やる気の無い状態で書いたらどうなるかを如実に表した一話になっています。
さてさて、管理局にスパイいるんじゃね? とかいう疑いをそれはそれは強く持ったため、見ず知らずのみならず顔見知りの連中にすら最近の自分の動向を伝えていない。
おかげで、最近リンディ提督の夕飯お誘いメールがマシンガンのごとく炸裂しております。
ま、無視してるんですけどね。
そのせいで、今こうしてクロノと差しで話す羽目になっているんだけども。
「まあ食えよ。お前の大好きな砂糖菓子だ」
「ありがとう。しかし残念だな。僕は甘い物が苦手なんだ」
「知ってる。これ元々お前に送る予定だったんだぜ。こうして直接お目見えしたから必要なくなったけど」
「ああ、だからあそこに同じものがいくつも積まれているのか。納得がいったよ」
「嫌だなあ。照れるからあまり部屋を見ないでくれよ」
「はははは」
「ふふふ」
互いに相手の胸倉掴みながらのやりとり。僕たちは仲良しです。
「まあ食えよ。うまいぞ」
「何度同じことを言わせる気だ」
「短気な奴だ。牛乳はいかが?」
「いただこうか」
お茶の代わりに牛乳をご所望のクロノンに望み通りの牛乳を出す。消費期限はいつだったかなあ……?
まあいいや。
「ほら、おあがり」
「ありがとう」
ごくごくと一気飲み。ほれ、いっき、いっき、いっき、いっき。
「ふぅ……。本題に入ろうか」
「お前の母ちゃんのメールが怖い件について」
「それは君がきちんと返信すれば済む話だ」
「ほらこうしてる間にも一通」
二人でそのメールを覗き込む。
『どうも(#^^#)
そろそろお返事欲しいなあって思っています(^^♪
いい加減にしてくれないと直接出向くことになるかもしれません(^◇^)
ですから「今夜行きます」の一言を書いて送ることをお薦めいたします
それ以外の返答は目に入らないわ
私の機嫌を損ねるとどういうことになるか、その体に直接』
そこでメールを閉じた。顔を上げ、クロノンと顔を合わせて
「怖い」
「怖いな」
性質の悪い迷惑メールみたいな内容を読んで、俺たちの思いは重なった。
「まあ、今日僕がここに来たのはその件についてだ」
「お前の母を止めてくれ。そろそろ命が危ない」
「ああ。君がメールを返して一度食事を共にすればすべて解決だ」
「忙しくてね。中々時間がないんだ」
「君、僕が来る直前まで何をしていた?」
「テレビ見て笑ってましたね、はい」
「忙しい……?」
「テレビ見るのに忙しいんだよ、文句あるかこの野郎」
興奮のあまりついつい立ち上がる。そう、俺はおかしな主張はしていない。感性は人それぞれで、何を忙しく感じるかは人によって異なる。
金稼ぎの仕事を忙しいと感じる人もいれば趣味が忙しく感じる人もいる。だからテレビを見て笑うのを忙しいと主張することは何らおかしな話ではない。
「ふふん」
「胸を張って威張るようなことじゃない。まあ今日の所は時間も時間だしもういいが」
「じゃあ帰れよ」
そろそろ飯作って食って風呂入って寝るんだよ。
「さもないとご相伴にあずからせるぞ」
「ではそうしようか。まだ話はあるんだ」
どうやら本気で俺の飯が食いたいらしい。そうまで期待されれば仕方がない。腕によりをかけるとしよう。
「何かあるかねえ」
冷蔵庫の中身を確認。あー。
バタンと冷蔵庫を閉める。
「決定。焼き飯」
「どんなものが出ても文句はないさ」
男が作るから所詮大味よー。期待はするな。
クロノンが牛乳片手に背後に立ったところで、お料理スタート。
「…………」
「…………」
冷蔵庫を漁って食材を出しているが、じっとこちらを見ているクロノンが気になって仕方がない。どこを見ているんだ。尻か? 桃尻か? ぼくちょっとそんな趣味ないんで。
ネギを切りながら後ろで眺めているクロノンをちらり。
「…………」
「…………」
肉を切りながら後ろのクロノンをちらり。
「…………」
「…………」
油をフライパンに垂らしながら後ろちらり。
「…………」
「…………」
ご飯を炒めながらクロノンちらり。
「…………」
「…………」
その他の食材を投入しながら牛乳一口。
「待て、それは僕の……」
「けちけちするな」
出来たそれを皿によそって、クロノンに見せびらかしながらテーブルを顎で指し、そちらへ移動。
「スプーンは?」
「あ」
キッチンに戻りスプーンを手に入れ、ついでにお茶も持っていく。
「まあ食えよ」
「いただきます」
クロノンが口に特性焼き飯を運ぶのをじっと見ながら自分も一口。……うん。
「まずくはない」
「しかしうまくもない」
微妙。
「最初に米から炒めたのがまずかったんないか?」
「火の通りにくい順に炒めるんだっけ? で、何が火通りにくいの」
「知らん」
料理しない人同士の会話。
まあ、普段料理しない人がやったのだからこんなものか。まだ食べられるだけましだと思っておこう。
なんだかんだ言いながら食後。
「君が時々でいいから顔を出してくれれば」
「わざわざ地球まで行くのは疲れるなあ。嫌だなあ」
「母さんは君の事を気にかけているようなんだ」
「嫌な人にの眼にとまってしまった……」
「まあいいから一口いってみろ」
「いや、何度も言うが――――」
「人間、苦手なものの一つや二つあるもんだ。しかしだからと言って克服する努力をしないのはどうかと思う」
「君が知らないだけで十分努力はしたよ」
「母さんは、今寂しいんだ」
「なぜ」
「折角できた娘が学校に入ってしまって」
「でもどうせすぐ出てくるんだろ」
「ああ。もうそろそろ卒業だ」
「はええよ。仮にも法を扱うならもう少し時間掛けられないのか」
「フェイトは優秀だからな」
「妹自慢か。ご馳走様」
「この金属片はなんだ?」
「デバイスの部品」
「そういえば君のデバイスは自作だったか」
「そろそろ変えた方が良いと思うんだけどなあ。愛着があるから中々決心がつかん」
「いつから使っているんだ」
「5歳から」
「魔力、筋力、その他諸々のステータスが超上昇するドーピング魔法はないかねえ」
「知らないな。仮にあったとしても反動が凄まじいだろう」
「それでも男にはやらないといけない時があるのさ!!」
「なぜそこだけ力強い」
「なのはもフェイトと同じ訓練校に通っているんだ」
「ほう」
「はやても足が動くようになり次第入学する予定だ」
「ほほう」
「ユーノは無限書庫で働き始めた。彼の性格から言ってお似合いだろう」
「へえ」
「素っ気ないな」
「興味がないんで」
そんな風に、他愛のない話を一時間ほど続けた。闇の書事件関係者の最近の動向が半分ぐらいを占めていたが、それはほとんど知っていることだったので、ただの現状の再確認程度の意味合いしかなかった。
それでも、人とこんなに長く会話をしたのは久しぶりだった。
クロノンと同じ艦にいたときには結構話をしていたのだが、異動してからはお互いに忙しくほとんど会話らしい会話はしていない。
本当に久しぶりに会話をした。これでしばらく言葉を使わなくても忘れそうにないよ。ありがとう! クロノン!
しかし、名残惜しいがそろそろ無駄話は終わりにする時間だ。
「もういい加減帰れ。明日早いんだ」
「ん、もうこんな時間か。随分長くお邪魔してしまっていたようだな」
「早く帰って寂しがりな母親に顔の一つでも見せてやれ」
「明日は休みだから、君の事も含めてゆっくり話すことにするよ」
「土産はこの砂糖菓子だ」
「それは君が自分で食べてくれ」
結局、一つしか食べなかった砂糖菓子を渡すが、すげなく拒否される。
いつかこいつんちの郵便受けに全部突っ込んでおこうと心に決めた。
「途中まで送ろうか?」
「僕はそこまで子供じゃない」
「見た目も中身も弟みたいなくせして何を言ってるのだか……」
「君とは本当にいつか決着をつけなければいけないようだ」
「今だけは勘弁な」
眠くて眠くて初手で沈む自信がある。決定打はあれだ、欠伸による目つぶし。強力だぜぇ……。
「いいから早く帰ってママのお胸で寝んねしなさい」
「…………」
無言で部屋から出て行ったクロノン。母親関係になると煽り耐性が0になるのはどうにかならないのか。
帰るクロノンを玄関まで見送り、姿が消え去ったところで部屋の鍵を閉め、テレビを消し食器を台所へ片付ける。
洗い物をすませ、歯を磨きに洗面所へ。鏡には眠たいですと自己主張の激しい顔が写っていたが、それは無視した。
口をゆすいでいる途中で風呂の存在を思い出し、どうしようかなと考える。明日の朝入ってもいいのだが、なんだか明日は寝坊しそうな雰囲気がびんびんに感じられたので、風呂には入っておくことにした。
ぽこぽこと焚ける風呂に右腕突っ込みながら、暇つぶしに今日の事を振り返る。
そうは言ってもクロノンの顔しか思い浮かばなかった。今日はクロノン以外と顔を合わせていないから当然だが、何だかダメ人間のような気がしてならない。ニートの前兆が垣間見える。
自分のダメ人間化はさて置いて、先ほどまで顔を突き合わせていたおかげで鮮明に思い出すことの出来るそのお顔で少し遊ぶことにする。
ぐるぐると回してみたり、怒らせてみたり、鳴かせてみたり。
それは中々面白かったが、実際にやっている訳じゃないからすぐに飽きてしまう。
いい温度になった風呂から腕を抜き、脱衣所へ。
服を脱ぎながら、ふとクロノンはいまだに母親と風呂に入っていそうだなと思った。考えれば考えるほどあり得る可能性と、それをあり得ると思ってしまえるクロノンのキャラを思って、
「あいつって結構マザコンだよな」
ついそんな言葉が口に出てしまった。