天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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最終前話  微笑んでサヨナラを

 

 

 我らはやっと真相を知ることができた。神はやはり限りなく慈愛の神だったのだ。

 

 それはとても嬉しいことだ。

 よく考えれば天使たちを生み出した神が悪であれば、天使もまた悪であり、そのやり方に疑問を持つこともなかったのに違いない。自己矛盾になってしまう。ともあれ悪いのはあの狡猾な竜だった。

 

 それも全て終わった。これで我らはやっと悲願を達成したのだ。

 

 

 引き換えに神である巨木、いや愛の大樹は命を失い、加速度的に崩壊しつつある。

 後はこの崩壊に巻き込まれないうちに急ぎ逃げなくては。熾天使はともかくソータ君やサキちゃんもいるのだから、庇いつつそれを行わなくてはならない。

 

「まずい、早く退避だ!」

 

 しかしその崩壊は神殿全体を揺るがすもので、想定以上に早かった。落下物が危険な速度で迫り、まるでバラまかれた砲弾のようだ。これでは間に合わない!

 

「異能発動、打力砕塵(クラッシュパワー)!」

 

 その時、もうもうとした煙の中から応援が駆けつけてきた。

 動けるまで回復したのか、マルコキアスが来て落下物をまとめて吹き飛ばしてくれる。

 

 後ろにはアシュタロトや姉様がふらつきながらも続いている。そして更にその後方を見て驚いた!

 アサエル、ハムエル、タウエル、ヨキエル…… 天界の上級天使たちが揃っている。

 

「天界の誇りにかけて、人間を助けろ!」

 

 そしてソータ君やサキちゃんが抱えられ、ついでに一番弱そうなラグエルもまた救い出される。

 

 

 

 やっと皆で神殿の外へ出ることができた。

 そこから崩壊していく様子を眺める。

 

 まるで夢のようだ。むろん我らも感慨深いが、一番複雑な感情を持つのはアサエルら上級天使たちだろう。

 その命令を聞き、忠誠心をもって仕えていたのが神ではなく悪逆の竜だったのだから。

 それを思いながら見つめているのだ。永久不滅、天界の誉れと信じ切っていた神殿が崩れゆく、その姿と重ね合わせて。

 

「何という皮肉か…… 神殿は聖所ではなく悪の巣窟だった」

 

 そのアサエルの言葉が全てを表している。

 

 

 ともあれそういうことも過去になった。

 後は肩を叩き合って歓声をあげ、大団円になるはずだった。

 

 だが…… 物事はここで終わらなかったのだ!

 

 神殿が崩れるのはいい。その後、どんどん陥没していくではないか。

 どこまで崩壊が進むのだろう。

 下へ、深く深く落ち込んでいく。その範囲が神殿の周辺から広がっていき、もはや天界の半分にまで及びそうだ。

 

「むう、これはどういうことだ? 神殿が神という支えを失って崩れるのは分かるが、これほど下に落ち込むとは、尋常ではない……」

 

 

 

 しばし呆然としてしまう。

 

「ボクは思うんだけど、神は最後の力であれほどのことをやってのけたね。だったら竜だって素直に死んだのかな? 生き延びてるとは言わないけど、何か仕掛けてもおかしくないよね」

「そう考えたら、ウリエル、そうかもしれない。だが何をしたんだ」

 

 意外なことにその答えはアサエルが持っていた。

 

「たぶん……恐ろしい事態になったぞ。おそらく竜とやらは人間界を滅ぼす準備を始めていたんだ。たしか『今度は地を揺るがして滅ぼす』、そう言っていた気がする。仕返しをするため、ここで一気に早めたのかもしれない」

「ではアサエル、全地を崩すため、下に深く……」

「そうだ。このままでは人間界が揺れ、更地になるぞ! もちろん今いる人間たちは皆死ぬ。とにかく崩壊を止め、安定させなければ」

 

 くう、ここにきて竜の最後の仕返しとは……

 やっと人間界が繰り返し滅ぼされるのを防いだはずだったのに。今の人間界だけは滅ぼそうというのか。そんなことをさせはしない!

 

 食い止めるためにはどうすればよいのか…… どうやったら……

 

「ラファエル、妾が思うに、地を支える方法がたった一つあろう。もう想像がついておるのではないか?」

「ガブリエル、それはもしかすると…… 我らの神聖力を注ぎ、地を固めるということか? それは考えなくもないが、とうてい足りるとは思われない。こんなに大規模なんだぞ」

「皆じゃ。皆でやれば可能性はゼロではない。とすればやらないという法はなかろう」

 

「そうだろうね。ボクもガブリエルの言う通りだと思うよ」「せやな。うちら、初めてづくしの旅やったで。最後も初めてのことで締める、おもろいやないか」

 

「ウリエル…… ミカエル…… そうだな。分かった」

 

 

 わたしの心は決まった。

 この熾天使四人、身にある全ての神聖力を放出し、地を固めよう。

 竜の仕返しを成就させはしない。

 人間界のために戦ってきた我らに最もふさわしいといえる終わり方ではないか?

 

 思えばなんと長い旅路だったことか。

 我ら四人の熾天使はがっちりと協力し合い、ここまで歩んできた。

 面白いことは沢山あった。最近のVtuberも…… その一つかもしれないな。

 

 旅路はこれで終わる。今、この四人が共に逝くなら何も寂しいことはない。

 

 

 その時、思わぬ声がかかった。

 

「だけど四人で足りるかしら~ それに姉をおいてくなんて水臭いわよ~ 」

「姉様? まさか、いやダメだ!! 姉様にはこれからの天界を率いてもらわねば! それに魔界だって姉様が必要だろう」

「天界にはアサエルたち、魔界にはアシュタロトたちがいれば大丈夫よ~ それに神聖力は一番持ってるし~」

 

 ここで姉様までが……

 確かに姉様は十二枚の羽を持つ天使長、その膨大な神聖力を加えてもらえば成功の可能性は高まるのだが……

 

 

「いやその前に私だ。こんな事態を招いたのは誰でもなく私の責任なのだぞ。率先して竜に仕えてしまった罰を受けなければならん。ラファエル、償いだ。微力ながら私が共に赴こう」

「ア、アサエル…… お前のせいではないのに、相変わらず責任感が強いな」

 

「だったら一緒に行く。何といっても熾天使どもと一番多く戦っているからな。人一倍責任を取らねば帳尻を合わせられん」

「ハムエルまで……」

 

「さ、最後まで付き合うよ。今度は逃げないから!」

「ラグエル大丈夫か。お前は足が震えてるぞ」

 

 姉様どころかアサエルやハムエル、ラグエル、その他にも大勢の天使が同行を願い出てきた。

 本当なら殴ってても止めさせたいのだが、少しでも神聖力の多い方が成功の確率が高くなるのも事実だからどうしようもない。

 とても辛く、とても嬉しい。

 

 

 

 ここで決まった。

 天使たちは消滅し、その身をもって人間界を守る。

 

 赴く前に、挨拶をすべき者たちがいる。

 代表してミカエルにそれをやってもらった。

 

「ソータ君、サキちゃん、あんがとな。ここまで付き合ってもろて感謝しかないわ。ほな、今から人間界を救ってくるで。片道やけどな」

「そ、そんな! ミカミカ! 人間界のために天使が犠牲って…… どうして」

「ソータ君、学校はおもろかったなあ。ラファエルもそう思うとるで。最後の最後にええ体験やったわ。みんなソータ君のおかげや」

 

「だったらまた来ればいいのよ……」

「優しいなあサキちゃんも。けどダメや。もう一つ言うと、これからは天界の手を借りずに、人間界は人間界の力でやっていくことになるのや。それがほんまの姿かもしれんな」

「……」

 

 

 

 

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