転送ポートは一人ずつ転送される。
円形の台座みたいなところに突っ立ってるだけで勝手に転送される仕組みだ。
転送される瞬間、目の前は光で包まれて次の瞬間には暗闇の中に居た。
だがご安心めされよ。すぐに目が慣れて明かりが……いや、これ暗いわ。
「暗っ!」
言ってる間も暗いまま。
おい照明つかねえぞ。自動でつくって説明どこいった。
心中で文句言ってる間も明かりが点くことはなく。
いつまでもポートに乗ったままだと後から来るやつに踏みつぶされる恐れがあるので、手探りで脱出する。
四つん這いの這う這うの体で何度か頭をぶつけながらも何とかポートから離れた。
まるで犬みたい。公僕って意味では犬なのか。
舐めてると狂犬病うつしてやるぜあおーん。
馬鹿やってたら背後でポートが光る。
光りの中で一瞬見えた姿は高町だった。
「あ、あれ?」
戸惑う声。そりゃあそうだろう。飛んで来たら真っ暗闇なのだ。
事前の説明だときちんと明かり付くってことだったのに。
それから然程間をあけず、またピカピカ光り始めた。
あ、これは高町さん終わりましたね。
「にゃああああ!!!???」
「……あぁ?」
悲鳴が上がる。
蛙がつぶれた様な声が聞こえた。
ぐふぅとかそんな声。良い声で鳴きよるわ。
そしてまたピカッ!
「いてえッ!?」
「な、なんでまだいるんですか!?」
阿鼻叫喚。暗闇の向こうで起こっているからこそ、無駄に想像力が働いてしまう。堪能したい。
けれどしかし、こんなところで無駄な体力消耗させたら任務に支障が出る。電灯のスイッチはどこだ。
「ヴィータちゃん踏んでる! 私踏まれてる!!」
「なのは!? お前どこにいんだよ!」
「下、下にいるから……痛い痛い!! 踏んでるってば!!」
「ちょっと待ってろ。いまどける……お前邪魔だ!!」
「お前って私ですか!?」
聞こえてくるだけですっごいカオス。
どういう状況になってるんだ。めっちゃ見てえ。
「おいスイッチどこだ?」
「仮面さん!? た、助けてください!」
はいはいと適当に返事しながら壁を擦り擦り手探りで探す。
えーと、確かこの辺に。
「おいライ! さっさとこいつどかせ!」
「ちょっと待ってください。私だって退けたいんですが、何かに足がひっかかってるんです!」
「痛いっ!? ヴィータちゃんお腹ごりごりしないで!?」
「はあ!? それあたしじゃない……おい眼鏡動くな!!」
「えぇ!? どっちですか!?」
こいつら役に立たねえな。
まあいいや。もう見つけた。
「よし。スイッチ見つけたぞ。これで明かりつく。希望の光だぞ。嬉しいだろお前ら」
「早くつけて!」
そんなに懇願されると焦らしたくなっちゃうよね。
「あと10秒。9、8、7、6……」
「なに悠長にしてんだ! さっさと押せ!」
「スイッチオン!」
パチッと明かりが点く。
暗闇との落差で一瞬視界が明滅した。
それもすぐ治まる。何回か瞬きをして、明るさに慣れた目でポートを見た。
「おぉ……」
三人はポートの上でくんずほぐれつ絡み合っていた。
足があんなところに入り込んで、ああ腕も……。……おう。スカートがあられなく……。
あ、眼鏡がこんなところまで。
「何をどうしたらそうなんのお前ら」
スカートを直しながら尋ねる。
「知るかよ」とヴィータはそっぽを向いた。
高町は顔を赤くして何も答えない。
手を貸して起き上がらせたイーミャが「ありがとうございます」と疲労を滲ませた声で言い、天敵を見るように天井を睨んだ。
「どうして電気が付かなかったのでしょう。自動で付くはずですが」
「故障じゃないの」
人に反応するセンサーが壊れたかな。
機械は使わないとすぐへそ曲げる。
「おい、照明はともかく転送ポートの誤作動は洒落にならないぞ。大丈夫だろうなこれ」
ヴィータがポートに繋がっている機器を疑わしそうに睨んでいる。
その通りだと高町が強くうなずいていた。
目的地と全然違う場所に飛ばされたら、転移魔法が使えない高町とイーミャは死ぬ。
「大丈夫だと思うけど、帰りは二人無理くり乗るか」
「大丈夫なんですか?」
「いけないことはない」
正しい使用方法じゃないことは確かだ。
「乗った二人がくっつくぐらい抱き合えばいけるはず」
ヴィータと高町とか小さいから抱き合っても太めの大人には及ばないぐらい。
それならいけるだろ。
「抱き合って……」
我ながら名案だと自画自賛していると、何を想像したのか高町が顔を赤くした。
ヴィータの射殺さんばかりの視線とイーミャの冷たい絶対零度の視線。
どっちにせよ俺はそういう目で見られる運命なんですね……。
「いや、最終手段だから。テスト運行して危なそうだってなったらやるだけだから……」
なんか言い訳してるみたいで言ってる間に弱気になる。
それでも治まらないヴィータの眼。何だろう。この目には覚えがある。
そう、あれはずっとずっと昔、俺がシグナムに蹴られた時に――――。
記憶の回想を始めた思考を遮って、ビービーと警告音がパネルから聞こえてきた。
一番近くにいたイーミャがコンソールに飛びつく。
俺も後ろから覗きこんだ。赤文字の警告ディスプレイがビービー鳴っていた。
「これは……」
「ほほう?」
このポートから唯一行き先に指定してあるのは管理局本部だが、その道中で次元の揺れが発生し転送できなくなったらしい。
次元震というほど大きなものではないが、転送は繊細なものだ。ちょっとの揺れが致命的になる。
この揺れ自体は一時的な物だろうが、このタイミングは幸先が不安だ。
「まあ数日後には治まっているとは思いますが」
「一時帰宅できねえな」
幸いなことにここには衣住揃っていて、食材は色々持ってきた。
人数は4人と少数だし、余裕はある。
隊員が生存してる可能性もちゃんと考えてあるから安心して!
「通信は正常。いざとなれば本局に救助も要請できる。たいした問題じゃない」
「そうですね」
非戦闘員のイーミャは胸をなでおろす。
逃げ道が用意されているのといないのとでは、精神的な余裕が天と地ほども違う。
よく背水の陣とか格好良いこと言う奴がいるが、そんなものは追い詰められて初めてやるものだ。
俺はもうやりたくない。やっても大体失敗する。
「帰るときのことは帰るとき考えればいいか」
人はそれを先延ばしと言う。
いったん棚上げして出口を指さした。
「一週間前に派遣された部隊もここに来てるはずだから、ちょっち探してきてちょ」
一転して二人の表情が真剣なものになった。
行方知れずの部隊の安否確認も一応任務に入っている。
生存は絶望的だが、だからこそ真剣に探す必要がある。
遺品ぐらいは見つけてやりたい。
「お前は?」
「通信で呼びかける。イーミャさんも高町たちと探して来てください」
「わかりました」
三人はそろって部屋から出て行った。
俺は通信を開きながら部屋の隅を指で撫でる。
指先に埃はついていない。最近誰かが掃除したようだ。
前に来た部隊だろう。律儀なことだ。この分では他の部屋も掃除が済んでいるに違いない。
おかげで俺たちが掃除をする必要はなくなった。
「こちら管理局陸上警備隊。聞こえていたら応答願います」
応答はない。
一分おきに何度か繰り返して、これ以上繰り返しても無駄だろうと見切りをつける。
俺も部屋の方に向かおう。
建物の間取りを確認しつつ先に行った三人を探す。
内装は岩の中に作られているとは思えないほど小奇麗だった。
転送ポートのある部屋は最初の調査の時に作られていて、無骨で壊れにくさを一番に考えている。
それ以外の居住空間は調査隊が去った後に自然保護隊が作ったらしい。
一応保護世界って建前があり、組織は一枚岩ではないから、何かしらやる必要はあった。
多少なんかやっておかないと言い訳が立たないからね。
何もやらない内から「危険すぎて保護なんか出来ねえよ!」と言っても「やる前から諦めんのか!」と文句が飛び交う。
実際危険ですと実績があれば何の問題もないわけだが、実績作ってる途中で犠牲が出たら、今度はその責任が問われる。言ってる方も本気で言ってるわけではなくて、足を引っ張ってるだけだ。
権力争いってやつ。おお、醜い醜い。
まあどんなに醜くても今役に立ってるなら別にいい。
実際、醜さが元に建てられた住居スペースの住み心地は良さげだ。
しかし何かが足りない。やっぱり窓が欲しい。日光が差さないと言うのは案外寂しいものだ。
多少の閉塞感の理由もそこだろう。
「おーいたいた」
ようやく三人を見つけた。
三人共がさごそとキッチンの収納部分やら何やら漁っている。
なに、お腹減ったの?
「なんか良いものあった?」
「空いた缶詰があった。飯は食ったらしいな」
ふーんと空の缶詰を手に取る。
缶詰とか質素だな。保存食は保存食で残しておいて美味いもん食いたい派なんだけど。
「一通り見て回ったのですが、どこも綺麗な物でした。掃除は済ませてあるようで」
「寝室は?」
「荷物が置いてありました。ベッドは乱れておらず、寝た形跡はありません。洗濯物もないようです」
荷物を置いて、掃除を済ませて、食事したと。
食事と掃除は前後するかもしれないが、そこはどうでもいい。
「仮面さん。空の缶詰、これで全部です」
「ひーふーみーよー五つ、と」
一人一個で一食分。
住を整え、食を満たして、次にやることと言えば、仕事に決まってる。
十中八九外に出たのだろう。外に出てから一体どうなったのか。……あんま考えたくねえな。
「ここから外に出るにはどうしたらいい?」
「こちらです」
出口まで案内される。
後ろに高町とヴィータが着いてきた。緊張の色が見てとれる。
「出入り口は小さな洞穴に偽装しています。ワイバーンの身体より小さいため、奴らは入ってこれません」
「そりゃあ素晴らしい。寝る時ぐらい安眠したいもんなあ」
でも他の生き物入ってくる可能性はあるのか。
ワイバーンさん狩っちゃってください。
案内された扉はかなり厳重に封鎖されている。
これ押して開けるの? 重そうだね。
「ワイバーンはこの洞穴が我々の住処だと知っているようです。出てすぐ待ち伏せしている可能性も」
「知恵つけてんなあ」
それもう人間ぐらい賢いんじゃねえの?
後ろでピカッと何かが光る。
振り向けば、ヴィータがセットアップして戦闘モードになっていた。
高町もレイジングハートを握りしめている。握った手が白くなるぐらい。
「周囲に生命反応なし。待ち伏せは無し。ま、今日は戦闘も無しでいこう」
だからデバイスといてねと言ったら、二人は「え?」って顔をした。
「こういうなんか良く分からないときに便利な魔法あるだろ。サーチャーとかいうやつ」
「あ……」
部隊が初日から行方不明になる場所に、何の警戒もなく足を踏み入れる気にはならない。
行方不明者の探索からロストロギアの回収まで、サーチャーで済むならサーチャーで済ませたい。
「扉開けマッスル。ふんぬ!」
押してみたら見た目通りの凄く重い扉だった。
もう二度と開けたくねえと言う製作者の固い意思を感じる。
開けた先から強い風が吹き込んできた。
血生臭さなんて感じない。清涼感のある風だ。
にもかかわらず、肌を突き刺すこの風に不吉な予感を感じるのは気のせいだと思いたい。
「じゃあちょっくら……行って来い!」
魔力で精製した数十の光球を出口から外に射出。
視覚情報の共有により、俺の視界は緑一色という凄いことになった。
森の草木で視界がいっぱいだあ。
どこであろうと操作しないことには始まらない。マルチタスク、マルチタスクと……。
「あ、ごめん。サーチャー動かすので手一杯だから扉閉めといて」
扉が閉まる音を背中に聞ききながら部屋に戻る。
頭の中でサーチャーの動きを細かく操作していた。
森のど真ん中にあるこの場所から全方位円状にサーチャーを散らす。
森の中を直進し地上を観測する物と空から広範囲を見わたす物の2種類の軌道を取らせた。
椅子に座り込んで集中する。
今のところ生き物の姿は何一つとして見えない。
嫌な静けさだ。嵐の前のなんとやら。
数分が経ち、一つの視界で目の前を何かが通り過ぎた。
その正体を見る間もなく、視界が暗黒に包まれる。
「来た」
それを皮切りに次々サーチャーは消滅していく。
全て高高度に打ち上げた物ばかりだ。
狙われてるっぽいサーチャーを急降下させる。
急降下中ですらいくつか消えたが、ばっちり姿は捉えた。
「写真と酷似。ワイバーン様のご登場だ」
サーチャーはかなりの速度で飛んでいるのだが、ワイバーンは悠々追いついてくる。
少しの間ピッタリ後ろに着かれたかと思うと、突然目の前に別個体が現れ消滅。
「こいつら誘導しやがったぞ」
半笑いで状況報告した。
高高度の空戦は不利。
なら地上スレスレではどうだろうか。
高度が低いところ、加えて森の中では奴らも自慢の速度は活かせず、機動力はサーチャーの方が上。
一匹が相手なら何の問題もない。
しかし……。
「上のやつらを振りきれない」
サーチャーは色付きで光ってるから、森の中と言えど遠目でも分かりやすいだろう。
魔力光ある限り光らない魔法とか絶対無理だからな。
時おり上の個体が遠吠えのような素振りを見せるのが気になる。
まさか鳴声で意思疎通してる? そんな馬鹿な……。
「おいおい……」
進路方向に突然ワイバーンが出現。あっという間にサーチャーは食われてしまった。
今のはどう考えても待ち伏せしてた。待ち伏せできるってことは意思疎通できてる。
この頭の良さは聞いてねえぞ。
残ったサーチャーを使いもうしばらくの間奮闘してみたが、一つ足りとて奴らを振り切ることは出来ず、終いには全部食われた。
余りに数が多すぎる。どこに行っても奴らがいる。
空の上は奴らの庭だ。とてもじゃないが太刀打ちできない。
かと言って森の中を飛んでも、奴らは追い込み漁のように頭を使って狩りに来る。
知能の高さが想像以上だ。何の警戒もなく外に出ていたら俺たちも死んでたかもしれない。
「……よし」
酷使した目を揉み解しながら情報を整理する。
そんでもって出てきた結論は一つ。
「こんなんまともにやってられるか」
現実的な話、こんなん正攻法で何とかできる奴なんていない。
最高に調子乗ってた頃の俺でも無理……いや、その頃の俺なら多分楽勝だわ。
まあでも現実的に考えて真っ向勝負とか非現実的すぎるんだよ。アルカンシェルでも使えば余裕だろうが。
やっぱりそれが一番手っ取り早いよなあ。
まともにやろうとすれば海の戦力をそこそこに集めての作戦となるが、そんなこと出来るはずもない。
そんな余裕あるのなら陸にもっと戦力よこせ。
アルカンシェル発射がノーリスクの低コストだし、やるならそっちやるだろうな。
それをしないのはなぜだろう。
本音はしたくてしたくて仕方ないだろうに。
俺ならワンチャンあると思われてる?
そこまで高評価受ける覚えはないなあ。
まあ、死んでもいい奴送って万が一に賭けたってのが実際のところだろう。
いろいろ目をつけられてるし、排除できるならそれに越したことはないってね。
俺がここに送られたのは言い訳づくりの一環でほぼ間違いない。
管理局も頑張ったけどダメだったのでアルカンシェルで吹っ飛ばしますっていう。
しまったなあ……。
ワイバーン強すぎだね。こいつらこんなに強かったか。それは知らなんだ。
こんなことならもうちょっと考えればよかったな。
「どうすっかなあ……」
現実見て萎れた俺じゃ正攻法は無理。
だからと言って矢鱈目ったら時間を掛けられるはずもない。
居並ぶ三人を見る。
いつになく不安そうな顔が並んでいた。
特にイーミャが一番不安げな顔で重病人もかくやって感じ。
本気で具合悪そう。吐く?
「よし。分かった」
俺の言葉で一抹の希望がその眼に宿る。
そんな期待の籠った目で見られても出てくるのは法螺だけだぞ。
「作戦考えるので寝ます」
「え」
「寝ます」
その場でごろんと横になる。床が冷たくて気持ちいい。
「寝るならベッドで……」と高町に気を遣われた。
ベッドなんて高尚なもの犬には似合わないわん。
「逃げんのか?」
「逃げたいね」
閉じた瞼の向こうでヴィータが聞いてくる。
それが果たして質問なのか挑発なのか。まあどっちでも構わないけど。
徐々に睡魔がにじり寄ってきた。沈みそうな意識に三人の内緒話が微妙にこそばゆい。
……あ、最近碌に寝てないから熟睡しちゃうかもしれないなあ。
「ヴィータちゃん。夜になったら起こしてね。愛を込めて」
「ぜってえ起こさねえ」
あーん。ひどぉい。