遂に傘木社との決戦が始まります。仁も漸く亜矢を助け、そして…………
傘木社の本社ビルに向けて、トランスポゾンを走らせる仁とそれについて行く白上教授達。他の車を追い越しながら走る仁だったが、視線の先で目立つ車両群を見つけた。
S.B.C.T.の輸送トレーラーと指揮車だ。
「門守君!」
「権藤さん、お待たせ」
「行くぞ、傘木社に殴り込みだ!」
頼もしい味方に仁は笑みを浮かべずにはいられなかった。
と、そこで宗吾の目が仁の後ろに乗っている希美に向いた。
「ところでそっちは……?」
「どうも……」
「なっ!?」
仁の体で見え辛かった希美だが、体をずらし顔が良く見えるようにして片手を上げて挨拶した。
彼女の姿に当然宗吾は言葉を失うほど驚いた。仮面ライダーヘテロとして傘木社の尖兵として立ち塞がってきた彼女を前に、冷静でいる事は難しい。ましてそれが仁の後ろに居るとなれば。
「か、門守君!? その女は――」
「大丈夫、今は味方だよ。志村さんも、傘木社に対しては色々と思うところがあるみたい」
「言い訳はしないわ。これが終わったら逮捕してくれても構わない。ただ、今だけは信じて」
険しい顔で自分の事を見つめてくる宗吾の目を、真っ直ぐ見つめ返す希美。
2人は暫し互いに見つめ合っていたが、運転している茜の声がそれを中断させた。
「隊長! まもなく傘木社本社ビルです!」
「分かった。総員戦闘用意!」
近付く戦場に、宗吾は顔を引っ込め指揮に集中した。仁と希美も見えてきた本社ビルに、腰にドライバーをそれぞれ装着した。
一方本社ビルの方では、迫るS.B.C.T.の車両群と仁の姿を警備の人間が見つけ慌てふためいていた。警備の人間は傘木社の裏の事情を知っている。故に、S.B.C.T.が仁と共に行動している事の意味を理解し、ただ事ではないと察したのだ。
「お、おいどうする!?」
「とにかく報告だ! セキュリティー、セキュリティー! こちら本社ビル正面! S.B.C.T.が門守 仁と共に向かってきている!」
『S.B.C.T.は味方だと聞いたが?』
「あれはどう見てもこちらに攻撃を仕掛けようとしている! いいから早く警備を――」
警備員が報告と増援を要請している間に、仁達は本社ビルの前に到着した。
停まったトレーラーからは次々とライトスコープが降車し、本社ビル入り口にガンマカービンの銃口を向けている。指揮車からは宗吾が降り、慎司と並び立った。2人の腰にはスコープドライバーが装着されている。
「行くぞ、小早川」
「了解!」
〈〈Access〉〉
「「変身!」」
〈〈In focus〉〉
宗吾は銀色のスコープ1号に、慎司は銅色のスコープ2号に変身した。
S.B.C.T.が明らかに自分達に敵対する意思を見せた事に、本社ビル内の受付嬢らは狼狽えた様子を見せている。対して、警備員達は戦闘は避けられないと察し、ベクターカートリッジを取り出してファッジに変異した。
「くそ!」
「やるぞ!」
〈〈Velociraptor〉〉
警備員達はヴェロキラプトルファッジに変異して迎え撃とうとする。何も知らない受付嬢や一般社員達は、普段挨拶している警備員が怪物に変異した事に悲鳴を上げて物陰に隠れたり逃げていく。
更には異変を一早く察した保安警察の隊員もファッジに変異して奥からぞろぞろと出てきた。ビルの奥へ逃げようとしていた社員は警備員だけでなく本社の奥からも怪物が出てきた事に完全にパニックを起こしていた。
「傘木社の人だからって、ファッジの事を知ってる訳じゃないんだね」
「半分以上は一般人よ。何も知らないわ。ファッジ関連の事を知ってるのは選別された一部の研究員と重役だけよ」
「あの量産型ファッジは?」
「あれは他所から引き抜いた傭兵みたいな連中ね。金で雇われたり、非合法な方法で引き抜かれたり」
トランスポゾンから降りながら仁の質問に希美が答える。
2人がトランスポゾンから降りるのと同時に、スコープ1号が手を振り下ろし号令を下した。
「総員、突撃ッ!!」
忽ち響き渡る銃声。ライトスコープとヴェロキラプトルファッジの持つ銃が火を噴き、壁や柱は流れ弾で穴だらけになりガラスは粉々に砕け散る。
飛び交う銃弾を前に、仁と希美もベクターカートリッジを取り出し変身する。
〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉
「道案内は宜しくね」
〈HORSESHOE × CROCODILE × TURTLE Mixing Genetic information〉
「逸れたり道間違えたりしないでよ?」
まるで長く共に戦ったかのような気安さを見せる2人だが、つい先日まで敵対していたのである。
そうなった原因は何かと問われれば、端的に言えば『愛』の一言に過ぎるだろう。互いに愛すべき人を救う為に、2人は敵対では無く手を取り合う事を選べたのだ。
「「変身!」」
〈Amazing! Revelation of the legend, DRAGON〉
〈Create, Capture, Out of Control. Brake the chain〉
仮面ライダーに変身した2人は、銃火が飛び交う中を敵のファッジを倒しながら突き進む。白上教授達は壁際など戦いに巻き込まれない所を必死になって走りデイナ達の後に続く。
本社ビルからは続々と増援のヴェロキラプトルファッジが出てくるが、デイナとヘテロの敵ではない。出てきた端から薙ぎ倒され、2人が通った後には倒されたヴェロキラプトルファッジが道標の様に転々と倒れていた。
「それで、何処まで行けば良いの?」
「もう少しよ。この先を右に!」
2人が向かっているのは、地下にある特別研究区画への直通エレベーターだ。非人道的な実験は全てそこで行われている。
因みに本社ビルには地下の研究区画とは別に、地上66階以上の階も一般社員立ち入り禁止の特別区画となっているがそこはベクターカートリッジの精製が目的の区画だ。地下に研究区画があるのはいざという時の封じ込めや隠蔽の容易さを考えての事だが、ベクターカートリッジ精製区画がビルの上の方にあるのはいざという時に屋上のヘリポートから大型輸送ヘリでベクターカートリッジだけでも持ち出す為である。
デイナはヘテロと協力してヴェロキラプトルファッジを倒しながら、目的の地下直通エレベーターへと辿り着く。そのエレベーターには普通の上と下のボタンの他に、テンキーがついていた。関係者以外使用できない様にする為のセキュリティーだ。
ヘテロはここの関係者だったので、勝手知ったる慣れた手つきでテンキーを操作してエレベーターを呼び出そうとした。
ところが、彼女が何度テンキーを押してもエレベーターはうんともすんとも言わなかった。エレベーターの電源が落とされたのだ。これでは地下へ下りる事が出来ない。
「クソッ! 一体どうしたら――」
一応地下に向かう手段は他にもあるが、他の場所はここから遠い上に内一つは下りた先で死体の山を見る事になる。できれば避けたい。
悩むヘテロだったが、彼女が結論を出すより先にデイナが動いた。彼は徐にエレベーターのドアを蹴破ったのだ。
「ちょおっ!?」
「こっちの方が早いよ。先に下行くからね」
止める間もなくデイナはワイヤーを掴み一気に地下へと下りて行く。暗いエレベーターシャフトの中に消えて行ったデイナの姿を、ヘテロは呆れた目で見降ろした。
「やんちゃだ事……」
まぁ結局はこれが一番早いかと、ヘテロも目の前にぶら下がるワイヤーに手を伸ばした。が、彼女が降りるのを妨害しようと言うのか奥からヴェロキラプトルファッジが無数に姿を現す。
思わず舌打ちしつつ、こいつらにデイナの後を追わせる訳にはいかないと迎え撃とうとする。
そこにスコープ1号がボルテックスガンを乱射しながら割り込んだ。
「俺が相手だ!」
「アンタ……」
正直な話、ヘテロもスコープ1号も、互いに相手に対して複雑な思いを抱いている。ヘテロは今まで散々敵として立ち塞がり被害を与えてきた者としての後ろめたさ。スコープ1号は多くの部下を彼女によって亡き者にされた恨みなどだ。
お互いに複雑で、どう接すればいいか分からない。だが今は、今だけは信じるしかなかった。
何よりも他ならぬ仁が2人の事を信じて背中を任せているのだ。ならば、今は突き進むしかない。
「先に行け、こいつらを片付けたら俺達も下に行く!」
「…………分かったわ。大人数で来るなら、地下駐車場の奥のエレベーターを使うのが早いわよ。使う為には暗証番号が必要だから気を付けて」
ヘテロはスコープ1号に地下駐車場のエレベーターの暗証番号を教えると、ワイヤーを掴んで改めてエレベーターシャフトを下りて行った。
残されたスコープ1号は、つい最近まで敵だった彼女の背中を守っている事に言い様の無い思いを抱き溜め息を吐く。
「全く、何でよりにもよってあの女を頼らなけりゃならんのか」
複雑は複雑だ。あの女に何人の部下が殺されてきた事か。部下だけじゃない、罪のない人々もあの女によって被害を被った。許せる事ではない。
許せないのだが、その一方で今の状況を悪いと思っていない自分が居る事にも気付いていた。敵対してきたからこそ分かる実力者の彼女が味方になってくれた事を喜んでいるのか、それとも一応は彼女が改心してくれた事が純粋に嬉しいのか。
いずれにしても現金な事だと、仮面の奥で苦笑した。
「本当に……全く……」
言い様の無い居心地の悪さを紛らわすべく、ヴェロキラプトルファッジ達を次々と倒していく。本人は気付いていないが、その攻撃は先程と比べて苛烈さが増していた。
まるで八つ当たりの様に敵を倒していくスコープ1号の暴れっぷりに、気付けば部下たちは何もする事がなくなってきていたのだった。
***
仁達が本社ビルに襲撃を仕掛けてきた事は、当然雄成の知るところとなる。上層階の社長室で仕事をしていた雄成は、本社ビル内に響く警報と慌ててやって来た部下の報告に目を細めた。
「そうか……来たのか、彼らが。まぁ、それならそれで手間が省けたがね」
満更でもなさそうな顔で席を立つと、社長室を出て行った。その手にはカラミティドライバーとベクターカートリッジが二つ握られており、ふらりと歩くその姿はまるで散歩か何かに行くかのようである。
雄成が動き出したとは知らず、しかし予想はしているデイナは地下の特別研究区画を進んでいた。
「それで、亜矢さんは何処に?」
「多分専用の居住区だと思うわ。私もあそこに居たから」
途中ちらほら出てくる警備のファッジを返り討ちにしつつ、逃げ惑う研究員を無視して走り抜ける。
デイナには初めての、ヘテロには見覚えのある通路を進みあと少しで亜矢が居るだろう区画に辿り着きそうになった。
その時、近くの通気口から赤い濁流が噴き出しデイナとヘテロに襲い掛かった。
「うわっ!?」
「くぅっ!?」
赤い濁流に押し倒され歩みが止まる2人の前で、液体は形を持ち始めあっと言う間にハザード3のカラミティになった。
「ようこそ、門守 仁君。我が社へようこそ、歓迎するよ」
「思ってたよりも早かったな」
「あら、私には何も無しかしら? お帰りの一言も無いの?」
「少し驚いているよ、君が生きている事にも。どうやら私が思っている以上に君の体は変質しているらしい。事が終われば君をもう一度研究し直すとしよう」
その言葉を合図に2人に襲い掛かるカラミティ。両腕を赤い刃に変形させ、2人に斬りかかってきた。デイナはそれをハイブリッドアームズで迎え撃とうとするが、それを押し退けてヘテロが1人でテイルバスターで受け止めた。
「志村さん?」
「先行きなさい。こいつは私が何とかするから」
「出来るのかね? 君1人で――」
「そいつだけじゃない!」
突如カラミティに襲い掛かる銃撃。銃弾はカラミティの体を突き抜けるだけでダメージとはならなかったが、それでも勢いを殺し押し返す事は出来た。
カラミティの圧力から解放され体勢を立て直したヘテロは、振り返り銃撃の主を見た。そこに居たのは、上で雑魚の相手をしている筈のスコープ1号だった。
「あ、アンタ何してんの?」
「権藤さん、上は?」
「上は小早川達に任せてきた。何、雑魚ならあいつ等でも大丈夫だ」
〈Vortex・Blade Starting〉
ヘテロの隣に立ち、あまり役に立たないガンマライフルを捨ててボルテックスブレードを展開する。自分に並び立つスコープ1号の姿に、ヘテロは仮面の奥でフッと笑みを浮かべると改めてデイナに先行を促した。
「さ、ここは私達が持たせるから。アンタはさっさと彼女を助けに行きなさい。待ってるわよ、あの子」
「ん……分かった。2人も気を付けて」
「あ、それと左耳の前の髪を三つ編みにしてる15歳くらいの女の子と、その子と一緒に居る男の子を見つけたら一緒に助けておいてくれる?」
「分かった。見つけたら志村さんの事伝えて助けておくよ」
その場を離れるデイナを、ハザード3のカラミティが後を追おうとした。それをヘテロとスコープ1号が妨害する。
「行かせないわよ、社長」
「お前は俺達が相手だ!」
「ふぅ……やれやれ、仕方が無い。本当は門守 仁君に最初に見せたかったのだが……」
カラミティは溜め息を吐きながら新たなベクターカートリッジを取り出した。今までに見た事のない、漆黒のベクターカートリッジ。カラミティはそれを、ヘテロ達に見せつけるようにしながら起動させた。
〈NEWBONE〉
「そのベクターカートリッジは――!」
「これこそが私の研究の集大成。門守 仁君と双星 亜矢君の遺伝子から作り出した、人類を新たな世界へ導く鍵さ」
〈NEWBONE + ORGANISM Pioneer. An incarnation of an unleashed disaster. No one can stop it anymore.〉
「さぁ……進化の時だ!」
〈Biohazard〉
カラミティがレセプタースロットルを引くと、セントラルドグマから放たれた光がカラミティの体を覆い隠す。今まではその光がシリンダーの様な柱上になったが、今度は違った。光は一気に収束すると小さな光球となったのだ。そのまま消滅してしまいそうになる光球は、しかし次の瞬間見る見るうちに膨れ上がった。いや違う、膨れ上がるのではなく分裂して増えているのだ。泡が噴き出るようにボコボコと光球が増え、人一人が収まる位の大きさになった時、砂が崩れるように光球がボロボロと崩れ去る。
そしてそこに、新たな姿――ハザード4へと到達したカラミティが佇んでいた。
「ハザード4……これが――!」
「くそっ!?」
外見は恐らく今までで一番豪華だろう。頭部は黄色い単眼にCの字が3つ重なった黒いバイオハザードマークになり、同色の装甲の胸には燈色のバイオハザードマークが刻まれ、赤いアンダースーツで身を包んでいる。
そしてその背中に赤黒いマントを羽織っていた。その姿はまるで王者の様ですらある。
「ちっ、そりゃ作るか。行くわよ!」
「あぁ!」
ヘテロとスコープ1号は眼前に佇むカラミティ・ハザード4に、テイルバスターとボルテックスブレードで斬りかかった。まだハザード3の液状化能力を持っているなら、この攻撃は徒労に終わる可能性が高い。が、流石に2人同時に液状化した体で包む事は出来ないだろう。何より、ヘテロはともかくスコープ1号にその攻撃は殆ど意味を成さない。
デイナが亜矢を助けに向かうまでの時間稼ぎのつもりで放った攻撃だったが、意外にもカラミティは2人の攻撃を受け止めた。てっきり何かしらの能力を用いて防ぐか何かするかと思ったのだが、予想に反して彼は何の能力も使わなかった。
その事を2人が不審に思っていると、カラミティが口を開いた。
「――――タランチュラやアナコンダ……同種の中でも大型のこの2種は毒を持たない。それは何故か分かるかね?」
「は?」
「何をいきなり――――」
「それは……単純に強いからだ」
突然のカラミティの言葉に2人が首を傾げていると、カラミティが2人の攻撃を受け止めている手に力を込めた。すると2人は、自分達の意思に反して武器が下げられていった。カラミティの強すぎるパワーに、抗う事が出来ないのだ。
「なっ!?」
「何てパワーだ!?」
「単純に力が強ければ、獲物の捕獲にも天敵の排除にも特別な能力は必要ない。その力だけで、全てを成し得るからだ」
力技で2人の武器を下げさせたカラミティは、手を離すと2人を同時に殴り飛ばした。
「うあっ!?」
「がぁっ!?」
強制的に距離を離され、壁に叩き付けられた2人は全身を砕かれそうな痛みにふら付きながら立ち上がった。
何とか立ち上がった2人の前で、カラミティはマントを翻しながら両手を広げた。
「漸く……漸くここまで来れた。私の悲願まで、あと一歩……誰にも邪魔はさせない」
「くっ、さてそれはどうかしら?」
「お前が何を企んでいようと、俺達がそれを許さない!」
「……ふん」
吠える2人に対し、カラミティは鼻を小さく鳴らすと再びマントを大きく翻した。
すると広がったマントから赤い粘液の様なものが零れ落ちると、それが見る見るうちに形を作っていきあっと言う間にカラミティの左右にハザード2・ハザード3のカラミティが生み出された。
「はぁっ!?」
「何だそれはッ!?」
「君らの相手はこいつらで十分だろう」
これこそがカラミティ・ハザード4の能力だった。あのマント『オルガナイザーマント』はこれまでのカラミティの能力全てを使える上に、あのように自らの分身を生み出す事が出来るのだ。勿論その能力はオリジナルと比べても遜色はない。実質過去のカラミティを連れてきたようなものであった。
ヘテロとスコープ1号の相手を分身に任せ、自分はデイナを追い掛けるカラミティ。その後をヘテロが追おうとするが、彼女の前にはハザード3のカラミティ分身体が立ち塞がった。
「くそっ、邪魔よ!」
「こいつらを何とかしなければ先へは進めない。とは言え、このままでは……」
「隊長!」
事態の悪化を悟り焦りを感じるスコープ1号だったが、その彼の耳に突如慎司の声が響いた。まさかと思いそちらを見ると、そこにはスコープ2号が複数人のライトスコープを引き連れてやってきていた。
「お、お前達上はどうした!?」
「ご安心を、もう片付けてます。部隊の半分を上に残してあるので、異常があればすぐに知らせてくれますよ」
言いながらスコープ2号はライトスコープと共に銃口を2人のカラミティに向けた。頼もしい部下達に、宗吾は仮面の奥で笑みを浮かべる。
「油断するなよ、あいつらは別格だ。おい、こいつらは俺達が相手をする。お前は門守君の方に行け!」
「いいけど、大丈夫なの?」
「俺達を舐めるな。この程度、どうとでもなる!」
その言葉を合図にしたかのように、S.B.C.T.の銃撃が2人のカラミティに襲い掛かった。ハザード2のカラミティはそれをストールで防ぎ、ハザード3のカラミティは体を液状化させて無力化する。
その隙にヘテロはカラミティ2人の間をすり抜けるようにしてデイナの後を追った。
「恩に着るわ!」
廊下を走り、デイナとハザード4のカラミティの後を追う。果たしてカラミティにはすぐに追いついた。彼は最早自身の勝利を疑っていないのか、ふざけているのかと思うほど悠々と廊下を歩いていたのだ。
その背後からヘテロがテイルバスターで斬りかかる。
「何悠長に歩いてんのよ!」
テイルバスターがカラミティに振り下ろされるが、カラミティはそれを見もせず翻したマントで防いだ。攻撃が防がれたヘテロは、防がれた勢いを利用してカラミティの頭上を飛び越え彼の進行方向に立ち塞がった。
「ここから先には、行かせないわよ!」
「ふむ……まぁいい。時間はたっぷりある。君の頑丈さはよく分かった事だし、ハザード4となったカラミティの能力査定に付き合ってもらうとしよう」
「舐めるんじゃないわよ!!」
激昂してカラミティに突撃するヘテロがテイルバスターを振るうが、カラミティはマントでそれを弾きがら空きとなったヘテロの腹に拳を叩き込む。
「おごっ?! ぐ、う!!」
込み上げる痛みと吐き気に呻くヘテロだったが、それを堪えカラミティの腕を掴むと体を叩き付け頭突きをお見舞いする。だが痛い思いをしたのはヘテロだけで、カラミティは全く痛痒を感じた様子が無い。
頭突きが無意味に終わり、衝撃でふら付くヘテロをカラミティは殴り飛ばして引き剥がす。防ぐ事も出来ず引き離されたヘテロに、カラミティはマントを液状化させて飛ばし振り回してあっちこっちに叩き付けた。しかもその間にヘテロは消化吸収されていく。
「あがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ?! ごふっ?! が、ぎぃっ!? え、げぁっ!?」
悲鳴を上げながらあちらこちらに叩き付けられ、更には消化吸収され見る見るうちに体力を奪われるヘテロ。最後に廊下に強く叩き付けられ、解放された時には立つ事すら儘ならなくなっていた。
「うぐ、が……いぎ……くぅ」
「ふむ、それが君の精一杯かね。つまらん」
カラミティは倒れたヘテロから興味を失いその横を通り過ぎようとする。だがヘテロはまだ諦めてはいなかった。自分の横を通り過ぎようとする、カラミティの足をヘテロが掴んだのだ。
「ぜぃ……はぁ……」
体はボロボロだが、心はまだ死んでいないヘテロがカラミティを見上げる。足を掴まれたカラミティは、そんなヘテロに対し冷たく見下ろす。
「……しつこい女は嫌われるぞ」
カラミティはヘテロの首を掴んで持ち上げ、壁に向けて投げつけた。壁に叩き付けられたヘテロは、痛みに耐えながらも立ち上がった。
「ぐ、うぐ……う」
尚も立ち上がるヘテロを見て、カラミティは指をパチンと鳴らした。すると近くの壁を突き破って、ファッジが数体姿を現した。
「私は忙しいんでね。君はこいつらの相手でもしていたまえ」
「くそ――!」
複数のファッジを差し向けられたヘテロだが、見たところこいつらは通常のファッジだ。であれば、彼女にとって大した敵ではない。
振り回すテイルバスターが次々とファッジを切り捨て、至近距離からの銃撃が1体を始末した。
「残りは……」
〈HORSESHOE Burst〉
「こいつで!」
さらに続けて放たれたトーンインパクトが、残りのファッジを全て倒した。これで邪魔者は居なくなった。
再度カラミティに攻撃を仕掛けようと迫るヘテロ。だが新たに2体のファッジが彼女の前に立ち塞がる。
今度もさっさと倒してやると一瞬意気込むヘテロだったが、そのファッジをよく見て驚愕に戦意が消えて行ってしまった。
「な、ぁ……あんた達――――!?」
ヘテロの前に立ち塞がったのは、トクシックファッジとリキッドファッジだった。
***
「亜矢さん!」
ヘテロ達が時間を稼いでくれている間に目的の区画に到着したデイナは、片っ端から部屋を調べた結果亜矢を見つけることが出来た。
複数ある部屋の一つに、手術着を着せられた亜矢が閉じ込められていたのだ。
「仁くん!」
デイナがこじ開けるように扉を開けて飛び込んだのを見て、最初驚いた亜矢は次の瞬間目に涙を浮かべて彼に抱き着いた。デイナも亜矢の無事を確認すると、変身を解いて彼女を優しく抱きしめた。
「亜矢さん……良かった、無事で」
「仁くんこそ……あれから心配してたんですよ」
「それはこっちのセリフだよ。あいつらに酷い事されなかった?」
「ちょっと大変でしたけど、仁くんが絶対に助けに来てくれるって信じてましたから」
亜矢の笑顔に、仁はもう一度彼女を優しく、しかし力強く抱きしめた。今度こそ絶対離さないと、そう誓うように。
本当はもっと亜矢の温もりを感じていたかったが、ここは敵地のど真ん中。あまりゆっくりはしていられない。
「さ、ここから出よう。今度こそ、亜矢さんの事は守ってみせるから」
「はい。……あ、そうだ仁君、これ!」
仁に手を引かれ部屋を出ようとした時、徐に真矢が仁を引き留めると胸の谷間から一つのUSBメモリーを取り出した。それは以前、雄成に奪われたデイナドライバーの基礎設計図が入った司の遺品である。
それを真矢が、よりにもよって胸の谷間から取り出した事に仁は色々な意味で驚いた。
「ま、真矢さん、これって……いやそれよりも、何でそんな所から……そもそもこれ何処で?」
「ゴメンね、驚かせちゃって。見つけたのはここに連れて来られて最初に入れられた社長室でよ」
あの時、雄成がアデニンに呼ばれて席を外した僅かな時間で、真矢はせめてもの抵抗で雄成のデスクを調べていたのだ。そこで彼女は、引き出しの中に無造作に入れられていた遺品のUSBを見つけたのだ。
まさかこれが見つかるとは思っていなかった真矢がそれを手に取った時、雄成が部屋に戻ってくる気配を感じた彼女はそれを咄嗟に胸の谷間に押し込み何食わぬ顔で元居た場所に座り直し、そのまま地下研究所へと連れて来られた。
そしてこの部屋に入れられ、着替える事を強要された彼女はそのまま胸の谷間にUSBを挟んだまま過ごす事を余儀なくされた。下着だけはそのまま身に着ける事が許されたのは幸いだった。
「仁くんのお父さんの遺品ですし、取り戻しておいた方が良いかと思って」
「亜矢さん、真矢さん……ありがとう」
戻ってくるとは思っていなかった遺品に、仁は心から亜矢と真矢に感謝した。もうデータは見られた後だが、そんな事は関係ない。
彼女の手からUSBを受け取りそれを眺める仁は、改めて亜矢と共に部屋を出ようとして…………ふともう一度、手の中にあるUSBを見た。
「仁くん?」
突然立ち止まりUSBを眺める仁に、亜矢が首を傾げる。だが今の仁に彼女の声は届いていなかった。今、仁は頭を高速で回転させていたからだ。
「――――もしかして?」
暫くUSBを眺めていた仁は、小さく呟くと亜矢の手を引き部屋を出ると研究室の一つに飛び込みパソコンにUSBを接続しデータを開いた。
突然の彼の行動に亜矢も真矢も目を白黒させる。
「じ、仁君どうしたの?」
「実は、ずっと気になってたんだ。どうして父さんはデイナドライバーの基礎設計図を、データとして残してたんだろうって。だって、これが見られちゃまずいものだって分かってるなら、残しておかずに消去しちゃえばいいのに」
「それは……新しくデイナドライバーを作る時の事を考えての事じゃないんです?」
「いや、現物を教授に渡してる以上、大体のデータは教授も持ってる筈だ」
確かに、白上教授は自分で二個目のデイナドライバーを作り出していた。それだけのデータを教授に渡しているのなら、司がデータを遺しておく理由はない。
それが危険を冒す形でデータを遺した。それはつまり、司にはUSBを遺す理由が何かあった筈なのだ。
仁がUSBを繋いだパソコンを操作し、データを開こうとした。するとパスワードを求められ、仁は香苗が口にしていたパスワードを入力しようとして……その手を止めた。
「そうか……パスワード」
「仁くん?」
「パスワードだ。父さんが母さんに残したパスワードは、きっと偽のパスワードなんだよ。本当に遺したい何かを開く為のパスワードは、別にある」
「それって一体何なの?」
仁は今までの人生で一番ではないかと言うほどに頭を働かせた。
偽装のパスワードはパンドラ……これはまず間違いなく、パンドラの箱から持ってきたパスワードだろう。
では本当のパスワードは? 考えられるとすれば、パンドラの箱に関わる何かだろう。本当に開けて欲しい相手に、何のヒントも無しのパスワードなど考えない。
とすれば、考えられるパスワードは恐らく希望……ホープと言ったところか。パンドラの箱の中に唯一存在する、残された希望。
――――果たして本当にそれが正解だろうか? もし雄成や、司のデータを悪用しようとした第3者が隠しデータの存在に気付いたら? その者達が、気付けてしまえるようなパスワードは逆に危険ではないか?
「ん~……ん~?」
悩む仁の横顔を心配そうに見つめていた亜矢は、何とはなしに口を開いた。
「仁くんのお父さんは、誰に何を遺したかったんでしょう?」
「――――!!」
何気ない亜矢の一言。それが衝撃となって仁の脳裏に響いた。
希望……最後の希望……仁……遺伝子……父の教え……生命の歴史……進化の歩み……最初の一歩……最初の、希望……
点と点が繋がり線となり、その線が1つの答えを形作っていく。仁はその答えを形にすべく、キーボードを叩きパスワードを入力した。
仁がパソコンに入力したパスワード……それは――――
「――――『East Africa』? 仁君、これって?」
「東アフリカ……アフリカ単一起源説で、一番最初のヒト科の祖先が誕生したとされる場所だよ」
「……あ! ミトコンドリアイブ?」
「そう。ヒトと言う種の最初の一歩、長きに渡る人間の歴史の希望がここから始まったんだ」
呟きながら仁が入力し終えると、パスワードが正解であったことを示すようにデータが開かれた。
「よし」
「仁くん!……やったわね!」
この時ほど、仁は自分の好奇心に感謝した事は無かった。きっと司の事を上辺だけで知る人物には絶対に辿り着く事は無かっただろう。司は生命の歩み、神秘、力強さを信じ、愛していた。それは彼の息子として彼の話を聞いていた仁が誰よりも知っている。だから気付けた。
そもそもにして、パンドラの箱から最後の希望と言う方向に思考を持っていかれる事が引っ掛けだったのだ。
仁がパスワードの正解を当てられた事を亜矢と喜んでいると、何の操作もしていないのにパソコンのディスプレイに変化が起きた。それに気付いた2人がディスプレイを見ていると、1人の男性の映像が映し出された。
それを見て仁が目を見開くと、映像の中の男性が口を開く。
『やぁ。よくこのデータに気付いたね……仁』
「父さん……」
という訳で第60話でした。
リリィとレックスの2人は、洗脳とは少し違いますが自分の意志で戦う事を止められないような処置が施されています。ですので、希美が相手でも容赦しません。
秘密のデータのパスワード、最初は仁の名前の元ネタとなっている遺伝子を意味する英単語のGENEにしようかと思っていたのですが、流石に安直すぎるかと思ってこっちにしました。これはこれで捻り過ぎと言う気がしなくもないですが。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。