天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第二十二話 決着

 

 

 声が重なり、高らかにこの戦場へ響き渡る。

 

「異能発現、雷破撃壊(フォールンサンダー)!」

「異能発現、絶対切断(アルティメットソード)!」

「異能発動、打力砕塵(クラッシュパワー)!!」

 

 

 ガブリエル、わたし、マルコキアスの三人が同時に異能を発現させ、それぞれの攻撃を重ねる。この三人の異能はほぼ攻撃に特化したものであり、それらを相乗効果で使うのだ。天界に属するべき熾天使と魔界の軍団長が同じ目的のために力を合わせる、歴史始まって以来の出来事だろう。

 

 それは予想以上の力となった。

 

 さしもの堅牢な天界防御陣も次々と薄紙のように破られていくではないか。

 ついに、ついに攻撃が天界側中枢部まで届いた! ようやくだ。

 

 生じる余波も凄まじく、その通り道に沿ってまるで嵐のように砂塵が巻き起こる。

 そのため広く視界が利かなくなってしまい、誰かを倒せたのかどうかも確認できない。だが少なくとも中枢部まで遮るものは何もなくなったはず、今なら突撃も可能だ。

 

 

 

 

 

「ヨキエル、ヨキエル、しっかりしろ! 傷は浅い。早く後方へ行って休め。おのれ反逆天使ッ! 積年の敵である魔界と手を組むとは、そこまで堕ちたかッ!」

 

 天界側中枢部ではハムエルが激昂している。

 

 今の一撃で中枢部は多少なりとも被害を受けたが、その中に偶然ヨキエルが含まれていた。直撃を食らって吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 これを見たハムエルが黙っていられるはずがない!

 ハムエルにとってヨキエルは長年の友なのだから。

 気の短いハムエルとおっとりヨキエルは天界でもウマの合うコンビとして知られている。

 いつにも増して力を込め、異能を使って反撃に出た。

 

「熾天使だったくせに今では魔界と同じクズども、生かして帰さんぞ! 死ね! 異能発現、神弓射矢(ミラクルアロー)!!」

 

 

 

 

 わたしの方はやっと攻撃が通ったことで安堵してしまい、それに気付くのが遅くなってしまった。

 

「ラファエル危ないッ!」

 

 一本の矢だ!

 

 うっすらと光をまとい、ただの矢ではないことが分かる。

 それは砂塵をものともせずに抜け、鋭くわたしに向かっているのだ。側にいたミカエルが気が付いてそう言ってくれたがもう近過ぎる。

 

 絶対切断(アルティメットソード)を出して迎撃するには間に合わない!

 かといってこの矢は単純に剣を振るっても墜とせない。神弓射矢(ミラクルアロー)の異能による矢は必中であり、簡単なものではないのだ。

 

暴炎熱威(ストームフレアー)! ふう…… 間一髪やな」

「本当に間一髪だった。助かったぞ、ミカエル」

 

 ぎりぎりで助けてもらった。

 先に気が付いたミカエルが慌てて異能の炎熱をばら撒き、それで矢の威力を減じてくれた。おかげでなんとか剣一本で弾くことができたのだ。剣はあっさり折られてしまったが、矢の軌道をほんのわずか変え、かろうじて命中を防いでいる。

 油断は大敵ということだ。

 

 

 

 むろんこれで安心ではない。

 ハムエルの矢が次々と連射されてくるではないか。わたしにもガブリエルにも、マルコキアスにまで矢が射られている。

 

「異能発現、雷破撃壊(フォールンサンダー)」「異能発動、打力砕塵(クラッシュパワー)

 

 だが、しっかり身構えていれば対処ができる。

 ハムエルの矢を見据え、こちらも異能を使って叩き墜としていく。

 

 目を向けるとやがて弓を引き絞るハムエルが見えてきた。

 ハムエルもこちらを斃さんと砂塵を抜けて向かってきていたのだ。そのハムエルの凄まじい気迫に驚いてしまう。もちろん神弓射矢(ミラクルアロー)の威力は高く、決して過小評価するものか。

 

 

 

 だが、それでもだ。

 

 もはやこっちのものである。

 矢は隠れたところから射られるから途轍もない脅威なのである。しかし今やハムエルは後先考えず出てきてしまっている。つまり、わたしはハムエルを直線状に視界へ捉えているのだ。

 そしてわたしの絶対切断(アルティメットソード)は目に見える範囲で全てを斬り飛ばすことができる。

 

 この勝負、ハムエルには悪いが結果は見えている。

 もはやわたしの勝ちは揺るぎない。

 

「ハムエル…… 済まん。異能発現、絶対切断(アルティメットソード)

 

 再び一直線に矢が向かってきたがものの数ではない。異能の斬撃が矢を斬り墜とし、そのままハムエルに向かって飛ぶ。

 

 

 

 しかし、それがハムエルを斬ることはなかった。

 

「だめだハムエル!!」

 

 ハムエルに飛び付き、抱き抱えたまま横になぎ倒し、辛くも絶対切断(アルティメットソード)の軌道から逃れさせた者がいる。

 ハムエルはそれで助けられたが、逆にその者が斬られてしまっている。

 

 

「ア、アサエル! そんな!」

「前に出るなと言ったろうハムエル。重大な命令違反だぞ。詫びは後で聞かせてもらう。しかし良かった…… お前は無事か…… 」

 

 ここでハムエルを助けたのは総大将アサエルだ!

 

 逆上して突出してしまったハムエルの身を案じ、アサエルはここまで追いかけていた。

 シャティエルを失ったアサエルはこれ以上仲間を失いたくはない。それを怖れ、自分もまた危険を承知で中枢部から出ていたのだ。

 

「アサエル、悪かった。お前が代わりに斬られたのか…… しっかりしてくれ!」

 

 ハムエルが慌ててアサエルを抱き起こす。

 しかしアサエルの傷は浅くなかった。

 左肩からざっくり斬られ、死には至らないが一人で歩くことはできそうにない。

 

 

 

 わたしの方は二人をすぐさま斬ってしまうべきか、一瞬の迷いが出てしまう。中枢部をなんとか倒さねばとは思っていたが、まさか急にハムエルとアサエルに対面するとは想像せず、驚いてしまったからだ。むろんその二人のどちらとも旧知の仲である。

 

 だがこれも武の習い。

 一度戦いに身を投じたからには迷うことは許されない。

 

 迷うことは美点どころか欺瞞そのものだ。

 優しさや甘さは今、偽善にしかならない。

 ここまでの戦いで逝った者たちに対して言い訳が立たないではないか。傷つける痛みも傷つけられる痛みもしっかり甘受するのが武人の矜持であり、同時に責任なのだ。

 

「……アサエル、覚悟。しかしこれで戦いは決着する。異能発現、絶対切断(アルティメットソード)

 

 しかしわたしは無意識のうちにブレーキがかかり、ワンテンポ遅れてしまったようだ。

 

 斬撃が発現する直前、辺りの様相が変わった。

 突然の深い霧が辺りを覆い隠し、すぐさま視界が利かなくなっていく。考えるまでもなく、これはタウエルの異能迷霧隠境(アライブミスト)によるものだろう。

 

 

 

 そして天界側はいったん戦場を放棄して仕切り直すことにしたようだ。

 タウエルの霧に紛れ、中枢部をしっかり保持したまま退却を始めている。

 

 結果我ら熾天使と魔界側の共同で行った奇襲攻撃は一定の成果をもたらした。

 雌雄を決するまでには至らなかったが、下級天使の相当な数を減じ、また少なくともアサエルを負傷させた。

 尚もミカエルの炎熱を利用して霧を払いつつ、中枢部を追っていく。

 それに対して天界側は惜しみなく下級天使をぶつけ続け、その隙にいっそう大きく後退している。

 

 さあ、ここから再編を終えて向かってくるのか…… 

 もちろんわたしは調子に乗った深追いが危険だと知っている。ここは奇襲の成果を台無しにしてしまう前に正面衝突を避けるべきだろう。早いうちに東方城に入る算段を考える。

 

 

 

 ところが、天界側は向かってこなかった!

 そのまま粛々と退いていくばかりではないか。

 

 誘い、あるいは罠かと思ったが、どうもそうではなく本物の撤退のようだ。

 

 やがて天界勢は魔界の入り口にまで到達し、そのまま全て出ていく。

 

 とてもあっさりしたものだ。

 過去に類を見ない大規模な戦争の幕切れとは思えない。

 

 

 

 

「ラファエル、この魔界防衛戦は成功したようじゃな。苦しいことの連続だったが、勝利には違いない。お主の奇襲作戦が功を奏したのじゃ」

「……ガブリエル、しかし解せない…… 」

「何がじゃ? 天界側は総大将アサエルの傷が深く、これ以上は無理と判断したとしか思われぬ」

「いやいやガブリエル、そんなことはあり得ない! アサエルの性格からして負傷のために弱気になるなど考えられない。自分が負傷したからこそ、いっそう戦闘継続を命じるはずだ。そういう奴であることは賭けてもいい」

 

 そうだ。わたしの違和感はそれに尽きる。

 どうにも撤退の理由が分からない。余力を十二分に残したまま撤退するものだろうか。

 

 

 

 

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