天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第十一話 ダメかもしれない

 

 

 

 な、何を言ってるんだろうこの天使は……

 

 ポンコツ過ぎる。

 ちっとも学校でうまくやっていないじゃないか! いや逆に何でうまくいってると思えるんだ?

 

 そこからもとんでもない話が続いていく。ああ、学校における僕のキャラはいったい……

 

 

「放課後は部活動とやらで球遊びをやっておいたぞ。まあ本当に遊びだ。最初のうちこそ体に向かってきた球を絶対切断(アルティメットソード)で斬って捨てたが、途中からはうまく対応できた。あのラケットというものでも剣に見立てれば使えるな。ああ、心配することはない。斬ったのは最初の何回かだけだ」

「ちょっとやり過ぎちゃうか」「ま、まさか軟式テニスでボールを斬るって…… 絶対おかしいでしょ!! しかも何回も!」

 

 授業が終わってそれでお終いではなく、放課後にはそんなことまで…… 周りはいったいどんな顔をしていたのだろう。

 

「いやそれよりも面白いことがあった。球遊びも終わって歩いていたら、目に留まったものがあった。なんだ、学校というものにも剣を振るう場所があったんじゃないか。少年、部活動でも剣を選べば良かったのにな」

 

 

 

 え? 学校の中で剣? それはたぶん剣道部のことじゃないのか……

 嫌な予感しかしない。

 いや、実際は予感以上のめちゃくちゃ酷いことになっていたことを聞かされることになる。

 

 このラファエルという天使はやはり剣が大好きなようだ。だからたかが中学校の剣道部の練習にも目が釘付けになったらしい。それでも見ているだけなら問題はなかっただろう。

 

 だが剣道場の横で、余計な言葉を言ってしまった!

 

「なるほど面白い。あの竹で作った剣で打ち合いをしているが、真面目にやっているようだ。しかしレベルとしてはだいぶバラバラだな。修練が足らんのだが、まあ学校の部活動とかいうものでやっているのだから仕方がないのか」

 

 

 

「…… お前、今何言った? どうして剣道部を上から目線で言えるんだ?」

 

 ラファエルの言葉がたまたま聞こえてしまった剣道部主将が咎めてきた!

 それはそうだろう。修練が足らない、つまり弱いと言われたようなものだからだ。

 

「ああ気を悪くしたのなら済まない。本当にそう思ったからつい口に出してしまったが含むところはないんだ。それに学校のついでと思えば悪くないぞ。百年も練習したわけではないのだから当たり前とも言える」

「だからそれが上から目線だって言うんだ! 本当に剣道部舐めてるだろ!」

「そんなことはないから気にせず修練を続けてくれ。そうだ、お詫びに一つアドバイスをしてやろう」

 

「何だそれは……」

「見たところ君は剣の引きが遅いな。それは重心の移動を意識していないせいだろう。そこを直せば技の切り替えがずっと良くなり、連撃がきれいに行くと思うぞ。剣の先輩として聞いておいてくれ」

 

 しかしこれで剣道部主将はよけい苛立ってしまった。当たり前といえば当たり前だ。

 

「なに、先輩だと!? お前は同じ二年だろ! ……なるほどそうか、今は剣道部ではないが剣道をやった経験はあるということか。だったら自分で剣道部のレベルを確かめてみればいい。防具を付けて上がれ! 現役で剣道をやってる者を馬鹿にできるか、俺が教えてやる」

 

 

 剣道場は思いっ切りざわめいた。

 

 ふらりと立ち寄った部外者が言いたい放題言ったせいで主将が激高している。

 良いか悪いかでいえばこの部外者の方が悪いかもしれないが、それは大したことではなく言い方だけの問題だ。それで剣道場に上げるとは普通では考えられない。

 間が悪かったのだ。

 たまたまこの時間、剣道部の顧問の教師がいなかった。そして主将も本来はそれほど気の短い人間ではないのだが、中総体が終わって主将に任命されたばかりで自負心が過剰だった。笑って見過ごせる余裕がない。

 ほんの少し落ち着きがあったなら、そのアドバイスが本当に的確なものだと分かったはずなのに。

 

 そうではなく主将は剣道場に上がらせて試合をやろうとしている!

 

「なるほど君はわたしに実戦形式で教えを請いたいのか? それは殊勝なことだ。確かにお手本をやってみせた方が早いな。いいだろう。わたしも別に急ぐわけでなし、少し修練に付き合ってやる」

 

 ラファエルもその気になった。すっかり剣の手ほどきをするつもりだ。

 

 

 

 その時、ラファエルを押しとどめるために飛び出てきた生徒がいる!

 剣道の防具で顔は大半隠れているが、それはラファエルも知っている者だった。

 

「ソータ君何してるの! 止めた方がいいわよ! どういうつもりであんなことを言ったのか分からないけど、剣道って防具があっても当てられたらけっこう痛いのよ。主将が手加減してくれても少しは痛い目にあってしまうわ!」

「手加減? なんのことか分からないが修練は真面目にすべきだ。君はそういえば……たしか今朝挨拶をしてくれた少女だな。ということはわたしを心配して言ってくれたのか」

「も、もちろんよ。だってソータ君は剣道の経験なんて無いはずだもの。小学校からそうでしょ」

「ん、わたしを昔からよく知っているようだが」

「それは……」

 

 その剣道部の女子生徒は少し下を向いて黙ってしまった。もちろんラファエルの側は女子生徒の複雑な気持ちに気付きもしない。

 

 だがそこへ先ほどの主将が苛立って声を飛ばしてくる。

 

「おい女子部のサキ! 邪魔するな! そいつにちょっとだけ分からせてやるだけだ。剣道部が遊びじゃないっていうことを」

「何よ! 女子部主将として言う権利があるわ! 勝手なことしないで!」

 

 女子剣道部主将のサキという少女はこの無謀な試合を止めさせようとする。

 しかし肝心のラファエルはといえば、さっさと防具を身に付け、既に竹刀を持って剣道場の中央に向かっているではないか。

 

「止めようとしてくれるのは嬉しいが、心配には及ばない。なあに他のことならともかく剣ならば経験の差は何千年もある。かすらせることもないだろう。それに実戦ではなく、マルコキアスが相手でもないのだから気楽なことだ」

 

 全く意味不明の言葉を言っているが、なぜか物凄く自信を持っていることだけは伝わった。

 

 

 

 

 ついに剣道場の中心に男子剣道部主将と一介の生徒に化けた熾天使ラファエルが対峙する。

 

 もちろん試合になるわけがない。

 この中学校の剣道部は強豪であり、そこの主将ともなれば力量も高く、この県では少しばかり名前が知られている。

 だからこそ相手のラファエルの実力をその構えだけで推し量れるのだ。

 まるで大滝を目の前にしたようなもので、竹刀を上段にしたまま動けない。

 

「馬鹿な…… 全く隙が無い。こいつ何者だ」

 

 しかし言い出した側が何もしないわけにはいかず、それに周囲の目もある。

 ついに主将は焦って攻勢に出ていく。

 

「ほう、思ったより真っ直ぐな打ち込みだな。筋は悪くない。ではもう一つアドバイスを言うが顎は常に引き、視野を広く保て」

「う、うるさいっ! お前なんかに!」

 

 ますます激しく主将は竹刀を繰り出すが、もちろんラファエルはその全てを余裕で躱す。昔、アサエルとこうやって剣の修練をした時があったな、などとのんびり昔を思い出しながら。

 

 二分もこれを続けていると主将の方が息が切れてしまう。それなのに一太刀も有効に浴びせられない。こうなればもはや勝敗など誰の目にも明らかで、ラファエルから攻撃に出なくともその力量は冠絶している。周囲はその驚くべき成り行きに茫然として眺めるほかない。

 

 ラファエルはそこで終了にしてもよかったのだが、この主将のために一度だけ攻勢に出た。

 素早く前に出て竹刀を絡ませ主将の手から竹刀を奪い取ったのだ。剣道としてはかなりの高等技術であり、そうされた側はもちろんショックを受けてしまう。ラファエルは敢えてそうすることで実力の差を教え、主将がよりいっそう剣の修練に励むように仕向けたかった意図がある。

 

 ところが主将はなおも引き下がらず竹刀を拾ってまで続けようとした。

 内心では思わぬことに愕然とし、とても敵わないと思いつつも若さゆえの意地があるのだ。

 

「根性が必要な時もある。だが今はそうではないぞ。素直に実力を認め、これからの修練の糧とすべきだ」

「……」

「引っ込みがつかないのだろうが、きっかけを与えてやってもいい。いいか、今から絶対に動くなよ。動いたら首が飛ぶぞ。異能発現、絶対切断(アルティメットソード)!」

 

 

 何が起こったのか誰も分からない。

 理解できる範囲をとっくに超えている。

 主将が中段に構えていた竹刀、それが柄を残して根元から斬り飛ばされた!

 

 

 

 

 

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