雨は苦手だ。雪も苦手だ。
雪が降れば昔を思い出す。思い出したくないことを思い出す。
どうしても思い出してしまう。
だから苦手だ。
雨が降るときは嫌なことばかり起きる。大小様々に嫌なことが起きる。
だから、雨は苦手だ。
雨は苦手だ。
人のすすり泣く声が聞こえる。
小さい子供の泣き声が聞こえる。
あやす人、疑問を投げかける人。色々な人がいる。
その人たちは皆、喪服を着ていた。
太陽は見えない。雲が空を覆い隠している。
光りは遮られ、曇天がばかりが目に入る。真黒な雨雲たち。
雨が降っている。
嫌な日だ。
今日、この墓場には新しい棺桶がいくつも埋葬された。
棺桶と同じ数の墓石が置かれた。
別れを言いに、多くの人が訪れた。
明るい顔をしている人はいるはずもない。
泣いて、沈んで、悲しんだ。
まだ10代の若者がいた。恋人と結婚の約束をした青年もいた。
小さな子供を持つ母親も、いた。
皆死んでしまった。
いつか人は死ぬ。それは必然だ。
でも、どうして今死んだ?
管理局員なんてやってる以上、死は常に付きまとう。
覚悟はしていた。でも、それでもやはり死んでほしくはなかった。
まだ、これからだというのに。
これから幸せになると言うのに。
どうして今だったのだろう。
どうして、死んでしまったんだろう。
疑問は募り、大きくなり、悲しみとなって溢れだす。
答える人は居らず、代わりに手が差し伸べられる。
家族か、友人か、同僚か。
必ず手は差し伸べられる。一緒に悲しみ、一緒に泣き、一緒に過ごしてくれる人がいる。
それは幸せなことだ。とても幸せなことだ。
その人たちのおかげで、いつまでも悲しむことはない。いつまでも引きずることはない。
いつか、心の中で整理がつく。時間が解決してくれる。
そうやって、忘れることはなくても過去の出来事になっていく。
人はそうやって辛い出来事を乗り切る。
ざあざあと降る雨。
誰もいなくなった墓前に、傘もささずに一人ぽつんと立っている。
傍から見たら何の罰ゲームだと言われそうだが、傘を忘れてしまったのだから仕方がない。
むしろ葬儀中に降り出さなかったことに感謝せねばいかん。
ぽつりぽつりと頬に雨粒が当たる。
傘かその代わりになる物が欲しい。誰も好き好んで雨に当たっている訳ではない。
このままでは服が駄目になるし、風邪をひいてしまうかもしれない。
明日も仕事だ。明後日も仕事だ。
同僚が死んだからと言って、犯罪がなくなる訳ではない。
そんなもの関係ない。休みなんてない。
だから早く行こう。やること済ませて、早く帰ろう。
「ふぅ」
考える。
あの施設での行動を。
評価する。
どこかで間違えたのではないかと。
所々で判断ミスがあった。細かい事、大きい事。ミスを犯していた。
一番大きいのは、飛び込んだ位置だ。
魔力反応が三つしかなかったあの状況。生命反応と合わせて全部で六つの反応の内、四つの反応があったあの場に飛び込んだのは狙ってだった。
生命反応が敵の物だとは思わなかった。
実験体か被検体か、もしくは研究員あたりだろうと思った。
ゼスト隊を壊滅に追い込んだのは以前戦った機械兵器だと思い込んでしまっていた。
結果、奴らとの戦闘が避けえないものとなった。
戦闘が始まったことでゼストはおろか残りの二人も助けることは出来ず、ただ時間を無駄に消費した。
加えて奴らを捕まえることも出来なかったのだから、何も得たものはなく、ただ失っただけだ。
最初にゼストの所ではなく残りの二人、クイントさんとアルピーノさんの元へ向かうべきだった。
これが一番大きな判断ミスだ。
細かいミスは多々ある。
奴らを捕らえることを優先したこと。真正面から戦いに挑んだこと。ゼスト隊の実力を過信したこと。ゼストの言動を気にかけていなかったこと。
もっと早く違法施設に発っていれば。書類仕事をもっと早く終わらせていれば。
たくさんあるたられば。これらの内一つでも出来ていればゼスト隊が壊滅することはなかったはずだ。一人ぐらい助けることが出来た。
言い換えれば、出来なかったから今こうして墓前に立っている。
誰も守れなかった現実を噛みしめながら、雨に打たれ無様な姿をさらしている。
「…………」
空を見る。どこを見ても曇り空。雲の流れを見ても、雨がやむことはしばらくない。
視線を戻し、墓石に手を添えて名前をなぞる。
ゼスト・グランガイツ
クイント・ナカジマ
メガーヌ・アルピーノ
他に四人。
全部で七人のゼスト隊メンバーの名前。
それを胸に抱いて、この場を後にする。
振り返ることはなく、下を向くこともない。
ただ前を見据えて歩く。
反省すべきことはした。
いつまでもくよくよしてはいられない。
後悔はいつでもできる。泣くことなんかいつでもできる。
今はやるべきことをやらなければいけない。
同じような犠牲者を出さないために、これ以上誰かが悲しまないために。
自分の成すべきことを成すために。