天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第二十一話 総員、突撃!

 

 

 アサエルは気を取り直して追撃をかけたのだが、それは実を結ばなかった。

 決して行軍速度が遅いわけではないのに、東方城へ向かっている魔界側の軍勢を不思議にも捉え切れなかったのだ。

 

「おかしい…… もうじき東方城が見えるくらいのところへ来ているのに手応えが無さ過ぎる」

 

 そう疑念を呈し、全方位へ向けて今一度斥候を放とうとした。さすがにアサエルはそういうところも抜かりがない。

 

 

 

 

 

 しかしタイミングとしてほんのわずか遅かったのだ!

 まさにその瞬間、わたしの声が響き渡る。

 

「総員、突撃! 狙うは天界側の中心部!」

 

 

 

 わたしはルシファーの姉様が言う転戦による漸減作戦には感心する。

 それは地の利を活かしたとても優れた作戦だ。天界側は大軍勢といえども無限ではなく、広く分散してローラー制圧まで行うにはリスクがあり、事実上無理だ。

 ということは天界側にすれば、あくまで大兵力同士の決戦しか戦術上とりようがない。つまり魔界側が転戦するのなら、仕方なく追いかけっこに付き合うしかないのだ。それが続けばいつかは天界の大軍勢といえども物心両面から疲弊するだろう。

 

 姉様はかつて天使長だったが、それは単にとりまとめ役という意味ではなく、同時に天使全軍を率いる将帥だったという側面を持つ。

 個人的な戦闘力に加えて将帥としての力量がある。

 その優れた戦術センスは今もなお健在であり、この戦いでも魔界城を捨て石にしてかなりの出血を強いている。あれだけの戦力差があっても渡り合う、いや先手を取って翻弄しているのは見事としか言いようがない。

 

 ただし、それでもだ。

 根本的なことを言ってしまうと城砦による防衛戦というものは援軍の存在があってこそのものだ。

 

 この場合はそれが望めず、むしろ天界側の方へ後詰が到着する可能性すらある!

 そうなれば更に差が開いて絶望的になる。こちらがちょこちょこ動けば動くほど拠点を失うだけになり、自分で自分の首を絞めてしまう。

 長期持久戦がいいとは限らない。

 

 だからこそわたしは姉様に奇襲を提案した!

 

 天界側は猛追をかけているつもりだ。

 当然、東方城へ向かって最短距離を来るので、そのルートを容易に計算できる。ならば狙いすましての奇襲ができるではないか。

 東方城がこの場合囮役になってもらう。

 もちろん過小な戦力で奇襲などすれば戦力の逐次投入と何ら変わらず、あっという間に取り込まれて磨り潰され、少ない戦力を余計に減らしてしまうだろう。それこそ天界側の思う壺である。

 

 やるなら大戦力で仕掛ける!

 つまり、のるかそるかの大博打にならざるを得ない。

 

 わたしの提案にルシファーの姉様も同意してくれた。

「そういえばラファエルちゃん、私の後でずっと天界勢を率いていたんだものね~ いい策だわ、ラファラファ」とまるで教え子の成長を喜んでいるようだった。面白そうに、笑って。

 

 

 

 今、わたしは奇襲攻撃の火蓋を切った!!

 放った言葉はそのためだ。

 思わぬ方向から肉薄し、天界側の防御を一気に切り裂き、今度こそ中枢部を叩く。劣勢からの勝利を掴み取ってやる。

 

 すると続けて魔界のマルコキアスの声がした。

 

「魔界は魔界の者が守る。熾天使などに大きい顔をされてたまるか! それが分かったら、全員俺に続け!」

 

 マルコキアスもまた自分が先頭に立ち、魔界勢を率いて突撃を開始している!

 驚いたことに予備戦力もクソもないではないか。温存などせず文字通りの全戦力で挑みかかっているとは、やはり尋常な胆力ではない。

 

「というかアホなだけやろ。あいつは」

「まあ確かにそうだ。しかし案外最適解かもしれんぞ。それよりミカエル、お前は傷がある。ここは無理せず後方にいてくれ」

「ラファエル、それはあかん。うちも行くで。シャティエルの敵討ちや。いや、実は何が敵なのかよう分からんけどな」

「……何だそれは」

 

 結局、こちらも熾天使四人が揃っての急進だ。

 ミカエルのことは心配だが、シャティエルの神聖力を受け取ったせいでなんとか動けている。そしてたぶん何もしないでいれば、亡きシャティエルのことを考えて余計塞ぎ込んでしまうのに違いない。ここは無理しない範囲で戦いに参加した方が気が紛れるのではないか。

 

 

 

 一方、奇襲を受けた天界側では急ぎ対応を考えている。

 

「く、ここで逆撃か! 思い切った規模だな…… だが皆落ち着け。これは逆に最高のチャンスをくれたようなものだ。防御陣を直ちに構築し、それで凌げば返り討ちにできる!」

 

 アサエルはさすがに間髪容れず防御態勢を整えていく。

 言っていることは空元気ではなく全くの事実である。

 戦力差は最初から明らかであり、天界側としては奇襲の勢いを一度止めさえすれば必ず盛り返し、後は何とでも料理できるのだ。

 

「下級天使による多重防御を確保! バラキエル、質変改術(エンチャントメント)による強化を最大限で頼む。逆にタウエルは迷霧隠境(アライブミスト)をまだ使うな。あれは大軍の方に不利になる。もし使うとすれば、万が一の退却時だ。今は自分の身を守れ。それとハムエル、下手に突出するなよ。お前の矢は近接戦闘には向いていない」

 

 矢継ぎ早に指示を出し、そのどれもが理にかなっている。

 実際アサエルは剣の達人でもあるが、戦術指揮においてもひとかたならず自負心を持っている。

 

 なぜなら、熾天使たちが皆反逆してから今日までアサエルが天使全軍を任されることが多かった。

 

 つまり天使長ルシファーの戦術面の教え子がラファエルならば、そのラファエルの後継者がアサエルなのだ。今もアサエルは本来の姿である剣士として立っているのではなく、剣を指揮杖に変え、それを振りかざしている。

 ここで負けるわけにはいかない!

 

 どちらにも意地がある。

 

 

 

 

「異能発現、歪曲夢幻(コンバージョン)!」

 

 奇襲の嚆矢はウリエルの異能から始まった。

 急速に接近し、指呼の間に臨めばこの異能が活きる。いったん天界勢を惑わせ、間合いと方向を誤認させてやる。

 先ずは確実に突撃を成功させて強引に戦列へ躍り込むのだ。

 

 その次はガブリエルの番である。

 

「妾が道を拓く! 異能発現、雷破撃壊(フォールンサンダー)!」

 

 異能による稲妻を使い、幾重にも重ねられた防御陣をこじ開け、中枢部への道を明らかにする。

 

 ただし完全にうまくいったわけではない。

 天界側もそれくらいは予期していたらしい。

 下級天使は止まって防御しているのではなかったのだ!

 常に軍団単位で渦を巻くように動いている。つまり、いくらガブリエルが強力に攻撃してもそれによって開いた穴は見る間に塞がれてしまう。

 憎たらしい工夫ではないか!

 下級天使を斃していくことはできるが、進行はままならず、これでは奇襲の利点を削がれ、やがて数に呑み込まれる。一気に中枢部を叩くのが肝要なのに。

 

「くそ、アサエルめ上手いな…… ガブリエル、闇雲にやってもダメだ」

「む、それは確かに…… ではラファエル、どうするのじゃ?」

 

「考えがある。ここは同時攻撃だ」

「な、何と同時攻撃!? ……面白いぞラファエル。では絶対切断(アルティメットソード)を乗せてくれ」

 

 どれだけの威力になるか分からない。

 前の戦いでもこんなことはやったことがないのだ。

 しかしぶっつけ本番、ここでやらずにどうする。

 

「異能発現、雷破撃壊(フォールンサンダー)!」「異能発現、絶対切断(アルティメットソード)!」

 

 斬撃が雷光を放ち、電撃をまとう。

 これまでにない威力の攻撃が撃ち込まれた! それは下級天使を次々と吹き飛ばし、天界側の中枢部に近付く。

 

 

 

 だが残念だ。

 あと一歩のところで届かなかった。

 

 下級天使の数にものを言わせた防御は厚過ぎる。その重厚さは前の戦いの比ではない。

 いや、それだけでもない。

 アサエルはこういうリスクさえも予期していたというのか。バラキエルの質変改術(エンチャントメント)でしっかり中枢部周辺に絞って護っていたらしい。しかもそれは硬化だけではなく、雷撃を通さない性質まで付与しているのかもしれない。うまくこちらの攻撃のタイプまで分析し、忌々しいほどそれに対応させてあるとは。

 

 しかしものは考えようである。

 あと一歩なのだ。もう少しの力があれば到達することができる。

 なにかないのか……

 

 いや、方法がないことはない!

 

「力を貸せ! 魔界の脳筋!」

 

 

 

「…… まさかと思うが、熾天使ラファエル。貴様は俺を呼んだのか?」

「他に誰かいるとでも思ったか。いいからさっさと手を貸せ、マルコキアス」

「熾天使の中でも間抜けなお前にそう呼ばれる筋合いはない! 俺一人でも突破口を開いてやる」

「馬鹿、そんなことを言ってる間に魔界の者はどんどん討たれているぞ! 奇襲で逡巡は致命傷だ」

「……」

 

「だったら一つ提案してやろうじゃないかマルコキアス。わたしはついこの前、人間界の中学に通っていたんだ。嘘じゃないぞ。だからわたしが本物の女子中学生の姿を教えてやれる。ああ、残念だなあ。そうすればあんなクソ演技Vtuberではなく本物に近付けるのに」

「…………」

 

 

 これでマルコキアスが協力してくれた!

 

 もちろんわたしが演技指導なんかする気はない。いや、それができるほど器用だったら最初からソータ君も納得していただろう。

 そもそもマルコキアスだって魔界の軍団長としての面子があるため、少しばかり抵抗してみせただけであり、力を併せるしかないと分かっているはずだ。わたしと取引する形となればそんな面子が守られ、周囲も納得する。

 

 まさかマルコキアス、本当に演技指導に期待してるわけじゃない……よな?

 

 

 細かいことは後でいい。

 熾天使と魔界の共闘、その成果を確認する。

 

 さあ行くぞ、最大火力だ。

 

 

 

 

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