天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第十四話 とても残念

 

 

「アシュタロトが見つけたっていう異能者の配信はこれみたいだよ」

 

 ウリエルがそう言いながら、起動してVtuberの画面を映す。

 

 聞いたところ、今度の異能候補者は姉様ユニットや熾天使ユニットのウォッチャーではなく、Vtuberをやっている側にいたそうなのだ!

 先ずは少しでも情報を得るため、その異能持ちがやっているというVtuberの配信を見る。ちなみに配信から住所を特定することは通常できないが、そこはアシュタロトの異能見眼(ファインダー)、たちまちのうちに絞り込みに成功している。

 

 

「は~~い、ラッチーのお時間始まりぃ! 今日は一緒に健康体操をするんだよぃ!」

 

 そんなありきたりの配信画面だった。あまり工夫もなく、当然ウォッチャーの数もそこそこでしかない。

 

 しかし、情報を得るには少し見るだけで充分、勘の鋭いウリエルだけでなく、ガブリエルにも配信者の見当がついてしまった!

 何とそれは以前からよく知っている者だった……

 

「まさかそんな、自分の目が信じられない! これはラグエルだよ! あのとき死んでいたんじゃないの!」

「妾も信じられぬ。じゃがその通り、これは確かにラグエル……」

 

 二人が揃って絶句するには理由がある。

 かつて熾天使の四人が天界へ挑んだが、その時熾天使だけではなく少数の天使は説得に応じて味方してくれていた。そこには熾天使に次ぐ智天使(ケルビム)が二人入っていたのだが、その中の一人ザドキエルは討ち死にしてしまった……

 

 そしてもう一人の智天使(ケルビム)がラグエルだった。

 

 乱戦の中で行方が分からなくなり、その死を確認していないが、きっと死んだと思われていた。

 

 

 

「ホントにラグエルなら、生きててくれて良かった! でもなんでVtuberなんかしてるのかなあ」

「ウリエル、それはたぶん我らが姉様を見つけようとしたのと同じことなのではないか? Vtuberという方法で合流しようと思いついたのじゃろう」

「でもそれは変だよ? 今まで会おうと思えばいくらでも会えたはずだし。隠れ家を今の場所に移したのは最近のことなんだから。ボクとしては本当にラグエルなら会いに来なかった方が不思議なんだけど……」

「そうじゃな…… もしかすると会いたくない理由があるのか。我らを恨んでいるとか、な。あの気のいいラグエルに限ってそんなことはないと思うのじゃが、しかし……」

 

 その可能性がないわけではない! 悲しいことに。

 

 せっかく熾天使たちの方に味方してくれたというのに、戦いでは天界の軍勢にあっさり敗れたのだ。もちろん戦いを引き起こした熾天使としては、敗れたとはいえ戦い自体は正義だと言いたい。

 だがラグエルの立場で言えばどうだろうか?

 ただ単に巻き込まれてしまったとも言える。

 口車に乗せられ、戦いでは敗け、もちろん天界での居場所を失ってしまった。確かにそう考えれば熾天使たちを恨んでも不思議ではないのだ。

 

「と、とにかく会えば分かる……」

 

 これは非常に気の重いことかもしれない。

 ただしラグエルを巻き込んでしまった以上、自分たちには恨み言でも聞いてやらなければならない義務がある。

 

 

 

 

 そして二人が見つけたのは本当にラグエルだった!

 

 丸眼鏡をかけて、小柄で茶色のショートカット、いい意味でラグエルは熾天使に次ぐ位階である智天使(ケルビム)としての威厳を少しも持っていない。その姿は何も変わりなく負傷もないようだ。

 

「ラグエル、ボク本当に心配してたんだ! 死んでなくてよかった!」

 

 ウリエルがそう叫ぶ。心からの安堵の言葉だ。

 だが、それを聞いたラグエルは予想外の行動に出た!

 

 

 

「スライディング土下座ーーーッ!!」

「うわッ、ラグエル、何をしておるのじゃ!」

 

 何とラグエルは出会うや否や、二人の前に思いっきり土下座をした。

 これもまた予想の斜め上を行き、理由が分からない。

 

「す、すいまぜんでじだあぁぁ! お詫びのしようもなぐでぇーー!」

 

「こ、これ泣くな! いったいどうしたというのじゃ」

 

 そしてラグエルから聞いた話は今となってはどうでもいいことだった。

 

 あの戦いで、ラグエルは途中から逃げていたのだ!

 戦いが激しさを増す中、自分の無力が恐怖に変わり、耐えられなくなってしまった。そして討たれていく味方を見捨てて逃亡したという。

 

「め、目の前でザドキエルがグサグサグサって矢に打たれて、怖くて気が付いたら全力で飛んでたんですぅ…… もう天界にも行けず、皆さんにも顔向けできず、いっそ死のうかと……」

「そうだったのか…… 気にするなラグエル。むしろ巻き込んだのはこちらの方、済まなかった。ラグエルが土下座する理由はないのじゃ」

 

 ガブリエルはラグエルをよしよしする。そんなことをずっと気に病んでいたのか。戦いが怖いのは仕方のないこと、気の小さいラグエルが天界を抜けて味方してくれただけで充分な勇気を見せてくれたのだ。途中で逃げてしまっても誰が責められよう。

 

 

 いい光景だ。それを見るウリエルも嬉しくなる。

 ただし、ガブリエルが呑み込んだであろう最後の言葉もまた容易に想像がついてしまう。

 それは、どうせラグエルが頑張っても戦いの趨勢は何も変わらず、ザドキエルを救うことはできなかったろう、と。

 

 

「ラグエル、しかしVtuberをしていたのは我らと合流することを思っていたのじゃろう?」

「そうですぅ、自分から皆様へ会いに行く勇気がなくって…… 見つけてくれて、もしも迎えに来てくれたらって…… で、でもこうして来てくれた以上、ラグエル誠心誠意頑張ります! 武具現召(ウェポンサプライ)を使って今度こそ役に立って見せます!」

 

「気持ちだけはありがたく受け取っておくぞラグエル!」

「え…………」

「応援してくれるのは嬉しく思う」

「…………」

 

 

 

 ここには若干のすれ違いがある。

 ラグエルの意気込みとは逆に、ガブリエルはとても薄い返事しかしない、というのはラグエルを戦いに出す気持ちがないのだ。

 

 それには理由があり、ラグエルは異能持ちなのにもかかわらず、その弱さに定評がある。

 

 異能を持つ者がおしなべて強いのではない。

 ラグエルの気が弱いこともあるが、異能の質に大きな問題がある。皆から残念に思われているその異能は、武具現召(ウェポンサプライ)、これは敵に対し最適の武器を現出させるというものだ。

 そこだけ聞くととんでもなく強力な異能に聞こえる。しかし、これには致命的な制限があり、その武器を使えるのはラグエル本人に限られてしまう。つまりラグエルが有効に使いこなせなくてはせっかくの武器も何の意味もない。

 

 以前、ラファエルとラグエルが模擬試合をしたことがあった。

 

 先ずはラファエルがすらりと剣を抜いて対峙する。

 

絶対切断(アルティメットソード)は使わないでおくが、そっちは異能を使ってくれ。かかってこい、ラグエル」

「で、では後悔しないで下さいよぉ! 遠慮なく異能を使わせてもらいます! 異能発現、武具現召(ウェポンサプライ)!!」

 

 そしてまばゆい光が出現した後、徐々に小さく形になっていき、ラグエルの手にそれが握られる。

 ラファエルを相手にした戦いで最適な武器とは…… 一対のレイピアだった。

 

「なるほどな。それを知りたかった。ラグエルの異能では、わたしを倒すにはレイピアが良いということか」

 

 レイピアは両手に一つずつ持ち、接近戦で非常に有効になる刺突武器である。軽く、間合いに入れば手数で相手を圧倒できる。小柄なラグエルには実に向いている武器といえるだろう。

 確かに武具現召(ウェポンサプライ)は最適なものを選んだのだ。

 

「ぎゃひっ!」

「済まないラグエル。手加減したのだが…… 痛かったか?」

 

 だが模擬戦が始まると…… あっさりラグエルは長剣の腹で叩かれ、跳ね飛ばされてしまった。

 つまりラファエルの間合いをかいくぐるどころか何もできないで終わり、レイピアを使う場面すらない。

 

 万事がこの調子、せっかくの異能が何の役にも立たない。まさに残念異能だ。

 

 

 

 しかしこれからの戦力になるかどうかはさておき、ラグエルが生きていたのは喜ぶべきことである。

 

「一緒に帰るぞ、ラグエル。お主の無事を知ればラファエルもミカエルも喜ぶじゃろう。それに天界が動いている以上、このまま人間界にいるのは危ない」

 

 そしてその通り、ラグエルの生還を知るとラファエルらも驚く。

 その次は、逆にラファエルらがソータ君のことをガブリエルらに紹介していった。

 

 とにかく異能者が増えたことは一歩一歩前に進んでいることでもある。

 これで異能者が十人揃い、あとはたった二人。見つけるべき異能者は残り二人になった。

 この調子で行けば……

 

 

 

 

 だがこれと同じ時、天界では全てを無に帰す大軍勢が準備されていた。

 

 史上初めて天界が魔界に対し鉄槌を振り下ろす。その侵攻軍は誰も聞いたこともないほどの夥しい数である。

 圧倒的に過ぎるまでの数、まさに天界の総力だ。

 

 巻き起こる戦いの中心は魔界城攻防戦、天界と魔界がその拠点を巡って激突する。

 それはあまりに凄惨を極め、後々まで慟哭と涙によって語られることになる。

 

 そんな想像を絶する戦いが始まるまで、あと一日。

 

 

 

 

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