今回で特別編も終わり、本作「仮面ライダーデイナ」も本当の終わりを迎えます。
そして今回は皆さんお待ちかね、遂に次回作のライダーがお披露目です!
*2022/01/28
仮面ライダーテテュスの本名を『翡翠』としていましたが、諸事情により『瑠璃』に変更します。
何卒ご了承ください。
「――――ん? あれ?」
銃弾が自身の体を穿つ痛みに備えていた仁は、一向に痛みが来ないどころか銃声もしないことにゆっくり目を開け首を傾げた。亜矢達を見ても何が起こったのか分かっていない顔をしているところを見るに、自分が撃たれたことに気付いていない訳ではないようだ。事実ちょっと確認してみたが、撃たれた様子はない。
「え? 何? 不発?」
銃声すらしなかった事に不発を疑いニックの事を見れば、彼も何が起こったのか分かっていない様子で信じられないといった顔で仁の事を見ている。
「な、何? 一体何故……ッ!? これはっ!?」
ニックは自分が今撃とうとした拳銃を凝視して目を見開く。何だと仁が目を凝らしてニックが持つ拳銃を見ると、不発に終わった理由が何なのか分かった。
撃鉄が異物を挟んで弾が出なかったのだ。さらによくよく見てみると、その挟んでいるものはこのカジノで使われているコインである事が分かった。撃鉄が金属のコインを挟んだから、仁は撃たれずに済んだのだ。
ここで問題になるのは、何故撃鉄がコインを挟んだかという事。仁は勿論、亜矢も白上教授もそんな事はやっていないし出来ない。2人の子供など言わずもがなだ。
では一体誰が?
「ジャックポット……」
その時、カジノに女性の声が響いた。全員の視線が一斉に声のした方に向く。
するとそこには、先程仁と白上教授がカジノで見た女性ディーラーが居た。先程と同じ格好で優雅に歩いてくるその姿は、カジノではあるがこの場では誰よりも浮いていた。
「あんた……」
「仁くん、知り合いですか?」
「知り合いってほどじゃないけど……」
「何ですか貴女は! 一体何者ですか!!」
〈ARCHERFISH〉
困惑する仁達に対し、ニックは得体の知れぬディーラーに警戒心を向けていた。断言はできないが、このディーラーが発砲の邪魔をしたのだろう事は雰囲気で察する事が出来た。つまり、ニックにとっての敵という事だ。
使い物にならない拳銃を捨て、ベクターカートリッジを直挿ししてアーチャーフィッシュファッジに変異するニックだったがディーラーは全く動じない。それどころかニックの事を無視して仁の方に目を向けた。
「大丈夫? 仮面ライダーデイナ?」
「え? あ、うん……」
ディーラーが自分の事を見てデイナと言ってきた事に一瞬面食らったが、仁は自分がデイナである事に関してそこまで気合を入れて隠蔽していなかったので知っている者は知っているだろうとそこまで驚くことはなかった。それに何より、自分達の事を助けてくれたのは紛れもない事実だ。ならば、味方かどうかは分からないが少なくとも敵ではないと判断してもいいだろう。
「今の、君?」
「そうね。間に合うか賭けだったけど、大当たりしてくれたみたい」
「ありがとう、助かったよ。でもここは危ないから、早いところ逃げた方が良いよ」
助けてくれたことには素直に感謝するが、ここから先は逆に邪魔になる。申し訳ないが、彼女にはここで避難してもらいたい。
そう思って告げたのだが、彼女は逃げるどころかクスクスと笑って手に大きな羅針盤の様なものを取り出した。
「心配してくれてありがとう。でも逃げるのはもうちょっと後かな? 行き先はまだ変わってないし」
「え?」
ディーラーの言葉の意味が分からず首を傾げる仁だったが、彼女は構わずその羅針盤――中央に羅針盤があり右にレバー、左にコインか何かを入れるスロットがある――を腰に当てた。すると羅針盤からベルトが伸び、彼女の腰に巻き付いて装着された。
それは見た目こそ全く違うが、仁達仮面ライダーが装着するベルトを彷彿とさせた。
彼女が腰にベルトを装着したのを見て、仁達だけでなくニックも驚き目を見開く。
「はっ?」
「何っ!?」
「
女性は流暢に英語で告げると、一枚のコインを取り出した。縁が金色の青いコインだ。
仁はそのコインとよく似た物を見た覚えがあった。
「あれは……」
仁が注目する前で、女性は右手の親指で弾いたコインを左手で掴みそのままスロットに入れた。
〈Bet your life〉
「させませんよ!」
ベルトから音声が鳴り、女性はレバーを下ろす。詳細は不明だが、この後何が起こるかは容易に想像できるその行動に、アーチャーフィッシュファッジはそれを妨害しようと殴り掛かる。
が、女性がレバーを下ろすとその瞬間彼女の前に大きなルーレットが現れファッジを弾き返した。
「うごっ?!」
ファッジを弾き飛ばしながらルーレットは周り、ルーレットの回転と逆回りでボールがルーレット上を転がる。
女性はそのルーレットを指さしながら、仁達にとっても馴染みのあるフレーズを口にした。
「変身!」
〈Fever!〉
変身の言葉と共にボールはルーレット上の「0」のポケットに入った。するとルーレットは回転しながら向きを変え女性の頭上に移動し、そのまま回転しながら下に下りる。
回転するルーレットに潰されるかと思われた女性だが、そうはならず女性の体はルーレットを通過していく。ルーレットが通過する最中、女性の体は大海原の様な青い水の流れに包まれその姿を仮面の戦士に変えた。
それは一言で言えば人間の足を持った人魚であった。青い仮面に黄色い複眼。変身しても尚大きさを主張する胸元は申し訳程度の面積の銀色の鎧に覆われ、腰から下は白い前開きのスカートで覆われている。
デイナやルーナは勿論、スコープなんかとも全く違うがそれを見た者は誰もがこの名を口にするだろう。
「仮面、ライダー?」
「イエス! 私は仮面ライダー……仮面ライダーテテュス」
女性が変身した仮面ライダーは自らをテテュスと名乗った。テテュスは変身を終えると、右手の人差し指を一本立てて口元に持っていき指先で口元に触れた。
「チップ1枚で、大逆転よ!」
「ふざけるな!!」
決め台詞の様なものを口にしたテテュスに、アーチャーフィッシュファッジは拳を握って殴り掛かる。突き出されて拳をテテュスは平手で弾き、流れるような動きでファッジの背後に回り背中を蹴り飛ばす。
「くっ!?」
掴み所のない動きで攻撃を受け流し反撃してくるテテュスに、アーチャーフィッシュファッジは翻弄される。何をしても攻撃を無力化され倍以上の反撃を喰らうのだ。
このまま普通に攻撃しても埒が明かないと察したアーチャーフィッシュファッジは、戦い方を変え特殊能力の水流ジェットカッターで迎え撃った。見たところテテュスは飛び道具の類を持っていない。遠距離戦は不利であった。
「ふんっ!」
「っと! くっ!」
案の定遠距離から攻撃を受けては打つ手がないのか、テテュスは防戦一方になる。これは不味いと仁も変身しようとしたが、アーチャーフィッシュファッジはしっちゃかめっちゃかに水流ジェットカッターを放つので余波から亜矢達を守る為にその余裕がない。
仁が四苦八苦している間にテテュスは状況を打開する行動に移っていた。
「ん……チップの残りは6枚。うん、1枚ベット」
〈Bet〉
テテュスは右腰のケースから白いチップを1枚取り出すと、それをベルトのスロットに入れレバーを下ろした。
〈Good luck〉
再びテテュスの前に現れたルーレット。回るルーレットとボールを見ながら、テテュスはルーレットを指さした。
「黒の35」
テテュスが宣言すると、ボールが彼女の宣言通りのポケットに入った。
〈BINGO! Ability activation! Deep diving.〉
音声が鳴るとルーレットがベルトに吸い込まれていく。テテュスはルーレットが吸い込まれると、アーチャーフィッシュファッジに飛び掛かり体を捻りながら蹴りを叩き込む。
アーチャーフィッシュファッジはそれを防ぎ、力任せに振り払い体制の崩れたテテュスの足を掴み壁に向け放り投げた。
放り投げられたテテュスは完全に無防備だ。叩き付けられ動きが止まったところを水流ジェットカッターで切り裂いてやる。
アーチャーフィッシュファッジはそれに備えて口中に水を溜めるが、それは無駄に終わってしまう。
壁に叩き付けられそうになったテテュスは、叩き付けられるどころか波紋と飛沫を作り壁の中に文字通り潜り込んでしまったのだ。
「はぁっ!?」
「消えた!?」
「いや、壁に潜った?」
アーチャーフィッシュファッジのみならず仁と亜矢も驚き注目する前で、テテュスは思いもよらぬところから登場した。
何とアーチャーフィッシュファッジの足元から水飛沫を上げながら飛び出し、がら空きとなっているファッジの背に蹴りを叩き込んだのだ。
「うぐぉっ!? 何、後ろ!?」
「フフッ!」
「えぇい、舐めるな!!」
蹴りを喰らい体勢を崩されたアーチャーフィッシュファッジは、背後にいるテテュスに再び水中ジェットカッターをお見舞いする。しかしその一撃はバク転しながら避けられたテテュスがそのまま今度は床に飛沫を上げて潜り込んだことで回避された。
しかしアーチャーフィッシュファッジは諦めない。今度は逃がさないと、そのままテテュスが潜り込んだ床を水流ジェットカッターで徹底的に切り裂き炙り出そうとした。
だがアーチャーフィッシュファッジが切り裂いたところには誰も居ない。
テテュスの姿が見えないことに狼狽えていると、彼女はまたしてもアーチャーフィッシュファッジの足元から背後に飛び出しその背を蹴り飛ばした。
「それ!」
「うわぁっ!?」
「…………物体の中に潜り込んで自由に移動できるのか?」
テテュスの動きはそうとしか思えない。壁や床など、様々なものに水飛沫を上げながら飛び込み、そして相手の死角から飛び出し攻撃を仕掛ける。その動きにアーチャーフィッシュファッジは完全に翻弄されていた。
「く、くそ……」
「ここが、賭け時かな?」
度重なるテテュスの攻撃に、ボロボロとなるアーチャーフィッシュファッジ。ここが決め時と思ったのか、テテュスは右腰のケースを取り外し直接ベルトのスロット部分に取り付けレバーを下ろした。
〈All in!〉
ベルトから音声が鳴ると、テテュスの前にルーレットが現れると同時に足元にルーレットテーブルが描かれる。アーチャーフィッシュファッジは足元の変化に戸惑いつつ、ここは不味いと離れようと動く。
だがテテュスはそれを許さなかった。
「黒の20、オールイン!」
テテュスが宣言すると、頭上からエネルギーのチップが5枚振ってきてアーチャーフィッシュファッジはその中に閉じ込められる。身動きが取れないアーチャーフィッシュファッジが脱出しようと四苦八苦している間に、ルーレットは止まりボールがポケットに入った。
ボールが入ったのは、彼女が宣言した通り黒の20。
〈Fever!〉
「くそ!? こんな、こんなぁ!?」
「ハッ!」
何をしても出る事が出来ない束縛に、絶望の声を上げるアーチャーフィッシュファッジに向け、テテュスはトドメの一撃を叩き込んだ。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ヒッ!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
テテュスの放った必殺技『ジャックポットフィニッシュ』がアーチャーフィッシュファッジに炸裂し、蹴り飛ばされたアーチャーフィッシュファッジは爆発四散。後には衝撃で砕けたベクターカートリッジと、気を失って倒れるニックだけが残されていた。
「……隠蔽装置を抜いてたのか」
燃え上がらないのを見て何気なく呟くと、仁は改めてテテュスの事を見た。
テテュスの方はと言うと、倒れたニックに向け恭しく頭を下げていた。
「またの挑戦、お待ちしてます」
彼女なりの勝利宣言を告げると、テテュスは仁の方を見る。仁は、改めて自分達を助けてくれたテテュスに感謝する為数歩彼女に近付いた。
「ありがと。お陰で助かったよ」
「良いの良いの。こっちも好きでやったことだし――」
その時どこからか携帯の着信音が鳴る。仁達が辺りを見渡していると、テテュスは携帯を取り出しそれに出た。彼女の物だったらしい。
「はいはい、な~に海羽ちゃん?」
『瑠璃姉ぇ大丈夫? 今ネットで瑠璃姉ぇがバイトで乗った客船がシージャックされたって聞いたんだけど?』
「大丈夫大丈夫、何も心配いらないわよ。ただ臨時のバイト代はパーになっちゃったけどね」
テテュスはその後も携帯の向こうの相手と二言三言言葉を交わすと、携帯を切り仕舞った。
「そう言う訳だから、そろそろ失礼するわ。後は頑張ってね、仮面ライダーデイナ♪」
仁に別れを告げ、テテュスは窓に向け駆けていく。空いた窓から飛び出した彼女の後を追って仁が窓に近付き下を見ると、テテュスは海に飛び込みそのまま海中に消えて行ってしまった。
「仮面ライダーテテュス……か」
自分の知らない、新たな仮面ライダー。仁は何となくだが、彼女には再び会えるような気配を感じつつ亜矢達の所に戻り改めてこの場を離れようとした。
「さ、今の内に行こう。子供達を安全な場所に……」
移動しようと周りを見渡した瞬間、あちこちからアントファッジが現れ仁達を包囲した。仁と亜矢が身構える前で、アントファッジの方位が一部割れるとそこからジョンが姿を現した。
手にベクターリーダーを持っている事に仁は警戒を強くした。
「人質は逃げ出すわ、訳分らん奴が邪魔してくるわ……どうしてこうも上手くいかないもんか」
「悪事なんてそんなもんだよ。特にやる事がデカければでかいほどね」
仁は亜矢の分のデイナドライバーを渡しつつ、腰にデイナドライバーを装着した。今更ベクターリーダーで変身した奴に負ける気はない。
対するジョンは、仁の考えが予想出来たのか鼻を鳴らした。
「お前の考えていることは分かる。今更ベクターリーダーで、なんて考えてるんだろ?」
「ん?」
「だが残念だったな。こいつは俺が改良した奴で、お前が知るベクターリーダーとは別物だ。その力を今見せてやる」
ジョンは起動させたベクターカートリッジをベクターリーダーに装填した。
〈T-REX, leading〉
恐竜ベクターカートリッジを使うようだが、それだけなら以前のベクターカートリッジでも多分出来た。だがあれほど自身があるという事は、それ以外に何かあるという事。仁はベクターカートリッジを取り出しながら警戒を強くする。
するとジョンは仁も少し予想外の行動に出た。装填したベクターカートリッジを抜き取り、別のベクターカートリッジを装填したのだ。
〈BRACHIOSAUR, leading〉
「ッ! ベクターリーダーで二つのベクターカートリッジを?」
「そう言う事だ……進生!」
〈Double Transcription〉
ジョンが引き金を引き変身したのは、白と黒で彩られた戦士。ティラノサウルスの頭部を象った仮面に装甲の分厚い四肢。見ただけで力強さを感じさせる『モノクロファング』がそこに居た。
まさかベクターリーダーで遺伝子二つを使用するとは思っていなかったので少し面食らった仁だが、しかし特に危機感を感じはしなかった。あの程度、雄成が変身したカラミティにも及ばない。
この場で唯一の危機感を感じるとすれば、それは白上教授と子供達が巻き込まれないかくらいだ。
〈HUMAN + HUMAN Beyond evolution〉
「悪いけど、その程度で負けるほど俺は弱くないよ」
「どうかな?」
「すぐに分かるよ。……変身!」
〈Break down the wall of evolution. Reach the NEW GENERATION. Open the door〉
仁は仮面ライダーデイナ・ニュージェネレーションフォームに変身した。嘗て優勢と互角に戦った最強のデイナ。復讐心に駆られ、付け焼刃の力で挑もうとしている奴に負けるわけがない。
デイナがモノクロファングと戦い始めた時、同様に亜矢も自分の戦いを始めていた。そう、愛する家族を守る為の戦いをだ。
「教授、この子達を頼みます」
「あぁ、任せてくれ」
亜矢が雄司だけでなく愛衣も白上教授に預ける。亜矢から引き離された愛衣が見知らぬ人間である白上教授に抱かれた事でぐずり出すが、雄司が手を伸ばし触れたことで落ち着きを取り戻す。まだ赤ん坊ながら既に双子の面倒が見れる雄司に将来の頼もしさを感じ笑みを浮かべつつ、自分も変身した。
〈CAT Unite〉
「変身!」
〈Open the door〉
ルーナに変身すると、セントラルドグマから放たれたスーパーコイルがアントファッジ達を薙ぎ倒す。お陰で包囲に穴が開いた。
その隙に白上教授が2人の子供を連れてその場から離れる。アントファッジ達が体勢を立て直す頃には、白上教授と子供達は安全なところに退避していた。
これで心置きなく戦える。
デイナと同じく、ルーナも愛する家族を守る為に戦いに身を投じるのだった。
***
デイナとルーナが家族を守る為の戦いを始めた頃、スコープとヘテロは挑んできたファッジを相手にしていた。
「おらぁっ!」
「なんの!」
コングファッジが自慢の膂力でスコープに殴り掛かるが、スコープは左腕の盾でそれを受け止める。先程の戦いでは間が悪かったりで痛い目に遭わされたが、正面から戦えばスコープが負ける道理はない。
拳の一撃をスコープは盾で受け止めるだけでなく受け流し、無防備になった胴体に逆に拳を突き刺す。ただでさえパワー自慢のスコープの一撃に加え、コングファッジのパワータイプであるが故の重厚な体重と攻撃の勢いが合わさり大ダメージとなった。
「うぐぉあっ?!」
スコープに殴り飛ばされ壁に叩き付けられたコングファッジは、痛みに喘ぎながら立ち上がり再び拳を握って殴り掛かって来た。
それを今度は盾ではなく掌で受け止めた。正面からの力比べは、直ぐにスコープに軍配が上がった
「な、にぃっ!?」
「……他人に文句があるならなぁ――――」
コングファッジの拳をスコープは押し返し、更には捻る事で体勢を無理やり崩させた。
それにはスコープの怒りも混じっていた。
分かりたくはないが、彼らの憤りもスコープには分からないでもない。唯一の居場所を突然奪われたのだ。その戸惑いとその後に待ち受ける苦労は想像するしかないが、新しい居場所を見つけるのには相当な苦労が待ち受けているだろう事は想像できる。
だがしかし、それでもスコープは彼らの主張を認める事は出来なかった。認める訳にはいかないのだ。
「――他人に迷惑を掛けないやり方でやれ!!」
振り下ろされたスコープの拳がコングファッジを地に沈める。ギリギリ意識を保ったコングファッジが立ち上がるが、その瞬間には既にスコープはガンマライフルを至近距離で構えていた。
「ッ! ま、待て――」
これは不味いと制止の声を上げるが、スコープは聞き耳持たず引き金を引いた。
「がぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
至近距離から放たれた銃弾がコングファッジの表皮を抉る。忽ちボロボロになっていくコングファッジを、スコープは追い打ちをかけるようにボルテックスブレードで滅多切りにしてさらに追い詰める。
「ま、待って!? ちょ、こうさッ?!」
慌てて降参しようとするが、スコープは彼に逃げる事を許さなかった。この手の輩は降参したと思わせて不意を打つことも厭わない。残酷かもしれないが、戦いは非情なのだ。
徹底的に攻撃され続けた事で立つだけで精一杯の状態のコングファッジに対し、スコープはトドメの一撃を放つ。
〈Recognition〉
「たぁぁぁぁぁぁっ!!」
スコープのエンドクラッシュは、立つだけで精一杯なコングファッジに炸裂し再び壁に叩き付ける。ただでさえ銃撃と斬撃でズタボロだったコングファッジは、それで限界に達して倒れながら爆散した。
爆炎が晴れると、そこにはコングファッジに変異していた男が倒れており、まだ意識があるのか砕けたベクターカートリッジに手を伸ばしていた。
スコープはその男を取り押さえると、持っていた手錠を掛けて逮捕するのだった。
一方、ヘテロの方もスネークファッジに対し先程の戦いの雪辱を晴らしていた。
「はぁぁっ!」
「うあぁぁぁっ?!」
ヘテロの振るうテイルバスターが変則的な動きをするスネークファッジを捉える。先程はその動きに翻弄された挙句一瞬の隙を突かれて噛み付かれ毒を注入されたが、よくよく見ればその動きを見切る事は可能だった。
一度見切れてしまえば、恐れる必要のある相手ではない。特に仮面ライダーとして戦い、この2年間手が足りないS.B.C.T.にくっついてファッジによる犯罪鎮圧に駆り出され続けていた彼女にとっては。
「くそ、何でだい!? さっきと動きが違うじゃないのさ!?」
「……今なら昔、門守が言ってた事の意味が分かるわ。単純なスペックに頼り過ぎなのよ」
スネークファッジの動きは確かに蛇の様にしなやかで不規則だが、それはぱっと見だ。よく見れば動きには一定のパターンに近いものがあるし、何より速さが足りない。捉えるのはそう難しい事ではなく、動きを先読みして攻撃する事も可能だった。
ヘテロから距離を取ろうと一度後方に飛んだスネークファッジだったがそれは悪手だ。空中ではスネークファッジの持つ蛇の能力が何一つ活かせない。寧ろ的だ。
着地する寸前のスネークファッジを、ヘテロはテイルバスターで狙い炸裂弾をお見舞いした。
「ぎゃあっ!?」
元々然して防御力の高くないスネークファッジは、今の一撃で劇は一歩手前まで追い詰められた。
そこにヘテロは容赦なく畳み掛ける。
「こいつで終わりよ」
〈HORSESHOE × TURTLE × CROCODILE Mixing Burst〉
放たれたインクリュード・シュート。迫る連続蹴りを、スネークファッジは避ける事も出来ず喰らってしまう。
「うぐあぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
数発蹴られただけで爆発を起こし、変異が解け意識を失ったスネークファッジだった女。衝撃で意識を失った彼女の傍に、砕けたベクターカートリッジが落ちてくる。
スネークファッジ撃破を確認し、ヘテロは肩を解すように回した。
「……ごちそうさまでした、と」
***
そしてデイナとモノクロファングの戦い。
この戦いは終始デイナが優勢であった。
「よっ、ほっ」
デイナが振るう拳はモノクロファッジに大ダメージとなり、防御を一撃で崩し後ろに下がらせる。
「くっ!? だがしかし!」
劣勢であるにもかかわらず、モノクロファングは諦めずデイナに挑みかかる。ベクターリーダーを抜き、銃口をデイナに向けて連射した。何発もの銃弾がデイナに迫る。
しかしデイナは、迫る銃弾に対し回避どころか防御もしなかった。全身にワックスを分泌し、それによって銃弾を滑らせ銃撃によるダメージを無効化した。
銃弾が全く通用しない事に戦き後退るモノクロファング。相手が精神的に怯んで攻勢が弱まったのを見ると、そのワックスを利用して床の上を滑走。素早く近づきベクターリーダーを弾き飛ばすとそのままの勢いで腹に拳を叩き込んだ。
「うごはぁっ?!」
殴り飛ばされたモノクロファングがスロット台に叩き付けられると、潰されたスロット台からコインが滝の様に吐き出された。普段であれば大当たりという事で客も見た者も大騒ぎする光景だろうが、今この時では空しいだけだ。
「こ、これが……これが、デイナ……」
スロット台から体を起き上がらせながら、モノクロファングは改めて自分が誰と戦っているのかを認識し後悔した。
この2年間、デイナが戦ったという話は聞かなかった。そしてデイナに変身する仁は1年しか戦いを経験していない。1年だけ戦った者が、2年のブランクを経て満足に戦えるとは思っていなかったのだ。
しかしそれは大きな間違いだった。仮面ライダーは健在だ。
そもそもニュージェネレーションフォームとなったデイナ、そしてそれに変身する仁は進化した人類である。全ての能力が人間を超える彼は、種を残す能力の一環として全盛期の状態を出来る限り保とうとするように体が出来ているのだ。だから寿命が長く若い姿を保てるし、こうした生きる為に必要な経験は頭も体もなかなか忘れない。多少の鈍りを感じても、それは直ぐに補正されて2年前と遜色ない能力を発揮する事が可能だった。
モノクロファングが挑んだのはそういう相手なのだ。決して安易な気持ちで計画した訳ではないが、さりとてジョン程度の男が挑んではいけない相手だったのである。
だが今更後悔しても遅い。後悔とは『後に悔いる』と書く。もう、引き返す事は出来ないのだから。
「これで終わりだよ」
〈ATP Burst〉
「くそ、くそぉぉぉぉっ!!」
〈Full blast〉
デイナのアポトーシスフィニッシュに、モノクロファングもジェネリック・ブレイカーで対抗する。が、そもそも地力が違うので僅かな拮抗の後にジェネリック・ブレイカーが打ち破られ蹴り飛ばされた。
「がぁぁぁぁぁぁっ?!」
「……レポートは、纏まったな」
蹴り飛ばされ空中で爆発したモノクロファングは、元の姿に戻り床に叩き付けられる。その衝撃で意識を失ったジョンの手から、ベクターリーダーが零れ落ちた。
それと時を同じくして、ルーナの方も敵を倒し終えていた。
「ハッ! ヤッ! セイッ!」
銃剣、銃撃、そして蹴り。素早く多彩な攻撃を繰り出せるルーナを前に、アントファッジでは相手にならない。次々と打倒され、彼女の奥に居る白上教授と彼に守られている2人の赤ん坊に近付くことすらできなかった。
〈ATP Burst〉
「ハァァァァッ!!」
周囲に集まっていたアントファッジ達をノックアウトクラッシュの回し蹴りで一掃したルーナは、それでも仕損じた奴がいないかを警戒して構えを解かず周囲を見渡す。
離れた所からその様子を見ていた白上教授に抱っこされた子供達は、そんな母の活躍に興奮した様子だった。
「お~! お~!」
「きゃっきゃ!」
幼いながらに母が自分達を守って悪党を薙ぎ倒したことが分かるのか、声援を送るように騒ぐ2人の赤ん坊。愛する我が子の声に、ルーナも思わず肩から力が抜け仮面の奥で笑みを浮かべてしまった。
【無邪気ね~】
「無事の証拠でしょ」
【でも将来が心配だわ】
「大丈夫よ。私達と仁くんの子だもの。きっと、大丈夫」
ルーナが変身を解くと、同じく変身を解いた仁がジョンを担いでやって来た。仁は亜矢がアントファッジ達を倒し終えたのを見ると、ジョンをその場に置き亜矢と子供達と無事を確かめ合った。
こうして日本に向かう豪華客船内での戦いは収束を迎える。首謀者は全員逮捕され、人質となった乗員・乗客は全員救助されるのだった。
***
客船での事件後、無事日本に到着した仁達。彼らが今回日本行きの客船に乗ったのは、亜矢の出産祝いに客船での船旅をプレゼントされたからと言うだけではなかった。
日本について数日後、仁達家族はある一組のカップルの結婚式に出席していたのだ。
「先輩、ご結婚おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
「おぅ」
「ありがとう。門守君、亜矢さん」
結婚したのは拓郎と峰。本格的交際を始めてから約2年、漸く2人も結婚に踏み切ったのだ。
そこには仁と亜矢が一足先に結婚した事に加え、更には子供まで作ってしまった事が関わっているのは間違いなかった。
ウェディングドレス姿の峰が仁と亜矢に抱かれた2人の子供に笑顔で手を近付けて振ると、2人も興味深そうに峰の事を見て手を伸ばしてくる。赤ん坊特有の可愛さに、峰は早くも魅了されていた。
「はぁ~、可愛い子供達ですねぇ。私達もいずれこんな子供達が出来るのかな~? 拓郎く~ん?」
「ん!! んまぁ、そうだな……」
早くも子供を強請られ、顔を赤くする拓郎。学生時代は意識していなかったが、彼は存外初心な方なのかもしれない。尤もそれは峰も同様か。自分で言って恥ずかしくなったのか、遅れて峰も顔を赤くするくらいだ。
「……ところで、見た事もない仮面ライダーが出たって?」
「ん、そうですね。テテュスって名乗ってました。デイナドライバーとは全然違うシステムで変身するみたいです」
「結局あの後、あの人の事は何も分からなかったんですよね」
事件後宗吾にあの女ディーラーについて何か分かる事はないかと訊ねてみたが、臨時で雇われたディーラーであるということ以外は何も分からなかった。再会する事も叶わず、彼女がどういった人物なのかを知る事すら出来ない。
だが仁はあまり残念そうにしてはいなかった。普段であれば興味の対象を逃がしてしまったのだから、もっと悔いるものかと思っていた亜矢は意外に思わずにはいられない。
「仁くん、随分落ち着いてますけど良かったんですか?」
「ん? うん、まぁ大丈夫だと思うよ」
そう言って仁が取り出したのは1枚のコイン。以前香苗が、お土産にと持ってきてくれた緑のコインだった。
「あ、それ……」
「……勘だけど、また会える気がするんだ。いや、きっと会える」
そう言って仁は手の中のコインを光に翳した。
その先に未来を見据えるように。
太平洋上・日本国所有商業特区『海都』
夜の闇に支配された洋上で、誘蛾灯の様に強い光を放ち続ける日本のラスベガスと呼ばれる都市、海都。
その明るい街の中で、まるで魚が人型になったような無数の怪人が人々に襲い掛かっている。魚の怪人はその爪と牙で、逃げ遅れた人に次々と襲い掛かっていた。
その怪人達に、自分から近付いていく者が居る。大海原の様な青い髪をポニーテールにした、同色の瞳を持つ女性だ。
女性は手に羅針盤の様なものを持っている。その羅針盤が差す場所に、怪人達がいた。
怪人達は女性に気付くと、殺意に目をぎらつかせながらじりじりとにじり寄る。しかし女性は全く臆することなく、その羅針盤をそのまま腰に装着して1枚のコインを取り出し指で弾いた。
「
呟くと同時に左手でコインをキャッチし、ベルトに装填した。
〈Bet your life〉
「変身!」
〈Fever!〉
女性――「
それは仁達も知らない仮面ライダーの物語。
だがいずれ彼らは再び出会う。仮面ライダーの宿命として…………
という訳で第4話でした。
いかがでしたでしょうか、次回作の仮面ライダーテテュス。『海洋』と『ギャンブル』をモチーフとした仮面ライダーとして作りました。ライダー自体はどちらかと言うと人魚姫が近い感じですかね。
折角なんで、次回作の主人公に関して簡単な説明を。(注:以前は主人公の名前を翡翠にしていましたが、今は瑠璃に変更しています)
・名前:大梅 瑠璃
年齢:恐らく24歳(外見から判断)
職業:海都にある一つの小さなBARでウェイトレスとディーラーを兼業している。
詳細:
2年前に街として機能し始めた海都に文字通り流れ着いた女性。名前も何もかもを忘れた状態で海都に漂着していたのを、街の中にあるBARの経営者「
2年以上前の記憶がない彼女だがギャンブルの腕は一流で、そのおかげもあってか店は小さいながら海都では有名な店となっている。
成り行きで仮面ライダーテテュスとなってしまい、そのまま突然街に出没するようになった怪人「ディーパー」との戦いに身を投じる事となる。
・仮面ライダーテテュス
瑠璃が「リールドライバー」で変身する仮面ライダー。変身の際には街に漂着した際瑠璃が唯一持っていたコイン「ライフコイン」を装填してルーレットを回す事で変身する。これと言って特色のない能力しか持たないが、「ドロップチップ」をベットしてルーレットを回す事で様々な能力を発動する事が出来る。賭けたチップの枚数で能力の種類や強さが変化するのが特徴。
現時点ではこんなところですかね。本格的にテテュスの物語が始まったらさらに情報を出していくので、どうかお楽しみに!
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。今回で仮面ライダーデイナは終わりとなります。しかし仁達の出番は終わりではありません。
次回作にも誰かしら登場する予定ですし、現在進行しているハーメルンジェネレーションシリーズでも登場しますので、そちらの方もよろしくお願いします。
それでは。