仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回からは完結まで向けて連続更新となる予定です。頑張れば年内に終われるはず。


第63話:聖夜を越えて

 傘木社の崩壊……それは衝撃となって世間を駆け抜けた。当然だろう。株価暴落とかそういう次元ではなく、本社ビルが物理的に崩壊したのだから。

 

 だがそれ以上に人々が衝撃を受けたのは、警察によって暴露された傘木社の裏の活動を知った時だ。

 

 白上教授と拓郎の手により暴かれた数々の不正のデータ、そして短い時間ながらS.B.C.T.により集められた物的証拠により明らかとなった、傘木社により行われていた非道な人体実験の数々。

 これらにより傘木社は株価が大暴落。生き残った重役は軒並み逮捕され、裁判にかけられることとなった。

 

 世界的な製薬会社である傘木社は、これにより完全に社会的に死を迎える事となるのだ。その事に身内が直接の被害者である峰などは安堵した。これで兄がこれ以上危険に晒されることは絶対に無いと。

 

 だがその一方で、仁はまだ全てが終わっていないことを察していた。

 

 崩壊した傘木社本社ビルを調べたが、雄成の遺体が見つからなかったのだ。場所が地下だったこともあり捜査は難航したが、確認できた限りでは雄成やアデニンなど傘木社の裏に深く関わっていた人間の死は確認できなかった。

 つまり、彼らはまだ生きていて、そして何かを諦めていない。

 

 それを証明する様に、あの日ビルが崩壊する寸前、屋上から大型ヘリが飛び立つのと地下駐車場から数台の大型トラックが出ていくのを何人もの人々が目撃していた。

 この事からも、雄成がまだ何かをやろうとしていることは想像するに難くない。

 

 現在、宗吾達S.B.C.T.が中心となってヘリとトラックの行方を捜索している真っ最中だった。

 

 一方、大きな戦いを一つ終えた仮面ライダー達は、束の間とは言え平和な日常に戻っていた。仁は亜矢を取り戻し、希美もリリィとレックスを傘木社の鎖から解き放った。

 

 希美に関してだが、当初希美は戦いが終わった後身柄をS.B.C.T.に預けようとしていた。彼女は自分がこれまで犯してきた罪を償おうとしていたのだ。

 

 だがそれに待ったを掛けたのがリリィとレックスの2人だった。2人にとって希美は恩人であり、血の繋がりはないが姉のような存在。その彼女が警察に捕まるというのが、2人にはどうしても納得できなかった。

 

「お願い! ノゾミは、ノゾミは許してあげて! ノゾミが居なくなったら私は――!?」

「頼むよ!? ノゾミを捕まえるんなら俺達も捕まえてくれ!? 俺達からノゾミを離さないでくれ!!」

「あなた達ね……そんな我儘言うんじゃないの。これは大事な事よ。私は2人と違って、幾つもの悪事に手を染めてきたの。それは償わなきゃならないんだから」

「でも……だって――!?」

 

 リリィ達は子供だが、決して頭は悪くない。なので希美の言いたい事も分かる。だがそれでも、自分達の恩人が一方的に逮捕されると言うのは心が納得してくれなかった。

 

 ごねるリリィとレックスには希美は勿論、宗吾もどうするべきかと悩んだ。今回の傘木社強制捜査には希美も少なからず尽力してくれた。それだけで帳消しになるほど希美の罪は軽いものではないが、さりとて涙を流すほど希美の事を思う少年少女の気持ちを踏み躙るのも……。

 

「権藤さん、どうするの?」

「ん~~~~……」

 

 悩みに悩んだ末に、宗吾は保護観察と言う名目で希美の身柄はS.B.C.T.で預かる事にし、常に自由にという事はしないが刑務所に送ることも見送った。週に何回かはリリィ達と共に過ごせる時間を設ける代わりに、有事の際にはS.B.C.T.と共に戦力として事態解決に尽力することを約束させた。

 

 正直、宗吾自身もかなり甘い決断だとは思う。だが見方を変えれば希美も被害者だ。改造により精神を歪められ戦わされた、希美をその他の犯罪者と同じように扱う事は気が引けた。

 

 こうして希美は週の中で限られた期間だけだが、リリィとレックスの2人と共に平穏に過ごせるようになった。

 因みにそのリリィ達だが、この2人は完全に傘木社により戦いを強制されていたので罪を問われる様なことにはならない。当然だ、2人は被害者なのだから。

 

 そんな感じで諸々の事後処理を終え、仁と亜矢も平和な日常を満喫していた。

 

 そう、あの戦いから数日経ち、今はクリスマスだ。仁は自宅で亜矢と共に穏やかなクリスマスを過ごす。2人でクリスマスのご馳走を囲み、ケーキまで食べて満足したところでお待ちかねと言えるプレゼント交換。

 

「仁くん、はいこれ。……私達からのクリスマスプレゼントよ」

「ありがとう。開けてもいい?」

「勿論」

 

 亜矢と真矢に許可を取り、受け取った紙袋を開けると中にはシルバーのアクセサリーが入っていた。シンプルな作りのブレスレットだ。

 

「仁くんはもうちょっと着飾ってもいいと思うんです。……きっとその方がカッコいいわよ」

「そう?……どうかな?」

 

 言われて仁は、さっそくブレスレットを右手に着けてみた。決して大きな変化ではないが、それでも仁が少しでも着飾ると見栄えが良くなる。

 

「うん! よく似合ってます!」

「ありがと。それじゃ、俺からは……はいこれ」

 

 今度は仁から亜矢へのプレゼント。渡したのは包装された小箱だ。

 中身は……言うまでもない。

 

「これ……開けても?」

「うん、いいよ。開けてみて」

 

 大きさと重さから、中身に薄々感づき僅かに声を震わせながら亜矢が訊ねると仁は薄く笑みを浮かべながら頷いた。

 

 期待を胸に亜矢が包装を破くと、中には見たことのある小箱があった。震える手で小箱を開けると、中には指輪が入っていた。

 

「仁くん、これ――」

 

 亜矢が顔を上げると、気付けば仁は席を立ち亜矢の傍に居た。彼は嬉しさに目を潤ませた亜矢の手を優しくとると、床に膝をつき口を開いた。

 

「まだ卒業前で早いかもしれないけど……亜矢さん、真矢さん。俺と結婚してほしい。もちろん卒業してからで良いから……」

 

 仁が緊張に顔を僅かに強張らせながらプロポーズを口にすると、亜矢の頬が朱に染まると同時に両目から歓喜の涙が零れ落ちた。嬉しくて嬉しくて、答えを口にしたいのに口が思うように動いてくれず何度も頷くしかできない。

 亜矢が満足に答えられないので、代わりに真矢が表に出てきて答えを口にする。こちらも感激で言葉が上手く出てこないが、それでも亜矢よりは答えを口にするだけの精神的余裕があった。

 

「うん……うん! 勿論、私も亜矢も……喜んで!」

 

 ポロポロと涙を流しながら答える真矢に、仁は小さく笑みを浮かべると小箱から指輪を取り彼女の左手の薬指に嵌めた。サイズはぴったり、シンプルな銀の指輪が彼女の左手で輝きを放つ。

 亜矢は左手薬指に嵌った指輪を愛おしそうに撫でた。

 

 まだ亜矢の目からは涙が零れている。仁は亜矢を優しく見つめると、彼女の頬を流れる涙をそっと拭った。

 

「亜矢さん、真矢さん……愛してるよ」

「私も……私達もです、仁くん。……仁君、大好き」

 

 再び目から一筋の涙を流しながら笑みを浮かべて答える亜矢に、仁は彼女の髪を梳く様に優しく撫でると顔を近付ける。それに応えるように亜矢も目を瞑りながら仁に顔を近付け、2人の唇が触れ合った。

 

 2人が口付けをしている部屋の外では、夜の空から2人の仲を祝福する様に白い雪が降っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、仁達の部屋があるのとは別のマンションの一室では、希美がリリィ、レックスの2人と和やかなクリスマスを過ごしていた。

 

 こちらは仁達と違って(主に希美が)よく食べるので、とにかく3人でたくさんの料理を用意した。

 

 リリィとレックスにとっては人生で初めての自分の手による料理。希美にいろいろと教わりながらの料理は、大変ではあったがそれはそれで楽しかった。

 時に失敗しながらの料理に、リリィもレックスも心から笑い、そんな2人の笑顔に希美も穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 漸く傘木社の呪縛からの解放。もう体の中には実験動物の証である制御装置も隠蔽装置もない。今の3人は自由の身だった。

 

 心から自由を満喫し、何者に縛られることもなく互いに笑い合う。例え料理は多少不格好でも、この日の料理は傘木社の社員食堂で食べる料理の何倍も美味に感じられた。

 

 他愛ない話で盛り上がり、笑い合い、楽しんだ3人。

 

 そして楽しい夕食を終え、食器を片付けて一息ついた時、希美は2人に用意しておいたクリスマスプレゼントを渡した。

 

「ほら、2人とも。クリスマスプレゼントよ」

「ほ、ホント!!」

「ノゾミ、何時の間に!」

 

 ある程度の自由が約束された時、希美はこの時の為に2人に向けたクリスマスプレゼントを用意していた。今まで籠の中のモルモットだった2人にも、今後は人並みの幸せを味わってもらいたい。それが、自分の心を救ってくれたことに対する希美なりの感謝の印でもあった。

 

「開けていい?」

「悪い理由がある?」

 

 リリィとレックスは渡された袋を開ける。小さかった頃以来の久し振りのクリスマスプレゼント。2人は悦び逸る気持ちを抑えながら、中身を取り出した。

 

 渡されたプレゼントは、リリィが星形の髪飾りでレックスが同じく星形のネックレスであった。

 決して高価なものではないが、さりとて安物ではない。しっかりとした作りのアクセサリーに、2人は互いに顔を見合わせ輝く笑みを浮かべながら希美に感謝した。

 

「ノゾミ、ありがとう!」

「これ、着けてみていいか?」

「良いわよ」

 

 希美は2人に渡したアクセサリーをそれぞれに着けてやる。リリィの髪には髪飾りをつけてやり、レックスにはネックレスを掛けてやった。

 2人は互いに希美からのプレゼントを身に着けた姿を見て、ついで希美に抱き着いた。

 

「ノゾミ!」

「これ、大事にするよ!」

 

 2人は希美にギュッと抱き着き、希美は2人を優しく抱きしめた。

 

 その顔は傘木社のライダーとして戦っていた頃からは想像もできないほどの穏やかな顔となっており、ともすれば慈愛すら感じさせるものとなっているのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 皆がそれぞれ平和なクリスマスを過ごし、年明けまであと僅かとなった日。

 

 仁と亜矢、白上教授達は宗吾から警視庁に呼ばれていた。

 

「ん、到着っと」

「ふぅ……あ、警視庁直ってきてますね」

 

 久しぶりに見た警視庁は、以前カラミティの襲撃があったころに比べると窓などが軒並み綺麗になっており復旧が進んでいるのが見て取れた。あれからそんなに長いとは言えない期間しか経っていないにも拘らずここまで復旧した事に、仁と亜矢が感心しながら見上げていると横から声を掛けられた。

 

「あら、お二人さん。お早い到着ね」

「ん? あ、志村さん」

 

 声を掛けてきたのは希美だった。手を上げながら近づいてきた彼女に、仁と亜矢も手を振り返す。

 

 その際仁は右手を上げたのだが、亜矢が上げたのは左手だった。そしてこの時、亜矢は手袋をしていなかった。

 なので手を上げた瞬間、彼女の左手薬指に嵌った指輪がキラリと光ったのが希美の目に映る事となった。

 

「ん? 双星、それ……」

「え? あっ、えと……はい」

 

 多くは語らず、ただ仁に寄り添う亜矢と彼女の肩を抱く仁の姿に、希美も野暮なことは言わないでおいた。

 

「まぁ、何。おめでとうって言っといてあげるわ」

「どうも……」

「あの2人は元気?」

「えぇ。傘木社から解放された事もそうだけど、細胞を安定させてくれたことが何よりも大きかったみたい。本当、ありがとう」

 

 希美の感謝に、仁が気にするなと手を振ると駐車場に車を停めた白上教授もやってきた。

 これで漸く宗吾に呼ばれた者が全員集まった事になる。それでは早速宗吾の所へ行こうと足を警視庁に向けて踏み出した時、警視庁から慎司が出てきた。

 

「皆さん、今日は足を運んでくださりありがとうございます」

「気にしないでください」

「それより今日呼んだのって、やっぱり?」

「はい。傘木社残党の足取りが掴めました。詳しい事は、権藤隊長の口から。さ、こちらへ」

 

 慎司の案内で警視庁内を進む仁達が通されたのは会議室の一つ。そこには既に宗吾が茜と共に仁達を待っていた。

 

 仁達が会議室に入ると、宗吾は彼らに手を上げた。

 

「やぁ、門司君に双星さん。それに白上教授に、志村 希美。よく来てくれた」

「久しぶりだね、権藤さん。元気そうで良かったよ」

「あまり無理はしないでくださいね」

 

 仁と亜矢の気遣いに、苦笑しながらも宗吾は彼らを椅子に促した。

 全員が椅子に座ったのを見ると、宗吾は早速本題を切り出した。そう、雄成達傘木社残党の足取りを。

 

「皆、改めてよく来てくれた。今日皆を呼んだのは他でもない。あの日、傘木社崩壊の際に逃げ出した残党の行方が判明した」

 

 茜が手元のノートパソコンを操作すると、前方のスクリーンに地図が表示され傘木社があった場所から赤い矢印が伸びていった。矢印は途中でいくつかに枝分かれしている。どうやら逃げ出したトラックはバラバラに逃げて捜索を攪乱しようとしたらしい。

 

「捜査はやや難航しましたが、様々な目撃情報から統合してヘリとトラックの逃走経路はこの様になります。複数のトラックは一度バラバラに移動しましたが、最終的にはここに……」

 

 その言葉と共にスクリーン上では複数の矢印がある一転に集まっていく様子が映っていた。どうやら逃げた連中はあそこに集まったらしい。

 

「あそこは……富士山麓?」

「青木ヶ原樹海、か」

 

 白上教授の言う通り、傘木社残党が向かったのは富士山麓の青木ヶ原樹海であった。トラックやヘリはそこに集まっている。

 

 残党が青木ヶ原樹海に集結しているところまでを仁達に知らせた宗吾は、ここで視線を希美に向け問い掛けた。

 

「お前、傘木社の幹部だったんだろ? ここに何があるのか知らないか?」

「ちょっと待って…………あ、そうね。確かあそこにも秘密の研究所があった筈よ」

「ん?……その言い方、志村さんは行ったことないの?」

「……そうね。その研究所はアデニンの管轄で、一部の研究員以外は誰も行った事がないわ。私も含めてね。だから、そこで何の研究をしてたかなんて事は知らないの。ごめんなさいね」

「いや、いい。それより、その研究所について他に何か分かる事はないか?」

 

 これ以上ろくな情報も出せないなんて無様を晒したくはないので、希美は真剣に考え何かなかったかと記憶を絞り出す。

 そして思い出した。その研究所は浄水場に偽装されている事を。

 

「あ、一個思い出したことがあるわ」

「何だ?」

「そこ……に、限らないけれど、秘密の研究所は大体何かの施設に偽装されてるのよ。そこだったら確か、浄水場だった筈よ」

 

 希美の情報を確認する為、宗吾が茜に視線で調べるよう指示を出した。即座に茜が検索を掛け、青木ヶ原樹海に浄水場が存在する事を確認した。

 

「ありました。確かに公には、青木ヶ原樹海に浄水場があると……」

「小早川、水道局に連絡を取れ」

「了解」

 

 浄水場は国営の施設だ。それが一企業の隠れ蓑になっているとなれば、国の中枢にまで傘木社の手が及んでいることになる。以前であれば傘木社はその力に物を言わせて国の機関の一つである水道局を黙らせるなりしていたのであろうが、権力が地に落ちた今であれば水道局の口を割らせることなど容易い。

 

 案の定水道局からはすぐに返答が来た。

 曰く、件の青木ヶ原樹海に設けられた浄水場の建設には傘木社が多大に関わっていると。

 

「決まりだな。あの残党はここに逃げ込んだんだ」

「でも何でこんなところの研究所に? ここでやってる研究って何なんでしょうか?」

「志村さん、何か知らない?」

「ごめん、さっきも言った通りこの研究所はアデニンの管轄で、私は存在を知ってるだけでノータッチだったのよ。だからここで何をやってたかは私も知らないわ」

 

 流石にそんな簡単にはいかないかと、室内が若干の諦めムードになった。その時、仁がある事を思い出した。

 

「……そう言えば、この間アデニンが俺をスカウトしに来た時気になる事を言ってたな」

「スカウト!?」

「仁くん! 私それ初耳なんですけど!?」

「ゴメン、凄くどうでもいい事だったから今の今まで忘れてた」

「まぁまぁ。こうしてここに居るんだからいいじゃないの」

 

 まさか仁がスカウトされていたとは知らず、狼狽える宗吾と亜矢を希美が宥めた。

 

「でも。……はぁ、まぁいいわ。それで? アデニンは何を言ってたのよ?」

「ん~っとね、新人類の世界を作るって言ってた」

「新人類の世界を作る? それはつまり新人類が地球の新たな覇者になった世界を作るって事か?」

「そういう事だろうね」

「でも、どうやって? 新人類に覚醒する為には、ドライバーで変身してからベクターカートリッジを直挿ししないといけないんですよね? 全人類にそれをやるのは非効率的だと思うんですけど?」

 

 亜矢の言う通り、1人1人を新人類に覚醒させるのは非効率すぎる。それに何より気になるのは、あの時のアデニンの口ぶりだ。まるで新人類と旧人類が互いの生存を賭けた生存競争をすると言いたげな様子だった。

 という事は、一度に大量の人間を新人類に覚醒させる手段が何かあるという事だろうか? 雄成だったら何か考え付きかねない。

 

 しかし現時点では判断材料が少なすぎる。はっきりと言い切ることが出来ない以上、憶測だけで物事を語るのは止した方が良いだろう。飽く迄も今は、危険を匂わせる程度に。

 

「少なくとも、諦めずに何かをやろうとしてることは確かなんだし油断はしない方が良いと思う。多分、あれから今までジッとしてたなんて事もない筈だから」

「確かに。……よし! 北村、全部隊に召集を掛けろ。準備が整い次第、青木ヶ原樹海の傘木社秘密研究所に攻撃を仕掛ける」

「了解!」

「門司君、双星さん。それと……志村。君ら3人にも手を借りたい」

 

 恐らく、次が傘木社との最後の戦いになる。そう雰囲気を漂わせた言葉に、仁達も頷いて答える。

 

「ん、そろそろ決着をつけないとね」

「微力ながら、お手伝いします。……私達と仁君に任せて!」

「ま、私は今までやらかしてきたことの清算をしなきゃならないし」

 

「すまないな……頼むぞ」

 

 宗吾の言葉に再び頷き合う仁達。

 

 こうして、青木ヶ原樹海にある傘木社秘密研究所への攻撃作戦が実行されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜……

 

 時刻は深夜。仁と亜矢は自宅に戻り、一つのベッドの上で身を寄せ合っていた。仲が良いのはそうだが、そもそもこのベッドは元々一人用なので一緒に寝ると必然的に身を寄せ合う形となってしまうのだ。

 

 窓から差す月明りの光以外光源の無い部屋の中、互いの体温だけを感じる2人。2人はベッドに横になってはいたが、眠ってはいなかった。正確には、眠れないというのが正しいだろう。

 

 漸く傘木社との戦いに決着がつく。恐らく次の戦いは、傘木社も後がないからと激しい抵抗をしてくるだろう。もしかすると、傘木社本社ビルでの戦闘以上の激戦になるかもしれない。

 

 その戦いでもし、亜矢の身に何かあったら……そう思うと仁は不安を感じずにはいられなかった。

 

「亜矢さん、真矢さん」

「ん? 何です、仁くん?」

「次の戦いだけどさ…………亜矢さんは――」

 

 思い切って、亜矢には留守番を頼もうとしていた仁。だがその言葉は、言い切る前に亜矢自身の言葉によって遮られた。

 

「嫌です。絶対に……嫌です」

「……まだ全部言ってないんだけど?」

「言いたい事は分かるわよ。留守番してろって言うんでしょ? 嫌よ、そんなの」

 

 明確な亜矢と真矢からの拒否に、仁は困った様に眉間に皺を寄せる。

 

「でも多分、いや絶対、次の戦いは雄成さんも本気で俺達の前に立ちはだかる。もう俺達の細胞も遺伝子も必要ないんだし、排除することに何の躊躇もない筈だよ。何より、きっと雄成さんには隠し玉がある。そんな危険なところに、亜矢さんを連れて行くのは……」

「それはこっちも同じです。そんな危ないところ、仁くんに行ってほしくありません。……でも仁君は行くんでしょ? なら私達も行くわ。私達は元々、仁君を守る為に戦う事を選んだんだから。……ここで戦わずに待っているだけだったら、私達が仮面ライダーになった意味がありません」

「それは……でも……」

 

 亜矢と真矢の言いたいことは分かるが、それでも仁は渋らずにはいられなかった。

 

 すると亜矢が身を起き上がらせ、遠慮なしに仁の上に跨った。その程度で負担になる事はないが、それはそれとしていきなり腹の上に跨られて体重を掛けられたら驚きはする。

 一体どうしたと腹の上に跨る亜矢を見ると、そこには月明りに照らされ神秘的な美しさを放つ一糸纏わぬ亜矢の姿が浮かび上がっていた。

 

 その美しさに、仁は改めて見惚れ思わず息をのむ。

 

「心配なんだったら、仁くんが私を守ってください」

 

「代わりに私が仁君を守るから」

 

「それとも仁くんは、私達を守れる自信がありませんか?」

 

「私達の事、信じられない?」

 

 仁が自分に見惚れていることに気付きながら、亜矢と真矢は仁に言葉を投げかける。それは挑発的でもあるが、信頼の現れでもあった。

 仁なら絶対、自分の事を守ってくれる。自分に背中を預けてくれる。

 

 その信頼が仁にも伝わったのか、仁は観念したように笑みを浮かべると亜矢の手を取り引き寄せた。一気に2人の顔が近付き、互いの吐息が相手に掛かるのを感じる。

 

「分かった、分かったよ。亜矢さんと真矢さんの事は、俺が絶対守る。今度こそ、何があっても……。だから、亜矢さんと真矢さんには俺の背中、任せたよ」

 

 仁の答えに、亜矢は満足そうな笑みを浮かべると顔をそのまま下した。下りてきた亜矢の顔を仁は抵抗せずに受け止め、2人の唇が重なり合った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 遂に青木ヶ原樹海の秘密研究所への攻撃が決行される日になった。

 

 その日、希美は戦いに参加すべくたっぷり朝食を食べてカロリーを蓄えてから家を出ようとした。それを見送るリリィとレックス。

 2人は当然留守番だ。2人はもう戦わなくていいし、何より2人が使っていたベクターカートリッジはあの戦いの中で破損して使えない。置いてきぼりにされることに対して、リリィは寂しそうにしレックスは不満そうにしていたが、希美の説得もあって2人は留守番をする事に理解を示した。

 

 ドライバーとベクターカートリッジを忘れずに持ち、仁や宗吾達と合流すべく警視庁に向かおうとする希美。家を出ようとするその背に、リリィが声を掛けてきた。

 

「ノゾミ!」

「ん?」

「あの……い、いってらっしゃい」

 

 見送りの言葉一つに随分と意を決しているなと希美は思わずキョトンとした。日本では当たり前だが、実はこういう言葉は日本特有で海外では何気ない日常での見送りの言葉は存在しない。少なくともどんな時でも使える定型文としての『いってきます/いってらっしゃい』は存在しなかった。同じニュアンスでも、海外ではシチュエーションによって使う言葉が異なる。

 

「日本では、出かける人に掛ける言葉はこれなんだろ?」

「お別れじゃなくて、用事が終わったら帰ってくる人に向ける言葉だって」

「帰ってきてくれよ、絶対」

「私達、待ってるから」

 

「「いってらっしゃい」」

 

 恐らくは傘木社との最後の戦い、場合によっては命を投げ出すことも考えていた希美だが、考えを改めた。

 自分の帰りを待っていてくれる人が居る。自分には帰れる場所がある。それを考えると、易々と命を投げ出そうなどと言う気も失せた。

 

「――いってきます」

 

 必ず帰るのだ、2人の居るところに。そう心に決め、改めて希美は家を出た。

 

 来る戦いに向けて歩く希美の姿は、先程まではなかった覇気に満ちていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 仁と亜矢、希美がS.B.C.T.と合流し青木ヶ原樹海に向けて出発した。

 

 その頃、彼らの目的地である樹海の中にある浄水場に偽装した傘木社の秘密研究所では…………

 

「プロフェッサー、ご報告が……」

「うん?」

「S.B.C.T.が動き出したようです。まっすぐこちらに向かっていると」

 

 本社ビルを捨ててここ、樹海の秘密研究所に逃れた雄成達だが、全ての人間がこの研究所に逃れた訳ではない。中には民間人に紛れ、最大の敵である仁やS.B.C.T.の動向を監視している者もいた。

 

 尤も雄成はそう時間を掛けずこの研究所がバレる可能性を考えていたので、そんなに慌てはしなかった。

 

「そうかね。まぁこちらも概ね用意は終えている。迎え撃つ用意も……計画遂行の為の用意も……」

 

 雄成の視線の先にはだだっ広い空間が広がっており、そこには小さな羽のついた頂戴な柱の様な物――ミサイルが無数に並んでいた。

 

「培養は順調、後数時間で必要量に達する。時間が来た時、これを打ち上げれば……」

「世界は、変わる。……母さんの生きれる世界がやって来る」

「もうあと少しだ、後ひと踏ん張り……期待しているぞ、アデニン。いや、―――」

 

 久しく聞いていなかった本名を雄成自身の口から聞かされ、珍しくアデニンの顔に笑みが浮かぶ。アデニンは笑みを浮かべたまま、雄成に深く頭を下げた。

 

「任せてください、プロフェッサー…………父さん」

 

 父……そう呼ばれた雄成は、アデニンの方を見ずに口角を上げ目尻を下げる。混じり気の無い、仁達の見たことのない笑みを浮かべた雄成は、踵を返してその場から離れていった。アデニンがその後に続く。

 

 

 

 

 それぞれがそれぞれに想いを抱え、戦いに臨む。

 

 超万能細胞と言うパンドラの箱を開き、ファッジと言う厄災を解き放った雄成。

 

 そしてその箱の奥にあった、進化と言う希望を手にした仁。

 

 両者の最後の戦いが、遂に始まろうとしていた。




という訳で第63話でした。

今回の一件で傘木社は完全に終わりです。株価は暴落し重役は全員逮捕。一般社員達は何も知らなかったのでお咎めはなしで、それでも再就職先を探すのが大変でしょうね。よりにもよってクリスマス前に。

仁は漸く亜矢にプロポーズしました。プロポーズは後回しにして思わせぶりな事を言うと死亡フラグとなる。なら先にさっさと済ませてしまえば……と言うのは冗談です。

さてさて、最後の最後で軽い爆弾発言。アデニンは雄成の息子でした。ただ察しはつくでしょうが、普通の息子ではありません。かと言って養子とかそう言うのでもありませんがね。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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