よく分からないことを言いながら、少女が指で指し示す!
その異能、
なるほどな。
直接的打撃力ではないが、この異能もまた最後の最後には必ず必要なものだった。狙うべき核を見極めることができなければ、どうやっても倒すことはできなかったろう。
この最後の戦い、皆の異能には何一つとして無駄なものはなく、全てがかみ合わなければいけなかった。
神が焦って人間界を滅ぼしにかかったのも今では合点がいく。
さあ仕上げだ。
ワルキューレが大きく体をしならせながら、力いっぱい槍を打ち込んだ。しかも少女が示す方向へ向かって正確に。ここにきて、あのタウエルの時に少女が指す方へ攻撃したという予習が活きている。
「どえりゃあぁぁ!!」
ワルキューレの手から槍が一直線に飛び、
我ら一行はこうして力の限り戦った。
その結果は間もなく出る。
初めに変化がある。さんざん邪魔してくれたあの盾に細く、しかしはっきりとヒビが入り、ついで粉々に割れ、音もなく消えていったではないか。
そして巨木のような神の本体が一瞬眩しいほどの光を放ってきた。
その光が治まると、どんどんと崩れつつある。
神に勝てたのか?
いや、そこまで簡単ではなかったのだ!
「ぬう、あれは…… 妾の見間違いか? いや見間違いだと言ってくれ。まさか神からあれが出現してくるとはの!」
「ガブリエル、残念だが見間違いではなさそうだぞ。なぜならわたしも同じものを見てるからな」
「それにしても、まさかとしか言いようがない。あれこそ神話から伝わる悪の化身じゃ」
そう、あまりにも意外なもの、あってはならないものを我らは目にしている!
神の巨木から抜けて現れたものがある。
それはまさに獣だったのだ!
長い首と巨体を持った竜のような獣である。その全身から禍々しい気配と凶悪な力を感じる。
我らはもちろん詳しいことは分からない。
しかしこの獣の名だけは知っている。最も邪悪な名として。
「リヴァイアサン…… なんでや。あの獣は神話の時代に神が討伐したはずやろ。どうして生きて、しかも神と一緒におるんや。絶対おかしいやろ」
「それは分からない。しかしあの獣はあまりに強く、神でさえ殺し切ることができず、封じたという。ミカエル、分かっていることはあれが生きていて、また純粋な悪だということだ」
その獣は我ら一行の方を見据えると、一気に近付いて来ようとする。巨体に見合わず俊敏さもある。むろん我らに怒りを燃やし、自らの爪と牙で抹殺するつもりのようだ。
突進する巨大な獣を危ういところで躱した。猛烈な風に巻かれたが、なんとか避け切れた。
獣は行き過ぎてから方向転換し、再び狙ってくる。
我らは冷や汗を流しながら身構えるが、すると獣は一瞬にして姿をかき消したではないか。
「しまった!
獣もまた異能を使う!
たぶんアサエルに取り付いた時とは比べ物にならない威力で。
しかも巨体のまま使うのだからもはや対抗のしようもない。どうやって倒せばいいというのか……
ただし意外にも、獣は我らのところに到達する前に姿を現した。
「あの恐竜みたいな動物だけど、核……というか心臓が乱れてるッ!」
「何だと!?」
ここでサキちゃんが意外なことを言ってきた。たぶん、
「ものすごく乱れて、何かおかしいわ!」
「だったら槍が心臓に届いていたということだべ。なら終わりにできるべさ。天威還降、
槍はしっかり獣にダメージを与えていたのだ。しかもその心臓に。
そしてワルキューレは槍を手に持たないでも命じることができるらしい。獣の体内に打ち込まれたあの槍が、ワルキューレの声に応じて力を発散し出した。
するとやはり獣は我らと戦うどころではなく、その場でのたうち回り始めたではないか。
「よし、チャンスだ! 異能発現、
「異能発現、
「異能発現、
「異能発動、
我らは声を併せ、ここぞとばかりに異能を使って攻撃を仕掛ける。
ある程度それは有効になっている。獣の皮膚は裂かれ、焼き、溶かされる。
ただし死にはしない。獣の体は強靭であり、傷をつけられても絶命させるほどの威力ではない。
獣を殺したのは、別のところからの力による。
崩れかけたあの巨木の上部に鋭い輝きが生じ、それが迸り、まるで光線のように獣に向かっていく。そして獣を真っ向から貫いたのだ。
何がどうなったのかは分からない。
しかし獣はその一撃を食らい、苦し気な咆哮を上げたかと思うと、やがて動きを止め、ゆっくりと倒れる。
もう動くことはない。禍々しい気配も消えている。
「もう終わった、のか…… しかし今の光は何だった……」
その疑問の答えは間もなく得られる。
優しさと労りのある声がこの場に響いてきたからだ。
___ 子供たちよ。よくやってくれました。心から礼を言います。あの悪しき竜はここに退治されました。
「この声は……」
神? いや我らの知っている神の声は厳めしく、重々しい。有無を言わせぬ威圧で命令を伝えてくるものだ。こんなに柔らかな声ではない。
___ そしてお詫びしなくてはなりません。全てはわたくしのふがいなさから生じたことです。
お話ししましょう。太古の昔、わたくしとあの竜は激しく争いました。命をもてあそび、破壊を旨とする竜をそのままにしておくことはできません。
その戦いでわたくしは勝った、と思いました。竜を殺すことはできませんでしたが、封じることはできたのです。そこまでは神話の通りです。
しかし、それは本当ではありませんでした。あの竜は悪辣にも封じられたフリをして、年月をかけて少しずつ抜け出し、何とわたくしに取り付いたのです。
「で、では、あなたが本当の神、そして今まで天界が神と思って崇めていたのはあの獣だったと」
___ そうです。竜がわたくしのフリをしてあなたがた天使を使役していたのです。わたくしはそれが分かっていても竜によって力を奪われ、一体化していたので何もできませんでした。人間界において文明が芽吹いてくると踏みにじり絶滅させることも…… それで天使長が苦しんだことも…… 竜は遊びで残酷なことをしました。わたくしはそれを見ているしかできなかったのです。
あなたたち熾天使が疑問に思い、叛逆したことは、わたくしにとってどんなに喜びであったことか。よく立ち上がってくれました。
「神よ、詫びを入れなくてはならないのはこちらだ。今まで事情を察することもなく、誤解し、敵としてしまった。本当はそんなにも慈しみ深く、善なる神なのに」
___ いえ、それによってあなたたちはここまで戦いに来たのですから。そして期待以上のことをやってのけました。しかもあの槍を使ってくれましたね。あれはわたくしの力を分け与え、いつか人間界に下賜するために用意したものでした。
それを打ち込まれた竜は苦しみ、わたくしから離れたのです。
ならば方法はあります。わたくしは残った命を全て力に変え、弱っていた竜を撃ち、やっと滅ぼすことができました。
「命を力に…… まさか神は、そんな」
___ これでよいのです。わたくしはここで消えます。竜との決着をつけられて本当に嬉しく思います。ありがとう、子供たち。