仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

気分が乗ったので、今回は前回までよりも早くの更新となりました。

今回はデイナの新たな装備と、新たな力のお披露目となります。

それではどうぞ!


第4話:ゲノムチェンジ

 飛行形態のトランスポゾンで現場近くに向かった仁は、程よい所で地上に降り道路上を走った。状況が状況とは言え、目立ちすぎるのは良くない。

 

 走り心地は流石モンスターマシンと言うだけあってなかなかにじゃじゃ馬な性能だが、運転できない程ではない。走りながら体を慣らし、現場に到着する頃には問題ないレベルにまでなっていた。

 

 だが現場に着いた時、彼はそれを喜ぶ気にはなれなかった。

 

 そこは正に地獄絵図と言う表現が正しかった。

 警察も一般人も関係なく血塗れで、倒れている者ばかりで動く者は殆ど居ない。数少ない生者である警察官も、拳銃で必死にピラニアファッジを攻撃しているがまるで効果が無くあっと言う間に肉薄されると喉笛を鋭い歯で食い千切られた。あれではまず助からないだろう。

 

 その光景に歯噛みする仁だったが、次の瞬間彼の目にとんでもないものが飛び込んできた。

 

 今し方殺された警察官の後ろに、小さな子供が居るではないか。恐らくは逃げ遅れるかしたのだろう。警察官は命を賭して子供を守ったのだ。

 だがこのままではあの子も犠牲になってしまう。現にピラニアファッジは明らかに子供に狙いを定めている。

 

 仁は無言でアクセルを全開にし、その重量と速度を活かして体当たりした。不意打ちだったこともあって、ピラニアファッジは跳ね飛ばされる。

 

「大丈夫か?」

「ひ……ひ……」

 

 ピラニアファッジがどうなったか等確認する事もせず、仁はヘルメットを脱いでトランスポゾンから降りると子供の傍にしゃがみ視線を合わせる。

 子供は自分の周囲で起こった惨劇に完全に委縮しており、仁が話し掛けても怯えてばかりだった。

 

 子供の怯える姿に、仁は一度ピラニアファッジの方を見ると子供の頭を軽く撫でた。

 

「うっ!?」

「安心しろ。大丈夫、俺があいつを追い払ってやるから。ただし一つ、約束してくれ」

「やく……そく……?」

「今から見るものは、絶対に誰にも言わない事。いいな?」

 

 仁はそう言うと、子供の前で立ち上がりピラニアファッジの方を見た。彼の視線の先では、跳ね飛ばされたピラニアファッジが体勢を立て直して歩いて来ていた。

 その姿に悲鳴を上げる子供を、仁は庇う様に仁王立ちして腰にデイナドライバーを装着する。

 

〈BUFFALO〉

〈HUMAN〉

 

 腰に装着したデイナドライバーに、ベクターカートリッジを装填する。

 

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

「変身!」

〈Open the door〉

 

 仁は仮面ライダーデイナ・バッファローヒューマンフォームに変身すると拳を握りピラニアファッジと対峙する。その見るからにヒロイックなデイナのスタイルと、ピラニアファッジを前に微塵も退く気配を見せない後姿に子供は気付けばデイナに見惚れていた。

 

「さぁ、検証の時間だ」

「シャァァァァッ!」

 

 デイナと対峙したピラニアファッジは、彼から感じる気迫に気圧される事無く攻撃を開始する。見た目魚人間だと言うのに、陸上でも思っている以上に素早い。あっという間に接近を許してしまい、鋭い爪が振り下ろされる。

 

「おっと」

 

 デイナはそれを左腕で受け止めると、至近距離から右の拳を叩き込む。脇を絞って腰の捻りで相手を殴る所謂ショートパンチを腹に喰らい、ピラニアファッジは後ろに下がる。

 

 更にデイナは下がったピラニアファッジに追撃を仕掛ける。正拳突きを次々と放ち、時々飛んでくる反撃を手刀で弾き、連続回し蹴りで蹴り飛ばす。

 この連続攻撃はなかなかに効いたのか、ピラニアファッジも動きを鈍らせる。

 

 その光景にデイナはこのまま押し切れるかと思ったが、次の瞬間ピラニアファッジからの殺気が膨れ上がり思わず足を止めてしまった。

 

「ウゥゥゥゥゥッ」

「ん?」

「シャァァァァッ!!」

 

 それが良くなかった。一瞬の躊躇をピラニアファッジは敏感に感じ取り、素早く近付くとすれ違い様に両腕のカッターの様な鰭で斬り付けてきた。その動きは明らかにさっきよりも素早い。様子もどこかおかしく、見て分かるほどに奴は興奮した様子だった。

 

「あの顔立ち……ピラニア臭いな。そう言えばピラニアって血の匂いに敏感で感じ取ると興奮する筈。ヤバいな……」

 

 見渡せば周囲は血を流した人で溢れている。ここは完全にピラニアファッジのフィールドとなっていた。

 

 本当に魚の特性を持つ相手なのかと疑いたくなるくらいの速度で動き回り、すれ違い様に攻撃を仕掛けてくるピラニアファッジにデイナは苦戦を強いられる。何とか反撃するが、興奮のあまり限界を超えた動きをするピラニアファッジの動きに段々と追い付けなくなっていった。

 

 そして遂に、その鋭い歯の生えた顎がデイナの肩を捉えた。

 

「ぐぅっ?! こ、いつ――――!?」

 

 幸いな事にピラニアファッジの牙はデイナの肩を食い千切る事は無かったが、それでも強靭な顎は鋭い歯に装甲を破らせ、その下にある仁の肉体に食い込ませた。

 

 このままでは肩の肉を装甲ごと食い破られるのも時間の問題だと、デイナはピラニアファッジを引き剥がすべくショートパンチを何発も放つが、今度はなかなか離れない。相手が肩に喰らい付いていては、腰の捻りが意味をなさず十分な威力が出ないのだ。

 

 これ以上は流石に不味い。次第にデイナの心に焦りが生まれた時、この場に居る筈の無い者の声が響いた。

 

「門守君!!」

「へ? ふ、双星さん?」

 

 やって来たのはまさかの亜矢であった。

 

 仁が飛び立った直後、どうにも不安が拭えなかった亜矢は無理を言って宮野のバイクを拝借し、全速力で飛ばしてここまで追いついたのだ。

 

 亜矢は走り寄ると、先日白上教授がスパイダーファッジ相手に使ったのと同じ制限酵素をカプセルシューターでピラニアファッジに打ち込んで動きを鈍らせた。

 

 その隙にデイナはピラニアファッジを引き剥がし、殴り飛ばすと取り合えず距離を取って亜矢の傍へを向かい彼女を守るように立ち塞がる。

 

「何で来たの、危ないじゃん」

「危なかったのは門守君の方だったじゃないですか。それより教授からの伝言です」

「伝言? 今?」

 

 何でよりにもよって今なのかと文句の一つも言いたくなったが、先程は時間も無かったし最初は伝言が無くても大丈夫だと思っていたのだろう。つまり、この事態を招いた要因は仁の力不足にもあると言えた。

 

 これ以上考えても仕方が無いと、気持ちを切り替えデイナは白上教授からの伝言に耳を傾けた。

 

「なんでも、トランスポゾンの左右の翼は武器の格納スペースも兼ねているみたいです。専用装備の方も既に完成して入っているそうですので、それを使って欲しいそうです」

「翼の中に武器? んなもん入ってたのか」

 

 デイナは早速トランスポゾンに近付き、コンソールを操作して車体右の武器収納スペースを開く。車体右側のパーツが開き、そこから片刃の機械的な大剣がせり出してくる。

 

「剣? まぁないよりマシか」

「あとこれも」

 

 デイナが大剣――ハイブリッドアームズを手に取り繁々と眺めていると、亜矢がベクターカートリッジを手渡した。

 

「こいつは?」

「急ピッチで最終調整を終わらせた、新しいベクターカートリッジだそうです。それと、この武器ですが――――」

 

 亜矢がハイブリッドアームズの扱い方をレクチャーする。その間にピラニアファッジは制限酵素の効果が切れ、動けるようになった。

 

 ピラニアファッジが動き出したのを見て、デイナは亜矢を庇いつつ子供の方へ向かわせる。

 

「あそこにいる子供をお願い」

「分かりました!」

 

 デイナの頼みを受けて、亜矢は取り残された子供を優しく抱き上げその場から離れる。残されたデイナは、ヒューマンベクターカートリッジを抜き取り新しく渡された水色のベクターカートリッジをドライバーに装填した。

 

〈WHALE〉

「さてと」

〈BUFFALO + WHALE Mutation〉

「ん? ミューテーション? ふむ……」

〈Open the door〉

 

 デイナがベクターカートリッジを入れ替えグリップを引くと、最初の変身と同じプロセスを経て姿がやや変わった。装甲はそのままにアンダースーツの色が白から水色に変化し、更に脚の装甲に鰭の様なパーツがついた。

 現状、それ以外に変化が見られない。が、全く変化なしという事は無いだろう。

 

「ホエール、って事は鯨か? 鯨って言えば……」

 

 デイナが冷静にベクターカートリッジで追加された能力を分析するが、ピラニアファッジは彼が考えを纏める時間をくれない。考え事をして無防備を晒すデイナに飛び掛かる。

 

「ガァァァァッ!」

「ッ!!」

 

 完全に意識外からの攻撃。しかしデイナはそれに寸前で素早く反応しハイブリッドアームズで防御してみせた。

 

「そうそう、そうだよな。鯨って言えばエコーロケーションだよな」

 

 ホエールベクターカートリッジで得られる能力は、鯨やイルカなどが用いるエコーロケーション。音の反響を利用して、目には見えない対象の位置を正確に把握できる。潜水艦のソナーと同じものと言えば分かり易いだろう。

 

 今、デイナの体からは定期的に常人には感知できない音が発せられている。これが周囲の物体に反射して、デイナに周囲の状況を目で見る以上に理解させていた。

 

 だが彼は、この能力に何処か違和感を感じていた。何と言うか、全力を発揮できていない印象を受けたのだ。

 能力の違和感はそれだけではない。バッファローベクターカートリッジで得られる筈のパワーも、先程に比べて下がっているのを感じていた。

 

「ミューテーション……なるほど。突然変異、ね」

 

 そこで彼は理解した。ベクターカートリッジには相性があるのだ。相性が良いと『エヴォリューション』となり能力を全力で発揮でき、逆に相性が悪いと『ミューテーション』となってベクターカートリッジで得られる能力が下がるのだろう。

 

 こんな事を考えている間にも、ピラニアファッジの攻撃を受け止めているハイブリッドアームズがどんどん押されていく。そして遂に、剣が弾かれて爪による一撃を貰ってしまった。

 

「ぐぅっ!?」

 

 防御力も先程より下がっており、本来なら耐えられる筈だった攻撃で膝をついてしまう。そこにピラニアファッジが彼の首筋に鋭い歯を突き立てようとする。

 

「させない!」

 

 あわやと言うところで、子供を避難させた亜矢が戻って来て再び制限酵素カプセルをピラニアファッジに撃ち込んだ。それにより再び動きを止めるピラニアファッジ。

 

 それを見てデイナはハイブリッドアームズの機能の一つを使用した。この武器、一見すると機械的な大剣だが実はモードチェンジ機能があって、大剣の他にハルバードとライフルに変形できる。

 デイナは説明通りに機械的な刀身の後部を柄でもあるポールパーツを軸に180度回転させ、刀身全体を後方に下げてライフルモードに変形させると、銃撃でとにかくピラニアファッジを遠ざけた。

 

「ちょっとお前暫くこっち来ないで」

 

 度重なる銃撃でダメージを蓄積させたピラニアファッジは、これ以上の戦闘は不利と察したのか動けるようになると近くのマンホールの蓋を破壊しその中に飛び込んだ。デイナは、流石に下水道に逃げ込まれては追跡する手段が無いと諦めハイブリッドアームズを下ろすとトランスポゾンに収納し変身を解除した。

 

「ふぅ……いつつ――!?」

「門守君、大丈夫ですか!?」

 

 変身を解き元の姿に戻った仁だが、直後にピラニアファッジに噛まれた肩が痛みを訴えてきた。見ると刃が食い込んでいた箇所から出血している。

 それを見て亜矢が彼の容態を心配するが、彼は至って平然とした様子で答えた。

 

「ん? あぁ、これくらい平気平気。それよりあの子は?」

「あの子供なら、少し離れた安全な所へ連れて行きました。ファッジが見えなくなった辺りで安心したのか気を失ったので、そのまま寝かせてあります」

 

「ん、そ。じゃ、俺らも戻ろうか」

 

 仁はそう言ってヘルメットを被ると、座席後部の収納スペースにあった予備のヘルメットを亜矢に手渡しトランスポゾンに跨ろうとした。が、それに亜矢が待ったを掛ける。

 

「待ってください門守君。帰りは私が運転するバイクに乗ってください」

「へ? いやでもこのバイク――――」

「この傷で、安全に運転できるんですか?」

 

 そう言って亜矢は仁のピラニアファッジに噛まれた肩を軽く叩いた。瞬間、肩から走った痛みに仁は体を強張らせた。確かにこんな肩で、モンスターマシンと言われるバイクを運転するのは少し危険だろう。

 

「でもこれここに置いとく訳にはいかないじゃん?」

「ご心配なく。コンソールを操作すれば、自動操縦でラボ迄帰還してくれるそうですから」

「……あっそ」

 

 仁は観念して、亜矢に言われた通りトランスポゾンのコンソールを操作して自動操縦でラボ迄向かわせると、自分は亜矢の運転するバイクに乗り大学まで戻った。

 

 尚その際に聞かされた事だが、亜矢はこれが人生で初のバイクの運転なのだとか。

 その事を聞かされ、仁は自分がどれだけ危ない橋を渡ったのかと肝を冷やしたと言う。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 下水道を通って傘木社本社ビルの秘密研究フロアに戻ったピラニアファッジは、二度の制限酵素注入によって得られたデータを用いての強化が行われていた。

 

「制限酵素に対する耐性を持たせる様に超万能細胞を調整しろ。毎回毎回あれに出しゃばられては鬱陶しくて敵わんからな」

「はい」

 

 雄成の指示に、研究員はキーボードを叩き急ぎ超万能細胞に制限酵素耐性のデータを入力していく。送られたデータを元に、超万能細胞が自己を進化させ自分に刻まれた遺伝子の発現を阻害する酵素に耐える能力を会得する。

 

 そうして強化された超万能細胞を持つベクターカートリッジを、再び先程の男に投与した。今度は男は抵抗しない。と言うより、最早この男に自我があるかどうかも定かではなかった。目は焦点が定まっておらず、口は半開きで涎を垂らしている。

 ファッジとなって無理矢理戦わされた事は、彼の心身に多大な負担を掛けていた。その結果、彼は一時的な廃人状態となってしまったのである。

 

 とは言えこれは彼らにとっても好都合。暴れないでいてくれるのなら、実験もやり易いと言うものだ。

 

 強化されたベクターカートリッジを投与される男性を、強化ガラス越しに眺める雄成とアデニン。アデニンは、視線を被検体の男性に向けたまま雄成に問い掛けた。

 

「あの白上教授の作り出した……なんでしたっけ? 仮面ライダー? 案外厄介ですね。始末しておきましょうか?」

 

 今なら仁も消耗している。敵を叩くなら今だとアデニンは進言するが、雄成はそれに否と答えた。

 

「何を言っている。あれはこのまま放置だ」

「何故です? 放置すれば、奴は更に力を付ける可能性が高い。現に先程の戦いでも新たな武器とベクターカートリッジを使いました。敵に白上教授が居るのなら、今後もベクターカートリッジは増え、更に力を付ける可能性も……」

「だからいいんじゃないか」

 

 アデニンに限らず、雄成の真意を理解出来る者は居ない。雄成も多くを語らず、また必要以上に踏み込ませることをしないので直属の幹部である4人にも雄成が何を思い描いているのかは分からなかった。

 だが彼の頭脳が優れている事は周知の事実。故に、アデニンはそれ以上問い詰める事はしなかった。何よりも下手に刺激して、雄成から見限られるような事にはなりたくない。

 

 そんな事になったら、また再び――――――

 

「ッ!?」

 

 思わず身震いするアデニン。その彼の様子を、雄成は一瞥し口角を少しだけ上げるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、仁はデイナ用のラボでパソコンの画面を眺めていた。見ているのは、ピラニアに関する情報だ。先日の戦闘であのファッジがピラニアの遺伝子を持つベクターカートリッジによるものであると察した仁は、何か攻略の糸口があるのではないかと片っ端から調べていたのである。

 

「ん~……」

 

 仁はピラニアの生態なんかをあれこれ調べていたが、その表情は芳しくない。それは効果的な攻略法が見つからなかったからではなく、考え得る限りで最も効率的な攻略法があまり実践したくないものしかなかったからだ。

 しかし贅沢は言っていられない。彼が我が身可愛さに手段を渋っていたら、更に被害が広がってしまう。四の五の言ってはいられない。

 

「やるっきゃねぇか」

「何をですか?」

 

 観念して覚悟を決めた仁に、背後から亜矢が声を掛ける。大学は未だ休校が続いているが、先日のファッジへの対処の為に2人はこうして警察の目を掻い潜り大学へと赴いているのだ。

 

「あのファッジの退治。このまま放っておいたら被害が増える」

 

 彼がそう言うと、亜矢の表情が曇った。それは先日のファッジによって犠牲となってしまった者達を思ってのものであり、同時に再び危険に赴く仁を想っての事であった。

 

 再び1人で戦いに臨もうとしている彼の姿に、亜矢は意を決して口を開く。

 

「次からは……次からは私も一緒に連れて行ってください」

「は?」

「白上教授から制限酵素を貰えば、私だって門守君の手助けなら出来ます。それに逃げ遅れた人の誘導だって」

 

 自分が戦場に向かう事の有用性を力説する亜矢に、しかし仁は難しい顔になった。彼としては彼女を危険に巻き込むような真似はしたくなかったのだ。

 

「……双星さんは俺と違って、変身できないから駄目だよ。何かあってからじゃ遅いんだよ?」

「承知の上です。それに一番危険なのは門守君の方じゃないですか。その門守君に危険云々言われても、納得できません」

「ん~、だけどさぁ……」

「絶・対・に、ついて行きますから」

 

 これは置いて行こうものなら勝手について来て事態が面倒になるパターンのやつだと直感で仁は察した。見えない所で勝手な行動をされて予想外の事態になられるよりは、見える範囲で何かされた方がまだマシだと考え仁は渋々頷いた。

 

「見えるところに居なかったら遠慮なく置いてくからね。待ってる時間が勿体ないし」

「それで結構です」

 

 観念した仁に、亜矢は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。彼女の笑みに、仁は疲れたように溜め息を吐き目をくるりと回すとパソコンの電源を落として別の場所で作業している白上教授の所へ向かった。

 そこでは白上教授が、宮野と共にベクターカートリッジの調整を行っている。

 

「う~む、鯨の遺伝子と相性が良いのは何の遺伝子なのか……」

「超万能とか言いつつ、好き嫌いが多くて困りますねぇ」

「それは私への当て付けかい?」

「いえいえ、そんなつもりは微塵も」

 

 2人揃ってああでもないこうでもないと議論している所に、仁と亜矢が近付いた。

 

「白上教授、一つ良いですか?」

「ん? 何かね門守君?」

「こちらどなた?」

 

 そう言って仁は宮野の事を見た。思えば昨日は色々あって宮野の事を訊ねるのを忘れていた。戻ってからは仁は治療、宮野はトランスポゾンの整備などで慌ただしく動いており、互いに自己紹介している余裕が無かったのだ。

 

 言われて宮野も自己紹介がまだだったことを思い出し、この場で2人に改めて自己紹介をした。

 

「あ、ゴメンなさい!? 自己紹介が遅れました。教授の研究室に所属する4年の宮野(みやの) (みね)です」

「俺、門守 仁です。宜しく、先輩」

「私は双星 亜矢と言います。こちらこそ、よろしくお願いします」

「ところで、先輩は何で白上教授と一緒に?」

 

 学生という事は、以前から超万能細胞の研究に携わっていた訳ではないだろう。そうなると、峰が教授に協力している理由は何なのか?

 

「実を言うとね、この研究室に所属する学生は皆ここの事は知ってるんだ。隠しているのは飽く迄も必要以上に外部に知られないようにする為でね」

 

 秘密を知る者は少ない方が良いとは言うが、秘密に近い場所に居る者が何も知らないとそれはそれでいざと言う時に秘密が漏れる危険がある。それならば、秘密の周りを秘密を知る者で固めて黙ってもらおうと言う事だろう。

 

 教授の考えにある程度納得した仁は、次いで目の前に並んだベクターカートリッジを端から眺めた。

 

「遺伝子同士の相性の良い悪いってどこで判断するんです?」

「生憎と、それはやってみなければ分からないんだ。思わぬ組み合わせがエヴォリューションに繋がる可能性もある」

 

 白上教授の答えに、仁は適当に一つの試験管に手をついた。

 

 と、その時。峰の持つ携帯端末からけたたましいアラームが鳴り響いた。

 

「な、何ですか!?」

「バッテリー切れ?」

「違う、ファッジだ!?」

 

 峰の携帯端末は何処かでファッジ絡みの事件が発生するとアラームが鳴って報せるようになっている。これにより少しでも迅速に、ファッジによる被害を少しでも減らせるようにしているのだ。

 

「場所は…………昨日より少し近いですね。トランスポゾンなら直ぐです!」

 

 横から峰の携帯端末を見て、瞬時に地図を頭に叩き込むと仁は今し方眺めていた試験管の中のベクターカートリッジを指差した。

 

「教授、これ使えます?」

「そ、それか? そいつはもう調整が終わっているから、直ぐに持っていけるが……」

「それじゃ遠慮なく」

 

 仁は機械を操作し、試験管からベクターカートリッジを取り出した。何の迷いも無く中身が不明のベクターカートリッジに、亜矢も焦りの声を上げる。

 

「ちょ、門守君!? そんな適当に選んで大丈夫なんですか?」

「どれがどれと相性良いかなんて分かりゃしないんだ。なら、総当たり上等で只管検証していくしかない。そうでしょう、教授?」

「……そうだな、その通りだ。頼んだぞ、門守君」

 

 白上教授からの言葉に、仁はベクターカートリッジを握った拳を掲げて応えるとトランスポゾンへと向かって行く。亜矢は慌ててその後について行った。

 

 そうし仁が向かったのは、河原近くの公園であった。昨日の今日で出歩く人が少なかったからか、幸いな事にまだ犠牲者は出ていない。

 だがそれでも公園には僅かにだが子供連れの母親らしき女性がいる。ピラニアファッジは獲物を見つけたとばかりに、その親子に襲い掛かろうとした。

 

〈BUFFALO〉〈HUMAN〉

「変身!」

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

 

 トランスポゾンで跳ね飛ばすよりも、変身の際のセントラルドグマから出るスーパーコイルで吹き飛ばした方が早いと判断し仁は車上で変身した。目論見通り変身の際に発生するスーパーコイルは親子に襲い掛かろうとするピラニアファッジを吹き飛ばし、2人が駆けつけるのに間に合った。

 

「さ、今の内に逃げてください」

 

 亜矢が親子を逃がす間に、デイナはピラニアファッジと二度目の対峙をする。先日の一件を覚えているからか、ピラニアファッジはデイナに最大限の警戒を向けた。

 

 警戒しつつ何時でも飛び掛かれるように身構えているピラニアファッジを前に、デイナは車体の格納スペースからハイブリッドアームズを取り出すと、ライフルモードから更に変形させて刀身後部の刃を前後で180度回転。更に刀身全ての部分をブレードモードの柄頭の部分まで後退させたハルバードモードにして構える。

 親子を逃がし終えた亜矢は、カプセルシューターに制限酵素カプセルを装填しつつ両者の間に流れる緊張感に様子を見る事しか出来ずにいた。

 

 だが次の瞬間、デイナとファッジの間に一陣の風が吹いたのを合図に、両者は同時に駆け出した。

 

「ガァァァァァッ!」

「よっ」

 

 先手を取ったのはデイナの方だった。ハルバードと言うリーチのある武器を使っている分、爪と鋭い歯しか武器が無いピラニアファッジよりは彼の方が有利だ。

 

 ハイブリッドアームズにより胴体を切り裂かれるピラニアファッジ。しかしそれで怯む相手ではなく、ピラニアファッジはデイナの周りを素早く動き回ってはすれ違い様に攻撃を仕掛けた。

 最初の内こそある程度対応してみせたデイナだったが、次第に反応速度が追いつかなくなり遂に一撃貰ってしまった。脇腹を腕に付いた硬質化した鰭で切り裂かれ、そこから血が流れ落ちる。

 

「うっ――――」

「門守君!?」

 

 すかさず亜矢が制限酵素を撃ち込もうとするが、ピラニアファッジの動きは素早くなかなか狙いを定める事が出来ない。

 そうこうしている間にピラニアファッジはデイナに二撃、三撃と攻撃を当てていく。しかもその攻撃はどれも装甲の無いアンダースーツ部のみを狙って仕掛けられた。お陰で本来白い筈のデイナのアンダースーツは、装甲とは違う色合いの赤で彩られていく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 失血とダメージの所為か、デイナの動きが大分鈍くなる。それを好機と見て、ピラニアファッジは大胆にも正面から掴み掛りデイナの首筋に喰らい付いた。鋭い歯が食い込み、デイナの首筋から血が噴き出す。

 

「ぐぁ、がっ――――!?」

「ダメッ!?」

 

 ピラニアファッジがデイナに組み付き、首筋に喰らい付いた瞬間、動きを止めたのを見て亜矢は狙いを定めてカプセルシューターの引き金を引いた。カプセルは狙い違わずピラニアファッジの首筋に命中し、ベクターカートリッジによる作用を一時的に鈍らせる制限酵素を注入した。

 これでデイナが反撃する暇が生まれる。そう思っていたのだが、ピラニアファッジは構わず動き攻撃を続行した。

 

「そんな、何で!?」

 

 念の為にと亜矢がもう一発、今度は脇腹にカプセルを撃ち込んだが、結果は同じ。ピラニアファッジは少しも動きを鈍らせる事なく、寧ろデイナの血の匂いに興奮してか更に動きを激しくした。

 

「効いてない? 何で?」

「多分、酵素を中和する細工を施したんだろうね。昨日から今までやけに大人しかったのは、それでか」

 

 先日は効果覿面だった制限酵素が全く役に立っていない事に困惑する亜矢。デイナはボロボロになりながらも、制限酵素が効かない原因を推測する。

 

 対するピラニアファッジは、効果は無いながらも二度もカプセルを撃ち込まれた事に煩わしさを感じたのか、ターゲットを亜矢に変更してそちらに近付いた。明らかに自分が狙われている事に気付いた亜矢は、効かないと分かりながらも何発も制限酵素を撃ち込んだ。

 

「ウウゥゥゥゥ、シャァァァッ!」

「ヒッ!?」

 

 鋭い歯をむき出しにして襲い掛かってくるピラニアファッジを前に、亜矢は恐怖に足をもつれさせその場に尻餅をついた。

 

 亜矢の目前にピラニアファッジの鋭い歯が迫る。彼女は思わずその場で目を瞑ってしまい――――――

 

「ぐっ!?」

「……う? え?」

 

 何も感じない事に違和感を覚え目を開けると、そこではピラニアファッジの前に立ちはだかったデイナが己の腕をピラニアファッジの口に捩じ込んでいるのが見えた。ピラニアファッジは構わずそのまま彼の腕を食い千切ろうと顎に力を籠める。

 

 片腕に走る痛みに、デイナは仮面の奥で顔を顰めつつ食らい付かれて血が噴き出した首筋に触れた。掌に血がべったりとこびり付く。

 

「あ~あ~、こんなに血を流させやがって」

「グゥゥゥゥ!」

「ま……こうなる様に狙ってたんだけどね?」

 

 腕に食らい付かれながら、デイナが徐にそんな事を呟く。

 そして次の瞬間、彼は血がこびり付いた掌をピラニアファッジの顔に思いっきり叩き付けた。

 

「ガゥッ!?」

 

 突然の事に驚き、咄嗟に距離を取るピラニアファッジ。視界を彼の血で塞がれたが、元より嗅覚に優れるピラニアは血の匂いに敏感だ。しかも今デイナは血を流しまくっている。発見は容易だ。

 

 案の定ピラニアファッジは直ぐに血の匂いでデイナの居場所を特定し、そこに攻撃を仕掛ける。この時点でピラニアファッジは自身の勝利を確信していた。

 

 だがその攻撃は空を切る。外したのだ。確実に当たる場所に攻撃したにもかかわらず、外した事にピラニアファッジは驚愕する。

 

「グッ!?」

「こっちだよ」

 

 驚愕にピラニアファッジが動きを止めていると、まさかの真正面から攻撃を受ける。即座に反撃するがそれも外し、あろう事か逆に攻撃を受けてしまった。

 

 訳が分からず困惑するピラニアファッジに、デイナは失血でふら付きながら話す。

 

「血を流させ過ぎたな。一瞬だけなら、俺の位置をこの血の匂いが誤魔化してくれる」

 

 ピラニアファッジが攻撃を仕掛けてくる瞬間、デイナは首筋から流れる血を掬い取りそれを自らの正面にバラ蒔く事であたかも本体がそこに居ると錯覚させたのだ。

 急場凌ぎのアイソレーション。成功するか不安だったが、血の匂いに興奮して冷静さを欠いたピラニアファッジには有効だった。

 

 ここからデイナの反撃が始まる。ハルバードモードのハイブリッドアームズによる斬撃が次々と叩き込まれ、ピラニアファッジはボロボロになっていく。

 

「ほれ、さっきのお返しだ」

 

 一際強い切り上げがピラニアファッジを大きく吹き飛ばす。だがここで、ピラニアファッジの目を覆っていた血が落ちた。視界を確保するなり、ピラニアファッジは近くの川に飛び込んだ。

 

「あっ!?」

 

 また逃げられる。そう思って亜矢が声を上げると、デイナは新たな二つのベクターカートリッジを取り出した。

 

「どれ、試すか」

〈DOG〉

〈WHALE〉

 

 新たな二つのベクターカートリッジ……ドッグベクターカートリッジとホエールベクターカートリッジをバッファロー・ヒューマンと入れ替える形で装填する。

 

〈DOG + WHALE Evolution〉

「ッ!! これでエヴォリューションか」

〈Open the door〉

 

 適当に持ってきたつもりが、まさかのエヴォリューションにデイナは内心で喜んだ。

 

 セントラルドグマから、水色と黒のスーパーコイルが飛び出しデイナに向かってくる。デイナがそれを正拳突きで受け止めると、デイナが新たな姿に変化した。

 

 アンダースーツは水色に、装甲は黒になり、頭部の角は無くなり代わりに犬耳の様な突起が二つできた。そして両脚の装甲には先日と同様に鰭状のパーツが。

 これこそがデイナの新たなる力、『デイナ・ドッグホエールフォーム』である。

 

 デイナはこの姿になると、即座にその能力を理解した。

 

「さぁ、検証の時間だ。よっと」

「えっ!? 門守君!!」

 

 亜矢が驚くのも無理はない。何故ならデイナは何を思ったのか、ピラニアファッジの後を追って川に飛び込んだのである。どう考えても水中は相手の土俵。向こうが攻撃なり逃走なりどちらを選んでいようが、水中でデイナに勝ち目は薄い。

 少なくとも亜矢はそう考えていた。

 

 だがデイナは水中に入ると、その能力を遺憾なく発揮してピラニアファッジの姿をしっかりと捉えていた。既に遠くに離れているピラニアファッジを、本来の力を発揮したエコーロケーションと犬の収音能力により正確に捉えていたのだ。

 

 デイナは一気に勝負を決めるべく、ライフルモードにしたハイブリッドアームズにバッファローベクターカートリッジを装填した。

 

〈Genome set. ATP burst〉

 

 ベクターカートリッジ内の超万能細胞が活性化しエネルギーを産生、迸るエネルギーが銃弾に収束されていく。

 もう肉眼では捉えられない程遠くまでピラニアファッジは泳いでしまったが、辛うじて射線は通っている。ならば、今のデイナには距離など関係ない。

 

 エコーロケーションで正確に位置を把握し、狙いを定め、引き金を引く。エネルギーを纏った銃弾は光線と見紛う程の閃光を放ちながら一直線にピラニアファッジに向けて直進した。

 

 背後から迫る閃光に、ピラニアファッジが何事かと背後を振り返ろうとしたがそれは遅すぎた。

 

「ガッ?!」

 

 一瞬でピラニアファッジは体を貫かれ、そのまま水中で爆散。被験者の体からベクターカートリッジが排出され、元に戻った男性は岸へと流れついた。

 

 その様子を、デイナは遠くから眺めていた。

 

「レポートは、纏まったな」

 

 そう呟き、デイナは亜矢の元へ戻り変身を解除した。

 

「お待たせ。それじゃ帰ろっか」

 

 後始末は無責任かもしれないが警察に任せた。すぐ近くで派手に水柱が上がったのだし、警察が来るのは早いだろう。この程度の事で傘木社の悪事が露呈するとも思えないが、やらないよりはマシだ。

 

 仁はあちこちが痛む体に鞭打ってトランスポゾンに跨った。結構な大怪我を負った筈だが、ドッグホエールにエヴォリューションした影響で細胞が活性化したのか傷は殆どが塞がっている。それでもまだ節々痛むが、まぁ今度は運転に支障はないだろう。

 

 そう思っていたのだが、何故か亜矢に引きずり降ろされてしまった。そんなに心配しなくても大丈夫…………と、言おうとしていたのだが、彼女の行動は仁の斜め上をいっていた。

 

「門守君、そこに正座してください」

「へ?」

「正座」

「あの、双星s「正座」……うん」

 

 有無を言わさぬ亜矢の雰囲気に、仁は大人しくトランスポゾンの隣の地面に正座する。

 

 そこから彼は亜矢に説教された。

 

「門守君はもう少し自分を大事にしてください」

 

「あのファッジの攻略法が思いついた時、どうして私や教授に一言相談してくれなかったんですか」

 

「本当に心配したんですよ。分かってますか?」

 

「門守君、聞いてます?」

「うんうん。聞いてる聞いてる」

 

 危険な作戦を誰にも知らせずに実行した事に対する説教を、仁は正座したまま一時間近く聞かされた。

 そして長時間の正座で完全に足が痺れてしまい、泣く泣く今度の運転も亜矢に譲らざるを得なくなってしまったのであった。




という訳で第4話でした。

今回より登場したデイナ専用武器のハイブリッドアームズ。元ネタは『アサルトリリィ』と言う作品に登場する『アステリオン』と言う武器です。見た目と変形がシンプルながらカッコいい武器です。

それと今回より新たに獲得した新フォーム・ドッグホエールフォーム。犬とクジラと言う傍から見ると変な組み合わせですが、バッファローヒューマンと同様に力を発揮できる組み合わせにはある共通点があります。
恐らく今後登場予定のある組み合わせからなるフォームを見れば、その共通点が見えてくるかと思います。

執筆の糧となりますので、感想その他宜しくお願いします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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