「ソータ君は君を守るために言ってるんやで。ここは喜ぶところやろ。まあ、来てもらえればうちらも助かるけどな」
「……」
「とにかく異能持ちは天界から狙われとる。このままにしておく選択肢はないんや」
「……」
ミカエルの説明も省略が多くて伝わっているか怪しい。というよりこの少女はソータ君と仲良さげに登場した銀髪の美少女に驚くばかりだ。そしておそらくVtuberは見ておらずミカミカも知らないんだろうな。
「ほんまはそないな理由も要らないんとちゃうか? ソータ君と一緒にいたいはずや。めちゃめちゃ好きやからな。そやろ?」
「え!? そ、そんなこと!」「急に変なこと言わないで! サキちゃんがそんなわけ……」
二人の慌てた反論を聞き、余計ミカエルがニマニマしているが、今はそんな風に話を逸らしてる場合じゃない。
説明が進まないじゃないか。
そこへ何と都合のいいことか!
説明に利用できそうな者がやってこようとしている!
「ミカエル! ラファエル! その少女を連れて行くな!」
「やはり来たなハムエル。だが連れて行くなと言われてはいそうですかと言えるか!」
「とにかく話を聞け、馬鹿!」
いいタイミングじゃないか。
おあつらえ向きにハムエルがやって来たとは、今回ばかりは褒めてやろう。少女もこれで追手の存在が分かるというものだ。事実、少女はこの天界からの一団を見て目を丸くし、警戒を強めている。
そしてこの一団と戦う必要もない。あのソータ君の時とは違ってこちらが先手を取っている以上、このまま逃げればいいだけだ。ハムエルとまともに戦うのも危険が伴い、避けられるのならそれに越したことはない。おまけにソータ君の異能があれば逃げる時にハムエルの矢を射かけられても無効化できるのは実証済みである。
「おいこら逃げるなラファエル! 話を聞けと言ってるだろうが、この脳筋!」
「何を! お前とかマルコキアスにだけは脳筋と言われたくない!」
「そこだけに反応するのか貴様! いや問答をしている場合じゃないんだ。簡単に言うが、その少女を連れ去ったら人間界が滅ぶぞ。それでもいいのか!」
「何だと……」
ハムエルはあまりに意外なことを言ってきた!
こちらを引き留め、少女を天界の方へ連れて行きたいのは分かる。しかし、その理由がよく分からない。
人間界が滅ぶ? どういうことだ。
ハムエルは腹芸ができるほど器用な奴ではなく、いつでも直球勝負だ。
頭はアレだが騙すことはしない。この期に及んで嘘を言うことはないだろう。
「どういう意味だ? 話せハムエル」
「神が言ったんだ! 人間界の異能者を連れて来いと。もちろんその少女のことだ。そしてもしも少女を貴様らに取られたら、人間界を滅ぼすとおおせられた」
「神が、人間界を滅ぼす……」
「あの戦役の後のことだ。『魔界への威力偵察により異能者が相当数いると分かった。これ以上向こうに集合させてはならない。その可能性があれば人間界を滅ぼそう。今度は地を揺るがし、痕跡も残さず』そう語られたんだ! 嘘じゃない! こっちだって人間界には愛着がある。滅ぼしたくはないんだ。だから神を怒らせるなラファエル!」
「そんなことが……」
これは驚きだ!
我ら熾天使は神が理不尽にも人間界を滅ぼすから決起したのだ。
神というものはいつ何時人間界を滅ぼしにかかるか分からず、どこまで観察にとどめるのか分からない。猶予があるのか、限界に近いのか、神以外は誰も知らないのだ。神が勝手な理由で滅ぼすことを決める。
しかしそれはまだまだ先のことだと根拠もなく思っていた。今の人間界にはあまり問題はなく、我らでさえ充分に猶予があると思っていたのだ。
それが何と至近に迫っていたとは!
しかも理由がまたもや理不尽である。
こちらが神に対抗するために戦略を考え、異能持ちをかき集め始めたのが発端になったらしい。神はあの魔界での戦争を起こしたことにより、こちら側に異能者が多いと知ったからこそ危機感を持ったのだ
そして確かに異能者は人間界へ稀に出現する。なぜか理由は分からず、神の力が漏れ出ているのかもしれない。
神でさえその把握は完全ではないのだ。だからこそ短絡的に人間界を滅ぼせば禍根を絶てるとでも思ったのか。きれいさっぱり刷新してから再興させれば別に問題ない、と。
そんなことが許せるものか!
命というものはそれぞれ一つしかないもので、今人間界で生きている者は全てかけがえがない。神がそれを理不尽に吹き消すとは絶対に許せない。
ハムエルは神の絶対的権威と力を知るがゆえに、屈服し、従うことで何とかしようと思ったのだろう。
だがわたしは素直じゃない!
わたしだけではなく熾天使と姉様は全員意見が一致するはずだ。
なおさら神を倒してくれる!
むろん状況はいっそう悪くなったといっていい。神が人間界を滅ぼすと決めてから実行するまでの時間はいかばかりか。数日か、数年か。あるいは数時間か。
それは分からないが、とにかく早いうちに神と対決しなければならなくなった。
「ハムエル、生憎だがこっちはそれでもためらわない。どうせ神がいる限り人間界はいつでも風前の灯なんだ。この少女を渡してもそれは変わらないことだろう。だったら戦うしか選択肢はない」
「馬鹿な……貴様ら熾天使は気が狂っている。神と戦って本当に勝てるとでも思うのか? 絶対に無理だ! だからこそ素直に従うしか人間界を延命させる術はないッ それがなぜ分からないんだ!」
「延命か。なるほどハムエルはそう考えるのか」
ハムエルは神の言うことだからと無批判で受け入れているわけではなさそうだ。それだけが収穫とも言える。
まあとにかく長居は無用、少女とソータ君を連れて帰る。
「う~ん、ソータ君のいる方が正義っぽいわね。だったら上等! 一緒に戦うまでのこと!」
「おい少女、なんだか前向きだな」
事態はかなり深刻なんだが…… ただでさえ困難な戦いにタイムリミットまで付けられてしまった。
しかし渦中の人である少女がそう言っている。ソータ君とはまるで違って割り切りがいいのは、たぶん良いことなんだろう。
この少女の持つ異能、後に分かった
そして一度あることは二度もある。
何とソータ君と少女が魔界に到着する前に、アシュタロトが異能者候補をもう一人見つけていたのだ!
「あ~ またアシュタロトが見つけたそうよ~ うまく合流すれば異能者が十二人! ようやく目的達成よ~」
「また時間差か。しかし良いこととはいえ何でこうも次々見つかるのじゃ? ここにきて急過ぎるわ。姉様、おかしいのではないか?」
「ん~、異能者が増えると引力があるのかしらね~ でも今度も理由があるわ~ 場所が場所だから~」
その場所が問題だった。
今度、異能者候補のいる場所は人間界ではない。
何とこの魔界、その最深部だったのだ!
そこに僅かな反応があるらしい。つまり先頃の大戦乱が起きた結果、人員や資材をそこから全て引き抜いたために、アシュタロトが見つけやすくなったという可能性がある。
ではなぜ魔界の軍勢が魔界の最深部に配置されていたのか?
実は姉様を始めとして魔界の者といえどもその最深部に行ったことはなく、様相が分からないのだ。時折分類不可能なモンスターがそこから出てくることだけは確実なので、境界線を引き、常時一定数の魔界の軍勢が警戒に当たっている。
「分かった。姉様、異能使いを見つけるため、今度は魔界の最深部へ探検せねばならんというわけじゃな。ならば妾とウリエルで行けばよかろう」
「どんな様子か分からないわ~ だからみんなで行きましょ、ウリガブ」
魔界の深部へ行く探検隊が編成された。
ガブリエル、ウリエルの他、姉様、アシュタロト、ラグエルの合計五人である。
戦力として頼もしいマルコキアスは天界の再侵攻を警戒して残さざるを得ず、またベルゼバブは矢傷のために療養が必要であり、参加できない。