今こそ天界を攻め、神を倒す戦いに挑む。
さあ、そこからはどういう方法を取るか。戦術の話だ。
「攻めるのなら少人数、この十二人でもいいくらいよ~」
「要するに姉様、ここにいる異能持ちだけで!? …… なるほど、少数による一点突破というわけか」
ルシファーの姉様は大戦争を仕掛けても勝算は薄いと見ている。戦力の総数では我ら熾天使と魔界の軍勢を併せても、明らかに天界の軍団に見劣りする。
それよりも少人数でスピード勝負に出るのだ。なるほど、確かにその方が現実味がある。
わたしもそれには賛成だ。
「姉様の案がいいだろう。まあ陽動と後詰めは必要としても、基本は一気呵成の電撃戦で行く」
「ラファエル、また大博打になりそうじゃのう」
「いいじゃないかガブリエル。というより他に選択肢はないからな」
そして我らは天界へ向けて飛び立つ。
最終目標は天界の中心にある神の神殿だ。
この異能持ち十二人は一気に天界へ侵入し、迎撃態勢を整えられる前に進めるだけ進む。
その後は時間差を付けて魔界の軍勢に陽動を頼む手筈だ。その後は状況に応じて素早く判断しながら戦うしかない。
「な、なんやて! 天界があんなふうになってるなんて……」「あれは何!? ボクらの天界が……」
しかし作戦はのっけから修正を迫られてしまう!
途中の哨戒を素早く潰し、天界の入り口が見えるところまで来たのはいい。
だが天界が……
本当なら可愛い花たちが咲き乱れ、蝶が舞う、のどかな草原が見えるはずだった。それが我ら熾天使の慣れ親しんだ牧歌的な天界の姿である。
それなのに今ミカエルやウリエルが驚いたのも当たり前、目に入ったのは…… あまりに立派な城砦だったのだ!
天界の入り口を完全に塞ぐ形で存在し、高くそびえている。おそらく奥も相当深い大城砦だ。
それを突破しなければ天界へ乗り込むこともできない。
「ミカエル、ウリエル、こんなものが造られているとは読まれていたようだな。我らが天界へ攻め込むことを予想し、手早く城砦を構築された。つまり、神は最初から我らを引き寄せて戦う算段だったのだ」
「どうするのラファエル……」
「このまま行くしかなかろう。時間を置いても仕方がない」
「そうだよね、ラファエル。だけど外壁を破るのにガブリエルの
「むう……」
確かにウリエルの言う通り、あの城砦に入れないわけではないが、激しく音を立てればまるで警報を出しているようなものだ。
それだけでも城砦の意味があるのだろうな。
「待て待て。ラファエルも皆も、熾天使だけで考え過ぎなのじゃ。ここには十二人おる。解決策も自ずと見えてこよう」
「なるほどそうだった。ガブリエル」
「妾としてはベルゼバブに頼むのが良いと思うぞ。お願いできようか」
その魔界のベルゼバブはようやくハムエルから受けた矢傷を癒し、この遠征に参加していた。
相変わらずの幼女姿で口をへの字にしている。
それがガブリエルの言葉を聞き、黙って首をコクコク動かしている。人見知りというのは本当のようだ。
トン、と軽く一度跳ね、そこから身をかがめ、滑るように城砦へ近づく。
外壁の下へ潜り込み、城砦から見たら死角になる場所まで来ると、恐るべき異能を展開させる。
「異能発動、
この異能なら音もなく城砦を崩せるのだ。
あまり崩し過ぎてもいけないので、ちょうど一行が侵入できるくらいにとどめてもらう。
城砦内に入るが、そこは細かく区切られていて進みにくいものだった。
見通しのいい廊下というものは存在せず、いちいち扉を突破しなければ真っすぐ行けない仕組みになっている。
これは思ったよりも時間がかかりそうだ。
最初は姉様の
とすれば速度優先で突き進んだ方が良いのだろうかと思い始めた時……
やはり天界側は気付き、手を打って来た。
とはいえ半端な策では、こっちにこれだけの強者が揃っている以上、そうそう倒されはしない。
天界側もそれが分かっているらしく狡猾なやり方をしてきた。
急に深い霧が立ち込め、視界を遮断してきたのだ。これはもちろんタウエルの
同時に下級天使たちの大攻勢が始まった!
四方八方から数を頼んで押し寄せる。向こうは城砦の構造を知っているのだから断然有利、隠し扉などを使って思わぬ方向から怒涛のごとく仕掛けてくる。
「
だからといって斃されるようなことはない。やはり個々の力が強いからだ。
わたしもソータ君やラグエルなどを守りつつ、剣を振るって戦う。残念ながら視界が悪いためにわたしの
だが悪手を打ったのかもしれない。
最初からソータ君の
結果……
分断されてしまった。
乱戦のためこちらは数人ごとに切り離されてしまう。いや、おそらく天界側は最初からそれを狙っていたのだろう。まったく頭のいいやり方をしてくる。
「くそっ、全体が見えんな。ここにいるのはわたしとウリエル、ソータ君、サキちゃんという少女、そしてワルキューレ、この五人か」
「どうしようラファエル」
「今、他を探して合流を図るのは良くない。それよりも城砦を一気に抜けた方がいいだろう。皆が皆、探し回って動いたら却って合流できなくなる」
わたしはそう判断した。離されてしまった皆も同じ判断をするだろう。戦いにくい城砦を突破し、天界の中へ躍り込んでから改めて合流すべきだ。
そこまでの突破は、わたしの剣とウリエルの異能によってなんとかなる。
だがちょっと気になるのがウリエルの怯えたような様子だ。
もちろんウリエルが臆病ということは有り得ないのだが…… たぶんトラウマなのだろうな。以前の戦いでウリエルは下級天使に四方八方を囲まれてしまい、飽和攻撃を受け、絶対の信頼を置いていた
今の様子もそれと似ている。視界の悪い中、下級天使に四方から攻められているからだ。
「ウリエル、気合で行くぞ。だがわたしが先頭を行くから、ウリエルは皆をカバーするだけでいい」
「う、うん、ラファエル」
ウリエルもトラウマを自覚しつつ、それを振り払って頑張ろうとしている。
そんなところへ別の者から声が掛けられる。サキちゃんという少女のものだ。
「ふ~ん、この霧がたぶん問題なわけね」
「ん? 少女、確かにそうなんだが。いや、やけに落ち着いているな」
本当に堂々としている。普通、これほど日常生活からほど遠い状況に放り込まれたら冷静にしていられるはずはないのに。
不思議なことだと思うしかないが、これもまたソータ君と一緒にいるためなんだろうか。
そのソータ君の方はというと、まるで逆、青褪めて膝が震えてるようなんだが大丈夫か。
「霧は誰かが作っている? そこを止めたらいいと思うわ」
「それはその通りだ。説明しなかったがこの霧は自然のものではなく、タウエルという天使の異能のためなのだ。しかし霧のせいでどこにいるかは分からん」
「だったら見えるわよ。異能発現、
ああそうか、サキちゃんという少女にはこの異能があったんだな。
霧の奥深くの流れが読める。
「そっちにいるわ! この指で指すところから霧が出てる!」
「よし、よくやった少女! では先にそこへ向かって霧をなんとかしよう。はぐれた皆も戦いやすくなるはずだ」
わたしは剣を振るいつつ、少女の指し示す方へ向かって走り出す。