天使たちの戦記 ~歌うように踊るように神を殺す~   作:おゆ

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第六話  そして歩み出す

 

 

 

 魔界の軍団長マルコキアス、こいつの異能はよく知っている!

 

 その間合いに入ったら最後だ。

 

 今まで上級天使はともかく中級以下の天使がどれほど斃されてきたことか…… どんなものも砕く恐るべき力の異能、打力砕塵(クラッシュパワー)の前では何をどう防御をしても無駄になり、一撃で葬られてしまう。すなわち距離をしっかり取っておかねば死地になる。

 ただでさえ実力があるのにこの無茶苦茶な異能とは厄介過ぎる。

 

 しかし、奴の方としてもたやすい戦いではない。わたしの絶対切断(アルティメットソード)の威力を知る以上、逆にそれをかわし、距離を殺しにかからねば戦いにならない。

 

 互いに見合い精神を張り詰めさせる。ここで会ったが百年目、いざ、勝負だ!

 

 

「……まあそれくらいにしとくのじゃ、ラファエル。お主はほんとに血の気が多過ぎるぞ。姉様が顔見せに連れて来た者に失礼に当たるではないか」

 

 ガブリエルが困り顔でとりなしている。

 まあ、確かにその通りだ。ここは戦いの場ではなかった。

 

「そうよ~ ガブリエルの言う通り、そのためにわざわざ来てもらったのよ~ でも、マルコキアスもおとなしくなさい! それでは改めて魔界の軍団長マルコキアス、紹介するまでもなくみんなも知ってるわよね~ 戦いでは出たがりだから」

 

 姉様もそう話を繋げる。

 すると奴もおとなしくなり、そうなればわたしも剣を鞘に収めざるを得ない。

 想像もしていなかったことだが、これからは因縁を棚上げにして共闘をする仲になるとは、本当に先のことは分からないものだ。

 だったら作り笑顔でもしてやろうか。にかにか。

 

 すると奴はわたしを気持ち悪いものを見るような目で見てくるではないか。

 どういうことだ!

 

 

 

 しかしまあ、わたしはともかくガブリエル、ウリエル、ミカエルはむしろほっとしたような表情を見せている。

 

 なぜなのか、理由は分かる。

 

 やっとまともなキャラが出てきたからだ! 姉様やアシュタロトのような変に濃いものではない。

 今のマルコキアスは上背があり、それ以上に筋肉がある。

 顔はいかにも怖い物知らずの自信が見て取れる。中身も充分好戦的なのだが。

 そしてエリを立てたシャツ一枚を着ていて、よく似合うと言えば似合っている。絵に描いたように魔界の軍団長らしいではないか。

 

 そのマルコキアスは特に自己紹介はしない。その異能も今さら言うまでもないからだ。

 強者の余裕を見せ、つまらなそうな顔でふんぞり返っている。

 

 

 

「にししし、でもあれだよね。『マルちゃんでーす☆ 好物はカレーなんだけど、甘口だけなの』」

「むうっ、貴様、何を!」

「『今日は、シャーペンの芯を逆から入れようとしたら折れちゃった! ドジっ子マルちゃんは自分にめっ!』 いやあ、ボクには恥ずかしくて絶対言えないセリフだよ」

「貴様絶対殺す!!」

 

 うわあ、ウリエルの奴がイジっている!

 

 しかもわたしの武力行使なんかよりもよっぽどえげつない方法で。

 ウリエルが一番姉様ユニットVtuberを見ているからよく分かってるんだろうが、確かマルコキアスは、配信時にエンジ色のブレザーを着た女子中学生に化けている。

 このマルコキアスが……

 たぶん姉様の指示なんだろうけれど。しかし動画を見る限り不自然なところはない。

 

 だがそれこそが不自然だ!

 

 二人といない剛の者が、女子中学生をそんなにうまく演じられるはずはない!

 少しくらいギクシャクしなければおかしい。まあそうなったらそうなったでイジれるポイントになるのだろうが…… しかし結果的に見事にそれを演じている。

 ということはまさかのアレか? 最初から願望があった? 可愛い女子中学生になるのが。

 

「くう……」

「はは、まあVtuberは成り切りも大事だよね。マルコキアス、別に恥ずかしいことじゃないよ。いや恥ずかしいけど!」

 

「そういう貴様は確かウリエル…… 『ごろにゃーん! 獣人メイドはお腹を見せて毛づくろい!』」

「うっ あれはガブリエルの指示で、ボクの性癖なんかじゃない!!」

「いや、あそこまで堂々としてればむしろ立派なものだぞ。多少変わった性癖、いや本性でも。その道のことが理解できないのは俺がたぶん普通のせいだろうか」

「本性じゃない! 絶対殺す! 異能発現、歪曲夢幻(コンバージョン)!」

 

 

 そんな二人をわたしとガブリエルが生温かく見守る。

 どうやって収めたらいいだろうか。

 

「困ったのうラファエル。ウリエルが返り討ちにされておるわ」

「ああ。しかしマルコキアスが案外ツッコミに長けているとは知らなかった」

「ともあれ姉様の前なのに半切れになったウリエルをそのままにしてもおけまい」

 

 そして何とか仲裁するためガブリエルが割って入るのだが……

 

 

 

「このっ、『今日は友達のイヤリングを借りてつけちゃったの。気分はお・と・な』恥ずかしい奴! 今時どこにそんな女子中学生がいるの!」

「言わせておけば! 目の前にハエが飛んできたわけでもないのに猫手袋の両手でパシパシ捕まえようとしては逃げられる、ど下手なパントマイムで可愛さアピールの猫耳! 滑ってるぞ!」

 

「…… まあそれくらいにしとけ。ウリエル、マルコキアス、二人とも。単なるVtuberの仮想空間の話、どうでもいいことじゃろ」

「ん、貴様はガブリエルか!? 黒髪着物の姫様のつもりで山あいからさしかかる夕陽を逆光で浴びて陰影のある色気を出してるつもりだろうがあまりに平板で深みのないキャラのため最初から無理のある奴!」

「何じゃと! 赦さん! そこへなおれ! 異能発現、雷破撃壊(フォールンサンダー)!!」

 

 

 どうにもならないな、これは。

 

 確かさっきはわたしのことを血の気が多いとか言ってなかったか?

 もうとっくに倉庫は吹き飛んでるんだが。

 辺りが更地になったらどうするんだ。

 

 

 ともあれ、こんな騒ぎなどルシファーの姉様がひと睨みすれば終わる。

 そしてやっと脱線が戻され、本来の話が続けられる。

 

「……もう、みんな本当にお茶目なんだから~ 妄想でも性癖でも無理のあるキャラでもいいじゃない」

「いいわけがない!」「ボクの性癖じゃない!」「ぴったりのキャラじゃ!」

 

 

「話を戻すけど、紹介はアシュタロトとマルコキアス、以上です! 本当はここにベルゼバブも呼びたかったのよ~ だけどあの子は人見知りだから無理だったんだわ~」

「なんやそれ!?」

 

 思わずミカエルがわたしより早くツッコミを入れたようだ。

 確かに驚きだ。

 ベルゼバブといえば魔界でもその力は傑出している実力者なのである。戦いの前線に出てくることは確かにほとんどないのだが、それでも脅威には変わりないのだ。

 今まで天界から魔界へ侵攻したためしはない。

 それはベルゼバブのような不気味な実力者を警戒するからだが……

 

 しかしそのベルゼバブが人見知り!? それは初めて知った。

 

「そうそう。ベルゼバブは初対面の人と会うのが億劫でダメなのよ~バブバブ。Vtuberはウォッチャーの顔が見えないからやっとできてるくらいで~」

「…………」

「そしてあの子の異能は、腐解溶熟(バッドソリューション)。描いた円に入ったものを全部溶かすわよ~」

「それは知っている。恐ろしい異能だ。それで姉様、その四人でVtuberをしていて…… しかしアシュタロトはともかく別に異能持ちがVtuberをする必要はないのではないか」

「それはたまたまよ。そして実は魔界にこの四人の他には異能がないの~」

 

 

 わたしと姉様の会話がここまで進んだところで慌ててアシュタロトが割り込んできた。

 

「あ、姐さん!! それはいかんて! 魔界にその四人しか異能がないことはトップシークレットやで!」

 

 なるほどな。魔界参謀アシュタロトがそこまで慌てる理由はよく分かる。

 確かにその情報はトップシークレットだ。

 今までそれを知らないから天界も魔界を警戒し、手を出してこなかったのだから。

 

「それに姐さん、異能に触れるのはきっついわ。魔界の切り込み隊長ベリアルや諜報隊長メフィストフェレスも異能を持たないことをすんごく気にしとるんや」

「いや弱いこと一番気にしてるのはお前だろ」

 

 わたしがアシュタロトにツッコミを入れてしまったが、当の姉様はどこ吹く風だった。

 

「ん~ 別にいいじゃない。これから異能を集めるんだから言わないわけにいかないし。それでベリアルなんかが文句言ってきたらシメておくわ~ きゅっきゅっ、じゃなくてぎゅっぎゅっぎゅう~~~」

「姉様キャラ変わってないか!?」

 

 え…… ルシファーの姉様が優しいばかりでなくなってるような気が。

 もしかして魔界で苦労したのかもしれないな。

 特に聞かなかったが、姉様は単身魔界へ行くことになったのだから、それを掌握するのにそれなりの苦労があったと想像できる。

 もちろん姉様の異能超動迅速(ハイパームーブ)は普通に考えれば無敵であり、結局のところ魔界を見事に従わせている。しかしそれでも魔界が癖者揃いであることは確かなのだ。

 

 

 とにかく会談はこうして終わった。

 我ら熾天使は姉様のいきさつを知り、また旧交を温めることができた。

 

 

 

 

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