天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第三十一話 問題はない!

 

 

 わたしが見たのは神の放つ絶対切断(アルティメットソード)を喰らってしまったマルコキアスとアシュタロトの姿だ。

 

「なぜだ、非力なアシュタロトならともかく、マルコキアスなら打力砕塵(クラッシュパワー)で何とかなるはずでは……」

 

 マルコキアスとわたしは過去幾度も対戦し、互いにその異能を知った仲である。

 だが途中まで言って気付いた。マルコキアスもアシュタロトも、自分の身を守ってなどいない。

 既に倒れている姉様を守ったのだ! 身を挺して神の攻撃から姉様を庇い、代わりに自分がその威力を受けている。

 

「なるほどな…… マルコキアスの脳筋にしてはよくやった」

「ふん、馬鹿天使は素直に褒めることもできんのか。そんな貴様に後を託さざるを得んとはな…… だが頼む。俺はこれ以上戦えそうに、ない」「非力で悪うござんした! せやけど姐さんを守るのはわてらヘルヘルちゃんの仕事でんがな。後のことは任せたで……」

 

「分かった…… マルコキアス、アシュタロト、見事な最期だ。安らかに眠れ」

「馬鹿、くたばるものか!」「無茶苦茶言いなさんな! 死んでへんわ!」

 

 

 そんな会話を続けていられる暇はない。

 

 やはり薄笑いを浮かべたまま、向こうはまた攻撃を仕掛けようとしている。

 次に使ってくる異能は何か。雷破撃壊(フォールンサンダー)か、暴炎熱威(ストームフレアー)か。

 アサエルに憑いた神は全ての異能を高威力で使える。異能とは元々神の力の切れ端なのだろうから、たぶん造作もないことなんだろう。

 

 

 

 だが、この状況は決して絶望ではない。

 圧倒的な神の力、しかしそれが何だというのか。

 

 

「ラファエル、()()()()()()()

「ああミカエル、()()()()()()()()

 

 そう、このピンチは切り抜けられる!

 

「ソータ君、また出番だ。しかも最大出力で頼む」

「ヒェッ!」

 

 情けない声を出すのは絶対のお約束らしい。しかしソータ君は頑張って異能を発現させようとしてくれる。

 今のピンチを乗り越えなければ自分もサキちゃんも危ないと理解しているんだろう。神にとってはこの二人も邪魔者であり、熾天使と同様に片づけにかかると思われる。

 

「やってやる! 異能発現、聖天調和(スカイハーモニー)!!」

 

 この異能が発現し、辺りを覆いつくすと、神の憑いたアサエルの表情が変化した。余裕たっぷりからぎゅっとしかめたように。

 

「どうしたんだアサエル、いや神。この異能殺しが意外だったか。全ての異能を使えるのは神として当たり前なのかもしれないが、それならソータ君の異能も使ってみたらどうだ。意味はないが」

 

 そう、神がソータ君の異能を使えても仕方がない。こっちも神も異能を使えないという状況は変えようがないのだ。

 この異能だけは先手必勝である。今の時点で我らの勝ちは決まっている。

 

 

 

「ここからは異能ではなく剣の勝負だ。気の毒とは思うがな」

 

 さあここから反撃だ!

 わたしはオリハルコンの剣を閃かせ、剣技の勝負に出る。

 アサエルに取り付いた神が相手だ。

 想像するまでもなく神は剣においても冠絶した力を持っているだろう。当たり前だ。ましてやただでさえ剣の達人であるアサエルの体を使っている。

 

 今でなければ、わたしは剣の勝負を挑まなかったかもしれない。

 都合がいいことにアサエルの体は負傷が癒えていないと知っている。魔界での戦いでざっくりと右肩を斬られたばかりであり、本当なら剣を持つ力もない。これではいかに技があろうともわたしに勝てるはずがない。

 

 打ち合って間もなく均衡を破り、わたしはアサエルの剣を撥ね飛ばした。

 

 

「ちょっと待つべ。さっきから話を聞いていると異教の神がこいつに取り付いているんだべか。だったらこのグングニルの槍でイチコロにするべ」

「へ? しかしワルキューレ、残念だが今は全員が異能を使えないぞ」

「異能? オラの力は槍の威力を飛ばすのに使うだけで、槍そのものの力は関係ないべ」

「それにしても、アサエルを殺したいわけじゃないから困っている。憑かれているのを何とかしてやりたいんだ」

 

 こんな時にワルキューレが口を挟んできた。彼女なりに今の状況を分析し、理解したのだろう。別に頭は悪くないようだ。

 

「だからそれっ」

 

 だが、ここで何と槍をぶん投げたではないか!

 止めようもなくそれは飛び、アサエルをまともに貫いて抜けた!

 あまりに自然に行われたため、誰も反応できない。

 

「アサエルーーーッ!」

 

 ハムエルが最も早く叫びを上げる。友の魂ばかりでなく体もまた失われてしまったのか。

 

 

 

「………… ふう。ハムエル、慌てるな。まったくお前らしいが」

「え? アサ……エル? おい、アサエルなのか!」

「ああ。どうやらそうらしい」

「元に戻ったのかアサエル! 良かった! しかし傷はどうした? 槍が貫いたはず……」

 

 あれ? おかしいな。走り寄ってきたハムエルへアサエルが普通に答えているぞ。

 事は大団円に終わりそうだ。

 しかし不思議なことだが、アサエルはまともに槍を受けたというのに倒れる様子もない。

 どこからも神聖力が漏れていることはなく、つまり負傷はないということだ。

 

「天界のアサエルだ。お前は魔界の者か? 見たことがない者だな。とても感謝するが、しかしどうやったのだ。あの槍はいったい?」

「とにかくオラがいて良かったべ。このグングニルの槍は突きたいものだけを突く。憑かれているなら、それだけを刺し殺すようにしただけの話だべ」

 

 そんなことができるのか!? なるほど、あれが特別な槍だということは分かった。神の力の一端から作られたのなら、それを使えば神に干渉できるということか。

 

 

 

 

 神の本体は天界の中心である神殿の、その最奥にいる。

 そこに赴き、アサエルに取り付いたようなわずかなものではなく、今度は本体を倒さねばならない。

 

 その神のおわす場、かつて最強の天使である姉様さえ何もできずに逃げ帰った。

 今度は我らで挑むのだ。

 

「行くぞ。皆、覚悟はいいか」

「フィナーレや。盛り上がるで」「ボクらの力を見せてやる!」「やっとここまで来たのじゃな。後は全力を尽くそうぞ」

 

 我ら熾天使四人は悲願達成のため気合を入れる。他はどうだろう。ラグエルは足がすくみつつもなけなしの勇気を出しているようだ。ベルゼバブは黙って首をコクコク動かしている。

 

「お、おーー! ほら、ソータ君も一緒に」「サキちゃん……無駄に前向きだけど……」

 

 

 

 ついに神の神殿に入る時が来た。

 むろん熾天使にとって神殿は慣れた場所、その造りも知り尽くしている。

 

 大胆に奥へ奥へと進んで行き、やがて神のおわす場に入ったのだが……

 

 そこには想像以上の神の「威」が満ち満ちていた!

 神は我らが戦いに来るものと察知し、それ相応のもてなしをするつもりらしい。のっけから気分が悪くなるほど威圧している。

 

「凄い威圧感や…… でも負けへん。ラファエル、やっと仇が討てるで、ザドキエルの。そしてうちのシャティエルの」

「ああ、そうだな。絶対に勝とう」

 

 ここに来たというだけでは意味がないのだ。

 神を倒し、今や累卵の危機にある人間界を救わねばならない。

 

 

 

 そして神に相対した。

 姉様は今、負傷のためここへ来られない。だが我らは事前に聞いていた通りであることを確認する。

 まるで樹のような構造物が見えるではないか。はるか彼方に、霞んだようにして。

 あれこそが神そのものだ。

 

 むろんそこに急行しようとするのだが…… やっぱり近付けない!

 

 これもまた姉様が言っていたことだ。

 神は世の法則さえ曲げて、距離を自在に変え、下々の者を近寄らせることはない。

 絶望的になってくるほど完全なる防御だ。

 

「積極的に攻撃してこないようだが、いずれ必ずしてくる。今はおそらく余裕で防御しているつもりなんだろう」

「どうするんじゃ、ラファエル。様子を見るか、とにかく仕掛けるか。ともあれここで手を誤るとお終いじゃ」

「確かにそうだ、ガブリエル。絶対切断(アルティメットソード)!!」

 

 わたしは試しに絶対切断を放ってみた。

 白銀の刃が一直線に飛んだが、届くこともなく、小さく霞んで消えた。神の距離による防御は単純だが鉄壁だ。

 

「やはりか…… よし、方策は決まった。向こうの手を封じるのが先だ。ソータ君、また頼む!」

「へ!? い、異能発現、聖天調和(スカイハーモニー)!」

 

 

 わたしはこの時、もの凄く幸運の中にいたに違いない。

 ソータ君が異能を発現させたとほぼ同時、神が攻撃を仕掛けてきたのだ!

 

 それは真に黒い、球体だった。

 神の方から撃ち出され、見る間に大きくなる、というか元々大きなものが我々の方へ凄い速度で近付いてきたのだ。

 それは禍々しく、触れたらただでは済まないものだと容易に想像できる。瞬時にして無に帰されるか、あるいは別次元に封じ込まれるか分からないが、いずれにせよ終わりだったろう。

 

 我々全員を吞み込んでも余りあるその球体は、しかし届くことはなかった。あわやというところで消滅させられる。

 ソータ君の異能は世の理を曲げることを許さない。

 

「ほんま助かったで…… ギリギリやな」

「ああ、しかしチャンスだ。今なら近付けるはず!」

 

 

 

 今度こそ距離を縮められる。本当にソータ君の異能のおかげだ。

 

 やがて巨木にしか見えない神に近付く。

 

 だがしかし、それでも触れることはできなかった。今度は距離の防壁ではなく、何か物理的な反発力を持つ盾が出てきたことによって。

 

 

 

 

 

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