天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第十二話 選手交代

 

 

 もはや主将も竹刀の柄だけを持ったまま動けなくなる。いったい何がどうなって竹刀が折れるなんてことが起きたのか。

 

 その様子を見届けるとラファエルは防具をはずし、悠然とその場を去っていく。

 

「か、かっこいい…… ソータ君、クラスでおとなしくしてるのもいいんだけど、今も最高……」

 

 見守るサキという少女がそういう呟きを漏らすが、熾天使ラファエルが化けたソータと分かるわけがない。

 試合が始まる前はとても心配していたのだ。

 竹刀がいくらただの竹の棒で、防具もあるといっても、打ち込まれたら痛い。これを分かるのは経験者だけだ。

 明らかに剣道の経験のないソータが誘いに乗っているのも意味不明だが、たぶんその痛みを想像していないせいだろう。それにしてもうかつ過ぎる。普段はおとなしく慎重過ぎるような態度なのに。

 

 そういえば今日のソータは、言うこともやることも何かしら変な調子だった。それは小学校で度々同じクラスになり、幼馴染を自称しているサキだからこそ気付いたことだ。とにかく、こんな無謀な試合は止めさせなくては。

 

 だが心配は嘘のように消え去り、驚きに変わった!

 

 ソータは竹刀を手にしたとたん、まるで熟練者のような動きをしているではないか!

 その構え、足さばき、経験者でないとは信じられない。気負いも無く無造作にしているのにもかかわらず無駄も隙もない。それをあのソータがやっているとは頭が混乱するばかりだ。

 試合が始まったらなおのこと強さが際立つ。主将ならではの鋭い打ち込みをひらひら躱し、あるいは軽くさばいて涼しい顔をしている。

 もう技量において大人と子供ほどの差があるではないか。

 この成り行きに驚くなという方が無理である。

 

 サキはうっとりと眺めてしまう。ソータの雄姿に感嘆するばかりだ。

 

 そして最後にクライマックスが用意されていた。

 主将の竹刀がきれいに折られたのだ! しかも柄に近い根元の方だ。そんなことは通常にはあり得ず、折れるとしてもよほど強く打ち込み続けて先が割れるくらいなのに。 

 

 そんな常軌を逸する現象が起きる中、サキはかすかに聞いた。

 ソータが何か魔法の詠唱のようなものを言ったことを。

 

 そしてその直後、ソータの持つ竹刀が微妙に光を放ったことも見間違いだろうか?

 

 

 

 ラファエルは自分でも思わぬ充実した学校生活を送り、意気揚々と帰ってきた。

 最後に本領を発揮したのだから気分が悪いわけはないのだ。

 

「……というわけだ。学校というものも面白かったぞ。これは明日も楽しみだ」

「というわけだじゃあらへん! ラファエル、いくらなんでも派手過ぎやで。この少年がいかにもやりそうなことだけしとったらええのや」

「でもまあ、とりあえず一日目だからな。少年もそう思うだろう?」

「…………」

 

 

 も、もう勘弁して下さい

 僕は心が折れそうだ。

 

 このポンコツ天使は自分が何をやらかしたのかも理解していない。

 

 僕の身代わりで行ったんじゃないのか? 途中からその意識が飛んでいき、学校をエンジョイしてどうする!

 とにかく明日以降もこんな調子では話にならない。

 どんどん僕のイメージが違ったものになっていき、もはや別ものになってしまう。これでは僕自身が学校に復帰した時どういう状況に置かれるか分かったもんじゃない。

 

「僕の意見ですが、ここは素直に失踪ということでお願いします。まだマシだと思いますから」

「ん? 少年、なんだか目が死んでいるようだが気のせいか? まあそうした方が楽といえば楽ではあるが……」

 

 

 

 しかしここでミカミカが別の提案をしてきた。

 

「何言うてんねんラファエル。この少年は明日以降もラファエルが何するか分からんから心配しとるのや」

 

 ああ、ミカミカは分かってくれている。

 でもよく考えたら今日の無茶な身代わり作戦はミカミカが言い出したことだったような。

 

「いや馴染んでいただろう? 悪くはなかったぞミカエル」

「ええから選手交代や! うちが化けて学校へ行ったる」

「ん? 明日はミカエルが行くのか? まあそれでもいいのだが……」

 

 僕はこの時、はっきりと作戦の中止を宣言すべきだったのかもしれない。しかしわずかな希望に縋り、その機会を失ってしまった。

 

 ミカミカは僕に化け、やや身長が低いものの顔自体はいっそう似ていて、見分けがつかないほどの出来栄えだ。

 

「ではうまくやってくるで。報告を楽しみにしとってや」

 

 

 

 

 …… そして次の日、今度はミカミカが学校へ行ってきたわけだが、見たところ浮かれているわけでもなくしょげているわけでもない。

 うん、それはきっといいことだ。

 とにかく()()()()()()()()()それで充分なのだから。

 

「まあ普通に過ごしてきたわ。せやから特に言うべきこともないで」

「ミカエル、ではサキちゃんとやらも話すことはなかったのか」

「ラファエルの言っとった子か? やっぱり挨拶してきよった。そんでな、『昨日の剣は凄かったけど、どこかで練習してたの?』と聞いてこられたんで、『練習はそうやな、昔からアホみたいにやっとったかな』と返したわ」

 

「アホみたいとは何だミカエル。わたしの異能は剣を使うんだから仕方ないぞ」

「言葉の綾っちゅうもんや。そんでな、どこでとか、いつとか、次々と聞いてきよってボロが出そうになった。ごまかそう思うて『まあええやん。おそらく剣はもうせえへんから』と言っても『できたら、私も一緒に練習したいし……』と粘ってこられてほんま困ったわ」

「確かに困るな。少年が復帰した時、剣など使えないのだから」

「今さら原因こさえたラファエルが言うなや。せやけどな、うちはラファエルほど鈍くないんでピンとくるもんがあった。なんか別の意味があんのや。だから最後に言ったった。『ははあ、たぶんやけど好きなんやな。そやろ』ってな。向こうは否定しよったけど、『図星やったか。別にええと思うで』と言ったら離れていったわ」

「ああ、そう切り返したのか。うまいな」

 

 

 何がうまいな、だ!!

 話が滅茶苦茶じゃないか!

 僕のキャラでそんなこと恥ずかしげもなく言うはずないだろ!

 そしてサキちゃんにどう思われた!? 馬鹿だと思われた? 自意識過剰? うわあ、僕はもうどうしたらいいんだ。

 

 そんな僕を見てミカミカは言ってのけた。

 

「向こうが好きなのはほんまやと思う。客観的に見れば分かるわ。君、隠れモテモテやん」

「馬鹿なこと言わないで! サキちゃんとは家が近いから小学校も一緒だっただけだよ!」

「……ふーん。ならこれを一つのきっかけにしてもええんちゃうか。どっちも好きやったら問題ないと思うけどなあ」

「…………」

「なあ」

 

 こ、この話は終わりにしたい。

 そこで僕は一つミカミカに確認したいことがあったので聞いてみた。

 

「普通にしてたとは聞いたけど、まさか異能とか使ったりしてない? 昨日みたいな。もちろんそんなことはしてないよね?」

「……」

「え!? どうして黙るの? まさか使った!」

「いやラファエルのような派手なことはせんわ。人助けやからしゃあない。それもほんのちびっとだけや」

「ミカミカの異能って炎のはず…… それで人助けとは全然意味が分からないんだけど!」

 

「いやほんまに大したことやなくて、理科の実験でのことや。」

 

 

 

 ミカミカの話によると今日の理科はたまたま実験だった。

 しかもそれは「炎色反応」という題目であり、本来ならけっこう面白いやつだ。これは理科が苦手な人でも楽しめる。

 いろんな金属の入った水溶液を棒につけて火にかざし、金属の種類によってそれぞれ赤とか緑とか違う色が出る。しかも澄み切った色でとてもきれいなものだ。僕はそれを既に科学館でやったことがあるから知っている。

 

 僕はもう話の先が読めるような気がした。

 たぶん……間違いない。

 

「うちらの実験班のガスバーナーだけ調子悪うてな。火がちっちゃいんや。どないしよか先生も皆も困ってしもうた。ここはうちがなんとかしたらなあかんと思うて、暴炎熱威(ストームフレアー)で助けたんや」

「……一応聞くけど、それ普通の火に見えたよね?」

「そんなに差はないで。ちびっとおっきいのは仕方ない。案外とな、最小限にする制御は難しいんや」

「ちびっと? 机の上が火の海とか絶対してないよね?」

 

 もう詳しく聞くのはよそう。心臓に悪い。

 怪我人が出たとか学校が焼失したとかのニュースはないので大丈夫……だったのだろう。しかし天使というのはサービス精神があるというのか、理科の実験がうまくいかないとしてもそのままにしておくという選択肢は取れないのだろうか。

 

 

 

 

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