最近の休みはもっぱらここに来る。
無重力の世界で、ほとんど人もいない静かな空間。この場にいるのは自分も含めてたった二人。
俺がここに来る理由の半分をそのもう一人が占めていると言っても過言ではない。
今日もまた爽やかに、出来る限りの笑顔で挨拶する。
「やあ、おはよう。また来たよ」
「……またですか」
若干の呆れとかなりの諦めが込められた返答。目の前の、中世的で女の子にも男の子にも見える顔立ちの少年。ユーノ・スクライアは溜息を吐いて、歓迎してくれた。
「暇なんですか?」
「暇なら家でゴロゴロするさ」
無限にも思える程の量の本が詰め込まれた部屋、無限書庫。ここは常に無重力で、ひたすらに空間が広がっている。
ユーノ・スクライアはつい半年ほど前にここの司書として管理局に雇われ、以来本の整理を無心に続けている。
どれだけ頑張っても、どれだけやっても終わらない。ここを整理しつくすのは一生涯かかっても多分無理だと思う。それぐらいここは広い。
でも、それを既に半年続けているユーノ。たかだか半年。されど半年。きっとこの半年続けてきたように、これからも、おそらく一生涯掛けてユーノは無限書庫を整理し続ける。
何のためにするのか、なぜそこまで頑張れるのか、それは本人にしかわからない。
「ちょっと……、邪魔なんですけど」
「お構いなく」
「構いますよ」
本の整理を続けるユーノの横をあぐらかいた体勢で浮いていたら邪魔だと言われた。
待って、もうちょっとだけ見させて。
「大体どれぐらい整理できた?」
「1%にも満たないと思います」
「先は長いなあ」
「ええ。ですからちゃんと集中したいんであっちに行っててもらえますか?」
「はい」
いい加減にしてほしいと目が物語っていたので素直にあっちに行く。
いやぁ、会い方が悪かったのか知りませんが印象最悪のようで。ここまで邪険に扱われると中々心に来るものがある。まあ、仕事の邪魔してるのだから邪険に扱われて当然なのだけれども。
俺も探し物をすることにしよう。
入口辺りはユーノが既に大部分を整理し終えているようなので、後で軽く見るればそれだけで済む。多分探してもないだろうし。
おそらく人の眼が容易く届かない所に目当てのものはあると思うから、奥へ奥へと移動する。
探索系のスキルは俺の十八番とするところだが、さすがに見たことも聞いたこともない本を探すことのできる魔法は持ち合わせていなかった。
だから実地でそういう魔法を学びつつ、休日の大部分を使って探し物だ。
あまり時間がないものだから、魔法は早急に学び取っていく。
こういう時マルチタスクとは便利だ。一つに学ばせて、他は改良、捜索と分担できる。すっげえ便利。
こうやってユーノから半ばパクった魔法を使ってお目当てのものを探している。結構通い詰めているけど一向に見つからない探し物。
果たしてどこにあるのだろうか。ていうか本当にあるのだろうか。
本人にもあるかどうかわからない探し物とか探し物って言うのだろうか。
「うーむ」
手に取って詳しく調べていた本を棚に戻す。気が付けば腹の虫が鳴っており、何時間無限書庫に籠っていたのか、何十冊調べたのかわからない。
お目当ての魔法が見つからず、いい加減集中力も散漫になってきた。
というかここは誘惑が多すぎる。興味深い歴史本や危険な発明について纏められた本、更にはロストロギア特集本など興味が注がれる物が数多く存在していた。
これはいかんと思い、一度外に出て息抜きをすることにした。
敵探知を全開にしてユーノの居る方向と距離を測る。結構離れていたことに驚き、どんだけここ広いんだよと呆れる。
宇宙一個分ぐらいはあるのかな。
そりゃあ数か月掛けて探し物しますわ。登山にでも行くのかと思われそうな重装備での探索が日常となっている無限書庫。
こんな所を整理しようとしているユーノも相当だ。無限の名は伊達じゃないと言うのに。
十数分はかけてようやくユーノの居るところまで戻ってきて、その思いを強くした。
一心不乱に魔法を使って、調べている魔法がどんな本なのか把握し、内容によって並べていくその作業。
地味で永遠と続く、人によっては苦痛にしか感じない作業を苦も無く進めているユーノに尊敬を覚えた。
さすがユーノ君。こういう作業やらせたら右に出る人はいないね。これはクロノンに馬車馬のごとく使われますわ。
比較的可能性の高い未来を想像して笑い、ずっと作業していただろうユーノ君に近づいて後ろから話しかける。
「よう」
「…………」
無言。反応らしい反応はない。
果たして集中していて気付かなかったのか、それともただ単に無視されただけなのか。個人的には前者であってほしい。
しつこくもう一度声を掛けようとして、
「………」
「………」
やめた。気が変わったとも言う。
頑張っているのを邪魔しては悪いし、何よりこれ以上ちょっかいかけたらぶち切れられそうだ。
肩にかけようとしていた手を戻し入口に方向転換。多分気づかれないとは思うが、一応気配を殺してその場を離れる。
入口まで来て、ユーノを振り返り、自分なりの応援を送って無限書庫を後にした。
「頑張れ男の子」
子供を見守るおばあちゃんみたいだなと、自分でも思った。