多くは語りません。今回よりラストスパート。傘木社もとい、雄成との最終決戦です。
仁達を含むS.B.C.T.の車列は東京を離れ、静岡県の富士山麓まで辿り着いた。
道中は不気味なほど順調だった。てっきり最後の妨害があるのではないかと警戒していたが、そんな事はなくて正直な話拍子抜けした。だがそれもよくよく考えれば当然なのかもしれない。
今の傘木社残党は余裕がないのだ。最早道中に妨害行為をするほどの余裕もなく、近付く仁達に気付けたとしても見送るしかできない。
一行はそのまま道なりに進み、途中分かれ道を経由して第1の目的地である浄水場に到着した。目的地に着くと同時にトレーラーからはわらわらとライトスコープ達が降車し施設の前に整列する。彼らの前に、まだ変身はしていないがアーマーなどを身に纏った宗吾と慎司が立つ。
宗吾は部下であるライトスコープ達を見渡すと、短く一言告げた。
「――突入!」
その一言を合図に、浄水場にライトスコープ達が次々と入っていく。彼らの後に続いて仁達が浄水場施設内に入るが、ここも特に抵抗らしい抵抗もなくあっさりと制圧できてしまった。どうやら今ここで働いている職員は全員傘木社とは無縁のただの職員らしく、S.B.C.T.が突入するとあっさりと降参した。
施設の制圧は出来たのだが、ここで問題が発生した。ここはどう見ても普通の浄水場なのだ。内部を隅々まで調べたが施設自体は何の問題もないし、かと言って何処かに地下への入り口が隠されている訳でもない。
「おい、ここが秘密研究所に繋がってるんじゃないのか?」
埒が明かない状況に、宗吾が希美に問い掛けると彼女は肩を竦めて答えた。
「そう言われてもねぇ。言ったでしょ? 私もここに来たことはなくてある事しか知らなかったって。ここから研究所にどう行けばいいかなんて知らないわよ」
言いたいことは分かるがやや無責任な物言いに、宗吾がムッとなって希美を睨む。睨まれた希美は困った顔で肩を竦めるしかできない。
「困りましたね。早く入り口を見つけないと…………仁くん?」
さてどうしたものかと亜矢も考え始めたその時、亜矢は仁が近くに居ないことに気付いた。辺りを見渡すと、仁は外で浄水場の浄水を行う池を眺めていた。
よく見ると仁はある一点をじっと見つめている。
「仁くん、どうしました?」
「…………池の数が多い」
「え?」
突然の仁の言葉に、亜矢が首を傾げて仁の視線の先を追った。
仁の視線の先には確かに無数の池がある。だがそれは浄水場では当たり前の光景だ。浄水場はその構造上、水を浄化する為の池や砂などを沈殿させる池があり、見渡せば規則正しく配置された無数の池を見る事になる。
だから池の数が多いのは当たり前の事なのだが、仁がその事を知らないとは思えない。
と、いう事は――――
「この池の中に、地下への入り口があるってことですか?」
「多分ね」
亜矢は慌てて宗吾達を呼び、この池のどれかが地下の研究所への入り口であると告げた。宗吾達が一斉にそれぞれの池を見下ろすが、池はどれもこれも似たようなもので違いが分からない。どれかが目立って綺麗とか汚いとかいう事もなく、見ただけではどれが地下への入り口なのか判断のしようがなかった。
そんな中で、仁は違和感のある池を見つけていた。
「――――この池」
「ん? この池がどうしたんだ?」
「この池、臭いが違う。ただの水道水だ」
仁の言葉に宗吾が仁の言う池の臭いを嗅いでみるが、彼には違いが分からなかった。どうやら仁は、意図的に自分の嗅覚を引き上げて臭いで違いを見つけたらしい。
その違いは、彼と同じ新人類の亜矢も分かるほどだった。
「……ホントだ。この池、他と違う」
「そうなのか? となるとこの池の水を抜く必要があるのか」
職員に何かを知っている者が居ないかと訊ねに行こうとする宗吾に対し、仁は問題の池の周りをゆっくり見渡す。そして彼は、池の近くにメンテナンス用のハッチの様な物を見つけた。仁はすぐに察した。あのハッチには水を抜いて地下に続く階段かエレベーターを出現させるスイッチの様な物が隠されていると。
ハッチを開けようとしたが、ハッチには鍵が掛かっており開けようがなかった。
「小早川、職員を問い質せ。あのハッチの鍵を――」
「いや、多分ただの職員は何も知らないよ。鍵は傘木社の人間が管理してた筈だ」
もし何かの間違いで、何も知らない職員が研究所に続く入り口を見つけてしまったら面倒な事になる。傘木社だったらその場合、容赦なく目撃者を始末しそうだが、それでも無用なリスクは負わないようにするだろう。
そうなるとハッチを開ける事が少し厳しくなる。鍵がないのでは開けられない。
ピッキングでもして開けるかと宗吾が考え始めた時、徐に仁がデイナに変身してハッチの取っ手に手を掛けた。
〈Open the door〉
「え、ちょ、仁くん!?」
「フン!」
彼が何をするつもりなのかに気付いた亜矢が彼を宥めようとするが、彼はお構いなしに取っ手を引っ張りハッチ諸共引き千切った。
あまりの力技に、亜矢だけでなく宗吾や希美も唖然となる。
「…………この方が早いよ」
「門守君、随分と過激なことやるんだな」
「仁君、ワイルド……ヤダちょっとドキッとしちゃった」
「そうだった……いざとなったらこう言うことする男だったわ」
そう言えば傘木社に乗り込んだ時、エレベーターが止められていると分かるとドアをぶっ壊してワイヤーを伝って地下に降りたことを希美は思い出した。知的に行動する男だと思っていたが、どうやら時と場合によっては思い切りのいい行動を見せるらしいという事を知った。
それはそれとして、デイナが引き千切ったハッチの中には案の定入り口を出現させるためと思われるスイッチがあった。恐らくは入り口を出現させるのと隠す為と思われるスイッチが一つずつあるだけと言う非常にシンプルなもの。余程鍵の管理に自信があるのか、それとも万が一部外者にバレても始末すればいいからと考えているからかが気になるところである。
とりあえず、変身を解いた仁は適当に点灯している方のスイッチを押した。確証がある訳ではなく、ただ何となくだ。別に外れたからこの辺りが吹き飛ぶ訳でもないのだし。
果たして、変化はすぐに訪れた。見る見るうちに目の前の池の水が引いていき、完全に排水されると池の底がせり上がってきた。池の底は仁達の頭上、ビルにして約2階ほどの高さで止まると、一部が左右にスライドした。そこが地下へのエレベーターの入り口らしい。
「……行こう」
仁を先頭に、亜矢、希美とS.B.C.T.の隊員、白上教授らが隠しエレベーターの中に入った。エレベーターの中は思っていた以上に綺麗で、水が漏っていたりした形跡はない。
内部を見渡すとまたしてもスイッチを見つけた。考えるまでもなく、地下へと下りる為のものだ。階数表記がないところを見ると直通のようだ。
全員がエレベーターに乗ったのを確認して、仁がスイッチを押すと扉が閉まり次いで僅かな振動と共にエレベーターが下に向かうのが感じられた。
研究所はかなり下の方にあるのか、下がり始めてからなかなか目的地に着かない。何事もなく下りているだけなのだが、亜矢には何だかこれから向かう先が地獄の入り口のように思えて段々と緊張してきた。知らず、生唾をごくりと飲み込む。
仁はそんな亜矢の姿に気付くと、彼女の肩にそっと手を乗せる。肩に置かれた手に気付き亜矢が仁の方を見ると、彼は優しい笑みを浮かべながら力強く頷いて見せた。それを見て亜矢は自身の中に浮かんできた不安が霧散していくのを感じた。
そうだ、自分には仁が居る。彼が居るなら大丈夫だと、そんな根拠のない確信に、亜矢の顔に笑みが浮かぶ。
そんな光景に気付いた希美が分かりやすく肩を竦めた。こんな時までイチャついて何しているんだといった心境だ。
その時、一際大きな振動と共にエレベーターの動きが止まった。どうやら目的地に到着したらしい。エレベーターのドアがゆっくりと開く。
その際仁は亜矢を引っ張ってドアの向こうから死角となる場所に移動した。もしドアの向こうで待ち伏せされていたら一溜りもない。
しかし彼の心配は杞憂だった。ドアが開いた瞬間に攻撃されることはなかった。
が、待ち伏せはしっかりされていた。ドアの向こうには広いエレベーターホールに雄成とアデニン、シトシンの3人が佇んでいた。
待ち伏せされていたことに身構える宗吾達だったが、お供の保安警察が居ないのを見ると仁がエレベーターから出て雄成の前に姿を曝した。亜矢が引き留めるのもお構いなしだ。
「よく来たね、諸君。待っていたよ」
仁が前に出ると、雄成がいつもの余裕を感じさせる様子で拍手と共に仁達を迎えた。まるでパーティー参加者を歓迎しているような感じだ。
いや……彼にとってはこれもパーティーの様な物なのかもしれない。
「雄成さん。一体何を企んでるの? 世界征服、とかそんなチープなものじゃないんでしょ?」
もうまだるっこしく腹の探り合いをするのも飽きた。仁はストレートに雄成に何を企んでいるのかを訊ねた。
本社ビルどころか会社の信用そのものを失い、今の彼らは後ろ盾を失い文字通り後がない状況だ。畳みかけるなら今である。
「ふむ……そうだね。君らはここまで頑張った。ご褒美にそろそろ私の目的を話してあげようじゃないか」
思いの外雄成はあっさりと口を割るようだ。その事に宗吾達は少し意外そうに眼を見開いていたが、仁は違った。ここであっさり話すという雄成に何かを感じたのか、手だけでまだエレベーターの中に残っている者達に出てくるように合図した。
それを見てまず亜矢がエレベーターから出て、続いて希美が、そして宗吾達S.B.C.T.が後に続いた。
全員がエレベーターから出てくるのを待ち、雄成は自身の計画を仁達に話し始めた。
「もう、アデニンからある程度話は聞いただろう? 私は新人類の為の新たな世界を作ろうとしている」
「どうやって?」
「実はここにはね……レトロウィルスを搭載したミサイルが無数にある」
「み、ミサイル!?」
ミサイルと言う単語に亜矢を始め、S.B.C.T.の隊員達がざわついた。動揺する彼らに対し、仁はそれだけで雄成がやろうとしている事に気付いた。
「なるほど、ね。……そのレトロウィルスは新人類の遺伝子を持つ超万能細胞を持ってて、それを世界各地にばら撒いて新人類を一気に増やそうって……そういう事なんだね」
「流石に察しが良いね、その通りだ」
レトロウィルスは、端的に言ってしまえばエイズの原因となるウィルスと同じ種類のウィルスである。通常のウィルスが他の細胞に感染するとその細胞の遺伝子を使って自身を増やすのに対し、レトロウィルスは自分の遺伝子を他の細胞の遺伝子に転写して変質させる。
雄成はその性質を利用して、新人類の遺伝子を一気に拡散させようとしているのである。
だがそれにはある問題があった。
「……それで? そのウィルス、感染した人の生存率はどれくらいなの?」
「え? どういう意味ですか仁くん?」
「考えてごらんよ亜矢さん。事前に仮面ライダーで変身して下地を作ってた俺らでも、覚醒する時はあれだけ辛かったんだよ? それがもし、何の準備もなしにいきなり変異し始めたらどうなると思う?」
「ッ!?」
なるほど確かに仁の言う通りだ。自分たちでさえあれだけ辛かったのだ。それが何の前段階もなしにいきなり覚醒したらどうなるかなど考えたくもない。
「雄成! どうなんだ? そのレトロウィルスは、人体にどれだけの影響がある!?」
雄成の作り出した新人類の遺伝子を持つ超万能細胞のレトロウィルスの危険性に気付いた白上教授が、峰に押さえられながら問い詰める。すると雄成は肩で笑いながら、明後日の方を見て答えた。
「まぁ…………実験した限りでは今のところ生存確率は20から30%と言ったところだったね」
それはつまり全人類の2~3割しか生き残る事は出来ないという事だ。そのあまりにも高い致死率に、誰もが言葉を失った。
「あれ? でも何人かは新人類に覚醒したんですよね? その人達は今どうしてるんですか?」
そうだ、雄成の実験の結果が正しいのなら、現時点で仁と亜矢以外に新人類に覚醒した者が何人かいる筈だ。
もしかすると自分たち以外の新人類が居るかもしれない……その期待を胸に亜矢が訊ねると、雄成はさも当然の様に答えた。
「あぁ、彼らならちょうど良かったから、新人類ベースのファッジの実験に使ったよ。体を弄り過ぎてもう元に戻れなくなってしまったがね」
「そんな……」
「酷い――!?」
人を人とも思わない扱いをする雄成に、誰もが顔を顰め言葉を失った。ただし仁は、顔色一つ変えず雄成の顔をじっと見つめている。
「雄成、お前は……お前は人間を、何だと思っているんだ!?」
そんな中で大きな声を上げたのは白上教授だ。袂を分かったが、嘗ては同志だった。同じ志の元、超万能細胞の研究を共にした相手がこんな悪魔の所業をする事に、白上教授は昔を思い出し叫ばずにはいられなかった。
それに対し雄成は、今までになく冷めた顔で――――
「――脆く壊れやすい、脆弱な生き物だ」
と答えた。
「だからこそ、私が強くしてやろうというのだ! 将来、来る困難を乗り越えられるように!!」
雄成が叫ぶと同時に、彼らの背後から無数のファッジが現れた。だがそれは今までに見たことのないファッジだった。
黒い表皮に、鋭い牙と鉤爪。長い尾に、先端にはナイフの様な刃がついている。細い頭部には額の辺りに一本の角が生えていて、凶暴な光を宿す両目が赤く光っていた。
「な、何だあのファッジは!?」
「キメラファッジ?」
「いや、違う……遺伝子そのものを弄られてる。あれは……さっき言ってたレトロウィルスの被検体だった人達だね?」
仁の見抜いた通り、それらは皆雄成によりレトロウィルスの被検体となり、新人類への覚醒を果たせたにも拘わらずそのまま実験に使用された憐れな者達の末路――――その名も、『ヌーベルファッジ』だった。
ヌーベルファッジが出てくると、それと入れ違うように雄成は奥へと引っ込んでいく。
「待て、雄成!?」
「生憎と私は忙しい。後は任せたぞ、アデニン……いや、
「はい……父さん」
雄成が口にした勇夫と言う名に反応し、返事を返すアデニン改め勇夫。その2人のやり取りに仁も言葉を失う。
「親子?」
「勇夫……馬鹿な!? 雄成に息子がいたと言う話など聞いたこともない!?」
「知ってましたか、志村さん?」
「んな訳ないじゃない、初耳よ!」
「あともう少しだ、勇夫。もうすぐ2人で、恵里に会えるぞ」
白上教授の驚きを無視して勇夫と話した雄成は、そのまま研究所の奥へと引っ込んでいく。後に残された勇夫の顔には、今までに見た事のないギラついた笑みが浮いていた。
「会える、もう直ぐ……母さんに会えるんだ!」
〈SQUID + SHELLFISH Origin regression〉
「へへっ、俺は新世界とやらに興味はねえが……俺をコケにしたテメェらは生かしちゃおかねぇ」
〈FLOG + MOUSE Input〉
勇夫とシトシンがカラミティドライバーを腰に装着し、ベクターカートリッジを装填した。それを見て仁もデイナドライバーを装着し、それに続いて亜矢達も前に出て横並びになりドライバーを装着した。
「雄成さん……あんたは俺達が止めてやる」
〈HUMAN + HUMAN Beyond evolution〉
「もうこれ以上誰も悲しませません!……私達が守る!」
〈CAT Unite〉
「あの子達の為にもね」
〈HORSESHOE × CROCODILE × TURTLE Mixing Genetic information〉
「俺の家族の様な者を、増やして堪るか!」
「行きます!」
〈〈Access〉〉
睨み合う仁達と勇夫達。それに呼応するようにライトスコープとヌーベルファッジが前に出ようとする。
そして――――――
「「変身」」
〈The largest predator of the ancient sea. Reborn origin, CAMEROCERAS〉
〈Precious sacrifice for development. Dedicate life〉
「「「「「変身!」」」」」
〈Break down the wall of evolution. Reach the NEW GENERATION. Open the door〉
〈Open the door〉
〈Create, Capture, Out of Control. Brake the chain〉
〈〈In focus〉〉
仁達と勇夫達が一斉に変身し、仮面ライダーが姿を現すと同時にライトスコープが発砲しヌーベルファッジが突撃してきた。
忽ち激しい戦闘が行われる。ライトスコープに対してヌーベルファッジは数は少ないが、今までのファッジに比べて攻撃力も防御力も、速度も何もかもが今までのファッジを大きく上回っていた。複数人で当たって漸く何とか対応できると言った感じだ。
周りが激しい戦闘を始めたのを合図に、デイナ達も一気に前に出た。
「門守君、あの仮面ライダー達は俺達に任せろ!」
「あんた達2人は社長を止めに行きなさい」
「分かった」
「ありがとうございます!」
ステイクの相手を2人のスコープが、サクリスの相手をヘテロが請け負い、デイナとルーナに雄成の後を追わせた。ニュージェネレーションフォームとなったデイナであれば、ハザード4のカラミティであっても勝つ事はできるが相手は雄成、どんな隠し玉を持っているか分からない。もしもと言う時の事を考え、彼を最も効率的にサポートできるだろうルーナの存在は必要だった。
「させると思うのかよ!」
「プロフェッサー……父さんの邪魔はさせない」
雄成の後を追うデイナとルーナの前に、ステイクとサクリスが立ちはだかろうとする。だがそれを、先に読んでいたヘテロとスコープ1号が遮った。
「アンタの相手は私よ!」
「門守君達の邪魔はさせない! 小早川! 雑魚共は任せた!」
「了解!」
ステイクをスコープ1号が、サクリスをヘテロが妨害したことで、デイナとルーナの2人は先へと進むことが出来た。
道中、エレベーターホールに出てきたのとは別のヌーベルファッジや、保安警察の隊員が変異したヴェロキラプトルファッジが2人の行く手を遮ろうとするがそいつらは一瞬で倒されていく。最早障害にはなる事もなく、蹴散らされるがままであった。
妨害を蹴散らしながら2人が雄成の後を追っていき、辿り着いたのは幾つものシリンダーが並んだ広い空間だった。シリンダーの殆どは中に液体が満たされているだけだが、中にはベクターカートリッジが浮いているものもある。ここはこの研究所でベクターカートリッジを作り出している部屋らしい。
その部屋の奥、コンソールなどが置かれた少し開けた場所に雄成は居た。
デイナ達に背を向けてコンソールを操作していた雄成は、2人が背後に来たのを感じ取ると最後にエンターキーを押して椅子を回して2人と向き合った。
「……残念だったね。今、最後の調整が終わった」
「え!?」
「レトロウィルスの培養は完了し、ミサイルの発射体制は整った。時間が来れば全てのミサイルは世界各地に向け発射され、世界中の人間を感染させ新人類への進化を促すことになる」
間に合わなかった……一瞬亜矢の頭に絶望が広がりそうになるが、真矢はまだ諦めておらず希望を失わなかった。
「まだ発射まで時間はあるってことは、今なら止める余地があるって事でしょ!」
「間違いではない。止められるのなら、ね?」
〈NEWBONE + ORGANISM Pioneer. An incarnation of an unleashed disaster. No one can stop it anymore.〉
止めようとするルーナに対し、雄成はカラミティドライバーを装着しベクターカートリッジを装填する。そしていざ変身しようとした雄成だったが、そこで黙っていたデイナが話し掛けた。
「ねぇ、雄成さん。あんた、本当は何がしたいの?」
「何?」
「全人類を強制的に進化させて、雄成さんは一体何がしたいの? 新人類ならもうここに居る。新人類が見たいなら、俺達を狙えばいいだけの話だ。なのに雄成さんは、世界中の人間を進化させようとしてる。アデニン……あんたの息子だっていう勇夫の言葉を信じるなら、あんたは新人類が支配する世界に作り替えようとしてる。それは何故?」
何度も言うが、仁と雄成は同類だ。故に仁は雄成の考えを概ね理解しているし、そこにどんな狙いがあるかは大体理解しているのだが、そこだけがどうしてもわからなかった。世界を新人類が支配するものに作り替える事には、単純な知識欲が絡んでいるとは思えないのだ。
それを見抜いた仁に、雄成は今までに見せたことのない暗い笑みを浮かべた。
「ふふっ、はははっ……そこまで気付いてしまうか。流石私と白上が認めた男だよ君は」
雄成は手元のコンソールを操作し、近くのモニターに一つの映像を映し出した。その映像に映っているのは、何かのカプセルに入った妙齢の女性である。冷凍保存でもされているのか、血色はないに等しく毛髪も薄っすら凍っているように見えた。
2人がモニターに映る凍った女性を見ると、雄成がその女性を見ながら愛おしそうに言った。
「恵里……私の妻だ。もう十年以上も前に死んだがね」
「十年以上も前に、死んだ?」
「……超万能細胞を使って蘇らせるつもり?」
確かに超万能細胞には、驚異的な再生力がある。希美にもその能力の一部が突出した形で備わっている為、心臓を破壊されても蘇生する事が出来た。だがそれは希美の様に無茶苦茶な改造をした結果得られた副産物の様なもので、仁や亜矢が同じ目に遭えば死は免れない。この恵里に至っては、改造前に死んでいるのだから蘇る確率は絶望的だろう。
それでも雄成はやるつもりだった。
「あぁ、そうだとも。新人類に覚醒させ適切に治療を施せば、恵里は再び蘇る。私が蘇らせる――!」
「……雄成さん。あんたが世界を変えようとしてるのは、新人類に進化した奥さんが生きて行きやすい世界を作る為だったって事?」
デイナの予想は概ね当たっていた。出来るかどうかはともかくとして、本当に雄成の妻である恵里が新人類に覚醒して蘇った場合、その後の彼女に待っているのは人間とは違う時間を生きる孤独な人生。例え雄成も一緒に覚醒したとしても、悪意を持つ者は2人を貴重なサンプルとして狙い続けるだろう。
仁はその困難を受け入れ、それら全てと戦う覚悟で世界を変える事無く新人類として亜矢と共に生きる事を決めた。それに対して、雄成は真逆の選択をしたのだ。
即ち、世界を新人類に生き易い世界に変え脅威を取り除くと言う選択を。
「そんな!? いくら何でもそんなの!? 多くの人を犠牲にするやり方が正しい訳ありません! それに数少ない進化できる人たちだって、そんなこと望んでいる人は居ませんよ!」
「そうだ、誰も望んではいない! だからこそ変えねばならんのだ! そうでなければ、恵里の死が無駄になってしまう!!」
必死に雄成を否定するルーナだったが、雄成は揺るがない。彼は意地でも世界を新しいものに作り替えるつもりだった。
今の彼を止めるには、力尽くでやるしか方法はない。
「させないよ、そんな事」
「あなたは私達が止めます!」
「別に理解されようなどとは思っていないさ。止めたければ力尽くで来るがいい。それが、生存競争と言うものだ……変身!」
〈Biohazard〉
ハザード4のカラミティに変身した雄成は、まず最初にマントからハザード3のカラミティを生み出しそれをルーナに差し向けた。邪魔はさせないと言うつもりだろう。
だがそれをデイナが許す筈もなく、マフラーを伸ばすとそれを液状化する前のハザード3カラミティに巻き付け自分の方に引っ張った。
「お前が厄介なんだよ。って事で、さっさと潰させてもらう」
〈ATP Burst〉
デイナのアポトーシスフィニッシュは、攻撃を直撃させた相手の遺伝子を瞬間的に支配できる能力を持つ。リリィとレックスの2人の傷を瞬時に癒せたのもこの為だ。
瞬時に相手の細胞を癒す事が出来るのなら、逆に瞬時に相手の細胞――ただし超万能細胞に限る――を瞬時に死滅させることも可能だった。
結果、デイナのアポトーシスフィニッシュで蹴り飛ばされたハザード3カラミティは液状化しつつあった細胞も一気に死滅して朽ちてしまった。
今までデイナ相手にも圧倒的強さを誇ったハザード3カラミティが瞬殺された事に、カラミティは仮面の奥で歯を噛みしめる。だが何時までも悔しがっている余裕はなかった。
何故ならデイナがハザード3カラミティを始末している間に、ルーナが接近していたからだ。
「ハァッ!」
ルーナは銃剣でカラミティに攻撃を仕掛け、カラミティはそれを腕で防ぐ。元のスペックに差があるのでルーナの攻撃はあっさり防がれてしまうが、彼女は尚もカラミティの周囲を動き回り次々と攻撃を加えていく。
流石のカラミティもそれには反応が追い付かず、焦れた彼はマントを薙ぎ払ってルーナを引き剥がそうとした。
「くっ!?」
「それを待ってたわ!」
切断能力を持たせ周囲を薙ぎ払うカラミティ。振り回されたマントはあらゆるものを切断し、近くにあったシリンダーも切り裂き内部の溶液が零れ落ちる。ルーナはそれを見て素早い身のこなしでカラミティから離れると、天井に向けて発砲した。
彼女が撃ったのは天井に張り巡らされたケーブル。ここの天井は上に板がなく、照明の間をむき出しのケーブルが行き交っていた。
ルーナはそれを銃で撃ち切断したのだ。
切断されたケーブルは支えを失い床に落下してくる。そのケーブルはどうやら電力ケーブルだったようで、切断面からは電気がスパークを起こして火花が散っていた。
それが溶液で濡れた床に落下してくる。零れ落ちた溶液に触れているのは、度重なるルーナの攻撃で足止めをされていたカラミティただ一人。
そのカラミティが触れている溶液に、ケーブルの切断面が触れた。
「ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
瞬間、強烈な電流が溶液を伝ってカラミティを脳天まで貫いた。以前カラミティはエレキテルとなったデイナの放電を吸収したことがあったが、今回の電流はそんなレベルではない。何の為かは分からないが、施設の何かを維持する為の膨大な電力が襲い掛かったのだ。その威力はハザード4とは言えカラミティでも受け止めきれる許容量を超えていた。
とは言え、カラミティもこの程度で倒れるほど柔ではない。
「くぅっ!」
デイナも大概だが、カラミティだって耐性を付ける速度は負けてはいない。電撃に対して耐性を持ち、それどころか吸収して自らに電撃を纏いながらルーナに反撃を仕掛ける。
電撃を纏って放たれた拳を、ルーナは腕をクロスさせて防ぐ。打撃の衝撃は何とか受け止められたが、それ以上にカラミティが纏った電撃がルーナを苦しめる。
「うあぁぁっ!? い、つぅ……この!」
「亜矢さん、大丈夫?」
「はい!……反撃はここからよ!」
電撃に痺れ後ろに殴り飛ばされたルーナだったが、即座に体勢を立て直すと隣にやって来たデイナと共に再びカラミティに立ち向かう。
迫る2人の仮面ライダーを前に、カラミティはマントを体の前に広げる事で2人から自分の姿を隠す。その程度で防げる訳がないとそのままマントを蹴る2人だったが、足裏から返って来たのは鋼鉄の壁を蹴ったかのような硬い感触だった。
「硬ッ!?」
「マズイ!」
硬さに驚くルーナに対し、デイナは次に起こる事に即座に気付きその場から離れようとした。だが一歩遅く、マントの陰から出てきたカラミティの回し蹴りに2人纏めて蹴り飛ばされた。
「ぐっ!?」
「きゃぁっ!?」
「ふふっ……」
蹴り飛ばされ機材に叩き付けられたデイナとルーナ。デイナは痛みを堪えて立ち上がると、拳を握り締めて再びカラミティに挑みかかる。飛び掛かりながらの回し蹴りに、しかしカラミティはまたしてもマントを用いてデイナの攻撃を防いだ。
その時のマントの動きは、明らかにカラミティが動くよりも先に動いているようにルーナには見えた。マントがただの装飾ではなく、カラミティの体の一部であるという証拠だ。つまりカラミティには、自在に動かせる腕が増えた状態なのである。
「く、はっ」
「ぬ、おぉ!」
「ぐっ……」
自在に動くマントがデイナの攻撃を防ぎ、自由な両手が攻撃を防がれ無防備となったデイナに突き刺さる。幸いな事にデイナは自身の体を防御に特化したものに変化させた為、カラミティの攻撃の衝撃は殆ど無力化されたのでダメージはないに等しい。しかしこれではカラミティに有効打を与える事が出来ない。
そして今のデイナにはあまり時間がなかった。このままカラミティの相手に気を取られていては、ミサイルの発射を阻止する事が出来ない。
その焦りが僅かに滲み出ていたのか、デイナの動きが一瞬鈍った。
「そこだ!」
「あ――」
カラミティはその隙を見逃さず、デイナの両手を蹴り上げ防御を崩すと無防備な彼の腹にマントを巻き付け硬さと鋭さを増した腕を突き刺そうとした。
「仁くん!!」
鋭い一撃がデイナを貫こうとした瞬間、横から飛んできたルーナがカラミティの腕を蹴り飛ばし軌道を変えさせた。カラミティの一撃はデイナの背後の機材を粉砕するに留め、デイナ自身には掠った程度のダメージしか与えられなかった。
今度はカラミティが隙を晒した。デイナはお返しとばかりにマフラーを硬質化させカラミティに叩き付ける事で押し返し距離を離させる。
「ぐおっ!?」
「ありがとう亜矢さん、助かったよ」
「まだまだ、これからよ!」
2人は体勢を立て直すと、同時に駆け出しカラミティに殴りかかる。何度同じ事をしても無駄と、カラミティは再びマントで2人の攻撃を防ぎ反撃を繰り出そうとした。
だがカラミティが反撃を繰り出す前に、デイナがマントの縁を掴んで乗り越えると今正に反撃を放とうとしていたカラミティを殴りつけた。
「ぐあっ!? 何ッ!?」
「私を忘れないでよね!」
「ごふっ?!」
デイナの反応に驚いていると、今度はルーナからの攻撃だ。デイナの攻撃に気を取られている隙に、別方向から迫るルーナに気付くのが遅れた。
下方からの突き上げるような蹴りにカラミティの体勢が崩される。
そこからはデイナとルーナのターンだった。
「はっ」
「ヤッ!」
「ふっ」
「セイッ!」
入れ違い互い違いに、時には手を取り合い、そして時には互いを足場にして変則的な攻撃を繰り出すデイナとルーナにカラミティは防戦一方となる。マントを使っての防御も、デイナの先読みにより潰され意味がない。
「ぐぅっ!? く、おのれぇ……」
「これで決める。亜矢さん、真矢さん」
「はい!……任せて!」
〈〈ATP Burst〉〉
「させるか――!」
〈ATP Full blast〉
デイナとルーナがカラミティに向けてアポトーシスフィニッシュとノックアウトクラッシュを放つと、遅れてカラミティもデッドエンドクラッシュを放った。
「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
「ぜあぁぁぁぁぁっ!!」
2人の攻撃とカラミティの一撃がぶつかり合い、火花を散らす。その火花は近くのシリンダーを破壊し、床をひっくり返すほどの衝撃となる。
「ぐぐ、ぐぐぐぅぅぅっ!」
2人を相手に拮抗してみせるカラミティだったが、彼の執念がなせる一撃もそこが限界だった。
押し負けたカラミティが2人の攻撃を喰らい、そのまま壁に向けて蹴り飛ばされる。
「「ハァァァッ!!」」
「ぐあぁぁぁぁぁっ?!」
カラミティが壁に叩き付けられるまで蹴りを止めなかった2人により、カラミティは壁を突き破り隣の部屋に押し出された。どこはどうやらベクターカートリッジの倉庫だったらしく、壁には一面に敷き詰めるようにベクターカートリッジが設置されている。
攻撃を終えた2人はそのままカラミティを足場に飛び退ると、改めて辺りを見渡しそこにある無数のベクターカートリッジに目を奪われた。
「ベクターカートリッジがこんなに……」
「商売道具にでもするつもりだったのかな。何にしても、もう終わりだけどね」
デイナの視線の先で、カラミティが何とか立ち上がるがその腰にあるカラミティドライバーが火花を上げて吹き飛んだ。今の2人の一撃で耐久力の限界を迎えたらしい。ドライバーがなくなったので、必然的に雄成も元の姿に戻る。流石に自分に隠蔽装置を仕込んだりはしていないのか、変身が強制的に解除されたからと言って体が燃えるようなことにはなっていない。
「勝負ありだね、雄成さん。ミサイル、止めてもらうよ」
あとは勇夫達を倒し、ヌーベルファッジや保安警察を倒してしまえば彼に戦力は無くなる。これ以上戦えなくなれば、雄成も凶行を諦めざるを得ない筈だった。
しかし雄成から返ってきたのは、降伏を示す言葉ではなく小さな笑い声であった。
「ふ、ふふふふふ……勝負ありだと? 違うな、違うよ門守 仁君。それは間違いだ」
雄成は足を引きずりながらどこかへと向かう。彼が向かう先をデイナが視線で追うと、そこにあるのは一つのコンソールだった。周囲にベクターカートリッジが保管されている中で、そのコンソールだけがぽつんと寂しく置かれている。
「生命の中に諦めると言う言葉はない。諦めないから生命は、人類はここまでこれたのだ。生きようと、未来を掴もうと足掻くのは全ての生物に共通した行動だよ」
コンソールに辿り着いた雄成は、しがみ付く様にしてキーボードを叩く。何をするつもりなのかは分からないが、このまま放置していい事があるとも思えないのでルーナはリプレッサーショットⅡを雄成に向けて手を上げるよう警告した。
「待ってください! 一体何をするつもりなんですか? 大人しく手を上げて――」
「私はまだ諦めない!!」
ルーナの警告を遮るようにして、雄成はキーボードを叩くのを止めると懐から銃の様なものを取り出し2人に向けた。一瞬ベクターリーダーかと思ったが、よく見るとそれは違った。彼の手の中にあったのは、拳銃のような形をした注射器だ。装填されているシリンダーの中には、薄緑色の液体が満たされている。
その中身が何なのか、デイナにはすぐに分かった。
「あれ、まさかレトロウィルス?」
「ッ!? 自分に使って新人類に進化するつもりですか!?」
止める間もなく雄成は自分に注射器を使い、中のレトロウィルスが入った溶液を自身に注入した。瞬間、雄成の目は血走り、体を押さえて苦しみだした。
「うぐぅっ!? おご、おぉぉぉぉッ?! ぐぅっ!」
苦しみながらも雄成は再びコンソールと向き合い、キーボードに何かを入力した。すると突然周囲のベクターカートリッジが一斉に起動状態になり、天井へと吸い上げられるように移動していく。
〈DOG〉〈CAT〉〈HAWK〉〈WHALE〉〈SPIDER〉〈RAT〉〈SQUID〉〈SEA URCHIN〉〈LION〉〈MANTIS〉〈PIRANHA〉〈RINO〉〈SNAKE〉〈HEDGEHOG〉〈SHARK〉〈T-REX〉〈TRICERATOPS〉――――――
天井へと移動したベクターカートリッジはどこへ運ばれるのかとデイナが行く先を追っていたら、それは天井に沿って部屋の中央の間上へと移動していくのが分かった。
そう、雄成の間上へと――――
「ッ!? 駄目だ雄成さん!?」
彼が何をするつもりなのかに気付いたデイナが制止の声を上げるが、雄成はその場から動かない。
そして次の瞬間、雄成の頭上から次々と起動状態のベクターカートリッジが降り注ぎ直挿しと言う形で次々と雄成の体の中へと入っていく。
「うぐぅぅぅぅうぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉおおおOoooooooAaaaaaaaa!!??」
「じ、仁君あれどうなるの!?」
「無茶だ雄成さん!? 1人の人間の中にそんなに沢山の遺伝子を入れたって、体がパンクするだけだ!?」
「ごぼあぁがぁぁぁぁぁぁがががががぎぎぎぎぎぎいががぁぁぁぁぁぁ――――!!!!」
デイナの言葉を肯定する様に、ベクターカートリッジが入るにつれて雄成の体が膨れ上がり元の姿を失っていく。
そして遂に、その時が来た。
「くっ、目を瞑って!」
「え?」
デイナは咄嗟にマフラーを使ってルーナの視界を遮る。彼がマフラーを広げた直後、限界まで膨れ上がった雄成の体が、風船のように弾けて部屋の中に夥しい血をまき散らした。後に残ったのは、残り少ない血を噴き出す醜い肉塊だけ。
マフラーが下ろされそれを目にしたルーナは、凄惨な光景に胃の奥から何かが込み上げてくるのを感じずにはいられなかった。
「うっ!? じ、仁くん……あれは?」
「いくら何でも無茶にも程があるよ。体が急激な変化に耐えられなくて破裂しちゃったんだ」
「そこまでして……」
「負けたくは、無かったんだろうね」
その執念は大したものだが、同時に憐れでもあった。きっと普段の、正常な判断力を持った雄成であればこんなことはするまい。追い詰められたが故の、誤った判断が彼を殺したのだ。
デイナは、敵だと言うのに道を、判断を違えた彼を見て何だか物悲しくなった。こんな結末など……
「と、とりあえず戻りましょう。権藤さん達の事も心配ですし、ミサイルも止めないと」
「ん……そうだね」
落ち込むデイナを見て、ルーナが彼を元気づけようと話し掛ける。実際、まだミサイル発射が止まったわけではないので時間にはあまり余裕はない。ここで落ち込んでいる暇はデイナにはなかった。
踵を返し、先程の部屋に戻り何かできる事はないか探そうとするデイナだったが、その彼の耳に奇妙な声が聞こえてきた。
「――――ギャア」
「――ん?」
「仁くん?……どうかしたの?」
「いや、今何か聞こえたような……」
一瞬だったので確証はないが、それでも何か聞こえたとデイナは振り返った。
その瞬間、再び同じ声が今度は先程よりも大きく聞こえてきた。
「――オギャア!」
「ッ! やっぱり!」
「私にも聞こえました!……でも、今のって……赤ん坊の、泣き声?」
今度はルーナの耳にも聞こえた。それは確かに赤ん坊の泣き声だ。だがこんなところで、一体どこから?
その答えは、先程雄成が居た場所を見てすぐに分かった。
「オギャア!!」
「え?」
「あれって……何で、あんなところに?」
赤ん坊が居る場所は、先程雄成が弾けて残った肉塊の中。ぐちゃぐちゃのミンチの中から這い出るように歯も生えていない赤ん坊が出てきた。
あまりにも異様な光景に2人が言葉を失っていると、赤ん坊を見ていたデイナがある事に気付いた。
「あれ?」
「どうしたんです?」
「あの赤ん坊……さっきよりも大きくなってるような?」
「え?」
2人が見ている前で、赤ん坊は一回り大きくなっていた。いや、一回りどころではない。赤ん坊が一泣きする度に大きさはどんどん増していき、赤ん坊から幼児。幼児から少年、青年、成人へとどんどん成長していく。さらに成長するにつれてその顔立ちは先程の雄成に近くなっていき、それだけでなく何も身に着けていなかった体がデイナ達仮面ライダーの装甲の様な甲殻で覆われていく。
そして遂に――――
「お。おぉぉぉ…………はぁぁぁぁぁぁぁ…………」
そこには顔以外を甲殻で覆われた雄成の姿があった。白い体の上に黒い甲殻を身に纏ったその姿は、人間でも仮面ライダーでも、ファッジですらない。
その雄成の姿を見て、デイナは震える声で呟いた。
「超越、したのか?」
「超越?」
「そうとしか言えない。今の雄成さんは、この地球上の全ての生物の遺伝子を一度に内包した状態だ。でも本来、そんな事出来る訳がない。遺伝子同士が競合して、無駄が増えてその無駄が体を破壊する……その筈なのに……」
それは偏に、雄成が自身に打ち込んだレトロウィルスの効果だった。レトロウィルスにより体が変異しきる前に一斉に様々な遺伝子が流れ込んだことで、雄成の体は急激に変化を始めた。細胞の大部分はその変異に耐えきれず異常分裂の末に生命活動を終えてしまった。
だがその中でごく僅かに、その変異に耐えきった細胞があった。変異と遺伝子の流入が奇跡的に絡み合い、滅びる事無く強靭な遺伝子を持つ細胞として生まれ変わったのだ。
そしてその細胞を基に、雄成はここに再び誕生した。それは正しく、自身を燃やしてその灰の中から雛として蘇る不死鳥の様。
それを現すかのように、再び立ち上がった雄成はその背に鳥の様な翼を広げた。
舞い散る羽根を見て、デイナがポツリと呟く。
「あれは、そう……言うなれば、超越生命体……」
「人間とも、ファッジとも、新人類とも違う新たな生命、ですか?」
「……うん」
「――――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
全ての遺伝子を従え蘇った、その名も超越生命体・雄成。
それは正しくパンドラの箱から飛び出た災厄の全てを内包した、世界に災いをまき散らす悪夢のような存在の誕生であった。
対して、挑むデイナはパンドラの箱の奥に残されていた希望を掴み生まれた新時代の担い手。
世界の命運を賭けた、希望と災厄の戦いが今始まろうとしていた。
という訳で第64話でした。
雄成の目的は、蘇らせる妻の絵里が生きて行きやすい世界を作る事でした。その為に人間を新人類にする手段を探し続け、仁が新人類に覚醒したことでその糸口を得る事になりました。
一度はカラミティに勝利した仁と亜矢でしたが、最終決戦がこの程度で終わる訳がありません。本番はこれからです。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。