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時は少し遡り、船室エリアの仁と亜矢の部屋。
子供達を置いていく訳にはいかないので1人残った亜矢は、漸く泣き止んだ愛衣を雄司の隣に寝かせた。
「ふぅ……やっと泣き止んだね」
【愛衣はなかなか気難しく育ちそうね】
「分からないわよ? もしかしたら破天荒に育つかもしれないし」
実際仁と亜矢が手を焼かされているのは愛衣の方が多かった。雄司は夜泣きも殆どしないのに対し、愛衣は事ある毎に泣く。泣くのは赤ん坊なりのコミュニケーションなので泣かないのはそれはそれで困るのだが、愛衣に手を焼かされているのは確かであった。
とは言え別に煩わしいとは思っていない。そんな手を焼かされるところもまた可愛くて仕方がないのだ。亜矢は安らかに眠る愛衣の頬を優しく撫でた。赤ん坊特有の柔らかく滑らかな肌の感触に撫でる亜矢の頬が緩む。
「ふふっ……可愛い。私達と仁くんの赤ちゃん……」
【ねぇ亜矢? 雄司って仁君に似てると思わない?】
真矢の言葉に、亜矢はふむと考えこむ。先程述べたように雄司は殆ど手を焼かさない。ちょっとしたことではまるで動揺せず、愛衣が泣いて漸く異変に気付くという事もザラだった。
初めて見るものを前にするとジッと見つめて目を離さないし、大人しいくせして好奇心が旺盛なところなど仁そっくりだ。そう考えると確かに雄司は仁に似ている子なのだろう。
となると、消去法で愛衣は亜矢もしくは真矢に似たと言う事になる。
「愛衣は私と真矢、どっちに似てるのかな?」
【さぁね。案外、裏表が激しいどっちにも似た子になるかもよ?】
亜矢と真矢が我が子談義に耽りながら仁が帰って来るのを待っていると、不意に雄司が目を覚ましそのままぐずり出した。
「うぅ、あぁぁ! あぁぁ!」
「あぁ、今度は雄司? はいはい、大丈夫よ。どうしたの? お腹空いた?」
それともオムツの交換かと抱き上げた亜矢は気付いた。雄司の泣き方が何かを求めているものではない事に。子供たちの事はよく見ているので、大雑把にだが泣き方で何を求めているかは少しだが分かる。
そう言えば忘れがちだがこの子達も新人類だ。もしかして、何か異変に気付いたから泣き出したのかと亜矢が雄司をあやしながら予想した直後、轟音と共に部屋が大きく揺れた。
「きゃあっ!?」
突然の揺れによろけた亜矢は危うく倒れそうになるが、腕の中に居る雄司を守る為にと踏ん張り倒れる事だけは防いだ。
揺れは直ぐに収まったが、今ので雄司だけでなく愛衣も泣き出した。亜矢は愛衣も泣き止ませようと、両手にそれぞれ雄司と愛衣を抱き上げ優しく声を掛けてあやした。
「大丈夫、大丈夫よ2人とも。怖かった、怖かったねぇ。でももう大丈夫だから。もう直ぐお父さんも帰って来るから、ね?」
子供達をあやす事に意識を向けていたから、彼女は気付けなかった。
彼女がいる部屋の窓の外に、異形が登ってきていることに。
亜矢が異形の存在に気付いたのは、そいつが窓をぶち割って入ってきた時だった。
***
仁と白上教授は、揺れが収まった直後に一度亜矢と合流すべく船室エリアへと急いだ。あの揺れは事故ではない。事故であればあんな轟音はならないし、何らかのアナウンスがあるはずだった。
それがないという事は、船の方もどんな異常が起こったのか把握していないという事だ。
何より、今仁はやたらと胸騒ぎがしていた。何か良くない事が起こる。
突然の事に右往左往する乗客とそれを宥めようとする船員の間を抜けて部屋へと戻っていく。その勢いは凄まじく、仁は白上教授を置き去りにして部屋へと辿り着いてしまった。
「亜矢さん! 雄司! 愛衣!……ッ!?」
蹴破る勢いで部屋に入った仁の目に入ったのは、無残に割られた窓と荒らされた室内だった。ベッドは切り裂かれ、亜矢と2人の子供達の姿はない。
その光景に僅かな間呆然となっていた仁だが、すぐに気を取り直すと割られた窓に近付き身を乗り出して外を見た。
太陽に照らされた船の外壁には、何かが爪か何かを引っ掛けたような跡がついていたがその相手と亜矢達の姿は見当たらなかった。
やられた……仁は悔しさに拳を握り締める。敵の狙いは亜矢と子供達だったのだ。
「門守君、これは――――!?」
遅れてやって来た白上教授も、部屋の惨状に絶句した。
「――――亜矢さん達は、連れ去られたみたいです。敵は恐らく傘木社の残党、狙いは……亜矢さんと子供達ですね」
〈DOG + WHALE Evolution〉
教授に状況を説明しながら、仁は腰にデイナドライバーを装着しベクターカートリッジを装填する。傘木社が絡んでいるなら、敵にはファッジが間違いなくいる筈。それなら亜矢達を探す事も考え、先に変身しておいた方が良い。
「変身」
〈Congrats! Birth of a new life, CETUS. Open the door〉
実に2年ぶりとなる、仮面ライダーデイナ・ケートスライフに変身した仁は、部屋に残った亜矢と子供達の匂いを覚えそれを頼りに2人が連れていかれた所を目指して部屋を出た。
だが部屋を出た時、デイナと白上教授は違和感に気付いた。途中から変に静かなのだ。この客船に乗客数を考えると、そんなに早く混乱が収まるとは思えない。
警戒しながら2人は亜矢達の匂いを追って船の中を進む。
そうして辿り着いたのは、最上階の屋外プールだった。
2人がそこに辿り着くと、ぞろぞろとアントファッジが姿を現す。2年前の戦いは終盤に出てくる雑魚は大体ヴェロキラプトルファッジでアントファッジは逆に珍しくなっていたが、あれは日本だけの事だったのかもしれない。海外支社には恐竜ベクターカートリッジは海外支社にはあまり出回っていなかったようだ。
とは言え油断はしない。自分達家族を狙う為だけに客船に襲撃を仕掛けてくるような連中だ。何か仕掛けてくるかもしれない。
〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉
「ゲノムチェンジ」
〈Congrats! Birth of a new life, MINOTAUR. Open the door〉
最も扱いやすいミノタウロスライフにゲノムチェンジし、立ち塞がるアントファッジ達に突撃した。アントファッジ達は迫るデイナに向けて一斉射撃をしてくるが、ミノタウロスライフのデイナにはその程度の銃撃通用しない。
銃撃を物ともせず迫るデイナは、攻撃の圏内に入った瞬間一気に攻勢に出た。
「ふ、は、やっ」
デイナが拳を振るう度に、アントファッジが次々と吹き飛ばされる。中にはプールに落ちたり、柵を越えて下のデッキに落ちる奴もいた。
雄成との戦いを終えてから2年。その間全く戦う事もなくブランクを経ての戦闘だが、デイナの戦闘技術には微塵の翳りも見られなかった。
正拳突きがアントファッジの胸板を穿ち、回し蹴りが薙ぎ払い、手刀が武器を奪った。
アントファッジ達が瞬く間に殲滅され、屋外プールのあるデッキに立つのはデイナと離れた所に居る白上教授だけとなった。
そこに、新たに姿を現す者たちが居た。数人の男女と、そいつらに連れられてきた亜矢と2人の子供達だ。
「ッ! 亜矢さん! 雄司、愛衣!」
「仁くん!?」
子供達が居るからとほぼ無抵抗で囚われた亜矢は、後ろ手に縛られて屈強な男に無理やり立たされている。子供達2人はその隣に居る男と女がそれぞれ1人ずつ抱いているが、先程から静かだ。眠っているのか眠らされているのかは分からないが、亜矢の様子から命に係わるような事にはなっていないだろう事は伺える。
すぐさま3人を助けたいが、彼女達はいま人質だ。迂闊な動きは逆に彼女達を危険に晒す。
何より、デイナの前に立ち塞がる男がそれを許さないだろう。
「待っていたぞ、門守 仁」
「あんた、誰? 傘木社の関係者?」
「我々は傘木社アメリカ支社に所属していた。俺の名はジョン・タイラー」
デイナの前に立ち塞がる男――ジョンは、片手にベクターカートリッジを取り出した。もう片方の手にはベクターリーダーが握られている。
「俺達の目的はただ一つ……雄成社長を亡き者にした仮面ライダーデイナ、お前に対する復讐だ」
「へぇ……雄成さんの敵討ちって事? 意外だね。まさかアメリカ支社にそういう事をしようとする人が居るなんて」
「お前は知らないかもしれないが、我々にとって傘木社は必要な居場所だった。世間に居場所のなくなった我々にとって、例え人道に反していても受け入れてくれる場所は大事な存在だった。それを貴様は奪った……断じて許さん」
そう言えば以前、メガネウラファッジに変身するソニック兄弟も傘木社以外に居場所がないようなことを言っていたと亜矢に聞いた。こいつらもその類なのだろう。自分に非はなくても世間から爪弾きにされ、傘木社のような場所の他に居場所がなくなった。雄成がそう言う連中を集めたのは、実験に都合がいいからと言うのもあるのだろうが結果的に彼らにはそれが救いとなったのだろう。
例え一歩間違えれば命を落とすような、使い捨てとしての運命であろうと…………
「――――悪いけど、あんたらが助けられたんだろうと雄成さんがやろうとした事は間違いだよ」
それに、例え彼らの側に正当性があろうと完全に無関係の子供達まで巻き込むのは許せない。
「返せ……亜矢さんと子供達を――!」
怒りを滲ませ威嚇するデイナだったが、ジョンも後ろの連中も動じない。分かっているのだ、亜矢達を人質に取っている限りデイナには何もできないと。
「家族を傷つけられたくなければ、分かっているだろう? 変身を解除しろ」
「…………」
奥歯が軋むほど歯を食いしばりながら、デイナは変身を解除した。こいつらは本気でやりかねない。迂闊な事をすれば、亜矢か子供達が傷付けられかねない。
已む無くデイナは変身を解除し、デイナドライバーをデッキの端に放り投げた。これで仁は無防備だ。
仁が無言で両手を上げると、ジョンはニヤリと笑みを浮かべ仁の足をベクターリーダーで撃ち抜いた。
「ッ!?」
「仁君!?」
足を撃ち抜かれ倒れた仁にジョンは近付くと、倒れた彼を踏みつけ更に無事な手足を一発ずつ撃って動けなくした。
「うっ!? あ、ぐっ?!」
「止めて、止めなさいよこの卑怯者!? 復讐したいなら正々堂々やったらどうなの!!」
「居場所を奪われた我々の怒りはこんなものでは済まない。それに、他人事ではないぞ。門守 仁にとって大切な人物であるお前も、お前の子供達も復讐の対象だ」
ただ殺すだけでは腹の虫が収まらない。仁には彼らが感じた以上の絶望を味合わせなければ。その為には、彼自身を傷つけるだけでなく彼が大切にしている亜矢達もただでは済まさない。
「この子供達は純粋な新人類ですからねぇ? 研究材料としてはちょうどいい」
「お前はそれ以外にも使い道があるなぁ。お前ほどいい女だったら、なぁ?」
雄司の方を抱いている男がジョンに続いて告げ、更に亜矢を捕えている男が下卑た笑みを浮かべながら彼女に顔を近付け頬を舐めた。その不快感に亜矢が顔を顰め、仁は怒りに身を任せ手足に穴が開いているにもかかわらずジョンの足を押し退けようとした。
が、ジョンも体を弄っているのか足に力を籠め仁を再び押さえつけた。
「ぐっ!?」
「お前への実験は一番最後だ。お前は家族が蹂躙される様をじっと見ていろ」
ジョンは仲間に指示を出して、亜矢と子供達をその場から連れ出す。下に向かうようなので、ここに乗り込むのに使った船にでも乗せるのだろう。
家族が連れていかれるのを、仁は何もできず見ているしかできない。
そして次は仁の番だ。ジョンが仁の腕を部下だろうアントファッジに縛らせ、後ろからベクターリーダーを突き付け歩かせようとする。
その時だ。頭上からヘリのローター音が聞こえてきた。
「……ヘリ?」
「何だ?」
仁とジョンが頭上を見上げると、そこにはヘリが一機船の上を飛んでいた。よく見るとそのヘリには、日本の警察のマークが描かれている。
「警察?…………まさか!」
仁はそのヘリが何なのかに気付き、顔に喜色を浮かべる。
その期待に応えるように、開かれたヘリの扉から2人の見知った人物が飛び降りてきた。
「「変身!」」
〈Access, In focus〉
〈Create, Capture, Out of Control. Brake the chain〉
ヘリから飛び降りた2人――宗吾と希美は、飛び降りながらスコープとヘテロに変身してデッキの上に着地。それぞれ武器を抜くとその銃口を仁を取り押さえているアントファッジに向けた。
「貴様ら動くな! シージャックの現行犯で全員逮捕する!」
言うが早いか、スコープは仁を取り押さえているアントファッジをガンマライフルで撃ち抜き倒すと彼を解放し、ジョンが仁を押さえようとするとそれよりも早くにヘテロが接近しジョンをタックルでプールに突き落とした。
「おっと!」
「ぐっ!?」
プールに突き落とされたジョンを無視して、ヘテロは仁の手を縛っているバンドを切断し彼を解放する。
「権藤さん、志村さん? どうして?」
「あの連中は前々からマークしててね。行方を追っていたのだが、そこに白上教授からの連絡もあってこうしてやってきたんだ」
「そう言う事。にしてもどうしたのよ? アンタらしくもない」
「亜矢さんと、子供達が人質に取られたんだ。亜矢さん達を傷付けさせない為には、下手な事が出来なくて……」
ここで漸く2人は仁が一方的にボロボロにされている理由を知った。なるほど、今の仁にとって亜矢と子供達は弱点だ。それを押さえられては、彼も満足に動くことはできないだろう。
「……なら、まずはアンタの嫁を助けないとね」
「そうだな。その為に、まずは……」
スコープの視線の先では、プールから上がるジョンと亜矢達を何処かへと連れて行ったらしき屈強な男と愛衣を捕まえていた女がやって来た。
「おいおい、S.B.C.T.が来るなんて聞いてないぞ?」
「別にいいじゃないさ。あいつら程度、この新型ベクターカートリッジを使えば一捻りさね」
2人はスコープとヘテロに対峙すると、それぞれベクターカートリッジを取り出し起動状態にした。
〈KONG〉
〈SNAKE〉
起動状態のベクターカートリッジを、2人はそのまま直挿ししてファッジに変異した。男はコングファッジ、女はスネークファッジだ。
現れたファッジを前に、スコープとヘテロが仁の前に立ち塞がる。
「門守君、君は傷を癒す事に専念するんだ」
「雑魚は私達に任せなさい」
言うが早いか、2人は一気に前に出てファッジとぶつかり合った。
スコープはコングファッジにガンマライフルのストックで殴り掛かる。パワー自慢のスコープの一撃を、しかしコングファッジは片手で受け止めた。流石ゴリラの能力を持つファッジなだけあって、そのパワーはスコープにも引けを取らない。それどころか、押し返して毟り取るとデッキの端に向け放り投げた。
「チッ! やるな」
「おぉぉぉぉっ!」
パワー対決に臨むスコープとコングファッジに対し、ヘテロとスネークファッジは変則的な戦いを繰り広げていた。
トリッキーな動きでヘテロを翻弄するスネークファッジに対し、ヘテロは体を捻りスネークファッジの動きに柔軟性で対抗した。
「ったく、くねくねと掴みづらい動きするわね」
「アンタの事は聞いてるよ。本社でモルモットやった挙句に裏切ったんだってね!」
「会社には私の居場所がなかったからね」
テイルバスターを振り回しスネークファッジを切り裂こうとするが、スネークファッジは柔軟性と瞬発力に優れているのか全く捉える事が出来ない。
そして一瞬の隙をついてヘテロを組み伏せると、首筋に噛み付き毒を注入した。
「うぐぁっ?! こ、んのぉっ!!」
毒は人間の肉体を破壊するタンパク質毒だが、驚異的回復力を持つヘテロには効果が薄い。体が破壊されるのと同じ速度で体が回復する。
が、回復に体力が回されている為、動くことが出来ない。スネークファッジの方も毒で彼女が殺せないと分かると、このまま絞め殺してしまおうと蛇の尾の様な左腕を彼女の首に巻き付け締め上げる。
それをコングファッジを振り払ったスコープが援護して引き剥がした。
「こいつ、離れろ!」
「うあっ!?」
「おい志村、大丈夫か?」
「何とか、ッ! 権藤後ろ!!」
ヘテロを助けたスコープだが、その背後にはコングファッジが迫っていた。気付いたヘテロが警告したが少し遅かった。
「おらぁっ!」
「ぐおっ?!」
「あ゛っ!?」
スコープが殴り飛ばされると、それに巻き込まれヘテロも吹き飛ばされる。吹き飛ばされ倒れた2人を、仁と白上教授が助け起こした。
「2人とも、大丈夫?」
「いかんな、一先ず退こう。一度退いて体勢を立て直すんだ」
「くそ、久々の出番だってのに……」
「ゴメン、毒が足にきたっぽい。手を貸して」
変身を解除した希美を白上教授とスコープが左右から肩を貸し、仁はスコープが落としたガンマライフルで牽制しながら引き下がった。
その後をコングファッジとスネークファッジが追うのを、ジョンは鼻で笑いながら見ているのだった。
という訳で特別編第2話でした。
2年のブランクはりますが、仁の強さは未だ健在です。だからその気になれば負ける事はありませんが今回は弱点を押さえられました。今の仁にとって家族は何よりの弱点、それを押さえられては大人しくせざるを得ません。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
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