転生して逆行した結果人生イージーモードだった   作:紺南

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第34話

次の日、俺は一人朝早くから地上本部にいた。

何故かって言うと、昨日のエネルギー反応とは別件で残業を強いられているから。

ここ最近サボり気味だったから仕方ないね。

 

空が白ばんだなあとしみじみ思っていたのがつい数時間前。

なんかうっせえなあとか思ったら、いつのまにか局員が出勤し始めていた。

おや、いつの間にこんな時間に?

 

「おはようございます」と挨拶に「はよざーす」と返す。

 

最近しっかり定着した悪評のせいで、俺に対して露骨に嫌な顔する奴もいる。

そう言うのは大体若手だ。

こういうのが将来を担うのかと思うと、この世界の未来も明るいじゃないか。

いや、皮肉でも何でもなくてね。

 

平和ボケした若手に絡まれていると視界の隅で勝手に起き上がるディスプレイ。

内線を受信。サウンドオンリー。

お客さんだそうな。応接間空いてるー?

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして。イーミャ・カナベルです」

 

「どーもライです」

 

本日同行する自然保護官。

眼鏡をかけたきつめの女の人だった。

ワイバーンぐらい投げ飛ばせそうなムキムキマッチョが来ると思ってたが拍子抜けした。

 

イーミャさんは俺の名乗りに一瞬眉を顰めてすぐに握手を求めてきた。

 

「ライ三等陸尉ですね。噂はかねがね聞いています」

 

「どんな噂?」

 

イーミャは曖昧に微笑んだ。

そのまま話を進めようとする。おい言えよ。

 

「今回は例の管理外世界で調査を行うということで、私がご同行させていただきます」

 

「いやー心強いです。生き物の取り扱いなんか殴って言うこと聞かせるぐらいしかできないもんで。でもいいんですか? 死ぬかもしれませんよ」

 

「あそこは我々が受け持つ保護世界ですので危険も承知の上です」

 

「保護世界って言ったって厄介なもん押し付けられただけでしょ」

 

直截的な言い方に、イーミャは気色ばんだようで頬を引きつらせた。

 

「……歯に衣を着せませんね」

 

「死ぬかもしれないって時に取り繕ったってしょーがない」

 

どこか感心したような表情。

心の距離が一歩近くなったような気がする。

 

「上司はあなたなら大丈夫だろうと言っていました」

 

「頭に"多分"ってついてたでしょ?」

 

「……ついていたかもしれません」

 

お互いに笑った。

俺はがははと笑ってイーミャはふふふと微笑む。

初対面の印象は上々だ。これから大事な仕事だって言うのにコミュニケーション不足で危機に陥りたくはない。

 

「他の局員が見えませんが、任務は三尉の部隊が担当ですか?」

 

「残念。俺部隊もってないのよ。今回は俺と新人二人が担当」

 

「は?」

 

口を半開きの表情は多少話した感じ、この人にしては珍しいんじゃないだろうか。

印象は仕事の出来るOLって感触だ。きっと普段からバリバリイケイケのエリート感だしてるんだろう。

 

気を取り直す様にこほんと咳を一回。それから探るような目を向けてくる。

 

「それは……その、本当ですか? 冗談ではなく……?」

 

探り探り、露骨に言葉を選んでいる。

頭の中では様々な考えや計算が乱舞していることだろう。

死人が出てるって言うのに新人二人にベテラン一人とか自殺しろって言ってるようなものだから仕方ない。

 

「ご安心を。二人ともAAAランク相当です」

 

「AAA!?」

 

一般の部隊長がA程度であることを考えるとイーミャのこの驚きも妥当なところである。

まあヴィータはともかく高町はまだまだ経験不足だから、AAAとは中々言いにくかったりするのだが。

 

「それはとても心強いです」

 

「管理局にしては大盤振る舞いでしょ?」

 

そこには頷かなかった。

真面目ちゃんだなあ。

ここで重大発表。

 

「現地に飛ぶ転送ポートだけど、いま次元が不安定で飛べないってさ」

 

「そうなんですか」

 

「しばらく様子見して、無理そうなら最悪航行艦出すよ」

 

それで近くまで行ってそこから転移。

え? 海は協力しないんじゃないのかって?

……海に俺の頼みをNOと言える奴なんていねえ!

 

「それまでは新人も交えて情報共有といきましょう。コーヒー飲む?」

 

「いえ、お気遣いなく」

 

そんなこと言ってるとリンディ茶出しちゃうぞ。

初めて飲むときは衝撃的だけど、あれはあれでいけるからな。

 

その後資料を見つつ情報交換。

ワイバーンの生態やエネルギー反応のことなどあれやこれやと言い交わす。

 

30分もやっていると高町たちが出勤したらしい。

いつもより早め。特に指示出してなかったけど、自分の判断で早出したようだ。

安心しろ。給料はちゃんと出す。

 

「おはようございます」

 

「はよっす」

 

相変わらず高町の元気が良い。

朝からこの笑顔を見ると心のささくれが快癒していく。

ダメ……! 綺麗になっちゃう!!

 

「ヴィータちゃんもおはよっす」

 

「ちゃんつけんなきめえ。……はよ」

 

あーん!

ツンデレもいいわあ!

 

「保護官来てるぞ」

 

「あ、そうなんですか」

 

「私たち遅かったかな」とか何とか言ってヴィータと顔を見合わせている。

いや別に。詰めれるところ詰めてただけだし。

 

「とりあえず自己紹介」

 

二人を連れて応接間へ。

リンディ茶を神妙な顔で飲んでいたイーミャは、俺の後ろにいた二人を見て立ち上がった。

二人を手で指しつつ紹介する。

 

「こちらが高町なのは一等空士と八神ヴィータ一等空士です」

 

「はじめまして。イーミャ・カナベルです」

 

順々に握手をする傍ら、「お二人とも凄腕の魔導士だと聞いています。その若さで凄いですね」と持ち上げていた。

高町が分かりやすく照れて、ヴィータは不機嫌そうな顔で頬を赤らめている。照れ隠しだ。

褒められることは慣れていないのか。今度八神と協力して褒め殺しにしてやろう。

 

「にゃはは……。ヴィータちゃんはともかく私なんてまだまだですよ」

 

「おい!」

 

謙遜ついでの高い高い。

ヴィータから抗議の声が上がる。いいぞ高町。そのまま持ち上げろ。

ヴィータの怒気に高町が慌てる様子を見て、イーミャは微笑んでいる。

 

「ライ三尉も含めて、皆さんお若いですね」

 

「そこはほら、局だから」

 

現場に出る局員は若いのが多い。

事件が多いから出世もしやすく、高ランク魔導士ほど早いペースで昇進していく。

新進気鋭と言えば聞こえはいいがその分死亡率も高い。

 

「こいつらは有用株ですよ。今のうちにコネ作って置いたら将来役に立ちます」

 

「買っておられるんですね」

 

「そりゃあ、もう」

 

徹底的に持ち上げられて居心地の悪そうな二人。それを見て俺たちは笑った。

だいたい事実だから何と言われようと止める気ないねえ!

その内神の位まで持ち上げて宗教創ってやろうか。

 

恥ずかしさに揺れる高町の視線が机に広がる紙々を捉えて、物問いた気に俺を見てきた。

 

「転送ポートが不安定で今飛べないから、ちょっと様子見中。航行艦申請するかもしれない」

 

「今日中の出発は無理かもしれません」

 

イーミャの捕捉に二人はいささか残念そうな顔をした。

やる気満々で出勤したのに、早々出鼻をくじかれてしまった。

この昂る気持ちをどうすればいいのかということである。身体がうずく! 戦いてえ!

 

しかしイーミャ。その認識は甘いぞ。

 

「一時間で用意させるから大丈夫だ。今日中に発つぞ」

 

「い、一時間……?」

 

イーミャが絶句した。

 

「それは航行艦にたまたま空きがあったということでしょうか?」

 

「あろうとなかろうと一時間で」

 

ヴィータが書類を覗いて説明を要求してくる。

はいはいと応じる間、イーミャは茫然と立ち尽くしていた。

 

「大丈夫ですか?」と高町が心配している。

「いえ……」と曖昧な返事の後、何かこそこそ囁き始めた。

 

何を話してるのか気になる。どれ、聴力強化。

 

『本当に一時間で用意できるものなのでしょうか?』

 

『わかりませんけど、たぶん』

 

『無理矢理用意するということなら、海の仕事に支障が出ますよ』

 

『私もあまり長い付き合いではないですけど、気にする人じゃないのはわかります』

 

高町イグザクトリー。

航行艦一隻無理くりチャーターなんて迷惑千万甚だしかろう。俺も心苦しい。

でもあっちだってそんなん承知で貸してくれるはずだぜ?

最初に無理くり言ったのはあっちなんだしさ。

 

「海の代わりにロストロアギア調査しに行くって言うんだから送り迎えぐらい融通してくんなきゃ割にあわねえよ。それもやだって言うんならロストロギア片手に話し合うしかねえわ」

 

ロストロギアの危険性を思い出させてやらなければいけない。

大丈夫。慣れてる。上手くやる。

 

「高町さん! 局員が言っちゃいけないこと言ってますけど、あれ冗談ですよね! 冗談ですよね!?」

 

「始末書書いてるのは見たことあります!!」

 

身を寄せ合ってぎゃーぎゃー騒ぐ二人をよそに、一人どうでもよさそうなヴィータがぽつりとつぶやく。

 

「で、どうすんだ?」

 

「転送できそうならメール来ることになってて……おっと来た来た」

 

中空に現れたディスプレイをいじる。

高町とイーミャがごくりと唾を飲み込んだ。

 

「……ちっ」

 

俺の舌打ちに二人の顔は絶望に染まる。

これで保管庫行くぞって言ったらさぞかし面白い反応が見れただろう。

しかし現実は残酷である。

 

「行けそうだってさ」

 

「……なら今の舌打ちはなんですか」

 

「よかった……本当によかった……」

 

イーミャが安堵のあまり崩れ落ちそうになってる。軟弱だな。日常茶飯事だぞこんなの。

……思うんだけどこいつ指揮官タイプだよね? 戦闘できそうにないけど大丈夫か?

 

まあいいや。

 

「いつまた不安定になるか分からないから、急いで飛んじまおう。詳しい話はあっちで」

 

転送ポートは住居スペース直通で繋がっているので安全は確保されている。

さしものワイバーンも斜面を掘って作られた家には侵入できまい。

 

「お前らの持ち物確認してる暇ないわ。ちゃんと着替えとか持ってきただろうな」

 

「ちゃんと持ってきました。ね、ヴィータちゃん」

 

「ああ」

 

心強いお返事。二人で確認したってことなら問題ないだろう。

問題はそれが何日分かってことだ。

この任務何日かかるか分からないからな。2~3日で終わらせたいところだが。

 

「おやつは300円までだぞ。守ったか?」

 

「え、おやつ?」

 

「なんだ買い忘れたのか? 仕方ねえなあ。俺のペロキャンやるよ」

 

「三尉、遠足じゃないんですよ!」

 

復活したイーミャの語気が荒い。

棒付きキャンディー嫌いなんですか?

 

「じゃ、行こうか」

 

なら普通のキャンディはどうだろうと冗句もそこそこに、満を持してロストロギア調査任務に出発。

転送ポート使えなくなる前に急げ。待ってろよワイバーン!

 

……あ、待ち構えるのは止めてください。

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