転生して逆行した結果人生イージーモードだった   作:紺南

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27話

トレーニングルーム内でクリスが模擬戦を行っている。

 

相手は俺ではない。空中に自分の魔力でウィングロードとかいう道を作り、そこをローラーブーツで猛スピードに駆け抜ける女、クイント・ナカジマである。

クイントさんは青い長髪の美人さんだ。めっちゃ美人。ただし人妻。確か娘も二人ほどいるとかいないとか。

世の男どもよ、夫のゲンヤさんに何かいうことがあるだろう。

 

クイントさんは両腕にナックル、両足にローラーブーツと言う出で立ちで、活発な印象を受ける。

現に、今もクリスを相手にヒットアンドアウェイの戦法で動きまくっている。

 

その美人なクイントさんに苦戦しているクリスは、離れていくクイントさんをあえて追わず、待ちの姿勢に入った。

どうせまた突っ込んでくるんだろ? ならカウンターで攻撃してやんよ、という企みだ。

 

クイントさんはそんな待ちクリスを見て即座に方向転換。クリスを台風の目のような形に複雑怪奇な道を張り巡らす。

その複雑な道を時に正順に、時に隣の道に飛び移るアクロバティックな行動を取りながらスピードで惑わし、どこから攻撃してくるか分かりづらくする。常に気を張る必要に駆られた相手は焦り、下手には動けないと硬直する。

 

そんな風に、攻撃が届くか届かないか微妙なところを動き回るクイントさんについつい攻撃をしてしまいたくなる気持ちを抑えながら、クリスはカウンター狙いで待つ。

もし攻撃をしかけ外れてしまったら、次の瞬間に待っているのは大ダメージ必須の右ナックルストレートだ。

下手に攻撃する訳にはいかない。

 

だがクリスのカウンター狙いは見てわかる程度にあからさまで、ちょいちょい挑発してみたものの乗ってこないことを察したクイントさんは、ついに攻撃に移る。

 

「はぁ!」

 

真正面から突っ込んだクイントさん。クリスは楯を固く構え迎え撃つ。

 

「でああああぁ!」

 

拳の雨あられ。ラッシュラッシュラッシュ。

楯を突き破る勢いで反撃の隙を与えないままに一方的な戦闘に入る。

 

一方的とは言ってもそう易々とクリスも負けはしない。反撃こそ出来ていないものの、クイントさんの拳一発一発を冷静に処理する。

この勢いをいつまでも持続出来る訳はない。いつか必ず疲労による隙は生じる。それまで防御に徹していればいい。

 

そういう腹積もりだろうか。

 

だとしたら、それは少々甘いと言わざるを得ない。相手は長年管理局に勤め、前線で戦い続けてきた手練れだ。

まだまだ未熟なクリスの思考は容易く看破しているだろうし、看破しているからこそ真正面から突っ込んでいるのだ。

 

「くっ……」

 

攻めきれないことに焦った表情を見せるクイントさん。体力も限界が近づき、動きには速さと精細さが欠け、大振りな攻撃が目立ち始める。

 

反撃に移るのなら今が好機。

右手に持つホープ標準装備の真っ白な槍を持ち直し、怒号一発。反撃する。

 

「はっ!」

 

拳撃の合間にまずは一突き。

 

「おっと!?」

 

クイントさんはその突きを体を捻ることで辛うじて躱す。続いてバックステップでクリスとの距離を離さそうとするが、

 

 

「はぁ!」

 

クリスが離れず追随し、それを許さない。

加えて今までの借りだと言わんばかりの突きの嵐。

 

その猛攻に、一転して防御一辺倒を強いられるクイントさん。形成は逆転した。

 

「ちょっと……。少しは手加減してもいいのよ?」

 

「…………」

 

クイントさんの言にクリスは答えず、攻撃を続ける。ただひたすら勝ちを求めるその姿勢。普段の無口で人畜無害そうな性格とはまた違っていて、俺は好きだ。男らしくて。

やっぱり男は勝ちに貪欲でないとな。

 

「うわっ、と。よっ……と」

 

避けるクイントさんと猛攻撃するクリス。次第にクイントさんは壁際に追い詰められていき、ついには背中が壁に当たる所まで来た。

 

どんっ、と背中に受けた衝撃にクイントさんは一瞬だけ背後を振り返る。一瞬だが外れた視線を隙と判断したクリスは、得意の攻撃魔法、チャージラッシュを発動する。

 

「はああああぁ!」

 

咄嗟に魔法障壁が張られるが、構成に時間を掛けず慌てて張られた障壁など破るに容易い。そのまま必殺の一突きが障壁の先に居るクイントさんに向かって突き立てられた。

 

 

 

 

 

 

「終わりか」

 

俺の横で一緒に見ていたゼストが口を開く。

 

「良い所まで行ったねえ。やっぱりやって良かったと思う」

 

「ああ。ナカジマにとっても良い経験になっただろう。次からは後輩が相手だからと言って油断することはなくなる」

 

「まあなくなるだろうけど。しかしそういう理由だったのなら別に俺が相手しても……」

 

「お前が相手だと何も分からんうちに試合が終わる。負けたと言う実感も悔しさも湧かん。それだと意味がない」

 

「そうか……」

 

……何だろうか。どことなく微妙な言い回しだった。負けた実感が湧かないとはどういうことだろうか。

負けても仕方がないってことか? いや、この言い方だとむしろなぜ負けたか分からないの方が近いのか。

なぜ負けたか分からない……。奇抜……。変則……。異常……。おや? これはもしかして俺、否定されてる?

 

そんな風にゼストの言葉を分析しつつ、視線の先には魔法障壁から伸びたチェインバインドに槍ごと右腕を縛られているクリスの姿があった。

 

バインディングシールドかぁ……。いつもは使う側だけど、こうして傍からああいう魔法を見ていると――――何だろうね。微妙な気持ちになってくる。

こうして、隣で見ているゼストもどことなく嫌そうな顔をしているし。騎士は真正面からの戦闘を好むから、やはりああいう魔法は苦手なのだろうか。かく言う私も苦手です。ええ。同族嫌悪ですとも。戦闘では嬉々として使うからな。

 

そんな外野の感想。渦中のクリスはなんとか抜け出そうともがいているが、バインドは堅く巻かれており抜け出せない。

抜けよう抜けようともがいてる数秒は大技繰り出すのに十分な時間で、クイントさんは既にクリスの目の前で構えに入っていた。

 

今度はクリスが咄嗟の障壁を張る番であったが、先ほども述べたとおり急ごしらえの障壁など十分な溜めを用いた大技の前では紙ほどの役にしか立たず、クイントさんの右こぶしはクリスの腹にクリーンヒット。

 

そのまま地に倒れ伏したクリスはピクリとも動かず。模擬線はクイントさんの勝利で終わった。

 

「ふぅ……。いえい!」

 

年に似合わないVサインを寄こすクイントさん。そんなに勝って嬉しかったのかとほっこりする。この人最初は相手が後輩だと油断していて、途中からガチになっていたのにな。AMF使われていたら負けてますよ奥さん。分かってます?

 

にこにこっと歩み寄ってくるクイントさん。分かっていそうにない。

よろしい、ならば今度は全く正反対の気持ちを味あわせてやろう。

 

一歩前に出、腕を組み仁王立ちで告げる。

 

「次のステージにご案内」

 

「え?」

 

後ろのゼストは止める気配なし。これは許されたと見て良い。

 

「かもんクイントさん。――――地獄を見せてやろう」

 

「は? え?」

 

唐突に始まる戦闘。何が何やら分からずに混乱するクイントさん。無視する上司。気絶したままの後輩。

この試合、俺の勝ちは揺るがない。そう確信した。

 

 

 




二か月に一度は更新したい。できれば次は連続投稿したい。
切実にそう思う。
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