撃で、S.B.C.T.も人手不足だとか。是非、我々もお手伝いをさせてください!」

 

 S.B.C.T.はその活動内容の関係上、非常に危険が伴う。事実、ライトスコープが開発されて以降も何人もの殉職者を出してきた。選別され訓練された者ですらそれなのだ。人間相手の対応しか想定していない普通の警察官では、簡単に命を落としてしまう可能性が非常に高い。

 

 彼らはそれを承知の上で、宗吾達に手を貸そうとしているのだ。全ては警察官の矜持の為……不正を許さず、市民を守る。その為に命を賭けようとしているのだ。

 

 その気高い精神と、自分達には味方が居てくれているのだと言う事実に宗吾は目頭が熱くなるのを感じた。

 

「~~ッ、感謝する!」

 

 宗吾は潤む目を堪えて彼らに改めて敬礼して感謝をすると、捕縛した昭俊を担いでその場を移動した。それに倣うように、他の者達も捕縛した傘木社の息の掛かった連中を引っ張って相互について行く。

 

 彼らを戦力として受け入れ、傘木社に仕掛けるにしても上層部の認可は必要だ。そのままでは他に居るだろう傘木社の息の掛かった上層部の人間に妨害されるのが目に見えているが、こうして傘木社の息の掛かった人間を連れて行けば話は別だ。寧ろ、このままの勢いで上層部に居る不穏分子を炙り出す。

 

「傘木 雄成……これ以上、お前の好きにはさせないぞ!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その頃、明星大学のラボでも仁達が準備を整えていた。

 

「……志村さん、傷の具合は?」

「んぐ、んぐ……ぷはっ! バッチリ」

 

 希美の傷が癒え、戦いの前のエネルギーの補給も終わった。仁は満足そうに頷くと、希美だけでなく教授達と共にラボを出て愛車に跨る。普段は亜矢を乗せる後ろのシートには、今回ばかりは希美を乗せた。

 

「最後にもう一度聞きますけど、教授達もついてくるんですか?」

「今回ばかりはね。場所が場所だ、戦うだけでなく技術のある人間が必要になる場合もあるだろう」

「邪魔にはなりませんから、安心してください」

「その代わり戦いは任せたぞ」

 

 これから敵の本丸に攻め込もうと言うのに、あまり緊張感が感じられない彼らの様子に仁は肩を竦めた。

 勿論それは虚勢だ。彼らだって本当は不安だが、今ここで動かなければ取り返しのつかない事になる。仁は戦いに集中しなければならないのだから、彼の手が届かない所を自分達がサポートするのだと湧き上がる緊張を気合で抑え込んでいた。

 

 それが分かるので、仁はそれ以上は何も言わない。信頼する教授や先輩方がついてきてくれると言うのだ。

 

 これで残る懸念は、敵の多さだけ。本社ビルと言う事は、当然敵の数は今までの比ではない。保安警察、アデニン達幹部に雄成、更にはS.B.C.T.まで加わるのだ。とてもではないが勝ちの目は見えない。

 それでも亜矢を救う為にはいかねばならないと仁が覚悟を決めていると、唐突に仁の携帯から着信音が鳴った。こんな時に誰だと携帯を取り出すと、相手は宗吾である事を知り仁は目をパチクリとさせた。

 

「権藤さん?」

「何だって?」

「もしもし?」

 

 仁の口から零れた名前に、白上教授達が顔を見合わせる前で仁は通話に出た。

 

『門守君! 良かった、大丈夫そうだな?』

「お陰様でね。それよりどうしたの? 何だかそっちも大変そうだけど?」

『お誘いさ。傘木社への強制捜査のな』

 

 あの後、宗吾達は昭俊らを引っ張って警視総監ら上層部に直談判をし傘木社への強制捜査をもぎ取った。警察上層部は完全に傘木社に支配されてはおらず、良識ある者、傘木社の意向が影響してくる事を憂いる者は存在したのだ。

 その彼らに、昭俊らは十分な成果として映った。故に、宗吾らには傘木社への強制捜査が許される事となったのである。

 

 ただし、そこには必ず傘木社の不正の証を手に入れて来いと言う命令も付随していた。今回の強制捜査は前例のない程の強引なもの。それをするのなら、それに見合うだけの成果を持ってこい……そう言う事らしい。

 出来なければ全員責任を取ってもらうという脅しに近い言葉も貰ったが、宗吾は上等だと思った。今回に関しては失敗はイコール死を意味するのだから。

 

『そう言う訳で、我々はこれから傘木社へ突撃する。一緒に来るか?』

「……勿論。向こうで合流しよう」

 

 その言葉を最後に通話を切ると、携帯を仕舞いながら教授達の事を見た。彼らは皆、仁と宗吾の会話内容を興味深そうに見ていた。

 

「……宗吾さん、S.B.C.T.取り戻したって」

「それじゃあ――!」

「今まで通り、S.B.C.T.は味方だよ」

 

 白上教授は安堵に胸を撫で下ろし、峰と拓郎は喜びにハイタッチした。

 

 これで最大の懸念は消えた。宗吾達が来てくれるなら、戦力は十分。ならば、彼が考えるべきはただ一つ。

 

「亜矢さん、真矢さん……今行くよ」

 

 愛する女性を救い出す。それだけを胸に、仁は傘木社本社ビルに向けてトランスポゾンを走らせるのだった。




という訳で第59話でした。

あまり公にはなっていないS.B.C.T.ですが、警察内では少なくとも宗吾達の行動は周知の物となっていました。何もできない自分達の代わりに、己が命を賭して戦う彼らの事は他の警官たちの憧れの的でもありましたので、今回彼らは自分たちが宗吾達を助けるんだと動いた次第です。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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