天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第十五話 魔界城攻防戦

 

 

「これほど壮麗だとは…… もはや言葉が見つからんな。まるで雲のようだ」

 

 天界においてアサエルが感嘆の声を漏らす。

 

 その眼前には整然と列をなした天使の大軍勢がある。

 縦横12列、つまり144人の天使が一つの軍団を形成しているのだ。

 その軍団が更に縦横7つずつ、つまり49個のかたまりになっている。数え上げてみれば、天使が何と総計7千人を超えてしまう物凄い数になる。

 

 今までこれほどの天使がいたことはない。

 ところが神は今こそ大軍勢が必要だと考えたらしく、そこまでの数を生み出している。むろん魂のある上級天使はそうそう増やせないので、増えたのは全て魂も意思もない下級天使に限られる。しかしそれでも戦力は戦力、これだけの数の暴風には何ものも逆らえるはずがない。

 

 この圧倒的戦力でいよいよ魔界を滅ぼす!

 

 今まで魔界の方から度々天界にちょっかいを出しているが、天界は常に撃退にとどめている。

 その積年の因縁を一気に清算すべき時が来た。

 もちろん天界にとって魔界とは拮抗する勢力ではなく、例えるならゴミ集積場のようなもの、見下すべき場所である。しかしそれだからこそ何があるか判然とせず、侵攻するにも厄介といえばそうなのである。

 

 だが今や神は決断したのだ。

 もう魔界を捨て置くことはなく、大戦力をもって攻め滅ぼそうとしている。

 

 この軍勢の総大将には最もふさわしい者、アサエルが立てられた。

 副官には同じく智天使(ケルビム)のハムエルが務める。

 むろん他の智天使(ケルビム)たちも全員が招集され、それぞれの軍団を指揮しているのだ。

 

 

 

 

 

 最初にその異変に気付いたのは、むろん魔界の入り口近辺にいた者たちである。

 つまり熾天使四人組のことだ。

 

「天使の気配やっ! な、なんかめちゃめちゃヤバイで!」

「凄い気配だよ…… 早く、とりあえず距離を置かないととんでもないことになると思う」

「隠れ家を出るのじゃ! いったん魔界方向へ退くぞ!」

 

 そして慌てて全員が隠れ家を脱し、振り返って魔界の入り口辺りを見る。

 

 目にしたものは…… もちろん天使であることは既に分かっているが……

 しかしその数は何だ!!

 遠距離でも天使の気配が尋常でなかったのは当たり前である。

 

「妾たちが以前戦った時は、天使全軍でもせいぜい千人だったはずじゃ…… なぜこんなことが有り得る! ここまでの数になる!」

 

 口に出したのはガブリエルだけだ。

 しかし他の熾天使は口に出さなかっただけで、みな同じ感想を持って愕然としている。

 

 

 

 とにかく戦いが間近いのは必至、驚いてばかりもいられず、わたしもまた素早く決断する。

 そういった戦略判断をするのが昔から皆の中でわたしの役割だからである。

 

「むう、天界があれほどの数でやってくるとは通常の作戦の範囲を超えている。魔界を滅ぼすために違いない」

「たぶんそうやろなラファエル。で、どうしたらええんや」

「ここで食い止めるのは無理、水際防衛はできない。となればいち早く情報を伝えて魔界の者たちに迎撃準備をさせるのが最善だ。直ぐに姉様のいる魔界城へ退くぞ」

 

 そして飛び去ろうとした寸前、向こうの天使たちもこっちの一団に気付いたようだ。

 

 だがそれで捕捉されてしまうことはない。

 下級天使たちの二枚羽(デュアル)の行軍速度には限度があり、熾天使の六枚羽(ヘキサ)に追い付けるわけがないからだ。

 ガブリエルがラグエルの手を引き、わたしもまたソータ君を抱き抱えて飛ぶ。むろんソータ君としてはミカエルの方がいいのだろうが…… 

 わたしに気を使って表情に出さないようにしていても、その顔を見たら分かる。

 だが純粋に飛ぶ力を比べたらわずかな差でミカエルよりわたしの方が強いのだから仕方がない。

 

 

 

 

 直ちに魔界の深部にある魔界城へ行く。

 もちろん姉様の居城であり、魔界で一番の拠点になる。

 

 ちなみに深部とはいっても、魔界全体からすればむしろ入り口に近いといえる。なぜなら姉様たちでさえも魔界全体を把握していないのだ。本当の深部には何があるか未だに分かっていない。

 

 ともあれ魔界城では既にこの異変を察知していたらしく、誰もかれもが慌ただしい動きをしていた。

 ほどなくわたしはルシファーの姉様を見つけ、より詳しい情報を与える。

 

「姉様、天界からの侵攻は本気だ。天使の数は馬鹿みたいに多く、ざっと見たところ五千から一万というところか。その中にはアサエルを中心としてバラキエル、シャティエルがいるところまでは見えた。しかし他にも四枚羽(クワッド)がいるだろう」

「凄い戦力ね~ 神も本気なんだわ~ でもラファエル、これは作戦がうまくいった証拠よ~ しょこしょこ」

「へ? この状態なのにうまくいったとは、姉様、どういう意味だろうか……」

「それはね~ 今、天界が攻めてきたのは、魔界と熾天使が手を組んだことを知ったからよ~ こっち側の異能者が増えたから焦ったんだわ~」

 

 なるほど! そうとも言える。最初は意味が分からなかったが、姉様の言う通りだ。

 

 確かにタイミング的に今攻めてくるなら、その理由としか考えられないではないか。

 天界はやっと危険性を認識し、先手を打ってきたのだ。熾天使だけ、あるいは魔界だけが相手ならこれまでと同じように余裕で放置したのだろう。その二つが組んだからこそ、排除するために侵攻してきた。

 

 もう一つ分かることがある。

 もしも神と戦うのに異能者が数限りなく必要なのだったら、こんなに焦ることはないはずだ。

 

 おそらく引き金はソータ君ではないか。たぶんソータ君を天界が確保できず、逆にこちらが手にしたことが大きな痛手になった。

 ここにきて一人の異能者でも貴重になってきたのだ。

 つまり、姉様が異能者を集める目標を十二人にしたのは当たらずといえども遠からずだといえる。その意味では喜ばしき証明なのかもしれない。

 

 ただし、それもこれも今の天界の軍勢を撃退できたらの話であり、このまま蹂躙されたら話にならない。

 あれだけの大軍勢、いったいどうやって防ぐ。

 

 

 

 いったんは小城など捨て置き、最も防衛に適したこの魔界城に依るのが正しい。

 むしろそれ以外の戦術はない。

 天界の軍勢が少なければ地の利を活かした野戦も、縦深陣で出血を強いるという戦術もありえた。

 もしくは魔界城を敢えて放棄し、占領させた後、罠にかけるという戦術もありえたかもしれない。

 

 だが今回、天界側はこんな数を擁してやってきた!

 好きにさせてはそのまま蹂躙し尽くされてしまう。これでは魔界側が取れる戦術の幅は狭まり、どうしても魔界城を使った拠点防衛という形にせざるを得ない。

 逆に言えば向こうにとっては拠点を攻め取らない限り戦役は終わらないのである。

 

 大きな方針は魔界城の拠点防衛として、次に細かな段取りをどうするか。

 特に我ら熾天使の戦力が魔界側に加わった今、それを防衛戦でどう活かすかが鍵となる。

 

「今から会議をして、取り決めを作るのは無理よ~ 魔界の者で防衛するからあなたたちは遊撃として戦って~ そして天界の異能者がたぶん出てくるだろうから、それを抑えてほしいのよ~」

「分かった、姉様。我らは戦況を見ながら適時介入しよう」

 

 姉様もまた最適解を出してきた。

 下手な連携はかえって時間をロスし、しかも間隙に付け込まれる。

 我ら熾天使の力は独自の判断で振るえばいい。

 

 

 

 

 そして魔界城攻防戦は始まった!

 我ら熾天使組が到着してからわずか数刻も経たないうちにだ。

 

 天界の軍勢は多少の脱落は覚悟の上、強行軍でやってきた。普通なら橋頭保を築き、着実に地歩を固めていくのが常道だろう。

 しかし、そうではなく一気に心臓部を突く、つまり魔界城を制圧せんとする電撃戦を選んだのだ。

 そして魔界城を臨む所まで来ても、いったんとどまって陣を張ったり、最後の用意を整えたりすることはなかった。もちろん戦いの口上を述べることもない。

 

 むしろ魔界側の準備が間に合わないうちに一気呵成に挑みかかる方を選んだ。

 それは見敵必殺、神速を尊ぶアサエルがいかにも考えそうなことである。同時にとても有効だった。

 

 

 しかも天界側は数の利を活かして別動隊を動かしてきたのだ!

 

 別動隊とはいっても元が大きい以上、天使二千は下らない数になる。

 魔界城は平原に座しているため、天界側の別動隊は遮られることなく大きく回り込み、ちょうど裏側から魔界城を挟み込んできた。

 このため、ただでさえ大幅に劣勢である防衛要員は多方面に割かれることになるのだ。

 しかも魔界城はそこそこの大きさを持つため正面と裏手では距離があり、かえって直接の連携が取れない。

 

 

 

「くっ、アサエルめ…… 上手い戦術を使ってくる!」

 

 わたしの方も対応策を練る。

 戦力バランスを考え、天界側本隊と対峙する正面方向にガブリエルとミカエルを置いた。

 そこには姉様もいるからそうそう破られないだろう。

 なんといっても姉様は元天使長ルシファー、その異能、超動迅速(ハイパームーブ)は無敵の能力だ。剣でも矢でも異能でも、姉様を傷つけることなどできはしない。

 

 ただし物量で迫る敵に対する攻撃に限っていえば、物凄く有効ではない。

 

 残念ながらひたすら数で来られれば押されることは避けられない。そんな場合はミカエルが暴炎熱威(ストームフレアー)で近場を確保し続け、長距離戦でガブリエルが雷破撃壊(フォールンサンダー)を駆使するといい。

 適切に防衛すれば、いったん攻め疲れを待ち、隙を突くこともできるだろう。

 

「さすがラファエルの案やな。それが一番ええと思うで」

「任せておけラファエル。妾が食い止めてみせようぞ」

 

 

 

 わたしと他の残りは正面を離れて裏手へ回った。ここでの役割はとにかく時間稼ぎであり、向こうの別動隊に仕事をさせなければ目標は達成だ。

 ウリエルの歪曲夢幻(コンバージョン)で幻惑し、わたしは絶対切断(アルティメットソード)で牽制をかけ、とにかく取りつかせないようにする。

 

 わたしはそう計算し、最適な戦術を組んだつもりだ。

 

 

 ただし戦いというものは常に相手あってのこと、天界側も考えている。

 そして天界の戦術は予想よりもはるかに高度なものだった。

 

 

 

 

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