仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です!

本日はクリスマスイブという事で、クリスマスプレゼントという訳ではありませんが最新話をお届けです。

今回遂に、デイナが最強フォームとなります。


第61話:十数年越しの親孝行

 パソコンのディスプレイに映し出された映像の中の男性、司はまるでテレビ電話で話でもしているように普通に仁に話し掛けてきた。亜矢はその事に困惑せずにはいられなかったが、仁はそれが自分に宛てたメッセージだと言う事にすぐ気づいた。司は分かっていたのだ。このデータとメッセージを発見できるのが、この世で仁しか居ないと。自分の息子を信じていたのだ。

 

 実に数年ぶりに見る父の顔に、仁は胸に込み上げる物を感じながらそれを飲み込み再生される司の映像に答えた。

 

「――――久しぶりだね、父さん」

『このデータ、見つけられるのは仁しか居ないと信じていたぞ』

「いや、結構危なかったよ。これは流石に答え捻くれ過ぎだって」

 

 ディスプレイに映る司は所詮録画された映像でしかないので、意味はない事だがそれでも仁は文句を口にした。例え仮初、ごっこ遊びの様なものであっても、父と語らうのが楽しくて仕方ないのだ。

 

 映像の中の司は、仁の答えを予想していたのか苦笑を浮かべた。

 

『すまないね。我ながらパンドラの箱からミトコンドリアイブは些かこじ付けが過ぎるんじゃないかと危惧はしていた。だがそれでも仁はこうして見つけてくれた。嬉しいよ、凄く』

「父さんの事はよく分かってるつもりだから。そんな簡単な答えじゃないよなって、気付けたよ」

 

 仁が再生される司の言葉に答えると、司は嬉しそうに笑みを浮かべた。その光景は、司が本当に仁と会話しているように亜矢には見えた。

 

『仁……本当によく、このデータを見つけてくれた。ありがとう……流石、私達の息子だ。誇りに思う』

「~~ッ!!」

 

 優しい笑みと共に紡がれた司の言葉。それは仁が、何よりも欲していた尊敬する父からの称賛の言葉だった。もう絶対に得られることはないと思っていたそれが、例え記録映像越しであったとしても掛けられた事に仁は感極まり柄にもなく涙ぐんでしまった。

 

「ん……うん。頑張ったよ……頑張った。沢山勉強したんだ。沢山……沢山……父さんみたいに、なりたくて――!」

 

 抑えきれず零れ落ちる涙を、隣の亜矢が優しく拭った。仁が報われた事は、彼女にとっても喜ぶべき事だった。

 

 映像の中の司は暫く何も言わず、優しい笑みを浮かべながら仁の事を見ていた。彼が次に口を開いたのは、仁が落ち着いて話を聞けるようになってからだ。

 

『さて、そろそろ本題に入ろう。まずは、仁がこのデータを見ていると言う事は、私はもうこの世には居なくて、しかも雄成先生の計画が最終段階に入ろうとしていると言う事だね?』

「うん。雄成さんは自分でドライバーを作って、自分なりの新人類を作ろうとしてる。いや、もう作ってるかも」

『……本当にすまない。出来る事なら、私が雄成先生を止めたかったのだが、力及ばず仁に全てを託すような事になってしまった』

「気にしないで。父さんの息子だもん。親孝行くらいさせてよ」

 

 仁がそう答えるのが分かっていたかのように、映像の中の司はもう一度謝罪の言葉を口にすると、表情を引き締め話を続けた。

 

『もし仁か、仁の周りの人物がDNAドライバーで変身したとして、その人物は恐らく進化の為の条件を既に満たしている。ただ超万能細胞を肉体に注入しただけの超人とは違う、本当の意味で進化した新人類にだ』

「うん、知ってる。俺も亜矢さんも、もう進化しちゃってるから」

 

 多分これは流石の司も予想していなかっただろう。まさか自分からベクターカートリッジを直挿しして、言われる前に進化しているなど。

 そう考えると、父を出し抜けたような気になって仁はちょっぴり気分が良くなった。

 

『雄成先生の事だから、何らかの形で新人類を作り出すかもしれない。だが、諦めるにはまだ早い。私が設計したドライバーには、それに対抗する力がある』

「でも、デイナでもカラミティ相手には今は手も足も出ないのが現状では? あんまり言いたくはありませんけど、デイナドライバーにカラミティに対抗する力があるとは……」

『重要なのは、DNAドライバーがベクターカートリッジを二つ必要とする事だ』

 

 司の言葉に、仁は自分のデイナドライバーを見た。以前、希美の使うブレイドライバーが遺伝子を3つ使うのは邪道だと調べた仁だが、では何故2つだと大丈夫なのかと言う事に関しては実は答えが出ていなかった。3つでは駄目なのに、2つだと大丈夫な理由とは一体何なのか?

 

『答えは簡単な事だ、仁。本当に進化した種とは、一つの種から生まれ落ちた子孫が繫栄した物の事を言う。つまり、対応する遺伝子2つで漸く進化した種が誕生するんだ』

 

 なるほど確かに、どんな生物でも何も無い所から生まれはしない。生まれ出る為には、進化した種を生み出す番の存在が必要不可欠なのだ。

 よく『卵が先か鶏が先か』と言う話題で議論になるが、この場合重要なのは鶏の存在と言う事になる。卵は何が産んでも良いが、鶏が産まれるのは鶏が産んだ卵。鳩だろうが鷹だろうが、それらが産んだ卵から孵った鶏は所詮突然変異種でしかなく鶏ではない。鶏と呼ばれる為には、世界に出現した鶏の番が産んだ卵でなければダメなのだ。

 

「つまり……デイナにはまだ進化するだけの余地がある?」

「進化って……あれでまだ不完全だったって事ですか!?」

「そう言う事だね。デイナのエヴォリューションフォームは本当のエヴォリューションじゃなかった。本当に進化する為には、同じ種の遺伝子が2つ必要だったんだ」

 

 完全に盲点だった。エヴォリューションになる組み合わせが異なる生物種同士だったから、ドライバーの能力はそれだと完全に思い込まされていた。いや、これこそが司の戦略だったのかもしれない。雄成が後々ドライバーをコピーして悪用した時、その能力を十全に使いこなせない様にする為に。

 

『仁、もしお前か、お前の知る誰かが進化できるのであれば……辛いかもしれないが、進化を促してほしい。雄成先生を止めるには、それしか手が無い。辛い運命を背負わせることになるのは承知の上だが、雄成先生は止めなくてはならないんだ。だから――!?』

 

 映像の中で司は本当に辛そうに拳を握り、爪が手の平に食い込んで血が滲み出ている。こんな事を仁に託さなければならない事が、心底辛いのだろう事は容易に想像できた。誰かに辛い運命を背負わせるか、1人の悪行を許すか。どちらかを選ばなければならないのなら、選ぶべきは前者しかない。

 それがどれだけ残酷な事かは、司自身が分かっていたのだろう。本当であれば、彼が新人類に進化して1人で全てを背負うつもりだったのかもしれない。だがそれをするには、全てが遅すぎた。

 だから託したのだ。それしか方法が無かったから。

 

「……大丈夫。俺は、父さんの事を恨まないよ。だから安心して」

 

 映像の中で咽び泣く司に仁は穏やかに語り掛ける。その隣では、亜矢も頷いている。

 

 どれ程そうしていたか、落ち着いた司は顔を上げて話を続けた。

 

『すまない、待たせた……。話を戻すが、DNAドライバーの使用者が進化すればその影響を最も受けるベクターカートリッジが一つある。ヒューマンベクターカートリッジだ』

「……そうか、ヒューマンベクターカートリッジはドライバーの使用者の遺伝子情報の影響を受ける。つまりこれは今、俺の影響で新人類のベクターカートリッジになってるのか」

 

 思えば何故態々ヒューマンベクターカートリッジがあるのか、仁も不思議でならなかったがそれが新人類のベクターカートリッジを作る為であるなら納得できた。つまりデイナドライバーとは、仮面ライダーに変身するツールであると同時に新人類のベクターカートリッジを自然に精製できる装置でもあったのだ。

 

『新人類に覚醒した者がヒューマンベクターカートリッジを使用する事で、新人類のベクターカートリッジは完成する。後はそれにもう一つ、対となるヒューマンベクターカートリッジを用意すればいいだけの話だ』

 

 そこまで司が言うとディスプレイからは司の顔が消え、代わりにベクターカートリッジの設計図が表示された。

 

『仁、これがヒューマンベクターカートリッジの設計図だ。これに進化した人物のとは異なる人物の遺伝子を読み込ませろ。できれば、異性の物が好ましい。相手が進化していなくても、人間であれば十分だ。ドライバーを長期使用して進化した新人類の遺伝子であれば、ただの人間の遺伝子には負けない。人間2人分の遺伝子があれば、仮面ライダーは完全な進化を遂げる事が出来る』

 

 再び司の顔がディスプレイに映し出された。その表情は暗く、悔いるように顔を俯けていた。

 

『こんな事をお前に託してしまって、本当にすまないと思っている。だが頼む! 雄成先生を止めてくれ!? こんな事を私が頼めるのは、世界でただ1人、仁しか居ないんだ…………頼む』

「分かった……任せて。俺が絶対、雄成さんを止めてみせるから」

『本当にすまない、仁。香苗にも、宜しく伝えておいてくれ。…………2人共、愛している』

 

 映像はそこで途切れ、後にはヒューマンベクターカートリッジの設計図だけが残された。仁は顔を手で覆い、背凭れに体重を預け天井を仰ぎ見た。

 

「仁くん……」

「ん……俺は大丈夫だよ。大丈夫……」

 

 暫しそうしていた仁は、目元の涙を拭うとUSBをパソコンから引き抜き別の研究室へと入っていった。

 ここがベクターカートリッジの研究開発を行う施設であるなら、必ずあると確信している部屋がある。ベクターカートリッジの精製を行う部屋だ。主な生産は上層階で行われるのだろうが、試験目的でベクターカートリッジを精製する為の部屋が地下にも必ずある筈だった。

 

 それは直ぐに見つかった。この騒ぎで研究員が逃げ出したのか、もぬけの殻となった研究室の中央にそれは鎮座していた。

 

「装置は……よし、使える。亜矢さん、これ」

 

 仁は亜矢に、彼女の分のデイナドライバーを渡した。彼女を助け出すに当たり、きっと必要になるだろうと持ってきていたのだ。

 ドライバーと同時に渡されたのはキャットベクターカートリッジ。だが何時も彼女が変身する際には一緒にある筈の、ユナイトキャットが渡されなかった。

 

 真矢はそれだけで仁が何をしようとしているのかピンときた。

 

「やるのね、仁君?」

「うん。俺にとっては、これが一番だと思うから。でも真矢さんが嫌だって言うなら……」

「そんな事、言う筈ないじゃない。……私達はどこまでも付き合いますよ、仁くん」

「……ありがと」

 

 自分を信じてくれる亜矢と真矢に、仁は優しくキスをすると装置の横の端末を操作し始めた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、ハザード4のカラミティを足止めすべく奮闘しているヘテロは窮地に立たされていた。

 

「くぅッ!? 何で……何であなた達が――――!?」

 

 ヘテロは目の前に立ち塞がる、トクシックファッジとリキッドファッジ……リリィとレックスに苦戦を強いられていた。

 

「リリィ! レックス! 私よ、希美よ! 私の事が分からないの!!」

「ウグッ!? グゥゥゥゥゥゥゥッ!?」

「ガァァァァァァァァッ!?」

「リリィッ!? レックス!?」

 

「無駄さ。この2人には超万能細胞で私に対する服従遺伝子を仕込んである。私の声以外は聞こえないよ」

 

 必死に声をかけるが、2体のファッジは苦しそうな声を上げながらヘテロに襲い掛かってくる。ヘテロは何とかテイルバスターで2人の攻撃を防ぐが、実態のあるトクシックファッジはともかく液状化できるリキッドファッジは防ぐ事が出来ず翻弄されていた。

 そしてリキッドファッジに翻弄されて体勢が崩されると、そこを狙ってトクシックファッジの尾の毒針がヘテロを襲う。

 

「ぐぅあっ?!」

 

 注入される猛毒の激痛がヘテロを苛む。が、強化改造された彼女の体は体を腐食されながらも再生をしているので死に至る事はない。至る事はないが、その苦痛は彼女から自由を容易に奪った。

 

「が、はぁ……」

 

 激痛に次ぐ激痛、疲労と負傷で限界を迎えたヘテロは遂に倒れて動かなくなる。そして変身が解除された彼女の首を、カラミティが掴んで持ち上げた。

 

「ふむ……まぁ粘った方だがね、これが君の限界か」

「こ、の……卑怯、者。……あの子達、を……無理矢理、従わせるなんて……」

 

 自分の首を掴むカラミティに吐き捨て、希美はトクシックファッジ達を見た。2体のファッジはフラフラと体を揺らし、まるで夢遊病の患者の様だ。

 

「ウ、ウゥゥゥ……アァァァァ……」

「アァァァァァ……ノゾ、ミ。ノゾミィィィィ……」

 

 2人は時折、苦しそうな声を上げたり魘されるように希美の名を呼んだ。遺伝子と言う抗い様の無い鎖で繋がれていても、心は希美に手を上げる事を拒んでいるのだ。ファッジなので表情は分からないが、きっと2人の素顔は共に苦しそうに涙を流しているに違いない。

 

 人の心を捻じ曲げて戦わせるカラミティに改めて怒りを抱いたが、もう希美に抵抗するだけの力はない。カラミティが乱暴に放り捨てても、受け身1つ取れず床に叩き付けられ転がっていった。

 

「がっ?! ぅあ、あぁ……」

「さぁ、もう十分だ。始末しろ。何、どうせまた生き返る」

 

 背を向けて離れて行くカラミティと入れ違いになるように、2体のファッジが希美に近付いていく。希美がファッジ達の事を見ると、2体は彼女に近付きながら何処か抵抗するような素振りを見せた。

 

「ア、アァァ……イ、イヤ……イヤダァァァ」

「コ、コロシテ……ダレカ、コロシテ、クレェェェ」

 

 僅かに残された心が希美を手に掛ける事を拒み、自らの死を望んでいる。そんな2人が痛々しくて、希美は涙を流した。

 

「おね、がい……もう……もう止めさせて……」

 

 これ以上、2人が辛そうにしているのは見たくない。自分はどうなっても良いから、せめて2人だけは助けて欲しい。希美は心からそれを願った。

 

「お願い!? もう止めさせて!? 私の事は好きにしていいから! だから――!?」

 

「――――殺したまえ」

 

「ア、アァァァァァァァ!!」

「ヌゥァァァァァァァァァ!?」

 

 容赦のないカラミティの命令に、抗う事が出来ず手を振り上げる2体のファッジ。希美は自らに振り下ろされるそれを涙を流して見つめ――――

 

「――――ハッ!!」

 

 それが突如横から飛び込んできた人物により弾かれた。突然の事に希美は目を見開き、カラミティも素早く振り返りその相手を目にした。

 

「君は……」

「デイナ?」

 

 それは一見デイナに見えるが、しかし今までにない見た目のデイナだった。いや、デイナと言うよりはルーナに近い。ルーナよりは装甲が分厚く見え、両腕には強化された頃のルーナが付けていたアームブレードがある。だがドライバーを見ると、ユナイトキャットやアダプトキャットは付いておらずベクターカートリッジが2つ装填されているのが見えた。

 

 あれは一体何なのか? その疑問の答えは、謎のライダーの後に姿を現した仁が教えてくれた。

 

「亜矢さん、どう?」

「大丈夫です。問題ありません!」

「は? え? あれって、双星なの?」

「そうだよ。あれは亜矢さんが変身した、『仮面ライダールーナ・キャットヒューマンフォーム』ってところかな」

 

 元々アダプトキャットやユナイトキャットを亜矢が変身に使ったのは、使えるベクターカートリッジが無かったからだ。逆に言えば、使えるベクターカートリッジさえあるならば、ルーナだってゲノムチェンジが出来た。

 

 ルーナは希美に襲い掛かろうとしていた2体のファッジを、素早い動きで翻弄し両腕のアームブレードで何度も斬りつける。

 それを見て希美は慌てて攻撃を止めさせた。

 

「待って!? 待ってお願いよ!! そのファッジ達はリリィとレックスなの!?」

「え!?」

「服従遺伝子で無理矢理戦わされているだけなのよ、だから――――!?」

 

 希美がルーナを止めようとする間も、トクシックファッジ達はルーナに攻撃を仕掛ける。ルーナはそれを弾き、素早い身のこなしで蹴り飛ばし2人を押し返し距離を離した。

 

 ファッジ2体を引き下がらせたルーナは、それ以上追撃をしないどころか引き下がるとそれだけに留まらず仁の傍まで下がった。

 

 一体何を考えているのかと希美が見ていると、ルーナはドライバーからベクターカートリッジを引き抜き変身を解除した。

 

「――――うん。仁くん、どうですか?」

「…………行ける。これなら……ありがとう、亜矢さん真矢さん」

「うん。後は任せたわよ、仁君」

 

 亜矢と真矢から想いを託され、力強く頷き返す仁。彼は自分のデイナドライバーを腰に装着すると、ベクターカートリッジを2つ手に持って前に出た。一つは自分が以前から使っていたヒューマンベクターカートリッジ。そしてもう一つは、たった今亜矢から受け取ったヒューマンベクターカートリッジだ。

 

 2つのヒューマンベクターカートリッジを手に、仁は2体のファッジの前に立ちはだかる。

 

「……何をするつもりだ?」

 

 カラミティは本能的にただならぬ何かを感じた。具体的に何かは分からないが、自分にとってヤバい何かだと言う事が分かる。

 何かしなければならないとは思うのだが、体は動かない。危険と分かっていながらも、仁が何をしてくれるのかを知りたがってしまったのだ。研究者の性として、未知に対しての好奇心を抑えきれなかった。

 

 見つめるカラミティの前で、仁はベクターカートリッジ2つを起動させた。

 

「雄成さん……アンタは俺が止める。父さんが出来なかった事を、俺がやり遂げてみせる。それが俺に出来る、父さんに対する親孝行だ」

〈HUMAN〉〈HUMAN〉

 

「同じベクターカートリッジを?」

 

 同種のベクターカートリッジを使用する事に首を傾げるカラミティ。この後彼が仮面の奥でどんな顔をするだろうと思い浮かべ、仁は薄く笑みを浮かべながらカートリッジをドライバーに装填した。

 

〈HUMAN + HUMAN Beyond evolution〉

「さて……検証の時間だ。変身!」

〈Break down the wall of evolution. Reach the NEW GENERATION. Open the door〉

 

 セントラルドグマから飛び出したスーパーコイルは、2つに分かれ仁の周りを囲む。白い光の螺旋の中に囚われた仁は、光量を増したスーパーコイルの光の中に消え見えなくなるが、それは本当に一瞬の事。次の瞬間には光は弾けるように消え、そこには新たな姿となったデイナが佇んでいた。

 

 ベースはネイキッドフォームのデイナだが、顎から額に掛けては金と銀の遺伝子の様な二重らせん模様が額に向って登っていき、額で2つに分かれている。

 アンダースーツは青く、新たに装着されている装甲は緑色でスッキリとしたシンプルなもの。

 首には白いマフラーが2枚巻かれ、変身の際の衝撃で螺旋を描くように舞い上がっていた。

 

「そ、その姿は――――!?」

「これが、進化したデイナだよ。父さんが遺してくれた、本当の進化」

 

 これこそがデイナ・ニュージェネレーションフォーム。激動の時代を生き抜く、新世代のデイナだ。

 

 まだ拳すら交えていないが、相対しただけでカラミティは分かってしまった。あれは自分に比肩する力を持つ存在だと。

 

 カラミティはいち早くニュージェネレーションフォームの力に気付いたが、ファッジ2体はそうではなかった。彼らが下された命令は、カラミティに敵対する存在への攻撃だ。例えカラミティに匹敵する力を持つ存在であろうとも、立ち塞がるのであれば戦わずにはいられない。

 

「ガァァァァァッ!」

「シャァァァァッ!」

 

「ッ!? 待って、あの2人は!」

「分かってる」

 

 希美は何も知らないだろうデイナを制止しようとしたが、デイナは短く答えるとファッジ達の攻撃を軽く弾いてみせた。

 トクシックファッジの爪や牙、尾による攻撃は視認するのも難しい速度だが、今のデイナには手に取るように分かる。軽く体を動かすだけで回避した。

 一方で、体を液状化させたリキッドファッジが纏わり付きデイナを拘束する。デイナの全身を包むようにして纏わり付くと、一時的にだがデイナの動きが止められた。

 

 そこにトクシックファッジの毒針が炸裂する。鋭い毒針がデイナの腕に突き刺さり、猛毒を彼の中に注入した。

 

 その瞬間、デイナは新たに獲得した能力を発動させた。

 

(これは……複数種の神経毒とタンパク質毒の混合毒。……成分を分析……抗体及び血清を生成……完了)

 

 デイナの進化した細胞は受けた毒を即座に分析し、それぞれに対応した抗体や血清を体内で生成しあっと言う間に無毒化させ更に毒により一時的に破壊された細胞の再生まで終わらせてしまった。この間、数秒も経ってはいない。

 同時に身体に纏わり付いているリキッドファッジへの対処も行った。全身から滑りを良くするワックスを分泌し、リキッドファッジを滑らせて拘束から逃れたのだ。

 

 デイナに纏わり付く事が出来なくなり、トクシックファッジの隣に逃げるように移動し形を戻す。リキッドファッジが隣に来ると、毒が全く通用していない事に気付いたトクシックファッジも毒針を引き抜きリキッドファッジと共にデイナから距離を取る。

 その視線は明らかに困惑していた。

 

 困惑しているのはカラミティも同様だった。

 

「何だ? 何が起こっている?」

 

 進化したデイナ・ニュージェネレーションフォームは超万能細胞を持つ新人類の能力を限界まで引き上げたものとなっている。

 即ち、様々な状況への適応能力だ。

 

 もう毒に身体が侵されれば即座にそれを無毒化し耐性を持つようになるし、体に付着した異物を落としやすくする為全身に滑りの良いワックスを分泌する能力を発現させる。状況に合わせて即座に新たな形質を作り出し、それで順次適応していく事が出来るのがこの姿の力であった。

 

 そしてこの進化したデイナの力はそれだけではない。

 

「ほっ、はっ」

 

 手始めにデイナは2体のファッジに軽く攻撃を仕掛ける。軽くと言っても、その一撃はドラゴンライフに匹敵するか超える程の力なので、2体は一撃で吹き飛ばされ床に倒された。

 

「そこか……」

 

 今の一撃でデイナは、それぞれのファッジの体内にある制御装置を見つけ出した。目的の物を見つけた彼は、レセプタースロットルを1回引いた。

 

〈ATP Burst〉

 

「待って、何を――!?」

「大丈夫です。……仁君を信じて」

 

 明らかに必殺技を放とうとしているデイナを見て、希美が慌てて制止しようとするがそれを亜矢と真矢が宥めた。

 

 デイナはATPバーストを行うと、両腕にエネルギーをチャージしてトクシックファッジ達に接近。攻撃の射程に入ると、躊躇なくその拳をファッジ達に突き刺した。

 

「ガァッ?!」

「ゴァッ!?」

「あぁっ!?」

 

 揶揄でも何でもなく、デイナがファッジ達の体内に腕を突っ込んだのを見て希美が悲鳴を上げるが、彼はそれを無視してファッジ達の体内に突っ込んだ腕を引っこ抜いた。引っこ抜いた彼の手の中には、彼らに埋め込まれていた制御装置が握られている。

 デイナがそれを握り潰すと同時に、ファッジ達は倒れ元の姿に戻った。希美は慌てて倒れた2人に駆け寄る。

 

「リリィ、レックス!」

 

 希美は2人に近付いて驚いた。先程デイナに腕を突き刺されていた筈なのに、2人の身体には傷一つない。それどころか、前よりも血色が良くなっているように見える。

 

「大丈夫。こっちから細胞に働きかけて、傷を直ぐに回復させたから。それと、遺伝子を大分めちゃめちゃに弄られてるみたいだったから、それも落ち着くように調整しておいたよ」

「は? あ、アンタ、そんな事出来るようになったの?」

「超万能細胞がある人限定だけどね。この2人は、実験の影響で全身に超万能細胞があるからここまでの事が出来ただけだよ」

 

 だけとは言うが、とんでもないことに変わりはない。早い話が今のデイナには、超万能細胞に対する支配権の様なものがあると言う事だ。それはつまり、ファッジは勿論ベクターカートリッジを使っているカラミティ相手にさえ、高い優位を手に入れたと言う事。

 言うまでもない事だが、この能力を十全に使いこなす為には相応の頭脳が必要だ。先程必要な形質を自身の中に発現させた時もそうだが、今のデイナは仁だから使えるのであって仮に他の人間がこのデイナになっても能力を遺憾なく発揮する事は難しいだろう。

 

「ん、んん……?」

「ここは……」

 

 そうこうしていると、リリィとレックスの2人が目を覚ました。希美は2人が目を覚ましたのを見ると、目に涙を浮かべて抱き上げた。

 

「リリィ、レックス! 2人共、大丈夫?」

「の、ノゾミ! ノゾミ!!」

「俺達、俺達……ゴメン!」

「いいのよ、2人が無事で……」

 

 友に涙を流して抱きしめ合う3人を、デイナが仮面の奥から微笑ましく見ている。

 

 だがその顔も、直ぐに引き締まった。まだ倒すべき敵がすぐそこに居るからだ。

 

「いやはや、これは本当に驚かされた。同じベクターカートリッジを2つ使うと言うのは盲点だったよ」

「俺も、父さんに教えてもらって初めて気づいたけどね」

「司君に? どう言う事だい?」

「秘密」

 

 話しながらも、デイナとカラミティは互いに身構え相手の隙を伺っていた。カラミティの強さを知るデイナは勿論、今のデイナの力を警戒しているカラミティも油断なく構えていた。デイナは希美達を巻き込まないようにゆっくりと歩きカラミティもそれに続く。

 先程までの余裕など既に捨てている。それだけの相手と、今のデイナを認めたのだ。

 

「ふふふっ、やはり君はとても興味深い。どうだね? 今からでも私の元へ来ないか?」

「分かり切った事を聞くの?」

「それもそうか……」

 

 不意に、2人が同時に足を止めた。足だけではない、動きをその物を完全に止めていた。

 

 まるで西部劇のガンマンが抜き打ちをしようとしているシーンのような緊張感に、亜矢は勿論希美達も固唾を飲んで見守る。

 

 そして、何処からか何かが爆発するような音が響いた瞬間――――

 

「ハッ」

「ぬあっ!」

 

 2人は同時に動き、正面から拳と拳をぶつけ合った。




という訳で第61話でした。

今回より登場したデイナの最強形態、その名もニュージェネレーションフォーム。能力は端的に言えば状況に合わせて望むままの能力を自力で得られると言ったところでしょうか。能力的には完全生命体のカーズが近いかもしれません。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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