世の中にはいろんな人間が様々な価値観をもって暮らしている。
ある人が見たら悪なことが、違う人が見たら正義に見えることもある。
つまるところ、悪や正義は人の主観でしかない。自然界に悪と正義の概念がないことを考えて、悪くいえば人のエゴとも言い換えられるかもしれない。
主観によってぶれぶれで、はっきりとした定義がないのが善悪。
悪とか正義とか、良い事とか悪い事とか、所詮そんなものである。
大勢の人間が悪だと感じたらそれは悪で、正義だと感じたらそれは正義だ。
大半の人間が悪だと判断したものを正義だと主張する者、正義だと判断したものを悪だと主張する物は変わり者、変人のレッテルを張られ、断罪の対象になりかねない。
なんともまあ生きにくい世の中だ。
「何でも屋?」
「そうだ」
陸に異動してから三か月ほどが過ぎ、いい加減仕事にも慣れ始めてしまってきた頃、上司から一つ事件の捜査を命じられた。
「何ですかそれ」
「言葉通り、金さえ払えば何でもする連中の事だ」
ほーんと気のない返事をする。実際、話を聞く限りその何でも屋に何らかの関心を持つことはなかった。
「そいつらは依頼されれば犯罪にすら手を染める。それが、辺境でばかり活動していたのが、最近クラナガンにも進出して来たみたいでな。いい加減目障りになった」
「で、俺の出番と」
「そうだ。聞くところによればデバイスを所持しているそうで、魔法を使うそうだ」
「ふーん」
「お前にやってもらうのはこの犯罪集団の撲滅だ。出来るかぎり早く片付けろ」
人相の悪い上司に偉そうに命令され、それに従う。
クロノンが上司だったころが懐かしい。クロノンだったら適当に茶化しながら会話を進めるのに、このおっさんは冗談が通じないからやりにくい。
へいへいと返事をしながら、資料を受け取りさっさと部屋を出る。こんなとこにいつまでも居られるか、息が詰まるわ!
資料を見る限り、何か有力な情報があると言うわけでもないらしい。顔すらわかってないんですか?
こんなの資料ではない。
こんな状況から早く解決しろとか俺の実力を試されているのか、それともただの嫌がらせなのか判断に困るな。
そもそも俺一人で事件の捜査という時点でおかしいし。まあ陸は常時人手不足だから仕方がないのかもしれないが。
「とーりあえずー」
情報貰いに行きましょうかねえ。
ミッドチルダの辺境にある廃棄都市。そこを影からこそこそと見られながら目的の建物まで歩く。
目的の建物まで、色々と乞われたり襲われたりしたが、無事に目的地に着いた。
入る前に軽く準備運動をして、扉を蹴り飛ばしながら入室する。
「情報よこせおらあ」
「……相変わらずいきなりですね」
そこには女のか男なのか、声からも外見からもはっきりしない中途半端な奴がソファに腰かけていた。
「いいから情報ちょうだいな」
「まずドアを直してください。話はそれからだ」
先ほど蹴って開けたドアを見る。金具がひん曲がっていて、とてもじゃないが直せる気がしない。
「直せるかぼけ」
「では弁償ですね。高いですよ」
「いくら?」
「あなたの給料一月分」
「待ってろ今直す」
金具がひん曲がったのならもう一度ひん曲げて元の形に戻せばいいじゃない!
「直った」
「ありがとうございます」
どうぞ座ってくださいと対面の椅子を薦められる。素直に座るが、正直あいつが座っているソファの方が座り心地が良さそうだった。
「それで今日は何の御用ですか?」
「情報おくれ!」
「何の情報でしょうか」
「何でも屋」
ああ……。と何だか意味ありげに言う。
そしてふっ、と口元に微笑を浮かべて、「彼らも終わりですか」と続けた。
「知り合い?」
「ええ。少し贔屓にさせてもらっていたんですが、まあ仕方ないですね」
最近の彼らは少々やりすぎでしたから。
こいつは色々知っていそうだとその言葉で思った。
「で、情報はくれるの?」
「ええ。しかしただで、とはいきません」
「それくれるって言わねえだろ」
俺の言葉はスルーされた。
「まあとりあえずこれぐらいで」
指を二本立てる。高い。
「これぐらいだろ」
指一本。
しかしあいつは納得しない。
にっこり笑って指二本。おのれ。
「せめて一本半」
「……まあいいでしょう」
不遜気にソファに深く腰掛け、偉そうに嘆息した。殴りたい。
「何が知りたいんですか?」
「全部」
「はあ……」
「何だよその溜息」
「いえ、正直に面倒だなと」
「いいから言えや。言わんのなら吐かせてやるよ」
とりあえずご同行願おうか。
「言いますよ。ちゃんと」
「はよはよ」
「急かさないでください。えーと」
リーダーはバレスと言い、魔法を使う。
人数は十数人。詳しくは不明。
今はミッドチルダのクラナガンに拠点を作り活動中。
「……これだけ?」
「話せるのはこれぐらいですね」
「もっと持ってるな。言え」
にっこり笑って指三本。
あ、やっぱいいです。
「拠点が分かっただけでも儲けもんか」
「欲がないですね」
「高いんだよ」
「貯め込んでおいででしょう?」
「何故知ってる」
ふふふと笑うこいつに、戦慄を隠せない。
俺の預金を把握とか、こいつやばい。
「じゃあ帰るわ。金は近いうちに持ってくるよ」
「忘れないでくださいよ」
忘れないさ。多分。