クリスから快い承諾をいただき、決まったなら即行動と地上本部へ急ぎ向かう。
用があるのは地上本部にある研究室の一角で、多分今日もいるだろうと思っていたら、予想通り居た。
早速紹介する。
「クリス、紹介しよう。こちら、AMF研究に協力してくださっているベゼルさん」
「やあやあ初めまして。君がクリス君かい」
ベゼルさんは言葉の端に喜色を滲ませながら、大股でクリスのすぐ目の前まで歩いてくる。
「ライ君から聞いた通り、良い体しているじゃないか。ちょっと失礼するよ」
「はい?」
紹介が終わらない内からクリスの体をペタペタ触り、何やら確認するベゼル。
さすがのクリスもこれには困惑が隠せない模様。
「うんうん。やっぱり楯役はこうじゃないとね。体が大きく、筋力があって、何物にも動じない。やっぱりこれだ。これしかない。
さあ、ちょっと服を脱ごうか」
「は」
「いい加減にしろや変態」
「ぐっ」
回し蹴りを顔面に叩き込み、強制的にクリスとの距離を離させる。しかし姑息にもきっちり両腕でガードしてきた。ちっ。
「何も言わずにいきなり服脱げじゃねえよ。引くだろうが。協力してくれなくなったらどうするんだ」
「そ、そうだね。いや失敬。つい興奮して」
「お気になさらず」
さすがクリス。寛大な心を持っていらっしゃる。もし俺が知らないおっさんに体ペタペタ触られたら蹴っ飛ばして帰りますからね。
ええ、ベゼルとの初対面がそれでした。
「このおっさん、そこそこ優秀な代わりに人として大事な何かを失くしちゃったんだ。可愛そうだから大目に見てあげて」
「はい」
「君たち酷いね」
うるせえ。
「そんなのどうでもいいから。それよりあれ出来たのか?」
「君は僕を何だと思っているんだい」
「ゲイかバイ」
「そうか。それよりあれなんだがね、出来たよ」
こっちこっちと手招きで実験室の奥へと誘われる。
これ、のこのことついて行っていいのだろうか。若干身の危険を感じる。
しかし身の危険なぞいつもの事なので、のこのこついていく。
襲ってきたら半殺しで済ませてやろう。男として大事な何かは失うかもしれないが、なに死にはしない。
ベゼルが案内したのは研究室の奥。周りが機械でごちゃごちゃになっている中で中央の台座に鎮座しているそれ。これこそが、今日ここに訪れた理由。
「これは――――」
クリスが呟く。ちょっと大げさだけどそんなに大層な物じゃないよ。加えてまだ完成してないしね。
「ちゃんと起動するのか?」
「任せておくれ」
ベゼルが人差し指でコンッと叩き起動を確認する。
「起きなさい」
『起動』
ベゼルの声で発せられた機械的な音声。音声認識なのかは知らないが、どうやらきちんと起動できたようで何より。
『マスターの認証を要求します』
「うむいいね。不具合はなさそうだ。さて――――」
ベゼルが黙って見ていたクリスに振り向き、手に持ったペンダント型のそれを差し出す。
「マスターは君だ」
「私が?」
「そう。元々ライ君に頼まれて君専用に開発したものでね。まだまだ開発段階の試作型だが、そろそろ実戦データが欲しかったんだ」
「データが欲しい欲しいうるさいもんだから、ちょっと早いけどまあいいかなって思ってな。それが約束の良い物だよ」
ベゼルの説明に追加して説明する。クリスにとっては聞きたいことが山ほどあるだろうけど、今は突然のことに頭が働いていないようだ。ずっと呆けている。
「さあ、受け取りなさい」
「しかし……」
「何も遠慮することはない。ライ君も私も好意でこんなことをしている訳ではない。将来、これの実験結果が必要になると思っているから渡すんだ。つまり、君は私たちに利用されているだけに過ぎない」
「利用……」
「そうだ。君は私たちに利用されている。これはその見返りだ」
そこまで言われても受け取るのを躊躇する紳士。こいつ紳士すぎぃ!
「まあ受け取っておけ。別に悪い物じゃないから」
「…………」
「何かを守るには力が必要なんだ。これは将来絶対に役に立つ。それだけは保証してやる」
「…………」
「クリス、もう目の前で誰かが傷つくのは見たくないだろ」
「……はい」
「今度からお前が守ってやれ」
「――――はい」
クリスがベゼルの手からそれを受け取る。
ようやく、本来の持ち主の手に渡ったそれは、すぐさまマスター認証を終わらせる。
『マスター認証完了。本日から、貴方が私のマスターです。どうぞ、よろしくお願いします』
「よろしくお願いします」
機械にすら敬語を止めないクリスに、つい笑みが零れる。これだとどっちがマスターなのか分からなくなるな。
ベゼルも似たようなことを思ったのか笑いながらクリスに告げた。
「私はそれに名前を付けていない。君が決めてくれたまえ」
「名前?」
「何でもいい。君がこれから相棒となるそのデバイスに、相棒らしい名前を付けてくれ」
「――――」
考え込むクリス。少し時間空けた方が良いんじゃねえの? 色々混乱しているだろうし、名前は後日でも構わないだろう。
そうベゼルに言おうと、一歩近づいた。
「――――ホープ」
クリスがそう呟く。あまりに小さい声で、俺の足音でほとんどかき消されていたが、確かにそう呟いた。
「ホープ」
ベゼルが繰り返す。
開発者として、その名前を噛みしめるようにもう一度繰り返した。
「ホープ。希望か。そのデバイスには、少々不釣り合いな名前のような気もするが、本当にそれでいいのかい?」
「ええ。咄嗟に思い浮かんだのがこれでした。いけませんでしたか?」
「いや、君がそう決めたならそうしよう。これから、そのデバイスの名前はホープだ」
クリスの新しいデバイス、ホープ。思ったよりも時間がかかったが、これで少しは不安が解消される。俺も、もっと自由に行動できる。
「よっし。さっそく試運転と行くかクリス。ベゼル、ちゃんと用意してあるか?」
「もちろんだとも。新しいデバイスの実験テストの名目で訓練ルームを押さえてある。早速向かおうじゃないか」
「うーし! 行くぜクリス!」
ベゼルと共にクリスを置いて翔ける。
いつも研究室に閉じこもっているとは思えない速度で走り出したベゼルを追いかける形で俺が、数秒合間を開けて、クリスが後ろに続く。
「このおっさん早え!?」
「はっはっは! 伊達に普段から研究ばかりしていないよ!」
「関係ねえだろそれは!」
トレーニングルームへとひた走るおっさんに少年と青年。傍から見たら結構なカオスであったことだろう。