最終決戦その2、前回は描かれなかった各地の戦いも描かれます。
時は少し遡り――――――
「ハァッ!」
「オラァッ!」
ヘテロはサクリスと戦いながら、研究所の奥へと戦いの場所を移していた。素早く動く上に姿を消すサクリスの相手をしていると自然と動いてしまったというのもあるが、最大の理由は別にあった。
それは彼女が扱う武器だ。テイルバスターはそれ自体が大きい上に、銃撃モードでは攻撃範囲の大きい炸裂弾を使用している。周りに味方が入り乱れる乱戦状態で使えば敵だけでなく味方まで巻き込んでしまう。故に戦いの場所を変える必要があったのだ。
ヘテロとサクリスはテイルバスターと銃剣モードのベクターリーダーで切り結び合う。
「そうら、よ!」
「ぐぅっ!?」
戦いの中で、ヘテロはサクリスに違和感を覚えていた。以前本社ビルで戦った時よりも明らかに強くなっている。戦い方は完全に力任せなのだが、その力が以前とは比べ物にならないくらい上がっているのだ。今の一撃だって、以前なら十分に防げるはずの一撃だった。
救いなのはサクリスには技術もへったくれもない事だろうか。完全にサクリスのスペック頼みの戦いで、力を活かしきれているとは言い難い。
「いつつ……シトシン、アンタあの後体弄った?」
ライダーシステムの方に手を加えたことも考えたが、雄成がやるならライダーシステムの改造より人体改造の方が可能性が高かった。シトシンは既に多少なりとも手を加えられているし。
「へへ、気付いたか? そうさ、あの後お前を徹底的にぶちのめす為にプロフェッサーに再改造してもらったのさ。っつってもやったのは例のレトロウィルスの試作品を打っただけだがな」
「……って事はアンタ、今新人類になってるの!?」
「そう言う事だ! 不完全なお前とは違う、正しい新人類だ!」
シトシンが本当の新人類かどうかは別として、厄介な事になったのは変わりがないとヘテロは仮面の奥で苦虫を噛み潰したような顔をした。
今のシトシンは言ってしまえば廉価版の仁みたいなものだ。仁であれなのだから、促成栽培の様な感じで体を作り替えられたとはいえ今のシトシン――サクリスはかなり危険な相手と言えた。
どう攻略したものかとヘテロが悩んでいると、サクリスがベクターリーダーで斬りかかって来る。それをヘテロはテイルバスターで受け止める。
「無駄ぁっ!」
しかしサクリスは先程よりも更に力を込めて銃剣を振るった。その結果、テイルバスターは弾き飛ばされヘテロの手から離れていき、離れた所へと落ちた。
無防備となったヘテロの胴体を、サクリスは腰の付け根から生えたネズミの尾で薙ぎ払った。
「ぐぅっ!?」
「逃がすかよ!」
殴り飛ばされ壁に叩き付けられるヘテロに、サクリスは脚力を活かして一瞬で接近すると一番柔らかい腹に銃剣を突き刺し壁に磔にした。
「がぁっ?!」
「へへへっ!」
〈ATP Full blast〉
「死ねよ!」
右手のネズミの頭を模した籠手の口が開き、ヘテロの左肩に食らいつく。万力を遥かに超える力と鋭い牙がヘテロの右肩の装甲を噛み砕きその下の肉を食い千切る。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「フン!」
「ぎぁっ?!」
左肩を大きく抉り取られ悲鳴を上げるヘテロに構わずサクリスは彼女の腹に刺さった銃剣を引き抜く。曲がりなりにも自分を支えていたものが無くなり、その場に崩れ落ちそうになったヘテロだがサクリスは彼女が倒れる事を許さない。
尻尾で倒れそうになった彼女を掴むと床と壁に叩き付け、そのまま遠くに放り投げた。
「がはっ?! あぐ、うぅ……」
左肩を食い千切られた上にあっちこっちに体を叩き付けられ、ヘテロは満身創痍となった。防御力が自慢のヘテロだったが、耐えられるダメージにも限界はある。今のサクリスの攻撃力はヘテロの防御力を上回っていた。
「く……うぐっ!? うぅ……あぁ……」
ヘテロは右腕だけを使って何とか立ち上がる。左肩を食い千切られたからか、左腕が全く動かない。出血も酷く、意識が朦朧としてきた。ちょっとでも気を抜くと意識が飛びそうだ。
それでも彼女は堪えた。サクリスに負けるのは癪だったし、何よりも彼女には帰りを待ってくれている人が居る。リリィとレックス……あの2人の為、あの2人が平和に暮らせる世界を守る為、ヘテロはここで負ける気は毛頭なかった。
「粘るねぇ、もう勝負は殆どついたようなもんじゃねえかよ」
「がっ!?」
負けたくはなかったが、サクリスの言う通り勝負は殆どついたも同然だった。サクリスは尻尾でヘテロを壁に叩き付けると、首を左手で掴み押さえつけた。
「この……離、せ……」
押さえつけられながら自由に動く右手でサクリスを殴るが、力の乗っていない攻撃では今のサクリスには通用しない。自分が圧倒的強者の立ち位置に居る事に機嫌を良くしたサクリスは、ベクターリーダーを左腰に収納してホルスターと拳銃に分離させると銃口をヘテロの腹――先程突き刺してまだ傷が癒えていない部分に押し当てた。
「ま、待て――」
サクリスが何をするつもりなのかに気付いたヘテロが思わず制止の声を上げるが彼は構わず引き金を何度も引いた。放たれる銃弾がヘテロの腹の傷口を抉り食い破った。
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ?!?!」
「はっはっはっはっはっ!」
血を吐きながら悲鳴を上げるヘテロの姿が面白いのかサクリスが高笑いする。そのままサクリスはヘテロの腹に銃撃し続け、銃弾が撃ち込まれる度に彼女の口からは悲鳴と血が同時に吐き出された。
目を覆いたくなるような光景。サクリスが銃撃を止めた時には、ヘテロは悲鳴一つ上げず首を掴まれて吊り下げられるだけとなっていた。
「んん? 死んだか?」
まだ変身は解除されていないが、サクリスが銃のグリップで彼女の頭を小突いても何の反応も返ってこない。口元と肩、腹の傷口からは夥しい血が零れ落ち足元には血の海が広がっていた。
何の反応もしないことにサクリスはつまらなそうに溜め息を吐き明後日の方に目を向けた。
「ちっ、つまらねぇ。頑丈なだけが取り柄だった筈なのにもう壊れたのか」
ヘテロを貶すサクリスだったが、彼は気付いていなかった。自由に動く彼女の右手がそっとサクリスの左腰のホルスターに伸びている事に。
そして――――
「あ……」
「ん?」
「アンタって、本当に……馬鹿よね」
一瞬の隙をついてサクリスの腰からホルスター剣を引き抜くと、それを先程のお返しとばかりにサクリスの脇腹に突き刺した。ホルスター剣はどちらかと言うと取り回しに優れている。この至近距離でも、サクリスの防御力なら貫いて脇腹を貫くことも可能だった。
「ごあぁぁっ!?」
脇腹を貫かれた事に、サクリスは怯みベクターリーダーを落としヘテロの首からも手を離した。解放されたヘテロはそのままサクリスを押し返し、ブレイドライバーに手を伸ばした。
〈HORSESHOE Burst〉
「んのぉっ!!」
「がぁぁっ?!」
押し返され体勢を崩しながらも、脇腹に刺さったホルスター剣を引き抜こうとするサクリスにトーンインパクトが突き刺さる。胸部装甲を大きく傷つけられ、壁に叩き付けられたサクリスはそれでも尚気合でホルスター剣を引き抜くとレセプタースロットルを引いた。
「デ、デメェッ!?」
〈ATP Full blast〉
生み出されたエネルギーがホルスター剣に集まり、サクリスが剣を振るうと光の斬撃となってヘテロに飛んだ。
迫る光の刃。ヘテロはそれを避ける事無く、次の必殺技で受け止めた。
〈TURTLE Burst〉
「くっ!!」
光の刃とシェルブレイカーがぶつかり合う。受け止めているヘテロの甲羅が徐々にひび割れ始めたが、完全に砕ける前にヘテロが軸をずらして攻撃の軌道を逸らし明後日の方へと受け流した。
「何ッ!?」
「まだまだ――!」
〈CROCODILE Burst〉
続いて放たれたバイトクラッシュ。両足をワニの口の様に開きサクリスを噛み砕こうと迫る。サクリスはそれを落としたベクターリーダーを拾い上げて放つ銃撃で迎え撃つが、銃弾よりもヘテロの両足の方が強いのか弾かれた。
そしてそのままサクリスに迫ったヘテロは、両足でサクリスを挟み締め付けながら何度も床に叩き付けた。
「あがっ!? ぎあっ!? ぐ、あ、止め――?!」
制止の声も聞かず何度も床に叩き付け、最後に放り投げる。放り投げられたサクリスはヘテロに負けないほどの満身創痍となりながら、このまま負けてなるものかと立ち上がった。
「テメェ……殺す! 絶対、殺す! あのガキ共もだ! 死んだお前を見せつけて男のガキの前で女のガキを弄んでから殺してやる!!」
〈ATP Full blast〉
怒りに任せて殺意を口走るサクリスだったが、彼は言ってはいけないことを言ってしまった。今のヘテロの前でリリィとレックスを害する事を口にする。それはヘテロの脳内のリミッターを外す事に繋がった。端的に言えば、今のサクリスの一言でヘテロもキレた。
「――――させるかクズがぁぁぁっ!!」
〈HORSESHOE × TURTLE × CROCODILE Mixing Burst〉
サクリスがデッドエンドアタックを放つよりも早くに、ヘテロがインクリュード・シュートを放つ。ワンテンポ遅れてサクリスが放ったデッドエンドアタックと、ヘテロの必殺技がぶつかり合う。
勝負は一瞬で決した。ただの飛び蹴りのデッドエンドアタックに対し、インクリュード・シュートは連続蹴り。何度も放たれる蹴りがサクリスの飛び蹴りを正面から砕き、その勢いを殺さず続いて放たれる蹴りが次々とサクリスの体に突き刺さる。
「うぐぉ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ヘテロの連続蹴りは廊下の端に届くまで続いた。その間サクリスは徹底的に蹴られ続け、両足、両腕、腰から胸部装甲まで体の全てを粉々に砕かれた。その威力はサクリスの中に存在する超万能細胞の回復力を上回り、蹴りと同時に放たれたエネルギーがサクリスの細胞を全て焼き尽くす。
「あぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
トドメの一発を叩き込むと同時に、サクリスは壁に叩き付けられる。必殺技を放ち終えたヘテロが床に着地すると、それに合わせたようにサクリスが前のめりに倒れた。その全身からは明らかに危険な火花が上がっている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「そ、そんな……馬鹿な。俺、俺が……あんな奴に、負ける? 死ぬのか? 俺が?」
「そう言う事よ。安心しなさい。そう遠くない内に私もアンタと同じところに行ってあげるから。向こうであったら、今度は素手でぶん殴ってやるから楽しみにしてなさい」
「くそぉぉぉぉぉっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
断末魔の叫びを上げながら爆散するサクリス。彼が木端微塵に吹き飛んだ後には、残骸以外何も残っていない。あれでは再生は絶対にしないだろう。
「はぁ、はぁ…………。ざまぁ……見、ろ」
サクリスを倒した事を確認すると、ヘテロはその場に崩れ落ち同時に変身が解除される。
本当はこのままスコープ達の援護に向かいたかったが、生憎ともう指一本動かせない。残念だがここまでだ。
「ごめん、皆……。後は、任せた……」
せめて仲間たちの勝利を願いつつ、倒れた希美はそのまま意識をゆっくりと手放していった。
***
エレベーターホール近くでは依然としてS.B.C.T.とステイク率いるヌーベルファッジとヴェロキラプトルファッジの混成軍団との戦いが行われていた。
ライトスコープとヴェロキラプトルファッジが行う銃撃戦の中を突っ切って接近してくるヌーベルファッジ。迫るヌーベルファッジが爪や牙、尾で攻撃してくるのをライトスコープ達は互いにカバーし合いながら迎え撃つ。
「ぬあぁぁぁぁぁっ!」
「くぅぅぅぅっ!」
その戦いの間を縫うようにしながら、スコープ1号とステイクが激しい戦闘を行っていた。
スコープ1号の振り下ろすボルテックスブレードを、ステイクはホルスター剣で受け止める。
鍔競り合いになりどちらも足を踏ん張り退く気配を見せない。
至近距離で睨み合いになる中、スコープ1号はどうしても気になっていた事を口にした。
「一つ聞かせろ」
「何だ?」
「お前は本当に傘木 雄成と血縁関係があるのか?」
傘木社と敵対するに当たって、S.B.C.T.は当然雄成の身辺調査も行った。役所などで確認できる範囲ではあるが、調べた限りでは雄成には既に
では、雄成の事を父と言う勇夫は一体何者なのか?
その問い掛けにサクリスは鼻を鳴らして答えた。
「ふん、そんな事か。簡単な話だ。俺は死んだ直後の母さんの腹の中から取り出されたんだ」
「何? だがそれなら何かしら届け出が出てる筈じゃ……」
「出てる筈がない。医者は俺も母さんと共に死んだと判断したんだからな」
雄成の妻・恵里が死亡した時お腹の中には既に子供がいた。だが医者の診断では、母体の死亡と共にお腹の中の子供も帰らぬ人となる筈だったのだ。しかし雄成は諦める事をせず、恵里の死後身内で葬儀の為と遺体を引き取り、そして自分で遺体の腹を切開するとお腹の中の我が子を取り出した。
もう15年前の話だ。
「ちょっと待て、お前の今の姿と嚙み合わないぞ。お前はどう見ても15歳じゃ…………ッ! まさか!?」
「そう、そのまさかだ。俺は、父さんと白上教授が見つけた超万能細胞のプロトタイプ、その最初の被検体となったんだ」
遺体から取り出された時、勇夫は確かにまだ生きていた。だがそのままでは確実に死に行く儚い命だった。それを雄成は、低い可能性に賭けて超万能細胞のプロトタイプを注入することで生き永らえさせたのだ。
そこで雄成は希望を見出した。これを改良していけば、死んだ妻をも蘇らせる事が出来ると。
それから雄成は表向きは白上教授と共に普通に超万能細胞の理論を固めるべく研究を進める傍ら、超万能細胞を死者蘇生に使えるよう独自に研究を重ね続けた。ファッジの技術はその副産物である。
だがそれも次第に限界が来た。資金と被検体の問題だ。
小さな研究室では出来る事に限界がある。それを察した雄成は司を引き込もうとして断られ、邪魔になると判断して始末すると白上教授とも袂を分かった。
その後は知っての通り、独自の企業傘木社を作り出し、巨大企業にまで成長させその資金と権力を使って超万能細胞の研究を続けていたのである。
「俺はその父さんのサポートをする為に調整を施された。成長を促進され、徹底した教育を受けた」
話しながらステイクはボルテックスブレードを弾くと、左手にドリルを作り出しそれでスコープ1号の胸を突いた。スコープ1号は胸部装甲を抉られ火花を散らしながら後ろに倒れる。
「うぐぁっ!?」
倒れたスコープ1号の腹を、ステイクは踏み付けドリルの先端を首元に突きつける。
「ぐぅっ!? お、お前はそれでいいのか? 人生を自分の父親に好きなように使われて。自分の思うように生きたいとは思わないのか!」
踏み付けられ武器を向けられ、絶体絶命の状況に追い込まれながらもスコープ1号は語り掛ける事を止めなかった。彼からすればステイク――勇夫も雄成の被害者であり、父により人生を歪められた悲しい男に見えた。
しかしそれは第3者から見た客観的な考えに過ぎない。当の本人は違う考えを持っていた。
「俺は構わない。俺だって、母さんに会いたいんだ。お前に分かるか? 生まれた時には母が死んでいて、一度も抱かれることなく見ているしかできないこの寂しさが」
「そ、それは……」
「俺はこの体にしてもらった事を父さんに感謝している。これで俺は、母さんを自分の手で蘇らせることが出来る。鳥の雛の様にただ口を開けて待っているだけではない、自分の力で求めるものを手に掴むことが出来るんだ。こんなに素晴らしい事があるか?」
それはもしかすると、雄成によって都合よく刷り込まれた考えかもしれない。成長を促進され教育される過程で、都合よく動く様に洗脳された結果の可能性も大いにあった。
だがそれでも、勇夫は母を求めていた。求める母が手に入るならば、例え洗脳されていたとしても勇夫は満足だった。偽りであっても、そこにある使命感と先に待つ幸福は本物であるのだから。
「だから俺は世界を変える。父さんと共に世界を変え、母さんの温もりを手に入れる」
〈ATP Full blast〉
ステイクはスコープ1号にトドメを刺すべく、レセプタースロットルを引き左手のドリルを突き刺そうと後ろに引いた。
「その為の障害は…………消えろ!」
そして放たれるデッドエンドアタック。高速回転するドリルがスコープ1号の首を抉ろうと迫っていった。
「――――だとしてもだ!」
しかしそれを甘んじて受けるほど、スコープ1号も諦めはよくはない。放たれた刺突に対し、彼はボルテックスシールドを斜めに構えて滑らせるようにして刺突を受け流した。
「何ッ!?」
必殺の一撃として放った刺突を受け流され、流石の彼も動揺し思考が一瞬停止する。
そこにスコープ1号は畳みかけた。ガンマライフルの銃口を突き付け、至近距離からの銃撃を叩き込んだ。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
ステイクの体は柔軟性と硬質さを併せ持った防御力に優れたライダーだが、それでもこの至近距離からの銃撃は無力化しきれるものではない。しかも今ガンマライフルに装填されている銃弾は、度重なる戦闘のデータを使って新たに製作された最新鋭の物。ステイクが相手であっても十分な効果があった。
堪らずステイクは足をどかし、スコープ1号から距離を取る。
自由の身になったスコープ1号は立ち上がると、シールドからキープレートを引き抜き裏返して再びシールドに装填した。
〈Vortex・Gun Starting〉
刀身が引っ込み代わりに銃身が伸びた盾を構え、ライフルと合わせて3つの銃口をステイクに向ける。銃口を向けられたステイクは反撃しようとベクターリーダーを向けるが、彼が引き金を引くよりも早くにスコープ1号の3つの銃口が火を噴いた。
苛烈な弾幕がステイクに襲い掛かる。ステイクも銃撃を返すが、彼の銃撃はスコープ1号の銃弾の嵐を前にかき消され押し流された。
「うぐっ!? ぐ、お、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
無数の銃弾がステイクの装甲もアンダースーツも抉っていく。決して油断できる相手ではないのでスコープ1号はステイクを撃ち続けた。ステイクがベクターリーダーを落とし、その場に膝をついてもまだ撃ち続けた。
スコープ1号が銃撃を止めたのは、ガンマライフルもボルテックスガンも弾切れを起こした時だった。その時にはステイクは見る影もなく、全身がボロボロの状態で膝をついていた。それでも倒れないのは、執念によるものか。
「俺は……俺は、手に入れるんだ。父さんの、思い描く……栄光を。……母さんの、温もりを……」
「……母の愛を求める事に罪はない。だがな……」
〈Recognition〉
「ぐ、ぐぅ――――!」
〈ATP Full blast〉
エンドクラッシュを発動するスコープ1号に対し、ステイクも迎え撃つべくデッドエンドアタックを発動した。
「……だからと言って何をしても許される訳じゃない。お前らは踏み越えてはならない一線を越えた。それだけの話だ」
「~~~~!? あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
正論に言い返すことが出来ず叫びながら技を放つステイクに、合わせるようにスコープ1号が飛び蹴りを放った。
同時に放たれた飛び蹴り、しかしそれがどちらに軍配が上がるかは一目瞭然だ。ステイクの飛び蹴りには見るからに勢いがなく、大した威力が出る様には思えない。
案の定ステイクのデッドエンドアタックはスコープ1号のエンドスマッシュと拮抗する事も出来ず、正面から蹴り砕かれて叩き付けられた。
「ぐ、うあ、あぁ……」
ステイクは前のめりに倒れながら変身解除され、傷だらけの姿で床に倒れた。
倒れた勇夫を、スコープ1号はあまり負担を掛けないように仰向けに寝かせた。
「か、母さん……母さん。一度で、一度でいいから……母さんに、抱きしめて、もらいたかった……」
勇夫には隠蔽装置が仕込まれていなかったらしく、変身解除に追い込まれたにも拘わらず体が燃え上がらない。
倒れた勇夫は、その場にいない母に向け手を伸ばし、そして力尽きたのかゆっくりと手を下ろしそのまま動かなくなった。
思えば勇夫も憐れな男だ。父により生き方を決められ、十分に人として学ぶべきことも学ぶことが出来ず罪だけを重ねて妄執を抱きながら死んでいった。
もっと他の生き方があっただろうに…………。
「……はぁ」
今更考えても仕方がない。スコープ1号は色々な思いが籠った溜め息を吐き、未だ戦闘を続けている部下の方に向かっていった。
***
そして時は戻り、超越生命体・雄成と対峙したデイナとルーナ。
2人が見ている前で、雄成は変異した自分の新たな体を一通り見渡した後、顔を上げて2人の事を見た。
次の瞬間、雄成の姿が掻き消えたと思ったらルーナが殴り飛ばされ壁に叩き付けられた。
「あぐっ?!」
「ッ! 亜矢さん!」
全く姿を捉える事が出来なかった事に驚きながらも、頭は冷静に雄成の危険性とすぐ近くに居る事に反撃を考え上段回し蹴りをお見舞いした。雄成は自分の顔を狙って飛んでくる回し蹴りを体を逸らすことで回避し、視線が外れた事で本来なら見る事が出来ない腹を狙った拳による連撃を空気の流れで感知し躱した。
立て続けに攻撃が躱された事……特に蹴りの後に放った拳が躱された事に息を飲みつつ、二度目の回避で完全に体勢が崩れた雄成にマフラーを伸ばし殴り飛ばす。
雄成が遠くに離れたのを見て、デイナは壁に叩き付けられたルーナの元へ駆け寄った。
「亜矢さん、大丈夫?」
「げほっ!? げほっ、げほげほっ!? ごほっ!? な、何が?」
「とんでもない瞬発力だ。今の雄成さんは地球上の全ての生物の能力を持ってると言ってもいいのかもしれない」
全ての生物の遺伝子を超越し、取り込んだ今の雄成を相手にすることは即ち何十億年と続いた地球の生物史と戦う事に等しい。
そんな奴が相手になったという事に、ルーナは仮面の奥で顔を青くせずにはいられなかった。
「亜矢さん、頼みがあるんだ」
「え?」
「すぐに白上教授達に、ミサイルの発射システムにアクセスして止めるように言ってほしい。その間に俺は雄成さんを倒すから」
カラミティを相手に勝利を収める事が出来たデイナだが、今の雄成はカラミティなど比べ物にならない強さを有している。きっと、方向性は違えど能力的にはデイナと同等かそれ以上かもしれない。それでもデイナに負けるつもりはなかったが、勝つ為には余計な事を考えず戦う事に集中しなければならなかった。デイナの全能力を使わなければ、勝てる見込みがないほどの相手なのだ。
故に、ルーナに白上教授達の事を任せなければならなかった。
ルーナ――亜矢はそれを言われた時、一瞬反発しようとした。あんなのを相手に1人で戦うなど無茶だと。相手が強いから、自分を傷つけないように遠ざけようと言うのかと詰め寄ろうとした。
が、真矢がそれに待ったを掛けた。仁は自分達の事を信じてくれている。信じてくれているからこそ、安心してミサイルの事を託し雄成との戦いに集中できるのだと。
そう言われては、亜矢としても頷かない訳にはいかなかった。
「うん……分かりました。教授達には必ずこの事を伝えて、ミサイルを止めてもらいます。だから仁くんも、頑張ってください」
「ん……任せて」
2人は顔を近付け、額をコツンとぶつけ合わせた。今キスする余裕はないから、これが代わりのスキンシップ。
最愛の相手との触れ合いを終わらせると、ルーナは先程開けた穴から出ていきデイナはこちらに歩いてくる雄成と改めて対峙した。
デイナに近付きながら、雄成はむき出しの顔に複眼と甲殻を作り出し顔を仮面の様に覆った。その姿は最早仮面ライダーである。
どちらも無言で相手に近付いていく。拳も握らない自然体でゆっくり歩き、正面から相対するその様子は戦おうとしているようには見えない。この後互いに気安く手を上げて挨拶しても違和感のない雰囲気である。
互いに相手に近付き、もう手を伸ばせば相手に触れられるという距離まで近づいた。
瞬間――――
「「ッ!」」
互いに目にも留まらぬ速度で拳を振り抜き、相手の顔を殴りつけた。
モンハナシャコと言うシャコの仲間は、目にも留まらぬ速度のパンチを繰り出せることで有名だ。今2人が再現したのは、互いにそのモンハナシャコのパンチである。
モデルとなったそれを大きく上回る速度で互いに相手を殴り合った2人は、脳を揺さぶられながらもそのまま次の一手を出し合った。
「く、はっ」
デイナは手からクモの糸を出し、雄成の動きを絡め取ろうとした。まずは相手の動きを止めなければならない。
体に粘着性・伸縮性の高い糸が付着し動きを止められる雄成だったが、彼は即座に脱皮をすることで拘束を逃れてしまう。
そしてお返しとばかりに電気ウナギの発電器官を作り出し、強烈な放電をデイナに向けて飛ばした。
雄成の細胞の動きを感じ取り放電が飛んでくると察したデイナは、ハイギョの能力を使って全身に粘膜を分泌。さらにその粘膜には絶縁性のある脂肪分を含ませることで、放電によるダメージを部屋の床に逃すことで防いだ。
自在に能力を生み出し対応する戦い方では一進一退、否、互いに頭が回る為即座に対応できてしまうから千日手となってしまう。これでは勝負がつかない。
「雄成さん、こんな戦いはつまらない。拳と拳で勝負しない?」
「……いいだろう」
このまま勝負のつかない戦いを続ける訳にはいかない。デイナは一か八か、雄成を肉弾戦による戦いに誘った。雄成の側には戦い方を変える事に対するメリットがないので乗って来るかは賭けだったが、思いの外あっさりと雄成は誘いに乗って来た。
それは恐らく、肉弾戦でも負けない・勝てると言う自信の表れだろう。
そして実際、その雄成の自信は正しかった。
互いに拳を握り、拳と拳をぶつけ合うデイナと雄成。最初拮抗し互角かと思われたが、それは一瞬の事で雄成のパワーがデイナのそれを上回ったのか押し負けたデイナが拳ごと殴り飛ばされた。
「うぐぁっ!?」
雄成の本気を出したパワーは凄まじく、今の一撃でデイナの右腕は骨まで砕かれた。だらりとぶら下がる右腕を見て、デイナは激痛とは違う意味で顔を顰めた。
「――億を超える年月の積み重なった生物史と地球上の全生物の力は流石って事か」
「諦めるかね?」
「まさか」
デイナは即座に右腕の修復を行った。高速で骨・筋組織・神経を修復しているので、粉砕された時と同じかそれ以上の激痛に襲われるが構っている暇はない。
「いぎっ、ぐ、くぅぅぅぅ――――! くっ、はぁ……はぁ……」
物の数秒で粉砕された右腕を治し、構えを取るデイナ。
雄成と対峙しながら、デイナは自分の体を作り直した。筋肉はより柔軟で強靭に、鎧はより軽く強固に。反応速度・思考速度も可能な限り底上げを図った。
肉体の再構築を数秒で終わらせ、デイナは雄成に飛び掛かる。振り下ろされた拳を受け止めた雄成は、先程のそれを超える威力に一撃で防御に使った腕を粉砕された。先程のお返しだ。
「く、やるじゃないか。ならここからは本気で行こうか」
粉砕され消失した腕を雄成は即座に再生させた。トカゲなんかは自切した尻尾を再生させる事が出来るが、雄成の再生速度はトカゲなんかのそれを遥かに上回る。
つまり、雄成を倒したければあの回復速度を上回るダメージを与えなければならないのだ。
幸いな事に、デイナにはそれが可能だった。今の雄成は全身を超万能細胞で構築されている。つまり、デイナのアポトーシスフィニッシュであれば全ての細胞の活動を停止させ死に追いやる事も可能だった。
問題は雄成がそれを絶対に許さないだろうという事だが…………。
「やるしかないか…………!」
驚異的な瞬発力で一気に雄成に接近し、高速でパンチを繰り出すデイナ。雄成はそれをスウェーで回避し、身を低くすると水面蹴りでデイナの足を狙った。当たれば足を払われるどころか引き千切られるだろう一撃を、デイナは軽くジャンプする事で躱し落下の勢いを乗せて拳を叩き付ける。床を抉るほどの一撃だが、雄成は紙一重で回避してしまう。
そしてデイナが床に突き刺さった拳を引き抜くより早く、彼の顔面を狙って放たれたアッパーカットが直撃した。
「うぐっ?!」
顔を潰されるのではと言う一撃だったが、デイナはデイナで全力で顔を放たれたアッパーと同じ方向に向けて上げていたので見た目ほどにダメージはない。
そしてアッパーカットを放った直後で隙を晒す雄成を睨むと、がら空きの腹に正拳突きを叩き込んだ。
「ごぼっ?!」
内臓を潰されるほどの一撃を受けて尚、雄成は倒れる事無く即座に反撃を繰り出す。潰された内臓を修復しながら放たれたフックは、デイナの左肩を粉砕し血を噴き出させた。
「ぐ、あぁぁぁぁっ!」
反撃を受けながらも、デイナは攻撃を止めない。自分の左肩を殴った雄成の手を掴み、殆ど腕の力だけで後ろに叩き付け更にはその反動を利用して今度は前に叩き付ける。
互いにダメージで血を流しながら相手を攻撃し続ける2人。譲れないものがあるからこそ、2人は一歩も退くことはなかった。
「――――君と私は、本当にそっくりだ」
戦いの最中、雄成が静かに語り掛けてくる。
「まるで鏡合わせ。お互いの姿を見て初めて本当の自分が見えてくる」
「もし何かが違っていれば、私と君は逆の立場だったのかもしれない。そう思えるほどに似ているな」
雄成の拳がデイナの胸板に直撃し、胸部装甲が弾け血が噴き出す。ダメージに思わずたたらを踏むデイナだが、そこを踏ん張り握った拳を雄成の顔面に叩き込んだ。雄成の複眼の片方が潰れ、デイナの手を赤く染め上げる。
「そうかもしれない。俺もそう思うから」
「だからこそ俺は雄成さんを否定する。俺は俺だ、雄成さんじゃない。雄成さんの様にはならない」
「俺は俺の生きる世界の為に、あんたを倒す」
「やってみたまえ!」
互いの拳が相手の頬を殴りつける。クロスカウンターの形になった2人は、吹き飛ばされそうになるのを堪え拳を相手の頬に突きつけ合った。
その時、地下研究所全体にアナウンスが響き渡った。
『全職員に告げます。ミサイル発射まであと5分を切りました。危険区画に居る職員は直ちに退避してください。繰り返します――――』
「ッ!?」
耳に入って来たアナウンスに、デイナは咄嗟に雄成から距離を取った。もうそんなに時間が経っていたとは。タイムリミットが5分を切ってしまった。ミサイルの事はルーナと白上教授達に任せはしたが、やはり動揺は隠せない。
「ふふっ、もう直ぐだ。もう直ぐ、また恵里に会える――!」
「くっ」
とにかく今は雄成を倒す。話はそれからだ。
デイナが雄成に向けて駆け、飛び蹴りを放った。蹴りが雄成に直撃するかと思われた次の瞬間、横から飛び込んできた何者かがそれを妨害した。
「ぐっ!? ん、なっ!?」
雄成への攻撃を妨害した者、それは雄成だった。雄成が2人いる。
「何時の間に分裂……いや、さっきの抜け殻か」
デイナはその2人の雄成のタネに気付いた。片方は先程動きを拘束しようとして糸を絡ませた時に雄成が脱ぎ捨てた抜け殻だ。その抜け殻の中に戦いの中で飛び散った血液や細胞片が集まりもう1人の雄成を形作ったのだ。
事実上2人の雄成との戦い。分身の強さは恐らく本物と大差ないだろうが、本物を倒せば分身も動かなくなる筈だ。
とりあえずどちらか一方を確実に倒す他ない。
デイナはマフラーの一本の構成を変換し、極限まで硬質化させ首元から外し手に持った。即席の剣である。
それを見てか、雄成達は手から血を流すとそれを硬質化させた。ヘモグロビンを血小板で固め、硬質化したそれは常識では考えられないほどの硬度を誇る。立派に剣として使用できるレベルだ。
迫る2人の雄成が振り下ろす血液の剣を、デイナがマフラーの剣で迎え撃つ。剣の強度は五分五分と言ったところ。となると勝負の決め手は一瞬の判断と技術に掛かっている。
素早く互い違いに動き回り、デイナに斬撃を繰り出す雄成達。デイナはそれを紙一重で避け、時に最低限のダメージで抑えつつこちらも小さいながら相手にダメージを蓄積させていく。
だが戦いで勝敗を分ける要因の一つは数だ。デイナが1人なのに対して、雄成は実質2人。その差は覆しようがない。
「あっ!?」
一瞬の隙を突かれてデイナの剣が弾き飛ばされた。衝撃で無防備となる無手のデイナ。
そこに雄成が畳み掛ける。小細工など必要ないと言わんばかりに真正面から2人の雄成が迫り剣を振り下ろしてきた。
剣が振るわれる直前、デイナは雄成の腕を掴み剣が振るわれるのを防いだ。
ならばと2人の雄成は互い違いに剣を振り回しデイナを切り裂こうとした。対するデイナはそれを相手の腕や刀身を拳や蹴りで弾き、時には身を軽く逸らすことで回避する。
上、右、左、正面、左右同時、上と横から、下からと思わせて胴を薙ぐと同時に顔面を突いてくる。
縦横無尽に振るわれる2本の剣を、デイナは最小限の動きで受け流す。今、デイナの動体視力は極限まで高まっており、雄成の動きもそれに合わせて高速化している、彼らの戦いは最早常人の目で追う事は出来ない。
激しい斬撃の嵐。その中で佇むデイナは、嵐の中で僅かに風が凪いでいるところを見つけた。
「そこだ」
1秒にも満たない刹那の隙。その隙を見抜いたデイナは、片方の雄成をアッパーカットで真上に殴り飛ばすと僅かに生まれた余裕を活かしもう片方の雄成が剣を振るう前に蹴り飛ばす。そして最初に上に殴り飛ばした雄成の方に向けてジャンプしながらレセプタースロットルを引いた。
〈ATP Burst〉
「ハァァァッ!!」
「ぬあぁぁぁぁぁっ?!」
拳にエネルギーを収束させてのアポトーシスフィニッシュが雄成の腹に突き刺さる。そのまま勢いを殺さず、床に沈めるくらいの勢いで叩き付けると次に起こるだろう爆発に巻きこまれないよう即座に距離を取った。
直後、床に叩き付けた雄成が爆発四散。こちらが本物であってくれれば、これで勝敗は決するが――――
「残念だったね」
「……しぶとい」
そうは問屋が卸してくれなかった。デイナが今倒したのは分身の方。残った方が本物だった。
本物が分かった事自体は良かったが、状況はあんまり芳しくない。実を言うとそろそろデイナの体力が限界に達しそうなのだ。
様々な能力を生み出すことが出来るのがデイナの利点だが、欠点を上げるとすれば能力を生み出す際にどうしても体力――カロリーを持っていかれる事だった。
この戦いの前、事前にしっかり食事でカロリーを蓄えてきたのだが、雄成の相手は想像していた以上に体力を使う。持って後2~3分、ミサイル発射まで僅かに足らない。
体力が尽きる前に、雄成と決着をつける!
「一か八か、やるしかないか」
この土壇場で、デイナは賭けに出た。意図的に脳内のリミッターを全て外し、押さえていた力を全て解放した。
勿論それは相応のリスクを伴う。脳が体に掛けているリミッターは、人間が自分で自分の体を破壊しないようにする為の安全装置。それを外すという事は、強大な力の代償に自分の命を削る事に等しい。
それを承知の上で、デイナは遺伝子に働きかけ自らのリミッターを全て解除した。
「雄成さん……勝負だ」
その言葉と同時にデイナは動き出す。先程とは比べ物にならないほどの速度、それは適応能力でどうにかできる範疇を越えていた。
雄成もその速度に反応しきる事が出来ず、接近を許すどころか強烈な一撃をあっさりと貰ってしまった。
「ぬぐあぁぁぁぁっ?!」
「ぐ、がはっ!?」
デイナの一撃は雄成を大きく吹き飛ばすほどの威力があったが、その反動はデイナ自身にも襲い掛かる。殴った衝撃が強すぎて自分の腕が破壊されてしまった。ニュージェネレーションフォームの強化された肉体は、自分の肉体を容易く破壊するほど強力だったのだ。
(や、やばい……これは時間を掛けられない)
体力が続かないとかそういう次元ではなく短期決戦の必要に駆られたデイナだったが、雄成はそんな事情など知る由もなく攻撃を仕掛けてくる。
「ぐ、うぅ……まだ、まだだ! この程度で、私はッ!!」
背中からクモの足を生やし、先端にはカマキリの鎌を作り出した雄成はデイナに接近し四方八方から彼を切りつけた。逃げ場のない斬撃は、今のデイナには手に取るように分かったので回避は容易だった。が、その回避の動きすら彼の体を破壊していく。身を逸らし、鎌を拳で弾くだけで全身の筋肉が悲鳴を上げる。
「ぐぅ、か、くく――――!?」
もう体力がどうとか肉体の限界とかを考えている場合じゃない。デイナはすぐに修復する事を考え雄成を殴り飛ばすと、リミッターを元に戻しレセプタースロットルを引いた。
「はぁ、はぁ、くっ!!」
〈ATP Burst〉
「ぐぅ、あぁぁぁぁぁっ!!」
これで最後にすると、デイナがアポトーシスフィニッシュを発動し飛び上がると雄成も受けて立つと右足にエネルギーを収束させて飛び上がった。
「ハァァァァァァァッ!!」
「オォォォォォォォッ!!」
2人の飛び蹴りが空中でぶつかり合うと、瞬間激しい炎を上げて爆発した。拮抗する余裕もないほどのエネルギー。2人の攻撃のぶつかり合いは、部屋の壁を全て吹き飛ばし他の部屋と繋げるほどの威力があった。
「がはっ!?」
「うぐぅっ!?」
互いの攻撃で吹き飛ばされる2人。共に満身創痍で立ち上がる事もままならない様子だがそれでも雄成は立ち上がった。そして取り落としていた剣を拾うと、足を引きずりながらデイナに近付いていく。
一方のデイナはと言うと、こちらは先程の無理が祟ったのか立ち上がる事が出来ない。足が動かないのだ。
立てないデイナに、雄成が死刑執行人の様に近付いていく。迫る雄成を見ながら、デイナは必死に自らの体を鼓舞した。
(動け、動けよ俺の体!)
雄成がデイナの目の前に立った。手にした剣を逆手に持ち、ゆっくりと持ち上げる。
(動け、動け! 動け動け動け動け動け、動け!!)
そして振り上げられた剣が、デイナに勢いよく振り下ろされた。
「動けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
自分の体に自分で命令を下す。その瞬間、デイナの手が振り下ろされた雄成の剣を掴み取った。
「何ッ!?」
まさか手で掴まれるとは思っていなかったのか、動揺して動きを止めてしまう雄成。
そこからの出来事は一瞬だった。デイナは掴んだ剣を握り潰すと、立ち上がると同時に拳を雄成の胸に突き刺し心臓を鷲掴む。そしてその状態でレセプタースロットルを引き、生み出したエネルギーを直接雄成の心臓に送り込んだ。
「ウッ!? ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「うぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!」
限界までエネルギーを雄成の体の中に流し込みながら、遺伝子操作を行い雄成の生命活動を停止させる。雄成の方も必死にそれに抗うが、体内に直接エネルギーを流し込まれてはどうしようもない。
デイナが雄成の体内にエネルギーを流し込んで数秒ほど。唐突に雄成の声が止まった。死んだのだ。デイナの決死の行動が、遂に雄成を倒したのである。
動かなくなった雄成から、デイナは突き刺した右手をゆっくりと引き抜く。
デイナが手を引き抜くと、物言わぬ躯となった雄成がゆっくりと倒れた。
それをデイナは静かに見下ろしていた。
という訳で第65話でした。
シトシンの最期はこうなりました。最初に考えていたバージョンだと、負けてもまだ死んではいなくて、実験動物を入れる研究室に逃げ込んだところで希美に鎮圧用液体窒素をかけられて死ぬと言う末路でした。書いてる内にそこまでやる余裕がなくなったのでこうなりましたが。
一応今回がラストバトルですが、振り返ってみるとスコープはボロボロになりながらの勝利っていう構図があんまりなかったな。ある程度の余裕を残して勝つか、ボロボロになって負けるかのどっちかだった気がする。
次回は遂に最終話となる予定です。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。