だがその時、わたしに声がかけられる。意外なことにワルキューレからだった。
「走る必要はないべ。オラの槍なら直ぐにそこを潰せる。唸れ剛槍グングニル! 天威還降、
わたしは実のところ話に聞いていただけで、ワルキューレが槍を使うのを見るのは初めてになる。
これは凄い威力だ!
ワルキューレの持つ槍からまるでガブリエルの
「ぎゃっ!」
直ぐにそんな声がする。
間もなく霧が薄くなって視界が回復してきた。
そして見えたのは…… 腰を抜かしてへたり込むタウエルの姿だった。
おそらく少女の指さす方向という曖昧なものでは若干の誤差があり、槍の力はタウエルに直撃しなかったらしい。
そのことにちょっとばかり安心している自分がいる。タウエルは目を回して異能を維持するどころではなくなっているのだから、それ以上攻撃する必要はない。
「済まんな。横を通るぞタウエル」
槍の威力で開けられた道筋がある。その先へわずかに天界の中が見えている。
少なくともここの五人は城砦を抜け、天界内部へ踏み込める。
その少し前のことだ。
天界側の作戦である霧に紛れた全方位攻撃により、分断させられたもう一組があった。
その中の一人が呟く。
「アホなことになってもうた。悪いことが二つもあるわ。一つはラファエルや姉様とはぐれたことや。もう一つはこいつと一緒になったことやな」
「…… 何が言いたいミカエル。その言葉そっくり返してやるぞ」
ミカエルが嘆息すると、マルコキアスが答えてきた。
ここにはその二人しかいない!
何の偶然かそうなってしまったのだ。
「マルコキアス、足を引っ張らん程度に頑張りや」
「喧嘩を売りたいならはっきり言え! 貴様こそ足手まといになったら置いていってくれる」
そんな毒舌を言いながらも、二人は協力して下級天使たちの攻撃を凌ぎ、とにかく前進を始めている。
ただし天界側は何も考えず分断だけ行ったのではない。
結局のところ各個撃破を掛けるための分断工作だ。次に来るものこそが本命なのである。
いきなり霧を抜け、矢が飛んできた!
「
「……出ていけるか馬鹿め。ミカエル、この
「前は出てきたやんハムエル。足りん脳みそで少しは学習したっちゅうわけか。少しは」
「そこ強調するか! やっぱり馬鹿にしてるだろ!」
それでも言葉を返してきたのはハムエルも律儀というか間抜けだ。それに対しミカエルもまた軽口を投げたはいいものの、実はかなり困った事態である。
とりわけ異能の相性が悪いハムエルが相手だとは。
以前、魔界での戦いにおいてハムエルはうかつにも突出してしまい、敗退の原因を作ってしまった。それを反省したのか、今度は霧の深くに隠れたまま矢を放ってくる。それで一向に構わないのだ。ハムエルの射る矢は異能
むろんミカエルは矢を
しかも攻撃しようにもミカエルの
ハムエルが距離を保って矢を使う限り、どうにも分が悪い戦いを強いられてしまう。
「
マルコキアスもまたハムエルの矢を叩き墜とす。
だが、それだけだ。
マルコキアスの強力無比な異能もまた近接戦闘でしか活かされない。以前遠距離型の異能と組み合わされた時にはそれなりの意味もあったが、今はそうではない。どちらも近距離型であるミカエルと組んでも仕方ないのだ。結果、マルコキアスも力は余るほどありながらハムエル相手に仕掛けることもできない。
そこへどんどんと矢が射られる。
ハムエルは自分だけではなく下級天使たちにも矢を雨のように射かけさせ、動きを封じ、いよいよ追い詰めていく。
二人は矢を防ぐだけで手一杯だ。
「くう、これでは何もできん。ミカエル、何か手はないか」
「マルコキアスこそ何か考えてや。このままではあかん」
「……ではミカエル、恨むなよ」
「え? マルコキアス、何やて?」
マルコキアスが何かを決断すると、ミカエルの胴体をガッと掴み、そのまま持ち上げる。
そしてぐるぐると回し始めたではないか!
「ちょと待ちい! うわわわわわわーーッ」
「ミカエル、異能を出せ、早く」
「何ちゅうことさらすねん!!
ミカエルの放つ炎熱が同心円状に広くバラまかれる。それはいつもよりもずっと広い半径だ。そして同時に円の中心にいるマルコキアスに炎熱は届かない。ぐるぐる回すのにはそんな意味があった。
近くに寄り過ぎていた下級天使たちが炎熱で焦がされ、いったん矢の雨が止む。
「くそ、なんなんだあれは!」
そんな声がする方向、それでも飛んでくる矢の方向、それこそが指揮官ハムエルのいる場所だ!
「行けミカエルーーッ!」
「わあァァァー!」
最後の最後、マルコキアスはミカエルを力任せにぶん投げた!
マルコキアスの剛力とミカエルの軽い体重のため一直線に飛んでいく。
遠距離攻撃をする異能が無いなら、遠距離まで行ってしまえばいいのだ。異能を発現させたミカエルをハムエルにぶつけ、包囲を突破する。
それは上手くいった。
ハムエルは
「おいミカエル、いつまでも寝ているな。置いていくぞ」
「うう、無茶苦茶や…… 絶対殺すで…… マルコキアス」
投げられたミカエルは床に伸びている。
正確には床に穴が開き、上半身が埋もれている。しかも目が回って直ぐには起きられない。
ミカエルは恨みがましいことを言うがむろん本心ではなく、それよりピンチを脱したことでマルコキアスに礼を言うべきなのだが、こうされて素直に言えるものか。
よろよろとミカエルは立ち、とにかく二人は進み、この城砦を抜けた。その先にある天界の平原に行く。
「あ、ラファエルがおったで! みんなもや。おーい!」
皆を見つけた。やっと合流できる。もちろん喜んでミカエルとマルコキアスはそこへ駆け寄ろうとする。ラファエル以外にも、ガブリエル、ウリエル……最初に城砦に入った全員が欠けることなく揃っていたのだ。
しかしミカエルは気付いた。
皆はただならぬ雰囲気の中にいる。