「高エネルギー反応?」
高町は俺の言葉をおうむ返しに繰り返した。
きょとんと首を傾げる仕草が可愛らしい。
信じられるか? こいつさっき強盗にビームぶっ放したんだぜ?
「こうえねるぎーはんのう」
対する俺の呂律がおかしいのはラーメン食ってたから。
昼休みまで仕事の話とかほんと社畜は救えねえな。
「一週間ぐらい前に検知されて、そこ行けって今朝メール来てたわ」
「エネルギー反応……」
呟く高町。その頭の中ではジュエルシードのことが過っているに違いない。
あれもエネルギー結晶体だったね。
「どんなところなんですか?」
「自然豊か。野生が残ってて空気がうまい」
精一杯の褒め言葉。
「そうなんですか」と高町は楽し気に笑うけど、こいつ行間を読むってことができないから、たぶん国立公園みたいなとこ想像してるだろ。
現実は柵の無い動物園みたいなところで、しかも管理されてないって落ちなわけだ。
「それにあたしらが行くのか?」
「行くとも」
我関せず麺を啜ってたヴィータが不機嫌そうな表情で聞いてくる。
不満がありあり分かってしまうのは、俺が感情読むの得意だからじゃなくてこいつが表現豊かだからか。
陸が何で管理外世界行くんだって疑問はもっともです。答えてあげよう。簡潔に。
「死人が出たそうだぞ」
その一言で、機嫌良さそうにラーメンを啜ってた高町の肩が跳ねる。
「し、死人!?」
「あ、ごめん。MIAだった」
つまりMissing in actionで、作戦行動中行方不明ということ。
「局員4人と同行の自然保護官1人と連絡が付かない」
「連絡が付かないだけなら死んだわけじゃないんですよね……?」
「いやあ、死んだでしょ」
中途半端な希望は後々判断の迷いに直結しそうだから、今ここで断言しとく。
息を呑んだ高町の横で、スープを飲むヴィータに詳しく話せと顎で催促される。
イエス、シア!
「エネルギー反応があったのは超大昔に文明があったと目されてる管理外世界」
写真をいくつか空中ディスプレイに表示させる。
映っているのは超大自然。あと生き物の写真がいくつか。
火山に住む火竜とか気持ち悪い寄生生物とか、危険な生き物は多くいるが、中でも特にやばいやつ。
空を覆い尽くす無数の豆粒。
「これ、ワイバーン。肉食で獰猛。恐れしらずで好奇心旺盛。おつむも悪くなくて、一度見つかったら執拗に襲ってくる」
「数は?」
「数えるのが面倒くさくなるぐらいたっくさん」
この星地上の大部分こいつのテリトリーなんだよねえ。ほんと地獄っすわあ。
それを聞いてなお冷静なヴィータ。
反対に高町は顔を青ざめさせている。
「十中八九これに食われたかなあ」
「……あたしらがこれやんのか?」
こんなんどう考えても海の仕事だろぉ?ってね。
海仕事しろやコラァ!って言ってやろうぜ全力で。
「ちょい前にこの星調べようとして大失敗してさあ。こいつら何するにしても四六時中襲ってくんの。寝ないのね。管理局の局員ともあろう者が社畜度でトカゲに負けたんだぜ? ちょーうけるー」
文献調べても大した文明じゃなかったみたいだし、どうせねえだろって高くくって放置してたらロストロギアらしき反応ドーンよ。
かわいそかわいそ。
「エネルギー反応見る限り、最悪でも隣接する世界が一つ二つぶっこわれるだけだ。ワイバーンとか割に合わんし、海は動かないよ」
次元振起きるぐらいのやばい奴じゃないと管理局は動きません!
ジュエルシードとかほどほどにやばかったのに動かなかったしなあ。
闇の書は問題外だった。いや、あれは黒幕が局員って時点で問題外だけど。
「海は動かない。じゃあ誰が動くって言ったら陸しかいねえだろ」
「……」
そもそも見捨てるとか言う選択肢はありません。
周囲に管理外世界しか無くて、例えそれが全部吹っ飛んで管理局は無傷だとしても陸は動きます。
俺たちの仕事はそう言うお仕事です。
ま、もしこれを陸で解決出来たら海に貸しを作ることになる。そっちが本音かな。
「さっきチラって出てきたけど、今回は自然保護隊も同行するぞ。野生動物のスペシャリストだから、いないよりはましだろう」
壊すしか能のねえ局員とは違って、あっちは守るのが仕事だからねえ。
もう一人死んでるのに、まだ人員出してくれるとかまじ感謝。
「明日から行く。あっちで一応寝泊まりできるぐらいの居住空間はあるから、準備しとけよ」
「……」
言いながらほぼ同時に食べつくした俺とヴィータ。
ヴィータの表情は話を聞く前と今でまったく変わらない。
どんなことでも命令ならやるって言う仕事人気質な感じがする。
さすがはプログラム。死への恐怖とか微塵もなさそうだね。その内俺が思い出させてやるからな。
反対に、高町は愁いを帯びた顔を俯かせ何か考えているようだ。
箸の進んでいないどんぶりに半分ほど麺が残ってしまっている。
見るからに伸びてますけど……。
その内ぽつりと高町が言った。
「……仮面さん、その人たちは本当に死んだんですか?」
「しらね」
死体を見ない限り死んだとは決まらないだろう。
もしワイバーンに襲われたなら死体なんか残らないだろうし、仮に生きてるとしたらどれだけ運が良い奴なのか気になる所ではある。
「少しでも希望があるなら、助けたいです」
「自分の身だけ心配してろ」
突き放す様な言葉に高町はいたく傷ついた顔になった。
こういう顔を見ると付け加えずにはいられない。
「生命反応と魔力反応で探すだけ探す。望みは薄だろうがやるだけはやる。ただそれをやるのは俺の仕事。お前はワイバーン蹴散らしてろ」
「はい!」
元気のいい返事の後、高町はラーメンをかっこんだ。
伸びきった麺はさぞ不味かろうとその様子を眺める。
「……」
ヴィータが変な顔で俺を見つめている。
そんな真剣な眼で見つめられると、ついついやらずにはいられない。
「てへぺろ☆」
「きめえ」
それはひどい。