とにかく分かったことはミカミカも使えない。
昨日のラファエルほど酷くはないにしても、少なくとも僕の身代わりにはならない! しかし周りも周りだ。いくら見かけが同じだといってもこれだけのことをして全然気付かないとは……
「ミカミカ、他には? やらかしたことは他にもあるんでしょ?」
「なんか君、うちのこと疑っとるなあ。他には別に…… 敢えて言うと、学級会でのことがあったかな。今年の文化祭で何やるか話しとったから」
「え、学園祭の話? そういえば今ぐらいから決めて準備するんだよね。夏休み明けすぐだから。確か二年生はステージ発表だと思うけど、どうせやるのはダンスか演劇くらいしか…… うちのクラスはおとなしいから大したことはしないはず。それで、何かあったの?」
「でな、うちとしては素直に意見言ったで。どうせやるなら天使が出る劇がええんちゃうかって。そしたらな、昨日ラファエルが話しとったグループの人らがえらい盛り上がってしもたんや」
え!? うわ、それヲタの人たちのことだ…… 予想できる気がする。
「オリジナルの脚本書くって言うとったで。衣装や小道具も考えるって」
「それあんまり良くないから! どんな劇か、だいたい分かるけど!」
この二年四組の出し物は無茶な演劇になってしまったのか。
かなり高い確率で舞台は異世界、主人公は転生しているのだろう。
そしてなぜか天使と魔物とモビルスーツが戦っちゃったりする。特定層には受けるかもしれない。
「僕のために学校に行ってくれて、二人の気持ちはすごくありがたいと思ってる。だから言い難いんだけど、僕の身代わり作戦は無理、充分分かったから。傷が浅いうちにそういうことはやめて素直に失踪にするよ。書き置きとかすれば、少しくらいなんとかなるだろうし」
「せやけどなあ…… では見とってや」
するといきなりミカミカは猫に化けた!
髪の色と同じ、紫がかった灰色のとても美しい毛並みを持つ。
こんなにも可愛らしい猫ならば誰もがほっこりする……はず。
大きさがこの半分ならば。
「デカい! デカ過ぎる!」
とにかく大きさが全てを台無しにしてしまい、かわいいどころではない。うちの猫もこれを見て泡を吹いている。
どうしてこうなってしまうのか、それをラファエルという天使が解説してくれた。
「うむ、猫に化けるのはウリエルの専売特許だと思っていたのだが、ミカエルもなかなか上手いものだな。しかし確かに大きすぎる。少年、こうなるのは仕方ないのだ。我らは化けるといっても元の大きさからあまり大きいものや小さいものには化けられない。だからこそ今まで虫などに化ける作戦は考えなかった。とにかく、ミカエルは猫で学校に潜入する気なんだろうが、目立って仕方がないな」
すると猫の姿から元に戻ったミカミカが残念そうに言う。
「無理やったか…… よし、では最後の作戦や! クラスでな、休んどる人間がおるやろ。今日聞いたで。二つ後ろの席の人間が長いこと休んどるってな」
「え…… 二つ後ろならきっとネイナちゃんのことだと思うけど、この学校に転校してきてから馴染めなくて半分不登校になってるのはその通りだよ」
「だからや。君は普通に学校へ行けばええ。うちかラファエルのどちらかがその人間に化けてクラスに入るんや。それなら見張るのもばっちりになるで」
「無茶だよ! ネイナちゃんの顔はちっさな写真くらいしかないし。もし化けられても学校に行ったらすぐに連絡が行ってバレるよ」
結局はこの作戦が敢行された。つくづく僕は押しに弱い。
……そしてわずか半日で失敗してしまった。
誰かに見破られたのではない。不登校が長いと誰も顔をしっかり覚えていないし、そんな生徒はもちろん友達も少ないのだから問題はなかった。
そうではなく、この作戦はもともと僕を見張って守るためのものだったはずだ。
それなのに僕の方がハラハラして見張ったら本末転倒じゃないか!
ラファエルの方がネイナちゃんに化けて来たのだが、やっぱりというべきかその行動がいちいちおかしいんだ。
授業で体育があったんだけど、それはたまたまバレーボールだった。
今のところ僕が傍にいれば天使も異能とやらを使えないらしい。だからバレーボールをぶった斬ったりはできないだろう。
そのために安心と思いたかった…… しかしダメだった。
悪気は全然ないんだろうが、普通の女子中学生の力加減が分からないものだからやり過ぎたりする。おまけにこのラファエルというポンコツ天使は負けず嫌いなところがあるので始末に負えない。
僕は慌てて試合途中なのに「ネイナちゃんは具合が悪そうだ! そうなんだよね!」なんて言い訳しながら無理やり連れ出さなくてはいけなかった。またしても僕は全く本意じゃないのに目立ってしまうとは。
そうしなければ、異能は使えなくとも飛ぶことはできる以上、この天使がグラウンド上空何メートルからスパイクを打つか分かったものじゃない。
そして僕がポンコツ天使の手をがっちり握って引いていったら、なぜかサキちゃんが凄く睨んでいた……
他にも注意はてんこ盛り、二日前には僕の姿で過ごしていたため、絶対やらかすと思ったことをやっぱりやらかしてくれた。ネイナちゃんの姿で男子トイレに入ろうとしていて、僕が全力で止めた。天使は本来トイレに行く必要はないのでどうでもいいことだと思っていたらしい。
これでは僕どころか姿を借りているネイナちゃんにまで激しく迷惑が行く。いずれ不登校から復帰してきた時に申し訳なさすぎる。
もう早退という形にして帰ってもらった。
僕の方もちょっと休むけど心配しないように皆んなに伝えてから帰った。しばらく失踪という形になっても仕方がない。
ミカミカも申し訳なさげだったけど、こうなれば小細工は止めて僕を安全な隠れ家に連れて行くしかない。
僕は簡単に荷物をまとめて、一緒に出発した。
「着いたで。ここや」
そして天使たちの隠れ家というところに到着した。
あらかじめそこには他にも天使が二人いるという話を聞いていたのに、誰もいなかった。
「あれ? おかしいなあ。ウリエルとガブリエルがおらん。ソータ君を紹介せなあかんのにどこに行ったんや」
「ぼ、僕のことはいいから…… 僕はその辺の隅にいるから」
「いや君が主賓やで。何べんも言うけど貴重な異能使いやから。しかも人間の。堂々としとったらいいのや。あ、食べ物とかは充分用意したる」
そうはいっても……
僕は尋常じゃないアウェー感の中にいる。
その場所は例えていえばジャングルっぽいものだった。やたらと葉っぱが大きくてよく分からない植物が生えていて、動物?みたいな鳴き声が時折聞こえてくる。
いやジャングルにしてもなんか妙だ。僕はジャングルなんか行ったことはないけれど、熱帯で暑いものだろう? しかしここは決して暑くはなく、さっきまでいた初夏の岡山市と変わりない。結局、どこなんだろう……
「ああ、ここはどっかの国やないで。実はな、魔界の入り口や。人間界とちょうど境目のあたりやな」
「ま、魔界! そんなところ!」
僕はとんでもないところへ来てしまったのか?
悪魔とか絶対見たくないから!
「いやいや魔界いうても危険なことはあらへん。うちらのルシファー姉様が用意してくれた場所やから。というよりもう天界が動き出した以上、人間界で安全なところはどっこも無いのや」
え!? ルシファーって、あの大魔王サタンの別名なんじゃ…… 怖すぎる。僕は思わずとって食われる進〇の巨人を思い出して身震いしてしまう。
そんなことを話しているうちに、ラファエルの方が仲間の天使たちの書き置きを見つけたらしい。それによると僕ではない別の異能使い候補を探しに出てしまったとのことだ。つまり入れ違いになってしまっている。
実は、ソータを探すためにラファエルとミカエルが出発した後、ウリエルとガブリエルの元にルシファーが訪ねてきていた。
「異能候補者をまた見つけたそうよ~ アシュタロトの
「だったら今度はボクとガブリエルで行ってくるよ! どんな異能なんだろう」
ウリエルはさっそく反応している。
しかしガブリエルはなぜかそこまで気軽な感じではなく、むしろ憂い顔だ。そしてルシファーに自分の聞きたいことを尋ねる。
「のう姉様。異能者をかき集める、その基本方針は正しいし、それしかないと妾も思う。だがどこまで集めれば戦いを始められるのか、先が見えんのじゃ。天使たちの護りを突破することは目算がつけられても、神を倒すにはそれこそ際限なく異能者が要るのでは」
この問いはもっともなことだ。ガブリエルの不安は言っても仕方のないことだとは本人が一番よく知っているし、誰もそれに答えられるわけがない。それでもルシファーの姉様に言ってしまったのは、ガブリエルらしくもない甘えの発露であった。
「ガブリエル、それが気になるのね~ もちろん、それも考えてるわ~ たぶん十二人ね、ガブガブ」
「その口癖はやめ…… えっ!? なに? 十二人?」
「それはねえ、聖なる数は十二、決まってるでしょ~ だから十二人の異能者が揃ったら始めるわよ~」
「なるほど……」
ガブリエルの意に反し、姉様は目標を持っていた!
異能者を集めるべき数は十二人ということだ。ガブリエルとしては姉様が確かな根拠で言っているのではないことくらい理解しているが、十二が聖なる数であるのもその通りだし、そこにあやかって悪いことはない。
だがそうなると、熾天使で四人、魔界で四人、今ラファエルとミカエルが捕捉しに行った一人を無事に確保したとしても三人は足らない。逆に言えばあと三人集めたらいい。
「よし、では行ってくる姉様。ウリエル、急ぐぞ!」
「わわ、ガブリエル急にせかさないでよ。その異能者の情報も聞かないうちに」
「ああそうだった。妾としたことが焦り過ぎたわ。それで、もらった情報はどんなものじゃ?」
そしてガブリエルとウリエルはアシュタロトからの情報を確認したが、それはなんとも意外なものだった。