どこだか、記憶の片隅にある雪道を歩く。
雪は今もちらほらと降り続いていて、軽く雪合戦が出来そうなぐらいには積もっていた。手で少し掴み取ってみて、しかし雪はすぐに融けてしまう。吐く息が白く曇った。
そして、一歩踏み出せば靴が少し沈むぐらいの雪道を行くあてもなく彷徨う。やることもなく、することもなく、ただただ歩く。
しばらくふらふらと、木と木の間をおそらくは蛇行しながら歩くと、突然目に映る色が変わった。
それは随分と馴染み深い色で、印象に濃い色で、嫌なことを思い出してしまう色で、見た瞬間に息をのんだ。胸の鼓動が高鳴り、動悸が激しくなる。
その色を見て、この場所を見て、思い出した。
――――ああ、ここは。
景色が一変する。
今度はどこかの洞窟だろうか。薄暗く、時折水の垂れる音が聞こえてくる。
少し先に目をやると、光が漏れていた。後ろに目を向けると、ただ黒が広がっていた。
光を頼りに先に進む。
考えてみれば、俺は何をしているのか。洞窟を進みながら疑問に思った。
また後ろを振り返ると黒はすぐそこまで広がっていた。進めと言う事だろうか。
一歩進むと、そこは今までの狭い道とは違っていて、人の手が加わったように円状に広くなっていた。
中央まで進み、見渡す。何もない。
しかしまだ道は続いているようだ。進もう。
一歩踏み出す。そして瞬く。
瞬きの前後で景色が変わった。何だよと思い、周囲に目を向けた。
あれは生体ポッドか。中には何も入っていない。それが無数に並んでいる。
何かの実験施設だろうか。なにを実験していたのだろうか?
意味が解らなかった。しかし何か引っ掛かるものを感じた。それが何なのかは分からない。
背後で、何かが動く気配を感じた。
後ろを向く。ほんの目と鼻の先まで、黒が迫っていた。その中で、何かが動いた気がして目を凝らす。
それに気づいた時には手を伸ばしていた。伸ばしながら、黒の中へと体を入れる。
何が何でも助けないと、この身に変えても助けるんだと必死に手を伸ばす。
あと少しでそれに届くと思った時に、黒は消え、俺は目覚めた。
『気分は?』
「……最悪だよ」
吐き気と共に、夢から醒めた。
結局のところ、俺という人物は大したことのない、アニメで言うとぽっと出のモブキャラのポジションの人間だ。
転生だか何だか、今までは夢の中ぐらいでしか持つことのできなかった強力な力を得て、調子に乗って、守るべきものも守れず、いつまでも未練たらしくグチグチと後悔している。
そんな小心者で、臆病者である。
挙句の果てには折角得た力を失ってまでやり直しを選んだ。
これを小心者と言わずして何と言うのか。
俺の中の理想の主人公は決してそんなことはしない。
嫌なことがあっても、後悔しても、認めたくないことがあっても、それでも前へと進んでいく。
そんなのが理想だね。しかも周りにそんなのがいすぎるから、いつも羨ましく思ってる。ずっと嫉妬してる。本当に見にくい生き物だ。
ただ一つ言えることは、俺は何があっても主人公にはなれないということだ。
世界を救っても、人を助けても、社会に貢献しても、俺にスポットライトが当たることはないのだ。どれだけ努力を重ねてもその先を行く一流は常にいるから、その影に隠れることになる。
そんな一流に嫉妬ばかりしている俺は、いいとこ悪役がお似合いだろう。
そんないつだか行った自己分析に、再度日の目を当てながら、目の前のものと会話をする。
『つまり、君がやろうとしていることは全くの無駄と言うわけではない』
「ほお」
『むしろ君にお似合いだ。その結果、君の望む結果になることも――、まあ君の努力次第ではあるが有り得る』
「へえ」
『だから、君はそのまま突き進むといい。余計なことは考えずに、妥協せずに、容赦しないで、目の前のことを一つ一つ片付けよう』
言われなくてもそのつもりだ。しかし、今現在進行形で随分大きな障害が出来てしまった。
下手したらここで二度目の人生は終わりだし、最悪全員が死ぬだろう。それだけは避けたい。
どうしようか。
『どうしたい?』
どうしようか。
『何をしたい?』
何をすればいいだろうか。
『結局は君次第だ』
好きにしろと。そうかそうか。
「じゃ、帰ろうか」
目の前のものに銃を向け、間髪入れずに撃った。
当たり、そして世界は崩壊した。
崩壊の瞬間、それは確かに笑っていた。
「起きて」
聞こえた気がした声。目を開けると海の中。聞こえるはずがない。
というか戻ってきたらなぜ海の中なのか。よくわかんね。
上に目を向けると桃色の閃光が海上に見えた。
何分消滅してたのか知らないが、相変わらず戦闘は続いているようだ。
いい加減クロノも来る頃だろうし、そろそろ休もうぜと思う。
でも、そうはいかないんだろうな。
残り魔力量と出来ることを相談。大したこと出来ないな。
取りあえず二丁拳銃モードを解除して、デバイスを観察。いけるかな? いけるに決まってるよな。いけなかったらばらしてやろう。
デュアル、モードチェンジソード。
中途半端な形で止まっていたデバイスが剣型デバイスへと形を変える。
そして剣先を奴がいるだろう方向へ向け、チャージ開始。
チャージしてる最中暇なので高町なのはに念話。
『今から砲撃撃つから足止めよろしく』
答えは聞かずにぶつ切りにする。
いい加減おわりにしよう。
残っていた魔力を全てつぎ込み、収縮、収縮、収縮。
手のひら大にまで収縮したそれを今度こそ、殺すつもりで撃つ。
ムーンレイ
俺の魔力光で月のように見えるそれは相変わらず反動がきつくて、魔力が空になったことも重なって、今度こそ意識がどこかに旅立った。
多分クロノンが拾ってくれるだろうからと安心して、眠る。呼吸困難で死なないことを願って。