頑張って走って向かったトレーニングルームには誰もおらず、何かの機械だけが置いてあった。
たぶんホープの実験データを取るために必要なのだろう。
「ぜえ……、はあ…はあ…。はあ……」
いい年して爆走したおっさんは、吐く一歩手前まで追い詰められており、軽く小突くだけで討伐できそうだった。
実際にやってみたい誘惑を何とか振り切り、おっさんを気遣う。
「大丈夫か?」
「なに……、大丈夫だよ……。この程度……3日徹夜した時に比べれば……。何てことは……ない……!!」
このおっさんも随分ハードな人生送ってるな。
人生は難易度変更は出来ない糞げーだからね。ゲームオーバーになるまでその調子で頑張ってください。
「じゃあクリス。セットアップしてやろうぜ」
「はい」
お互いにセットアップし、戦闘モード。
俺はいつも通りの冴えない銃一丁だが、クリスは長い槍と大きな楯という武装だ。
「どうだね。使えそうかね?」
「やはり違和感があります」
「そこは追々慣れるしかないね」
何度か試しに突くクリス。
武器の種類は変わらないが、武器自体は変わっているため、違和感が拭えないらしい。
それはベゼルの言う通り実際に使って慣れるしかないな。
「最初だし軽く行くか」
「はい」
ベゼルが少し距離を取り開始の合図をするのを待つ。
「ではいいかね。それでは」
ピッと機械的な音がする。続いて連続する機械音。今、カウントが始まった。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、
最後に一際大きく、長く鳴ったブザー。さあ、戦闘の始まりだ。
始まりの合図とともにクリスとの距離を空けようと背後へバックジャンプ。
大してクリスは槍で突くために楯を構えながら突っ込んできた。
牽制目的に魔力弾を何発か撃つ。
それは全て楯に命中し、クリスを若干怯ませることが出来た。突進の速度が減少する。
その僅かな隙に出来る限り距離を離す。
「ぬぅ」
普段使っていたデバイスより数段重く、少しの加速ですら大幅に削られる体力をクリスは実感する。
予想していたとはいえ、そのあまりの重さに顔をしかめる。
しかしそこは気合と根性でカバーする。この程度の苦難今までいくらでも乗り越えてきたのだろう。
先ほどよりも早く、距離を詰めてくる。
易々と距離を詰めさせてなるものかと魔力弾を叩き込むが、今度は怯まない。
装甲車もかくやと言った圧力で近づいてくる。このままだと跳ね飛ばされそうだ。
「はぁっ!!」
一撃で沈めると気合を込めての突き。それを斜めに張った障壁で受け流す。
あまりに重く力強い一撃は、障壁で勢いを殺し切れず、力を受け流された俺の背後に向けて、クリスはたたらを踏んだ。
「隙あり」
体勢を崩したその隙を狙って魔力弾を撃てるだけ撃ち込む。
クリスも咄嗟に楯で防ごうとするが、動きが鈍い。二発ほど食らってしまった。
「ぐっ……!」
このままでは負けてしまうと言う状況になって、クリスは突き出されていた槍を横薙ぎに払う。
その攻撃に俺は撃つ作業を止め、その場にしゃがみ込む。しゃがみ込んで動きが止まった一瞬の隙を狙われて楯による打撃。
後ろに飛んで衝撃を逃そうとするが逃しきれず、派手に吹っ飛んだ。
受け身を取り次の攻撃に備える。
「はあ……はあ……」
しかし折角の攻勢に移るチャンスだったと言うのに、クリスは疲労により追撃できなかった。
今後の懸念は体力不足か。
「大丈夫か?」
「……はあ。……平気です」
がしゃりと楯を構えてまだやれると意思表示。まだもう少しできそうだ。しかしそう長く出来る訳でもない。
「次で終わりにしよう」
「……はい」
互いに息を整え、相手の隙を伺う。
どちらも動かないままほんの少し時が流れる。
「…………」
「…………」
無言のうちに流れる時間。そんな中、呼吸に応じてほんの少しだけ銃口がぶれた。
それが隙となる。
『クイックステップ』
まだ聞きなれない人工的な音声。その声の意味を認識する間もなく、クリスはすぐ目の前に移動していた。
「なぁ――!?」
「チャージラッシュ!」
何時の間に溜めていたのか、魔力により強化された純粋な突きの奔流。
反射的に張った魔法障壁は、攻撃を真正面から向かい打つようにして発動し、勢いを殺し切ることは叶わずにずりずりと背後に押される。
一撃受け止めるごとにごりごり削れる障壁の耐久度。いつまで続くのか無限にも思える中で更なる追撃。
『AMF展開』
攻撃しきれないと見るや否やのAMF。デバイス優秀すぎるだろう。
クリスを中心として円状に展開されたAMF。障壁を最低値にまで弱体化させ、クリスの突きを通らせる。
予想外のAMFに対応できなかった俺とは違い、クリスは最後の一撃に残っていた魔力ほぼすべてをつぎ込んでいた。
吸い込まれるように胸に突き刺さる槍。衝撃を逃がすことも殺すことも出来ず、もろに来るダメージ。走る痛みにより意識が遠のく。
だが、こんな所で気絶してたまるかと気合で踏みとどまる。
「いつぅ……」
さすがに立っていることは出来ずに胸を押さえて膝をつく。痛い。本当に痛い。冗談なんか言ってる余裕ない。骨の一本も折れているのではないか。そう思うぐらいは痛かった。
ここまで来ると非殺傷設定なんか意味を成さない。魔力ダメージで済ますのには限度がある。
「そこまでだね」
息荒く立っているだけで精一杯のクリスと痛みに悶絶している俺。
これは頃合いだと判断したのか、ベゼルが止めに来た。
良い判断です。これ以上やるようならクリスの魔力切れ何か考慮せず、ダブルバレットどころかソードモードまで使って報復しに行ったから。
「どうだね、使ってみた感想は?」
「想像以上に重く、移動するのにも苦労します」
「ああ、そうだろうね。私もそれ程重くなるとは思っていなかった。その点は今後の課題だ。しかしそれ以外はどうだろう? 満足出来る出来だと思うが」
ベゼルの言う通り、見た限りではそれ以外の部分に不備があるようには思えなかった。特に、予想していたよりも魔法の効力が上がっていて、クイックステップを目で追うことが出来なかった。
まさかあれほど早くなるとは。
「いえ。特には」
「そうかね。それは重畳だ」
クリスも特に言いたいことはなかったらしく、今回の模擬選の結果にベゼルも上機嫌なようだ。
「さて、私は研究室に戻るが君たちはどうする?」
「私はもう暫くここに居ます。早くこの重さに慣れなければいけないので」
「そうかね? ならそうしなさい。ライ君は私と来なさい。怪我をしていないか見てあげよう」
「いや、別にいい」
もう治った。先ほどからかけていた自然治癒を解き立ち上がる。だいぶ楽になった。
「君は相変わらず頑丈だ。よかろう。ではクリス君。明日また研究室に来てくれたまえ。そこでデバイスについての詳しい話をしよう。今日の所は早く帰って体を休めなさい」
言いたいことを言って足早に去るベゼル。早く今日手に入ったデータを解析したいんだろうなー。
ベゼルを見送り、クリスに目を向けると、槍と楯を担いで基礎的な動きを繰り返していた。
「良かったら魔法なしの模擬選でもやってもう少し相手しようか?」
「ありがとうございます。しかし今日の所はもう……」
「了解」
それなら俺がやることはもうないな。ベゼルに会わせて、デバイスを渡して、やることはやった。
「じゃ、俺見てるから。終わったら言って。飯でも行こうぜ」
「はい」
他の事に集中しながらの受け答え。聞こえているか心配になったが、クリスなら大丈夫だろう。
待っているまでの間、デバイスの中にこっそりと入れてあった書類を流し読みにする。
これで30分ぐらいなら時間を潰すことが出来る。じっくりと読んでいよう。
クリスが訓練を終えるのはそれから一時間後の事だった。