転生して逆行した結果人生イージーモードだった   作:紺南

30 / 35
第30話

ゼスト隊全滅の一報は、地上本部内に筆舌に尽くしがたい衝撃と暗雲を立ち込めさせた。

陸で数少ないSランク魔導士ゼスト。

彼の率いる部隊は、陸でも最精鋭部隊と言っても過言ではない。

 

彼らの死がここまで局員たちに影響を及ぼすとは思いもしていなかった。

士気は落ち、少数だが退職する者も出た。

ただでさえ人手不足な現状、それは痛烈な痛手だ。

 

そしてゼスト隊がなくなったことで、"奴ら"は次の目標を定めたらしい。

 

 

 

 

噂を聞いた。

「ゼスト隊を壊滅させたのはライとか言う局員らしい」と言うものだ。

当初、俺は鼻で笑った。あまりに荒唐無稽だった。

名指しされているあたり、誰かの思惑が絡んでそうだが、敢えて言おう。

だれが好き好んで味方減らすんだよ馬鹿がと。

 

しかし敵も侮りがたいもので、気が付けばその噂は地に深く根付いていた。

抜いても抜いても雑草のようなしぶとさ。

根絶やしにするなら聞いた時にやっておくべきだった。

今更、いくら否定してもしきれない。

 

おかげで最近局員たちの目が痛い。

今朝も、僕は無罪ですと看板かけて出勤するか悩みどころだった。

少しでもくすりと笑ってくれたらやりがいもありそうだが、熱血な青年に胸ぐら掴まれそうなので考えものでもある。

本部内で喧嘩して始末書書いてる時間はないのだ。

 

「さて、と」

 

制服に袖を通す。

見た目茶色のださい制服だ。

海とか空の青や白は中々格好いいのに、なぜ陸だけこんなに地味なのだろうか。

市民と最も接触の多い陸だからこそ、印象に残るような配色にした方がいいと思う。

 

具体的には赤とか。

主人公のレッドだぜ。

血の色を連想させるから駄目かな?

 

まあいいや。

ダサければダサいで元々だ。

 

どうせ何したところでダサい陸というイメージは簡単には払拭できないだろう。

ただでさえやってることも海に比べて地味だし。

でもいくら地味だからって予算まで削らなくても……。

 

仮にダサさで予算の配分が決まるなら、金色の争奪戦になりそうだ。

金ぴかの制服に身を纏った管理局員。

一目見た瞬間から調子のってるってわかる。独裁組織のイメージがより根付く。

 

そんな、どうでもいいことを考えながら歩く。

どうでも良い事考えている時ほど時間は早く過ぎる。

気が付けば集合場所に着いていた。

時間は定刻には少し早い。

 

当然、待ち人来ず。

ならもう少し考えていよう。

どうせ今は暇なのだ。

直に忙しくなるのだから、今ぐらいはゆっくりしていても罰は当たるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、番号」

 

「あ?」

 

「1!」

 

「は?」

 

二人が集合場所に着いた途端、なんの予告もなく言ってみた。

先頭に居たヴィータは眉をひそめた。

反対に高町は即座に番号を述べ、ヴィータは目を丸くした。

 

「はい、ヴィータ一等空士減点ね。点なくなったら海に戻すからね。高町空士は優秀ね」

 

「ありがとうございます!」

 

良い返事。良い返事。

褒美にもうちっと減点しといてやろう。

 

よし。

 

「じゃ寮まで案内するぞー。荷物纏めて着いてこーい」

 

後ろからトテトテ着いてくる足音。

ついでにひそひそ話も聞こえてくる。

内容は「なんであいつが」とかそんなんだ。

 

この二人、陸の研修とかいう名目でここにいる。

それも何故か俺の下で受けさせることになっていた。

 

普通こういうのってまず俺の上司に話が言って、そこから担当者決めるんじゃないんですかね?

なあんで上司吹っ飛ばして真っ直ぐ俺名指しされてんの?

トップダウンにもほどがある。真ん中ごっそり飛び越しやがった。

 

こんなん絶対コネと権力フル活用した奴いるぞ。

さすがリンディ。きたねえ。性根がきたねえ。やることきたねえ。

 

……ちゃんとメール返しておけばよかった。

まさか文章にまで沈黙はYESが適用されるとは思わなかったんだ。

というか受信日的にほぼ事後承諾だろこれ。

 

「お前らがとってもとっても優秀で、優秀すぎるからいまのうちに色んなところ経験させたいってこれには書いてあるぞ」

 

ヒラヒラと、なんか良く分からない指令書だか命令書だかお願い通知みたいなものを振る。

ヴィータは暫くその紙を見つめていたが、やがて吐き捨てるように言った。

 

「けッ」

 

「喧嘩売ってる?」

 

いくらで買おうかしらん。

怒髪天を衝く勢いで、俺の怒りボルテージは急速チャージ。

 

しかし平局員が多少反抗的な態度だからって暴力に訴えるのは大人げない。

ここは大人の矜持を保ち、にこやかに許そうじゃないか。

それ深呼吸。ひっひっふー。

 

そんな風に、必死に必死に、ボルテージを下げている内に見えてきた。

こうして意識して見ると、やっぱり結構大きい建物だ。

一部屋一部屋はそんなに大きくないのに、どこにスペース使ってるんだと思う。

 

「そうだ。言い忘れてたけど相部屋だぞ」

 

「ほんとですか!?」

 

感激したように、眼を輝かせながら問い返してくる。

ほんとです。

 

地上本部からほど近い場所の寮。

正式名称は隊舎とか言うらしい。個人的には寮でいいと思う。

 

俺が地上本部で働いてるから、高町たちにも本部から一番近い隊舎の一室が割り当てられた。

ずいぶん太っ腹だ。どういう交渉したのか非常に気になる。

 

渡されていた鍵をチャリチャリと振り回しながら、エントランスまでやってきた。

非常階段の表示を見上げて、さてどうしようかと悩む。

 

立ち止まった俺に高町がせっつくように問うてきた。

 

「何階ですか?」

 

「三階。微妙に近いから階段で――――」

 

行こうかなーと言い終わる前に、高町がワクワクルンルンと言った感じで足取り軽やかに階段を上っていった。

俺は何を言うでもなく見送る。

ヴィータが「子供かよ……」と呟いた。

一番ちっこい奴の言葉である。見た目とのギャップと言うか、まあ面白い構図だ。

 

「お前もわくわくらんらん行けよ。ほれダッシュ」

 

「疲れるから嫌だ」

 

おっさんみたいなことを言う。

しかし俺も同感だ。疲れるからあまり運動はしたくない。

エレベーターで行こうか。

 

「ん。おい、どこ行くんだ?」

 

踵を返した俺をヴィータが呼び止める。

俺は進路方向を指し示す。

 

「エレベーターの場所教えておこうと思って」

 

「なのはがいる時でいいだろ、そんなもん」

 

「いやいや、教えられるときに教えとかないと。何あるか分かったもんじゃない」

 

突然招集かけられるとかね。

いや、そんなことは本当にまれだが。

 

「これがエレベーターだ。見たことあるか?」

 

「馬鹿にすんな」

 

見たことはあるらしい。

じゃあ乗ったこともあるのだろう。

ボタン押したことはあるかな?

 

「……押したい?」

 

「喧嘩売ってんのか」

 

ボタンに指をかけながら念のため聞く。

返答は予想通りだった。

 

なら遠慮なく『↑』を押す。すぐにピコンと音がした。

三基あるうち、真ん中のエレベーターが点灯している。

すぐに扉が開いた。

乗り込んで『3』を押した。

 

「……」

 

「……」

 

しばらく無言。パネルの前に立つ俺の横、扉の真ん前にヴィータはいる。

チラと覗き見てみれば、奴はつんと澄まして階数表示を見ていた。

 

何かと反抗的なヴィータだが、こうして二人っきりになっても何か言ってくるようなことはない。

俺に対し敵愾心に近い感情を抱いているようだが、だからと言って所かまわずぶつけてくるほど子供でもないようだ。

 

エレベーターはすぐに三階についた。

下りてすぐ、通路の向こうで不安そうな顔をしている高町と目が合った。

 

奴は「あっ!」と大声を上げて駆けてくる。

 

「エレベーターで上がって来たんですか?」

 

「快適じゃった」

 

上る必要なく、運動の必要もなかった。

だから心の底からそう言ってみれば、高町は何やらむくれている。

知らぬ場所に一人取り残されたのではと不安だったのかもしれない。

 

「エレベーターの場所はここ。階段使うなり好きにしていいぞ」

 

「……はい」

 

まだむくれ顔。

今は……何歳だったか。10歳か11歳か確かそんな所だったはず。

その年のわりに大人びた奴だと思っていたが、案外子供っぽいところがまだ残ってる。

そんな高町を扱いにくいと思ってしまうのは傲慢が過ぎるか。

ただでさえ強欲だというのに、これ以上罪は背負いたくない。

 

「はい鍵」

 

手に持っていた鍵を高町に手渡す。

高町は数瞬ぼけっと手の中を見ていたが、次の瞬間にはパアッと華やかに破顔した。

 

「部屋番号は!?」

 

「0374」

 

告げると高町は駆け出した。

機嫌がいいのは良きかな善きかなとその後ろ姿を見送る。

 

「ほれ、お前のやつ」

 

「……ん」

 

忘れないうちに、後ろで呆れ顔だったヴィータにも手渡した。

鍵をチャラチャラ振り回す様はさっきまでの俺と同じだ。

多分そこまで意識してはいないんだろう。

 

「高町は随分うれしそうだったな」

 

「ああ」

 

「愛の巣だもんなあ。そりゃ嬉しいよなあ」

 

「きめえ」

 

反応としてはそれだけ。

ただ、本気で嫌そうな顔をしていた。

百合と書けば字面はいいが、しかし実際の所は同性同士の睦み合いだ。

俺も男同士のホモホモしい絵面を想像したらそう言う顔になる。

だから本気で言ったわけじゃないんだ。許して。

 

「同室なんだから色々気を遣ってやれよ。一応、お前の方が年上だろ?」

 

その言葉に、ヴィータは胡乱気に見上げてきた。

 

「お前も知ってるだろ。あたしは夜天の書のプログラムだ。年上だとか年長だとかそう言う人間の概念には縛られてない」

 

「お……」

 

ヴィータがこういうことを言うのがちょっと意外だった。

あまり俗世に染まっていないからなのか、俺の知ってるヴィータとは少し違うらしい。

 

そう、彼女たちは生物じゃない。言ってみればデバイスみたいなもんであり、そもそもそんなデバイスもどきに気遣いを期待する方が頭変なのだ。

 

所詮はプログラム。どれだけの月日が過ぎようとも、どれだけの怪我を負おうとも、夜天の書さえ無事なら変わらぬ姿を維持できる。

果たして、それを生きていると言えるのだろうか。

記憶は蓄積するようだが、経験が蓄積するのかは定かではない。

もしかしたら転生と共にリセットするように作られているのかもしれない。

加えて、そもそも人権の無い彼女たちを人扱い出来ようはずもなかった。

 

しかし、そんなこいつらを家族と呼ぶ奇特な奴がいた。

そいつは、本来なら破壊が妥当なこいつらを庇い、主として、彼女らが引き起こした罪をすべておっかぶると無茶苦茶なことを言ってこいつらを生き永らえさせようとした。

 

一人の女の子がそこまでしたのだ。意味不明な鋼メンタルを見せつけられて、何も思わないほど良心捨てちゃいなかった。

ならば、俺としても守護騎士たちを一つの個として認めようと心に決めたのが今やはるか昔。

 

いくら人間じゃないと主張されても、俺にとっては出会ったその時からお前らは人間だった。

残念だがその言い訳は俺には通じない。

子供と言っては怒り、大人扱いされたら面倒くさそうにする。

そんな態度は俺が認めねえ。

 

「例えお前が見た目通りの年齢だとしてもさ、結局のところお前と高町は友達だろ? 違うの?」

 

「いや……それは……」

 

口ごもる。

自分から友達だと認めるのは恥ずかしい。

その気持ちは俺にもわかる。

だから、わざわざ返事を待ちはしなかった。

 

「友達なら、あいつが困ってる時とか追い詰められてる時とかは助けてやれよ」

 

「……」

 

ヴィータは答えなかった。

「YES」と答えたら友達だと認めたことになる。

もしこう言ったのがヴォルケンリッターや、主の八神はやて、もしくはテスタロッサだったのなら素直に頷いていたのかもしれない。

まったく親交の無い、俺のような頭変な奴に高町なのはとは友達であると宣言するのは多少抵抗感がある。

そんな感じかな。ツンデレらしい反応だ。昔から、こいつは読みやすくて扱いやすい。

 

「じゃ、とっとと部屋行くぞー」

 

高町を追って歩き始める。

結局、ヴィータは最後まで何も言わなかった。

しかし世の中には"沈黙は肯定を意味する"という便利な言葉がある。

そういうことで、友達同士仲良く共同生活してください。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。