ゲーム始めたら猫耳で銀髪の記憶喪失少女NPCが捨てられていたので育成して最強目指します   作:運の命さん

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第11話 美少女NPCと交流

 その街は初期の村とは比べ物にならない程、いや比べるのも失礼なほどの賑わいを見せていた。

 NPCではなくプレイヤーが経営する店、プレイヤーが集う冒険者の広場、茶色いレンガで造られた建造物、その想像を超えるスケールに俺達は圧倒された。

 

「すげぇ」

「人がいっぱいいる……」

 

 大樹から聞いた話では、この世界は幾つもの領域に別れており、今の時点で俺達プレイヤーが行けるのは、赤の領域と緑の領域の二つ。そしてここは初期の緑の領域における最後の街であるらしい。

 赤の領域は何でも炎があちこちから吹き荒れる上級者エリアであり、今の所ここが一番賑わっているとのことだ。

 

「さて、どうしたもんかな」

 

 新しい街という事は、初期の村よりも店の商品の品揃えが優秀になっている筈。とすれば先に鍛冶屋によるのが先決なんだろうが、いかんせん店が多すぎる。鍛冶屋だけで5つぐらいはあるぞ? おそらくは俺と同じプレイヤーが経営している鍛冶屋なんだろうが。

 

「ユキ、お前はどこか行きたい所とかあるか?」

「私は、そうですね……って、あ」

 

 周囲をキョロキョロするユキは何かを見つけ、入口のすぐ横にある店の方に駆けだしていく。

 正確には店を見つけたのではなく、店の前にいる剣を持った男性に向かって走っている。ユキの知り合いなら間違いなく俺は出会っている筈だが……無理だ、思い出せない。というか絶対会った事がない。

 俺は急いでその後を追いかける。

 

「あ、あのっ。あの時はありがとうございます」

「んぉ? ……ってお前、あの時の。連れは、見つかったようだな」

 

 剣を担いだ男は追いかけた俺の方を見て何やらそう吐き捨てる。

 一応連れはユキの方なんだが、いつの間にやら俺がユキに振り回されているようになってきていた。

 

「シノハがいない間に、モンスターに襲われていた所を助けて頂いたの、フレイさんって言うんだ」

「そ、そうなのか。世話になったようですね、感謝します」

「別に、あのまま見捨ててやられたら気分悪かっただけだ。あと別にかしこまらなくていい。それと、ちょっといいか?」

 

 フレイという男は親指をクイッと動かし、路地裏へ来いと俺達に合図する。

 何だろうと思いつつ、その合図に従い人目のつかない路地裏へと移動する。

 

「行き成りどうしたんです?」

「どうしたんですじゃねぇよ、こいつの事だ。NPC連れてるって普通じゃねぇだろ、掲示板じゃ専ら噂になってるぜ?」

「それは……」

「洗脳させて無理やり戦わせてるとか?」

「ちげぇよ」

 

 初対面の人に対してつい普段の口調でしゃべってしまった。まぁでもかしこまらなくていいと言ってくれたので大丈夫だろう。

 

「ゲームを開始した時に、捨てられたユキを見つけてな。そこから成り行きで一緒に行動してるってわけだ」

「捨てられてた? なんだそれ、聞いたことねぇぞ。少なくとも俺が開始した時は居なかったからな」

「俺も聞いたことない。それに、俺が見つけた時は名前も職業もハテナ表記だった。ユキって名前も俺が付けた」

「ふぅん、まぁいいや。おいユキっつったか、お前はいつから捨てられていた?」

「良く、覚えてない……。シノハに見つかる数週間、前?」

 

 記憶が朧げなのか、ユキは曖昧な回答しか答えなかった。

 

「数週間前……ゲーム内だと大きいバージョンアップがあったくらいだが?」

「何かあったのか?」

「別に。精々上位種のジョブが追加されて赤の領域が解放されたくらいだ。コイツ関連の事はなかったはずだ」

 

 このゲームの数週間前の知識なんてある筈もなく、俺はフレイの記憶に従う他なかった。

 レベル的にも相当やりこんでいる事が伺えるし、その記憶は確かなんだろう。

 

「収穫はなし、か」

「残念だったな。まあ、これも何かの縁だ。俺おすすめの店を一つを紹介してやるよ」

「それはありがたい」

「ありがとうございますっ!」

「じゃ、ついてきな」

 

 路地裏をそのまま奥に進み、街の反対側へと歩く。

 通りに出て、暫く歩いた所で一軒の店にたどり着く、フレイはここだと言って中へ俺達を誘導する。

 

 

 〇

 

 

 誘導されるがままに中へ入ると、そこには綺麗な意匠の施された武器や防具が沢山飾られていた。これ全て売り物なんだろうか? だとしても今の俺達じゃ到底手の届かない価格なんだろうが。

 フレイはずかずかとカウンターの方まで歩き、はしごのかけられた天井に向かって叫ぶ。

 

「おい、ティス。居るんだろ? 客だぞ」

「なぁに~……今忙しいんだけど」

 

 本当に店主なのか? と疑いたくなるような返答が返ってきた。この返答にはフレイもさすがに呆れたのか凄いため息を吐いた。

 だが次の瞬間彼はニヤッと笑い、続けて叫んだ。

 

「例のNPCが来たって言えば、どうだ?」

「ん~NPC~? ……え?」

 

 例のNPC、まぁ十中八九ユキの事だろう。そこまで噂になっていたのか、掲示板というのは恐ろしい物である。

 それを聞いた刹那、バタバタと激しい音を鳴らし、天井から青色の髪をした女の子が凄い勢いで降りてくる。

 

「フレイ、どこ!? 猫耳、銀髪、美少女、3つの完璧要素が揃ったそのNPCというのは!」

「テンションが限界オタクのソレだぞ。ほら、そこ」

「あっ、本当だ、本物だ!」

 

 カウンターを飛び越え、ティスという少女はユキの肩を掴みマジマジと見つめる。

 フレイも言ったが、俺から見てもそれは限界オタクだった、正直引いた。

 

「銀髪に猫耳ってもはや定番だよね、好きだったアニメもそうだったけど、なんというか白は女の子を際立たせるというか!?」

「ぇ、え? え?」

「おいティス。さすがにキモいぞ」

 

 フレイはそう言って、通報と書かれたパネルを表示する。

 

「はっ、取り乱してしまった……。とりあえずフレイはそのパネルを閉じるんだ」

「間一髪だったな、押す0.5秒前だった」

 

 ふぅ、とティスは息をつき、カウンターへと戻って、俺達の方に向き直る。

 

「で、何か用かな?」

「街の入り口で偶然出会ってな。その縁でここを紹介してやった」

「成程ねぇ。私の店の物を買うのに金貨50枚、銀貨で換算したら5000枚程いるというのに、今紹介するなんて、意地悪だねぇ」

「き、金貨50枚……」

「やっぱり高いな」

 

 仕方ないか、先ほどティスがユキにじゃれあっている間、俺は近くにあった剣の詳細を見てみたが、攻撃力を100程上昇し、かつ麻痺のデバフ付与等の効果を保有していた、そりゃ高額に決まっている。

 この付近のモンスターを1体倒して銅貨10枚~15枚程度だ。稼ぐとなると途方もない時間がかかるだろう。

 

「こういう店は早いうちに見ておけば、プレイヤーはゲームをやめたくなくなるんだぜ? 憧れってやつでな」

 

 ごもっともで。

 

「詐欺師の素質あるんじゃない、アンタ。……ん、しょうがない。噂のNPCと会わせてくれたお礼。えっと、ユキちゃんだっけ。その子の防具一式と武器、一つ提供してあげようか?」

「なっ、いいのか!?」

「本来なら超高額だが、まあツケって事にしといてあげる。何よりねぇ……ユキちゃんに可愛い衣服を着させられるというこの興奮よ! たまんない」

「やっぱ通報しといたほうが良かったか?」

「あ、それはご勘弁を!」

「えっと、ありがとうございます?」

「なーに、winwinの関係ってやつよ」

 

 ティスはグットサインをして、ユキのお礼にこたえる。確かにここで見繕ってくれるのならば、今後武器や防具を買うのにお金を消費しなくて済むだろう。勿論俺の分は自分で用意しなければならないのだが。

 それにしても、ユキの珍しさというのは相当な物だと改めて感じた。誰から見ても、ユキは普通のNPCとは違うって事なのだろう。

 

「さて、俺はまた素材集めにいってくるわ」

「はいよ~、さっさと帰った帰った。ユキちゃんと私の二人による至福な時間の邪魔になるだろう」

「へいへい、じゃあな。あっ、明後日のイベント、楽しみにしてるぜ?」

「え?」

 

 それだけ言い残して、フレイは店から立ち去った。

 イベント? どういうことなのだろうか。

 

「何、アンタ知らないの?」

「あ、ああ、さっぱり」

「第1回イベント、明後日に開催される対人イベントだよ」

 

 ティスはニヤリと笑い、俺達にそう告げた。




閲覧ありがとうございます!

続きもお楽しみに!

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